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『無防備』

2010年04月05日 | 映画(ま行)
『無防備』
監督:市井昌秀
出演:森谷文子,今野早苗,西本竜樹,中村邦晃,柿沼菜穂子他

お笑い芸人→舞台役者の卵→映画学校入学→映画監督という、
異色の経歴を持つ市井昌秀監督。
ぴあフィルムフェスティバルのグランプリ受賞作です。

本作を製作するきっかけとなったのが、監督の奥様の妊娠。
そのホンモノの妻である今野(市井)早苗が妊婦役で出演し、
出産のシーンは実際の出産時の映像。
猥褻性は皆無ですが、あまりに強烈なため、R-18指定となっています。

片田舎の町工場で軽作業に従事する30代の女性、律子。
てきぱきと仕事をこなし、努めて余計なことを考えないよう、
毎日を淡々と過ごしている。

ある日の帰り道、両手に買い物袋を持った妊婦を見かける。
辛そうなその姿に、「持ちますよ」と思わず声をかける。
黙ったまましばらく一緒に歩き、礼を言われて帰宅。

数日後、その妊婦、千夏が職場にパートとしてやって来る。
妊婦ということでどこも断られたらしいが、
万年人手不足の工場なので来てもらうことにしたと社長は言う。
リーダー格の律子は、千夏に仕事の流れを説明する。

律子を除く職場の女性たちは、千夏にあれやこれやと質問攻め。
「ダンナが無職で、しかも、できちゃった婚。私が働かなきゃ」と、
明るく答える千夏に、車通勤の女性が千夏の送迎を申し出るが、
毎日あぜ道を徒歩で通勤する律子を見て、千夏は自分も歩くと言う。
前を歩く律子を振り向かせようと、
千夏はお腹が痛いふりをしてうずくまるのだが……。

ネタバレになりますが、律子は事故で流産した過去があります。
以来、夫とは同じ家に住んでいるというだけで、食事すら別々。
玄関からそのまま自室へ入る夫。部屋に夕食を運ぶ律子。
余計な説明はありませんが、妙な空気が痛いほど感じ取れます。
「便所の紙が切れてるから付け替えておいて」「…はい」など、絶妙の間合い。

そう、行間が素敵な作品だと思いました。
間(ま)が長すぎると感じたシーンもいくつかあるものの、
律子と千夏の間に徐々に芽生える絆に、こちらの心も解きほぐされます。
空と電線と田んぼ。あぜ道の右端から律子の姿が消えたと思ったら、
左端に千夏が見えて……というシーンがとても好きでした。

圧巻はやはり出産のシーン。これを撮りたかったわけだから、
ほかのシーンは所詮オマケなのかと思わなくもないですが(笑)、
こんな作品に仕上がるなら、きっかけはどうでもいいかも。

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