二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

ハービー・山口「新編 代官山17番地」と熊切圭介「東京ワンダー」を読む

2019年04月14日 | Blog & Photo
コレクターになるつもりはまったくないのだが、今年になって、2冊の写真集がやってきた。
それがこのハービー・山口「新編 代官山17番地」(株式会社スペースシャワーネットワーク 刊)と熊切圭介「東京ワンダー」(株式会社クレヴィス 刊)。

いやはや、どちらも眼が点になってしまう素晴らしさ(*゚ー゚)v
「東京ワンダー」はカラー写真集としてはお安い方だけど、「新編 代官山17番地」は3600円+税と高額なので、しばらくためらっていた。


■ハービー・山口「新編 代官山17番地」


《同潤会は1923年(大正12年)に発生した関東大震災の復興支援のために設立された団体であり、同潤会アパートは耐久性を高めるべく鉄筋コンクリート構造で建設され、当時としては先進的な設計や装備がなされていた。》(ウィキペディアより)

この写真集の旧版は1998年に刊行されている。そのリメイクかと思ったら、新編とあるので、編集しなおしたり、写真を追加したものかもしれない。
かつて(2012年ごろ)この評価の高い写真集を探したことがあったが、すでにプレミアム価格がついていた。

わたしは同潤会アパートがまだ現役だったころいったことがある。写真も数枚撮っているはず。さっき調べたら、16か所も建てられたのだ。
わたしが友人に誘われ、訪れたのは、代官山ではなく、渋谷にあった同潤会アパートであった。

だから、ハービーさんのこの写真集は、少々大げさにいえば、肌で感知することができる/_・)
関東大震災の被災者のため、東京のど真ん中に、こういう人間味あふれる、豊かな集合住宅が建てられたことは、いまとなって考えると驚くべきことである。

時代にも人にも、マンモス都市東京にも、それだけ余裕があったのだ。
本当にため息が出るくらい、魅力あふれる傑作写真集だなぁ、食い入るように読みふけってしまう。
キャンディッドもないことはないけど、大部分は、お声をかけ、コミュニケーションをとって撮影している。

フォトグラファーのやさしさと、被写体となった人のコンチェルトなのだ。わたしはモーツァルトの音楽を連想せずにいられない♪♪









何枚かのカットは、“奇蹟の写真”といってみたくなる域に達している。
せせこましくなく、ゆったりとした敷地と、そこをつつみこむ緑。この樹木は、いま風の人工的なものではない。
人びとは、食卓をかこむ家族もキスをしている若者たちも、身を寄せあうように生きている。笑顔や落胆した姿、はしゃぐ子どもたち、家族の団欒。
昭和という時代のいわば“上澄み”のようなものが、ここに刻印されてある。そっかー、こういう時代に、こういう空間があったのだ・・・と思いながら、しばし、胸のふるえが止まらない。

とてもとてもこのmixiサイズでは再現できないから、気になったら購入するか、書店で手にとってほしい。
モノクロのグラデーションがこんなに豊かだということを実感できる。オリジナルプリントにせまる「ハイエンド印刷」によって再現される奇蹟の世界!
しかし、これがおとぎ話のように見えたりするのは、われわれが世知辛い、ギスギスした世界に住んでいるからであろう。

このクォリティーならこの写真集、納得の価格である。
美容師に髪をカットしてもらいながら、鏡に向かって二眼レフを構えているハービーさんがいる(^o^)
66判はローライフレックス2.8Fであろうか?
「代官山17番地」は、こうして伝説の写真集となっていく。


評価:☆☆☆☆☆


■熊切圭介「東京ワンダー」


《出会った瞬間にシャッターを切った。謎だらけの街・東京のもう一つの顔》というキャッチコピーがオビに付されている。
《30年間撮り続けた東京スナップから、選りすぐりの作品122点を収録》だそうである。

すべてがわたしのいう「街撮り」のスナップで、原版はおそらくカラーポジであろう。
人物スナップだけでなく、オブジェや街角風景も写っている。
熊切圭介さんは、木村恵一さんともども、10年ほど前まで、雑誌「日本カメラ」でよく見かけた気がする。1934年生まれで、現在(社)日本写真家協会の会長を務めておられる。写真界の大御所的存在といっていいだろう。

ハービーさんの東京とは違って、混乱の巷といえるショッキングな画像が多い。
しかし、当然ながら、ここはパリでもなく、ニューヨークでもない。
アジア的混沌・・・というのとも、微妙にことなる。
目にあまる、不可解な自己陶酔と、あきれるばかりのごみの集積と、非人間的にしか見えない未来都市的な風景。









東京が欲望の坩堝だということが、読んでいくうち、あぶり出されてくる(^^ゞ
日本の大都市なんてこんなもんだ、ともいえるし、ひでえもんだともいえる。
個人のエゴイズムが極端までいって、とてつもない無秩序が出現している。
画像的には「キレイ」なものより「醜い」ものの方が多く、衝撃的なカットもある。

熊切さんのまなざしは、ありのままの東京を映し出す、熊切さんが出会うことのできた・・・。
望遠より広角レンズで切り取られたカットが圧倒的に多いのは、東京がそれだけ稠密な都市であるからだ。
ある意味「冷酷非情なカメラアイ」が、日常や非日常を、瞬時に切り裂く。

わたしとしては、森山大道さんのモノクロの都市写真と較べたくなってしまうが、何かが決定的にずれている。
それは同じく東京であっても、フレーミングに個性の違いがあるし、空間の把握の仕方そのものが異質なのだ。どちらがいい、悪いとはいえない。
モノクロとカラーの、見る者にあたえる印象の違いも大きいだろう。

わたし的には、ところどころコンテスト写真のようなカットが混じっているのは頂けないなあ。100枚くらいに絞り込んだら、もっと上質な写真集になったかも(・_・?)
読者の好みの問題に収斂するのかな、そうかもしれないが。


評価:☆☆☆☆

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