セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「必殺の一弾」

2023-06-26 21:18:33 | 映画感想
 「必殺の一弾」(「The Fastest Gun Alive」、1956年、米)
   監督 ラッセル・ラウス
   原作 フランク・D・ギルロイ 「最後の刻印」
   脚本 ラッセル・ラウス  フランク・D・ギルロイ
   撮影 ジョージ・J・フォルシー
   音楽 アンドレ・プレヴィン
   出演 グレン・フォード
      ジーン・クレイン
      ブローデリック・クロウフォード
      ラス・タンブリン

 中々に観る気を起こさせないタイトル、原題も「地上で一番の早撃ち」五十歩百歩であるが、知られざる西部劇の佳作でした。(原作名が一番意味が有って的を得てる)

 1889年、西部の町シルヴァー・ラピッドで早撃ちの名手ファロンがならず者ハロルドに決闘を申し込まれ撃ち殺される、ハロルドは西部一の早撃ちとして名を上げるのが目的だった、その頃、近くの町クロスクリークで一人の男ジョージが悶々とやるせない思いで生きていた・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=XZowj5-IYxI  
 
 「早撃ちを自慢に40まで生きた奴はいない。いつか自分よりも早い奴に殺される」何処かで何度も聞いた事のある台詞だが、この映画はそれでも名を馳せたい男と、そうなるのが嫌で名を捨てている男の物語。
 しかし、西部開拓時代に銃を持たず酒も飲まず小商いしてる男に町の人々は口には出さねど一段下の視線を向ける時がある、そして、そのような視線は感情は押し殺した心に過敏に響く、被害妄想としてもそう受け取ってしまう自分がいて、どうしようもない苛立ちを制御出来なくなる。
 開拓時代に「銃を持たない男」がどういう視線に晒されるか、ちょっと西部劇に対するアンチテーゼっぽい所が有って面白いけど、結局、解決は力でという西部劇に帰り着いてしまうのは、まぁ、仕方ないかな(ニューシネマ以降ならいざ知らず’50年代の西部劇ですから)、ジョージが銃を捨てきれないと悟った奥さんが愛しながらも離別を決意したり、住民の一部が掌を返す所は「真昼の決闘」(フレッド・ジンネマン監督、1952年)を彷彿とさせます。
 この悶々、苛々の部分は額に浮かぶ汗と相まって観ていてちょっと鬱陶しいのだけど、この鬱陶しさ有ってのラストだから文句は言えない、この心和む終わり方があるから酷いタイトルを跳ね返し西部劇の佳作に仕上がっているのでしよう、一見の価値ありと思います。

  名を埋めて 漸くに知る 平穏へ
    讃美歌の声 静かに響く

※早撃ちのハロルドがスッとした青年じゃなく、熊みたいでスマートとかけ離れたオッサンなのがリアリティあっていい。(笑)
※奥さん、妊娠してるのにコルセット締め付けたドレスはないだろう。(笑2)
※「ウエスト・サイド物語」のラス・タンブリン、何でこんなのに出てると思ったら、ここでもダンス、体操要員だった、結構、尺もらってたけどね。(笑3)
※ビールジョッキを撃ち抜く所、その瞬間、別撮りを差し込んでるのがモロ判り(抜く手もフライング)、黒澤監督「蜘蛛巣城」の首に矢のシーンは完璧だったし「そんな難しいコトじゃないよ」と言ってる、アメさんはいい加減だなぁ。(笑4)
※ハロルドは時々、石塚英彦に見えるしジョージは岡村隆史に見える。(笑5)

 R5.6.26
 DVD
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「映画大好きポンポさん」

2023-06-04 11:12:56 | 映画感想
 「映画大好きポンポさん」(2021年、日本)
   監督 平尾隆之
   脚本 平尾隆之
   原作 杉谷庄吾【人間プラモ】
   キャラクターデザイン 足立慎吾
   撮影 星名工  魚山真志
   音楽 松隈ケンタ
   声  清水尋也
      小原好美
      大谷凜香
      加隈亜衣  大塚明夫

 ニャリウッドで活躍するプロデューサー ポンポさん、新作の15秒CMを冴えないアシスタント ジーンに任せてみる、見込みどおりの
出来に満足した彼女は自分の大作の監督に彼を抜擢する・・・。
 
  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=nDpsTDHN_ac 

 この作品に登場する天才プロデューサー ポンポさんの言う「映画は90分以内に収めるのがお客へのサービスであり、2時間越えは観客をスクリーンに縛り付ける横暴、且つ時間泥棒だ」(意訳)に僕は真っ向反対する、名脚本家 橋本忍が90分前後のプログラムピクチャー全盛時に中身が伴うであれば「60分内の映画があっていいし3時間を超える作品も有っていい筈だ、90分ありきは映画の自由を縛る悪弊だ」と言っているが、僕は断然、橋本忍氏を支持する、ポンポさんの考えを突き詰めれば今、流行りの「タイパ」とやらに辿り着くが、それは既に映画でなく「あらすじ」だ。もう一つ言えばこの映画の終盤は編集作業に悪戦苦闘する監督に焦点を合わせているが、確かに作品に息を吹き込むのも、腐らせるのも、殺すのも全て編集次第、撮影はその材料集めであり、編集作業とはキャスト、スタッフ、苦労、費用に惑わされずに撮ったモノを「切る」事だと言うシーンは黒澤明本を読めば常に出てくるエピソードでそれ故に既視感だらけだった、そして悪人は一人も居なく何もかも都合良く進むので深みに欠けるし、あんなにオドオドしてる人間に付いていこうと思うスタッフ、自意識の塊である俳優が居るのだろうか、コミュ障の見る「夢想」のような作品でした。

 悪口はここまで(笑)、それ以外は中々良い作品、テンポもいいし映画作り楽しさが伝わってくるのはトリュフオーの「映画に愛をこめて アメリカの夜」を感じさせる、何よりも軽く見られて楽しい。
 悪口4:1褒め口の感想になったけど、そこまで悪くはない作品で面白くは有る、只、何故か悪口がスラスラ出て来てしまうのです(汗)、絵が好きじゃないタイプというのもあるのかな。

  朝霧の 朦朧のなか 歩はすすむ
   ひと風吹いて 新緑あらわる

 R5.6.2
 DVD
コメント (2)
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