シャーロック・ホームズの物語は変である。
前回(→こちら)は、オープニングで主人公がコカインでラリラリという、破天荒すぎる『四つの署名』を取り上げたが、ホームズものは彼の特異なキャラクターだけでなく、物語のほうも
「んなアホな!」
といいたくなるようなものが多い。
以下、ホームズのみならずエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』まで、ネタバレ御免で語っていくが、まずもっともつっこまれるのが、『まだらの紐』であろう。
ホームズといえば短編に傑作が多いが、中でも名作と誉れ高いのがこの作品。
ところがどっこい、これがなんとも変な小説なのである。
黒幕であるロイロット博士が、蛇をミルクで飼い慣らしたうえで、笛の音であやつって殺人を犯す。
という、ホームズというより江戸川乱歩みたいなオチなのだが、初めて読んだ子供心にも「なんやそれ」と、つっこみそうになったものである。
実行犯が蛇かよ! 竜牙会の殺し屋にいた蛇皇院か。
ミステリといえば、人の知性と知性がぶつかり合う、高度な論理遊戯の一種と認識していた私は、ここでスココーンとコケそうになったものだ。
そういえば、「人類最初のミステリ」と呼ばれるポーの『モルグ街の殺人』も、おかしな話だ。
アパート4階の密室で起こった猟奇殺人の犯人を追う、名探偵デュパン。
彼が暴いた真相というのが、
「犯人は、オランウータンでしてん」
これまた子供心に、心底シビれたものだ。
犯人が動物! もう、カタルシスも、へったくれもない結末であった。
アニマルがトリックに絡むと、どうもミステリはおかしなことになることが、多いのかもしれない。
そういや、ホームズ長編の最高傑作は『バスカヴィル家の犬』だけど、これもまた変な話だしなあ。
略称は『バカ犬』だし……って、そう略すの小山正さんだけだってば!
他にも、『唇のねじれた男』では乞食にまじって阿片を吸ってゴキゲンだし、『青い紅玉』では、
「この人は、頭のサイズがでかいから頭がいい」
なるファンタスティックな推理を披露するし。
『恐喝王ミルヴァートン』では、ゆすりの証拠の隠し場所を聞き出すために、メイドを口説いて、その気もないのに結婚の約束までしている。
いやいや、それって結婚詐欺なのでは……。
しかも、犯罪の片棒をかつがそうとしているし、めっちゃタチ悪いやん。
そもそも、ホームズは事件解決のためとはいえ、結構住居不法侵入してます。どっちが犯罪者だか、わかったもんではない。
ホームズといえば世間的には
「鋭利で論理的な推理機械」
といったイメージかもしれないが、その実のところは意外と、
「破天荒な行動力」
が武器だったりする。ボクシングと日本の武道が得意とか、けっこう武闘派ですしね。
(続く→こちら)