クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

“詩人のゼミ”で飲む酒はどんな味?

2007年12月24日 | ブンガク部屋
――雑司ヶ谷の止まり木。
詩人の正津勉先生が主催する文学ゼミは、
雑司ヶ谷で飲むことが多い。
ゼミ生のDさんが提供して下さる会場は「笑山荘」と呼ばれている。
以前はゼミが終わるたびにそこに集まっていた。

2007年の忘年会も「笑山荘」で開催となる。
昨年は昼の3時集合だったが、
今年は2時からのスタート。
酒豪が揃えば昼だろうと何だろうと関係ない。
それぞれが酒と食べ物を持参。
ぼくは羽生産の「花袋せんべい」を持っていく。

酒好きの多い集まりだが、得てしてその飲み方はスマートである。
決して乱れない。
ぼくはかれこれこのゼミに5年以上参加しているが、
彼らと飲む酒を不味いと思ったことは1度もない。
酒のつまみは文学や哲学・思想の話……と言えばかっこいい。
しかし、失恋話や過去の暴露に近い異性関係の話など、
そちらで盛り上がったのは言うまでもない。

この詩人のゼミに参加する人たちは個性派だと思う。
アナーキストからフォルマリスト、
白髪でダンディな編集者や
英米文学を専攻しているいつも素敵なピアノの先生。
饒舌でおもしろいダジャレを言う新聞記者もいれば、
羽生では見たことのない(?)パスタを作ってくれるクリスチャンもいる。

先生と呼びたいほど確固とした恋愛観(?)を持つ女性や、
居酒屋で靴を間違えられてしまう大学教授。
文学テキストをいつも10回以上読み込む達人に、
独特な詩を書く同年代の詩人、
年を追う事に純粋になっていく2つ年上の女性……。
20キロ近くダイエットに成功した教師や、
鋭い批評をするものの普段は優しい主婦など、
挙げればきりがない。
彼らを題材に小説を書けばさぞや面白いものができるに違いないが、
その個性の強さゆえか破綻してしまう。

――午後2時スタートの忘年会。
すでに赤い顔をしているのに、「まだ夕方だよ」という声もあがる。
しかし、始まってしまえばあっと言う間である。
窓の外はいつの間にかまっ暗。
この会の時間がいつまでも続けばいいのにと思っても、
時計の針はどんどん進んでしまう。

ただ、酒はいくら飲んでも減らない。
父親が著名だという方が持参した金木犀の香りのするワインがすすんだ。
ぼくが持ってきた「花袋せんべい」は思いのほか好評だった。
花袋(かたい)とは明治期の作家田山花袋である。
小説『田舎教師』(明治42年)の舞台が羽生なので、
そういうせんべいが売られている。

ちなみに、会場の近くに所在するのは雑司ヶ谷霊園。
周知のように、この霊園には名だたる偉人たちが眠っている。
かの夏目漱石の墓地もこの雑司ヶ谷霊園だ。
最終電車をなくしたとき、
笑山荘の主が漱石の墓碑を教えてくれたのを覚えている。
深夜12時近く、
かつて千円札の顔だった漱石の墓碑の前で、
手を合わせたことは生涯忘れない。

雑司ヶ谷から羽生まで約1時間半かかる。
そう長くのんびりしていられない。
外はいつの間にか雨が降っていた。
少し早めに会場を出ることにする。

最後に、笑山荘に残っていた人たちと記念撮影。
ぼくがカメラを構える。
皆さん笑顔でこちらを向く。
赤ら顔とはいえ、いい笑顔である。
その笑みにつられてぼくはシャッターを切った。
この止まり木がいつまでも続くことを願いながら……。


雑司ヶ谷霊園


正津先生(中央)とその仲間たち

※最初の画像は、正津勉先生の最新刊の表紙です。
『小説 尾形亀之助 窮死詩人伝』
著者:正津勉(しょうづべん)
出版社:河出書房新社

(参照HP)
B-semi(正津ゼミのサイト)
http://homepage1.nifty.com/B-semi/index.htm

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