映画ビギナーは、まず『シベリア超特急』を観よう!

2016年10月14日 | 映画
 『シベリア超特急』を見なさい。

 これから映画を色々観ようという若者には、そうアドバイスすることにしている。

 私は映画好きで、今はそれほどでもないが、学生のころから20代後半くらいまでは、近所のレンタル屋をハシゴして、毎日のように観まくっていたものだった。
 
 そんな『グミ・チョコレート・パイン』みたいな文化系の青春を謳歌していもんだから、これからたくさん映画を観ようと意気ごむヤング諸君から、こんな質問をされることが多いわけだ。

 「で、映画って、まずなにから観たらええんですか?」

 シンプルだが難しい質問である。

 映画に限らず、エンターテイメントというのは個人によって好みがある。

 単におもしろいだけなら、『アマデウス』とか『アラビアのロレンス』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな名画をすすめておけば無難だが、それだとわざわざ人に訊かなくてもネットで検索すればいいわけだし、答えるこちらもイマイチ張り合いがない。

 かといって、個人的好みを前面に出して、エルンスト・ルビッチの『生きるべきか死ぬべきか』とか、アキ・カウリスマキの『レニングラード・カウボーイズ』に『宇宙戦争』とかとなってくると、ハマればいいが、はずす可能性も高い。

 また、『世にも憂鬱なハムレットたち』『ベルリン・シャミッソー広場』みたいにソフトが手に入りにくい作品も避けたいところだ。

 となると、まずは相手の好みを聞いてみて「恋愛ものが好き」とか「ドキドキするサスペンスがいいな」なんてところから探してみるのが賢そうだが、これはこれで難しいところもある。

 その人の視点がこちらと微妙にズレている場合だと、うまく選べないものだ。

 たとえば、小津映画のほとんどは、私にとって雪山で見ると凍死必至の催眠フィルムだが、我が母によると、

 「お母さんが生きてきた昭和という時代の空気がすごく感じられて、惹きこまれた」

 と、たいそう楽しめたというし、その流れで妹に好きな映画をたずねてみると、

 「『ゴッドファーザー』かな」

 などとおっしゃるので、

 「へえ、あんなマフィアの映画なんか、男しか見いひんのちゃうの。女の子でって、めずらしいなあ」

 そう返すと、

 「うん。家族愛がテーマのファミリー映画が好きやから」。

 とのことで、思わず頬に手を当てて、「ファミリー映画というジャンルの定義」について再考させられたこともあった。

 などなど、映画にかぎらずマンガでも小説でも、人によって「語るべき言語体系」がちがうため、こちらの「好き」が相手のそれとピッタリ合うという幸せなケースは意外と少ないもの。

 また合えば合ったで、それが変な方向に転がることもある。たとえば友人ヒラカタ君が、

 「ちょっと変わった映画が見たい」

 というので『幻の湖』や『バトルフィールド・アース』といった「迷作」を教えてあげたら、これがえらいことウケてしまって、そこから彼は大の「バカ映画マニア」になってしまった。

 それだけならいいんだけど、映画好きというのは自分の趣味嗜好をだれかに押しつけ……もとい愛を共有したいという欲求が抑えられないらしく、当時つき合っていた彼女に大量のDVDを見せたのである。

 これがまた、『尻怪獣アスラ』『殺人魚フライングキラー』(ジェームズ・キャメロンが死ぬほど「なかったこと」にしたがっているスットコ映画)『戦慄!プルトニウム人間』といった、「ダメ映画総進撃」といったラインアップで、

 「なんでウチがこんな目にあわなあかんの! シャロン君、あんたのせいやで!」

 なんて、電話ごしにベスビオ山の大噴火かというくらいに怒られたこともあった。こういったこともあるため、「おすすめ映画」というのは、ときにおそるべき地雷原ともなりえるのである。

 そういった失敗を重ねながらも、まあそれでも訊かれた以上は、その人に合いそうな作品をいくつか「これ、ええんちゃう」と、教えたりもするわけだ。

 で、ここからが本題。

 冒頭に書いたように、『探偵<スルース>』や『キューブ』みたいな安パイを紹介しておくとともに、人生の先輩はその後の充実した映画ライフのため、こうつけ加えることも忘れないのだ。

 「そういった名画と一緒に、『シベ超』も忘れずに観ておきなさい」と。


 (続く→こちら



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