オランダ絵画黄金期の巨匠レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)の宗教画のひとつで新約聖書に画想を得た 「キリストと姦淫の女」(上/1644年/84×65.5cm)。
神殿の境内で民衆に教えていると、律法学者たちやファリサイ派の人々が姦通の現場で捕らえられた女を連れてきて、“ こういう女は石で打ち殺せとモーセは律法の中で命じています。ところで、あなたはどうお考えになりますか ” と、訴える口実を得るためにイエスを試す。
イエスは、“ あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい ” と答える場面が主題。
これを聞いた律法学者たちは一人、また一人と立ち去り、その場に一人残った女にイエスは、“ わたしもあなたを罪に定めない。これからはもう罪を犯してはならない ” (ヨハネ8章)と訓える。
ちなみに、この女性は、しばしばマグダラのマリアと混同されるようだ。
この絵が描かれたのは、最愛の妻サスキアを30歳の若さで失い、家政婦ヘールチェ・ディルクスと愛人関係になるなど、輝かしい栄光に翳りが見え始めた頃とされている。
本作に示される、“ 罪を犯したことがない者などいない ” という主題に直接的な関連性は認められないものの、それらのことが何らかの心理的影響を与えたかも知れないとする説もあるようだ。
ところで、遡ること14年、本作との関連性を疑うべくもない一枚の絵を描いている。
その絵とは、画家として栄光のキャリアが花開く頃、新約聖書に画想を得た 「キリストの神殿奉献」(下/1631年/61×48cm/マウリッツハイス美術館蔵)。
ヨセフとマリアは、律法に従い神殿へ奉献するため山鳩を一番(つがい)持ち、イエスを連れてエルサレムへ向かう。
そこには、“ 信仰が篤く聖霊が留まり、主が遣わすメシア・救世主に会うまでは決して死なないとのお告げを聖霊から受けていた ” シメオンという老人がいた。
シメオンは神殿で幼子イエスを抱き救い主であることを宣言、後に降りかかるイエスの受難を予言する。
この予言のほか、エジプト逃避、御子の見失い、十字架の道行、昇架と降架、ピエタ・悲嘆、そして埋葬の “ 聖母七つの悲しみ ” の第一留(ルカ2章)が主題。
レンブラント黄金の時代とされる1632年から42年、その初期と末期に描かれたふたつの絵。
共通するのは、大きな空間構成の巧みさ、劇的にあてられた光による物語性と豊かな表情である。
是非、絵を拡大して見て頂きたいと思う。
長辺が1mにも満たない小さき絵が、あなたを神聖な場所へと誘ってくれることだろう。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.821
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