モスクワ総力戦vs皇帝ピート 1995年デビスカップ決勝 ロシア対アメリカ その2

2016年11月25日 | テニス
 前回(→こちら)の続き。

 新星エフゲニー・カフェルニコフの活躍で、デビスカップ決勝進出を果たした1995年のロシアチーム。

 迎え撃つのは王者ピート・サンプラス率いるアメリカ。戦力的にはアメリカ有利だが、アガシの欠場と開催地がモスクワであることを考慮に入れると、ロシアにも充分すぎるほど勝機はあった。

 デビスカップはシングルス2本、ダブルス1本、シングルス2本の5本勝負。

 メンバーはアメリカがシングルスでサンプラスとジム・クーリエ、ダブルスはスペシャリストのリッチー・レネバーグとトッド・マーチン。

 一方ロシアは絶対的エースであるカフェルニコフと、ベテランのアンドレイ・チェスノコフをシングルスに。ダブルスはカフィとオルホフスキーという不動のコンビ。

 アガシ以外はというか、その代役が元ナンバーワンのクーリエなのだから、双方ほぼベストメンバーという布陣。

 まさにがっぷり四つのぶつかり合いだが、カフェルニコフは「我々が勝つ」と自信を持って宣言していた。

 果たして、その堂々とした態度は本物なのか。いよいよ試合開始である。

 オープニングマッチは、サンプラスとチェスノコフ。

 デ杯では3日目の第1試合で双方のナンバーワン同士が「エース対決」として戦うことになるから、1日目はそれをタスキにずらすこととなる。

 ナンバーワンと2番手選手。となると、初日は順当にいけばエースがまず1勝をするのが必勝パターン。

 ましてやこの開幕戦では、ピート・サンプラスが出てくるのだ。相手のチェスノコフは過去最高9位までランキングをあげた実績があるものの、今では並のベテラン選手である。

 ふつうにやれば、サンプラスがあっさりと勝つに決まっているはずなのだ。

 そう、あくまで「ふつうにやれば」の話だが。

 ここで含みのある言い方になってしまったのは、見ている側にとって、この戦いはそんな簡単なものではないと予測できたから。

 その伏線は準決勝、対ドイツ戦にあるので、そこまでさかのぼって見なければならない。

 1995年のロシアチームはデ杯にかけていた。その前年に初めて決勝に進出したものの、ステファン・エドバーグとマグナス・ラーソンに率いられたスウェーデンに1ー4と完敗を喫したからだ。

 リベンジに燃えるロシアは、ありとあらゆる手を使って勝ちにいくつもりだった。

 そこに立ちはだかるのは、アメリカやスウェーデンももちろんいたが、その前にドイツという大きな壁も存在したのである。

 英雄ボリス・ベッカーに、あらゆるサーフェスを苦にしないオールラウンド・プレーヤーであるミヒャエル・シュティヒの2トップに支えられたドイツは、パワー、テクニック、経験値、すべてにおいてロシアを上回っていた。

 そんな強敵相手に、ロシアが持っていたのは準決勝も「地元開催」というカードのみ。そこでチームは、そのたった1枚の切り札を最大限に活用することとなる。

 まず、モスクワのオリンピック・スタジアムにクレーコートを敷いた。これは当然である。

 シュティヒはまだしも、ベッカーはその実力からは信じられないことに、クレーの大会で一度も優勝してない。それほど土のコートと相性が悪い。

 そこで赤土によりボリスのパワーを封じようとしたのだが、ここにひとつ誤算があった。

 モスクワに敷いたクレーが、思ったよりも遅くなかったのである。

 「これでは、ボリスがのびのびとプレーしてしまう!」

 選手たちからクレームがつき、あわてたロシアチームは急遽対策を練ることとなった。そこであがってきた案というのが、

 「コートに水をまいたらいい」。

 土が固く、球速が落ちないなら、水でビチャビチャにしてしまえばいい。

 そうすれば、泥のようなコートはボールの勢いを殺し、ストローカーであるカフェルニコフやチェスノコフには断然有利に働く。

 そこでロシアチームのスタッフは、バケツやホースでせっせと散水し、コートを沼のようにしてしまう。

 あまりに水をまきすぎて、審判から「プレーするに危険」と試合はいったん据え置きになり、スタッフは総出でヘアドライヤー(!)を持ってきてコートを乾燥させるという珍事になった。

 騒動はそれで終わらず、いかにもフェアプレー精神を欠いたこの行為に、ロシアチームはITFから罰金25,000ドルを課されることにもなる。

 そりゃ勝ちたいのはわかるけど、なにをやっているのかという話だ。

 だが、おそろしいことに、この「泥沼化」問題が最終的にはロシアを勝たせることになるのだから、

 「正義はかならず勝つ」

 「スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦うことを誓います」
 
 
 なんて言葉が、大金と国の威信のかかった勝負の世界では屁のようなものであることを実感させられる。


 (続く→こちら



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