『それからはスープのことばかり考えて暮らした』

2009-10-19 12:35:41 | Weblog
今日も、良いお天気です。洗濯日和、布団干し日和ですね(笑)。


昨日の収穫
心理療法コレクションⅢ・生と死の接点(河合隼雄/岩波現代文庫)
百鼠(吉田篤弘/ちくま文庫)
それからはスープのことばかり考えて暮らした(吉田篤弘/中公文庫)

初めて読んだ吉田篤弘の小説は、暮らしの手帖連載中の『それからは~』でした。掲載誌は隔月発売ですし、いつ始まった連載かも定かではないため設定も人間関係も把握できないまま、ただ、綿菓子のような、蜃気楼の中の世界に引き込まれていくような、不思議な手応えでした。その後、『つむじ風食堂の夜』と『空ばかり見ていた』を読み、文庫化された『それからは~』に遭遇。振り出しに戻ったような気分です。
路面電車が走る街に越してきた青年オーリィ(大里)君と、心優しき(どこか陰を持ちながらも善意の気持ちを忘れない)人々との触れ合い…になるのでしょうか。路面電車…商店街…名画座…教会…サンドイッチ…スープ…昭和の街の香が漂うアイテムが散りばめられた話です。その上、登場する女性は保護者的な立場の人物ばかり。オーリィ君の姉、アパートの大家さん、スープのレシピを伝授してくれるあおいさん…。素直に読むなら「心温まるお話」になるでしょうし、底意地の悪さを発揮した読み方をするなら「去勢を施されたような、人畜無害な物語」になりますか。生々しいドロドロした人間関係とも主人公の苦難や成長とも無縁な、予定調和的世界です。
作者あとがき(桜川余話ーあとがきにかえて)によると、東急世田谷線沿線の赤堤界隈が舞台とのこと。路面電車の終点にある月舟シネマは下高井戸シネマを連想させましたが、図星だったようです(笑)。かつて、世田谷線沿線のシモタカではなくサンチャ寄りに暮らしていた頃、時折足を運んだ下高井戸シネマ。床が木製で全身緑色だった世田谷線…。当時の下高井戸駅前では高層マンションが見られ元号も平成、バブルが始まっていたはずですが、二本立ての映画を見て駅前商店街で買い物をして帰る休日は、昭和の頃と変わることのない暮らしぶりだったように思います。穏やかで慎ましい日々…極私的な懐古趣味もしくは郷愁かもしれません。

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