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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

12月12日・ムンクの現代性

2013-12-12 | 美術
 12月12日は、京都・清水寺で「今年の漢字」が発表され、大きく毛筆書きされる日だが、この日はノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクの誕生日でもある(1863年)。
 医者の息子として生まれたムンクは、5歳のときに母親を亡くし、その後はおばの手で育てられている。子どものころは病気がち、学校も休みがちで、家で絵を描いたり、おばに勉強を教わったりしていた。そういう幼少時の体験が、あのムンクの独特な、不安と憂鬱が画面のすみずみまでひろがったような画風の、ひとつのきっかけになっているのかもしれない。

 よく知られているムンクの絵は、空や背景が悪意をもっているかのように渦巻いていたり、人物の後ろにその影が当人にのしかかろうとしているように大きくそびえていたりして、こわい。
 ただし、そうした「叫び」「マドンナ」「吸血鬼」などの代表作は、だいたいムンクが30代だった19世紀末に描かれたもので、一生ずっとあの手の絵ばかり描いたわけではなかった。
 ムンクは第二次大戦中まで生きていて、晩年は田舎ののどかな景色をよく描いたらしい。
 ヌードモデルを頼んだ女性と関係をもつこともすくなくなかったという。
 70歳当時の彼の写真を見ると、プレイボーイで鳴らしたあの、007シリーズの作者イアン・フレミングとそっくりである。
 きっとおしゃれな男だったのにちがいない。ノルウェーという寒いお国柄もあるけれど、ピカソみたいにパンツ一丁でパレットと絵筆をもって歩きまわっている人では、きっとなかったろうと想像する。
 ムンクはナチスの支持者だったともいうが、ナチスによって彼の絵を頽廃的だとして非難され、ノルウェーを侵略してきたナチス・ドイツによって、彼の家から「叫び」「病気の子ども」を含む絵画70点以上が没収された。
 ムンクは、1944年、オスローに近い自宅で80歳でその生涯を閉じている。

 2012年の5月に、ニューヨークで競売にかけられたムンク作のパステル画「叫び」が1億1990万ドル(約96億円)で落札され、評判になった。
「叫び」は個性的な傑作だと思うし、美術館でみるのにふさわしい名画だ。けれど、自宅に飾っておきたい、とは自分は思わない。
 しかし、百年以上前に描かれたというのに、まったく古びない、この現代性は、いったいなんなのだろう。
 案外、絵でなく、現代のほうが古びてきているのかもしれない。
(2013年12月12日)


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