6月12日、BPは毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2007」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
石油篇(5):原油価格
(1)1970年以降の原油価格の推移
原油の価格水準は1970年代の2度のオイル・ショックで大きく変化した。まず1973年の第一次オイル・ショックではそれまでの2ドル前後(バレル当たり、以下同じ)から10ドル強と5倍以上値上がりし、さらに1979年の第二次オイル・ショックでは40ドル近くまで暴騰した(上図の青の実線、なお1970~83年はアラビアン・ライト、84年以降はブレント原油価格)。
第一次オイル・ショックは第4次中東戦争に際し、OAPEC(アラブ石油輸出国機構)が米国及びイスラエル支持国に対する石油供給削減を決定したことに端を発したものであり、これによって原油価格の決定権は欧米の国際石油会社(いわゆるメジャー)からOPEC(石油輸出国機構)の手に移った。
そして第二次オイル・ショックでは1979年のイラン革命及び翌年のイラン・イラク戦争勃発により石油の供給が大きく減少したため価格が急騰した。この時はOPEC最大の産油国であるサウジアラビアが率先して自国の代表油種アラビアン・ライト(A/L)の価格を矢継ぎ早やに引き上げ、他のOPEC加盟国がこれに追随した。こうして1980年末のOPEC総会では基準価格36ドル、上限価格41ドルにまで引き上げられる事態となった。この結果、1980年の年間平均価格はWTI(West Texas Intermediate, ニューヨーク市場)が37.96ドルに達し、Brent(ロンドン市場)36.83ドル、ドバイ原油35.69ドルになったのである。
しかし石油の消費量は1979年をピークとしてその後長期にわたり低迷し、価格も1980年代後半には20ドルを切る水準に下落した。そして1998年には10ドル台前半まで暴落したためOPECは大幅な減産を強いられた。原油価格が20ドル台を回復するのは2000年に入ってからである。
ところが2003年以降、価格は急騰し、翌年には第二次オイル・ショック時の価格を突破、その後も毎年大幅に上昇して、2006年の年間平均価格(ブレント原油)は65.14ドルに達した。過去4年間で原油価格は2倍以上に上昇している。
(2)現在価格との比較
上記(1)で原油価格は2004年に第二次オイル・ショック時の水準を超え、2006年7月には史上最高を記録した、と述べたが、1970年代と現在のインフレ係数を考慮して過去の価格を現在価格に換算すると上図の赤の破線になる。
この場合、1980年の原油価格36.83ドルは2006年価格では90.46ドルと換算され、同年7月に記録した78ドルも史上最高とは言えないのである。そして値上がりの倍率も第一次オイル・ショック前(1970年で現在換算約10ドル)とオイル・ショック時(1980年で同90ドル)との約10年間に9倍も高騰しているのに比べ、今回の2003年以降4年間の価格上昇は2倍強にとどまっている(上図参照)。
これらの事実を取り上げ、一部の石油関係者の中には今後さらに原油価格が上昇しても不思議ではない、と予測する向きもある。但し、オイル・ショックの後、原油価格が崩壊し、20年以上にわたってOPECを初めとする産油国が石油収入の減少に苦しむ悪夢の時代が続いた事実を忘れてはならない。
現在の産油国は歳入の殆どを石油収入に依存する一方、歳出面では公務員給与、教育・医療・福祉費用など経常支出が年々増加する傾向にある。従って産油国は一定以上の石油収入を確保することが不可欠である。このため産油国は世界経済を混乱させずに必要な歳入を確保できる程度の適正水準に原油価格を維持することが政策課題となる。価格の崩壊を引き起こしてはならないのである。
但し適正な原油価格水準については関係者の間で議論が分かれるところである。その中でサウジアラビアのナイミ石油相は、50ドル台半ばが適性水準だと述べており、消費国サイドのIEAも彼の意見に同調しているようである。原油価格は現在(2007年7月)70ドルを超えており、適正と言われる水準を大きく上回っている。今後原油価格がどのように推移するか注目されるところである。
(石油篇第5回完)
(これまでの内容)
(前田 高行)
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