1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

3月27日・小林克也の懐

2017-03-27 | 音楽
3月27日は、浪速の女流作家、田辺聖子が生まれた日(1928年)だが、日本を代表するディスクジョッキー、小林克也の誕生日でもある。

小林克也は、1941年、広島県福山市で生まれた。12歳ごろからFENなどのラジオ放送を聴きだし、英語とロック・ミュージックに浸るようになった。
慶應義塾大学経済学部中退。外国人の観光案内や、ナイトクラブの司会などをへて、ラジオ番組のDJデヴュー。
1981年にスタートした米国の音楽チャートを紹介するテレビ深夜番組「ベストヒットUSA」の司会をはじめたのは40歳のころで、このころには「ザ・ナンバーワン・バンド」や「スネークマン・ショー」名義で「うわさのカム・トゥ・ハワイ」「六本木のベンちゃん」「死ぬのは嫌だ、恐い。戦争反対!」などの爆笑レコードも出している。
以後、抜群の英語力と軽妙なユーモアセンス、そして時代を見抜く鋭い風刺精神を発揮し、日本を代表する洋楽紹介者となった。

小林克也は、「ロッキングオン」誌編集長だった渋谷陽一と並ぶ、わが洋楽のグルー(導師)だった。
ラジオだけを聞きかじって鍛えられたという小林克也の英語力は、まったくみごとなもので、彼に多くの英語発音を教えられた。たとえば、マリファナを吸いながら聴くのにいい楽曲を作る女性ミュージシャン、エンヤ(Enya)は、
「エーニャ」
英国のロック・バンド「オアシス(Oasis)」は、
「オエイシス」
と「エイ」の部分にアクセントをおいて発音するのだと彼に教わった。

以前、米国の女性アーティスト、シンディ・ローパーを「ベストヒットUSA」の番組に迎えて話しているとき、小林克也が、
「あなたの『トゥルー・カラー』という曲のビデオクリップにこんな歌詞があって……」
と話しだしたのを、聞いていたシンディが途中でそれをさえぎって、
「それは『トゥルー・カラー』じゃないわ。『タイム・アフター・タイム』よ」
と訂正するひと幕があった。
あるいは、べつの英国のアーティストを迎えて、デヴィッド・ボウイの「フェイム」という曲について話しているとき、小林克也が、
「これはボウイがベルリンで録音した曲で……」
と言いかけたのを、ゲスト・ミュージシャンが訂正した。
「いや、あれはベルリン時代より前の、『ヤング・アメリカンズ』という米国で録音したアルバムの曲だよ」
みていた自分はどちらも、すぐまちがいに気づいたけれど、あれはたぶん小林克也がわざとまちがえて、会話にちょっとしたあやをつけようとしたのだろう。いや、純粋な勘違いかもしれないけれど、いずれにせよ、その後の小林がみごとだった。まちがいを指摘された彼は余裕で「ああ、そうだったかな」くらいの感じで、淡々と笑顔でなごやかに話を続ける。来日した大物を前にして、さすが大人だった。人間はミスをする生き物、という前提を共通認識としているわけで、あの懐の深さをぜひとも見習いたい。
(2017年3月27日)


●おすすめの電子書籍!

『ロック人物論』(金原義明)
ロックスターたちの人生と音楽性に迫る人物評論集。エルヴィス・プレスリー、ボブ・ディラン、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、デヴィッド・ボウイ、スティング、マドンナ、マイケル・ジャクソン、ビョークなど31人を取り上げ、分析。意外な事実、裏話、秘話、そしてロック・ミュージックの本質がいま解き明かされる。

●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.com


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする