宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

月の誕生に新説

2015年05月17日 | 月の探査
およそ45億年前のこと、
地球が誕生して間もない頃に、火星サイズの天体テイアが衝突…

これによりテイアは粉々になり、
融解した高温の破片が、地球の周りの軌道に撒き散らされることになります。

この破片が数億年かけて融合し、地球の夜空に輝く天体“月”になったんですねー

っと言うように、どのようにして地球が月という小さな友人を得たのかは、
たいたいのところ、ジャイアント・インパクト説で分かっています。

でも問題は、重要な観測事実のいくつくが、
このジャイアント・インパクト説と合わないこと…

今回、この問題を解決できるかもしれない、3本の論文が発表されたんですねー
生まれたばかりの地球に、
火星サイズの天体が衝突したときに、月が生まれた…
でも、このシナリオの詳細は、まだ完成していない。

最大の問題は、ジャイアント・インパクト説のシナリオを、
そのまま採用するには、地球と月の組成が似過ぎていることです。

月が主としてテイアの破片から出来ているなら、
その化学組成はテイアのそれに似ているはずです。

そして、従来から言われている通り、
テイアが太陽系内の遠くの場所からやって来たのなら、
月とテイアの成分は、地球の成分とは違っていることになります。

そして、そのことは、
さまざまな同位体(陽子の数は同じだが、中性子の数が違っている元素)の存在比の、
違いとして観測できるはずです。

ところが、アポロ計画により持ち帰られた月の石を調べてみると、
地球と月の同位体比は、ひじょうに良く似ていました。

そう、ジャイアント・インパクト説は、
数々の重要な観察事実をうまく説明できる、すばらしいモデルなんですが、
同位体比の近さを説明することができないんですねー


それでは、この同位体比の問題は、どう説明すればいいのでしょうか?

1つの考え方は、2012年の報告のように、
月はテイアの破片ではなく、
地球から飛び出した破片から形成されたというものでした。

ただ今回の論文は、もっとシンプルな説で、
それによると、生まれて間もない太陽系のコンピュータ・シミュレーションの結果、
地球とテイアは近くの場所で成長し、そのため組成も似ていた可能性が高いというもの。

シミュレーションによって、惑星が成長して衝突する過程を追跡したところ、
大規模な衝突のすくなくとも20%は、良く似た天体同士の間で起きることが分かります。

同じ環境で成長した惑星同士は衝突しやすいんですねー

20%というと、あまり大きい数字ではないと思うかもしれません。

でも、過去の研究で見積もられた確率は、この10分の1程度…
それに比べれば、高い確率になります。


ただ、これで全ての問題が解決するわけではありません。

月の石と地球のマントルの成分は、完全には一致しておらず、
ある元素の同位体比には、無視できない違いが出ています。

その元素はタングステンで、
タングステンにはいくつもの同位体があります。

今回問題になるのは、タングステン182という軽い同位体。
月の石は地球に比べて、タングステン182の存在比がずいぶん高いんですねー

今回の論文の説明はシンプルで、
地球と月が形成された後に、冥王星サイズの天体がいくつか衝突した結果、
タングステンの重い同位体がもたらされたというもの。

衝突が起こるまでは、
月と地球のマントルのタングステン182の存在比は、同じだったそうです。


ところが、当初のタングステン同位体比が同じというのは、
ジャイアント・インパクト説にとっては、困ったことになります。

これは、2つの天体が同じ場所でできたからといって、
タングステン同位体比が同じになるわけではないから…

タングステンの同位体比は、2つの天体の元々の組成とは無関係で、
中心核が形成されてからの時間に強く依存するからです。

地球とテイアの中心核が、同時に形成されたとは考えにくいんですねー


そして、月と地球の当初のタングステン182存在比が、同じになるような説明を考える中で、
“空飛ぶマグマの海”という奇妙な仮説が登場します。

ジャイアント・インパクト説では、
地球のまわりの軌道に、超高温のチリとガスの雲が撒き散らされることになります。

融解した破片からなる回転円盤は、ある期間その場に残っていたのでしょう。

地球と月は数十年間、もしかすると数百年間も数千年間も物質を交換しつづけ、
化学成分の差を解消していったのかもしれません。


たしかに空飛ぶマグマの海と、冥王星サイズの天体の衝突は、
タングステンの同位体比を説明できているようです。

でも、オリジナルのジャイアント・インパクト説のシナリオに、
なじまない部分も残っているんですねー

ただ、月がその秘密を明かしてくれるまでまでには、
まだ、もう少し時間がかかるようです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿