ねがいのいえ理事長 藤本真二のブログ

障害を持つ方たちに寄り添い支援する日々の中で感じたこと、そのほか伝えたい話題などを、思いのまま日記風に綴ります。

第三段階のその先

2023-06-17 19:37:20 | Weblog
 大学生の頃、中東紛争やアフリカの飢饉が深刻さを極めていた。青春時代まっただ中、様々思い悩んでいた自分は、映像で見る飢えた難民の子たちも、青春時代には自分と同じように思い悩むのだろうかと思っていた。その後、心理学でマズローの5段階を学び、生命の安全が保証されなければ次の次元の欲求にはつながらないことを知り、納得した。

 昔、施設に閉じ込められた人たちは、食は保証されたが、支配への恐怖や不安が満ち、安心と安全を求める段階だった。時を経て今、重度の障害のある人も、人権を尊重され、多くの人が毎日通う場所が保証され、呼び捨てで呼ばれない社会になった。それでも、強度行動障害がなくならないのは、本当の意味で心に寄り添う安心を得られていない証しである。

 グループホームねがいのいえの入居者のみなさんは。20年に渡る心に寄り添うケアを受けて今、嵐のような他害と破壊を繰り返し、他の事業所では週に2時間の行動援護が精一杯と言われた方が、毎日穏やかに暮らす。自宅でうまく過ごせなかった方たちが、日中は畑でたくさん体を動かし、夜は早々に入眠する。ストレスもなく、スタッフは愛情にあふれている。不満のない毎日のはずである。
しかし。なぜかイライラしている人がいる。原因となる要因が思い当たらない。満たされているはずなのになぜ・・・

 ふと、マズローを思い出す。生活介護なのに目一杯の労働をする仕事場は、彼らに第三段階の社会的欲求まで保証していると思われる。それでもイライラする彼らの姿は、その先を求める人間として当然の訴えなのではないか。 

「この生活に何の不満もない。でも何かが足りない」

 全国の施設はすべからく、まずこの段階までクリアしなければならない。そしてこの先は、何を彼らに提示してあげられるだろう。仕事以外に、生涯を打ち込める楽しみ、生きがい、他者の役に立ちたい、そして愛し合う人を見つけたい。

 これまで重度障害の方には第三段階が目標のゴールのようであった。しかし私たちは今、そんな方たちにも健常者と同じ心があることを知っている。ならば、その先をどう支えたらいいのか、本気の議論をしなければならない。

 もうそんな時代である。
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