パンプキンズ・ギャラリー

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【小説】闇に呟くもの

2017-06-02 08:41:30 | 今日の小話
※ご注意!
 この作品はクトゥルフ神話を元にした二次創作小説ですが、ある意味原作に対して冒涜的な表現もあり、熱心かつ真面目なクトゥルフ神話の読者にはお勧めできません。

 そういった方は、今すぐに読むのをやめ、このブログから離れることをお勧めいたします。

 そうではないという方は、お読みいただけると幸いです☆





 私がその町を訪れたのは、二〇〇五年の夏のことだった。
 その町の名を初めて知ったのは、次に描く作品の資料探しのために訪れた図書館で、偶然手に取った、一九二八年発行のとある古新聞の小さな記事からだった。
 その内容をかいつまんで話すと、その町で秘かに営まれていた密造酒の大掛かりな取締りに関するもので、その為の強制捜査、及び逮捕に関する記事だったと思う。
 当時は禁酒法の施行によって、酒を作ること自体が違法とされており、その法の裏をぬったギャングなどによる違法の密造酒造りが流行っていた時代だった。
 その取締りのための一環として、強制捜査、及び逮捕が行われたのだと、その記事には書かれていた。
 だが私の興味を惹いたのは、その記事と一緒に掲載されていた町の光景を写した小さな写真だ。
 その寂れた町並みのそれは、一見するとただの古びた田舎町でしかないのだが、私の視線は、その写真に写っていた建物の窓の一角に注がれた。

 どうにも……不可解なものが写っていた。
 それはあまりに小さく、普通の人であれば見過ごしていたであろうが、私はこれでも絵を愛好し、自身も筆をとるものの一人だ。
 だが確かにそこには、それはいたのだ。
 窓の中なので、暗く、また多くをカーテンに閉ざされているために、中はよく見えないのだが、どうにも人間にしてはおかしな形状をしたその頭部は、一見すると魚か蛙のような別の生き物を連想させた。
 そのかなり小さく、またぼけたモノクロ写真の中で、こちらを凝視するようにカーテンのすき間から覗き見ている姿が、その写真には写し出されていたのだ。
 
 私は、その記事を仔細に読み返す。
 時代はすでに半世紀以上前のものだが、その地名をコンピューターで検索すると、ちゃんと出てきたことにひとまず安堵の息を漏らした。
 興味をそそられた私は、今度の休暇を利用してその町に訪れる決意をした。
 
 町の名は“インスマウス”。

 今では多くのものに忘れられた、寂れた漁師町だ。

『まだつかないのか……』

 その夏、私はかねてからの計画を実行に移し、アメリカ東海岸のニューイングランド地方にあるアーカムという地方都市を訪れていた。
 元々この街に用事がある、というわけではなく、インスマウスへ行くには、この街とあと幾つかの街からしか出ていないバスに乗ってしか行かざるをえず、そのためこの街に訪れていたのだが、ここでインスマウスに関する、気の滅入るような噂話を幾つも耳にすることになった、
 やれあそこは建物が倒壊しそうで危険だの、古びただけで何もないだのが多かったが、中には、忠告を聞かずに訪れたものが帰ってこなかった、という物騒なものまであり、私の決意は多少揺らぐこととなってしまっていた。

 だが、そんな私の気持ちを強くしたものもあった。
 インスマウス行きのバスの運転手だ。
 そのバスはどうにもオンボロで、また非常に古くさいボンネット車種のものだった。

『これでちゃんと行けるのか……?』

 私は不安に駆られたが、

「お客さん、乗らないの……」

 節目がちに、乗るかどうかを迷っていた私に聞いてきた運転手は、年の頃なら十八、九の、豊満な肢体をしているが、まだ可愛さが残るかなりの美少女だった。

「えっ?いや……」

「……乗るんなら早くしてよ……じゃなきゃ置いてくよ……」

 少し低めのハスキーボイスで囁くように喋るその声は、どこかしら音楽を思わせるよな旋律を奏で、私は思わずこういってしまった。

「いえ、乗ります! 乗らせてください」

 それから数時間以上乗っていたが、まだ到底つくような気配はなかった。
 サスペンションも悪く、舗装されているのかどうかさえ怪しい田舎道を走るバスの揺れは激しく、私はその都度吐きたくなるような感覚に襲われた。
 しかし、それから昼も過ぎ午後に差し掛かると、遠方に街らしき光景が広がってきた。

 そこが、インスマウスだった。

 インスマウスの町並みをどう表現すればいいのか……

 まるで時代遅れの尖がり屋根などが立ち並び、いたるところから魚の腐ったような臭いが漂っている、といえばまだ聞こえがいい、という感じか。
 現実はもっと酷く、どうにも暗く、そして惨めで落ちぶれた町だとしか言いようがない。
 街のあちらこちらは廃墟と化しており、かつての強制捜査の痕跡すら探そうと思えば探せるほどの壊され方をした建物まで、いまだに現存している有様だ。

 私は町の広場でバスを降りると、腹も減ってきたので、近場で食事ができる店はないかと探してみたが、まともに営業しているような食堂はありそうもなかった。
 ただ都会でも見かけるチェーンストアがあったので、そこに入ってみることにした。
 電気も満足に届いているのかさえ怪しい町ではあったが、店の中は空調も効いており、接客にでてくれた店員も感じのいい青年だった。
 私は買い物ついでにこの町について尋ねてみた。
 だがこの青年が言うには、この街での長居はあまりお勧めできない、というものだった。

「お客さん、僕はね、別にこの町が危険だ、と言っているわけではないんです。世間で言われているほどにはね」

「ただ、この街の住民に関わったらダメです。この街の住民は……その……ちょっと危険なんです」

 歯切れの悪い言葉に、私は少なからずの興味をそそられたが、それ以上の詮索はせずに調理パンと飲み物を買うと、礼をいい店をあとにした。
 
 店を出るとすでに日も暮れかかっており、私は町の広場の傍に立っている一軒の古宿に、今日の宿を求めた。

 ギルマン・ハウス。

 看板にはそう書かれていたが、それにしても奇妙な看板だった。
 こんな寂れた街なのに、可愛らしいピンクの髪の人魚のイラスト(しかもけっこう巧い)が描かれていて、宿の名前も丸文字風の可愛らしい字体だった。

『一体、どういった人間がこんな辺鄙な町に、こんな可愛らしい看板を描いたんだろう……?』

 私は不可思議な感覚を覚えたものの、ガラス張りの古臭いドアのノブを回し、店内へと足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ~☆」

 私が宿に入るや否や、受付カウンターにいた受付嬢と思しき少女が、甲高くも愛想のいい声を張り上げた。
 私はこの場違いな歓迎に一瞬驚き、

「いや、あの……一晩泊めてもらいたいんですけど……」

 しどろもどろに応える。

「お客様、お泊りは初めてですかぁ?」

「ええ……」

 照明が抑えられた薄暗い店内で、受付の少女の顔を間近で見ると、けっこう可愛い子であることに気がついた。

『あのバスの運転手と、どこか似ているな……』

 私がそんなことを思っていると、

「うちは前金制なのですがよろしいですか? あとお泊りになるお部屋はこちらで決めさせていただきますけど」

 大きな瞳をキラキラさせて、私に説明してくる彼女の顔は、愛くるしさを覚えるものでもあった。

「ええ、かまいませんよ」

 私がそういい宿賃を払うと、少女はカウンターから出てきて、私の荷物を受け取り、

「ルルイエの間に、お一人様ごあんな~い☆」

 部屋は二階だった。
 階段を上がっていくと、階段が軋み、その建築の古さを物語る。
 少女はまるで跳ねるように階段を駆け上がると、一番奥の部屋に案内してくれた。

「ここで~す☆」

 そこは両サイドにドアがある小さな部屋ではあったが、寝泊りするには十分な設備があった。

「お客様、お食事はおすみですか?」

 少女は聞いてきたが、私は買っておいたパンがあるのでやんわりと断ると、

「ではお客様、今晩はごゆっくりお休みください☆」

 そう言い、部屋をあとにし、来たときと同じように、跳ねるようにして階下に降りていく足音を残して消えた。

 一人きりになり、私は急に心細さを感じた。

『腹が空いているからだ。食べれば大丈夫』

 私はそう自分に言い聞かすと、パンを食べ、ドリンクを飲み、そして疲れもあったのでベッドに横になった。

 だが……

 私は奇妙な不安に苛まれた。
 ベッドで横になっていると、階下から囁き声が聞こえてくるような気がするのだ。
 それは複数のものたちが喋る声だったが、はて、この宿にそんなに人が泊まっているのか? と思うと、多少の疑問を感じざるをえず、その疑問がやがて不安へと変わり、そして言い知れぬ恐怖へと変貌するのに、さして時間がかからなかった。
 私は起き上がり、部屋の照明をつけようとしたが、どういう具合でか照明がつかない。
 またドアに駆け寄り鍵を閉めようとしたが、ドアの鍵は鍵自体が外されており、防犯としての役目をまったく果たせないことに気がついたのだ!
 そして私の行動を悟ったのか、今まで聞こえていた囁きは消え、秘かに階段を上がってくるような軋みが、それも一人ではなく、複数のものが上がってくる音が聞こえた。
 私はアーカムの人々の忠告を無視した自身の行動の軽率さを呪わずにはいられなかった。

 これは夢ではない! 現実なのだ!

 私は恐怖に駆られた。
 両サイドのドアを開け、一目散に逃げようとしたが、それらのドアは向こう側から施錠されているらしく開けることができない!

 窓、窓だ! 窓からなら逃げられる!

 私は急いで窓に取り付いたが、その窓は頑丈に固定化されており、開けることができなかった!

 私のこの動揺を感づいたのか、ドアの外で何者か、いや何者かたちの気配が感じられた。
 それはどう見ても複数で、最低三人以上はいると思われる気配だった!
 微かな囁き声、そしてくぐもった笑い……
 それらは全て私の神経を酷く痛めつける。
 やはりアーカムで聞いた話は、チェーンストアの青年が話していたことは、本当だったのだ!
 このインスマウスには、確かに人々が忌避し、恐れる何者かがいるのだ!

 私は覚悟を決めた。
 ドアから数歩下がり、強行突破を試みようと体制を整えたその刹那、ドアがいきなり開かれた!

「!?」

 その時……私の記憶は、一瞬時を止めた。

 そこには奇妙な姿をした、それこそ半魚人のような、あの写真に写っていたような姿の被り物をした、可愛らしい肌も露わな美少女達が、幾つものロウソクが灯る大きなケーキを手に、私に向かって満面の笑みを浮かべ、

「お客様、初めてのお泊り、ありがとうございま~す☆」

 そう黄色い声を上げ、私を取り囲む。

「ねぇねぇ、お客様、どこから来たのぉ?」

「アタシ達、こんな田舎に住んでるから、都会から来た人ってすっごく憧れちゃうの☆」

「あ、これ私たちからのサービスです☆これからもお店にちょくちょく遊びに来てね☆」

 私にそう矢継ぎ早に言い立てると、私を暗い部屋のイスに座らせ、ケーキやワインなどを私の口に運んでくる。
 闇の中、なすがままにされていた私は心の中で呟く。

『い、いいんじゃないか……な……☆』

 それからというもの、週一でインスマウスのギルマンハウスに通うようになった。
 もちろん常連となってからは、彼女たちとのデートなども重ねたりして、けっこういい日々を送っている。
 何でも、彼女たちの実家は海の中のキ・ハ・ンスレイという都市にあり、近々親にも紹介したいそうだ。
 私は、彼女たちの秘術によって深海でも生活できる術を学ぶことができた。
 やがては彼女たちの住む海底へとその拠点を移し、地上世界と決別するだろう。
 そして、海底都市ルルイエに眠る偉大なるクトゥルフへの信仰に目覚め、彼女たちとの愛の世界に生きることだろう!
 ラ・ル・リュー! クトゥルフ・フタグン! ラ! ラ!
 私は行く。そして永遠の愛を、手に入れるのだ!

 この記事は失踪したある絵描きの日記より抜粋した。
 どうやら彼は、酷い妄想にとりつかれていたようだ。

                                 闇に呟くもの(END)

 ちなみにこれは、クトゥルフ少女本(クトゥルフ神話にでてくる怪物を全部美少女にしちゃおうという、チャラいイラスト本を考えてました)に掲載する予定だったショートショートです。

 怪物を擬人化美少女にする際の感覚がつかめなくて、残念ながらその時の計画は頓挫しました。

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