電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」を聴く

2007年04月29日 14時42分14秒 | -室内楽
カップリングの妙、というのがあります。片方が聴きたくて購入して、他方の魅力にも気づいてしまう、というケースは、意外と多いものです。私の場合、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」にふれたのは、まさにこれでした。

若い頃、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」を聴きたくて、日本コロムビアの「ヒストリカル・レコーディング1000シリーズ」から、スメタナ四重奏団による演奏、HR-1002-SというLPを購入し、モノラル音源ながら、力強さや深刻さ、とりわけ第2楽章の旋律にまいってしまったのでした。当時購入した音楽之友社のポケットスコアの奥付には昭和45年とありますので、このLPの発売時期も、昭和46年頃か、たぶんそのあたりでしょう。



第1楽章、ニ短調、アレグロ。四部一斉の長い音符と激しい三連音で印象的に始まります。これって、ベートーヴェンの「運命の動機」をひっくり返すか、頭に長い音符を付け加えたような感じです。第2主題は対照的に優美なヘ長調。コーダは第1主題に基づくもので、最後はチェロが低く運命の動機ふうの音型を優しく呟いて終わります。
第2楽章、アンダンテ・コン・モルト。歌曲の「死と乙女」のピアノ伴奏部を中心に作られたものといいますが、はじめの旋律を繰り返した後で、かけあがる旋律の切実な美しさ。これが繰り返されて、やがてチェロの旋律がヴァイオリンに移り、繊細な音楽になり、最後にpppで主題が奏され、dimしcrescしてpで終わります。この終わり方が、なんとも魅力的です。
第3楽章、スケルツォ、アレグロ・モルト。ごく短い楽章です。テーマは第1楽章の第1主題を想起させるもので、トリオ部の優美さは生の美しさでしょうか。
第4楽章、プレスト。譜面を追いかけるのも大変です。死の主題と生の主題が入れ代わり拮抗するように出現し、特にヴァイオリンに現れる旋律の切実な美しさは特筆ものでしょう。Prestissimoと指示された終結部の劇的な激しさは、思わず息を飲むほどです。

シューベルトが若死した理由として、彼の家族全体が慢性の水銀中毒に侵されていたこと、おそらく梅毒の水銀療法が致命的だったこと、などが指摘(*)されます。乙女は生への憧れや渇望と見ることもでき、死を直視する絶望が深いだけに、美しい旋律にはある種のいたましさをさえ覚えます。

スメタナ四重奏団の演奏も、年代によって変わっているようです。1950年代前半と思われるモノラル録音では、どの楽章もじっくりと表現していますが、日本での演奏会をライブ収録したステレオ録音では、全般に速目のテンポで、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。特に、偶数楽章の違いが顕著です。

■スメタナ四重奏団 (モノラル録音)
I=11'20" II=11'25" III=3'25" IV=10'05" total=36'15"
■スメタナ四重奏団 (ステレオ録音)
I=11'06" II=10'19" III=3'14" IV=9'02" total=33'41"

(*):シューベルトの本当の死因は?~シューベルトの死の真相に迫る~
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