鼠丼

神の言葉を鼠が語る

<801> 240115 古い枕を持ち帰った話

2024-01-15 19:37:42 | 日記
 毎度!ねずみだ。

 私は家での睡眠時、10代の頃から今に至るまでずっと同じ蕎麦殻枕を使っている。自分の思い通りの形にできるので重宝しているが、さすがに40年以上も使っているとあちこちほつれ蕎麦殻が外にぽろぽろとこぼれてきて辟易していた。なにしろ掃除が大変である。

 そこで実家から古い枕を持ってくる事に。住む者もいない家の中でひんやりと冷やされた枕を車に積み込み持って帰る。シミだらけの古い枕を見て、妻が眉をひそめるが、「以前使っていた枕だから大丈夫」と訳の分からない言い訳をして使おうとする。「せめて一日太陽にあててちょうだい。」と妻に怒られる。

 干し柿のように一日冬の太陽と寒風にさらされて、枕はさらに冷たくなった。今使っている枕カバーをかぶせて早速その夜から使う事に。

 夜中にふと目が覚める。定かではないが目が覚めたような気がする。
 すぐ隣で人の息というか気配というか、そんなものが感じられる。気配を感じたから目が覚めたのか、目が覚めて気配を感じたのかはよく分からない。
 とにかくそんなものの気配が寝ている左の耳越しに感じられたのだ。まあとなりで妻が寝ているのだから当然だと思いなおすが、どうも人の気配は妻の他にもう一人いるような感じがしてならない。

 さらに。

 妻は私の右側で寝ているのだ。

 私の布団の左側、妻の布団と反対側には本棚があるのだが、気配はどうも本棚の隣あたりの空間から感じられる。ちょうど誰かが枕元に座って私の顔をじっと見ているような、そんな感じである。眠さのせいだろうか、不思議と恐怖は感じなかった。
 私は目を開けてそちらを見るが当然誰もおらず、いつもの壁と本棚が見える。右側からは妻の寝息が聞こえるばかりである。妻の方を見やると、うすぼんやりと彼女が布団にくるまって寝息をたてているのが見える。もう一度左を見ると、もう気配はなかった。しばらく起きていたが、いつの間にか再び寝入ってしまったようで次に目を覚ましたのは朝だった。

 久しぶりに枕を変えたので不思議な夢を見たのだろうか。本当は全て夢の中の出来事で、夜中に目など覚ましていないのだろうか。

 妻には言っていないが、実はこの枕はお袋が実家で長い間使用していたものであった。亡くなる間際までお袋の頭を支えていた枕である。枕についているシミは私が付けたものではなく、お袋が付けたよだれなのかこぼした薬か何かの類によるものなのだ。
 
 お袋が亡くなって一年が経つが、もしかしたら自分で使っていた枕を息子が使い始めたので、懐かしくなってあの世から会いに来たのだろうか、と考えてみたりする。枕元に座って息子が自分の枕で寝ているのを見に来たのかもしれない。
 妻にこの話をしようかどうか逡巡したが、どうせ信じてはくれないのでやめておく。お袋が亡くなって一年経つが、私は相変わらず両親の夢をよく見る。これからはさらにその頻度が増えるかもしれない。

 お袋はゆっくりと死に至る途中、施設のベッドの上、浅い眠りの中で息子の夢を何度も見ただろうか。

 じゃ、また。



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