裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/生命編・19

2023年11月27日 16時00分29秒 | 世界のつくり

19・生命の初期設定、って

前述したセントラルドグマを実質的な現場作業に置き換えると、DNAにコードされた塩基配列を(文字通りに)解き、その設計図通りにアミノ酸をタンパク質の形に編み上げる、という一連の部分になる。
そこに、非常に難解な問いが隠されてる。
すなわち、「卵が先かニワトリが先か?」問題を究極的にさかのぼった、「ゲノムが先かタンパク質が先か」という点だ。
タンパク質を編み上げるのは、ゲノムである。
ゲノムをコードするのは、タンパク質(からできた核酸=DNA)である。
だとすれば、このどちらが先に生まれたんだろう?
結局、生命誕生の物語とは、このメビウスの輪を解くということに他ならない。
また太古の深海底に戻るけど、ここに築かれたわれらが故郷であるチムニーにおいて、母なる自然はただただ自分の持つポテンシャルと偶然の力によってタンパク質を形づくり、それを複雑に構成し、組織化して、「彼」の姿を・・・相貌を立ち上げたんだった。
そんな彼は、ただの土人形なんだろうか?
彼の中にゲノムが組み込まれていなければ、彼が以降に成そうとするダーウィン進化は期待できない。
進化とは、ゲノムの組み替えのことを言うんだから。
ひとたび生命が誕生し、単純な原形質として起動してしまえば、高等生物(例えば人類)にまで進化させることはわりと簡単・・・でもないが、少なくとも納得しやすい説明はつく。
が、進化前の最初期、スタートアップに至るまでの工程の説明は、困難の極みだ。※1
果たして意思なき自然現象は、彼にゲノムを発明させたんだろうか?それとも、ゲノムに彼をつくらせたんだろうか?

つづく

※1 ビッグバンと同じだ。人類はその「点」以降の論理的説明はできるが、それ以前になにがあったか、何者がそれを起こしたのか、を知ることはとても困難なのだ。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・18

2023年11月26日 13時15分26秒 | 世界のつくり

18・セントラルドグマ、って

遺伝学と進化論における最先端の解釈によると・・・というか、ダーウィン進化を現代的に展開させたドーキンスさんの意見によると、生物とは、ゲノムが操る遺伝子伝達(継承)機械であるらしい。
生命体の振る舞いのすべては、遺伝情報が命ずるところのただひとつの目的、すなわち「種の存続」を行動原理とし、ぼくやあなたはただそのためにこの世界で活動させられてるんだ。
そのシステムを禅的に煮詰めた福岡ハカセの説明(動的平衡論)がわかりやすくて面白いので、ここに紹介する。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず・・・」は、鴨長明さんの有名な言い回しだけど、要するに、長良川は大きなくくりでひとつの川と見えるけど、その中身の水分子の構成はいっときも同じじゃなく、ひと月もたてば、中身の水はそっくり入れ替わって別ものとなる。
なのに長良川は、長良川という形質と、いわばアイデンティティを保ちつづける。
生命体も同じで、日々の新陳代謝を繰り返して細胞を入れ替え、ひと月もたつ頃には、全身の全構成分子をすっかり別ものに更新する。
現時点でのぼくは、ひと月前のぼくとは物理的に別の存在であり、ひと月後にはまた別人に入れ替わる。
なのに、ぼくはぼくだ。
その「ぼく」と言いきれる根源はなにかと言えば、ゲノム=遺伝情報なんだ。
つまり、まず情報がそこにある。
形なきぼくの情報が、生命機械に命じ、必要な構成物を物質界から集めさせ、ぼくの肉体を形づくる。
その形質(姿かたちと中身のソフト)は、遺伝情報のアウトプットそのものなわけだけど、重要なのはそいつをつくり上げる設計図であって、その内容を守ることがぼくの肉体、すなわち生命機械の仕事となる。
・・・という相互関係こそが、生命のセントラルドグマだ。
だとしたら、箱(物理的実体)と中身のゲノム、どちらを先に世界に出現させるべきだろう?

つづく

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世界のつくり/生命編・17

2023年11月22日 07時58分18秒 | 世界のつくり

17・ゲノム、って

生命前駆体がいっぱしの生命体の姿となるところまで進んでしまったけど、申し訳ないことに、また話をさかのぼらなきゃならない。
分子生物学の前段階の、哲学の部分にまで。
それは、「生命とはなんぞや?」という根源的な問題だ。
わが物語は、鉱物から有機物をつくり、アミノ酸を構成するところから作業を開始したが、実は生命とはそういうものじゃない。
例えば、最もシンプルな生命体に必要な材料を集め、人為的にそれらを正確な構造に組み立てたとしても、それで命が吹き込まれ、動き出すというものじゃない。
根源的なものが足りないのだ。
そこで、哲学(神さまではなく)の話になる。
生命づくりには、議論すべきふたつの面があり、それはすなわち、生命「体」という物質的な側面と、もう一面は遺伝子というおよそオカルトな問題だ。
生命「体」とは、要するにこの世界における営みを引き受ける箱であり、具体的で実用的な物理上の存在だ。
一方の遺伝子とは・・・ここでは遺伝情報の総体という意味で「ゲノム」という言葉を使うが、こちらはその箱の中に据えられた命令系統の部分で、哲学上の抽象的観念とでも言いたくなるようなやつだ。
DNAはモノだが、ゲノムは情報そのものなんだ。
これはもちろん観念でも幻想でもなく、事実としてそこに「在」って、実際に物質面(肉体)を司ってもいる。
が、意識や考えや自己の認識という脳の働きでもない。※1
ここをごっちゃにしてはならない。
「あなたという自覚」と「あなたをつくり上げてるゲノム」は、別モノと言っていい。
生命(あなた)は、突き詰めれば、ゲノムという形なき情報の命ずるところによって物質を構成させられ、行動を操作される機械だ。
ゲノムは、あなたという意識(意識というあなた、と言ったほうがいいかもしれない)の上層に在り、地上の生命全体をその歴史上に渡って支配しつづける、世界の総体意思のようなどでかいメカニズムなんだ。
われわれはこの物語において、(デオキシリボ)核酸という物質から遺伝と増殖を実現しようと試みてきた。
しかし、遺伝物質をつくるのはまさにその中に収まるゲノムなんである、という「卵が先かニワトリが先か?」のパラドクスを解決する必要がある。

つづく

※1 これらは純粋に物理的な現象だ。

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世界のつくり/生命編・16

2023年11月18日 07時43分35秒 | 世界のつくり

16・ダーウィン進化、って

ようやく性能を得たからだだが、せっかくつくり上げたところで、あっけなく壊れ、滅形し、崩壊し、霧散し・・・何度も、何度も、何度も、生まれては消え去っていった。
それは彼ではなく、からだをつくり上げることに成功した彼の仲間たちが、だ。
その淘汰の結果、彼が残った。
最も生き残るにふさわしい、彼のからだのみが。
だからと言って、彼にはなにができるわけでもない。
ただエネルギーをつくり、そのエネルギーをまたエネルギーをつくるという作業に当てる、自転車操業だ。
ところが、投入したエネルギーは、投入した以上の仕事を決してせず、つまり等量のエネルギーをつくり出すことができない。
エネルギーに仕事をさせると、必ず再利用不能な熱のロスをつくり、これが熱力学の第一法則が言うところの、エントロピーの増大となる。
このロス分を彼は、外からのエネルギーでまかなう必要がある。
チムニーに身を寄せてる間は、周囲に満ちた電子の流れを利用すればいい。
しかし、彼はそのぬるい立場から独立をしたかった。
自分のことは自分でやる、という、これまた生命体としての根源的な突き動かしがあった。
そして彼は、やってのけた。
無限に近いほどのおびただしい実験をくり返し、役立たない方法を捨て去って、ついに最後に残った最善の方法論を採用した。
新陳代謝・・・すなわち、エネルギーの足りない分を補うだけの物質を外界から得、内部で利用可能な状態にまるめて用いる、という補完方法にたどり着いたんだ。
摂取と排泄。
が、実はこれまた彼が自覚してやったことじゃない。
自然による自律的な営みの結果として起こった、最古のダーウィン進化だ。

つづく

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世界のつくり/生命編・15

2023年11月17日 11時38分02秒 | 世界のつくり

15・創発、って

彼は起動したが、実はこのお話が語るところのそこまで洗練されてたわけじゃなかった。
リン脂質はもっと先の世に発明されるものだし、エネルギーとして活用する元気玉もATPなんて強力なものじゃなく、もっと粗末で簡素なものだった。
RNAの機構は取り込んだが、こいつで自分のコピーをつくるなんて高等な仕事は、まだまだ望むべくもない。
だけど彼は、生命体としての最低限の体裁を整えた。
たまたま材料がそろい、体内で各部位が噛み合って連動しはじめたからには、この活動をつづけようという根源的なものに突き動かされた。
特筆すべきは、彼の後ろ盾に、神さまの類などいなかったことだ。
もしも神さまがいたら、その奥に神さまをつくるべき絶対者が必要となり、さらにその絶対者をつくるべき超越者が必要となり、その超越者をつくるべき何者かが・・・という無限後退が発生する。
そんな何者かが最後の最後に存在するとしたら、それは自然の摂理そのものだ。
自然が神さまを・・・いや、その先にいる彼をつくる以上、神さまと絶対者と超越者とその他中間管理の何者かはなきものとして取っ払ってよろしい理屈となる。
そんなわけで、彼は神さまの力を借りず、自然の法則によって脈動をはじめたんだった。
ここには「創発」という、自然が定めたイレギュラーな力が絡んでくる。※1
温度によって固体が液体になり、液体が気体になり、あるいは固体がいきなり気化することを「相転移」というが、そうした階層を上ることによって起きる激変現象が彼の身に起こったわけだ。
つまり彼の肉体は、単純な部位の働きの総和じゃなく、局所における特徴的要素の相互作用によって複雑な組織化がなされ、足し算でなく相乗したような効果が発揮されたために、物体から生命体へと跳躍を遂げたんである。
彼が集め、適切に編み上げ、総合させた物質塊は、無機的な素材からホップし、ステップし、ジャンプをして、生理というステージにまで到達したんだった。

つづく

※1 まさにこの点を、宗教者は「神さまが起こした奇跡」と呼ぶわけだが、なんてことはなく、神さまとは自然そのものなのだ。あらゆる宗教は、自然の力を擬人化して神さまという存在を立ち上げることに利点と納得「感」を見いだしたにすぎず、またあらゆる宗教はそれを悪用して人々をコントロールし、お金を儲ける。神さまとは、正解の意味でも俗悪な意味でも、システムそのものなのだ。

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世界のつくり/生命編・14

2023年11月13日 07時47分34秒 | 世界のつくり

14・生命前駆体、って

深海底の熱水噴出孔にそそり立つチムニー内の小さな小さな穴っぽこの中で、彼は満を辞してそれを開始した。
元素を合成し、アミノ酸を発明し、タンパク質に編み上げ、ヌクレオチドにまで高めて、そいつをさらにRNAの形に組み立てた。
エネルギーをつくり出す材料はその中におおむね含まれてるので、今度はそれを収めるパーソナルスペースづくりだ。
脂質をかき集め、「自分の世界」を覆って外膜とし、閉じた系を実現した。
膜の内外に陽子勾配をつくり出し、脂質のすき間にチャンネルを設けて水素イオンをくぐらせることで、エネルギーを得る術を覚えた。
こうして、チムニーの半導体を満たす電流から独立した、オリジナルなエネルギー機関を持つ生命前駆体が完成したのだ。
・・・と、ここまでは、実は彼が意図してやったことじゃない。
自然の偶然が積み重なった結果、操作なしで稼働する完全に自動的・自律式な機構が組み上がったんだ。
その中に、いよいよ彼が目覚めることになった。
自覚というものが、この瞬間に確立された。
彼は、まずどうしようとしたか。
目的などというものは、なにもない。
生きるという概念が、まずない。
体内に据えられたエネルギー機関が生み出すエネルギーは、エネルギー機関そのものを動かすためにのみ使われるという、ただただ純粋なエネルギー循環体だ。
しかし、そこに宿る彼は本能から・・・生命として必ず駆り立てられるべき性質から、こう直観したはずだ。
「動くぞう」「動きつづけるぞう」、そして「とまるもんか」、と。
彼は、生きよう、などと考えられるほど成熟してはいない。
ただし、「死んではならない」ということだけは、完全に知っていた。
ここに、彼は誕生した。

つづく

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世界のつくり/生命編・13

2023年11月12日 10時57分15秒 | 世界のつくり

13・メタン生成菌、って

太古の地球に酸素はないが、二酸化炭素がある。
ミトコンドリアからさかのぼり、二酸化炭素による呼吸によって酸素を生成することを覚えたのが、葉緑体(植物細胞における葉緑素)だ。
葉緑体は、水と二酸化炭素からグルコースという栄養素をつくり、そのおつりとして酸素を排出したにすぎないが、毒でもあり爆発的燃料でもあるこの気体が、ご存じのように、生命体の形質を劇的に変えることになるんである。
しかし葉緑体は、こちらもご存じのように、日光を駆動源として必要とするため、深海底で活躍はしてくれそうにない。
そこでさらにさかのぼり、とても古いタイプの細菌である、メタン生成菌の登場なのだ。
この子は、水素を二酸化炭素呼吸で酸化させ、メタンと水を排出するのと引きかえにATPをつくるようだ。
そのメカニズムは、ミトコンドリアのカラクリとそっくりで、エネルギー製造装置としてはこの子が最古・・・とは言わないまでも、開発特許により近いところにいることは間違いない。
さて、いよいよ時代をさかのぼりきり、深海底のチムニーに場所を戻す。
ここは、煙突の外に二酸化炭素の海、内側に水素まじりの熱水がドバドバ湧いてる、って環境なんだった。
微細な孔が空いたチムニーの中では、電流がビリビリ通り抜けててエネルギー供給がゆき渡り、系内のエントロピーは負の値を示す、極めて安定な状態。
数億年もの歳月をこの場所で過ごした彼は、物質を合成しまくって、ついに生命の素材をそろえたところだ。
そこで、ずっと思い描いてたメカニズムを構築してみよう、という気になった。
すなわち、自律して駆動・循環するエネルギーマシーンを、だ。
前置きが長かったが、ようやく生命機械制作プロジェクトが実質的に立ち上がる。

つづく

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世界のつくり/生命編・12

2023年11月10日 20時50分45秒 | 世界のつくり

12・ミトコンドリア、って

はるか後の世に現れる、ミトコンドリアの話をしたい。
このエネルギー精製マシーンさえ手に入れば、「動物」の稼働メカニズム(生命発生段階からしたらとてつもなく高度な熱力学の循環系)を簡潔に説明できるようになるからだ。
ちょっと前に触れたATPは、動物の体内で流通するオロナミンCみたいなもので、細胞はこれを受け取って分解することで活力を得て駆動を開始し、その活動の集積が実質的に動物全体を動かすんだった。
そんなATPをつくり出すのが、ミトコンドリアだ。
その構造とATP生成のプロセスは、ほぼ完全に化学的かつ自律的(つまり生気=タマシイを必要としない)で、なかなか興味深い。
ミトコンドリアは、太古の昔には独立した生物だったという出自から、いったんは動物に食べられたものの、その細胞内で生きながらえながら、宿主(食べられた相手)のためにエネルギーをつくっては供出し、しかも宿主の卵子にまで紛れ込んでその子孫の細胞内に自分の子孫を連綿と残すという、特異極まる生命体・・・いや、細胞内小器官だ。
というわけで、ミトコンドリアは前出のリン脂質からできた細胞膜に覆われ、水素イオン(陽子)を内外の濃度勾配を利用して取り込むことができる。
陽子がくぐるそのチャンネルに、ATPの材料と、酵素でできた歯車が巧妙に仕込まれてる。
そして、陽子がこの弁を通り抜ける際に、酵素が水車のように(言葉通りに)回転し、ATPがころりと組み上がって生み出されるカラクリになってるんである。
こうしてできたATPは、オロナミンCとして動物の体内全域に出荷され、供給を受けた細胞を活動させる。
これが、現代におけるわれわれの体内で行われてるエネルギー自給システムだ。
さて、ミトコンドリアにこのエネルギー生成をさせるには、さらに先立つエネルギーである酸素が必要だ。
動物の酸素呼吸とは、突き詰めれば、このミトコンドリアのメカニズムを働かせるためのやつなのだ。
そして、酸素ほど燃焼(エネルギー変換)効率のいい素材はない。
ところが、われわれが生命を組み立てようとしてる時代の深海底に、酸素はないんだった。

つづく

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世界のつくり/生命編・11

2023年11月06日 18時14分50秒 | 世界のつくり

11・細胞膜、って

陽子勾配とは、ふたつの隣り合うエリアにおいて、分子が持つ電子の数に多い少ないがあり、電子(-電荷)の、あるいは陽子(+電荷)の相互エリア間の移動が発生しうる状況のことを言う。
つまり、水が高いところから低いところに向かうように、ふたつのエリアの間で、電子、陽子の流れができるんである。
もっと簡単に言えば、電気はそうして流れるんだ。
そのエリア間に、幕を設けてみる。
電子と陽子の河のような奔流を堰き止めるわけじゃなく、微細な粒子が通り抜けられるチャンネルを設けて、浸透圧のように膜間を行き来できるように。※1
生命をつくる条件のひとつである「軽めにオープン気味な閉じた系」をつくり上げるために、まずこんな薄膜が欲しいわけだが、うってつけの便利な素材がある。
マッチ棒のような形のリン脂質は、アタマ部分は水に吸いつき、しっぽ部分は水から逃げようとする、不思議な物質だ。
これを二本水の中に放り込むと、しっぽ同士が水を避けてお互いにくっつき、逆にアタマ部分は水を求めて外に向く。
これをたくさん水面に浮かべると、しっぽ同士をくっつけたパーツの横隊(つまりアタマ部分が横に並ぶ)ができ、この帯をくるりと一周させれば、内外二層の二次元の輪となる。
さらにこれを水に沈めれば、隊伍が内外二層の三次元の球体になる。
これはいい、こいつは細胞膜として利用できそうだ。
なんと言っても、この「閉じた系」ときたら構造上、パーソナルな空間を完全に遮断してるわけじゃない。
びっしりと敷き詰められたリン脂質の間隙をこじ開けて内外通過チャンネルを設ければ、物質の・・・例えば陽子などの出入りも可能だ。
採用!
そこで振り出しに戻るが、膜の内外に陽子勾配をつくって、陽子にここをくぐらせてみたい。
この機構を用いたエネルギー生産装置を発明すれば、チムニーから独立できるかもしれないぞ。
これを自律式にすることは可能だろうか?
結果論になるけど、それを実現したのが、現代にすればミトコンドリア、太古にすればメタン生成菌、ということになる。

つづく

※1 ここもまた説明が逆で、微細な粒子が通り抜けられるメカニズムのおかげで、浸透圧という現象が起こる。

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世界のつくり/生命編・10

2023年11月05日 12時51分59秒 | 世界のつくり

10・RNAワールド、って

物質同士の偶然の連なりからついにDNAが形づくられてしまった・・・ってことになってるが、(デオキシリボ)核酸の単体による働きで遺伝子が下の代に移り、そっくりの形質が継承される、なんてわけじゃない。
その作業には、酵素が二重らせんをほどき、メッセンジャーRNAが駆けつけて情報をコピってトランスファーRNAに知らせ、素材をリボソームという工場に集積して設計図通りに組み立てる・・・という連綿とした規律が必要だ。
そこまで高度なやつを原形質(にもまだなってない)の彼に要求するのは、酷だ。
なので、とりあえずは「DNAになりきれてない情報媒体」である「RNAによる生命前駆体」ができた、としようではないか。
生命世界の最初期はRNAが支配してたという「RNAワールド」説だ。
RNAもまた、糖・リン酸・塩基による横構成ユニットを縦一列に連ねたもので、いわばDNAの二重らせんの片側だ。
この(リボ)核酸の使い勝手のよさは、遺伝情報の担い手であると同時に、エネルギーを自前でまかなうことができる点だ。
聞くひとが聞いたらびっくりするだろうが(わからないひとはぜんぜんわからないだろうが)、このRNAって子は、遺伝言語の四つの塩基のひとつであるアデニンと、身を削ったリボースを使って、アデノシンをつくるんである!
ね、ね、びっくりでしょ。
アデノシンと言えば、現世生物の細胞内にいるミトコンドリアがつくってくれる元気玉(エネルギーの素)であるATP(アデノシン三リン酸)を思い出すじゃない。
要するに、アデノシンもリン酸もあらかじめふところに持ってるRNAは、すでにチムニーの陽子勾配による電力供給を受けずともすむ、自家電力発生のメカニズムを開発しつつある、ってことなんだよ。
・・・って、今回は難しい化学知識を飛び交わせてごめん。
だけど次回、もっと奇跡みたいな分子生物学のエネルギー製造装置をお目に掛ける。

つづく

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