北へふたり旅(119)
新函館北斗駅から2時間40分。乗り換え駅の仙台へ到着する。
ここで別の新幹線に乗り換えて、宇都宮まで南下する。
東北を走る新幹線はぜんぶで5種類。
はやて・はやぶさ・こまち・なすの・やまびこ、の5列車。
はやて・はやぶさは新青森が終点。その先は北海道新幹線として北へ行く。
なすのは郡山が終点。
こまちの終点は盛岡。一部が秋田新幹線として秋田へむかう。
やまびこの終点は盛岡。
やまびこ号だけが、栃木県の宇都宮駅で停まる。
言葉を変えればほとんどの新幹線が停まらない駅。それが宇都宮駅。
宇都宮で降りるため、この旅最後の新幹線へ乗り込む。
宇都宮から先は各駅停車の、ローカル線2本の移動がまっている。
「最後まで手を振っていましたね。あの娘」
「いい子だった。ホントに」
「旅は楽しいですね。あんな娘さんと出会うことができるもの」
「捨てたもんじゃないな。フリープランの旅も」
「また出かけましょう。2人して」
「いいね。恒例にしょう」
「来年は?」
「帰路の途中でもう来年の話か?
一年かけてゆっくり考えればいいだろう。急がなくても」
「そうですね。一年間働いて一年かけて、計画を練りましょう」
「そうだな」
車内放送が宇都宮が近づいてきたことを告げる。
ここまでの乗車時間は8時間。
北海道の特急と新幹線2本を乗り継いだ特急の旅がおわろうとしている。
宇都宮から先は各駅停車の電車が2本。
あと1時間30分の乗車で、この旅が終わろうとしている。
宇都宮駅から、上野東京ラインに乗車する。
乗換の小山駅まで5駅。そこから両毛線へ乗り換える。これが最後の電車。
1時間ほど揺られていけば、出発駅の岩宿へ着く。
「お疲れ様でした」
太陽が落ちかけてきたころ、電車が群馬と栃木の境界を越えた。
県境を越えると織物の都、桐生市。
ひとつ先が岩宿駅。旅の終点が近づいてきた。
「来年も旅したいですね。こうして2人で。元気に」
「そうだな」
「明日は病院へ行きましょうね」
「急がなくてもいいだろう。別に」
「治せるものは治しましょう。致命傷になるまえに」
「嫌なことを言うな。君も」
「あなたが居なくなったら、寂しいものわたし。
わたしのために病院へ行ってください」
「・・・」
「長生きしてください。わたしのために」
「そうだな。長生きして残りの人生を楽しまなきゃな」
電車が鉄橋を渡った。あと5分で岩宿へ着く。
のこり数分で旅が終わる。
棚へ目をやる。妻のバッグとわたしのリュック。
ユキちゃんからもらったお弁当入りの紙袋。
落とさないよう、3つの荷物をゆっくり棚から降ろす。
踏切を越えた。前方に岩宿駅のちいさなホームが見えてきた。
「いい旅だったな」
「ホント。素敵な旅でした」
「来年も頼むぞ」
「こちらこそ。来年もまた元気に2人で出かけましょう」
カタンと揺れ、始発の駅へ電車が停まった。
見上げると南の空へ、まんまるのおおきな月が浮かんでいた。
(完)
新函館北斗駅から2時間40分。乗り換え駅の仙台へ到着する。
ここで別の新幹線に乗り換えて、宇都宮まで南下する。
東北を走る新幹線はぜんぶで5種類。
はやて・はやぶさ・こまち・なすの・やまびこ、の5列車。
はやて・はやぶさは新青森が終点。その先は北海道新幹線として北へ行く。
なすのは郡山が終点。
こまちの終点は盛岡。一部が秋田新幹線として秋田へむかう。
やまびこの終点は盛岡。
やまびこ号だけが、栃木県の宇都宮駅で停まる。
言葉を変えればほとんどの新幹線が停まらない駅。それが宇都宮駅。
宇都宮で降りるため、この旅最後の新幹線へ乗り込む。
宇都宮から先は各駅停車の、ローカル線2本の移動がまっている。
「最後まで手を振っていましたね。あの娘」
「いい子だった。ホントに」
「旅は楽しいですね。あんな娘さんと出会うことができるもの」
「捨てたもんじゃないな。フリープランの旅も」
「また出かけましょう。2人して」
「いいね。恒例にしょう」
「来年は?」
「帰路の途中でもう来年の話か?
一年かけてゆっくり考えればいいだろう。急がなくても」
「そうですね。一年間働いて一年かけて、計画を練りましょう」
「そうだな」
車内放送が宇都宮が近づいてきたことを告げる。
ここまでの乗車時間は8時間。
北海道の特急と新幹線2本を乗り継いだ特急の旅がおわろうとしている。
宇都宮から先は各駅停車の電車が2本。
あと1時間30分の乗車で、この旅が終わろうとしている。
宇都宮駅から、上野東京ラインに乗車する。
乗換の小山駅まで5駅。そこから両毛線へ乗り換える。これが最後の電車。
1時間ほど揺られていけば、出発駅の岩宿へ着く。
「お疲れ様でした」
太陽が落ちかけてきたころ、電車が群馬と栃木の境界を越えた。
県境を越えると織物の都、桐生市。
ひとつ先が岩宿駅。旅の終点が近づいてきた。
「来年も旅したいですね。こうして2人で。元気に」
「そうだな」
「明日は病院へ行きましょうね」
「急がなくてもいいだろう。別に」
「治せるものは治しましょう。致命傷になるまえに」
「嫌なことを言うな。君も」
「あなたが居なくなったら、寂しいものわたし。
わたしのために病院へ行ってください」
「・・・」
「長生きしてください。わたしのために」
「そうだな。長生きして残りの人生を楽しまなきゃな」
電車が鉄橋を渡った。あと5分で岩宿へ着く。
のこり数分で旅が終わる。
棚へ目をやる。妻のバッグとわたしのリュック。
ユキちゃんからもらったお弁当入りの紙袋。
落とさないよう、3つの荷物をゆっくり棚から降ろす。
踏切を越えた。前方に岩宿駅のちいさなホームが見えてきた。
「いい旅だったな」
「ホント。素敵な旅でした」
「来年も頼むぞ」
「こちらこそ。来年もまた元気に2人で出かけましょう」
カタンと揺れ、始発の駅へ電車が停まった。
見上げると南の空へ、まんまるのおおきな月が浮かんでいた。
(完)