柘植久慶 『宴のあとの中国』 ( p.154 )
中国政府は遷都を考えている、と書かれています。
冒頭、「中国政府が北京からの遷都を考えているといった話は、たいていの人が俄に (にわかに) 信じないと思う」と書かれていますが、「ありうる」と考えるのが自然だと思います。
しかし、その根拠は、著者の掲げている「深刻な水不足と華北の砂漠化」ではありません。
私が遷都もありうる、と考えるのは、
「北朝鮮の核が、北京の方向を向いている」といった話がある
からです。本当に北京の方向を向いているのか、北朝鮮に、北京に向けて核を発射する意志があるのかはわかりませんが、北朝鮮の戦略としては、あり得る話だと思います。
中国が遷都を決断するとすれば、次の首都はどこか。
北朝鮮に近い中国東北部は、当然、あり得ません。わざわざ北朝鮮に近い場所に、首都を移す理由がありません。また、台湾に近い沿海部や長江の下流は、著者の指摘している理由によって、あり得ないと考えられます。
とすると、残る場所は、中国の内陸部しか考えられません。
著者は、遷都先として考えられるのは、「西安」であると述べています。もっといえば、「西安」以外には考えられない、と述べているとみてよいと思います。
私としては、西安以外には適地がないとは断言しかねるのですが、遷都がなされるとすれば、内陸部しかあり得ないと思います。また、位置的にみて、西安のあたりが最有力であると考えられます。
したがって、著者のいう西安は、「当たらずといえども遠からず」とみてよいと思います。
中国政府が北京からの遷都を考えているといった話は、たいていの人が俄に (にわかに) 信じないと思う。しかしながら深刻な水不足と華北の砂漠化という条件が加わると、逆に大半の人が耳を傾けるだろう。
それならいかなる条件を備えた土地が、次の中国の首都にふさわしいと、中国首脳たちは考えるであろうか?
まず東北部――旧満州は絶対にない。あまり中国大陸の端へ移ると、他方の幅が遠くなり過ぎてしまうからだ。その意味では現在の北京ですら北東に寄り過ぎている、という点が指摘される。
海岸線――とりわけ台湾から一〇〇〇キロメートル程度の地点は、台湾海峡で一朝事あったとき、地対地ミサイルの攻撃に晒される、といった問題が視野に入ってくる。現状では殆ど考えられないが、可能性がゼロとは決して言い切れない。
台湾の現政権は、共産党に何度欺かれても本質を理解しない、国民党という瘋癲 (ふうてん) 政権である。少しばかり美男で英語が喋れるのが唯一の取柄という、馬英九総統が政権を握ったものの、早くも良識ある国民から飽きられ始め、二期目の勝利などとても覚束ない。だからこそ猜疑心の強い北京の首脳たちは、海岸線やそれに近い内陸部に決して近づかないと確信される。
長江の流域――武漢三鎮なども、彼らは絶対に近づかない。これは最終章で詳しく述べるが、三峡ダムが安全だと決して思っていないからである。
(中略)
そうなってくるとある程度乾いた土地で内陸部、しかも五〇〇万人ぐらいの飲料水を供給できる水源を有する、というのが条件になる。それの一つに古都長安として知られる、現在の西安が有力候補に挙げられるのだ。
西安市は陝西省のほぼ中央部に位置しており、古くから渡ると先は「西域」だった渭水 (現在は渭河) が流れる。東へ一三〇キロメートルほどのあたりには黄河が流れ、その少し上流からも水資源を得られるのだ。
水の供給という一つをとっても、北京と較べて遥かに条件がよい。新しい首都を政治の中心地に限定、他の産業を一切誘致しないブラジリア・タイプとすれば、現在の西安より人口二〇〇万人増ぐらいで保てるだろう。
陝西省は中国共産党の歴史を語るに忘れられない延安が、西安の北方二五〇キロメートルほどにある。国民党軍との戦いに敗北した毛沢東の共産軍が、〈長征〉とは名ばかりの敗残の旅を続け、やっとのことでたどり着いた地だった。
そうした点からも西安が共産党の聖地に近いという、大きな意味を有しているのだ。もう一つの重要な歴史は、やはり張學良が蔣介石 (蒋介石) を幽閉した〈西安事件〉の舞台だった、というあたりだろう。
そして古くは董卓の遷都と楊貴妃縁 (ゆかり) の地ということが思い浮かぶ。唐の都の長安は、平城京や平安京のモデルとなった市街で知られ、西半分の西市は西域からの人間――胡人が多く見かけられたのである。
(中略)
ただしこの西安は狭く現在の首都に不適格となってくる。そこで東に新市街を建築する必要が生じるだろう。
ここなら黄河に近くなるし、より近くに滻水 (チャンスイ) と灞河 (バーホー) という二つの流れもある。つまり渭水の支流の二本の河川もまた、水源となるから条件は良好と言える。
中国政府が遷都に踏み切る場合、
第一に、外敵からの安全性が高く、
第二に、大地震が近くに発生せず、
第三に、水資源が比較的良質で水量に恵まれ、
第四に、歴史的背景を外国に誇れる、
といった条件を、はっきりとクリアできねばならない。
それらをすべてカヴァーできる著名な都市となると、「西安」を除いて皆無だと断言してよい。アメリカの中央情報局 (CIA) あたりは、既に中国の遷都先を西安に絞り込み、その場合の対応策の検討に入っている。
中国政府は遷都を考えている、と書かれています。
冒頭、「中国政府が北京からの遷都を考えているといった話は、たいていの人が俄に (にわかに) 信じないと思う」と書かれていますが、「ありうる」と考えるのが自然だと思います。
しかし、その根拠は、著者の掲げている「深刻な水不足と華北の砂漠化」ではありません。
私が遷都もありうる、と考えるのは、
「北朝鮮の核が、北京の方向を向いている」といった話がある
からです。本当に北京の方向を向いているのか、北朝鮮に、北京に向けて核を発射する意志があるのかはわかりませんが、北朝鮮の戦略としては、あり得る話だと思います。
中国が遷都を決断するとすれば、次の首都はどこか。
北朝鮮に近い中国東北部は、当然、あり得ません。わざわざ北朝鮮に近い場所に、首都を移す理由がありません。また、台湾に近い沿海部や長江の下流は、著者の指摘している理由によって、あり得ないと考えられます。
とすると、残る場所は、中国の内陸部しか考えられません。
著者は、遷都先として考えられるのは、「西安」であると述べています。もっといえば、「西安」以外には考えられない、と述べているとみてよいと思います。
私としては、西安以外には適地がないとは断言しかねるのですが、遷都がなされるとすれば、内陸部しかあり得ないと思います。また、位置的にみて、西安のあたりが最有力であると考えられます。
したがって、著者のいう西安は、「当たらずといえども遠からず」とみてよいと思います。