落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(119)最終話 

2020-07-04 17:36:15 | 現代小説
北へふたり旅(119)


 新函館北斗駅から2時間40分。乗り換え駅の仙台へ到着する。
ここで別の新幹線に乗り換えて、宇都宮まで南下する。


 東北を走る新幹線はぜんぶで5種類。
はやて・はやぶさ・こまち・なすの・やまびこ、の5列車。


 はやて・はやぶさは新青森が終点。その先は北海道新幹線として北へ行く。
なすのは郡山が終点。
こまちの終点は盛岡。一部が秋田新幹線として秋田へむかう。
やまびこの終点は盛岡。
やまびこ号だけが、栃木県の宇都宮駅で停まる。
言葉を変えればほとんどの新幹線が停まらない駅。それが宇都宮駅。


 宇都宮で降りるため、この旅最後の新幹線へ乗り込む。
宇都宮から先は各駅停車の、ローカル線2本の移動がまっている。


 「最後まで手を振っていましたね。あの娘」


 「いい子だった。ホントに」


 「旅は楽しいですね。あんな娘さんと出会うことができるもの」


 「捨てたもんじゃないな。フリープランの旅も」


 「また出かけましょう。2人して」


 「いいね。恒例にしょう」


 「来年は?」


 「帰路の途中でもう来年の話か?
 一年かけてゆっくり考えればいいだろう。急がなくても」


 「そうですね。一年間働いて一年かけて、計画を練りましょう」


 「そうだな」


 車内放送が宇都宮が近づいてきたことを告げる。
ここまでの乗車時間は8時間。
北海道の特急と新幹線2本を乗り継いだ特急の旅がおわろうとしている。
宇都宮から先は各駅停車の電車が2本。
あと1時間30分の乗車で、この旅が終わろうとしている。


 宇都宮駅から、上野東京ラインに乗車する。
乗換の小山駅まで5駅。そこから両毛線へ乗り換える。これが最後の電車。
1時間ほど揺られていけば、出発駅の岩宿へ着く。


 「お疲れ様でした」


 太陽が落ちかけてきたころ、電車が群馬と栃木の境界を越えた。
県境を越えると織物の都、桐生市。
ひとつ先が岩宿駅。旅の終点が近づいてきた。


 「来年も旅したいですね。こうして2人で。元気に」


 「そうだな」


 「明日は病院へ行きましょうね」


 「急がなくてもいいだろう。別に」


 「治せるものは治しましょう。致命傷になるまえに」


 「嫌なことを言うな。君も」


 「あなたが居なくなったら、寂しいものわたし。
 わたしのために病院へ行ってください」


 「・・・」


 「長生きしてください。わたしのために」


 「そうだな。長生きして残りの人生を楽しまなきゃな」


 電車が鉄橋を渡った。あと5分で岩宿へ着く。
のこり数分で旅が終わる。
棚へ目をやる。妻のバッグとわたしのリュック。
ユキちゃんからもらったお弁当入りの紙袋。
落とさないよう、3つの荷物をゆっくり棚から降ろす。


 踏切を越えた。前方に岩宿駅のちいさなホームが見えてきた。


 「いい旅だったな」


 「ホント。素敵な旅でした」


 「来年も頼むぞ」


 「こちらこそ。来年もまた元気に2人で出かけましょう」


 カタンと揺れ、始発の駅へ電車が停まった。
見上げると南の空へ、まんまるのおおきな月が浮かんでいた。


 (完)