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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6月6日・トーマス・マンの魔

2023-06-06 | 文学
6月6日は、天才テニスプレイヤー、ビョルン・ボルグが生まれた日(1956年)だが、独国の作家、トーマス・マンの誕生日でもある。

パウル・トーマス・マンは、1875年、独国のバルト海に面した街、リューベックで生まれた。父親は穀物商人で政治家でもあった。母親はブラジル人とドイツ人の混血で、パウルは、5人きょうだいの2番目の子だった。
裕福な環境に育ったマンは、本好きで、詩作にふけるなど、文学青年だったが、学校での成績はあまりよくなく、落第を繰り返した後、高校を中退して、17歳で保険会社で働きはじめた。会社員をしながら小説を書いていたが、文筆一本で生きることを決意し、退社。
自分の一家の歴史を題材にした長篇小説をかきはじめ、26歳のときに、その小説『ブッデンブローク家の人々』を完成。出版されるとベストセラーとなり、彼の出世作となった。
彼は同性愛傾向を持っていたが、30歳のとき、裕福なユダヤ人実業家の娘と恋に落ち、結婚した。以後、
『トーニオ・クレーゲル』
『ヴェニスに死す』
『魔の山』
などを書き、54歳のとき、ノーベル文学賞を受賞した。
このころから、台頭してきたナチズムに対して、その危険性を訴えていたが、1933年1月、彼が57歳のとき、ヒトラーが首相になると、マンはたまたま講演旅行中だったスイスにそのまま亡命して、ドイツへは帰らなかった。母国ドイツにあった彼の財産は没収された。第二次大戦中、マンは米国へ移り、ルーズベルト米大統領の賓客として、ホワイトハウスに滞在した後、カリフォルニア州パシフィック・パリセーズに家を建てて住みはじめ、69歳のときに米国の市民権を得た。
戦後の77歳のとき、ふたたびスイスにもどったマンは、1955年8月、動脈硬化症により没した。80歳だった。

『ブッデンブローク家の人々』『魔の山』など、マンの作品は、しっかりと基礎工事がなされた土台の上に建てられた、いかにもドイツ的な堅固な建造物といった印象がある。

マンの小説『魔の山』を学生のときに読んだ。あれは「魔の本」だった。
『魔の山』は、主人公が結核にかかって、スイスの高地にあるサナトリウムで長期療養する話である。そのサナトリウムで衝撃的な思想劇が繰り広げられる。そんな話を読んでいるあいだじゅう、風邪をひいて一週間近く寝込んでいた。ふとんのなかで『魔の山』を読みつづけ、読み終わるのと同時に風邪が治った。「魔の本」だった。
原書の題は、Der Zauberberg である。英訳書ではThe Magic Mountain (マジック・マウンテン)。なんだか楽しく、日本語訳のタイトルとずいぶん印象がちがう。
読むと、からだにくる、恐ろしい本もある。
(2023年6月6日)



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