夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『八月のクリスマス』

2003年08月02日 | 映画(は行)
『八月のクリスマス』(英題:Christmas in August)
監督:ホ・ジノ
出演:ハン・ソッキュ,シム・ウナ,シン・グ,イ・ハンウィ他

1998年の韓国の映画。
いちばん好きな映画は?と聞かれたら、私はこの作品を挙げます。
8月に入って、なんとなく見たくなり再見。

小さな写真屋を経営する男性ジョンウォン。
ある日、駐車取り締まり係の婦人警官タリムが
現像の依頼に店を訪れる。

いつも穏やかなジョンウォンに惹かれるタリム。
彼女は頻繁に店にあそびにくるようになる。
彼女の気持に応えたいジョンウォンだが、
彼は実は不治の病に冒されていた。

これといって物語にヤマがあるわけではなく、台詞も控えめ。
この映画を退屈だと思う人も多いでしょう。
だけど、派手さがなくても、「実話に基づく」などという触れ込みがなくても、
こんなに心に響く作品が作れるんだなと思います。

主人公に死期が迫っていることを、ここぞとばかりに描くことはまったくしません。
薬を飲むシーンと、病棟にいる彼がたまに出てくるだけ。
本人も、家族も、友だちも、彼の残された命が短いことを知っていますが、
普通の生活を送りつづける彼を、ただそっと支えつづけています。

じんわりと泣かされるシーンがいくつもあります。
ジョンウォンは父親とふたり暮らし。
父親はビデオの再生方法を知りません。
見たいビデオがあるたびにジョンウォンに操作を頼む父親。
ある日、ジョンウォンは父親にリモコンを手渡し、
自分で再生してみるように言います。
最初はやさしく教えるジョンウォン。
しかし、何度試してもダメな父親についにはキレます。
「もういい!」と部屋をあとにしますが、
自室に戻った彼は、やがてビデオの再生方法を紙に箇条書きにしはじめます。
自分の亡きあとも父親が困らないように。

写真屋にやってきたある3代の家族。
家族写真を撮ったあと、祖母にひとりで撮影してもらうよう勧めるその息子。
その夕方、その祖母はひとりで写真屋を再訪します。
「あれね、私の遺影なの。もう一度撮り直してくれる?綺麗に撮ってね」。
祖母はとびきりの笑顔でフレームにおさまります。

この作品には余分な説明はいっさいありません。
押しつけがましい涙はいっさいなく、観るたびに心洗われる映画です。

なぜこのタイトルになったのかわかりませんが、
決して踏みにじられることのない、
いつまで経っても美しい雪のような作品だと思います。

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