真・魔王軍機との交戦で苦戦するも、ボクたちは無事シャトルに帰還できた。
だけどベースガンナーの損傷は思ったより深刻だった。
「この状態だと再度飛ばすためにはオーバーホールが必要ですねぇ」
シャトルに帰還した他の機体の状態も見ていた、無精髭にほっそりした体型の中年の整備士さんも顔を曇らせて言葉を漏らす。
「他の機体はどうなんですか?」
「そっちもかなりやられてますよ。むしろあなた方の方がまだマシな方です」
ボクの問いに整備士さんが親指を奥の格納区画に向けながらため息交じりに言葉を返す。
気になり整備士さんの指し示した方に視線を向けるが、
「ひでぇな……」
一緒に覗きこんだサイトさんから驚きの声が上がる。
薄暗い照明の下、手足頭部が失われ金属塊のような姿へと変貌した僚機たちの姿が目に焼きついた。
「そ、操縦していた人たちは大丈夫だったんですか?」
しばらく唖然としたボクだけど、気を取り直して整備士さんに尋ねると、
「それが……彼らは無傷でした。いえ、一部の人は怪我程度はしてましたけど、大怪我とかは皆無でした」
「どういうことだ?」
首を捻りながら話す整備士さんに怪訝な面持ちのサイトさんが尋ねると、
「いえね、機体はあんな状態だったんですが、どうにも急所全てが外されている上に、確実に戦闘能力を奪う形での損傷は受けていて」
整備士さんは顎に手を当てしきりと首を傾げながらボクたちに説明する。
「まるでこの機体の構造を熟知しているようにさえ感じる損傷具合なんですよ」
その声は怪しむというよりむしろ感心しているようにも聞こえる。
「真・魔王軍ってどんな人たちなんですか?」
「あくまで私もシャトル便の者なので、その辺りはちょっとぉ」
ボクの問いに申し訳なさそうに応える整備士さん。
「ただ全機体この有様ですから、今攻撃されたらこのシャトルも一巻の終わりですよ」
整備士さんが緊張を隠さない苦笑いを浮かべながら言葉を続けるけど、
「その心配は無用のようだ」
窓から外を見ているサイトさんが明るい声音で応えた。
「見ろ、あれを」
「あ! あれベースガンナーですよね! しかもかなりの数!」
サイトさんに誘われボクも窓から外を見ると、そこには彼方に見える幾つもの輝点と共にシャトルの側を囲むように飛ぶ数機のベースガンナーの姿があった。
「もうすぐ外部用の宇宙港です。そこに入ればもう真・魔王軍もおいそれと手を出せません」
「よかった」
整備士さんがボクの隣で笑みをふくんだ声をかけてきたので、安心したボクも笑顔で返す。
やがて宇宙空間の虚空に浮かぶ巨大な建造物の姿が見えてくる。
白い輝きを放つ巨大な人口の大陸。
その上に築かれた無数のビル群と、一際巨大な姿を誇るピラミッド状の巨大建築物が数棟建っており、大陸の下部には工場にも似た巨大な機械群のような建造物が大陸から下に向けて建ち並んでいた。
そのどれもから様々な色を放つ照明が放たれ、漆黒の宇宙で白い輝きを放つ荘厳な神殿にさえ感じられた。
「これがベーセッド社、ですか?」
「らしいな」
驚きの声を上げるボクにサイトさんも低い声で応える。
幾つかのブレードが浮かびその間を忙しなく様々な機体が飛び交う中、ビル群とは少し離れた場所に開かれた大小の入り口の一つにシャトルは入っていく。
シャトルは速度を徐々に下げ、やがて速度を落としきったシャトルに様々な機械のアームが延びきて船体を固定した。
『本船はベーセッド社本島外部通用口に到着しました。社内案内が必要なビジネスの方は商用案内所に、観光の方は一般案内所にて対応しております。お疲れ様でした。よき一日を』
船内アナウンスを背にボクたちはシャトルを降りる。
「ここがベーセッド本社」
感嘆の声を上げるボクの前には、全長100m全高20mを超える大型シャトルさえも小さく見える、外観同様白く艶やかな色彩で彩られた巨大なプラットフォームが広がっていた。
シャトルから降りる人の大半は商用と書かれた右手の案内所に行くが、数人は一般の文字が記された左の案内所へ向かう。
「俺たちが行くのは……商用だな」
サイトさんが携帯をとりだし、このベーセッド社で会う手筈の現地の人の情報を読みながら右手の案内所を軽く指差した。
「でも現地の人、ゲンバーさんでしたっけ? 待っているんですか?」
「俺もそこまでは確証は持てないよ。まずはそこに行けばいいだろ」
ボクの問いにサイトさんはそっけなく応え、案内所に足早に進みはじめるが、
「でも真・魔王軍が出現してるのにずいぶん落ち着いてますね」
先ほど派手な襲撃事件の渦中にいたこともあり、あまりの平静さを保ち続けている発着場の人たちを見回しながらボクは呟く。
「奴らがベーセッド社の機体を使っていたのにも関係があるのかもな」
サイトさんが周りに聞えるか聞えないかのような低い声で返す。
ガラス張りの案内所は数人の受付嬢と受付マンが来客の応対をしており、イケメンの案内マンがボクたちに応対してくれた。
少し待てば来るという案内マンの言葉に従い、案内所に備えられた簡素なベンチにボクたちが座りくつろいでいると、
「お待ちしまおりました~!」
右手の大通路から中年男性のよく響く低いイケボの大音声が轟くので、ボクは思わず声の方に視線を向けた。
そこにはオレンジ色の作業服に頭には黄色い安全ヘルメット、お腹は程よく飛び出て顎は二重顎の、無精髭さえ残る笑顔が眩しい脂ぎった鷲鼻の中年男性が、右手を振りながら、息を弾ませボクたちに駆け寄ってくる。
「あの人、ゲンバーさんですかね?」
「そうじゃなければむしろ変だろ」
ホクホクした笑顔を浮かべながら近づいてくる中年男性に視線をロックオンさせながらボクたちは短く言葉を交わしていると、
「どうもぉお待たせしましたぁ」
中年男性が近くで止まり、顔を上気させ荒い息で声をかけてくる。
「えっと、あなたが」
「私、ベーセッド社で真影様の交渉窓口担当をやっておりますゲンバ―と申します! 真士様から連絡を頂き、そろそろ来る頃なのでは、とお待ちしていた時に案内所から連絡をもらい、急いで駆けつけました」
外見とはイメージが違う低いオジイケボでハキハキと応える。
「それでここの状況と俺たちの任務は?」
サイトさんが慣れた口調で手短に尋ねるが、
「真士様からすでにお聞きだとは思いますが、現在ベーセッド社は真・魔王軍とシンパによる脅威にされされております」
まるでRPGの王国家臣のような口調で話すゲンバーさんに、
「真・魔王軍って、魔物か悪魔とかそんな感じのですか?」
素朴な疑問を尋ねるけど、
「魔物? そんな非科学的なものがこのベーセッド社にいるとお思いですか?」
「じゃああいつらはなんなんだよ?」
ボクの問いかけを少し鼻で笑うゲンバーさんにサイトさんも眉間にしわを寄せて問いただす。
「いいですか、ここは技術都市、技術国家ですよ。そんな魔王だの魔物だのというおとぎ話に出てくるような存在などいるはずないでしょう。あれはもっと、もっと禍々しいものです」
「禍々しい?」
ゲンバーさんが苦いものを吐きだすような口調にボクは不審なものを感じた。
「ええ、我が社にとっては脅威そのものとさえいえる存在です」
ゲンバーさんの顔が一瞬歪み拳に力が入るのがわかる。
「続けてください」
「あ、それではお言葉に甘えて」
ボクが促すとゲンバーさんはいったん息を整え、また話しはじめた。
「いいですか、我がベーセッド社は現在休戦協定が結ばれているとはいえ、いまだ企業間紛争が水面下で続いている状態ともいえるのです。そしてその状況下で真・魔王軍は真の脅威ともなりかねないのです!」
興奮気味のゲンバーさんの声に周囲を歩いていた人たちが突如ビクッとした感じでこちらを向き、そして顔を背け足早に去っていく姿が視界の隅に映る。
「あ、あの、ここではちょっとまずいのでは……」
周りの様子からボクは声を低くして別の場所で話せないかを尋ねると、
「でしたら待合室がありますので、そこを貸切ということにすれば」
「よろしく頼むよ」
状況を悟り照れた笑顔を浮かべるゲンバ―さんにサイトさんが笑みを浮かべる。
案内所のある大通路の壁沿いにある待合室の一室に場所を移して、ゲンバーさんは説明を再開した。
「事のはじまりは今から半年前です。企業間紛争も休戦条約が結ばれたので、我がベーセッド社も一時的の戦費支出を抑えることを決定し、内需拡大を目指し社内体制を大幅改変。中には改善ともいえるものもありましたが、もちろんいいことばかりじゃありませんでした」
簡素なイスに座るゲンバーさんはここで息をつき、
「中には予算を大幅に減らされ、あるいは閉鎖の憂き目にあった部署もありました。そしてそんな中、一つの部署が思い切った行動に出たのです!」
「クーデターですか?」
ゲンバ―さんの言葉に対面に座るボクは思わず物騒な言葉を放つけど、
「クーデター? そんな物騒な思想を抱く社員はベーセッド社にはおりませんよ。ただ彼らの予算、給与は大幅に減額されたので、その撤回とむしろ給与アップを訴え、長期視野を念頭に置いたストライキを実行に移したのです」
「ストライキってよくテレビとかで観る?」
部屋の隅に立っているサイトさんが言葉を挟むと、
「ええ、そのストライキです」
ゲンバーさんも即答するけど、
「ただ彼らの場合は通常のストライキとは違ったのです。彼らは自らが開発した様々な機体や試作機を擁し、開発棟、貯蔵庫施設、生産工場棟などを根城に、要求が飲まれない限り無期限の操業停止を交渉材料として持ち出しました」
「それって反乱じゃないのか?」
訝しむサイトさんの声に、
「いえ、あくまで名目上はストライキで、いわば武装した武装ストライキ! 反乱する意志などは彼らには微塵もなく、ただ本社が要求さえ飲んでくれればすぐにでも操業可能な状態に戻すと宣言していますので」
「じゃあ、要求を飲めばいいんじゃないですか?」
ゲンバーさんの説明にボクは疑問を投げるけど、
「いいですか、本社上層部が決めた方針に対して一部署が武装した上でストライキを起こし要求を通そうとする行為は、いわば天に唾吐く行為! いくら我が社員といえど社の方針に対するあまりにも不遜な行為に我が社が首を縦に振ると思いますか?」
「あ、いえ」
「でしょう、その通りです。ですから我が社はストライキの解消を名目に多数の警備隊を真・魔王軍の支配する工場棟や貯蔵施設に向わせましたが、真・魔王軍はことごとくそれを撃退! さすがです! さすが我が社が誇る開発陣! 我が兵器群を支える最高の頭脳集団!」
「ちょっと待て、じゃあストライキを起こしたっていうのは?」
立ち上がり興奮気味に話すゲンバーさんにサイトさんが言いにくそうにツッコミを入れるが、ゲンバーさんはさも当然という顔で、
「ええ、ストライキの中心となったのは我が社が誇る兵器開発陣とその関連部署です。休戦条約が結ばれた以上、互いの企業国家間での兵器開発予算抑制は条項の一つに入っておりますので」
「じゃあ、真・魔王軍という名前は?」
にこやかに話すゲンバーさんにボクもいいにくそうに質問すると、
「もちろん自社開発陣が待遇と給与問題で武装ストライキを起こしたなどと、他企業には知られたくもないので対外的な体面上の呼称です」
「じゃあなんで真・魔王軍なんて変な名前なんだよ。もう少しマシな名前だってあるだろうに」
サイトさんのもっともなツッコミに、ゲンバーさんは再び座り困ったような表情を浮かべ腕組みしながら、
「私もねぇ、ストライキ側からその名を名乗りはじめた時は、その名前はどうかなぁ、と最初に耳にした時は思ったんですよ。開発屋の厨二魂か、あるいはテストパイロットたちのイキったメンタルのためかは知りませんが、あまりにも幼稚じゃないか、と。
よくあるじゃないですか、特殊機体に天使や悪魔や怪物の名前をつけるって。
その流れかなぁ、て。でも本社の方では、そちらの方が対外的にはストライキによる混乱よりも得体の知れない事態の発生をイメージさせ、むしろ他企業が手を出しにくい状況が発生していると誤認させやすい、という理由でその名称が承認されちゃいましてねぇ」
自分的に納得いってない表情で状況を淡々と語るゲンバーさん。
「だから私としてはあまりにも現状と違う名称ですから、むしろそれをファンタジーみたいに嬉々として語る輩がいると、そうじゃねぇよ、と、歯噛みしたいくらいで」
真・魔王軍を嬉々として語っていたボクたちを前にして、ゲンバーさんはさも苦々しげに心の淀みを吐きだし続ける。
「そもそもなんで真・魔王軍なんだ、と思っていた時にですね、よりによって武装ストライキによる紛争で捕縛した開発陣の社員の口から名前の由来を聞いた時には、脱力を通り越して笑っちゃいましたよ!」
なにかを思い出したようにから笑いをはじめるゲンバ―さんとそれを怪訝な目で見つめるボクとサイトさん。
「自分たちは兵器の開発陣だから、マシンの王だ、でもそれじゃぁインパクトに欠けるから、マとシンを入れ替えて、シン・マ王、つまり真・魔王にすればいいんじゃねって、自慢げに話しているのを聞いた時、ああ、こいつらこんな感覚でネーミングしてるんだぁ、と思い、高らかに笑うそいつにつられて私も思わず笑っちゃいましたよ!」
さも楽しげに話すゲンバーさんにボクたちも自然と笑みがこぼれる。
が!
「なに笑ってるんですか、こっちは真剣なんですよ!」
ゲンバーさんがいきなり低い怒声を上げる。
顔からも笑顔が消え、むしろ憤りともとれる険しい表情が浮かんでいる。
「いいですか、我々が今対峙しているのは、我が社で最高の兵器群を開発できる最強の開発陣と、その試作機や試験機など多数試験してきた凄腕のテストパイロットとそれを最良の状態に整備調整できる最高の整備士、そして彼らに同調した生産工場棟と貯蔵施設という、いわば守るには固く攻めるに難い相手というわけですよ」
ゲンバーさんの言葉を聞いて、ボクもサイトさんも今ベーセッド社が置かれている状況がなんとなくわかったような気がしてきた。
「彼らは備蓄の食料や資材、また資源がなくなるまで籠城体制をとり続けていればいいが、我が社としては一刻も早くこの事態を打開し、早期に通常営業体制へと移行したいのです。ですが、それを我が社が誇る最高の開発陣と彼らが開発した規格外ともいえる試作機や実験機、そしてそれを乗りこなせるテストパイロットたちが邪魔しているのです」
ゲンバーさんは声に力がこもり、ボクたちを圧する。
「わかりますか、我々の苦悩が! 送りだした警備隊の全兵器は開発陣が作っており、どこになにがありどこが弱いか、ついでにどこをやれば効果的に撃破できるか、動かなくさせられるかを熟知している者を相手にする我々の気持ちが」
「いや、まぁ、そりゃぁやりにくいよな」
ゲンバーさんの苦渋に満ちた声にサイトさんがバツが悪そうに相槌を打つと、
「でしょぉ! 我々としても最初は数で圧すればなんて甘い考えもありました。でもそんな数でどうにかなる相手ではなかったんですよ! あいつら、よりによって機体特性や性能を熟知しているのをいいことに射程外からの狙撃や機体のジャミング&ジャック、いっそ勝手に脱出装置を作動させるという、やりたい放題した挙句に、下手すれば機体まで鹵獲して勢力増やしやがって!」
ゲンバーさんの説明はすでにストライキ側への怨嗟と愚痴へと変わりつつあり、かなりのストレスがかかっているがわかる。
「それを打開する術はないのですか?」
ボクは一呼吸置いてゲンバーさんに尋ねる。
ボクの声に我を取り戻したのか、ゲンバーさんも少し間を置き、今度は落ち着いた声で、
「切り札を投入します。本当は私としては使いたくはなかったのですが、現状では致し方ないですし」
そういうとスックと立ち上がり、
「少しお待ちください。彼を連れてきますから」
一言いうと、ゲンバーさんは待合室から出ていった。
残されたボクとサイトさんは、どうにも納得できない思いを抱きながら、お互い重い空気の中で口がきけなかった。
しばしの沈黙が続いたのち、
「そういやぁ、腹減ってきたな」
「そう、ですね」
不意のサイトさんの言葉にボクも軽く応える。
「ここには社員食堂とかないのかな?」
「こんな立派な社屋ならけっこういいランチとか食べられるかも」
「いいな、それ」
ボクの声にサイトさんも楽しげに返すけど、
「お待たせしました」
ドアが開いてゲンバーさんが帰ってきた。
よく見ると彼の後にもう一人の人影が。
「さぁ、早くきなさい。大丈夫、この人たち本社の者ではないから」
ゲンバーさんが後ろにいる人物に部屋に入るよう促す。
ボクとサイトさんが不審げに見ていると、スゴスゴと一人の少年とも思える青年が戸口を潜る。
身長はボクよりも大きいので170cm前後かな? 体型はほっそりしてるけど、胸板や肩の筋肉のつき方を見ると、細マッチョという感じ。髪は少し長めの黒のストレートだけど襟足は短い。顔もほっそりしてるけど、目は大いのに口は小ぶりで、鼻筋は細く通っているのにあまり高くない。
派手というよりはすごく繊細な感じで、なんていうか綺麗な美少年とも美青年といえばいいかな?
そしてゲンバーさんと同じくオレンジ色の作業着を着ている。
そんな彼がおずおずとした態度でボクたちの前にやってきたけど、すごく小さな声で、
「逃げていいですか?」
開口一番それ?
「おい、こいつ誰だよ?」
サイトさんが上からの態度と威圧的な声で問いただす。
「………………………」
黙りこむ美青年。
さすがに初対面の人にこんな態度されたらなにもいわないよねぇ。
「わ、私から説明しますね。彼は我が社が誇る最も優秀なテストパイロット、いわば優秀社員の一人、コウガ・ヨロイです。社員歴としては浅いですが、テストパイロットとしては下手な者よりも遥かに長いです」
ゲンバーさんの説明にコウガと呼ばれた青年が俯く。
「あっちが真・魔王なら、こっちは優良社員、略してユウシャをぶつけるとかなんとか」
苦しいダジャレに苦笑いを浮かべるゲンバ―さん。
「ほら、コウガ。せっかく真影様が事態解決を図るために送ってくれた方々だ。ご挨拶しなさい」
ゲンバーさんがコウガくんの背中を押すけど、
「……逃げちゃダメですか?」
さっきからなんなんだ、この子?
「はっはっは、たとえ逃げようとしても逃がさんし、乗る気がなくても帰さんからな!」
沈んだ表情のコウガくんにゲンバ―さんが声をかけ、
「ご覧のようにあまり素直な奴じゃなくてね、それに色々事情もあって」
先ほどとは違いゲンバーさんは言いにくそうな笑みを浮かべ、色々な部分を濁そうとしているのがわかる。
「それでコイツがなんだっていうんだ?」
サイトさんが怪訝な顔で尋ねるが、苦笑いを浮かべながら言葉を返そうとするゲンバーさんをコウガくんは手で遮り、
「いいです。オレが自分で話しますから」
ぶっきらぼうな口調で少し乱暴な言葉を吐く。
「テストパイロットっていったけど、ストライキ側の仲間だったのか?」
「違います。むしろもっと……」
サイトさんの問いにコウガくんの言葉が詰まるが、なにかを決したようにサイトさんの目を見て、
「オレならストライキ側を止められるし打破できます」
厳然とした口調で応える。
「どうして?」
ボクも理由を尋ねる。
「だって……だって俺はストライキ側の全機体をテストしたし詳細も知っているから」
コウガくんの毅然とした態度と口調。そして、
「だってオレは、ストライキの首謀者、兵器開発陣トップであり多数の兵器を開発したライン・ヨロイの弟だから!」
だけどベースガンナーの損傷は思ったより深刻だった。
「この状態だと再度飛ばすためにはオーバーホールが必要ですねぇ」
シャトルに帰還した他の機体の状態も見ていた、無精髭にほっそりした体型の中年の整備士さんも顔を曇らせて言葉を漏らす。
「他の機体はどうなんですか?」
「そっちもかなりやられてますよ。むしろあなた方の方がまだマシな方です」
ボクの問いに整備士さんが親指を奥の格納区画に向けながらため息交じりに言葉を返す。
気になり整備士さんの指し示した方に視線を向けるが、
「ひでぇな……」
一緒に覗きこんだサイトさんから驚きの声が上がる。
薄暗い照明の下、手足頭部が失われ金属塊のような姿へと変貌した僚機たちの姿が目に焼きついた。
「そ、操縦していた人たちは大丈夫だったんですか?」
しばらく唖然としたボクだけど、気を取り直して整備士さんに尋ねると、
「それが……彼らは無傷でした。いえ、一部の人は怪我程度はしてましたけど、大怪我とかは皆無でした」
「どういうことだ?」
首を捻りながら話す整備士さんに怪訝な面持ちのサイトさんが尋ねると、
「いえね、機体はあんな状態だったんですが、どうにも急所全てが外されている上に、確実に戦闘能力を奪う形での損傷は受けていて」
整備士さんは顎に手を当てしきりと首を傾げながらボクたちに説明する。
「まるでこの機体の構造を熟知しているようにさえ感じる損傷具合なんですよ」
その声は怪しむというよりむしろ感心しているようにも聞こえる。
「真・魔王軍ってどんな人たちなんですか?」
「あくまで私もシャトル便の者なので、その辺りはちょっとぉ」
ボクの問いに申し訳なさそうに応える整備士さん。
「ただ全機体この有様ですから、今攻撃されたらこのシャトルも一巻の終わりですよ」
整備士さんが緊張を隠さない苦笑いを浮かべながら言葉を続けるけど、
「その心配は無用のようだ」
窓から外を見ているサイトさんが明るい声音で応えた。
「見ろ、あれを」
「あ! あれベースガンナーですよね! しかもかなりの数!」
サイトさんに誘われボクも窓から外を見ると、そこには彼方に見える幾つもの輝点と共にシャトルの側を囲むように飛ぶ数機のベースガンナーの姿があった。
「もうすぐ外部用の宇宙港です。そこに入ればもう真・魔王軍もおいそれと手を出せません」
「よかった」
整備士さんがボクの隣で笑みをふくんだ声をかけてきたので、安心したボクも笑顔で返す。
やがて宇宙空間の虚空に浮かぶ巨大な建造物の姿が見えてくる。
白い輝きを放つ巨大な人口の大陸。
その上に築かれた無数のビル群と、一際巨大な姿を誇るピラミッド状の巨大建築物が数棟建っており、大陸の下部には工場にも似た巨大な機械群のような建造物が大陸から下に向けて建ち並んでいた。
そのどれもから様々な色を放つ照明が放たれ、漆黒の宇宙で白い輝きを放つ荘厳な神殿にさえ感じられた。
「これがベーセッド社、ですか?」
「らしいな」
驚きの声を上げるボクにサイトさんも低い声で応える。
幾つかのブレードが浮かびその間を忙しなく様々な機体が飛び交う中、ビル群とは少し離れた場所に開かれた大小の入り口の一つにシャトルは入っていく。
シャトルは速度を徐々に下げ、やがて速度を落としきったシャトルに様々な機械のアームが延びきて船体を固定した。
『本船はベーセッド社本島外部通用口に到着しました。社内案内が必要なビジネスの方は商用案内所に、観光の方は一般案内所にて対応しております。お疲れ様でした。よき一日を』
船内アナウンスを背にボクたちはシャトルを降りる。
「ここがベーセッド本社」
感嘆の声を上げるボクの前には、全長100m全高20mを超える大型シャトルさえも小さく見える、外観同様白く艶やかな色彩で彩られた巨大なプラットフォームが広がっていた。
シャトルから降りる人の大半は商用と書かれた右手の案内所に行くが、数人は一般の文字が記された左の案内所へ向かう。
「俺たちが行くのは……商用だな」
サイトさんが携帯をとりだし、このベーセッド社で会う手筈の現地の人の情報を読みながら右手の案内所を軽く指差した。
「でも現地の人、ゲンバーさんでしたっけ? 待っているんですか?」
「俺もそこまでは確証は持てないよ。まずはそこに行けばいいだろ」
ボクの問いにサイトさんはそっけなく応え、案内所に足早に進みはじめるが、
「でも真・魔王軍が出現してるのにずいぶん落ち着いてますね」
先ほど派手な襲撃事件の渦中にいたこともあり、あまりの平静さを保ち続けている発着場の人たちを見回しながらボクは呟く。
「奴らがベーセッド社の機体を使っていたのにも関係があるのかもな」
サイトさんが周りに聞えるか聞えないかのような低い声で返す。
ガラス張りの案内所は数人の受付嬢と受付マンが来客の応対をしており、イケメンの案内マンがボクたちに応対してくれた。
少し待てば来るという案内マンの言葉に従い、案内所に備えられた簡素なベンチにボクたちが座りくつろいでいると、
「お待ちしまおりました~!」
右手の大通路から中年男性のよく響く低いイケボの大音声が轟くので、ボクは思わず声の方に視線を向けた。
そこにはオレンジ色の作業服に頭には黄色い安全ヘルメット、お腹は程よく飛び出て顎は二重顎の、無精髭さえ残る笑顔が眩しい脂ぎった鷲鼻の中年男性が、右手を振りながら、息を弾ませボクたちに駆け寄ってくる。
「あの人、ゲンバーさんですかね?」
「そうじゃなければむしろ変だろ」
ホクホクした笑顔を浮かべながら近づいてくる中年男性に視線をロックオンさせながらボクたちは短く言葉を交わしていると、
「どうもぉお待たせしましたぁ」
中年男性が近くで止まり、顔を上気させ荒い息で声をかけてくる。
「えっと、あなたが」
「私、ベーセッド社で真影様の交渉窓口担当をやっておりますゲンバ―と申します! 真士様から連絡を頂き、そろそろ来る頃なのでは、とお待ちしていた時に案内所から連絡をもらい、急いで駆けつけました」
外見とはイメージが違う低いオジイケボでハキハキと応える。
「それでここの状況と俺たちの任務は?」
サイトさんが慣れた口調で手短に尋ねるが、
「真士様からすでにお聞きだとは思いますが、現在ベーセッド社は真・魔王軍とシンパによる脅威にされされております」
まるでRPGの王国家臣のような口調で話すゲンバーさんに、
「真・魔王軍って、魔物か悪魔とかそんな感じのですか?」
素朴な疑問を尋ねるけど、
「魔物? そんな非科学的なものがこのベーセッド社にいるとお思いですか?」
「じゃああいつらはなんなんだよ?」
ボクの問いかけを少し鼻で笑うゲンバーさんにサイトさんも眉間にしわを寄せて問いただす。
「いいですか、ここは技術都市、技術国家ですよ。そんな魔王だの魔物だのというおとぎ話に出てくるような存在などいるはずないでしょう。あれはもっと、もっと禍々しいものです」
「禍々しい?」
ゲンバーさんが苦いものを吐きだすような口調にボクは不審なものを感じた。
「ええ、我が社にとっては脅威そのものとさえいえる存在です」
ゲンバーさんの顔が一瞬歪み拳に力が入るのがわかる。
「続けてください」
「あ、それではお言葉に甘えて」
ボクが促すとゲンバーさんはいったん息を整え、また話しはじめた。
「いいですか、我がベーセッド社は現在休戦協定が結ばれているとはいえ、いまだ企業間紛争が水面下で続いている状態ともいえるのです。そしてその状況下で真・魔王軍は真の脅威ともなりかねないのです!」
興奮気味のゲンバーさんの声に周囲を歩いていた人たちが突如ビクッとした感じでこちらを向き、そして顔を背け足早に去っていく姿が視界の隅に映る。
「あ、あの、ここではちょっとまずいのでは……」
周りの様子からボクは声を低くして別の場所で話せないかを尋ねると、
「でしたら待合室がありますので、そこを貸切ということにすれば」
「よろしく頼むよ」
状況を悟り照れた笑顔を浮かべるゲンバ―さんにサイトさんが笑みを浮かべる。
案内所のある大通路の壁沿いにある待合室の一室に場所を移して、ゲンバーさんは説明を再開した。
「事のはじまりは今から半年前です。企業間紛争も休戦条約が結ばれたので、我がベーセッド社も一時的の戦費支出を抑えることを決定し、内需拡大を目指し社内体制を大幅改変。中には改善ともいえるものもありましたが、もちろんいいことばかりじゃありませんでした」
簡素なイスに座るゲンバーさんはここで息をつき、
「中には予算を大幅に減らされ、あるいは閉鎖の憂き目にあった部署もありました。そしてそんな中、一つの部署が思い切った行動に出たのです!」
「クーデターですか?」
ゲンバ―さんの言葉に対面に座るボクは思わず物騒な言葉を放つけど、
「クーデター? そんな物騒な思想を抱く社員はベーセッド社にはおりませんよ。ただ彼らの予算、給与は大幅に減額されたので、その撤回とむしろ給与アップを訴え、長期視野を念頭に置いたストライキを実行に移したのです」
「ストライキってよくテレビとかで観る?」
部屋の隅に立っているサイトさんが言葉を挟むと、
「ええ、そのストライキです」
ゲンバーさんも即答するけど、
「ただ彼らの場合は通常のストライキとは違ったのです。彼らは自らが開発した様々な機体や試作機を擁し、開発棟、貯蔵庫施設、生産工場棟などを根城に、要求が飲まれない限り無期限の操業停止を交渉材料として持ち出しました」
「それって反乱じゃないのか?」
訝しむサイトさんの声に、
「いえ、あくまで名目上はストライキで、いわば武装した武装ストライキ! 反乱する意志などは彼らには微塵もなく、ただ本社が要求さえ飲んでくれればすぐにでも操業可能な状態に戻すと宣言していますので」
「じゃあ、要求を飲めばいいんじゃないですか?」
ゲンバーさんの説明にボクは疑問を投げるけど、
「いいですか、本社上層部が決めた方針に対して一部署が武装した上でストライキを起こし要求を通そうとする行為は、いわば天に唾吐く行為! いくら我が社員といえど社の方針に対するあまりにも不遜な行為に我が社が首を縦に振ると思いますか?」
「あ、いえ」
「でしょう、その通りです。ですから我が社はストライキの解消を名目に多数の警備隊を真・魔王軍の支配する工場棟や貯蔵施設に向わせましたが、真・魔王軍はことごとくそれを撃退! さすがです! さすが我が社が誇る開発陣! 我が兵器群を支える最高の頭脳集団!」
「ちょっと待て、じゃあストライキを起こしたっていうのは?」
立ち上がり興奮気味に話すゲンバーさんにサイトさんが言いにくそうにツッコミを入れるが、ゲンバーさんはさも当然という顔で、
「ええ、ストライキの中心となったのは我が社が誇る兵器開発陣とその関連部署です。休戦条約が結ばれた以上、互いの企業国家間での兵器開発予算抑制は条項の一つに入っておりますので」
「じゃあ、真・魔王軍という名前は?」
にこやかに話すゲンバーさんにボクもいいにくそうに質問すると、
「もちろん自社開発陣が待遇と給与問題で武装ストライキを起こしたなどと、他企業には知られたくもないので対外的な体面上の呼称です」
「じゃあなんで真・魔王軍なんて変な名前なんだよ。もう少しマシな名前だってあるだろうに」
サイトさんのもっともなツッコミに、ゲンバーさんは再び座り困ったような表情を浮かべ腕組みしながら、
「私もねぇ、ストライキ側からその名を名乗りはじめた時は、その名前はどうかなぁ、と最初に耳にした時は思ったんですよ。開発屋の厨二魂か、あるいはテストパイロットたちのイキったメンタルのためかは知りませんが、あまりにも幼稚じゃないか、と。
よくあるじゃないですか、特殊機体に天使や悪魔や怪物の名前をつけるって。
その流れかなぁ、て。でも本社の方では、そちらの方が対外的にはストライキによる混乱よりも得体の知れない事態の発生をイメージさせ、むしろ他企業が手を出しにくい状況が発生していると誤認させやすい、という理由でその名称が承認されちゃいましてねぇ」
自分的に納得いってない表情で状況を淡々と語るゲンバーさん。
「だから私としてはあまりにも現状と違う名称ですから、むしろそれをファンタジーみたいに嬉々として語る輩がいると、そうじゃねぇよ、と、歯噛みしたいくらいで」
真・魔王軍を嬉々として語っていたボクたちを前にして、ゲンバーさんはさも苦々しげに心の淀みを吐きだし続ける。
「そもそもなんで真・魔王軍なんだ、と思っていた時にですね、よりによって武装ストライキによる紛争で捕縛した開発陣の社員の口から名前の由来を聞いた時には、脱力を通り越して笑っちゃいましたよ!」
なにかを思い出したようにから笑いをはじめるゲンバ―さんとそれを怪訝な目で見つめるボクとサイトさん。
「自分たちは兵器の開発陣だから、マシンの王だ、でもそれじゃぁインパクトに欠けるから、マとシンを入れ替えて、シン・マ王、つまり真・魔王にすればいいんじゃねって、自慢げに話しているのを聞いた時、ああ、こいつらこんな感覚でネーミングしてるんだぁ、と思い、高らかに笑うそいつにつられて私も思わず笑っちゃいましたよ!」
さも楽しげに話すゲンバーさんにボクたちも自然と笑みがこぼれる。
が!
「なに笑ってるんですか、こっちは真剣なんですよ!」
ゲンバーさんがいきなり低い怒声を上げる。
顔からも笑顔が消え、むしろ憤りともとれる険しい表情が浮かんでいる。
「いいですか、我々が今対峙しているのは、我が社で最高の兵器群を開発できる最強の開発陣と、その試作機や試験機など多数試験してきた凄腕のテストパイロットとそれを最良の状態に整備調整できる最高の整備士、そして彼らに同調した生産工場棟と貯蔵施設という、いわば守るには固く攻めるに難い相手というわけですよ」
ゲンバーさんの言葉を聞いて、ボクもサイトさんも今ベーセッド社が置かれている状況がなんとなくわかったような気がしてきた。
「彼らは備蓄の食料や資材、また資源がなくなるまで籠城体制をとり続けていればいいが、我が社としては一刻も早くこの事態を打開し、早期に通常営業体制へと移行したいのです。ですが、それを我が社が誇る最高の開発陣と彼らが開発した規格外ともいえる試作機や実験機、そしてそれを乗りこなせるテストパイロットたちが邪魔しているのです」
ゲンバーさんは声に力がこもり、ボクたちを圧する。
「わかりますか、我々の苦悩が! 送りだした警備隊の全兵器は開発陣が作っており、どこになにがありどこが弱いか、ついでにどこをやれば効果的に撃破できるか、動かなくさせられるかを熟知している者を相手にする我々の気持ちが」
「いや、まぁ、そりゃぁやりにくいよな」
ゲンバーさんの苦渋に満ちた声にサイトさんがバツが悪そうに相槌を打つと、
「でしょぉ! 我々としても最初は数で圧すればなんて甘い考えもありました。でもそんな数でどうにかなる相手ではなかったんですよ! あいつら、よりによって機体特性や性能を熟知しているのをいいことに射程外からの狙撃や機体のジャミング&ジャック、いっそ勝手に脱出装置を作動させるという、やりたい放題した挙句に、下手すれば機体まで鹵獲して勢力増やしやがって!」
ゲンバーさんの説明はすでにストライキ側への怨嗟と愚痴へと変わりつつあり、かなりのストレスがかかっているがわかる。
「それを打開する術はないのですか?」
ボクは一呼吸置いてゲンバーさんに尋ねる。
ボクの声に我を取り戻したのか、ゲンバーさんも少し間を置き、今度は落ち着いた声で、
「切り札を投入します。本当は私としては使いたくはなかったのですが、現状では致し方ないですし」
そういうとスックと立ち上がり、
「少しお待ちください。彼を連れてきますから」
一言いうと、ゲンバーさんは待合室から出ていった。
残されたボクとサイトさんは、どうにも納得できない思いを抱きながら、お互い重い空気の中で口がきけなかった。
しばしの沈黙が続いたのち、
「そういやぁ、腹減ってきたな」
「そう、ですね」
不意のサイトさんの言葉にボクも軽く応える。
「ここには社員食堂とかないのかな?」
「こんな立派な社屋ならけっこういいランチとか食べられるかも」
「いいな、それ」
ボクの声にサイトさんも楽しげに返すけど、
「お待たせしました」
ドアが開いてゲンバーさんが帰ってきた。
よく見ると彼の後にもう一人の人影が。
「さぁ、早くきなさい。大丈夫、この人たち本社の者ではないから」
ゲンバーさんが後ろにいる人物に部屋に入るよう促す。
ボクとサイトさんが不審げに見ていると、スゴスゴと一人の少年とも思える青年が戸口を潜る。
身長はボクよりも大きいので170cm前後かな? 体型はほっそりしてるけど、胸板や肩の筋肉のつき方を見ると、細マッチョという感じ。髪は少し長めの黒のストレートだけど襟足は短い。顔もほっそりしてるけど、目は大いのに口は小ぶりで、鼻筋は細く通っているのにあまり高くない。
派手というよりはすごく繊細な感じで、なんていうか綺麗な美少年とも美青年といえばいいかな?
そしてゲンバーさんと同じくオレンジ色の作業着を着ている。
そんな彼がおずおずとした態度でボクたちの前にやってきたけど、すごく小さな声で、
「逃げていいですか?」
開口一番それ?
「おい、こいつ誰だよ?」
サイトさんが上からの態度と威圧的な声で問いただす。
「………………………」
黙りこむ美青年。
さすがに初対面の人にこんな態度されたらなにもいわないよねぇ。
「わ、私から説明しますね。彼は我が社が誇る最も優秀なテストパイロット、いわば優秀社員の一人、コウガ・ヨロイです。社員歴としては浅いですが、テストパイロットとしては下手な者よりも遥かに長いです」
ゲンバーさんの説明にコウガと呼ばれた青年が俯く。
「あっちが真・魔王なら、こっちは優良社員、略してユウシャをぶつけるとかなんとか」
苦しいダジャレに苦笑いを浮かべるゲンバ―さん。
「ほら、コウガ。せっかく真影様が事態解決を図るために送ってくれた方々だ。ご挨拶しなさい」
ゲンバーさんがコウガくんの背中を押すけど、
「……逃げちゃダメですか?」
さっきからなんなんだ、この子?
「はっはっは、たとえ逃げようとしても逃がさんし、乗る気がなくても帰さんからな!」
沈んだ表情のコウガくんにゲンバ―さんが声をかけ、
「ご覧のようにあまり素直な奴じゃなくてね、それに色々事情もあって」
先ほどとは違いゲンバーさんは言いにくそうな笑みを浮かべ、色々な部分を濁そうとしているのがわかる。
「それでコイツがなんだっていうんだ?」
サイトさんが怪訝な顔で尋ねるが、苦笑いを浮かべながら言葉を返そうとするゲンバーさんをコウガくんは手で遮り、
「いいです。オレが自分で話しますから」
ぶっきらぼうな口調で少し乱暴な言葉を吐く。
「テストパイロットっていったけど、ストライキ側の仲間だったのか?」
「違います。むしろもっと……」
サイトさんの問いにコウガくんの言葉が詰まるが、なにかを決したようにサイトさんの目を見て、
「オレならストライキ側を止められるし打破できます」
厳然とした口調で応える。
「どうして?」
ボクも理由を尋ねる。
「だって……だって俺はストライキ側の全機体をテストしたし詳細も知っているから」
コウガくんの毅然とした態度と口調。そして、
「だってオレは、ストライキの首謀者、兵器開発陣トップであり多数の兵器を開発したライン・ヨロイの弟だから!」