夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『真木栗ノ穴』

2009年03月22日 | 映画(ま行)
『真木栗ノ穴』
監督:深川栄洋
出演:西島秀俊,粟田麗,木下あゆ美,キムラ緑子,北村有起哉他

怖さを我慢してでも観たいと思える何かがないと
わざわざホラーを観るには至りません。
しかし、これはホラーだと知らずに借りてしまった1本。
観ずに返そうかと思いましたが、意を決して観ました。
結果、こんなホラーなら大歓迎。
原作は角川ホラー文庫から発刊されている山本亜紀子の『穴』です。

鎌倉の古びたアパートに暮らす作家の真木栗(まきぐり)。
執筆中の連載が最終回を迎え、次の依頼は来そうにもない。
懐具合を気にしつつ、行きつけの食堂で晩飯。
銭湯に行くつもりで店を出ると、
中年の店員シズエが後を追いかけてくる。
すぐ近くに住んでいるのだというシズエは、
うちのお風呂に入って行けばいいと真木栗を誘う。

シズエと数時間を過ごして帰宅すると、
真木栗の部屋は泥棒に荒らされた様子。
盗られるものなど何もないが、
めちゃくちゃになった部屋で呆然とする真木栗。

後日、食堂を訪れると、シズエの姿が見えず、
女将から意外な事実を聞かされる。
付近で起きていた空き巣はシズエとその夫の犯行で、
シズエが独身男性に色仕掛けしている間に、
夫が相手の男性宅を物色していたというのだ。

「あんな年増に引っかかる男がいるなんて」と笑う女将に、
真木栗は自分も被害者だと言えずにいると、
出版社の編集長が来店する。
シズエは逮捕時に真木栗の名前を挙げたらしく、
すぐに真木栗に気づいた編集長は取材させてくれと言う。
その見返りとして、官能連載小説を書かないかと。

引き受けたものの、官能小説など書いた経験がない。
悩む真木栗は、左右の部屋から光が漏れていることに気づく。
片方には若い男。片方は空き部屋だったが、
ある日、女性が引っ越してきたことをきっかけに、
隣部屋を覗く主人公という設定で官能小説を書き始める。

幽霊話ではありますが、
『リング』の貞子のような幽霊が出てくるわけではなく、幻想的。
ただ、徐々に狂って行く真木栗の顔には凄みがあり、
判読できない文字を書くシーンは
『シャイニング』(1980)ばりの恐ろしさ。
皮肉なオチは『絶対の愛』(2006)と同じく、
「そして振り出しに戻る」。

めぐり逢えたのは夢じゃない。
切なさが混じったエンディング曲を聴いていると、
狂っていたとしても、こんな夢の中にいられるならいい。
そう思えました。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『いぬのえいが』 | トップ | 『イントゥ・ザ・ワイルド』 »

映画(ま行)」カテゴリの最新記事