国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

調査捕鯨問題での日豪間の深刻な対立が意味するものは何か?

2008年01月21日 | 東南アジア・南アジア・オセアニア
●反捕鯨公約 引けぬ豪州政府 - MSN産経ニュース  2008.1.18 00:42

 【シンガポール=藤本欣也】南極海で日本の調査捕鯨船に米環境保護団体のメンバー2人が拘束された事件で、オーストラリアのラッド労働党政権が仲介の労を取った。しかし労働党はもともと反捕鯨の強硬派で、環境保護団体の立場に近い。豪州では捕鯨反対の世論が根強く、環境政策重視を掲げて政権を奪取したラッド首相も引くに引けない状況にある。捕鯨問題による日豪関係冷却化は避けられそうにない。

 そもそも、2人の身柄が引き渡された豪州税関の巡視船は、日本の調査捕鯨を監視するため近海を航行していた船舶だ。国際法廷への提訴に備え、写真やビデオなどの証拠収集が目的だった。

 こうした監視行為はハワード前政権下では考えられなかった。クジラ・ウオッチングが人気の豪州では、捕鯨に反対する国民が多いが、対日関係を重視するハワード前首相は反捕鯨の主張を抑え、両国間の火種にならないように努めてきた。

 しかし昨年11月の総選挙で、環境保護を掲げた労働党が圧勝。「日本の調査捕鯨監視」は労働党の選挙公約でもあり、早晩、捕鯨問題が日豪関係に悪影響をもたらすとみられていた。

 特に、インフレと高金利によりラッド首相の人気に陰りがみえ始めたとも報じられており、政権側が日本の調査捕鯨に対し厳しい態度を取らざるを得ない事情もある。
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/080118/asi0801180042000-n1.htm




●オーストラリアの巡視船が南極海へ出航、日本の調査捕鯨を監視へ 国際ニュース : AFPBB News  2008年01月10日 03:19 

【1月10日 AFP】オーストラリア政府は9日、南極海における日本の調査捕鯨を監視するため、巡視船を出航させたと発表した。国際法廷に提訴する場合に備え、証拠収集を行うという。

 ボブ・ディーバス(Bob Debus)内相の報道官は、税関の巡視船Oceanic Viking号は8日夜、50人の船員を乗せ、同国西岸から南極海に向けて出港したと述べた。

 巡視船は20日間の日程で、日本の調査捕鯨船団による活動のビデオや写真による「証拠」を収集する。また、スティーブン・スミス(Stephen Smith)外相は、期間中数日にわたり、空からの監視も行うことを明らかにしている。

 前年11月の総選挙で与党となった労働党(Australian Labor Party、ALP)は、捕鯨監視を選挙公約に掲げていた。(c)AFP
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2334331/2510175






●仮想敵国インドネシアの脅威から自国を防衛する為にオーストラリアは日本との安保共同宣言を必要とした?

2007年3月に日本がオーストラリアとの間で行った安保共同宣言は、日米安保条約やANZUS条約に近い内容であり、従来の日米安保に依存した日本の安全保障の歴史を大きく塗り替えるものである。将来日本が改憲した時には、集団安全保障を含む同盟条約に格上げされる可能性もあるだろう。

この宣言で注目されるのは、日豪両国が繰り返し「中国封じ込めを意図するものではない」と発言していることである。その様な発言が行われること自体が、中国封じ込めの可能性を秘めた共同宣言であることを意味しているだろう。小泉政権が終了して以後の日中関係は急速に改善しているが、近未来の中国は急速に経済発展する可能性があり、日本にとって最大の仮想敵国である。オーストラリアは鉱物を中心に資源が豊富であることを考えると、日豪同盟は中国の日本侵略時に報復として豪州からの資源輸入が停止される、という可能性があり得るだろう。しかし、オーストラリア国内でも「日本との安保共同宣言は中国を敵に回すのではないか」との懸念の声がある。豪州にとっては中国はアセアンの向こうの遠い異国であり、日本と違って直接脅威を感じている訳ではない以上、中国という人口超大国を多少なりとも敵に回すのは決して利益ではない。では、オーストラリアは一体どの様な利益を求めて安保共同宣言を行ったのだろうか?

米国の世界覇権消滅に伴ってANZUS条約の威力が低下することは避けられない。その代替として日本が必要とされているという説明は可能だろう。しかし、オーストラリアにとっての最大の脅威、仮想敵国は一体どこだろう?その答えは、インドネシアである。

インドネシアはオーストラリアの十倍の人口を有し、オーストラリアのすぐ北隣に存在する。インドネシアは日本と友好関係にあり、太平洋とインド洋の境界という地政学的に重要な位置に存在する。中国と同様に今後かなりの経済成長が起きることが予想される(JJ予知夢でも、タイと並んでインドネシアの発展が予想されている)。日本が中国に感じているのと同様の脅威をオーストラリアはインドネシアに感じているはずだ。企業進出を通じてインドネシア経済を日本がかなりの程度間接支配している関係にあり、この影響力を生かして自国をインドネシアから防衛したいというのが彼らの意図であろう。オーストラリア側から「オーストラリアの広い土地を利用して自衛隊との共同軍事訓練を」との声があるのも、自衛隊が何らかの形でオーストラリアに滞在することでインドネシアからの脅威に対抗したいのだと思われる。現状では集団安全保障を日本国憲法が禁じており、自衛隊が豪州に基地を作ることはできないために、共同訓練という明目が必要なのだと思われる。

インドネシアは人口の大部分がイスラム教徒だが、オーストラリアに近いニューギニア島西部のイリアンジャヤ、小スンダ列島東部の東ヌサ・トゥンガラ州ではキリスト教徒が優勢であり、分離独立運動も存在する。オーストラリアがそれを支援してきた可能性は非常に高いだろう。2002年に独立した東チモールにはオーストラリアは平和維持部隊を展開しているが、これは自国をインドネシアから防衛するための最後の砦への形を変えた占領という見方もできる。そもそも、東チモールの独立を決定した1999年の住民投票は1997年のアジア金融危機に続いて1998年に起きた民主化運動でスハルト政権が倒されたことがきっかけである。アジア金融危機ではインドネシアの混乱が最も大きかったことを考えると、アジア金融危機はインドネシアから東チモールなどのキリスト教徒優位地区を分離独立させる目的でオーストラリアが国際金融資本に依頼して実行したのではないかとすら想像される。インドネシア側の抵抗が弱ければ、イリアンジャヤ、東ヌサ・トゥンガラ州まで分離独立させられていたかもしれない。また、インドネシア西端のアチェ州(ほぼ全員がイスラム教徒)の分離独立運動も、国際金融資本が煽ってきた可能性が考えられる。

オーストラリアと日本は、安保共同宣言に際して東チモールやイリアンジャヤ、小スンダ列島東部の東ヌサ・トゥンガラ州の将来の状況についてかなり突っ込んだ取り決め(秘密協定)を行っているのではないかと私は想像する。オーストラリア側としては、東チモールの独立とキリスト教優位状態の維持が最低ラインであり、出来ればイリアンジャヤ、小スンダ列島東部の東ヌサ・トゥンガラ州でのキリスト教優位状態を維持したいと狙っていたのだろう。しかし、戦国時代末期に日本侵略を目的とした西九州でのキリスト教布教を経験し、それを根絶するために大きな被害を出した日本にとっては、キリスト教化された地域をイスラムに奪還したいというインドネシア側の希望は非常によく分かる。具体的決定については想像するしかないが、日本の軍事力のプレゼンスを望んでいると思われる事から考えて、インドネシア側にやや有利、オーストラリア側にやや不利な内容だったのではないだろうか。将来日本が改憲した後は、在日米軍基地と同様の軍事基地がインド洋のシーレーン防衛のためという明目でオーストラリア北西部に設置されるかもしれない。

また、この取り決めには当然ながら米国も関与しているはずだ。ハワード首相の来日の直前に米国の最高実力者の一人であるチェイニー副大統領が「イラク派兵への感謝が目的」という明目で日本とオーストラリアを訪問したのは共同宣言の根回しが目的だったのだと思う。3月18日からリー・シェンロン首相が訪日するシンガポールの住民である華僑はインドネシア人やマレー人と対立しており、米国の弱体化によってオーストラリアより更に深刻な危機的状態にある。オーストラリアと同様に、自国の安全保障のお願いにやってくるのだろう。江戸時代の大名の参勤交代か、あるいは柵封関係に似通っている様にも思われる。
http://blog.goo.ne.jp/princeofwales1941/e/7e792105b22c172a38876c5ed4719c9f







【私のコメント】
2007年12月に就任したオーストラリアのラッド首相は捕鯨監視を選挙公約にしており、調査捕鯨問題で日豪関係の冷却化は避けられなくなっているというのが一般的な世間の見方だろう。前任のハワード首相(1996年3月~2007年12月)が捕鯨問題を重視せず対日関係を良好に維持したのとは対照的である。今後の日豪関係は冷却した状態が続くのだろうか?

私は上記の一般的な見方に疑問を感じている。日豪関係が表面上良好であった11年間のハワード政権時代の方が実は日豪関係は危機に瀕していたのではないか、ラッド政権の日豪関係は実は非常に良好なのではないかと考えているからだ。

上記の記事「仮想敵国インドネシアの脅威から自国を防衛する為にオーストラリアは日本との安保共同宣言を必要とした? 」で書いたとおり、ハワード政権末期の2007年3月に日豪両国は安保共同宣言を発表している。この宣言は米国の衰退を前提として、オーストラリアが仮想敵国インドネシアから自国を防衛するためにどうしても必要としたのではないかと考えている。そして、この条約の裏では日豪間で、インドネシア東部のキリスト教地域の分離独立問題や東チモール問題など、オーストラリアとインドネシアが激しく対立する問題での何らかの合意が行われているのではないかと想像する。キリスト教化された地域を自国領に留めておきたいインドネシアの要望を受けて、日本が代理人としてオーストラリアと交渉していたのではないか、という仮説である。

日本は戦国時代末期に九州の一部が国際金融資本によるキリスト教化を受けた。それは植民地化の一端であり、日本政府は植民地化を防止するためのキリシタン弾圧に大きなコストを支払った記憶がある。現在のインドネシアも類似した状態に置かれており、日本政府が同情するのは当然とも言える。そもそも、インドネシアは大東亜共栄圏の後継国家のひとつでもあるのだ。

しかし、オーストラリアにとっては自国の十倍の人口を持つインドネシアは大きな脅威であり、自国に近いインドネシア東部の分離独立を支援することは国防の立場から譲れない政策であっただろう。1997年のアジア金融危機、1998年のスハルト政権崩壊、1999年の東チモール独立はいずれもハワード政権時代に起きており、ハワード政権が国際金融資本に依頼してそれらを実行したのではないかと私は想像している。その後もインドネシアを分裂させたいオーストラリアと、対抗するインドネシア・日本連合の間で対立が継続し、2007年3月にやっと和解に達したのではないかと想像する。そして、その和解によりハワード政権は役目を終えたのだろう。

米英のシーパワーが七つの海を支配していた時代が終わり世界が多極化し始めたことで、韓国やイスラエルと同様にオーストラリアも1990年代に安全保障上の危機に追い込まれた。米国は一万㎞以上、欧州は二万㎞近く離れており、いざというとき助けにならないからだ。その為、オーストラリアは最大の仮想敵国インドネシアを攻撃していたのだと想像する。宣戦布告は行われていないものの、実際に起きたこと(東チモールへのオーストラリア軍展開)は戦争に近いのだ。

では、実際には深刻な対立があったと想像されるハワード首相時代の日豪関係はなぜ表面上良好だったのだろう?それは、日豪間の対立を隠蔽する目的ではないかと私は想像する。対立の存在が公になることは戦略上不味いからだ。そして、日豪間の対立終焉と共に成立したラッド政権では日豪両国は非常に良好な関係にあるが、それを隠蔽するために調査捕鯨問題での対立が演出されているのではないかと私は想像する。

馬鹿げた妄想だと笑う人もいるかもしれない。しかし、現代の世界では派手に報道される対立の多くは友好国間の演出による合作劇(米国とイラン、日本と北朝鮮、冷戦時代の米国とソ連など)であり、真の対立は一見友好にみえる二国間(米国と英国、米国とイスラエル、英国とドイツ、日本と韓国など)に存在することが非常に多い様に思われる。対立の存在、友好関係の存在を隠蔽することは、敵の目をくらませる為に外交戦略上非常に重要になっているのではないかと想像する。
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14 コメント

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Unknown (Unknown)
2008-01-21 12:26:58
米国産牛肉食えってことなんでしょ?
でも、中国が捕鯨反対で安心。
やつらが食いだしたら、それこそ絶滅しちゃうよ。
Unknown (Unknown)
2008-01-21 13:06:21
有色人種はBSEで死んでしまえって事でしょw
アングロ国家と中国による日本封じ込め策の一環でもあるかな。
Unknown (七面鳥)
2008-01-21 15:23:06
福建省で死んで打ち上げられたマッコウクジラに住民が群がって食い尽くしている件について。
奴らは何でも喰うから。捕鯨船が無くて取りに行けないだけ。
Unknown ()
2008-01-21 16:02:36
真の対立に日本と中国がないんですけど...
捕鯨 (kazuma)
2008-01-21 20:19:53
捕鯨は、日豪離間の策と捉えています。
日中間でもそうですが、慰安婦・南京などを煽っているのは米国がらみの人々です。
デマンドアンドコンカーというものですね。
日・英・豪・中・露あたりの力関係を考えると、日本がこの他と接近しすぎることは、米国にとって危険きわまりないことだからです。
Unknown (面白い発想だが)
2008-01-21 23:51:44
いつも面白い記事ありがとうございます。

> その後もインドネシアを分裂させたいオーストラリアと、対抗するインドネシア・日本連合の間で対立が継続し、2007年3月にやっと和解に達したのではないかと想像する。そして、その和解によりハワード政権は役目を終えたのだろう。

米国の衰退がほぼ明らかとなりこの地域に関わることができなくなった。おそらく予想される経済破綻で、米国の軍事力が今の水準を維持できないだろう。国際金融資本は「本丸」が炎上中ということでこの地域に関われない。また国際金融資本の移転先としてオーストラリアは今のところ考えられない。ということになるでしょうか。

> そもそも、インドネシアは大東亜共栄圏の後継国家のひとつでもあるのだ。

だとすると、オーストラリアが日本に安全保障を頼るのは、米国の存在なしでは危険ではないでしょうか。合理的に考えれば別のプレイヤーが必要になります。

一番オーストラリアにとって良いと思われるのは、1)インドネシアを分裂させること。次が2)インドネシアの安全保障上の注意を北に引きつけることです。しかし、日本はその必要がないし、東南アジアでもそういった国はありません。可能性のある国は、そう中国しかありません。実際に1998年のインドネシアの政変でも、中共は相当な「色気」を見せていました。インドネシアの分裂については常に可能性が存在しますが、内部に深く入り込んだ華僑が大きな役割を果たす可能性があります。

中共との関係改善が、経済的な理由以上にどうしても必要であり、そのシグナルを中共に送るためのための日本叩きではないでしょうか。日本政府トップは捕鯨の件につき沈黙していて、管理人氏の仰るとおり日豪間で話はついていると思われます。日本、インドネシアを制御するものとして、国際金融資本から中共、華僑世界に変更することになったということではないでしょうか。オーストラリアと中国、日本との距離がこれを可能にします。
 もちろん、日本がつぶれて中国一色になるのも困るわけで、関係悪化を装いつつ影で日本を支援するということになるでしょう。ある意味、アメリカの伝統的な東アジア外交政策を踏襲したともいえます。
豪州は中国化されて、東南アジアと似たような国になるのです。 (ようちゃん)
2008-01-22 02:52:08
インドネシアの人口差より、中国の 驚異的な人口差と急激な豪州への中国移民数の激増や、中国人によるスパイ活動の¥活発化報道や中国との貿易拡大報道などからは違った面が見えると思います。

豪州は中国に乗っ取られつつあると言うのが正解でこれは違うでしょう!
「面白い発想だが」さんと「ようちゃん」さんへ (princeofwales1941)
2008-01-22 05:15:09
>中共との関係改善が、経済的な理由以上にどうしても必要であり、そのシグナルを中共に送るためのための日本叩きではないでしょうか。



それは思いつきませんでした。

しかし、考えてみればオーストラリアがインドネシアに影響力を行使する際に、日本経由でインドネシア人に働きかけるルートと中国経由・オーストラリア在住華僑経由でインドネシア在住華僑に働きかけるルートの両方を求めることは当然とも思えます。

ラッド新首相が中国語が堪能で外交官出身であること、ラッド新首相の娘婿が中国人であることから考えると、ハワード政権の親日政策が終わった後に大々的に親中政策を打ち出すためにラッド氏が首相になったのだとも考えられますね。




>豪州への中国移民数の激増

オーストラリアは基本的に白人国家であり、中国人に乗っ取られることを許容するとは思えません。中国人移民を容認したのは、国内華僑ルートを通じてインドネシアの華僑や中国に働きかけてインドネシア政府を牽制することが目的でしょう。従って、国内中国人人口が一定数に達した後は移民は抑制されていくのではないかと想像します。
公言した三輪氏 (Unknown)
2008-01-22 15:11:24
CIAか、アメリカ軍に転職したそうです。

http://klingon.blog87.fc2.com/blog-entry-540.html
Author:三輪耀山(みわようぜん)
私は憂国の闘士、三輪耀山。
元旦付けで秘密工作員に転職。コードネームは029。
↑ ↑ ↑
Unknown (Unknown)
2008-01-22 15:50:01
連山にも書いてあったがついに鑑定されるか

イギリスの telegraph という新聞によると、スターリンの父親がエドマンド・ロスチャイルドであったという疑惑がある。
そこでtelegraph社は、ロスチャイルド社に現ロスチャイルド伯爵の髪の毛を提供するように求めている。スターリンの娘の髪の毛とDNA鑑定をするつもりだ。
記事:
http://benjaminfulford.typepad.com/benjaminfulford/2008/01/post-18.html

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