デイヴィッド・ウィナー『オレンジの呪縛』 オランダサッカーとPKの問題

2015年03月28日 | スポーツ

 デイヴィッド・ウィナー『オレンジの呪縛』を読む。

 ヨーロッパでジャーナリストをしている著者が、本書の副題である

 

 「オランダ代表はなぜ勝てないのか?」

 

 をテーマに、オランダサッカーの歴史をひもといていく。

 オランダの攻撃的なサッカーの背景には様々な要因があると、歴史から国土の地形第二次大戦トラウマから、果ては建築技術まで持ちだして、多角的な視点から解説。

 中でもやはり、「トータルフットボール」と74年ワールドカップの決勝戦が、どれだけかオランダサッカー界に奇跡を起こし、また今ではタイトル通り「呪縛」となっているかは、今のオランダ代表を語る上では必読であろう。

 などと、読みどころたっぷりの本書であるが、やはり全編をつらぬくのは、この想いであり、



 「なんで、オランダはあれだけのサッカーができるのに、ワールドカップで勝てないんだ?」



 これには、ファンにも2種類の意見があり、



 「勝てなくてもいいんだよ。オランダは美しく戦うべきだ。それをつらぬいて負けるなら、むしろ誇りじゃないか」



 というものと、



 「だーかーらー、そうやってまた今年もダメだったじゃん!  いいかんげん、現実見ろよ。 醜くても、結果出した方がえらいのが勝負の世界なの!  オレはもう、《美しく負けること》にはウンザリなの!」



 そんな中、後者の代表として発言している経営コンサルタント、ユーリフェルゴウ氏の意見はなかなかに興味深い。

 「死ぬまでに一度でもいいから」オランダがW杯で優勝するところが見たいというフェルゴウ氏いわく、オランダの弱点は



 「PKの軽視」



 そういわれてみると、オランダといえばよくPKで負けているイメージがある。

 本書によると、1979年に行われたFIFA創設75周年記念大会(コパ・デ・オロ)、ユーロ929698年ワールドカップユーロ2000と、主要な国際大会で、5回PK戦をやって、そのすべてに負けているのだ(当時)。

 特に98年のオランダは、美しさ強さが絶妙にブレンドされたすばらしいチームであり、私も見ていて

 「これで優勝できなきゃウソだよ」

 と感じたものだが、現実はきびしかった。

 これに対してフェルゴウ氏は、



 「PKは決める能力も、阻止する能力も、やりかたによっては上達できるんだってば!」
 


 の叫びでもってその具体的な練習方法や、往年の名プレーヤーであるロブレンセンブリンクなどPKを得意とする選手へのインタビューを紹介。

 果ては心理学経営学の視点からも、ウェブなどで熱く語る。

 あまつさえ、それらをまとめて

 『ペナルティーキック 究極のPKの追求

 というまで自ら出版。

 なんと、それを25冊フランクライカールト監督(当時)に送りつけたというのだから、その情熱は筋金入りである。

 もっとも、本人曰く

 

 「たぶん誰も読んでないだろうけど」

 

 とのことらしいが。アハハハハ、さみしい!

 さらにいえば、縁あってテレビに出演し、そこでPK論を語ったときには、


 「スタジオ内が静まり返ったんだ。誰もが『そんな話は初めて聞いた』という顔をしていたから、何だか変な気分になったよ」


 ダッハッハ! かなしい! オランダ人みんな、PKのことなんてぜんぜん興味ないだなあ。

 そんな愛すべき熱血PK野郎であるフェルゴウ氏が、なぜにてこんなにもむくわれないのか問うならば、そこにまた、「あの男」がからんでくるのである。

 あの男とは、もちろんのこと「あの英雄」のことであるが、彼とPKがどのように因縁なのかといえば、それについては次回(→こちら)に。





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