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132億光年彼方の銀河に酸素とチリを検出

2017年04月11日 | 銀河・銀河団
アルマ望遠鏡の観測により、
132億光年彼方の銀河“a2744_YD4”に酸素とチリが放つ電波が検出されました。

この観測の成果は、
酸素とチリが発見された銀河の最遠方記録を約1億光年も更新することで、
宇宙で最初の星が誕生していた時代に迫ることになるようです。
今回観測された132億光年かなたにある銀河A2744_YD4の想像図。


星の誕生史と銀河の進化

宇宙で最初の星や銀河は、
138億年前のビッグバンから数億年後に誕生したと考えられています。

ビッグバン直後の宇宙には、
水素やヘリウム、ごく微量のリチウムだけが存在していて、
星内部の元素合成によって炭素や酸素、鉄などの重い元素が、
作られていくことになります。

こうした重元素が、宇宙の歴史のいつごろから、
どのようなペースで銀河に蓄積されてきたのでしょうか?

このことを調べることで、
宇宙最初期の星の誕生史と銀河の進化のようすが理解でき、
ひいては私たち生命のルーツを探ることにもつながります。

138億年前のビッグバンから現在までの宇宙の歴史の模式図。宇宙誕生後数億年後に最初の天体が生まれ、それらが進化して現在の宇宙を形作っていることを示している。
クレジット:国立天文台


チリと酸素が見つかった最遠方の銀河

今回研究では、
以前にハッブル宇宙望遠鏡で発見されていたちょうこくしつ座の銀河“A2744_YD4”を、
南米チリにあるアルマ望遠鏡を用いて観測しています。
  この銀河は銀河団“エイベル2744”の方向にあり、
  銀河団の重力レンズ効果によって増光されているおかげで、
  銀河の光や電波を詳しく分析するのに適している。


ハッブル宇宙望遠鏡で観測された銀河団“エイベル2744”。画像中左上にあるのが銀河“A2744_YD4”の位置と拡大図。(赤)アルマ望遠鏡によって観測されたチリからの電波。

観測の結果、銀河中のチリと酸素が発する電波が検出されることになります。

さらに、酸素が発する電波を詳細に分析してみると、
“A2744_YD4”までの距離が132億光年もあることが分かるんですねー
  アルマ望遠鏡は以前にも、くじら座の方向131億光年先の銀河“SXDF-NB1006-2”に、
  電離した酸素ガスがあることを観測している。

  史上最古の酸素を発見! 場所は131億光年彼方の宇宙に存在する銀河
    

ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡“VLT”による追加観測でも距離が確認され、
この銀河が確かに132億光年先に存在していることが分かりました。

この距離は、チリや酸素が検出された銀河としては、
これまでの記録を1億光年更新する最遠方記録になるそうです。


134億年前に始まった活発な星形成活動

観測されたチリからの電波をもとに計算すると、
“A2744_YD4”に含まれるチリの総質量が太陽の600万倍、
星の総質量が太陽の20倍になりました。

さらに、1年間で太陽20個分に相当するガスが、
星になっていることも分かります。

このことは“A2744_YD4”における星の誕生が、
天の川銀河と比べておよそ10倍活発であることを示しているんですねー

チリは、星の内部で作られた元素が、
星の死によってばら撒かれる過程で作られます。

なので、星の誕生のペース、
すなわち、星の死によってチリが作られるペースと、
観測されたチリの総量とを比較すれば、
チリが蓄積するのに必要な時間を求めることができます。

そして観測結果から計算された“A2744_YD4”で必要な時間は約2億年。

つまり、この計算結果は、
「現在から134億年前に活発な星形成活動が始まっていた」
ということを示すことになります。

宇宙全体の歴史から見れば、2億年というのはわずかな時間になるため、
今回の成果は宇宙で最初の星や銀河の「スイッチが入った」時期に迫る、
大きな手がかりといえます。

さらに、銀河“A2744_YD4”は、
単にアルマ望遠鏡で観測された最も遠い天体ということにとどまりません。

非常に大量のチリを検出できたことは、
星の死によって撒き散らされたチリによる「汚染」が、
この銀河の中ではすでに進んでいることを示しているからです。

同様に観測を進めることで、宇宙初期の星の誕生をたどり、
銀河における重元素増加の開始時期を、
さらに昔までさかのぼることができるのかもしれません。


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