恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

『じーじ』

2014-08-26 09:15:53 | ハル君ルートで茶倉譲二

譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。


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 好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
 ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。


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茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg

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『さよなら』の続き

『じーじ』その1



〈美緒〉
  今日はちょっとしたデート。

 譲二さんがクロフネで使う小さな花瓶を買いたいからと誘ってくれたのだ。たとえお店のものを選ぶ買い物でも、2人で出かけられるのは嬉しい。

 付き合っているとみんなに公表してよかった。こそこそする必要はもうないんだもん。

 雑貨屋さんを2件ハシゴする。
 2件目にいく前に迷子を保護した。

 譲二さんは男の子を軽々と肩に乗せ、「ママが見えるかい」という。

美緒「譲二さんて、いいパパになれそう。」

譲二「しっかりものの美緒がママになってくれたら、いいパパになれるかもね。」

 私は照れて赤くなってしまった。
 譲二さんと私がパパとママ。まだまだ先のことだろうけど、そうなれたらいいなと自然に思える。

 男の子のママが見つかった後、譲二さんの髪は男の子に触られて乱れていた。

美緒「髪がぐちゃぐちゃになっちゃいましたね。譲二さん、ちょっとかがんで。」

 私は背伸びして譲二さんの髪を手ぐしでとかした。
 男の人にしては少し細くて柔らかい毛。癖っ毛なのか毛先はあちこちに向いている。

譲二「こんなことされると、美緒がまるで嫁さんみたいだね」

 私はまた真っ赤になってしまった。

譲二「美緒は可愛いなぁ」
と言いながら、譲二さんはぽんぽんと私の頭を軽く叩く。
 これって、なんだか懐かしいかも。

 花瓶もその下にしくコースターも私の選んだものを譲二さんは採用してくれる。
 色々と意見を聞かれるのは頼りにされているようでなんだか嬉しい。

譲二「今日はありがとう。お礼に美緒の欲しいものを買ってあげるよ」

美緒「それじゃあ…。あのね。譲二さんとペアのマグカップが欲しい」

譲二「え? そんなのでいいの?」

美緒「うん。それだと毎日使えるし…。譲二さんとペアだととても嬉しいから…」

譲二「じゃあ、最初に行ったお店に戻ろう。あそこにはマグカップもたくさん置いてあったから」

 私が気に入ったのは、ショーケースに入っていて、結構いい値がした。

美緒「返って高くついたよね。ごめんなさい。」

譲二「これぐらいいいよ。俺も使うんだし」

 自然と譲二さんと手をつないで歩く。
 なんだか本当の恋人みたい…って、恋人なんだけど。

 こんなふうに恋人らしいことを積み重ねていったら…。

 いつか譲二さんのことだけを好きになれるだろうか?



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『じーじ』その2



〈美緒〉
  譲二さんと買い物デートに出かけた帰り。自然と手をつないで歩いている。

譲二「帰ったら早速、これで何か飲もう。何が飲みたい?」

美緒「ラム酒入りのココア」

譲二「美緒はラム酒ちょっぴりで、俺は」

美緒「ラム酒がたっぷり」

2人で顔を見合わせて笑った。

美緒「それと…少しお腹が空いたから、譲二さんのサンドイッチも食べたい」

譲二「ハイハイ。お姫さまの仰せのままに」

 その言葉を聞いて、昔誰かに同じように言われたことを思い出した。

 …誰だったろう? あの頭ぽんぽんと同じ人?



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 クロフネに帰りながら、必死で昔の記憶をたぐり寄せる。

 「お姫さまの仰せのままに」。

 とても大きくて優しい人。

 美味しいサンドイッチ。

 公園。



……じーじ?


 そうだ、じーじ。

 あれは、私が幼稚園くらいの時だった。

 じーじは大きなお兄さんだったけど、何歳位の人だったろう。

 いつも制服を来ていて。あの制服は私の高校のとは違う。

 りっちゃんの学校のとも違って、少し変わってた。

 高校生というよりはもう少し幼くて…中学生くらい?

 そうすると私は4つくらいとして、中学生なら13、4歳くらい?

 だいたい10歳位上の人だよね。

 譲二さんも私より10歳年上だから…。

譲二「美緒…さっきから、ずっと黙って何考えてるの?」

美緒「ううん。何でもない」

 私は譲二さんの顔を見上げた。

 じーじは中学生だったからヒゲもなかったし、髪ももっと短かったと思うけど…。

 目の辺りがじーじに似ている気がする。

譲二「…そんなに見つめられると照れるんだけど…」

美緒「ごめんなさい」

 (思い切って呼びかけてみようか?)

美緒「じーじ?」

譲二「!」

 やっぱり!! 譲二さんが動揺してる。

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『じーじ』その3



〈譲二〉


美緒「譲二さんはじーじだよね?」

譲二「ばれちゃった…?」

 じーじというのは、その昔、俺が中学生の頃、幼稚園児の美緒ちゃんに呼ばれていた呼び名だ。

 タコ公園で偶然出会った俺に、美緒ちゃんは懐いて色々話しかけてくれた。

 お腹が空けば、俺が持っていたサンドイッチを食べさせたり、雷を怖がれば抱きしめてやり…。

美緒「譲二さんは…最初から私だって気付いていたの?」

譲二「うん…。

ていうより、美緒のお母さんの良子さんは昔から俺のメル友で…。

あの頃からずっとやり取りしてたから…。

ずっと美緒のことは知っていたよ。」

美緒「! なぜ? 最初からそう言ってくれなかったの?」


譲二「美緒は俺のことを全く忘れているみたいだったから…。


あの頃の俺って、今のキャラとはちがうでしょ?


もっと尖ってて、美緒にもひどいことをいっぱい言ってたし…。


バレるとかえって嫌われるかもって思ったり…。」



美緒「じーじは優しかったよ。それに大きくて、温かくて。私はじーじが大好きだった。」

 俺は照れくさくなって、ちょっとからかうように言った。

譲二「そっか。でもじーじがこんなオジサンになってがっかりしたでしょ。」

美緒「がっかりなんかしてないよ。むしろ譲二さんがじーじだって分かって嬉しい」

 美緒が手をぎゅっと握ってくれる。

 俺もその手を握り返した。


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『じーじ』その4



〈美緒〉
 クロフネに帰って、私たちはラム酒入りのココアとサンドイッチを挟んで続きを話した。

 もちろん、ココアは買ったばっかりのペアのマグカップに入ってる。

美緒「前に譲二さんが、私のことをずっと前から好きだったって言ってくれたのって…。もしかして、じーじも私のことを好きだったの?」

譲二「…あの頃はねぇ…。まだ美緒ちゃんは小さな女の子だったろ。」

美緒「うん。」

譲二「俺も別な女の子に失恋したりして、美緒ちゃんが恋愛対象だったわけじゃない。」


美緒「そういえば…じーじ、一度ひどく泣いていたことがあったよね?


 大きくて頼りがいのあるじーじがあんなに悲しそうに泣いてて…。


私なんとかしてあげたくて、頭をよしよししてあげたり…。」


譲二「良子さんに『俺の心が痛いんだよ』って教えられて、『いたいのいたいのとんでけー』ってしてくれたよな」

美緒「それって今考えるとちょっと恥ずかしい…」


譲二「あれは…照れくさかったけど…、でも嬉しかったよ。


 なんだか心の中がほっこりして。美緒ちゃんて、可愛いなぁって改めて思った。」



譲二「美緒が引越していった後、良子さんから美緒の話を色々聞いたり、

添付の写真をもらったり、年賀状の写真を見たりしてるうちに、美緒のことをだんだん意識するようになった。


小さかった美緒がだんだん女の子らしくなっていくものな…。」



譲二「大きくなった美緒には会ったことはないのに…。

気がついたら、ずっと恋していた…。俺って変?」

美緒「ううん。ずっと好きでいてくれて、ありがとう」


譲二「良子さんから美緒を預かるよう頼まれて。


こんな気持ちじゃダメだな、手を出してしまうかもって、不安だったから…

そういう気持ちは押し殺してたんだけど。


美緒が初めてクロフネに来て、実物をみたら、俺はもう美緒の虜になった。


そして、今はダメかもしれないけど、美緒がもう少し大人になったら、

そしたら気持ちを打ち明けようと思った。」


譲二「美緒のことは本当に大切に大切に思っていたんだ。


でも、美緒は俺よりも幼なじみ達の中でいるのが楽しそうで、少し嫉妬した。」



美緒「…」


譲二「それにあいつらみーんな、美緒との思い出がたくさんあって…。


しかも、俺のことは忘れているのに、

あいつらとの思い出は美緒はちゃんと覚えてて、ますます妬ましかった。」



美緒「ごめんなさい…」


譲二「謝ることなんかないよ。俺もずいぶん変わってたし…。


あいつらはみんな美緒のことが好きだって分かってたけど、

ハルと一護は特に美緒のことを好きみたいだったし、

美緒もハルのことが好きなのが分かると…

俺はもう理性を保つことが出来なかった。」



美緒「そうだったんだ…」


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『じーじ』その5

〈美緒〉

 デートで買ったばかりのペアのマグカップに入ったココアを飲みながら、2人で話してる。

譲二「美緒をあんなふうに無理やり抱いてしまったのは、本当に申し訳なかったと思ってる。ごめんね。」

美緒「でも、あの時、譲二さんと結ばれなかったら、今こうしてはいないよね。」

 そして、譲二さんがじーじだということも思い出すことなくそのままだっただろう。

譲二「きっと、美緒がデートする相手はハルだったんだろうな。」

 譲二さんはポツリと言った。

美緒「…」

 今でも、ハル君のことは大好き。

 そして、ハル君のことを考えると胸が痛くなる。

 いつか、この胸の痛み無しにハル君のことを考えたり、一緒に笑い合ったりできる日がくるのだろうか?

 でも、確実に譲二さんは私の中で大きな存在になりつつある。

 今日の「譲二さん=じーじ」という発見もそう。

 いつか私の中で譲二さんだけが一番大切という日が来たら…。

 私は譲二さんの隣に座ると両手を首にかけて抱きしめた。

譲二「美緒、可愛い」

 譲二さんも私を抱きしめるとキスをしてくれた。


 私の体は、心より一足先に譲二さんを求めている。



〈譲二〉

美緒「でも、あの時、譲二さんと結ばれなかったら、今こうしてはいないよね。」

 その言葉は俺の胸に突き刺さった。

譲二「きっと、美緒がデートする相手はハルだったんだろうな。」

 ハルには済まないことをした…。

 それでも、もう一度やり直しても俺は同じことをしただろう。

美緒「…」

 美緒はまたハルのことを考えているようだ…。

 俺の隣に座ると美緒は両手を俺の首にかけて抱きしめてくる。

譲二「美緒、可愛い」

 美緒を抱きしめ返すとキスをした。

 俺も美緒も一生ハルに負い目を感じて生きていくのかもしれない…。

 それでも、俺は美緒と歩む道を選ぶ。

『じーじ』おわり


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続きは『再会』になります。



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