HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

序でにトライオンナウも。

2017-03-08 07:21:25 | Weblog
 知り合いのメーカーがファッションウィーク東京に来ないかと誘ってくれたが、年度替わりで結構忙しく流動的だ。

 ファッションウィーク東京には、昨年から通販大手のアマゾンが冠スポンサーに付き、コレクション直後に商品を販売する仕組みを先鋭化させようとしている。まだまだ一部のブランドに限定されるが、今回はアマゾンが選んだ3ブランドで、サイト内に開店する「アットトーキョーストア」とも連動する。スポンサーとして開催資金を拠出する以上、自社にとってのマーケティングや販売スタイルの進化を探る狙いが窺える。

 この「シーナウ・バイナウ」は、昨年春のロンドンファッションウィークでバーバリーが全商品に取り入れ、同秋のニューヨークコレクションでもバナナ・リパブリックが一部の商品で採用していた。

 コレクション後の営業体制は、基本的にBtoBだ。招待したショップのバイヤーなどからショー後の展示会で評価や意見を聞き、マーチャンダイジングに反映するなどしてオンシーズン向け商品化する。それをインポーターや商社、あるいはショップに卸売りするのだ。ところが、シーナウ・バイナウはコレクション直後にお客=C(顧客)に直接購入してもらうというBtoCになる。当然、卸業者や小売店はオミットされる仕組みだ。

 コレクションを直に見る(ライブ動画を含め)お客はテンションが上がっている。雑誌掲載やショップ陳列とかのワンクッションを置くより、ショー直後の方が商品残像が鮮明で購買意欲をかき立てる。ブランド側も売りにつながる可能性が高くなると踏んだのだろう。もちろん、粗利益も高い。逆にショーの直後でもお客から引き合いがなければ、半年後に店で販売するにしても売れない可能性がある。VOIDにしたり、修正に注力するタイミングも測れるわけだ。

 コレクションを開催するようなブランドは、「流行の先端をいきたい」「他の人よりおしゃれでありたい」「満足感やステイタスを得たい」という顧客に支持されて来た。卸やバイヤーもショーを見る時点で、「これなら売れるぞ」「あの店なら好むかも」「このお客さんに勧めよう」と、管理データを頭に浮かべ、仕入れに反映させていく。

 だが、激化するグローバル競争を戦っているコングロマリットや上場している有名ブランドの中には、ショーから店頭展開までにタイムラグがあり、ショーにかけた資金を回収できるかの見込み売上げより、Show now , Sell itの確実性を選択し始めたところがあるのだ。コレクション直後に売れると、商品が現金化され、キャッシュフローが進むメリットがある。また極端すぎるクリエーションは敬遠されるだろうし、より売りにつながるプロダクトが要求される。そのためには販売する商品は、コレクションの段階で生産を完了し在庫しておくことが前提になる。

 一方で、インポーターや卸に小売りまでの流通を頼らなければならないところは、簡単に移行できない。元来、高級ブランドであっても独立系のところ、あるいはセレクトショップと取引するようなファクトリーブランドは、ショーを開催してブランド情報をメディア露出させ、さらに全国各地のバイヤーを集めた展示会で受注を取り、そこからMD計画に落とし込んで生産している。長らくこうしたシステムにどっぷり浸かることで、在庫リスクを持たずに確実に卸売りして来たのである。

 世界中の店舗に商品を行き渡らせ、顧客が手にするには、一ブランドアパレルだけの力では自ずと限界がある。各地に点在するブランドファンに商品を購入してもらうには、毛細血管のような流通網が必要だ。血管の細部まで血流をコントロールする=開拓したルートに沿って物流量を捌く中間の卸業者なくしては、成り立たないのが現状である。

 インターネットの時代に入り、店舗販売とECを組み合わせたオムニチャンネル戦略は待ったなしと言われる。しかし、それに対応するには、生産・在庫管理からデリバリーまでを一元化したグローバルな流通体制を整備しなければならない。シーナウ・バイナウを行っているのがバーバリーなど一部のブランドに止まっているいる点を見ると、こうしたイノベーションは容易くはないのである。

 加えてアマゾンなどネット通販の拡大により、ヤマト運輸では業務量が増えて現場から「悲鳴」が上がり、労組から荷物の扱いについて改善要求がなされる始末。物流が追いつかなくなっており、このままではイノベーションどころか、配送態勢すら破綻しかねない。急成長するECにも死角も生じているわけで、アパレル業界としてオムニチャンネル戦略に与する上では、痛し痒しといったところだろうか。

 結局、シーナウ・バイナウと言っても、有名ブランドがとる手法は作った商品を売り減らすのではなく、ある程度アイテムや型を絞り込んだ上で流通させていくのではないか。それもサンプルの段階で、バイヤーなど市場に近い人々の意見も参考に取り入れ、売れ残りロスを出さないものを製造していくのではないかと思われる。

 もっとも、シーナウ・バイナウの背景には、半年先にコレクションを行うことがビジネス的に見てどうなのかと、仮説と検証がされ始めた点には注目すべきだ。1年前にテキスタイル展が行われ、2年前には流行色が決まっている。色から生地、企画デザインまですべてを前倒しで行く業界慣習がビジネス重視の時代に合わなくなっている面もあるだろう。

 ファッションは気候や景気の影響を受けやすい。市場はグローバルで、自然災害やテロ事件などの社会不安はもちろん、米国大統領の「つぶやき」さえ世界経済に与える影響は小さくない。市場は変化に晒されると、そこかしこでシュリンクする。誰も2年後に売れる色、1年後に売れる生地、半年後に売れるデザインを言い当てることはできない。

 だから、出来るだけ企画から販売までのスパンを短くして、オンシーズンに近づけて販売していこうという試みは理解できる。ただ、半年前からのショー、展示会、生産、販売といった仕組みが崩れてしまうと、独立系の高級ブランドメーカーやファクトリーブランドは完全に駆逐されるかもしれないのだ。

 今回、アマゾンが開店するアットトーキョーストアは、これから東コレ系のデザイナーブランドにもシーナウ・バイナウを勧めていく布石と見ることができる。しかし、彼らが卸やバイヤーの存在の抜きに、またコレクションの段階で在庫を抱えるほどの資金力、与信力を持てるはずはない。スポンサーとてそこまでのリスクを持てないだろう。とすれば、日本ではまだまだ現実的とは言い難い。

 それでなくてもネット購入の増大に伴い、オークションやユーズドのマーケットも拡大している。シーナウ・バイナウに向き合うお客は一方で、買い物に対する冷静さを失っているかもしれない。そうしたマインドでは衝動買いが確実に増える。アマゾンとってはマーケットプレイスの市場が増えるからいい事かもしれないが、ブランド側には価値を下げるリスク要因でもあり、一長一短はあると思う。

 今もそうだが、コレクション後の展示会では、男性バイヤーでもレディスの商品について自分で袖を通したり、羽織って姿見に映す姿が見受けられる。直に触れて質を良さを確かめてから仕入れることは、服作りを行う側への敬意であり、デザイナーとの暗黙のコミュニケーションでもあるのだ。それさえ、無くなってしまうシステムに一抹の寂しさは拭えない。

 個人的にはシーナウ・バイナウだけでなく、ショーが終わった後に別室でトライオン・ナウくらいのサービスを行ってもらえたらありがたい。ブランドであるからこそ、質感や着心地は確かめて買いたいのがやまやまだからである。
 
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