デイヴィッド・ウィナー『オレンジの呪縛』を読む。
ヨーロッパでジャーナリストをしている著者が、本書の副題である
「オランダ代表はなぜ勝てないのか?」
をテーマに、オランダサッカーの歴史をひもといていく。
オランダの攻撃的なサッカーの背景には様々な要因があると、歴史から国土の地形、第二次大戦のトラウマから、果ては建築技術まで持ちだして、多角的な視点から解説。
中でもやはり、「トータル・フットボール」と74年ワールドカップの決勝戦が、どれだけかオランダサッカー界に奇跡を起こし、また今ではタイトル通り「呪縛」となっているかは、今のオランダ代表を語る上では必読であろう。
などと、読みどころたっぷりの本書であるが、やはり全編をつらぬくのは、この想いであり、
「なんで、オランダはあれだけのサッカーができるのに、ワールドカップで勝てないんだ?」
これには、ファンにも2種類の意見があり、
「勝てなくてもいいんだよ。オランダは美しく戦うべきだ。それをつらぬいて負けるなら、むしろ誇りじゃないか」
というものと、
「だーかーらー、そうやってまた今年もダメだったじゃん! いいかんげん、現実見ろよ。 醜くても、結果出した方がえらいのが勝負の世界なの! オレはもう、《美しく負けること》にはウンザリなの!」
そんな中、後者の代表として発言している経営コンサルタント、ユーリ・フェルゴウ氏の意見はなかなかに興味深い。
「死ぬまでに一度でもいいから」オランダがW杯で優勝するところが見たいというフェルゴウ氏いわく、オランダの弱点は
「PKの軽視」
そういわれてみると、オランダといえばよくPKで負けているイメージがある。
本書によると、1979年に行われたFIFA創設75周年記念大会(コパ・デ・オロ)、ユーロ92と96、98年ワールドカップ、ユーロ2000と、主要な国際大会で、5回PK戦をやって、そのすべてに負けているのだ(当時)。
特に98年のオランダは、美しさと強さが絶妙にブレンドされたすばらしいチームであり、私も見ていて
「これで優勝できなきゃウソだよ」
と感じたものだが、現実はきびしかった。
これに対してフェルゴウ氏は、
「PKは決める能力も、阻止する能力も、やりかたによっては上達できるんだってば!」
魂の叫びでもってその具体的な練習方法や、往年の名プレーヤーであるロブ・レンセンブリンクなどPKを得意とする選手へのインタビューを紹介。
果ては心理学や経営学の視点からも、ウェブなどで熱く語る。
あまつさえ、それらをまとめて
『ペナルティーキック 究極のPKの追求』
という本まで自ら出版。
なんと、それを25冊もフランク・ライカールト監督(当時)に送りつけたというのだから、その情熱は筋金入りである。
もっとも、本人曰く
「たぶん誰も読んでないだろうけど」
とのことらしいが。アハハハハ、さみしい!
さらにいえば、縁あってテレビに出演し、そこでPK論を語ったときには、
「スタジオ内が静まり返ったんだ。誰もが『そんな話は初めて聞いた』という顔をしていたから、何だか変な気分になったよ」
ダッハッハ! かなしい! オランダ人みんな、PKのことなんてぜんぜん興味ないだなあ。
そんな愛すべき熱血PK野郎であるフェルゴウ氏が、なぜにてこんなにもむくわれないのか問うならば、そこにまた、「あの男」がからんでくるのである。
あの男とは、もちろんのこと「あの英雄」のことであるが、彼とPKがどのように因縁なのかといえば、それについては次回(→こちら)に。