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ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊する反応の兆候を、大型ハドロン衝突型加速器“LHC”で発見!

2020年08月21日 | 宇宙 space
欧州合同原子核研究機構“CERN”は、大型ハドロン衝突型加速器“LHC”の実験において、ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊するという、希少な反応の兆候をATLAS実験で2σ、CMS実験で3σという統計的精度観測したことを発表しました。
“LHC”のATLAS(実験)日本グループには、大学院生を含めて約150人という非常に多くの日本人研究者が参加しているんですねー
今回の成果は、名古屋大学大学院理学研究科・素粒子宇宙起源研究所の研究グループが主要な貢献を果たしたそうです。


スイスとフランスにまたがる巨大加速器“LHC”

本来、素粒子は質量をもちません。
でも、ヒッグス場との相互作用によって質量を獲得すると考えられていて、その仕組みのことを“ヒッグス機構”といいます。

この“ヒッグス機構”を実証するため、スイスとフランスにまたがる巨大加速器“LHC”が建設され、その証拠になるヒッグス粒子が2012年7月4日に発見されたのは記憶に新しい出来事です。

その発見に貢献したのが、“LHC”に設置されたATLAS測定器を用いたATLAS実験でした。

ATLAS測定器の建設では、日本は費用の一部を負担しただけでなく、各種装置の製造やデータ解析、研究などにおいて大きく貢献。
ATLAS測定器の一部であるミュー粒子検出器は、32万の検出部を備えた全高25メートルの巨大さを誇り、名古屋大学などが建設や運用をリードしている装置です。

ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊するという、希少な反応をとらえたのも、このミュー粒子検出器によるものでした。


ヒッグス粒子が崩壊してできたミュー粒子対を探すには

ミュー粒子は電子と同じ性質を持つ素粒子です。
ただ、電子の約200倍も重く、物質粒子の中では電子などのレプトンの第2世代に属しています(電子は第1世代)。
物質粒子は3世代あることが実験で分かっている。
素粒子の紹介図。物質粒子はクォークもレプトンもともに3世代まである。ミューオンは第2世代に属し、第1世代に属する電子と同じ性質を持つが、質量は大差があり約200倍になる。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
素粒子の紹介図。物質粒子はクォークもレプトンもともに3世代まである。ミューオンは第2世代に属し、第1世代に属する電子と同じ性質を持つが、質量は大差があり約200倍になる。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
ヒッグス粒子は発見されたものの、まだその生成や崩壊の反応を精査する必要があり、“LHC”を用いた実験は現在も進められています。

そして、ATLAS実験で2015年~2018年にかけて行われたのが、13TeVという高いエネルギーを投入した陽子衝突実験でした。

陽子同士が衝突すると、その衝撃によりヒッグス粒子も生成され、その直後にさらにさまざまな粒子対に崩壊していきます。
ミュー粒子対は、そのヒッグス粒子の崩壊した粒子対の中に存在しています。

ただ、ミュー粒子対はヒッグス粒子の崩壊からだけでなく、ほかにいくつもの物理過程によって誕生しています。
さらに、ヒッグス粒子が崩壊してミュー粒子対ができる割合は5000個に1個程度、他はすべて別の物理過程を経て誕生しています。

このように、いくつものミュー粒子対がある中で、ヒッグス粒子由来であることを見分けられるのでしょうか?
それには、ミュー粒子対のエネルギーや運動量、放射角度を正確に測定する必要があるんですねー

そして、ヒッグス粒子由来である決め手になるのが、その質量です。

ミュー粒子対の情報から、崩壊前の親粒子の質量を算出することができるので、ヒッグス粒子と同程度の125GeV程度であれば、その親粒子はヒッグス粒子と考えることができます。
実験結果からミュー粒子対の候補を含む事象を集め、ミュー粒子候補のエネルギーや運動量、放出角度の情報から算出した質量分布図。ミュー粒子対がヒッグス粒子の崩壊によるもの(本物)であれば、ヒッグス粒子の質量である125GeV付近に集まり、そうでない場合(偽物))はより低い質量から右肩下がりに分布する。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
実験結果からミュー粒子対の候補を含む事象を集め、ミュー粒子候補のエネルギーや運動量、放出角度の情報から算出した質量分布図。ミュー粒子対がヒッグス粒子の崩壊によるもの(本物)であれば、ヒッグス粒子の質量である125GeV付近に集まり、そうでない場合(偽物))はより低い質量から右肩下がりに分布する。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
こうして取得された全データをもとに詳細な研究が行われた結果、2σの統計的精度で観測されたのが、ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊する反応でした。

2σとは統計的精度を表すもので、この確率は現在の計算量においては“ヒッグス機構”の予想と一致する結果になります。

そして、ミュー粒子は第2世代の素粒子であることから、第2世代の物質粒子における質量の起源も“ヒッグス機構”にあること、さらに素粒子の世代自体も“ヒッグス機構”に起因することが示唆されるとしています。

なお、素粒子の研究では、一般的に統計的精度が5σを超えて初めて「発見」と主張することが可能になります。
なので、今回のATLAS実験の2σ、そして異なる仕組みを持つCMS測定装置を用いたCMS実験での3σは、統計的確度としてまだ不十分といえます。

そのため、研究グループでは今後も高統計のデータを実験で蓄積していく予定です。
研究グループによると、それらを用いれば5σを超えることができるとしています。

また、そのときの結果から“ヒッグス機構”の予測値と実際の観測値のズレを見ることができ、新たな物理現象などが発見できる可能性もあるそうです。

なお、“LHC”は2025年頃まで実験を続けた後、加速器の高輝度化と検出器のアップグレードを実施し、2027年頃からパワーアップして実験を再開する予定。
今後10年、20年とアップグレードを行いながら運用されていくようです。


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1 コメント

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単にヒッグス粒子じゃない反応 (buturikyouiku)
2020-11-17 05:39:50
国際リニアコライダー計画でメインイベントとして企画されておる「Z粒子と抱き合わせで出るヒッグス粒子」ですけど、それは単にヒッグス粒子ではなく「ハドロン内部と宇宙初期ではtクォークとbクォークとに崩壊する謎の粒子」「巨大質量の未知のゲージボソン」だと思われます。

アイソスピン+ハイパーチャージがスピンになる条件ではZ粒子とヒッグス粒子に、電荷になる条件下ではtクォークとbクォークに崩壊するのです。

韓=南部模型とユニバーサルフロンティア理論による結論です。

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