(注)HP「中東と石油」で「BP統計レポート:石油篇(2008年版)」の全文を一括してご覧いただけます。
BPが毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2008」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
石油篇(4):世界の石油精製能力
(1)2007年の地域別精製能力
2007年の世界の石油精製能力は8,791万バレル(以下B/D)であった。これを地域別でみると最も大きいのは欧州・ユーラシアの2,502万B/Dで全世界に占める割合は28%である。アジア・大洋州もほぼ同規模の2,460万B/D(28%)であり、北米2,097万B/D(24%)がこれに続いている。一方、石油消費量では北米、アジア・大洋州、欧州・ユーラシアの順であり(前章「世界の石油消費量」参照)、北米と欧州・ユーラシアの順位が逆である。このことから欧州・ユーラシアは精製能力過剰の状態にあり、北米は反対に精製能力不足の状態にあることが推定される(グラフ「地域別石油精製能力(2007年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-4-91a-Refinery-cap-by-r.gif参照)。
国別では米国の精製能力は1,759万B/D、世界全体の20%を占め、2位の中国(751万B/D、8.5%)以下を大きく引き離している。以下は3位ロシア(558万B/D)、4位日本(460万B/D)、5位インド(298万B/D)、6位韓国(267万B/D)と続き、世界上位10カ国にはこのほかドイツ、イタリア、サウジアラビア及びフランスが入っている(表「国別石油精製能力上位10カ国」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-4-91-Refinery-cap-by-co.gif参照)。
(2)1965~2007年の地域別精製能力の推移
上図は1965年から2007年までの地域別の精製能力の推移である(拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-4-91b-Refinery-cap(1965.gif参照)。欧州・ヨーロッパ及び北米の先進工業地域は1965年以降第二次オイルショック(1979年)前後までは精製能力が大幅に増大している。石油価格が低く抑えられていた時代に石油需要が急伸したため、各国は将来を見越して製油所の新増設を盛んに行った。しかしオイルショックを経て1980年代に入ると石油の需要が急減したため、先進地域は過剰な精製能力を削減せざるを得なかった。特に欧州・ヨーロッパでは1979年に33百万B/Dあった精製能力が1990年代後半には25百万B/Dにまで削減されその後現在まで横這い状態を続けている。
これに対してアジア・大洋州では日本で欧米同様の精製能力の削減が行われたものの、地域全体としては中国、インド、東南アジアなどの需要が拡大し、石油精製設備の新増設が活発に行われた。この結果オイルショックの前後を通じてアジア・大洋州の精製能力は一貫して拡大しており、1965年にわずか360万B/Dであった精製能力は2007年には7倍弱の2,460万B/Dに達しているのである。
これを米国、日本、中国及びインド4カ国で見ると、1965年の米国の精製能力は1,040万B/Dで、日本は約5分の1の192万B/Dであった。これに対し中国及びインドの精製能力はともにわずか20万B/D強に過ぎなかった。米国はその後急速に精製能力を増強し1980年には1,862万B/Dに達した。これに対し中国、インドも設備増強を図ったがその足取りは鈍かった。
オイルショック後の1980年代に入ると米国は余剰設備を次々と廃棄して15百万B/D台にまで精製能力を落とし、日本も4百万B/D台に減らしている。これに対し中国とインドは1990年代後半から急速に設備の新増設を行い、特に中国の伸びは目覚しく1999年には遂に設備能力で日本を追い抜いた。
1990年代後半から2007年までのこれら4カ国の設備能力は、日本一国のみが1995年の501万B/Dから2007年には460万B/Dへと削減しているのに対し、米国は1,533万B/Dから1,759万B/Dへと約15%増強、中国は401万B/D→751万B/D(+87%)、インドも113万B/D→298万B/D(2.6倍)とそれぞれ大幅な設備増強を行っている(グラフ「米・日・中・印の精製能力の推移(1965-2007年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-4-91c-Refinery-cap-by-c.gif参照)。
(3)米国、日本及び中国の精製設備稼働率(1982~2007年)
精製能力に対して実際に処理された原油の量(通油量:Refinery throughputs)で割ったものが設備の稼働率である。BP資料をもとに全世界平均及び米国、日本、中国の3カ国の1982年以降2007年までの5年ごとの精製設備稼働率をまとめたものが下表である。
1982 1987 1992 1997 2002 2007
全世界 72% 79% 83% 84% 82% 86%
米国 70% 81% 89% 93% 89% 86%
日本 60% 65% 84% 85% 84% 87%
中国 72% 88% 80% 68% 80% 87%
1982年の全世界の平均稼働率は72%であり、米国は世界平均を少し下回る稼働率(70%)であったが、これはオイルショック前に将来の石油需要の増加を見越して製油所を新増設したものの需要が急減したためである。その後80年代後半以降石油需要が回復したため世界の平均稼働率は80%台に上昇、特に昨年(2007年)は86%の高水準となった。米国の場合は常に世界平均を上回る高い稼働率を示しており、2000年前後には90%に達している。2007年は米国、日本、中国のいずれもが86-87%の高い稼働率を示している。このように3カ国の稼働率が同じ水準にあることは過去25年間では見られない現象である。最近の石油価格上昇の一因として精製設備(特に米国の)の不足が指摘されている。世界的規模で精製設備の新増設が必要な状況にあると言えよう(グラフ「精製設備稼働率(1980-2007年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-4-92-Refinery-ope-in-U,.gif参照)。
(石油篇第4回完)
(これまでの内容)
以上
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前田 高行
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