心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

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PTSDの新しい治療法を米国FDAが認可

2023年06月19日 | ブログ
本年3月、PTSDの新しい治療法がアメリカのFDAにより認可されました。この治療法は薬物治療でもなく、持続エクスポージャー法(PE)やEMDR、認知処理療法(CPT)などのトラウマ焦点化心理療法でもなく、PTSDに対してはこれまでになかった全く新しい治療法で、治療機器を用いたニューロモデュレーション療法の一つとなります。

この治療機器はニューロフィードバックを利用することで、PTSD症状の緩和を図ります。ニューロフィードバックとは自分の脳活動を可視化し、リアルタイムでモニターしながらその活動を訓練により制御していく治療法です。可視化には機能的MRI(fMRI)や定量的脳波検査(QEEG)が用いられます。

 今回の治療機器は“Prism”と呼ばれるもので、脳波計ヘッドセットとPCモニターのみで簡便に治療を行うことが可能となっています。

この新しい治療法の最も画期的なところは、トラウマ治療にもかかわらず、トラウマを想起させる必要のないことだと思っています。正直、日常臨床で薬物治療のみではPTSDを根本的に治癒させることは難しく、一方、PEやEMDRなどのトラウマ焦点化心理療法では高い治療効果は得られるものの、大なり小なり治療過程でトラウマを想起させるため、患者さんには心理的な負荷がどうしてもかかってしまいます。

今回の新しい治療機器では、PCモニター上で、最初は立って騒いでいる人々を、患者さんが自分なりの方法で自分自身の気持ちを沈めていくにつれて、その人々が一人ずつモニター上の席に着席していきます。そして全員を着席させることができれば1セッションが終了となります。

この過程で脳内で起こっていることは、頭に取り付けた脳波計が偏桃体の活動をモニタリングしており、モニター上の人々が座っていくのに合わせて、偏桃体の過活動が正常化していくということです。

PTSDでは脳内の機能異常のひとつに偏桃体の過活動が報告されていますが、この治療機器により、トラウマを想起させずにPTSD症状を緩和させることに成功したということです。

この治療法の様子を収めた動画を見つけましたので、リンクを貼っておきます。ご興味のある方はご覧ください(ただし英語の動画です)。なんだかゲーム感覚のようにも見えます...。

日本ではまだまだPEやEMDRなどのトラウマ焦点化心理療法が普及しておらず、本治療機器の登場が待たれるところです。

(院長 森)