真歌との戦いを終えてから一ヶ月が過ぎようとしていた。
ボクは日常の学生生活や日々の暮らしを送っていたけど、時おりサイトさんのところに赴いては、サイトさんと一緒にNPCとして異世界での冒険を繰り広げていた。
そしてボクとサイトさんが一つの冒険を終え、異空間の家に戻ると……
「お待ちしておりました、サイト殿」
そこには正座し、三つ指をついてボクたちを迎える真歌がいた……
そもそも正座して三つ指って、この人いつの時代感覚で生きてるんだ……?
そして頬を赤らめ、今まで見たこともないほど輝いてる微笑みを浮かべ、
「お食事にするかや、それとも湯浴み? それとも……キャッ」
頬を赤らめ恥ずかしげにサイトさんから顔をそらす。
以前の彼女の姿を考えると、正直見ている方が恥ずかしい……
「飯……」
一言そういうサイトさんの視線にも、なにか異質なものを見るような、少しドン引きした感情が溢れている。
それもそのはずだ。
なにしろ今の真歌の姿は、巫女服ではなく、わざと肩をはだけさえ、胸を強調した服を着ているし、その仕草といえば、わざとなんだろうか?
無理にアピールはしているものの、明らかにぎこちない雰囲気がバレバレで、明らかに男慣れしていない感じが丸出しだ。
それでも一生懸命さだけは伝わってくるので、むげに断るにも断れない。
サイトさんの態度からはそんな感情が漏れだしている。
「いつからここに来ているんですか?」
ボクは真歌に聞えないよう、小声で尋ねる。
「あの戦いが終わってから二週間後だ。それから家に帰ると何故かいる」
サイトさんが、まるで事故物件にでも当たったかのような口調で答える。
キッチンで鼻歌交じりで料理を作る真かに視線を向け、
「でもあいつ……料理は美味いんだよ……」
なにか吹っ切れない思いを精一杯の気持ちで口にするサイトさん。
胃袋を握られたものの悲しみが、ここに体現している……
「でも真姫ちゃんは知ってるんですか?」
ボクは一番大切な……そして最も危険度の高い問題を尋ねるが、サイトさんは力なく笑い、
「……真姫が用意した異空間の家だぞ……知らねぇわけねぇだろ……」
そしてなにかを思い返すように、死んだ魚の眼で暗く笑い続ける。
『……この人……大変だな……』
ボクはあの大空洞での惨劇を思い返す。戦いが終わったのにおこった惨劇なんて、そうあるもんじゃないけど……
「もう、二人で内緒話かや? 料理も出来たので、暖かいうちに召したもう」
真歌が手に土鍋を持って現れる。
そして受け皿や箸をテキパキと置き、食事の準備もできた。
でも……他の場所が開いてるのに、なんでサイトさんのすぐ隣に座るんだ、この人……
「サイト殿にはたんと栄養をつけてもらわんとな。なにしろ、これから……」
そこまでいうと言葉を飲みこみ、真っ赤になった顔を両手で覆う。
『自分の言葉にイキ過ぎた想像をして、自分で恥ずかしがってんのか……難儀な人だな……』
ボクはそんなことを思いながら、冷めた目で真歌を見つめる。
考えようによっては、初心で可愛いんだけどね……
そういって鍋に入っていた豚肉を口にするが、
「!?」
ボクの舌に電撃が走るっ!?
『な……!』
そんな様子を見ていたサイトさんが、
「だろ? こいつ、料理はとてつもなく上手いんだよ」
そう諦観とも喜びともつかない笑顔を浮かべ、鍋から具材を受け皿にとっては口に運び続ける。
「もう! 世事はよい! それよりも……」
そして体をサイトさんにすり寄せ、
「食事がすんだら、湯浴みにするか……それとも……」
眼をトロンとさせて、甘ったれた声で尋ねる。
「………………」
答えに窮するサイトさん。
それもそうだ。
なにしろサイトさんの後には、いつの間にか現れた……
「もちろん、お帰りいただくんだよね!」
……鬼の形相で仁王立ちしている真姫ちゃんがいるんだから……
その言葉につまらなそうな声を上げる真歌と、硬直し、死んだ目がさらに色彩を失い、今にも気を失いそうに朦朧とするサイトさん。
「つまらんのう……のうサイト殿? サイト殿はこのようなお子様がお好きなのか?」
拗ねたように甘える真歌の言葉になにも返せないサイトさん。
「そうだよね! ……そうだっていいなさいよ!」
明らかな脅迫の意志の元に返答を迫る真姫ちゃん!
サイトさんの俯いたままなにもいえない。
「もう! せっかくサイト殿が麻呂の作った料理を食してくれたから、礼として麻呂が大切にしている短剣をあげたというのに……」
真歌が拗ねた口調ながらも、勝ち誇ったように笑みを浮かべ、
「あの短剣、受け取ってくれたのは今でも嬉しく思うぞ……なにしろあれは……」
そういいながらさらにサイトさんに体をもたれさえ、真姫ちゃんに笑みを浮かべた視線を送る。
その視線の意味を悟り、憤る真姫ちゃん!
「まさかアンタ! 真王の短剣を渡したの!?」
「そうじゃが? でも……サイト殿はなにもいわずに受け取ってくれたぞ」
真姫ちゃんの質問に、当前のことでも答えるような口調で返す真歌。その顔にはまさに勝利の笑みが浮かんでいる!
「バッカじゃないの! なんで断んないのよ!」
「だってしょうがないだろ! 短剣突きつけられて、もらってください、って笑顔でいわれて、断れるわけないだろ!」
追及する真姫ちゃんと言い訳ばかりのサイトさん!
「なら断って刺されりゃいいじゃん!」
「無茶いうな! こんな奴に刺されたら死ぬだろ!」
「誰のいうことも聞かないんじゃなかったの!」
「それとこれとは話は別だ! 状況考えろよ、バカ!」
「バカはサイトくんだよ! バカは……」
そう叫ぶと真姫ちゃんは手で顔を覆い、泣きはじめる。
「お、おい……なにも泣くことは……」
「サイト殿、そのようなお子様は放っておいて、麻呂がその疲れを癒すからの」
真姫ちゃんを慰めようとするサイトさんに、真歌がさらに追い打ちをかける!
「……アンタが悪いのよ……」
「……は?」
絞りだすような真姫ちゃんの声。
「……アンタがはっきりしないから……だから!」
そのただならぬ気配にボクは静かに立ち上がり、玄関に向かう。
後では真姫ちゃんの怒号とサイトさんの悲鳴、そして真歌が甘える声が部屋中に轟く。
ボクはドアを開け、元いた世界、僕がすむ、日常の世界へと舞い戻る。
そしてサイトさんと旅した異世界のことを、そしてNPCとして活躍した冒険の日々を思い出す。
NPC……
それは決して主役にはなれないけど、勇者の冒険を彩る大切な存在だ。
そのNPCたちにもそれぞれに人生があり、そして……
もしかしたら元勇者だったのかもしれない。
そう思うと、今までの冒険も、別の色が見えてくる。
サイトさんと偶然会った横断歩道へとやってくる。
トラックが走ってくるが、そこに飛び出すような人は今はいない。
でもボクは、清々しい気持ちで空を見上げた。
そこには太陽が……
「お前もこい!」
「は?」
いきなりドアが現れ、異空間の家に引きこまれる!
そこにはボロボロになったサイトさんがいた!
「また別の世界のNPCをやる条件で、なんとか真姫に許してもらったから、お前もくるんだよ!」
……ボクのNPCとしての冒険は、まだ続くようです。
[異世界転職NPC体験記・END]
ボクは日常の学生生活や日々の暮らしを送っていたけど、時おりサイトさんのところに赴いては、サイトさんと一緒にNPCとして異世界での冒険を繰り広げていた。
そしてボクとサイトさんが一つの冒険を終え、異空間の家に戻ると……
「お待ちしておりました、サイト殿」
そこには正座し、三つ指をついてボクたちを迎える真歌がいた……
そもそも正座して三つ指って、この人いつの時代感覚で生きてるんだ……?
そして頬を赤らめ、今まで見たこともないほど輝いてる微笑みを浮かべ、
「お食事にするかや、それとも湯浴み? それとも……キャッ」
頬を赤らめ恥ずかしげにサイトさんから顔をそらす。
以前の彼女の姿を考えると、正直見ている方が恥ずかしい……
「飯……」
一言そういうサイトさんの視線にも、なにか異質なものを見るような、少しドン引きした感情が溢れている。
それもそのはずだ。
なにしろ今の真歌の姿は、巫女服ではなく、わざと肩をはだけさえ、胸を強調した服を着ているし、その仕草といえば、わざとなんだろうか?
無理にアピールはしているものの、明らかにぎこちない雰囲気がバレバレで、明らかに男慣れしていない感じが丸出しだ。
それでも一生懸命さだけは伝わってくるので、むげに断るにも断れない。
サイトさんの態度からはそんな感情が漏れだしている。
「いつからここに来ているんですか?」
ボクは真歌に聞えないよう、小声で尋ねる。
「あの戦いが終わってから二週間後だ。それから家に帰ると何故かいる」
サイトさんが、まるで事故物件にでも当たったかのような口調で答える。
キッチンで鼻歌交じりで料理を作る真かに視線を向け、
「でもあいつ……料理は美味いんだよ……」
なにか吹っ切れない思いを精一杯の気持ちで口にするサイトさん。
胃袋を握られたものの悲しみが、ここに体現している……
「でも真姫ちゃんは知ってるんですか?」
ボクは一番大切な……そして最も危険度の高い問題を尋ねるが、サイトさんは力なく笑い、
「……真姫が用意した異空間の家だぞ……知らねぇわけねぇだろ……」
そしてなにかを思い返すように、死んだ魚の眼で暗く笑い続ける。
『……この人……大変だな……』
ボクはあの大空洞での惨劇を思い返す。戦いが終わったのにおこった惨劇なんて、そうあるもんじゃないけど……
「もう、二人で内緒話かや? 料理も出来たので、暖かいうちに召したもう」
真歌が手に土鍋を持って現れる。
そして受け皿や箸をテキパキと置き、食事の準備もできた。
でも……他の場所が開いてるのに、なんでサイトさんのすぐ隣に座るんだ、この人……
「サイト殿にはたんと栄養をつけてもらわんとな。なにしろ、これから……」
そこまでいうと言葉を飲みこみ、真っ赤になった顔を両手で覆う。
『自分の言葉にイキ過ぎた想像をして、自分で恥ずかしがってんのか……難儀な人だな……』
ボクはそんなことを思いながら、冷めた目で真歌を見つめる。
考えようによっては、初心で可愛いんだけどね……
そういって鍋に入っていた豚肉を口にするが、
「!?」
ボクの舌に電撃が走るっ!?
『な……!』
そんな様子を見ていたサイトさんが、
「だろ? こいつ、料理はとてつもなく上手いんだよ」
そう諦観とも喜びともつかない笑顔を浮かべ、鍋から具材を受け皿にとっては口に運び続ける。
「もう! 世事はよい! それよりも……」
そして体をサイトさんにすり寄せ、
「食事がすんだら、湯浴みにするか……それとも……」
眼をトロンとさせて、甘ったれた声で尋ねる。
「………………」
答えに窮するサイトさん。
それもそうだ。
なにしろサイトさんの後には、いつの間にか現れた……
「もちろん、お帰りいただくんだよね!」
……鬼の形相で仁王立ちしている真姫ちゃんがいるんだから……
その言葉につまらなそうな声を上げる真歌と、硬直し、死んだ目がさらに色彩を失い、今にも気を失いそうに朦朧とするサイトさん。
「つまらんのう……のうサイト殿? サイト殿はこのようなお子様がお好きなのか?」
拗ねたように甘える真歌の言葉になにも返せないサイトさん。
「そうだよね! ……そうだっていいなさいよ!」
明らかな脅迫の意志の元に返答を迫る真姫ちゃん!
サイトさんの俯いたままなにもいえない。
「もう! せっかくサイト殿が麻呂の作った料理を食してくれたから、礼として麻呂が大切にしている短剣をあげたというのに……」
真歌が拗ねた口調ながらも、勝ち誇ったように笑みを浮かべ、
「あの短剣、受け取ってくれたのは今でも嬉しく思うぞ……なにしろあれは……」
そういいながらさらにサイトさんに体をもたれさえ、真姫ちゃんに笑みを浮かべた視線を送る。
その視線の意味を悟り、憤る真姫ちゃん!
「まさかアンタ! 真王の短剣を渡したの!?」
「そうじゃが? でも……サイト殿はなにもいわずに受け取ってくれたぞ」
真姫ちゃんの質問に、当前のことでも答えるような口調で返す真歌。その顔にはまさに勝利の笑みが浮かんでいる!
「バッカじゃないの! なんで断んないのよ!」
「だってしょうがないだろ! 短剣突きつけられて、もらってください、って笑顔でいわれて、断れるわけないだろ!」
追及する真姫ちゃんと言い訳ばかりのサイトさん!
「なら断って刺されりゃいいじゃん!」
「無茶いうな! こんな奴に刺されたら死ぬだろ!」
「誰のいうことも聞かないんじゃなかったの!」
「それとこれとは話は別だ! 状況考えろよ、バカ!」
「バカはサイトくんだよ! バカは……」
そう叫ぶと真姫ちゃんは手で顔を覆い、泣きはじめる。
「お、おい……なにも泣くことは……」
「サイト殿、そのようなお子様は放っておいて、麻呂がその疲れを癒すからの」
真姫ちゃんを慰めようとするサイトさんに、真歌がさらに追い打ちをかける!
「……アンタが悪いのよ……」
「……は?」
絞りだすような真姫ちゃんの声。
「……アンタがはっきりしないから……だから!」
そのただならぬ気配にボクは静かに立ち上がり、玄関に向かう。
後では真姫ちゃんの怒号とサイトさんの悲鳴、そして真歌が甘える声が部屋中に轟く。
ボクはドアを開け、元いた世界、僕がすむ、日常の世界へと舞い戻る。
そしてサイトさんと旅した異世界のことを、そしてNPCとして活躍した冒険の日々を思い出す。
NPC……
それは決して主役にはなれないけど、勇者の冒険を彩る大切な存在だ。
そのNPCたちにもそれぞれに人生があり、そして……
もしかしたら元勇者だったのかもしれない。
そう思うと、今までの冒険も、別の色が見えてくる。
サイトさんと偶然会った横断歩道へとやってくる。
トラックが走ってくるが、そこに飛び出すような人は今はいない。
でもボクは、清々しい気持ちで空を見上げた。
そこには太陽が……
「お前もこい!」
「は?」
いきなりドアが現れ、異空間の家に引きこまれる!
そこにはボロボロになったサイトさんがいた!
「また別の世界のNPCをやる条件で、なんとか真姫に許してもらったから、お前もくるんだよ!」
……ボクのNPCとしての冒険は、まだ続くようです。
[異世界転職NPC体験記・END]