セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「昼下がりの情事」と「おしゃれ泥棒」についての一考察、ベーカー街221Bに於いて

2012-05-07 22:45:21 | 外国映画
 「昼下がりの情事」(「Love in the Afternoon」1957年・米)
   監督 ビリー・ワイルダー
   脚本 ビリー・ワイルダー
       I.A.L.ダイアモンド
   出演 ゲーリー・クーパー
       オードリー・ヘプバーン
       モーリス・シュヴァリエ

 「おしゃれ泥棒」(「How to Steal a Million」1966年・米)
   監督 ウィリアム・ワイラー
   音楽 ジョン・ウィリアムス
   出演 オードリー・ヘプバーン
       ピーター・オトゥール
       ヒュー・グリフィス

「ワトソン君、偶には映画の話なんてどうかな?例えば「昼下がりの情事」と
「おしゃれ泥棒」の比較なんか面白いと思うけどね」
「ホームズ、珍しいこともあるもんだな、君が映画の話かい?」
「君の記録じゃ、僕は文学も映画も知らない事になってるが、実はそうでもな
いんだよ」
「僕は構わないけど、でも、ワイラーだったら「ローマの休日」じゃないと不公
平じゃないかね」
「そうかも知れないが、「ローマの休日」では、今度はワイルダーに気の毒だ
と思うんだ」
「まあ、確かに。でも「おしゃれ泥棒」じゃ、結果は目に見えてるよ、ワイルダ
ーの圧勝だね」
「そうかな?僕はそこまで差はないと思うんだけど」
「どうして?ストーリーは面白いし小粋で、何より終わり方がいいじゃないか」
「他には?」
「モーリス・シュバリエの父親がいい味だしてるよ、特にクーパーのフラナガ
ンに最後の台詞をいう時の表情、僕には子供は居ないけど、娘が居たら、
あんな表情になるんじゃないかな、それに、楽団の使い方も面白いよ、特に
あのラストのね」
「うん、君の言う事に僕も異存は無いな、ねえ、ワトソン、君は僕が「シャレー
ド」の時書いたヘプバーンについての小さな考察を読んだかね」
「ああ、読んだよ、君が映画について書くなんて意外だった、僕としては少し
異論もあるんだけどね」
「あの時、僕はヘプバーンの相手役は歳が離れていないとダメだって書いた
んだけど、クーパーは幾ら何でも離れすぎじゃないかと思うんだな」
「「麗しのサブリナ」のボガートだって相当だよ」
「あそこがギリギリ許容範囲かな、クーパーは悪くないんだけど、いかんせん
年齢が顔に出すぎてるよ、下手をしたらシュバリエより年上に見える時がある」
「まあ、最初はケーリー・グラントの予定だったからね」
「そう、グラントならねぇ、でも、ここでグラントを使ったら「シャレード」が無くなる
し、難しいところだね。誰か他に居なかったんだろうか」
「う~ん、J・スチュアートは?」
「プレイボーイというタイプじゃない」
「H・フォンダはどうだい?」
「前の年、「戦争と平和」で共演済み」
「J・ウェイン」
「列車の上から「逮捕する!」って言いそうだ、並んだ姿を考えてみろよ」
「C・ゲーブル」
「ヘプバーンにキスをさせるのが可哀そうだ」
「殆んど君の好みだね、D・ニーブンなら色男が出来るんじゃないか」
「当時はまだ格違い。ワトソン、ヘプバーンって人はね、「ローマの休日」の時
から若いクセにオーラが途轍もないんだよ、大物で年上で包容力がないと彼
女のオーラに負けてしまうんだ、そこが難しい所なのさ」
「居ないもんだねぇ、天下のハリウッドも彼女の前では形無しか、でも、それを
言ったら「おしゃれ泥棒」は問題だらけじゃないか、幾ら「ロレンス」をこなした
とは言え、若すぎてヘプバーンを包み込む包容力なんか無いし、完全にオー
ラ負けしてるよ」
「うん、二人で居ると、まるで「姉さん女房」って感じがしたね」
「そうだろ」
「でもあれは、そういう役だったからね、捉えどころのない、頼りになるんだか
ならないんだかって、でも、飄々とした表情といい雰囲気といい、中々、好演し
てたと思うよ、あの素ットボケた感じがヘプバーンのオーラを上手くかわしてて
ベスト・マッチになってる」
「負けてたけどね」
「君らしくない、彼は我が大英帝国の役者だよ、愛国心はどうしたんだい」
「この件に関しては、例え負けても女王陛下に傷は付かないと思うよ」
「ふふふ、確かにね。では、話を戻すとして、ストーリーも「昼下がりの情事」、
う~ん、この日本語のタイトル、どうにかならないかねえ、付けた日本人をトポ
ルみたいに背負い投げしたいくらいだよ、「おしゃれ泥棒」なんて素晴らしいセ
ンスがあるのに、どうも、解らんね日本人は」
「僕もさ」
「で、そのストーリーなんだがね、同類の「トプカピ」なんて比較にならないし、
「昼下がり」に較べても、酷い差はないと思うよ」
「まあ、ワイラーだからね。それはそれとして、ホームズ、君の意見を拝聴した
いね」
「僕の意見はこうだね。小物使いの名人ワイルダーと比較したって、「カルティ
エの指輪」や「ワインボトル」の使い方は上手いと思うよ」
「まあね」
「でね、僕が思ったのは、ヘプバーンのコメディエンヌとしての才能なんだ、そ
りゃ「ローマの休日」以来、ロマンティック・コメディは彼女の十八番なんだけど、
初期の頃って相対的な可笑しさっていうか、ほら、「王様と乞食」みたいな身分
違いからくる可笑しさとか、ピュアと渋さとか、そこに居るだけで生じる不釣合
いな可笑しさみたいなのが主だったと思うんだ、勿論、当時からコメディ・セン
スは抜群だったがね」
「そう言えなくもない」
「でも、この頃になると、さすがに、ピュアだけじゃやっていけない、30代も後
半だからね。ヘプバーン自身は自分の演技力を信じてなかったようだけど、
「シャレード」や「おしゃれ泥棒」の一段と磨かれたコメディ・センスは特筆して
いいんじゃないかな、演技力だって各段に上達してるよ、翌年の「暗くなるまで
待って」のスージー役を見れば解る」
「うん、ただ彼女の場合、自分の型にハマればだけどね」
「まあ、そこは認める、でも、世間はキャサリンやバーグマンばかりを望んでは
いないさ。あの博物館でバケツに身を隠しながら床や柱を拭いてる所なんて一
級のコメディエンヌとしての証明になるんじゃないかな、ただ、僕の不満はオチ
だね、もう少しスパッと短く決めてもらいたかった」
「服装は良かったよ、「ジパンシーが休める」って言ってた、掃除のオバサンの
服だって彼女が着ると、何となくオシャレだっな」
「僕は、御婦人の服装に関しては材質と色以外、何も言えないな、僕の感想な
んて、まるでアテにはならないのだけど、濃いマリンブルーの服が彼女には似
合うんじゃないか、それだけだね、「シャレード」の時も似た色のナイトガウンが
素敵だった記憶がある」
「ふ~ん、君がそこまで言うんだから、僕も、今度、もう一度見直してみるよ」
「うん、是非、そうしてくれ、そして、感想を聞かせてくれたまえ」
「ああ、約束する」
「いやあ、今日は久々に気分転換になったよ、最近はつまらない事件ばっかり
でね、お陰で、パイプで煙草1オンス浪費せずに済んだ、少しワインでも飲むか
い」
「いいね」
「その後、少しバイオリンを弾いててもいいかな、ワトソン」
「リクエストに答えてくれるなら」
「珍しいね、ここ数年無かった事だよ、非常に興味深い、何の曲かな」
「ファシネーション」
「ファシネーション?通俗的だな、僕はまだハイドンの方が」
「ルームシェアの契約をした頃の事、憶えてるかね、ホームズ?」
「何だったかな、どうも事件関係以外は忘れるようにしてるんでね」
「君のバイオリンを何曲も聞かされるのなら、僕にもリクエストする権利がある
ってやつさ」
「そうだったかな・・・まあ、君がそう言うのなら」
「テーブルのワインが「暗くなるまで待て」ないって言ってるぞ、ホームズ」
「どうやら、そのようだね・・・では、我らがヘプバーンに乾杯!」
「of course」
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4 コメント

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クーパーは確かにおじいちゃんぽい(笑) (*jonathan*)
2012-05-08 23:22:12
ははぁ!面白い趣向ですねー
昼下がりの情事とおしゃれ泥棒を比較しようと思ったことはなかったです^^
そういえばいつのまにか同世代の俳優さんが相手役になって、妖精からの脱皮がはかられていたんですかねー。

同世代俳優では、ジョージ・ペパードはオードリーの相手としては全然だと思いましたが(彼はパトリシア・ニールに飼われてるくらいがちょうどいいかと。笑)、個人的にはピーター・オトゥールは年下ながら、いい具合の包容力を感じさせてくれててお似合いだなぁと思いながら観ています^^ ていうか、とにかくカッコいいですね♪
なんて言いつつ、これ↓
 >あの素ットボケた感じがヘプバーンのオーラを上手くかわしててベスト・マッチに・・・
には凄~く納得しちゃいました。そういうことか!と^^

鉦鼓亭さんは、ホントいつも鋭いですよね~。唸らされるばかりです。
楽しく読ませて頂きました^^
返信する
クーパー氏、一歩後退 (鉦鼓亭)
2012-05-09 17:13:45
*jonathan*さま

こんな書き方になったのは、2つ記事を書くのが面倒だったから。(笑)
もう1つ、「おしゃれ泥棒」が面白くて、個人的なA・ヘプバーン作品№3の座を争う作品だったからでもあるんです。
僕のベスト3は「ローマの休日」、「シャレード」、「昼下がりの情事」だったのですが、
今の気持ちでは「おしゃれ泥棒」が3番目になりました(まだ少し迷ってますけど)。

P・オトゥール>本当に澄んだブルー・アイで、アラビアの砂漠でも印象的でしたが物置の中でも魅力的でした。根性付きの優男。(笑)
僕は未見なのですが「何かいいことないか子猫ちゃん」も面白いコメディだと評判(のようです)。

お酒の件>注意力のない自分は最初気付きませんでした。(汗)
 観客に「あらら!?」と思わせたかったんでしょうね、ワイラーにしては、ちょっと品のないシチュエーションかも。
 ボネ氏がグラスに噴くシーンだけアップ気味に撮ってるから、多分、別撮りだと思いました。
 でも、これは今みたいにビデオ、DVDで何度も再生出来るから解るんで、普通は解らないと思います、すっごく自然な流れになってますもん。

ヘプバーンが床拭いてるシーン>普通ならドリフになっちゃうのを紙一重で上品なコミカルシーンにしてしまう、「上手いな」と思いました。

「おしゃれ泥棒」は長い間、観た積りでいたんです、で、最近、昔のノートを見たらリストにない。
多分、映画館で映画を見るようになる前、TVの洋画劇場で見ていたんだと思います。
(かすか~に、物置のシーン、磁石のシーン、ワインボトルの一件、辺りの記憶がありました、でも、それだけ)
余り評判作でもなかったし、弟の話もあったので中々DVDに手が伸びないでいました、
*jonathan*さまの記事のお陰で素敵な作品に、遅まきながらも出会う事が出来ました、感謝です。
ありがとうございました。
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ホームズとワトソンが (宵乃)
2012-05-24 13:52:27
映画について語りだすとは、面白い趣向ですね。でも、いろんな名前がでてきて、名前を覚えるのが苦手なわたしには、あまり理解できませんでした・・・スミマセン!

どちらの作品も観ていますが、わたしは断然「おしゃれ泥棒」が好きです。ヒロインとお父さんの組み合わせが大好きなんですよ。あのお父さんのとぼけた感じがホントいいですよね。オトゥールよりお父さんの方が印象に残ってるくらいで(笑)
「昼下がりの情事」はあまり印象に残ってなくて、不倫するような男に対して、お嬢さんが遊び慣れた振りをするというのが、どうも好きになれなかったようです。
こんなタイトルにされてしまったのは不憫ですが・・・。
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会話体にすると長くなる・・・ (鉦鼓亭)
2012-05-24 21:59:30
いらっしゃいませ!
スイマセン、こんな長いのを読んで頂いて。

僕も、今は「おしゃれ泥棒」の僅差勝ち。
あのお父さんのとぼけた感じが>「おしゃれ泥棒」のラストは、あの親父さんだからオチになるんですよね。
一目見たら忘れられない、素晴らしい造作の顔でした。(笑)

昼下がりの情事>も~~、タイトルが!!
原題、そのままで充分なのに。
中学の頃、20歳の頃、40代に1回、そして今年のGWと見てますが、
見る度にG・クーパーの年寄り度が上がっていき困ってます。
でも、ラストのヘップバーンの変わっていく表情は、切なくて素晴らしいと思います。
ただ、自分の娘だったら(リアルに20歳の娘がいます)後ろから羽交い絞めにしますね、絶対!(笑)

C・ブロンソンは「荒野の七人」が一番好きです。
大スターになってからより、スターになる前の登り坂の頃の方が印象的かも。
「バルジ大作戦」なんか、初めの方にチョコッと出てくるだけなのに、存在感がありました。

TB、ありがとうございます、こちらからも、させて頂きますので、宜しくです。
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