電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第41回定期演奏会でハイドン、モーツァルトと壺井一歩作品を聴く

2011年10月10日 14時05分08秒 | -室内楽
よく晴れた日曜日、本当は週末農業日和なのですが、大学の同窓会の案内状を準備する仕事があり、住所変更の点検をして、往復はがきに差し込み印刷を行いました。なんとか準備が完了して、メール便で送ろうと思ったら、近所の取次店が休みです。しかたがありませんので、午後に出かけるときに送ることに。

そんなこんなで午後になり、妻と県立博物館へ出かけました。先日、開展したばかりの「出羽国成立以前の山形」展です。たいへん興味深い展示の話は別の機会に譲ることにして、ゆっくりと文翔館議場ホールに向かい、山形弦楽四重奏団の第41回定期演奏会の開演を待ちました。早めに入場しましたので、前部中央に近い、いい席に座ることができました。



プレ・コンサートは、アンサンブル・とも'ズ=茂木智子(Vn)・田中知子(Vla)のお二人で、ミヒャエル・ハイドンの「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第三番」です。ハイドンの弦楽四重奏曲全曲演奏を目指す山形弦楽四重奏団のプレコンサートということもあってか、楽しくチャーミングな同曲を、シリーズで演奏されているようです。平日だと、仕事の関係で開演ぎりぎりに滑り込むことが多いため、こうしてゆったりとプレコンサートを楽しめるのは大変ありがたい。

さて、本日の解説は、チェロの茂木明人さんです。本日の曲目について、ハイドンの弦楽四重奏曲作品33-5ト長調と、モーツァルトの弦楽五重奏曲第六番、そして壺井一歩さんの弦楽四重奏曲第一番であることを紹介します。作曲者の壺井一歩さんは、昨年1月の山響第202回定期演奏会で「はるかな祭と海」が取り上げられた(*1)ばかりです。茂木さんが「今日は、作曲家ご本人がこの会場にいらっしゃってます」と紹介したら、お隣の方が立って挨拶されました。なんと、壺井さんご本人と隣席になったのでした(^o^)/wa-o

茂木さんと壺井さんの会話は、音大の作曲科というものがどういうものか知らない、実験に明け暮れる理系の学生生活の経験しかない当方には、まるで未知の領域。大学や先生によっては、12音の曲しか認めないとか、調性を持った曲を書くことを許容するかどうかなど、なんだか昔の徒弟修行のようなすごい世界みたいです(^o^)/

トークの後、四人のメンバーが登場。ステージ左から、第1Vnの中島光之さん、第2Vnの今井東子さん。二人とも、衣装は黒を基調にされています。ヴィオラの倉田譲さんは、ブルー系のシャツに紺系のネクタイです。チェロの茂木さんは、ダークグレーのシャツに黄色系の明るいネクタイが似合っています。

最初は、F.J.ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33-5、ト長調「ご機嫌いかが?」から。Wikipediaによれば、ロシア四重奏曲第5番と呼ばれることもあるそうな。第1楽章、ヴィヴァーチェ・アッサイ。ハイドンらしい、軽快で明るく爽やかな曲調です。第2楽章、ラルゴ・エ・カンタービレ。演奏しながらいろいろ思い出してしまいそうな、第1ヴァイオリンの美しい旋律とアンサンブルが魅力的。ピツィカートでポロンという終わり方も印象的です。第3楽章:短いスケルツォ、アレグロで。軽やかなハイドンの味が出ていました。第4楽章:フィナーレ、アレグレットで。少し陰影を帯びた始まりから、終始、カルテットのアンサンブルの楽しみを味わいました。ハイドンの曲は、成熟した大人の音楽ですね。

次は、田中知子さん(Vla)が加わり、モーツァルトの弦楽五重奏曲第6番です。茂木さんのプログラムノートによれば、この作品はモーツァルトが亡くなる年の春に完成したもので、最後の室内楽作品だそうです。私も、自宅のパソコンにCDを取り込み、好んで聴いておりますが、変ホ長調の曲らしく、基本的には明るく美しい曲、という印象を持っています。

第1楽章:アレグロ・ディ・モルト。二本のヴィオラが「カッカッカッタララッタタララッタ」というようなリズミカルな主題を提示します。今日は、たいへんハードなスケジュールとなった山Qメンバーですから、この曲は、見かけ以上に奏者にはハードな面があると思います。思わず応援してしまいながら(^o^)、無事にこの楽章を終了。
第2楽章:アンダンテ。どこかで聴いたことのあるようなシンプルな主題が、はじめは二本のヴァイオリンと第1ヴィオラで、すぐに第2ヴィオラとチェロも、pでそっと入ります。第1ヴァイオリンがモーツァルトらしく軽やかに歌い始めると、音楽は次々に各楽器に受け渡されていき、アンサンブルの呼吸はぴったりです。
第3楽章:メヌエット、アレグレットで。スタッカートで下降するヴァイオリンから、各楽器が参加してこの主題が反復され、展開・変奏されていきます。その後の緊密な展開は、お見事です。
第4楽章:アレグロ。きびきびした、運動性の高い音楽が開始され、緊密なアンサンブルが求められます。各楽器が次々に追いかけるフーガみたいなところもあったり、モーツァルト晩年の透明な音楽のエッセンスみたいな音楽でした。



この後、15分の休憩。せっかく隣席になったご縁で、壺井さんと少しだけお話をしました。今回の演奏会で四人が使っている譜面台が、今までのと違う。文翔館の雰囲気に合う、クラシック・スタイルのものでしたので、てっきり文翔館の備品かと思ったら、違うのだそうです。壺井さんもリハーサル時に同じ質問をしたそうですが、今までの譜面台よりも低めのものを探していて、ギター用のものを揃えたのだとか。それにしては、ホールの雰囲気によくマッチしていました。もう一つ、壺井さんは今朝の電車で山形へ来られたそうで、お昼にはそばを食べたそうです。残念ながら、唯一苦手な食べ物が里芋だそうで、山形の芋煮は食べられないのだそうな(^o^)/
当方、最近はミーハー魂が満開となっております。今回のプログラムノートの曲目解説に、ご本人が執筆されていることを幸いに、余白にサインしてもらいました(^o^)/banza-i
自筆署名の社会的意味を考え、掲載は控えますが、うれしいプログラムになりました。私も、「電網郊外散歩道」というブログを書いている素人音楽愛好家です、と自己紹介。楽器の経験もほとんどなく、ただ好きで聴いているだけのことですので、少々気恥ずかしいのですが(^o^;)>poripori

さて、最後のプログラム、壺井一歩さんの弦楽四重奏曲第1番です。全部で5楽章からなり、後の三つの楽章は、続けて演奏される、とのこと。1996年、まだ20歳の音大学生時代、小品ばかり書いていた頃に、ある先生からの助言により、長大な作品を書いてみることにして出来上がったのだそうです。2010年に改訂した作品は、どんな曲なのか、初の体験に期待が高まります。よく聴きなれたモーツァルトのようなわけにはいきませんので、印象は断片的になりますが、第1楽章、ざわ~ざわ~という響きが印象的。チェロが力強い音です。第2楽章はそのチェロから始まります。ヴァイオリンの美しい音に、2nd-Vnもやや低い音で続き、さらに低くヴィオラが、弱音器を外してでしょうか、まるで無伴奏ソナタのような長いソロです。ヴィオラの高音は、訴える力がありますね。各楽器の音域と音色を生かして、受け渡されるところは、室内楽の醍醐味です。チェロの長い無伴奏ソロも、たいへん力感があり、知人の息子さん(小学生)も、真剣に聴き入っているようです。
第3楽章以降は、3つの楽章が連続して演奏されましたので、感想も区分できません。はじめの響きはややパセティックな色彩を帯びて、1st-VnとVcが一緒に、さらに2nd-VnとVlaの2人がギャロップのようにリズミカルに奏し、これがヴァイオリンとヴィオラ・チェロに分れ、という具合に、美しく多彩に変化します。4本のピツィカートも非常に印象的で、続くVlaから再びリズミカルに、激しさも加わります。終わりもカッコよく、いい曲を聴いたぞ~という充実感があります。
各楽器のソロをふんだんに取り入れた曲で、聴かせどころがいっぱいあります。特に、古典派の曲では目立ちにくいヴィオラとチェロには、ありがたい曲となるかも。総じて、ジェントルですが力強い音楽だと感じました。モーツァルトの五重奏曲を押しのけて、メインプログラムに据えるのもよく理解できます。これは、山形弦楽四重奏団にとって、重要なレパートリーになる曲かもしれません。何かの機会に、ぜひ再演を期待したいものです。

昨年の山響作曲賞21の受賞の際に、倉田さんが「弦楽四重奏曲はないの?」と尋ねたのが発端という今回の演奏会、実に良かった。倉田さんの大ヒット!ですね。ハードなスケジュールを乗り越えて演奏していただいた山形弦楽四重奏団の皆さんと、当日の演奏会を準備してくださった協力スタッフの皆さんに感謝です。



次回は、2012年1月17日(火)の18:30開演、ベートーヴェンの第5番とハイドンのOp.17-1、それからフィリップ・グラスという、名前も初めての作曲家の作品です。真冬の平日夜に、開演時刻まで到着できるか?厳しい日程になりそうです(^o^;)>poripori
そうそう、次回の案内で、今井東子さんのお声をはじめて拝聴しました。とても落ち着いた、ステキなお声でしたよ(^o^)/

(*1):山響第202回定期演奏会~大作曲家の青春時代~を聴く(2)~「電網郊外散歩道」2010年1月

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4 コメント

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Unknown (パスピエ)
2011-10-10 21:25:50
こんばんは
いつも思うのですが、音楽が身近に感じられる素晴らしいコンサートを楽しんでいらっしゃいますね。

ハイドンの四重奏曲は私もお気に入りの一曲です
少し前になりますが拙ブログでも記事にいたしました
http://cocco904.blog46.fc2.com/blog-entry-253.html
こんないい曲なのに演奏されるのが少ないようですが、生で聴かれたとは羨ましいことです。
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チェロのソロ (take)
2011-10-10 21:29:10
息子を出して?いただきありがとうございました。実は息子は茂木さんのチェロのソロの部分が本当にすごかったといっていました。
 ミーハー度はこちらも負けていませんよ!息子も当然パンフに壺井さんのサインをいただきました。
 また今井さんのサインもいただき、これで四重奏団の全員からサインをいただいたと大喜びでした。
 そういう自分も今井さんとお話しが出来(自分も家内も今井さんと同じ大学の卒業生です)とてもうれしかったです。
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パスピエ さん、 (narkejp)
2011-10-11 20:05:10
コメントありがとうございます。リンク先の記事も拝見しました。山形弦楽四重奏団は、ハイドンの弦楽四重奏曲の全曲演奏を目指していますので、毎回ハイドンを楽しむことができます。ハイドンの音楽は、工夫されていて屈託がなくて、実にいいですね。こういう、内容のあるコンサートを、重要文化財のホールで、安価な料金で聴くことができるのですから、まったくありがたい限りです。四重奏団員が所属する山響を創設した指揮者の村川千秋さんの情熱と功績は、素晴らしいものだと思います。
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take さん、 (narkejp)
2011-10-11 20:11:20
コメントありがとうございます。息子さんが真剣に聴いている姿が目に入ってしまいまして(^o^)/
壺井一歩さんのサインだけでなく、今井東子さんのサインまでいただいたのですか。それは私もまだです。負けました(^o^)/
同じ大学というだけで、なんとなく親しみを感じるのでは。機会があれば、ぜひ奥様もご一緒にどうぞ(^o^)Y
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