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『BIUTIFUL ビューティフル』

2011年07月22日 | 映画(は行)
『BIUTIFUL ビューティフル』(原題:Biutiful)
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ハビエル・バルデム,マリセル・アルバレス,エドゥアルド・フェルナンデス,
   ディアリァトゥ・ダフ,アナー・ボウチャイブ,ギレルモ・エストレヤ他

スペイン/メキシコの作品。
大阪・千日前のパチンコ店に囲まれた映画館にて。
なんとなく、本作は洒落たロケーションにある映画館で観るよりも、
こっちのほうがしっくり来ると思いました。

娘から「ビューティフルの綴りは?」と問われた父親が、
「聞こえるままだよ」と答えて教えた綴りがタイトルとなっています。

スペイン、バルセロナの片隅。
移民や不法滞在者に仕事の斡旋をして日銭を稼ぐ男、ウスバル。
躁鬱病でアル中の妻と別れ、娘と息子をひとりで育てているが、
ある日、自分は末期癌に冒されていることを知る。

余命は2カ月。死への恐怖よりも頭を巡るのは、
自分の死後に遺される子どもたちがどうなるのかということ。
ウスバルはとにかく子どもたちが生きてゆけるだけの金をつくろうと考える。

ストーリーとしてはこれだけで、148分の長編。
けれど、ひとつとして無駄のない作品です。

冒頭、晩ごはんに不平を言う子どもたちに、何を食べたいかと尋ね、
シリアルと砂糖をそれに見立ててふるまうウスバル。
生活のレベルがわざわざ語られることはありませんが、
こんなシーンから彼らの貧困の様子が伝わってきます。

まだ幼い息子のマテオは、無垢ゆえに思ったことをそのまま口に出してしまい、
母親からは「この子は40歳の男のように女を傷つける」と言われます。
子どもたちをこの母親に預けてはおけないと引き取ったものの、
落ち着きがなくおねしょを繰り返すマテオにウスバルはイライラを募らせ、
時に叱り飛ばさずにはいられません。
しかし、その後の父と子のやりとりには強い絆を感じます。

違法なことに手を染めていながら、悪人にはなりきれないウスバル。
仕事を斡旋したセネガル人や中国人の身の上を心配し、
彼らが飢えることのないよう、寒さをしのげるよう、
あれやこれやと手を尽くします。だけど、世の中は非情。

ダダーッと涙を誘うようなシーンはないのに、どれも胸を打ちます。
ウスバルが、写真でしか顔を知らなかった父親と火葬場で対面するシーンは、
防腐処理を施された遺体が映るのでグロテスクなはずなのに、
ウスバルの表情と併せて、美しいとすら思いました。

もう一度、観たい作品です。

それにしても、ハビエル・バルデムは相変わらず凄い。
『ノーカントリー』(2007)では殺人鬼。
『コレラの時代の愛』(2007)では偏執狂。
『食べて、祈って、恋をして』(2010)ではあの色男。
本作では父性を知らない、父性に溢れた男です。

ついでながら、中国人の不法滞在者が穿いていたのはブリーフでした。
ブリーフについては、カテゴリーの「番外編:映画と下着」をどうぞ。

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