石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

「OPECの暗雲:減産に同調しないロシア」(下)

2009-09-24 | OPECの動向

()本稿はHP石油と中東」に上下一括掲載されています。

2.タナボタのロシア

 OPEC総会の二日後、ロイター通信モスクワ支局から一つのニュースが流れた。ニュースのタイトルは「増産についてロシアはOPECに謝罪(apologies)の必要は無い」と言う刺激的なものであり、OPECが生産制限を続ける中で、同国の8月の月間平均生産量は史上最高の997万B/Dに達したことを伝えた。そこにはセルゲイ・シュマトコ石油相の「わが国はOPECに何ら義務は負っていないし、何の約束をしたこともない」と言う談話が添えられていた。

  確かにOPECメンバーではないロシアは生産削減に同調する必要は無い。しかしロシアは昨年12月及び今年3月のOPEC総会にオブザーバーとして参加しており、原油価格引き上げのために同じ生産者としてOPECが苦闘している様子を見ている。と同時にこれまでのロシアの言動を振り返ると、減産に対する確約はしないまでも、リップサービスの「口約束」をしていることは紛れも無い事実である。昨年12月のOPEC総会にはロシアの石油相がオブザーバーとしてアゼルバイジャン、オマーン、シリアと共に出席している 。

  ロシアはこの総会にプーチン首相の腹心でエネルギーの最高責任者イゴール・セイチン副首相を始め、同国二大石油企業Rosneft及びLukoilのトップという超重量級のミッションを派遣すると言明(実際の出席者は不明)、しかもLukoilのCEOはOPEC総会で自国が20-30万B/Dの生産削減を提案する可能性すら示唆したのである。この時点でのロシアの生産量はすでに1千万B/Dに達していたと見られる(但し輸出量は4百万B/D以下だった模様) 。

  12月総会では同年9月のOPEC各国の実生産量合計2,905万B/Dを420万B/D減産して2,485B/Dとする決定を行なった。このときロシアと共にオブザーバーとして参加していたアゼルバイジャンは、同国が生産能力100万B/Dに対し既に84万B/Dに落ちている生産量をさらに54万B/Dまで下げると言明した。これに対して会議に同席したロシアは自国の態度を明らかにしなかった 。

  ロシアは続く3月のOPEC総会にもオブザーバー参加している。出席したイゴール・セイチン副首相は、1-2月のロシアの石油生産は1.9%下落しており、輸出を削減することになろう、と説明したが、具体的なコミットは避けている 。そしてロシア石油相は9月総会を控えた8月末、OPECメンバーをモスクワに招き会議を開きたいと6月にOPEC側に提案したことを明らかにしている 。このモスクワ会議が9月に予定されていたOPEC総会を意味するものか、或いはそれとは異なる生産国同士の対話であるかは明らかでない。これら一連のロシアの言動によりOPECはロシアが共同歩調を取るというシグナルを送っているとの印象を受けたに違いない。

  しかしロシアは昨年12月以降OPECの期待をことごとく裏切り、それどころかサウジアラビアを上回る1千万B/D近くの世界最高の生産水準を続けている。原油価格はこの間、OPECの減産が奏功し、年初の30ドル台から70ドル前後にまで回復した。これによってタナボタの利益を得たのが誰であり、割を食ったのが誰であるかは明らかであろう。特にOPEC最大の生産国であるサウジアラビアの逸失利益は莫大である。ロシア石油相は今年第二四半期の生産量は740万B/D、8月は997万B/Dで前年同月比1.3%増であり、輸出もこの間に5.9%伸びたと述べている。3月のOPEC総会での説明とは全く逆の結果を示している。これに対して減産協定を忠実に守ったサウジアラビアの輸出量は739万B/Dから700万B/D程度まで落ちているのである。

  専門家はロシアが得たタナボタ利益は200億ドルに達し、一方サウジアラビアの年間逸失利益は1千億ドル、GDPのほぼ25%に達すると推算している 。OPECとしてはロシアの身勝手さに憤懣やるかたない思いであろう。9月総会後の記者会見でバドリ事務総長は、生産削減に対してロシアから目に見える形の協力が得られなかったからと言って落胆しているわけではない、と述べた 。しかしそのとき記者団はバドリ事務総長がフラストレーション一杯の表情であったことを見逃さなかった。「落胆していない」という彼の発言は、名指しで相手国を非難すること避け、精一杯の強がりを見せる外交官特有の態度だと評している 。

  蛇足ではあるが9月総会に出席したのはOPECメンバーだけであり、ロシアはオブザーバー参加していない。オブザーバー参加を招請するのは会議主催者のOPECであり、ロシア側から押しかけることはありえない。したがってロシアが参加しなったのは、OPECが当初からロシアの非協力的態度に嫌気をさしてロシアに声をかけなかったのであろうか。それともOPECから誘いはあったものの、ロシア自身が6月に今秋のモスクワ会議開催をOPECに提案していることから、間の悪くなったロシアが逃げたのかもしれない。冒頭に述べたようにロシアが「OPECに誤る必要はない」と述べた趣旨は案外ロシアの開き直りなのかもしれないが、真相は闇の中である。

  もう一つ蛇足を加えるとすればベネズエラの動向である。今回の総会でベネズエラは石油相が欠席し代理を送り込んだ。同じ時期にチャベス大統領がロシアを訪問し、石油相は随行を命じられたから、と言うのがその理由である。しかし石油相がOPEC総会よりも大統領随行を優先したことは本末転倒とも言え、そもそもこの時期にチャベス大統領がロシアを訪問すること自体がサウジアラビアなどOPEC穏健派に対するあてつけとすら考えられるのである。12月総会の減産決定後、OPEC加盟国はほぼ減産幅を遵守し、その結果価格は70ドル前後まで回復した。しかし最近では加盟国に抜け駆けの増産をする国が絶えないようであり、Bloombergによれば3-4月に80%であった遵守率は最近では71%に落ちており抜け駆けの増産に走る国が少なくないようである。その筆頭格がベネズエラと言われる。OPECの中でベネズエラは常に高価格を求める強硬派であるが、価格が高くなると一方的に自国の割り当て量を破る常習犯でもある。

(これまでの内容)

1. 第154回OPEC総会で生産枠維持を決定

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前田 高行

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