落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(6)金髪の乙女

2020-07-18 13:33:13 | 現代小説
上州の「寅」(6)


 「此処がお兄ちゃんが働く職場だ」


 案内されたのは参道の最先端。山門の向こうは境内だ。
小さなテントにパイプ椅子とテーブルのセットが4つ。奥に厨房がある。
売っているのはもつ煮とおでん。


 「料理の経験は有るか?」


 「自炊はしません。すべて外食です。
 あっ、インスタントラーメンくらいなら作れますが」


 「問題外だ。じゃウエイターだ。
 おい。おまえら。新入りを連れてきたから仕事をおしえてやれ。
 言っておくがちょっかいを出すんじゃねぇぞ。
 こいつは上州生まれの寅だ。
 顔は可愛いが国定忠治の血を引く兄ちゃんだ。気をつけろ」
 
 紹介された2人は、ジャージ姿の金髪娘。
ひとりは中学を卒業したばかり。もうひとりも18歳の未成年に見える。


 「包丁を持ったことは?」


 「握ったことはある」


 「握れりゃ十分だ。こっちへきてこいつをとにかく切りまくってくれ」


 チャコと名乗った女の子がまな板の上へ、野菜をドンと置く。


 「大根は乱切り。白菜はざく切り。ごぼうは削ぎ切り。
 ネギは細かく切り刻んでね」


 「君は何処へ行くの?」


 「一服するんだ」


 「一服って・・・タバコか?。
 君。未成年だろ。いいのかよ、タバコなんか吸って」


 「タバコなんか吸わないよ。ガキじゃあるまいし」


 「じゃなにを吸うの?」


 「麻に決まってんだろ」


 「アサ?・・・あああ、まさかぁ!」


 「驚くことはないだろう。そのまさかだ。
 これから徹夜で仕事するんだ。
 テンションをあげておかないと身体がもたないからな。
 じゃ頼んだぜ。ちょっと行ってくるから」


 くるりと背を向けたチャコが、小走りで消えていく。
もうひとりの、中学を卒業したばかりの金髪娘に問いかける。


 「おい。いいのかよ。止めなくても」
 
 「いいんでないかい。別に」


 「別にって・・・犯罪だぜ。未成年が大麻なんか吸うと」


 「未成年でなくても犯罪だろ。大麻を吸えば」


 中学を卒業したばかりの金髪娘が、フンと鼻を鳴らす。


 「なに真に受けてんのさ?。バカじゃない、いい大人が。
 大麻なんか吸わないよ姐さんは。ただオシッコヘ行っただけさ。
 すぐ帰って来る。
 ああ見えて姐さん、仕事に真面目に取り組む人だ。
 調理師の免許を取ったんだ。屋台の仕事をしながらさ。
 すごいだろ」


 (7)へつづく