Diabetic Cat and Alcoholic Cat

糖尿病猫みぬ(2017年6月30日没)をはじめとする、アメリカに暮らす猫たちの日常の記録です。

牛由来インスリンが猫に優しい理由

2010-04-28 13:38:20 | 糖尿病ウンチク
(画像は、パティオに遊びに来た野良ちゃんを猫用サンルームの中から見つめるみぬ。)

みぬのインスリンをPZI VETからProZincに切り替えて以来、時間があるときには注射後3-4時間後の血糖値を測定してみている。

ここで、初めてみぬの闘病記をお読みになる方は、何故そこまで頻繁に血糖値を測定するのか疑問に思われると思うので、その際にはDr. エリザベス・ホジキンスによるタイトレギュレーションプロトコルを読んでいただきたい。


みぬの糖尿病をこのタイトレギュレーションプロトコルで治療し始めたばかりの頃は、血糖値が不安定で全く予測不可能だったため、本来は6-8時間ごとに血糖値を測定すればいいところを、可能な限り3-4時間ごとに測定し、たまには夜中に目覚ましをかけて起きてまでも測定していたが、最近では血糖値も大分落ち着いていたので、測定間隔は最低6時間、睡眠時間や仕事と重なるときは10時間以上になることもあった。

しかし、PZI VETからProZincに切り替えた際、他の猫糖尿病フォーラムのメンバーから、どうやらProZincはPZI VETに比べて作用時間が短いようだとの指摘があったので、私も時間さえあればみぬの血糖値を3-4時間ごとに測定するようにしてみたところ、いつもではないが、確かに作用のピークが注射後4時間後に現れ、その後は早く効果が切れてしまうこともあるようだ。
尤も、元々みぬは血糖値のコントロールが難しい猫なので、現段階ではまだはっきりとした傾向を掴むことはできないのだが…。


そこで、PZI VETに使われていた牛及び豚由来のインスリンと、ProZincに使われているヒト遺伝子組み換えインスリンとでは何が違うのか調べてみたところ、興味深い資料が見つかった。
タイトルは、「Bovine Porcine and Human Insulin. A present day comparative appraisal and policy discussions.(牛、豚及びヒトのインスリン。最近の比較評価及び治療方針の検討) 」
インドにおいて行われた糖尿病治療方針に関する会議の内容をまとめたもののようだが、インドとなれば貧困層は医療費の出費にも限界があり、また宗教的理由により動物由来の製剤の使用にも問題が出てきたりなど、複雑なバックグラウンドがあるようだ。


もちろん、この資料は様々なインスリンを人間に使った場合について比較したものだが、読んでみると、興味深い点がいくつか。

以下、詳細を…。


1.ヒト遺伝子組み換えインスリンでは、患者が低血糖状態になったときに自覚症状が出にくい。

まず、この資料の中で衝撃的だったのが、1996年に発表された「べラジオ・レポート」の内容。
ヒト遺伝子組み換えインスリンが使用されるようになったのは1980年代からで、それ以前は牛や豚由来のインスリンが一般に使用されていたのだが、インスリンをヒト遺伝子組み換えのものに切り替えて以来、「血糖値が下がり過ぎていることに気が付かなくなった」など、低血糖に対する感覚が鈍くなったという報告が相次ぎ、更にはそのため突然意識が朦朧として交通事故に遭ったり、更には睡眠中に低血糖になって眠ったまま死んでしまったりなど、重大な副作用の可能性も示唆されるようになったという。

そこで、何故牛や豚由来のインスリンに比べて、患者は低血糖に気づきにくくなったかというと、それはインスリンの脳への移行性に違いがあるからとのこと。
脳が血糖値の低下を感知すると、脳は肝臓に指令を送り、自動的にグルコースが放出されるようになっているが、どうやらヒトインスリンは、牛や豚のインスリンに比べて、脳に移行しにくいため、体が低血糖になっていても脳が感知しにくいらしい。
注射や経口錠剤などによって投与された薬は、血液中に入って全身を巡るが、血液中から脳に移行するためには「脳血管関門」を通過しなければならず、この関門を通過できない薬は、脳に移行することができない。そして、脂溶性の低い薬ほど移行しにくい傾向がある。実際ヒトインスリンは、牛や豚由来のインスリンに比べると脂溶性が低いらしい。
これは、本来は脳という生体にとって最も重要な部分を異物から守るために神様から与えられたありがたい機能なのだが、しかし作用を発揮するためには脳に到達しなければならない薬の場合には難関だったりもする。

べラジオ・レポートでは、結論として、子供やお年寄りなど低血糖発作の危険性の高い患者、及び血糖値の自宅測定ができない場合には、動物由来のインスリンを使うことを推奨している。

確かに、PZIでは他の人間用のインスリンに比べて低血糖発作が起きにくいというが、もしかしたらこれが理由だったのかも…。


2.牛のインスリンは重合体から単量体に分離するのに時間がかかるため、ヒトや豚のインスリンに比べて皮下から血中への移行速度が遅く、長い作用時間が得られる。

インスリンは、注射液の中では、複数集まって大きな塊になっているそうで、これが皮下に注射されると、重合体のままでは大きすぎて血中には移行できないので、血中に入るためには一つ一つ遊離しなければならず、時間がかかる。
牛由来のインスリンは、ヒトや豚のインスリンに比べると特にこの重合体を維持している時間が長いため、血中に吸収されるのに長い時間がかかり、その分緩やかで長い作用時間も期待できるというのだ。

確かに、豚由来のインスリンを使ったVetsulin(Caninsulin)では、牛由来のPZIに比べると、血糖値がいきなり下がってすぐに上昇するという話も聞いたことがある。

これに加えて、牛由来のインスリンは上記のように脂溶性も高いため、皮下脂肪に停滞する時間も長く、お陰で血中にゆっくり吸収されてマイルドな作用をするのだろう。
猫にとって牛由来インスリンが使いやすかったのは、ただアミノ酸配列が猫本来のインスリンに近かったからだけではなかったようだ。


幸い、タイトレギュレーションプロトコルに従って治療をしていれば、一日に数回血糖値を測定するので、低血糖発作も防げるし、血糖値の状態に応じてインスリンの投与量や投与間隔も調整できるので、上記の問題点はクリアできそうだ。
また、低血糖の危険性が高くなるのなら、尚更低炭水化物食(穀類無添加)を徹底して、普段から肝臓の低血糖に対する反応性を高めておくことも重要かもしれない。
(高炭水化物食を食べて肝臓を甘やかしていると、いざというときに必要なグルコースを血中に放出できなくなってしまうらしい。)


このインスリンが将来的に日本で承認されるかどうかはわからないが、今まででもBCPやPZI VETを獣医が個人輸入して使っていた例も少なくなかったようなので、今後はProZincを使い始める人も出てくるかもしれない。
実際に私が使ってみた感覚では、他の人間用インスリンと比べるとかなり猫には使いやすいと思うが、特にBCPやPZI VETから切り替える場合には、上記のような報告もあることに留意していただければと思う。


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2 コメント

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Unknown (みぬまま)
2010-05-05 10:10:31
いらっしゃいませ

新ブログへの訪問ありがとうございます。
これからもよろしくおねがいします!

GWはいかがお過ごしでしょうか?
動物園も家族連れでにぎわっていることでしょうね。

猫の糖尿病は個体差が大きいので、インスリンの種類も合ったり合わなかったりが激しいんですよ。
狂牛病の懸念から、日本では使えるインスリンが限定されてしまっているようですが、もっと日本でも選択肢が増えればいいのに…と思います。

それでは、また遊びにいらしてくださいね。
Unknown (ちーちゃん&オス君飼育者)
2010-05-05 03:12:28
ブログ開設おめでとうございます^^
今後ともまた宜しくお願いします♪
カリフォルニアのも天候が良くなったそうで
青い空がすばらしいでしょうね^0^
こちら千葉東京も4月末からきゅうに
爽やかなお天気が続いています♪
この数日は夏日で快晴ですw

野良猫ちゃんを見つめるみぬ君可愛いですね♪

薬物と”脳血管関門”の通過し易さそしてヒト組み換え遺伝子インスリンの問題点と牛豚のそれの長所などの関係興味深く参考になります
^o^

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