裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/生命編・9

2023年10月29日 09時01分55秒 | 世界のつくり

9・生命のエネルギー製造装置、って

たちまちDNAまでつくれてしまったが、実際にそううまくいくものだろうか?
だけど、材料とそれに作用する自然法則がわれわれの世界に与えられた以上、後から振り返れば、実際にうまくいって当たり前だったんだ。
DNAは40塩基ばかりを並べればパーツとして役立ちはじめるようだから※1、宇宙に「環境どんぴしゃ!」の地球型を含むような惑星系が10の30乗個ばかりもあって、その地で無限に近いほどの機会を積み重ねられる安定した時間があれば、奇跡は起き得る。
その非常に小さな可能性を実現したのが、たまたま地球だった!・・・という逆見解をすれば、まったく不自然じゃなかろ?
そういうのん気な考え方で、わが説は突き進む(この読みものは、サイエンスの形をしたファンタジーなんで)。
さて、前章でさまざまな物質に化学反応を起こさせる際に、チムニー内を流れる電流をエネルギーとして用いた。
しかし、生命体の基本である「閉じた系」においては、外界からのオープンなエネルギーをこうまで無尽蔵に取り込むことは難しい。
環境から独立し、単体としてフリーな活動をはじめるには、ぜひともポータブルなエネルギー生産機構を体内にパッケージしたい。
後に発生する動物は、主にミトコンドリアという「元気玉製造装置」を細胞に内蔵してるが、これを稼働させるには酸素がいる。
ところが、太古の環境に酸素は皆無で、この活性な燃料を生産するには植物・・・とりわけ、葉緑素が必要だ。
先のことを明かしてしまえば、後の動植物は「ミトコンドリアや葉緑素という生命の先駆体」を食べ、いつの間にか体内に住まわせて飼い慣らし、エネルギー生産機構として利用するに至ったんだった。
つまり、エネルギーを消費する生命体が現れる以前に、エネルギーをつくる生命体が存在したんだ。
ということは、世界初の生命体である「彼」は、生命を駆動させる自前のエネルギー装置「そのもの!」だった可能性がある。

つづく

※1 人類が持つ塩基対は32億以上だけどね・・・

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・8

2023年10月23日 18時13分09秒 | 世界のつくり

8・生命のパーツ、って

有機物から単純なアミノ酸ができたとしても、開かれた系において、それらが何十~何千も規則通りに連なって偶然にタンパク質を形成する・・・なんてことはあり得なそうに思える。
アミノ酸を並べていく順序は、まさに現代の生物がDNAにコードする、高度で複雑な遺伝情報だ。
だけど、数億年という、一生命にとっては無限とも感じられるほどの途方もない時間をかけ、おびただしい試みを積み重ねつづければ、できないことはない。
・・・と考えるしかないし、彼は実際にそれをやり遂げたはずなのだ、逆算すれば。
そんなわけで、数億年という歳月が流れた。
自然の摂理が及ぼす数々の偶然が積もりに積もった結果、チムニー内のおびただしい微細孔の中に、これまたおびただしい種類のタンパク質がため込まれたとしようではないか。
そのタンパク質が、なおも合体に合体を重ね、さらに複雑な物質を発明していったとしようではないか。
無限の時間の中での偶然は、必然でもあるんだから(長時間をかけると、可能性があることは必ず起きる)。
そもそも、元素の構造なんて、原子核の周囲の電子の配置とイオンの力で、パチンパチンときれいに噛み合うパズルの形にできてるわけだから、それが起きない方がおかしいし。
つまり、へこみがあれば、出っ張りがジョイントするのは当たり前のことなんだ。
例えばここに、ある種の糖と、リン酸、塩基という三種類の物質が生成され、たまたま出会う機会を得たとする。
この糖、リン酸、塩基の三つが横一列に合体すると、ヌクレオチドというパーツになる。
糖とつながったリン酸は別の糖とつながり合え、その糖はまた別のリン酸とつながり合える。
塩基はというと、ある特定の別種の塩基とで「くっつきやすくて離れやすい」便利な水素結合ができる。
このヌクレオチドの形状は、まさに三次元パズルそのもので、上記した要領で、同様な形状の別ヌクレオチドと縦方向に組み合える。
少しずつ角度をつけながら、縦一列に長くつながるヌクレオチドの団体さんは、らせん形の鎖を構築する。
これがRNAだ。
さらに、糖・リン酸・糖・リン酸・・・の接続部の逆サイドに並んだ塩基が、別ヌクレオチドの塩基部分と水素結合をしていけば、もう一本のらせん鎖をつくることができる。
縦方向に並んだ塩基の配列とぴたり噛み合う、相方塩基の配列・・・このふたつがつくるのはもちろん、かの有名なあの形だ。
世にも美しい、二重らせん!
おおっ、つらつらと必然を並べ立ててるうちに、なんとDNAができちゃったぞ。
こう考えると、生命のメカニズムもまた、自然の力だけでつくれてしまいそうに思えてくるではないか。

つづく

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世界のつくり/生命編・7

2023年10月21日 08時54分32秒 | 世界のつくり

7・生命機構の生まれる環境、って

チムニーの外側には二酸化炭素の海、チムニーの内側には地底から噴出する水素の温水。
そのふたつの間には、pH(ペーハー)の差がある。
酸性とアルカリ性というやつだけど、実はこれって、分子が持つ電子が多いか少ないかの問題なのね。
陽子勾配(イオンによる電位差)というんだけど、浸透圧みたいなもので、電子は持て余し気味のエリアから足りないエリアに向かって移動する。
つまり、チムニーの外・内には、電気を送る・受けるのポテンシャルが生じてて、二酸化炭素の海から水素の温水に向かって電流が通り抜けるんだ。
さらにすごいことに、この硫黄と鉄化合物からできたチムニーときたら、はからずも「半導体」という、言わば電流のスイッチをオン・オフにできる機能を持つ素材なんだ。
生物ってのは、突き詰めれば、タンパク質を電気で動かす装置だろ。
だとしたら、このチムニーで、生命の原始的なメカニズムをつくり出せそうだとは思わないか?
つわけで、ここまでの話をひとまずくくってみよう。
深海底に、半導体として機能してくれるエネルギーみちみちの塔が立ってて、その中にはたくさんの小部屋が用意されてる。
小部屋は厳密に閉じた系とは言えず、環境に対してオープンだ。
その一室に単純な分子がたまっていき、最もシンプルな有機物となる。
部屋の内外にはふんだんな電流が流れてて、そいつを受け取ることでエントロピーの「減少」が実現し、つまり有機物は分解一辺倒でなく、不可逆とされるはずの成長がうながされる。
有機物たちは電子の媒介で結び合い、合体して、やがて偶然にもアミノ酸の形になり、お互いにくっつき合って長い長い高分子になり、ついにタンパク質になり、脂質になり、ヌクレオチドなんて集団単位にまで発達してくれるかもしれないね。
・・・ちょっと偶然がつづきすぎか?
だけど、こんな実験の失敗と成功とフィードバックを毎日毎日、何億年も繰り返してたんだよ、この場所で、「彼」は。
だったらできないわけがない、とも思わないか?

つづく

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世界のつくり/生命編・6

2023年10月20日 11時01分40秒 | 世界のつくり

6・生命の材料、って

当時の地球の大気には、二酸化炭素が充満してた。
つまり、酸素がなかった。
水と二酸化炭素から光合成によって抽出してくれる植物が現れるまで、酸素が気体の形で生産されることは皆無だったんだ。
海もまた、二酸化炭素に満たされてた。
そんな地球環境の中、深海底のチムニーから硫化水素(土成分と合体した水素)が噴き出したんだった。
現代のように酸素たっぷりの水に水素が飛び込むと、両分子は安定を求めて水(H2O)になる。
ところが、当時の二酸化炭素の海に水素が飛び込むと、メタン(CH4)になる。
C!
なんとなんとこの記号・炭素は、ゆうき(有機)の証じゃないの。
きたよ、きましたよ、いよいよ有機物の合成機会が。
ただ、牛のおならとして有名なメタンだけど、炭素の四つのプラグに水素四つがきっちりとおさまる正四面体という超安定な組成のために、他の物質との反応性が低く、そこからの発展がまったく期待できない。
生命はメタンでは創造しにくく、できれば「水素と二酸化炭素の壁は化学変化で飛び越えつつも、超安定のメタンにはなりきらない中間物質」でつくっていきたい(し、実際に現生生物の体はその域の物質でできてるようだ)。
その中途半端な配合を実現するには、非常にのんびりとした時間軸と、おびただしい試行錯誤が許される秘密の空間が必要だ。
・・・まてよ、それにぴったしの実験環境があったぞ。
それが、チムニーのスポンジ状の内部構造にうがたれた、微細な孔だ。

つづく

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世界のつくり/生命編・5

2023年10月13日 18時16分34秒 | 世界のつくり

5・深海底熱水噴出孔、って

最原初の生命たる自律式循環機構の生まれ故郷として最有力視されてるのが、深い深い海の底だ。
ここには、生物のからだをつくる素材と、ねぐらと、メカニズムを駆動させるエネルギーがそろってるんだ。
ここを拠点に、この書きものでは生命体(地球生命※1)の創造を試みる。
さて、さっき生命の種を「自律式」の機構と書いたけど、このときにはまだ彼※2には自分「自身」というくくり・・・つまり外界との隔壁はなく、海底の環境にオープンなメカニズムだったと思われる。
そのイメージから、この書きものでは、閉じた系に生命の材料を入れて揉むやり方ではなく、生命現象をつくった後にそれをカプセルに入れて環境から独立させる、というプロセスを踏む。
では、いよいよ生命創造のオペレーションに入ろう。
深海底に穴が開き、地中のマグマに熱せられた水が噴出する場所がある(太古からあったが、今もある)。
何百度もの熱水を爆裂噴出させるホットポイントだと、か弱い原初生命にはシリアスな問題が生じるので、周辺に存在する比較的いい湯加減の水を汲み出してくれるエリアに、観測地点を位置取ろう。
この水は、硫化水素を主成分とする上に、鉄などの重金属まで混じったヤヴァい泥水だ。
そのため、穴の周囲に高い煙突(チムニーと呼ばれる)が築かれていく。
チムニーは、細密な硫黄や鉄粒子が積み重なったものなので、スポンジのようにスカスカな構造をしてる。
言い換えれば、微細な孔が無数に開いてるんだ。
そこは、生命に必要な「閉じた系」とまでは言えないが、マンションの個室のような小部屋とは言えないだろうか。

つづく

※1 宇宙には、われわれ人類の常識や生命の概念からはるか逸脱した生命体が生息してる可能性があるため、水を元にした地球オリジナルな生命の形態を「地球生命」と呼ぶことにする。
※2 この後に胚胎されることになる最初の地球生命を、この書きものでは「彼」と呼ばせてもらう。

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世界のつくり/生命編・4

2023年10月04日 19時40分23秒 | 世界のつくり

4・生命の素、って

生命体をつくるには、石ころや金属のような鉱物じゃない、柔軟な素材である「有機物」が必要だ。
むかし、有機物は「生物由来の資源」って概念で捉えられてたけど、それだと生物発生以前に有機物は存在しないことになり、逆説的に有機物による生物が発生する可能性が失われてしまうので、現在では有機物は「炭素をベースにした化合物※1」って意味になってる。
炭素は、原子核の周囲(電子の最外殻軌道)に四点のプラグをバランスよく配置したパズルのピースなので、原子同士の結合にとても使い勝手がよく、物質を構成する際に引っ張りダコになる。
こうして生まれる化合物の中に、有機物があるんだ。
生物にとって最重要の有機物といえば、アミノ酸だ。
生物は、アミノ酸でできてると言っていい。※2
まずは地球上で、こいつを手に入れたい。
ある実験によれば、原始地球に存在した無機物数種類をフラスコに入れて密封し、熱して冷やして放電すると、一週間後に非生物由来のアミノ酸合成が確認できたということだ。
これは要するに、潮の満ち干の激しい海の浅瀬に雷が落ちると有機物のスープができる、ってことを意味してる。
生物はそんな環境で生まれたんだろうか?
その他にも、最近ちょくちょくと宇宙探査機が小惑星から石くずを持ち帰ってくるが、その中にも生物を構成する多くのアミノ酸が混じったりしてて、「生命起源は宇宙じゃね?」というパンスペルミア説もある。
が、生命誕生のこの物語を面白くするには、ぜひとも地上で素材からつくっていきたい筆者としては、現代科学界でも最有力な「深海底熱水噴出孔由来説」を採る。

つづく

※1 炭素そのものや二酸化炭素、炭酸カルシウムなど、炭素込みでも無機物として選別される例外はある。
※2 DNAもそこに目をつけ、アミノ酸の種類を塩基にコードすることで、生物(無生物も)の設計図としてる。

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世界のつくり/生命編・3

2023年10月03日 22時49分55秒 | 世界のつくり

3・奇跡の環境、って

前回に挙げた三つの条件をひとつひとつクリアしていけば、晴れて生命体のいっちょ上がり!というわけだ。
が、もちろんそう簡単にはいかない。
なにしろ、地球には(ある意味、この世界には)まだ鉱物しかないんだから。
材料として与えられてるのは、酸素、炭素、鉄・・・なんていろんな種類の元素のみと言っていい。
これらを組み合わせて、この読みものでは生命体を誕生させ、細部をつくり込んでいく。
胸躍る話じゃないの、成功すれば、われわれはほぼ神さまってわけだ。
さて、生命誕生のプロセスを具体的に考えるに先立って、この地球が浴する奇跡のような待遇に思いを馳せてみる。
まず、水だ。
太陽に近い天体では、水は蒸発して宇宙に散逸してしまい、逆に太陽から遠い天体では、永遠に凍りついて流動性を失ってしまう。
地球はその間のせまいせまい「ハビタブルゾーン」という、水が柔軟な液体でいられる距離に軌道を取ることに成功した。
しかもこの位置なら、太陽から酷烈でもか細くもなくちょうどいい熱と光、すなわち「日光」という(事実上)果てしないエネルギーをもらえる。
この読みものでちょくちょく出てくるエントロピーの法則は、閉じた系におけるエネルギー量は「多い→少ない」の一方通行!と要約できるけど、閉じてるように見える地球の系は、実は宇宙空間に向けて開かれてて、太陽との関係でエントロピーを融通してもらえる事情から、エネルギーが「少ない→多い」に向かい得る!というありがたい立場を許されてる。
このことは、生物がエントロピーの不可逆のルールを破るように見える・・・つまり、散乱したものを整頓する※1ことができる特異な存在であることと無関係じゃない。
水と日光の存在!これは奇跡への第一歩だ。
なぜなら生命体の誕生は、極論すれば「液体の水に溶け込んだ物質が太陽からのエネルギーを得て形を変えた」という一言に尽きるからだ。

つづく

※1 何度も言うけど、自然にまかせれば整頓されたものは散乱する一方(例えば、こぼれた水はコップには戻らない)で、これがエントロピーの増大なんであり、これは基本的に不可逆だ。

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世界のつくり/生命編・2

2023年10月02日 18時30分20秒 | 世界のつくり

2・生命の定義、って

カガクシャは神さまのエージェント(でなくば完全対立意見者)なので、論理という魔法の杖を振って、無味荒涼の地球環境から生命体を構築しなきゃならない。
それを、ここでは小生が試みる。
その前に、そもそも「生命体とは?」という定義を決めておく必要がある。
よく言われるのが、要素を煮詰めきった三つの条件で、すなわち
1・閉じた系である(細胞膜などに覆われて、外界から独立してる)
2・新陳代謝ができる(自分のからだを自分で維持管理できる)
3・自己複製ができる(自分とそっくりな形状の子孫を残せる)
というやつだ。
1の「閉じた系」は、自分の実体に皮膚という結界をめぐらせて、他人や水や風景などと同化させない、ってことなわけで、個体としての基本単位をひとまず保証するもの。
2の新陳代謝は、養分を能動的に摂取して主体的にエネルギーをつくり、生命活動のために消費する、みたいな意味で、要するに「自律的に生きてる証拠」と解釈すればいい。
上のふたつは、科学的にもわりと納得のいくプロセスの説明がつきそうだ。
最大の難関が、3の自己複製問題であることは間違いない。
自分のパーツをひとつひとつコピーして全体をそっくりに組み立てる作業はさほど難しくなくても、そんなパーツを総合させた複製体にも「複製体自身を複製させ、その複製体の複製にも複製をつくらせるように命じる機能」を盛り込む必要がある。
いやはやこう考えると、生命体の複雑さって、第一の条件からしてとんでもないものだ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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