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分子ガスを用いた新たな手法で迫る! 短時間に非常に強い電波パルスを発する“高速電波バースト”の正体とは?

2022年12月27日 | 宇宙 space
マイクロ秒~ミリ秒という短時間に強力な電波パルスを発する“高速電波バースト(FRB : Fast Radio Burst)”という天体現象があります。

2007年の発見以降、数千例以上の観測例があるのですが、その起源となる天体の正体や発生のメカニズムは未だ分かっていません。

そこで、今回の研究では星の材料である分子ガスに着目。
高速電波バーストが出現した銀河(母銀河)の分子ガスを調べることで、その起源天体の正体に迫っています。
今回の研究を進めているのは、東京大学大学院理学系研究科付属天文学教員研究センターの廿日出文洋助教を中心とするチーム。
分子ガスとは、星間空間に存在しているガスのうち、分子として存在しているもの。温度は10-100ケルビン程度。星を形成する材料になる。
アルマ望遠鏡を使って、高速電波バースト母銀河における分子ガスを観測してみると、距離およそ3.6億光年の母銀河から分子ガスを検出することに成功。
高速電波バーストの母銀河における分子ガスの検出例としては最遠方のものでした。
日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができる。
その後、研究チームでは、既存のデータと合わせて合計6つの母銀河サンプルを用いて分子ガスの性質を調査。
すると、一般的な星形成銀河や、ロングガンマ線バーストの母銀河、重力崩壊型超新星の母銀河とは異なる性質を持つことが分かったんですねー
ガンマ線バーストとは、0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象。ガンマ線放射の継続時間によって2種類(ロングガンマ線バーストとショートガンマ線バースト)に分類される。ロングガンマ線バーストは、大質量星が最期を迎える際に、自らの重力によって急激に収縮して引き起こす爆発現象“大質量星”が、原因であるとする説が有力。
今回の研究では、高速電波バーストの出現環境を分子ガスの観点で理解するという、新たな手法が開拓できたそうです。
今後、分子ガスの観測が多数の母銀河において行われることによって、高速電波バーストの起源天体の理解が進むことが期待されています。

短時間に非常に強い電波パルスを発する天体現象

高速電波バーストは、マイクロ秒~ミリ秒という短時間に非常に強い電波パルスを発する天体現象です。

最初の観測が報告されたのは2007年のこと。
それ以降、数千個以上観測されているのですが、その起源天体や発生メカニズムは謎のままなんですねー

起源天体の候補として上がっているのは、中性子星やマグネター(強い磁場を持つ中性子星)、巨大ブラックホールなど…
数多くのモデルが提唱されている状況で、天文学における未解決問題になっています。
ただ、ほとんどの高速電波バーストが、銀河系外で発生していることは分かっています。

2020年には、銀河系内のマグネターから同様の電波パルスを検出。
これにより、マグネター起源説が注目を集めていますが、他の高速電波バーストもマグネター起源であるかは分かっていませんでした。

高速電波バーストが出現した環境

天体の形成には、その周辺の環境が大きく影響しています。
なので、高速電波バーストの起源を知るには、それが出現した環境を研究することが必要になります。

中でも分子ガスは天体を形成する材料になるので、起源天体がどのような環境で生まれたのかを探る重要な手掛かりになります。

例えば、星の質量に対する分子ガスの質量の割合や、分子ガスが星の形成に利用される時間スケールといった、天体形成の理解に直結する物理量を調べることができます。

でも、高速電波バーストが出現した銀河(母銀河)における分子ガスの観測は、ほとんど行われてきませんでした。

これまでに高速電波バースト母銀河で分子ガスの観測が行われたのは3例に限られ、このうち銀河系外で分子ガスが検出されたのは、近傍銀の“M81”のみ。
遠くの天体からの信号は微弱なので、高い感度を持った望遠鏡での観測が必要になっていたんですねー

分子ガスを用いた新たな手法

そこで、今回の研究では、ミリ波やサブミリ波帯で世界最高の性能を誇るアルマ望遠鏡を用いて、新たに3つの母銀河の観測を実施。
観測には、分子ガスの指標として用いられる一酸化炭素分子輝線を使用しています。

その結果、赤方偏移0.3214(距離およそ3.6億光年)の母銀河から、分子ガス輝線を検出することに成功(図1と2)。
高速電波バーストの母銀河における分子ガスの検出としては、最遠方のものになりました。
図1:高速電波バースト“FRB 20180924B”の母銀河から検出された一酸化炭素分子輝線のスペクトル。速度分解能は50km/s。(Credit: 東京大学大学院理学系研究科・理学部)
図1:高速電波バースト“FRB 20180924B”の母銀河から検出された一酸化炭素分子輝線のスペクトル。速度分解能は50km/s。(Credit: 東京大学大学院理学系研究科・理学部)

図2:高速電波バースト“FRB 20180924B”の母銀河の一酸化炭素分子輝線の積分強度図。明るい部分ほど信号が強いことを能わす。緑丸は高速電波バーストが起きた場所を示す。左下の楕円は、アルマ望遠鏡の空間分解能。右下のスケール(5 kpc)は約1万6千光年の距離。(Credit: 東京大学大学院理学系研究科・理学部)
図2:高速電波バースト“FRB 20180924B”の母銀河の一酸化炭素分子輝線の積分強度図。明るい部分ほど信号が強いことを能わす。緑丸は高速電波バーストが起きた場所を示す。左下の楕円は、アルマ望遠鏡の空間分解能。右下のスケール(5 kpc)は約1万6千光年の距離。(Credit: 東京大学大学院理学系研究科・理学部)

次に研究チームでは、過去に観測が行われた3つの母銀河と合わせて、合計6つの母銀河サンプルを用いて分子ガスの性質を探っていきます。

図3では、母銀河の分子ガス質量と星形成率(星がどれだけ多く作られているかという指標)を比較。
一般的な星形成銀河では、分子ガス質量と星形成率の間には相関関係があります。
一方、高速電波バーストの母銀河では一般的な星形成銀河とは異なり、広い範囲にわたって分布していることが分かります。

分子ガスの割合や消費時間について調査を行ってみると、一般的な星形成銀河とは異なる分布を示すことも分かってきました。

さらに、大質量の星の終末に起因すると考えられるガンマ線バーストや重力崩壊型超新星の母銀河とも異なる傾向を示していて、高速電波バーストの起源天体は、これらの起源天体とは異なることが示唆されました。
図3:様々な銀河における分子ガス質量と星形成率との比較(縦軸横軸とも対数スケール)。今回の研究で得られた高速電波バースト母銀河の結果を橙色で示す(矢印は上限値)。他の銀河種族(近傍銀河、重力崩壊型超新星母銀河、ロングガンマ線バースト母銀河)を比較のため示してある。一般的な星形成銀河は、分子ガス質量と星形成率との間に相関(斜めの点線)があることが知られている。高速電波バースト母銀河は、この図の広い範囲にわたって分布しいて、一般的な星形成銀河やロングガンマ線バースト母銀河、重力崩壊型超新星母銀河とは異なる銀河環境を持つことを示している。(Credit: 東京大学大学院理学系研究科・理学部)
図3:様々な銀河における分子ガス質量と星形成率との比較(縦軸横軸とも対数スケール)。今回の研究で得られた高速電波バースト母銀河の結果を橙色で示す(矢印は上限値)。他の銀河種族(近傍銀河、重力崩壊型超新星母銀河、ロングガンマ線バースト母銀河)を比較のため示してある。一般的な星形成銀河は、分子ガス質量と星形成率との間に相関(斜めの点線)があることが知られている。高速電波バースト母銀河は、この図の広い範囲にわたって分布しいて、一般的な星形成銀河やロングガンマ線バースト母銀河、重力崩壊型超新星母銀河とは異なる銀河環境を持つことを示している。(Credit: 東京大学大学院理学系研究科・理学部)

今回の研究では、高速電波バーストの起源天体を研究する新たな手法を提示しています。

現状では、母銀河のサンプルが6天体と限られているので、統計的な議論を行うにはサンプルの拡張が必要な状態です。

現在、進行中なのは分子ガス雲の速度構造を含め、アルマ望遠鏡を用いた新たな観測の解析。
さらに、今後も母銀河の観測を進めることで、高速電波バーストの起源天体に迫っていくそうです。


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