ウサギ、耳、伸びた、私、

このブログはたしかにイタい・・だがどうだろうか。痛みを訴えるのは大事なことだと私は思う。戦争より餓死の方が酷虐なのだから

NPC@13物語―一覧―

2013-03-31 00:45:43 | NPC@13物語
第1話2668緊急会議編 

 
第2話4018


第3話4837

第4話3339期末テスト編

第5話3499

第6話2441

第7話6585

第8話1537プロモーションビデオ編

第9話3150

第10話6706


第11話12655

第12話15163

新章 亡霊のダイブスピナー編

第一章[7,210]

第二章1/2[12,823]2/2〔21,006〕

第三章1/3[13,230]2/3[19,834]3/3[31,737]

第四章1/3[25,652]2/3[15,606]3/3[20,000]

最終章1/1[38,784]

※誤字脱字の修正は脳内セルフサービスでお願いいたします。申し訳ございません。なお数字は内容量の目安です。

亡霊のダイブスピナー 【最終章 1/1】

2013-03-31 00:42:08 | NPC@13物語
錆び付いたドアノブの向こうにヤツらはいた。

そこはかつて学生達の憩いの場であり青春の象徴とも言える場所だったが、今や靴底の染み一つ数えることはできない。

群を見下ろすは、いたいけす童女の瞳か、その瞳を見定める傍観者。

学校の屋上だった。

「あ~あ~、NPCも完全復活ですかねえパッ嬢。」

「そうですわね」

「あんなに騒いじゃってさ~、すかり犬も楽しそうっしょぅ」

「ええ」

「うちらもここでもういっちょ”インパクト”掛けてみますかい?」

「・・・・・」

「さあパッ嬢、今度はアタイにどんな愉悦を味あわせてくれるのさ」

「・・・・・」

黙して語らずその少女、するとやや冷気を持った秋風が一度だけ唐突に吹いたかと思えば、屋上の扉が豪快に開かれた。

しかしながら屋上に出来る影が二つから三つになることはない。開いたドアの向こう側には誰も立ってはいないのだ。そして吸い込まれるように、ガシャンと、、、再び空と階段を跨ぐ閾は遮断された。

「なにさパッ嬢___未来視の次は念力っすか・・・面白い__クソ面白いっしょぅ!!」

「いいえ違いますわ」

「・・・・違うって____パッ嬢・・・一つだけ言っていい?」

「屋上の扉は老廃が進んでいてきちんと施錠しないと完全には閉まりませんの ワタクシ達がくるとき三階付近の窓は開いていたから、そこから吹いた風が扉を抉じ開けたのでしょうね___っで、言いたいことがあるのなら言ってみなさいぴぃちゃん」

「これからNPC@13とどう向き合うつもり?」

「もうワタクシはなにもしませんわ NPCにはこれから先、永久に干渉しないと心に決めました」

「じゃあっしょぅ、もっと楽しい遊びを見つけたってこと?」

「いいえ、もう当分は何かを行う気力はありませんわ」

「・・・・・・・・・あのあのパッ嬢___言ってる意味わかってる?」

パックンはフェンスが触れる五指を緩ますと、問いには答えずにカラピンの手前まで歩いた。そして片方の手を伸ばすと

「ええ、今まで楽し“かった”ですわよぴいちゃん___さようならカラピンさん」

「・・・・な~んだ、分かってるならいいんですよ。じゃあ一味は今日でおしまいということで___じゃあなパックン」

お互いに軽い握手を交わしたのち、カラピンは軽快な足取りで出入り口へと向かった

・・・アタイらのグループはNPCとは違う、これでいいんさ、これでね・・・

カラピンは屋上のドアノブを握った瞬間、ある感触に違和感を覚えた。鉄錆のザラザラとした感触でも手が汚れるであろう苛立ちからでもない。ドアノブを捻ったと同時に逆方向に抵抗する感覚を得たからである。

                    ・・・誰か、、、、、、いる?・・・・・

カラピンはすぐさま手を離し一歩後ろへと下がると、目の前の扉はゆっくりと、軋ます音を鳴らしながら開かれていく。___無論、“自然”ではないのは明白だ。

、、、、、

、、、、、、、ガチャン、、、、、屋上へと入ってきたその女にはカラピン自身、身に覚えがあった

するとその女ではなく、背後のパックンが口を開ける

「カラピンさん、これは今まで一味にいてくれたお礼とでも思ってください」

「は? もっと詳しく話せっしょう」

「フフフ、先ほども話しましたがもうワタクシは何もすることはありません___そう、“ワタクシは”__ね」

続けて
「ワタクシにたてついたNPC______さて、、、どうやらそこにいるその女が、NPCを破滅へ追い込まんといきりたっていらっしゃるではありませんか」

「なにさパックン、アタイにおもちゃをくれるっていうのかい?」

「ええ、共に行動すれば、さぞかし愉悦に浸れることでしょう」

そして屋上を照らしつけるシルエットはぽつんと、残されたかのように。

空ではなく地表が見たくて緑色のフェンスに指を絡ませればまだ、その群は馬鹿みたいに騒いでいるままだった。





















「・・・・・・・えぬ・・・ぴい・・・・・しい・・・・・・・っ」



彼女の真下にだけ一滴の雨が降った。その水滴は落ちるというより風に乗るようにして宙に舞い、、、、、。今の光景を向い側にあるマンションからでも観れたのなら、まるで捕らわれひめぎみのように、映ったであろう。




______


「ん? 雨??」

ヤミヒロの頬は、ほんの一瞬だけ水気を得た。見上げてみても空は雲ひとつ無い秋晴れなので単なる気のせいだと疑う余地はない。

「んで、クルタン。 俺のペンを探し出すためにその土佐犬・・・す、すくすくん?」

「すかりたんです」

「そう、そのすかりたんが一役買ってくれるんだろうが本当に可能なのか? そんな俺の匂いを頼りにペンを見つけ出すなんてことを」

「シュッシュッ あまりすかりたんをなめないほうがいい 怪我をしますよ?」

「いや、今めっちゃペロペロされてんだけど・・・洗濯しなきゃなんだけど・・・」

「るっさいわねヤミヒロわあ、ねえねえすっかり! そんなヤツの相手しないで私と遊びなさいよお ちゅっちゅ~」

「きもい」

「きもいっす」

「きもいンダ」

「きもいですね」


・・・・・・・・どうやらNPC全員が思っていた感想らしい・・・・・・・・

 
捜索手順は夜間すかりたんが単身で探し、早朝、すかりたんがヤミヒロ臭いと思った付近をメンバー総出でくまなく探すという形で行われた。

「お、すかりたんが止まってゴロゴロし始めたっすよ」

「シュッシュッ・・・ここら辺にヤミヒロ臭が漂っているのでしょう 最初はここから半径10メートル以内を捜索拠点に、頑張って探しましょう皆さん」

「ンダ~わかったぞ」

辺りは比較的通行量の少ない道路が一本通っている。至って普通の整地されたアスファルトだ。

そのすぐ近くには一軒だけ弁当屋が佇んでいるのだが、どうやらその弁当屋にヤミヒロはよく行っていたことがヤミヒロ臭い原因なのかもしれない

捜索範囲は狭いものの、捜し物は直径20センチの棒状なので結構な時間を要すると覚悟していたが、そこは五人という群が成せる技か、、、ものの数分で捜索結果が明らかになる

「___そう、そっちもないのね___ならここにはもうないでしょ 次行きましょう」

ドンマロは悪そうな口元ですかりたんに近づけば、それに感づいたすかりたんは耳をピーンとおったてたのち、天敵から逃げるように走り出した

「くぅ~~~~ん!」

「そうですか、シュッシュッ・・・・次はここです皆さん」

捜索箇所№2  ヤミヒロ自宅前

「・・・・・

                          ん・・と・なんで?」

「臭いがこびりついてるからに決まってるじゃない」

「当たり前だろ!」

「シュッシュッ、当たり前ですがすかりたんはそれでもなおこの付近が臭いと踏んでいるのかもしれません。灯台下暗しともいいますし、探してみてもいいのではありませんか?」

まあそういうことならと 渋 々 承諾するヤミヒロ

都内にしてはご近所づきあいは良好だと自負しているだけに、こんな目と鼻の先に自宅がある付近で”NPCが何かやってる”というのは、あまり気乗りしなかったのである。

「て・・・おいデブ犬は何をやっている」

その疑念はすぐに現実のものとなった。さっきの場所では目的地についたらただ寝転がるだけだったのに対して、今、すかりたんはここ掘れワンワンの如く穴掘りを始めているのである。

「おうおうすかり~ オラも手伝うぞ?」

慌てて阻止に向かったヤミヒロだったが、すかりたんを抱っこしようとした瞬間見事に後ろ足で蹴り飛ばされる

「止めてくれ!・・・誰かすかりたんを止めてくれえ!!」

にくきゅう型のスタンプが押されたその頬を押さえながら助けを請うても、反応は得られない

そしてすかりたんはくぅ~~~~~~ん、と、土佐犬の血から成る強靭な顎骨で”何か”をガッチリと咥えると魚を釣り上げるようにしてその”何か”を掘り起こした


「なによすかり!やるじゃない!!__これもう埋蔵金ね間違いないわぐへへへ」

「シュッシュッ___いえ、どうやら中身は紙切れだけのようです」

「文章とかっすか?」

「・・・・・やめろって・・・・」

「ん~どれどれボールペンで書かれてるわね メーカーはシグノかしら  あれ?この筆跡、、、ヤミヒロっぽい・・・」

「なんすかっそれ、、たしかにヤミヒロの自宅がすぐそばですから私物があってもおかしくはないですが・・・」

「ンダ~ 自分のものを土ん中に埋めるってなんだかオラ、タイムカプセル思い出したぞ~」

「タイムカプセルっすか(笑)」

「自宅前にタイムカプセル・・・・・シュッwシュッw」

「ねえー」

「なぁなぁ、普通タイムカプセルってみんなで一緒に埋めるもんじゃねーのか」

「ちょっと読んでみましょうよ___________声に出して」


「ヤメロッテ!!!!!!!!!!!!!!」

そうだ、そうだよ、そうですよ!。それはタイムカプセルですよ!!!自宅のまん前に埋めた、、僕が、、、当時6歳だった俺が、未来の俺に向かって書き綴ったタイムカプセルですよ!!!幼稚園児の時からやってみたいと思ってたんだよ、でも卒園式でそういうイベントはやってくれなかったんだよ。。。頼んださ、、、先生、園長、親、友達の親、みんなに幼稚園児の小さな小さな背中を傾けて懇願したわ!!!、、、、、、なにがそういうのは小学校とか中学校でやるものよっっっだッ!世の中の悪魔どもめ・・・ふざけんなよだからもう独りで埋めれることにしたんだよおあああああああああああああああああよむなあああああああああああ俺の字を読むなあああああああああああああああああああああああああ

ずどんと、漬物石のようにヤミヒロの身動きを封じたすかりたんは満足そうに眠ると同時に

「こほんッ・・・。。。____タイトル【未来の僕へ】





           ありがとう生きていてくれて

この手紙を読むのが十年後かもっと先かは明確にしていないけれど、随分と時が経っているのは間違いなさそうだね

だから最初はこの言葉からにしたかったんだ

優しくできてる?

友達はいる?

愛すべき人はいる?

家族はいる?

部屋は片付けられるようになった?

寝すぎていない?

料理はうまくなった?

足は速くなってる?

イタリアに行けた?

十カ国以上話せる?

メダルはいくつ持ってる?

空は飛べた?

冥王星はなに色だった?

銀河は輝いてた?

グラビトンは解明できた?

全てを式にできた?

世界を平和にできた?


そこに箇条書きしている問いに全てYESと答えられれば僕は大満足__目標はでっかくもて!__それが今の僕の考え方なんだ

さて、今の僕とそこにいるキミ、、、同じヤミヒロの名を持つ同一人物なわけだけど___キミに問いたい。

          


                 そこに僕はいるかい?



いないよね

僕はこれから待ち受けるであろう数多くの痛みや悲しみ、間違った喜びを受けて、判断し、分別をつけて、初めて今のキミになる

どれだけの苦しみが待っているのだろうね   現実ってなんなのか今の僕はよくわからないよ

まあ、夢のように新鮮で楽しすぎる日々を送っている僕に向って、大人達は夢を持てなんていうのだから、現実は厳しいものなんだろうけどさ・・・

でも僕は平気  知ってみたいからね色々なことを。誰が何と言おう知的好奇心は止められないよ

へへ、そんな僕って愚かかな? でもね一番は違うよ

僕が未来へと進む一番の理由_____それは揺ぎ無く、キミ自身なのさ

さっき長々と目標を箇条書きにしてけど、実はあんなものついででしかないんだよ

僕がキミにこの手紙を書いた理由  タイムカプセルにした理由は夢や目標が叶ったかの有無じゃない



        
 
        “もう僕は、キミなんだよ”ということを伝えたかったんだ






キミが幸せになるためなら僕は何時だってそこにいる、でもキミが不幸になろうとしてるなら僕は決して存在しないよ

矛盾してるかな?

でもさ、目には見えないミクロの世界では、有と無は同時に存在してても不思議じゃないんだ。シュレリンガーの猫のように辻褄を合わせてくれると助かるな


もう一度いうね


         ありがとう生きていてくれて


今も、そしてこれから先も、ずっとずっと主人公はキミなのだから

なにも気にせず、幸せになるために自らの意思で堂々と決定し、邁進していけばいいのさ

大丈夫   本当に大丈夫だ

もしもそれを邪魔をする連中がいようものなら、僕がこの手紙を持って、何度でもキミに手紙の内容を思い出させてあげるから。


ここまで読んでくれてありがとう

そろそろ僕は3時のおやつのようだからペンを置くことにする

それじゃあね   健闘を祈るよ


六年目の僕が送る手紙より
                         おしまい」


_________


ドンマロがその手紙を読み終えたと同時に、ヤミヒロはなんとか重石から引っこ抜いた両手で耳を塞いだ

そう、顔を真っ赤にしながら、、、自分の昔話を赤裸々に語られた後に周囲の感想が聞けるほど据わった精神は持ち合わせてはいないのである・・・けれどもけれども

・・・・・・耳を塞いでるにしても静かすぎやしないか・・・

そう思い、そーっと薄い目で連中を見てみれば、

「なんでみんな浸ってんの!!!うわあ・・・・・」

言葉を失うほどの優しい目でみんながヤミヒロのことを眺めていた。何も言わず、まだ歩き方がぎこちない小鹿でも眺めているのように。

「せめて見てくれよ!眺めないで!!!」

「だって・・・ねえ?」

「そお・・・・すよね?」

「シュッ・・・・シュッ・・・・シュッ」

「ンダ~  オラカンドーしたぞお」

「もういいよ!!!次いくぞ次ィッ!!!!」

斯くしてヤミヒロはこの場からメンバーを追い出すことしかできなかったのであった。


捜索箇所№3  「とある本屋前」

「ンダー オラ知ってるぞ 一見普通の本屋だが、実は奥には1と8のついた垂れ幕が下がっててそのなk」

「おおおっと!!!おおおおおおおっとやめようか!」

「???___こんなとこに本屋があったなんて知らなかったわ 臭いがついてるってことはヤミヒロの行きつけの店なんでしょ?  ついでだから入ってみるね」

「入らないで探そうよドンマロ・・・・俺のペンが泣いてる気がするんだよ・・・早く助けてあげないと・・・」

「そりゃそうね 悪かったわ じゃあヤミヒロはあっちの方探して」

「では僕はトイレにでもいくっすかねえ」

「おい」

それはもうしっかりと二の腕を掴んでやったさ

「大丈夫っすよ・・・チラッとだけ__ずらす程度っすから!」

「バドシがあの店入ったら最後、小一時間出てこないでしょ!?知ってるだからな!」

「スケベェ・・・///」

「うるさいよお!!!!」

捜索箇所№4 「とある自販機前」

「前から気になってたんだけど、この自販機なにが売ってるの? 明るい家庭計画って書いてあるけど ねえヤミヒロ 答えてよ」

「僕にプライバシーはないんですか・・・・・」

「シュッシュッ___まあまあ頑張ってくださいよゴムヒロさん」

「頑張れないよ!もうやだよこんな人権侵害!! だいたいなんだよこんな捜索方法間違ってるよ!!」

真顔で、そうですかね?、と否定してくるクルタンだがいかんせんこっちの目を見ていっていない

「間違っていません  夜間にすかりたんが捜索することで効率化を図っています 実に合理的で」

「そこだよそこ! 夜間に土佐犬野に放って大騒ぎになったらどうすんだ!?」

「シュッシュッ・・・大丈夫ですよ全身黒タイツ穿かせてカモフラってますから、、、でもしかし」

「でもしかし?・・・」

「ええ、なんだかタイツのせいで身が絞まり犬種界のサラブレッドこと“ドーベルマン”に見間違いそうに・・・・ブホホ」

悪化してんじゃねえか!、と突っ込んだところでヤミヒロは力尽きた

まだ四件目の捜索、仕事量としてもまだまだ探せるはずなのだが、ヤミヒロの身体はツッコミを重労働と認識したようだ

いつになったら見つかるのだろう そもそも捜索件数はどのくらいになるのだろう と途方も無い道のりなのではないかと思慮し始めた捜索開始から三日目の早朝___



ヤミヒロのペンは早々に発見された。



ペンが発見された場所はNPCメンバーが通う学校から徒歩にて一分少々。人工的に窪ませて作られた立ち入り禁止区域



                                _______渋巳川の“水中”だった。


「ホントにあれがヤミヒロのペンなの? 橋の上からじゃ見えづらいんだけど」

「川の中ってペンくらいの軽さなら普通流されるんじゃないんすか?目が悪いっすから色さえも把握できないんだけど」

「ンダ~ オラもだ」

とにかくペンを取ってみましょう、とクルタンは懐からセミのような形状をしたもの出す すると

「うわ! なんだなんだ 飛び始めたぞ」

「シュッシュッ 飛翔機能搭載の小型ラジコンです それでは行きますよ」

そういうとセミのような形状の飛翔物は真っ逆さまへ急降下、川の中へとダイブすれば、枝のような細い捕獲肢でペンをロックし引き上げた

どうですかヤミヒロので間違いないですか?と川の水で汚れたそのペンをハンカチで拭いた後でヤミヒロへ渡す

「ああ・・・間違いねえ・・・」

・・・けども・・・と、クルタンの技術力に圧巻されるしかない

長さ19cm、米産のRSVPペンをベースにしたペン先に二つ、キャップに一つのトリプルグリップとダブルチップ 七色のグラデーションからなるインサート(内部装飾)___それは間違いなくヤミヒロの愛ペン

ノーマル、スカイハイソニック、フィンガーパスリバース、パームスピン__試しに回してみれば指先の動きは止まらない 頭で考えているわけではないのに”技”が止め処なく溢れていく感覚___うん、俺は今、ペン回しをしている___



ヤミヒロのペンが発見されたその次の日の放課後、久々に教室では五つ分のイスが円を画いていた

「ばどしぃばどしぃ」

「なんですかテルくん」

大仏ポケモン日記おもしれーな」

「あ、ありがとうございます」

「シュシュッ 私も楽しく拝見しておりますよ これでNPCブログもさらに活気付くというもの」

「でもよお更新ペース衰えてねーか?」

「いや~俺のパソコン症状が良くなるどころか悪化しまして
・F5キーが反応しない
・マウスパッドがツンデレ
・文字を打つと勝手に全角英数になる  とまあ素敵なことに^^^^^^」

「あっちゃ~ やっちまったなあ でも昨日日記更新してたよなバドポケ」

「私のパソコンを貸したのよ」

「なるほど ドンマロのPCを」

「本当にありがたいっす」

「いいのいいの NPCの発展にも繋がるしなにより私もバドポケファンよ」

「ンダ~ オラもだあ」

・・・・・・・・・・・・・おかしい・・・・・・・・・・・・・・

「照れるっすね」

「あ~ バドシ顔がトマトみたいなンダ~」

「ちょッ  茶化さないでマジ恥ずいっす」

「シュッシュッ このこの~」

「チョッ・・チョチョッ」

・・・・・・・・・・・かなりおかしい・・・・・・・・・・・・・・

「でもねバドシ、一つ言っていい?」

「なんッスか」

「ビッパにブルドラって名前つけるの止めたほうが・・・」

「止めたほうがなんッスか? 笑い堪えてるのバレバレっすよ」

「ふざけんな!!!!クソッタレガァッッッ!!!!!」

「!?!?!?!?」

声を荒げたの誰?  ヤミヒロ自身に問うてみるが答えはヤミヒロ自身であるほかにない

自分のさえも疑うほどその怒号にも似た叫び声は周囲を痺れさせていた

・・・なんなんだよ・・・・こんな・・・感情を剥き出して・・・なんになるっていうんだよ・・・・・・・

思っていること口に出してしまうことは誰にでも少しはある 

でも思ってることが分からないのに口に出した自分はおかしい

感情をぶつけるべき相手がこいつらではないことは重々承知なはずなのに

「ンダ~ どうしたんだよヤミヒロ」

「いや・・・その、ごめん」

「ごめんじゃないでしょ どうしたのかって私達は訊いてるの」

「そおっすよそおっすよ」

「シュッ!シュッ!シュッ!」

皆のその問い さっきの大声で落としてしまったペンを拾いつつ口を開ける

「・・・間違いだっていうのは分かってるんだ  

お前らと共にペンを回してんのになんで不快な気持ちにさせられてんだとか

ペンが見つかったのだからもっと楽しくできんだろとか

自分に対する責めみたいなのをお前らに押し付けてるのわ」

「痛みを押し付けるのと、痛みを訴えるのは違うわ_____後者よ今の貴方は」

「でも馬鹿だろ?気持ち悪いだろ!!??仲睦まじくペン回しやら会話を楽しんでるっていうのによお!いきなり席立って、、、キャラでもないのに大声張り上げて、、、、、バカみたいに感情的になって、、、、空気ぶち壊して、、気持ち悪くて笑っちゃうだろッ!!??? 

・・・・・そしてなにより、その気持ち悪い自分を抑えられなかった自分が一番のクソヤロウだよ・・・」

合間など要さずに一人は誰も怒ってないっすよ、と言ってきた

「え?」

違う一人は、ンダー 誰も怒ってねえ!と断言する

また違う一人はシュッ!シュッ!と指先を軽快に引っかく

はたまた違う一人はよし!それじゃあ第二ラウンドに進むわよ!!と沼へと沈むヤミヒロの心を引き上げた

「・・・第二ラウンド?・・・」

ドンマロの目線はとあるペンへ 皆もその目線を追うようにしてとあるペンへ

「あんたのそのペン盗んだ犯人 とっ捕まえやろうじゃないの」

「は?・・・いやでも」

「でもじゃない あんたまだ気づかないの? 愛ペン盗まれて、川の中に入れられて、ヘドロまみれにされちゃって、、、犯人のことぶっ飛ばしたいんでしょ?」

「いや ぶっ飛ばすなんてことは考えてなくて・・・でも知りたいかもしれな・・・」

「やはり知りたいのですね」

「いいや今の言葉は忘れてくれ  ペンが見つかっただけでも奇跡的だったんだ犯人を見つけるなんて毛頭無理、、不可能だ

第一、お前らとはペンを見つけ次第NPCへの入部の有無を言う約束をしてる 順番ならその有無を明確にしてからだろ」

「じゃあ訊くけど、ヤミヒロはNPCをやるの?やらないの?」



・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・





ペン回しの楽しさをもう一度感じさせてくれたバドシとのインフィニティバトル、ドンマロの命がけの説得、NPCの暖かさに再度触れてた喜びから今日まで、、、自分に問うてきた

NPCをやるのか  それともやめるのか

息をのみ真剣な顔つきでNPCメンバー全員が俺の言葉を待っている、、、そう今、、この瞬間もだ、、、



________________________しかしヤミヒロの首はまだ、どちらにも動かない。



「そう、まだ迷っているのね、、、ならいいじゃない 犯人を捜しましょ」

「・・・・でも・・・」

「ンダ~ はっきりしねーなあヤミヒロは」

「漢になりたきゃ堂々とするっすよ!」

「だって無理だろ!?  このペンどこで発見されたと思ってんだよ川の中だぞ川の中

誰かの家の中でもないし、特定できる特殊な場所ってわけでもない 聞き込みだって無謀だろうし・・・」

「シュッシュッ・・・・それがどうしたというのですか?」

「まだあるぞ! 俺はペンを盗まれたのは約三週間前 一、二時間目体育の授業で教室が空になった時間帯だ。それだけの日にちが経っていてなお、盗める人間は休み時間も含む一時間目から二時間目教室に侵入できた人間全員が容疑者 途方もないだろ・・・そんなの」

「シュッシュッ・・・・・私を誰だと思っているのですか?私の名はクルタン 漢字で書くと『苦流反』___あらゆる苦行を受け流す反逆者という意味です」

・・・・いや車が好きだからクルマニアって名前になってそれをもじってクルタンに・・・・

とマジレスするよりも先に苦流反は、

「犯人の目星はついてます」

「・・・・はい?」

「さあクルタンのプロファイリング、、きいてみようじゃないのよヤミヒロ」

「シュッシュッ  皆さんの見解や意見、矛盾点などがあるのなら聞きたいので犯人特定の経緯からいきますよ!」

そういいながらクルタンはいつのまにか用意した投影機に光を点した

「渋巳川に設置された水位測定機のデータを調べたところ三日目の夕方から夜にかけて水位の上昇が見られました 

これは一時的に降った雨によるものだと考えら、それ以降、今日まで天気は晴れでしたので犯人は三日前の水位上昇が収まる二日前の深夜~ペンが発見される今日の早朝までにペンを川へ落としたと考えられます」

「雨が降ったらペンもろとも下流へ流されちゃうものね」

「その通りです  ペンを救出した時、ペンはなにかに引っかかり流されずに済んでいた様でしたが、力が加われば容易く取れたので」

「ンダ~ ペンが落とされたのは二日前の深夜から今日早朝まで...と」

「そしてここが一番重要___“なぜペンは川の中に沈んでいたのか”です。

昨日の夜、私はその問題を解こうと、ペンが発見された場所に赴きました

橋の丁度真下だったので橋の手すりに両手を添えて、渋巳川をひたすら眺めていました











            そしたら光ったんです。誰もいないはずの川にぽつんと




                    なにやら片手を動かしながら少年が立っていたんです」









ジジジ、と一瞬だけ投影機にノイズが走る

「なにをしてるのか問いました___しかしその少年は何も答えず、片手を私の方に突き出して笑うとまるで粉を散らすように消えてしまいました」


続けて

「もし私がペンを盗んだ犯人なら河川などに証拠となる物を捨てたりはしません

捨てるのなら粉々にするか焼却、なんにせよ原型を留めないよう細工するでしょう

そもそも犯人はそのペンがほしくて盗んだわけですから“捨てる”という行為は少し解せない

ヤミヒロもクラスの連中もそれ以降、なにか盗まれたという事態には至っていないことから盗品を間違ったとも言いがたい」

ならば期せずして...

「川にペンが“落ちてしまった”と考えるのが無難___一番しっくりくる

皆さんに問いたい 川にペンが落ちてしまったのならそれはどうしてだと思いますか?」

_________________________________________


ドンマロは嘆息しながら
    「一つしか思いつかないわねえ」
                   と言う

バドシは眉間を摘みながら
    「一つしか・・・一つしか出てこないっすよ」
                         と言う

テルは自信に満ち溢れながら
     「あれっきゃないだろう!!!」
                    と言う

「シュッシュッ・・・・ヤミヒロさん答えてください」





    「犯人は“ペン回し”をしていて誤ってペンを川へ落とした____そういいたいのか」






「そう___犯人は“ペン回し”に興味を抱く人間___そして私は少年という怪奇に出くわした」

     
     「【亡霊のダイブスピナー】が犯人だと___そういいたいの?」


「いいえ違います。亡霊のダイブスピナーはこの目で確かに見ましたが、犯人だとは見ていません ただ、私にヒントをくれた気がしたのです」

「ヒント?」

クルタンは笑わないでくださいよ、と釘を刺したのち照れくさそうに言う


「その亡霊、片手に動きがあったのです__それはつまり__私達の大好きなペン回しをしていたのかなって___そう思ったのですよ」


「亡霊の話はひとまず置いといて、そうなるとかなり的を絞れるんじゃない?」

「ええ、学校の生徒全員が容疑者、単独犯と仮定 そこから犯行が不可能と思われる人間を除外してきます

まず一つ目の除外対象は一年生ほぼ全員  今日から三日前から三泊四日の移動教室に軽井沢まで行っているので先ほど説明したとおり“ペンが落とされたのは二日前の深夜から今日早朝”に矛盾

続いて二つ目、ペンが川へ沈んだのは犯人の登校中もしくは下校中だと仮定 渋巳川を通学路とする生徒が犯人の可能性大とみて、それ以外の生徒を除外

三つ目、ヤミヒロがペンを盗まれた一時間目~二時間目の間にヤミヒロの教室内に侵入できない人間___これも少数ながらいますので除外

このことから容疑者は13人に絞られます」

「ンダ~ 13人かあ~ かなり絞れたけどオラ、十三本ガリガリ君食ってもアタリ棒引き当てる自信ねえーぞお」

「お前はいったいなにを言っているんだ」

「シュッシュッ とりあえず13人の容疑者の名前を言っていきます」

「苗字だけでいいから頼むわ」

「了解しました シュッシュッ」


「覚正、



前田、



躑躅森、



椎名、



神埼、



北条、



柊、



香月、



綾小路、



京極、



桐生、



藤原、














                                      ブルドラ。」




















「なんしゅっか!だ、だだから盗んでないって言ってるでしぃしょ!?なんッしゅか!!!」

「うるさいわよブルドラ」

「なんッッッッしゅあかあッ!!!!」

「お前NPCブログにアクセスしたことあるだろ」

「ざああああんねええええええんんんでしたあああああ・・・!!!調べてましゅしぇーーーーーッッッゥん!」

「いや、お前のPCのIPアドレスとNPCブログにアクセスしているIPアドレスが完全一致したから____もう証拠として成立しちゃってるから」

「はへマッ!?」

「早く自首しろって・・・」

「ふぅ~ やれやれこれだから下流風情は困りますなあ」

「はい?」

「タタ、他人のピィイシィイ(PC)から勝手にIP抜き取るとかふぅ~やれやれガキュイですか 個人情報保護法ってご存知ぃ!?はい先生!!ヤミヒロくんはなんにも分かってないご様子、テルくんもバドシくんもドンマロくんもクルタンくんもみんな、み~~~~~~んみ~~~~~~んみ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んナッバカなご様子!ふぅ~hぅうう~___生徒会長のブルドラ様を困らせるのもほどほどにしていただきたいでふぅ~」

「結局なにがいいたいんだよ」

「罰せられるのは貴方方でふぅ~、自首するのはNPC全員でどうぞ!!!!ふぅ~忙しい忙しいですなあ~」

「窃盗犯がよくいう」

「だ、だだ、だだだDA☆KA☆RA盗んでないといってましゅでしょツ!?」

「盗まれたこのペンに指紋がついてた___そう、お前の指紋がな」

「川に流されて指紋なんて残ってるはずないでしょうが、ぷう~ぷぷぷ~ 笑いが止まりませんよ」

「なぜ川に落ちていたのを知っているんだ?」

「ぐにゅぽッ!!!???」

動揺を隠し切れないブルドラに対し、王手の如く追い詰める

「盗まれたこのペン__おかしなことに透明なビニールテープでキャップと本体とを“接着”してあった___こんなブサイクな改造俺はしないぞブルドラ」

畳み掛けるように続けて

「ついてるはずだよな必然的に___ビニールテープの“接着面”に誰かさんの指紋がなあ!」

ペンを盗んだのがブルドラならおそらくビニールテープ改造もブルドラが施したもの__巻くようにして貼られているので指紋が消えることはない・・・・チェックメイトだ・・・ブルドラ・・・!!!

するとブルドラは暫し黙然と天井に顔を向けてたかと思えば、口端を引き攣らせながらこちらへ向ってくる

「な、なんだよこっちくんn」

「うううううううるしゃい!!!!それは僕のペンです返しなさい!!!!!!」

そういうとブルドラはヤミヒロのペンを強引にふんだくった

「盗んだペンは、また盗む___穏やかじゃねえなブルドラ」

「うるしゃいしゃ~~~~~い!!!!」

「いいぜブルドラ___そのペンくれてやるよ」

「な、なんでしゅと!?」

「ただし、俺とインフィニティバドルで勝ったらなあ!」



      もはや歩廊に心はなく

              されど哀愁思惟る夕暮れ学舎

ブルドラ回すはヤミヒロの愛ペン“RSVP”

                 ヤミヒロ回すは“赤青エンピツ”

          一回勝負で即決着

「もう一度謂っとくぞブルドラ、正真正銘、一回だ! 先にペンを落とした方が負けのインスタント勝負だ」

「わかっとるわ やれやれガキですかあ!!!」

突発的に始まったインフィニティバドル___。ブルドラが回すさっきまで“ヤミヒロ”の手中にあった愛ペンがヤミヒロの右手を襲う

・・・・俺のペンが俺にキバを向ける・・・いいねえ・・・なんか“今”って感じがするよ・・・

左から右へ、斜め下へと引き裂くようなブルドラの初撃をひらりとかわす、、が、ヤミヒロからの反撃はない

「ンダ~ なんでヤミヒロ反撃しねえーんだ?チャンスだろ」

「相手はブルドラとはいえRSVPっすよテル  慎重になるのもわかりますよ」

「それだけじゃないわよ ヤミヒロが回すのは赤青エンピツは相当回し“づらい”超軽量ペン___インフィニティを続けるだけだって難しいのにどうするっていうのかしらねえ」

「改造してるとかじゃねーのか?」

「シュッシュッ・・・さっき見せてもらいましたが完全に“無改造”でした あの赤青エンピツには錘も削った痕跡もありません まったくの新品状態です」

ブルドラの二撃目もすぐにきた___今度は右から左へ捲るようなインフィニティリバース攻撃

「へえ ちゃんとペン回しできるんだなブルドラ」

「うるさいわーーーい!!!ちょこまかちょこまか逃げよってからに」

トラッシュトークのつもりはなかったがブルドラはかなりせっかちらしい__このままかわし続ければブルドラの自爆ということも・・・しかし

・・・・どうせならはじきてえよな、今の自分、今のペンで、、、そのRSVPをはじきてえ!・・・

だからブルドラのインフィニティリバースからインフィニティへ技変更する繋ぎ目は逃さない

技変更したあとのほんの一瞬生まれる隙にヤミヒロは自爆しないギリギリの力量でRSVPを叩く

結果
「ぷ~くすくす なんですかあ!?なんでしゅしゅかあああ!?そのヘナチョ攻撃は」

・・・やっぱそうなるよな・・・

案の定 赤青エンピツの攻撃力はブルドラの言う通り微々たるもの 

とてもじゃないがRSVPをもっていくほどではない

勝利を確信したかブルドラは強気に前へ出た、速度が増したインフィニティを二回、そのリバースを一回、ダブルインフィニティを一回

一回目は小指と薬指の間にペンを挟みかわし、二回目はレイガンという空中移動させる技で左手にペンを移動させ、、タイミングを見計らいインフィニティリバースはノーマルで避け、ダブルインフィニティはもう一度レイガンで右手に戻しながらかわす___ブルドラの攻撃はいっさい当たらない

「まだまだあですぞよよよよ~~~ん!」

ブルドラの攻撃態勢に対し、今度はヤミヒロもいく__さっきの攻防でブルドラの手中が汗を掻きはじめているのを見たからである

・・・そろそろ頃合だろ・・・・・みせてやるよ・・・“ペン回し”の“可能性”・・・!!!・・・」

この勝負始めてみせるぶつかりあいに、ブルドラは臆することなく自身が出せる最大級のインフィニティを叩き込む____だがしかし

「!!??」

手を引いたのはブルドラ  落とさないまでもRSVPの速度は減少している

「RSVPが赤青エンピツに競り負けたっすか!?」

「ンダ~ 間違いねえぞ  震えたのはブルドラの方だ」

「シュッシュッ・・・なにかきいていますかドンマロ」

ええ、と頷くドンマロは最中、赤青エンピツは再度、加速した

二発、三発、四発、五発

ヤミヒロ猛攻に、二発目こそ逃げたブルドラだったがそれ以降は全力で迎え撃つ___しかし

           競り“勝つ”のは全てヤミヒロの赤青エンピツ

「圧倒的っすね・・・なんでこんなこと・・・」

「ヤミヒロの攻撃方法が歪なのよ あいつはブルパップ攻と名付けてる」

「シュッシュ・・・・ブルパップ攻?」

「インフィニティをする時、皆、二箇所あるペン端のどちらかを摘んで回すでしょ」

「ええ、そうでないと回せませんから」



「じゃあその持つところに注目して順に、ペンを当てる“長い面①”とペンを“持つ面②”、“短い面③”__この三つの面でペンの長さが構成されているのはわかるはね?」

「んだあ」

「ヤミヒロはね “短い面③”に相手のペンを当てているのよ」

ドンマロからのネタバラシ  マジックの類ならな~んだ、で終わりだろうがペンスピナーなら別

「なんっすかそれ!? そんなこと可能なんですか!??」

「普通は無理ね」

「シュッシュッ・・・反則にならないのですか?」

「相手のペンが手に触れたり、手首を強引に動かしたらね__でも、逆に言えばそれがなければ反則にはならないということ」

「ンダ~ 短い面なら支点との距離が短いから相手の攻撃は無力化されるんだなあ」

「テルが理解!?今夜は東京にオーロラがかかるかあ!?」

・・・なんだか外野がうるさいな・・・

いきなり窓を開けるものいるし寒いんだが・・・・なにがなにやらさっぱりだ・・・

・・・・まあいい、そろそろしまいにっすかな・・・

ペンの軌道は無限を画くインフィニティ されどその攻撃力はブルパップ攻によりインフレとかす

・・・・インフレとインフィニをかける・・・うまい!!!・・・

ホント、クルタンには感謝してるぜ

えり○か事件の起きたあの夕方 クルタンの部屋になぜかあった銃器“ステアーAGU”

その弾倉や機関部をグリップと引き金より後方に配置する銃器設計をヒントに生み出されたのがこのブッパップ攻、、、さあ

決着だ!!!

俺のRSVPには重心の分かるインサートという内部装飾が施されている___だからその重心に向って、、恐ろしく“入る”ブルパップ攻を叩きつける

ブルドラの持つrsvpは 飛び立つ



                               はずだった

「む、むきききき~~~~!1!!!!!   もうブルドラ怒っちゃったもんね~!
もうブルちゃんぷんぷんだもんねええ~~~~~!!!!!!!!!!!」


ヤミヒロはみた

もはやペン回しとは言えない“構え”で息巻くブルドラの姿を









「おいお前ら___なにも言わなくていいからな」

「なんでや」

「まあみとけって」

予想をはるかに越えるえげつないスピードで反則野郎はきた__強くペンを握り締めた“拳”そのもので赤青エンピツを粉砕にかかる

「どりゃどりゃどりゃああああ!!!!」

ペンさえも握っていない左手まで駆使して迎撃にかかるブルドラ__比喩でもなんでもない___手首も腰も腕も使い__はたからみたら子どもの喧嘩だ

「おもしれえええ!!!」

それを嘲笑うかのように、インフィニティにフェイクトソニックを掛け合わせる定番ともいえるフリースタイルコンボでこつん、こつん、と拳の間からわずかに顔を出すRSVPの頭と足を叩く

もちろんそれによるダメージは微々たるものなのだが

「ナナナナなめやがってくれてっちゃっても~!!!なんでそんな正確にペンを捌けるんじゃ~~~~いッ!!!!」

「なんだブルドラもう終わりか?」

インフィニティバトルで本来ならありえない箇所の筋肉に乳酸が溜まり始めたブルドラ

幾度もの空振りは、それだけ体を蝕んでいくのである

「な、なるほどですなあ そうやって小生ことブルドラちゃんかっこ僕かっことじの体力を奪って、ペンを落とさせるおつもりかしらん」

「・・・・」

・・・・・そうしようと思ったんだがなあ・・・

ヤミヒロには持久戦という文字はなかった

なぜなら赤青エンピツの回しづらさにより、もういつ自らペンを落としてしまうか分からなかったからである

・・・・もってあと一分、、、それ以上はもう・・・

だからヤミヒロは攻める 

・・・・竜の鬚を蟻が狙う・・・といったところか・・・!!!・・・・

人の拳を一筆の回転で解きほぐす 

そう、蒼き竜(“ブル”ー“ドラ”ゴン)の皮をはげばどうってことはない、実態はただの“青二才の若造”なのだから

・・・・!!!

接近する鉛筆にもちろん躊躇いなく拳を振るうブルドラ

「私に向ってくる!?あ~あ~バカバカ、バカバカちんちんですなあ!!!」

ブルドラは思う 自分に向ってくるということはそれすなわち、自分のパンチは確実に当たると__必然だと


・・・・・どうせ殴るのなら論理的にですぞん!技と技の隙間・・それつまりペン回しフリースタイルの隙をつきますぞよ!!!!・・・





                      ・・・・・・





                      ・・・・あれれん?




                      ・・・・・ない・・・・・




                ・・・・・・・・・・・ないないない・・・・・・





            ・・・・・・・・・・はへまッ!!!!!!!・・・・・・・・・・・・・・・





                 「・・・・隙がない・・・・・・ですとお!?」





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亡霊のダイブスピナー 【第四章 3/3】

2013-03-09 00:00:01 | NPC@13物語
一秒さえ要さず決着がついた

周囲は唖然、特等席のバドシにとっては疑念すら抱けないのほどの“瞬間”、ヤミヒロのペンだけがクルクルとコンティニュアストルネードを連続している

・・・・実に回し易いな、さすがは神madと言われるだけはある・・・・

愛ペンを無くした彼の手で踊る演出者は、ドクターKTといわれるスピナー用のペン。

バスダイブ事件の前に山猫から貰ったドクターグリップのチップ二個とバスダイブ事故の際デパートで買ったサインペンを組み合わせた改造ペンである。

回し易さはもはや悪魔染みていると言っていい。スプレッド系、ノーマル系、パーム系、シャドウ系に特に優れ、なにより重量が重いというのが特徴だ。

「・・・・・・」

ようやく状況が把握できたバドシはなお黙り込んでいる___どうした、なにか言ったらが楽しくなるかもしれないのに...。

インフィニティバトルは本来、すぐに勝敗が着くインスタント勝負。今のように開始と同時に終わるなんてザラだ。珍しくもなんとも無い。

だからレッドVSテル戦は常軌を逸していたのだ。あんな互いに譲らないドラマ的熱血バトル、百回に一度あるかないか。

____俺はそんなに甘くない。全力で、、、一瞬で、、、、終わらせる____

傍観者達を魅了できなくてもかまわない、俺が納得いけばそれでいい

無音、ドクターKTの重みを確かめながら審判に催促の合図を送る

__ああ、山猫のじいさんよ____この勝負に勝ったらな、分かるかもしれない__






_______ジジィが俺に忠告した___、その真意がな____________






「二本目・・・・・・・・・・・・・・・・始めてください」


一本目と同様、いや、それ以上の速さでバドシのペンを____!!

しかし大きく外した。当たり前すぎる。バドシが反応できないほどの速さだろうが、開始同時に手を引かれてしまっては当たりっこない。


______クッ、さすがに即キルは無理だったか、、、、しかしなんだ?今の、、、

さすがに看過できないと、ヤミヒロは口を開く

「おいおい 今のは酷いなバドシ」

「ダメっすかねえ、開始直後に手を引く防御は戦略としてありだと思うんすが」

「違う違う  そんな“予想”だけでペン回していいのかって話だよ___今、もし俺が攻めずにフェイントしただけならバドシはオーバーディフェンスの反則。それこそ即キル、さっきの二の舞じゃないか」

いちいちうるさいっすよ・・・!!!と今度はバドシの手が伸びた。

バチンと、接触音が教室に響くもヤミヒロは鼻で笑う。そう、ただそれだけの攻撃ということだ。

「今のも酷いな 果敢に攻めたのはいいとしてKTが相手だぞ?、そんな攻撃じゃ徒労だろう」

しかし攻撃の手を休めないバドシ。左、右、左、右とインフィティを叩き込むコンボも、ヤミヒロのもつKTペンの前では無力。ただ壁とラリーを続けているようなものだ。

「愚直だな、攻撃の意味を履き違えてる。いいか?そんなことやっても自分のペンが壊れるだけで」「信じてるからっすよ」

突然発した一言で眉が力むヤミヒロ

「・・・・意味が分からないな」

「今、回してる僕のペンのことっすよ___ヤミヒロさん、あんたが提案してくれた改造術で作ったペンだ」

そういって技の速度を落とせば、たしかにキャップの中にはプレカラキャップが入っている

「たしかにそんなこともあった だからなんだ?」

「僕のペンは壊れません どんなに負荷をかけようともリーダーが教えてくれたキャップが、このペンの中に入ってるっすから」

「俺はもうリーダーじゃない 関係ない話だと何べん言わせれば気が済むんだよ・・・」

「リーダー言ってたじゃないですか___俺の"ペンが折れることはあっても、"俺達の"輪は永久に正円を画くって・・・、一字一句覚えてるっすよ! 決して忘れないっすよ!!」

「だから...」

「なんでなんすかリーダー・・・悲しいっすよ僕・・・・なんで事故を全部自分だけで背負い込もうとするんすかリーダー・・・・みんなで決めた戦いだったんすよリーダー・・・・・連帯責任じゃないんですかリーダー・・・リーダーぁ・・・・リーダーァ・・・リーダーァア!!!」

「だからその名で呼ぶんじゃねえよ!!!!!!もう決めたことなんだよ.....もう終わったことなんだよなにもッ!!!!!!かもッ!!!!!」

「いいえ まだ終わっていません 私の予想ではこの勝負、二本目、三本目とバドシが勝ちます。そして私がブルドラを倒しテェックメイト 晴れてヤミヒロの引退はなかったことになります」

割り込むよう会話に入ってきたクルタン。鬼気迫るその表情に圧倒され、若干の心の揺らぎを得るも.....ヤミヒロは悟る。

「ク、今日は一言もしゃべらないと思ってたがなるほど。そういう戦略に出るのかクルタン、、、実力では勝てないから心理戦で自爆させようってハラなんだろ??、、、、甘いな___甘すぎてどうしようもない____現役スピナーのくせにペン回しナめてんのか」

「ナめているのはそちらの方です この勝負、ヤミヒロさんは負けたとて”リーダーの実力不足が露呈”、つまりヤミヒロさんは勝敗に関わらず辞任できる口車が主張できる。そんな稚拙な言い分、我々は一切通しませんよ。負けたら即効この後あるペン回し集会に参加して貰います____そしてなにより...」



もはや背景にまで熱を感じる強烈な睨みを利かせながら彼は言う









   「バドシの可能性はNPC@13リーダーヤミヒロ、貴方以上です」










___勝ちますよ・・・私達は....








「い














・・・・・


      い

      い

      じ

      ゃ

      ね

      え

      か・・・・・・








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

                      ほ


                      な


                      や

                      ろ

                      う

                      か

                      ッ

                      !!


                           ワ

                           レ

                           ッ

                          !!!!」












弓なりの上昇軌道で攻め立てるバドシは思う。__こんなに心地よくキれたのは初めてだと

自分を応援してくれる仲間がいる。自分を認めてくれるライバルがいる。

そのことが今はどうしようもなく嬉しく、ありがたいと。そしてもう一つ___

・・・・強敵じゃねーか・・・・・・おもろすぎてしゃーない・・!!!

感情には流されない。勝ち取る意思は冷静で、頭を使わないと損に思えたから。

___だからバドシは己の勝ち筋を見出し、行動する

「!?」

バドシの弧はイメージ上でしか成立しなかった。そうさせたのはヤミヒロではない、バドシ自身である。一瞬攻めると見せかけての劣弧フェイント、なぜなら___


・・・・やはりカウンターかいなヤミヒロ・・・相変わらず凄まじい速度やで・・・

ヤミヒロは迫り来る彼奴の躊躇わないスピード速度は外したら遠心力で自爆もありうるほど___あまりにくさすぎて”トラップ”があるかのような攻撃

案の定
・・・・・攻めと見せかけて瞬時にペンを引くんだろバドシ・・・さっきと同じ相手を見ずの予測防御ならこちらは予測を超えた攻撃を。そう、被弾距離を伸ばせばいいだけのこと・・・

ヤミヒロは腕ではなく肩を伸ばしながら、バドシの腹部を狙うようなイメージでペンを走らせる。予測防御でそこには敵がいると確信しているからだ


・・・せやろうなあ・・・でもなっとらんわヤミヒロ・・・ワイの方が一枚上手やで!

バドシはたしかに弧の軌道を止めた・・・が、しかし、引きはせずに逆に押す動き

・・・逆なんやで・・・引いてダメなら押してみろや!!!ワレ!!!!

「ッ!!」

完璧にタイミングをずらされたヤミヒロを襲う放物線。ここで決着か、否、なんと“バドシから”闘牛士のようにドクターKTを流麗にかわす。いや、かわしたというよりは、はなから衝突させまいと虚空を攻めていたので“すれ違った”が正しい表現なのかもしれない。

バドシはすれ違ったと同時に再び静止すると__

・・・さて、オーバーディフェンスで自爆やでヤミヒロォッ!!!

反則行為オーバーディフェンス/お互いのペン距離が30cm以上離れた場合失格とする

その判断基準は、”先に”30cmラインを外したものが失格というもの。当然といえば当然だが、基準として”攻守”は関係ないのがこの反則技の厄介な部分___そこをバドシは利用した


バドシは静止し、ヤミヒロはこのままではバドシの下腹部へ、30cmラインを越える状況

すべてはイメージで予測しあうほどの”風”の出来事だ。

じゃんけんの手を出している最中に選択は変えられないと同じ。もはや攻守のタイミングで決着が着いているといっていい。

バドシはそう思う_____だが、、、、、ヤミヒロはパームスピンをしながら30cmギリギリのラインで無の摩擦へ

同じ静止の事態 されどヤミヒロはチキンレースの車ごとく安堵に対しバドシは南極大陸の氷付け____精神状態は天と地、、、、なぜなら...

・・・パームスピン・・・・・・最強の防御やないか・・・・あん!?・・・


ヤミヒロはNPCのリーダー、ペン回しにおいてバドシが知らざる秘密を沢山心得ている

だから、もしかしたら反則勝利を得られないかもという予見もしていた。なら静止時の隙を攻めようと準備も吝かではなかった。なのに、

・・・・これやあドつけんやないか!!!!ワレ!!!!!

パームスピンは平らにした手のひらでペンを慣性回転させる特殊技である。ゆえに攻撃しようものなら相手の人体(手のひら)に触れるパワークラッシュで反則に。先の試合、コンパス針がテルの手を傷つけた時のような”偶然性”の主張は難しいだろう。なにせ攻撃が一方的すぎる

よく考えたものだと、さすが俺らのリーダーだと、よどみ無い感想を抱くもバドシにだって仲間に頼られたプライドってもんがある。そうだ。

・・・静止時の隙がおじゃんでも、起動時をドつけばいいとちゃいまっかワレ

パームスピンは慣性を原動力としている。だからいずれインフィニティへと技チェンジしなければならない


・・・・・いくで!!!


6回転か7回転かししたパームスピンは必然、親指と人差し指でペン先を摘まれインフィニティの構えに戻るヤミヒロ___そこを・・・うがつ!!!


・・・いくら重い攻撃力やさかい、スピードに乗る前に叩けば自分にも勝機はあるう・・!


しかしバドシはこうとも思う。 思い切り叩きつける際に勢いがありすぎてヤミヒロのペンを落としたと同時に自分のペンも落としてしまう“道づれ”をくらうのではないかと。。まだまだ浅いペン回し歴、だから頭を使い策を練った

その工夫とは、ペンを“当てる”のではなく“捻る”という攻撃法

ペンが当たる直前、親指と人差し指を使い指を捻らせる。例えていうなら二本の指だけで音を鳴らす動作と同じだ。問題はバドシのペン先にはグリップがあっても、キャップ付近(攻撃ポイント)には相手のペンを捻らす摩擦源(グリップ)の類がついてないこと。でも...

・・・ヤミヒロのKTには両端に強力なグリップがついとる・・・!

ドクターKTにはペン先チップと本体をくっ付ける役割を持つグリップが両サイドに付けられている。グリップの長さは両方とも同じで約4㎝____だからの部位だけを狙い、そして...



・・・・・・・・捻り潰すんや・・・ワレッ!!!!





                 バチン!



まるでボクシングのような__強烈な左ストレートが決まる




                          ..............はずだった。



それは文鎮でも叩いたのかと、そう錯覚させるほどの違和感で無残に跳ね返されたバドシのペン

KTとの衝撃と共に伝わってきた悪魔的な重量感はもう、ヤミヒロがすごいスピナーだとかそんなレベルの話じゃない。なにせ一本目に瞬殺された重みをはるかに越える骨に響くほどの衝撃だ。それを助走速度がほぼない状態でやるなど物理学が黙ってない


宇宙に反した行為だと・・・しかし絶望感ではなく好奇心に駆られたのは、バドシのペンはまだ手と共にあるからである。不幸中の幸いとでもいうべきか、バドシが見出した”捻る”攻撃が自らが持つペン先グリップの摩擦力増加という防御面に働き、落下までには至らなかったのである


「不思議か? おっかない方のバドシ」

「ああ しょーじき 種明かしして貰いたいぐらいの興味はあるで」

「なら教えてやるよ」

「・・・あ?」

「教えてやるといっているんだ」

「・・・・知ってるやろ。  この学校のすぐ隣には渋巳川っつう川がある」

「だから?」

「冗談やったらてめぇごと 沈 巳 川 っつうわけや」

フッと冷めた感想ののちヤミヒロはネタをばらす

「重心だよ。このドクターKTは細工がしてあってな、双頭ペンなのに重心が中心じゃないんだ」

「なんやと」

「ああ、片方のキャップだけ鉛で出来てるからそのキャップに向かって重心は大きくそれてる」

「・・・てこの原理の応用かいな」

チッとあからさまな苦い表情で舌打ちをするバドシ

力がかかる力点である“重心”と力をかける力点である“指先”が遠ければ少ない力でも打撃力は高まり、近ければ機動性増すインフィニティバトルの物理法則

そんなこと本来はいちいち覚える必要もない。体系的理解できなくとも感覚で十分補えるからだ...しかし

・・・さっきのパームスピンは防御するためだけやない・・・ペンの持ち位置を逆にして重心を変えるためでもあったんか・・・・・・・・


・・・・・・・・一本目は指先に重心がよる機動型だったんか・・・信じられん・・・


・・・・まずい、ほんだら打撃力が高まった今のKTは絶対相手にしたらあかん・・・・

                         骨に響いた感覚は関節の隙間に小さな蛇がぐにゃぐにゃとよろめくような嘔吐感へ変わっていく


・・・とりあえず逃げるしかない、、、が、


「そうバドシは二つのペンと戦ってる。今は重火力のペン 二本目の序盤と一本目は機動フォルムのペン」

「・・・・」

「もうわかってんだろ? 一本目の攻撃を、今、この重火力フォルムでくらったらどうなるってことぐらい」

「・・・!?」

バドシは瞬間、体中のありとあらゆる全ての細胞が鈍色の海に浸ったのを知る

ヤミヒロは攻撃にこない、、、、、、、手のひらに風を作っている

・・・・またパームスピンかいな!!!????

クルクルと人差し指の付け根付近で綺麗な円軌道を画くKTと、その合間にできたバドシの思考時間

・・・・ダメや・・・そりゃあ今なら重心がどこかわかる・・・でもその後はまったくもってわからへんで・・・

ドクターKTは見事なまでのシンメトリー、外見ではその判断はしにくい

ヤミヒロはこの後、どちらのフォルムにチェンジするのか

指先に重心がある機動フォルムなのかその逆の火力フォルムなのか



・・・・・どっちや、、どっちや、、、、、、、どっちやッァ!!!!・・・

刹那、

・・・・ふぅ・・・・どちらにせよ負けやないか・・・・・



                             んだら!!!!・・・


ヤミヒロはみた。まだパームスピン慣性下にあるKTに立ち向かうフェニックス(バドシ)をみた。

・・・絶望的状況でもなお、、、

            なにかを見出すとは、、、

                      まさに不死鳥バードシー、、、なるほど




「これがお前の 【 可 能 性 】 か!!!」


「____________」


無音さえも無反応。

集中するということは脳の活動を活発化させることではない。むしろその逆、出来る限り使わない機能を剥ぎ取るとこ。精神を研ぎ澄ますバドシに音はない、あるのはただ勝利へのイメージとその動きだけ。


捻る攻撃を与えた際のことを思い出す。自分にとってあれは失敗ではなかった

ちゃんとKTのグリップに攻撃は当たっていた。よくやったぞ自分。

確実にうまくなってる。そりゃあ四六時中回してんだ、そうでないと困る。

そう、、、、そうっすよ____負けたくないじゃない_____


_____僕は勝ちますよ リーダー!!!


もはやキれることさえも排除したバドシの感覚は五指とそれに関連する筋繊維のみ

パームスピン中にも関わらず己のペンを向かわせるのはバドシの可能性。

どんな状況でも自分に正しく、”よくやった”と言える強さ。その強さに自惚れない清清しい精神。

だから一歩間違えればパワークラッシュの反則行為でも自分をしないと、そう思える。


・・・・・だって僕は、、、KTのグリップにだけ攻撃入れることが、できたんすから!


両者の距離はもはやすぐそこ。

「_____ツ!!!!!!!!!!!!!」

バドシは行った。まずは半回転だけインフィニティで間合いを確認し、即座にインフィニティリバースでトドメを刺す。さながらプロゴルファーによるホールイン直前のパターショットのような洗練さで

貰った__!!! KTグリップを見事に捕らえる、反則は成立しない。後はそのまま手の外へ_____  


              「楽しかったよ バドシ」


忽然とKTは飛躍した。KTは“自ら”の意思で空へと羽ばたいた。つまりバドシのそれはグリップに触れるもののすぐさま離され、逃げられてしまったということだ。

放物線でも直線でもない、ただヌルりと鈍足に、嘲笑うかのように、敵から離れていく脱走者

集中力で感性が鈍ったバドシには、それは亡霊、妖怪、オバケ、心霊現象、この世のオカルト全般、なんにでも見えてしまった。・・・・もう、やになるっすね。。。

しかしながら今一度正気を取り戻してそのオバケを視認すれば状況理解

「・・・・ペンを・・・・・持ち替えただけったすか!!!」

そう、ヤミヒロはただパームスピン中に使ってないもう片方の手でペンを移し、回しただけ。
 反則ではないのかとう声が聞こえてきそうだが、ペンを持ち替えるというのはそれだけでペンを落としたりペン以外を使った反則防御になりやすい危険極まりない技であるため反則指定になっていないのだ。そしてなにより・・・・



利き手チェンジ・・・その最大のデメリットにつけこもうとした・・・


                        ・・・それが不死鳥の最期だった。



「・・・・・・え・・・・・」


「・・・・・・・・あ・・・」


「・・・・・・・・・あああ」


「____________」・・・・・気づいてはいけないものに気づいた・・・・・


「ああ・・・・・・あああああああああ・・・・・」


「_____________________」・・・・だめだよ・・・・そんなのってない



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「____________う・・・・・・・・・・・」


「____う・・・そ_____や・・・・・・・・・」


「_________うそやろ____________」


バドシのペンは





何も触れることなく五指から離れ





そのまま床へと落下



正真正銘


完全に

完璧に


究極的に



ペンが床を叩く、、、、跳ねる、、、、ぶつかる、、、、転がる、、、、、止まる、、、完全に止まる。





_______静止した。  






    「勝負ありですわ 二本目もヤミヒロさんの勝利 二回戦はヤミヒロチームの白星」





勝負は三回戦まで、、、よって

「インフィニティバトルはこれにて決着  ヤミヒロチームが優勝ですわ」







           ・・・・負けた・・・・・






「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい」

「なんで謝るんですかバドシ 私も最後まで気づかなかったのですよ」

「それは・・・そうっすけど」

「オラは今の試合すげえって思ったぞ だから気にすんな」

「リーダー・・・・やっぱり強いっすよ・・・」

下顎が震えて歯音を立てるも決して涙は流さない、寸前まで溜めるも一滴たりとも溢しやしない。

・・・・だってこれ、、、勝った時の涙だったっすから・・・・・・・

勝てなくて悔しいという気持ちはある。でもそれ以上に自分の実力不足が悔しい。

相手は自分よりもぺん回し歴も練習時間も長い______だけど


・・・・“同じ手”で負けたんすよ・・・・僕は・・・・・!!!

バドシは箸を持つのも、ペンを握るのも、もちろんペンを回すのだって左手 サウスポースピナー

それに対しヤミヒロは右利き__しかしバドシとの勝負最中、終始”左手”でペンを回していた

普通ならすぐ気づくそんな違和感、されどヤミヒロの激しい攻防を前にそこまで気が回らなかった。いや、全てはバドシに悟られないためのヤミヒロによる策略

最後の最後にペンを持ち替えて、今までの勝負は”序章”だったと動揺させる悪魔のような罠


「完敗っすよヤミヒロ 一筋縄じゃいかないと思ってたっすけどまさかここまでとは」


そういいながら健闘の左手をリーダーへと伸ばしたバドシ


「約束通り_____もう終わりだ」


握手の手は拒絶の背中を見せて成立せず、ヤミヒロは右手で遣り戸を開く

・・・・この一歩、、、、、廊下を跨ぐこの一歩で、、、、すべては終わる、、、、

・・・・・・・・・やっとだ・・・・やっと終わったんだ・・・・・・・・

・・・・・これでいいんだ・・・・なにもかもうまくいった・・・・・・・

・・・・・・・・俺のストレート勝ち・・・・・・ホント・・・あいつ等ももう少し・・・・

・・・・・いや、もはやNPCと俺は関係ないか・・・・・・・・・・・・・・・・・

NPC結成以来、教師にマークされたり、テストがやばかったり、、樹海をさ迷ったり、、
、濃すぎる日々だった、、、、有り得ない出来事の連続だった、、、、、、

・・・・・・そう、、、俺には似合わない、、、臆病な自分にはそんなの日々扱いきれない、、、きっと罰が当たる日常・・・だから傷つけちまった・・・・・・・・

・・・・それもおしまい・・・・・・・・本当の意味で全ておしまい・・・・・・

・・・もちろん友を傷つけた出来事が無かったことになるといいたいわけじゃない・・

・・・・ただ、もう二度とそんなことにはならないように・・・自分を縛り付けるだけ・・

・・・あの時の痛みは一生忘れないよう常に思い出す・・・・・・・・・・・・・・

・・・出来る限り、考えうる全てを使って自分を抑圧する・・・・・・・・・・・・

・・・・別にいいじゃないか・・・・死ぬわけじゃない・・・人生まだまだこれから・・

・・・・・・・・まだまだ・・・・・・・・これから・・・・・・・・・・・・・・

・・・・山猫のじいさんだっていってた・・・俺はペン回しが嫌いだって・・・・・

・・・・吉宗先生には、バスの件で散々叱られた・・・いつからお前はそんな性格になっちまったんだって説教の最中に何度もいわれたよ・・・・・・・何度も何度も何度も何度も・・・・・・

・・・てっさんの言ってることは難しくてあまりよく分からなかったけど、”ただなにも無いまま一生を終える”ことはないらしい・・・ならもうなにも考えず、ただ流されて生きていったっていいだろ・・・・・・・・・違うのかよ・・・・・・・

開ききったドア。後は去るのみとなった教室。背中からでもヒシヒシと無数の視線を感じる

が、誰として言葉を発しなかった。当然だ。俺は勝ったのだから・・・・勝ってしまったのだから・・・いや・・・・

「なに考えてんだ俺・・・」

そうボソッと自己嫌悪をつぶやくヤミヒロに対して後ろからは声はない




                            
         だがしかし、前からはあった。


「なによ独り言?? まったくウチのリーダーはこれだから風格ないのよ」



突如 鎖骨付近を押されるヤミヒロ。柔な片手だからと甘くみたが予想以上に教室へとバックしてしまった。

「ッ! なんだよ・・・いt・・・・・・」

その甘い香りを伝播させるショートカットよりも、

凛とした淀みの一切ない目元よりも、女の子らしい妖精のような肌よりも、

細くそれでいて儚さを感じる長いまつ毛よりも、

____ただ_____


           ・・・・右手を巻きつける包帯に釘付けになってしまった。

そう彼の目の前にいる少女は紛れもなくNPC副リーダードンマロ。

「なによ文句があるなら言ってみなさいよ」

「・・・・怪我・・・大丈夫なのかよ」

「ええ大丈夫  全然平気ねこんなの 余裕だわ」

「・・・おれ・・ほん・・・・・ぐってくれ・・・・」

「は? もっと張りのある声出せないのリーダー」

「俺を本気で殴ってくれ!」

「・・・ッ!!!」

刹那、ドンマロは自分の唇を強く噛んだ後で、それではまったくもって耐え切れないとヤミヒロの胸部に強烈な頭突き叩き込んだ___その予想を越えた行動にヤミヒロはバランスを崩して床に倒れこむ

ドシャン!と周囲にあった椅子を弾き飛ばしながら盛大に尻餅をつくヤミヒロ___腰に手をあてながら状況を確認しようとするもドンマロはそれをさせない

瞬く間にヤミヒロの目の前まで来れば俯瞰し、スカートが見えるなんてお構いなし今度は足でリーダーを蹴り飛ばす。

腹筋に一発、、、みぞおちに一発、、、喉仏に一発、、、どれも利き足を使った刃を刺すような蹴り。

朦朧とする意識の中、ヤミヒロは仰向け状態で息を荒げる。 それでもなんとか立ち上がろうと震える足を曲げてみるも

「----ッ!!」

まるで曲った鉄を、熱と打撃で正す鍛冶屋のような垂直蹴りが最後の一撃

合計四発の殺人蹴りをくらったヤミヒロは再び倒れこむ

もう当分立ち上がれない__そんな考察をしたところで突如なにか、巨大な“わたあめ”でも乗せられたかのようなふわふわとした、それでいて少し暖かい感触をヤミヒロの上半身は得ている
。___ドンマロだった。


どこからそんな力が沸いているんだというほどヤミヒロをしっかりマウントしたドンマロは、しかし磨り減ったカセットテープのような声でこう問うてくる

「今さっき、なんていったの・・・」

「・・・・なに・・・てなにが・・・」

「俺を本気で・・・なんですって?」

「ああ 俺を本気で殴ってくれ・・・そういったんだ  わかるだろ・・・俺のせいでお前はそんな手になっちまったんだから!」

「ふざけんじゃないわよ!!!!」

ヤミヒロの胸倉を掴みながらその憤怒の声は校舎全体に響き渡る

そして殴る。顔面を、鬼の形相で殴り続ける。一回一回、腕ではなく腰を使いながら渾身の拳を振り下ろす。

「ふざけんなふざけんなふざけんなああッ!!!!!」

ドンマロはそう、なにかにとり憑かれたかのような猛獣の息で何度も何度も殴り続けた

手が赤く染まろうとも関係ない。ヤミヒロの頬が千切れそうならそれでいい。

・・・・こんなのがうちらのリーダーっていうなら、死んでしまえばいいのよ・・・

「やめましょうドンマロ」

そう殴るドンマロを止めたクルタン。片方で腕を掴み、もう片方で手首を掴んで静止させようとしたクルタンだったが、片方の手だけで容易く止まった。相当疲労している証拠だ。

「私の勝手でしょ 離して」

「貴方はリーダーになにを求めているのです。 ただ殴って、それで解決することなのですか」

知らないわよそんなの!と、左肩に残された最後の筋力を使ってクルタンの手を振りほどく

「シュッシュッ・・・・これは私個人ではなく、メンバーの意見です 聞いてください」

「なによ」

「NPC副リーダードンマロは今も大事にそこにいますか?」

彼女は即答した

「当たり前よ・・・!!」

そして深呼吸したのち

「ヤミヒロはNPCのなに?」

「勝負には勝った 俺とNPCは関係ない」

「・・・・・これで終わったと思ったら大間違いよ」

そこまで言うなら最終手段ね、とドンマロは急に顔を下げた

不適な笑み、口を大きく開けて整った前歯をチラつかせたと思えば

なにか確かめるように口の中に舌を回し、喉元が微かに上下する

それと同時に、ボロボロになったドンマロの左手はヤミヒロの耳元で柱を建てた

近づくピンク色の唇はこの時期にしては妙に潤いを保っている。やはり女の子だからリップクリームとかつけているんだろうか___にてもやわらかそうななんとも淫猥な形状をしたそれに、ヤミヒロは動揺せざるを得ない

・・・・なんだ・・・・・なにをする気だよ・・お前・・・・・・

         

             ヤミヒロは顔の一部に感触を得た。

瞬く間に顔全体を包み込んだその感触はまるで目の前が真っ白・・・・・いや、本当に真っ白だった。そして微かに匂う麝香の香りに心地よくなりながらも慌てて首を上下に振れば視界は開けた

眼前には“なにかを咥えた”ドンマロがいる。

意味が分からない・・・なんでそんなことをしているのか、ヤミヒロは頭の中まで真っ白になった

ふわふわとした、柔らかく、、不思議な感触

                               このままでいいはずがない


閉じられた視界を取り戻すようにして頭を左右へと振るが、やはり夢ではない

触感もそこにいるドンマロも、、、力の抜け切った自分の体までもがきちんと実在している

このままでいいはずがない

ヤミヒロは最後の抵抗だと、自分の唇を動かした



「おまえ・・・・・・なんのつもりだよ・・・」

「なにって・・・・・“本気で殴るため”に決まってるでしょ」

口を使って器用に解きながらヤミヒロの顔へと垂らす白いそれは、間違いなくさっきまで己に巻き付けていた包帯

「殴るってつまり手を使えってことよね しかも本気でってことは、利き手である右手を使えって要求よねえ?」

そういいながらドンマロは骨折した指の一本一本に無理やり力を入れて殴る形に作る

まずは手を折って、その後で第一関節を曲げる。が、骨と骨が擦れる激痛にドンマロの全身は硬直を繰り返す・・・しかし

「し、知ってる リーダー・・・・・素手での殴りあいってね、殴られる方よりも殴る方がよっぽど危険なのよ

ハリウッド映画とかじゃ失神させたりするけど、実際はそんなこと稀らしいわ 人間の頭蓋骨って丈夫なのね・・・・ッ!つ~ きくきく」


「殴る方がはるかに危険  小指は負荷が掛かればすぐに折れちゃうし、相手の歯とかに当たって手が切れたら大惨事ね   そうなった多くは手の内部奥深くまで切り込みが入って、しかも黴菌の侵入を許すから適切な治療を施さないと手遅れなんてこともざらにあるらしいわ

当たり前よね、普段は菌が入りえない箇所に菌が入るのだから免疫細胞が暴走して自分の細胞まで破壊していく・・・下手したら手を切断ってこともあるかも」




        「っで、、、ヤミヒロはさっきなんて言ったのよ」





「・・・・・・・・」


「なんて言ったのよ!」


「・・・・・・・」


「答えなさいよお!!!」


「・・・・・・・」


「殴る側の方が危険なんて知らなかったかもしれない アンタ馬鹿だから」

「本気でって言葉の意味も考えず突発的に発しただけなのかもしれない アンタアホだから」

でもね
「ペンスピナーの私に対して“殴れ”って・・・リーダーはそんなこと言ってなにも感じなかったっていうのッ?!」


「_____」


「アンタもスピナーでしょ  私達のリーダーだよねヤミヒロ!!」


「____」 


「・・・じゃあ・・・・・・・・_________行くわよ」

ドンマロの口内は痛みに耐えるために施した処置で、もはや血味で満ちていた

それでも左手を使って無理やりその”本気の利き手(右手)”を丸め込ませれば型の完成。あと全体体重を使って振り下ろすだけ、、殴るというより落とすに近いけど、もうそれしかないのだからそれでいい。そうすればきっと、、、______私の手を使い物にならなくなる



____スピナーがそんなことしちゃいけない?


_____いいのよ別に、目の前にいるこの人間を信じてるから


______今でもペン回しが大好きなスピナーだと信じてるから


______だからこの打撃は成立しない 絶対に手のひらで掴まれて避けられる


______反面、もし違ったらアウトだけどね 

_______迷いなんか一切ないわよ___痛みなんてもう慣れたわ

_____まったくウチのリーダーはなんにもわかってない

______アンタの痛みより私の痛みの方が大きい?__当たり前じゃないそんなの_

____アンタは私の痛みしかしらないでしょ???______

_____私はね______その四倍よ_____

____バドシの、テルの、クルタンの、NPC皆がリーダーを失いかけてる痛みを知ってるのよ___

・・・・・アンタが辞めるとか言い出した以降、、、、、あんな終始無言の冷めたペン回しをするグループなんて・・・・二度とゴメンなのよ・・・・・

・・・・そしてなにより、あんな凡ミスで大怪我しちゃった私が一番憎いのよ・・・・





             ざけんな 





・・・・NPCが私の事故で壊滅するなんて絶対に許さない・・・地獄に落ちようとも許さない・・・・だから...、、、、私は私自信の意志で、、、私の中にしかない唯一無二の魂で、、、、、全身全霊で、、、、、







__________今からリーダーをぶん殴るんだから__________________







少女は高々と右手を伸ばしたのち、彼の頭部のすぐ横の床に自らの額を押し付ける。

完全に”入る”構え。誰にも見えないからと安心したかドンマロの頬には一縷の涙が流れた。

「それじゃあいくわね」

そんな柔らかい口調で歯を噛み締め、ドンマロはギロチンの如く骨折した右手を振り下ろす

「・・・・おいおいやっぱ止めた方がいいんじゃねーか」

「決めたっすよねテル君 俺らはもうドンマロに託すって」

「シュッシュッ・・・・・・・・・NPC副リーダーの意地、、、信じさせてください」

その拳は血管を圧迫しながら、自らを絶つように全力で、、、、殴り落とされた

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             「なんでだよ」




痛みで麻痺した右手が今、どうなっているのか分からないドンマロ___が、その言葉を聞いて状況が飲み込めた



・・・・・なんとか・・・・・・・やったかしら・・・・ね・・・・



「・・・なにがよ・・・・・その手はなに・・・・・・条件反射?」

「違う 俺の意思でお前の手を止めた」

「意味不明ね」


「それはこっちのセリフだよ____なんだよ__なんでそこまでするんだよ・・・」


                   ・・・せっかくうまくいくとおもったのに


「意味わかんねぇ・・・・・そんなキャラじゃねーだろお前」


              ・・・俺を本気で殴れといえば、軽蔑されると思ったのに


「お前らも同じだよ・・・なんで本気で止めないんだよお!! ドンマロの手 ダメになるところだったんだぞ!?」


              ・・・・無視されて、相手にされなくて、、、今度こそNPCとさよならができるって・・・そう思ってたのに・・・


「ああ!!!???  それでもお前らスピナーかよ!!!!答えてみろよ!!!!」



                   ・・・・なんで本当に殴りにくんだよ


「アンタが辞めるなんて絶対に許さないからよ」

               ・・・・・・なんでそんなに自信たっぷりなんだよ

「ヤミヒロさんはうち等のリーダーっすから」

                ・・・・・・・・・・・なんでそんな笑顔なんだよ

「そうだそうだ コンキョ? そんなのしるか~ なんだ~」

              ・・・・・・・・・・・なんでそんなに堂々としてんだよ

「シュッシュッ・・・」

               ・・・・・・なんでライター、スラッシュさせてんだよ

              「・・・・まったく・・・意味わかんねぇ・・・・・・」

「リーダー あんたNPCを辞めたい?」

「辞めたくない・・・と思う」

ダメだ どうしても踏ん切りがつかない

これでも真剣に悩んでたんだ そうコロコロと意見が変えられるほど器用な人間ではない

自分自身はペン回しが未だに好きだと、バドシとのインフィニティバトルでヒシヒシと感じたけど、、、やっぱり気持ちの整理がつかない___”もしかしたら”が収まらない

そんな優柔不断の俺に対し、ドンマロはきっと怒鳴りつけるだろうなあと予想したが、しかし

「そう、ならそれでいいわ」

「・・・え?」

「そう思ってるなら仕方がないって言ってるの」

「・・・・案外大人しいな 俺はてっきり...」

言う前に、怒るとでも思った?と呆れ顔で先に言われてしまうと、続けて

「私がなんで今まで怒ってたかわかる? NPCを辞めるって言い出したからじゃないわよ

ペンを無くして、、、それでNPCを辞めるってほざいたからキれたの

それってつまり、窃盗犯に自分の道を決めさせたってことじゃない」

たしかにソノ通りだとヤミヒロは思う。他人に流されて生きるための一歩だとも。

「ヤミヒロはNPCグループと合わないかもしれない それはわかった

寂しいけど、アンタが誰からの干渉もなく自ら決断したことならしょうがない

今度はスピナー仲間としてではなく友達としてやっていくだけのこと。私も小学生じゃない

アンタの意見は尊重する。」

でもね

「自分の道はただ一人、自分だけで決めなさいよ! 甘ったれるなバカヒロ!!!」

「なっ・・・」

コドクに続く新たなニックネームの爆誕に虚無感を抱きながらも、

・・・・たしかにその通りだよな・・・・

自分のことは自分で決める。

他人に流されることが自分が歩む道だとしてもそれは変わらないとヤミヒロは思う

・・・心のどっかで、、、失敗したら他人のせいにしようという甘えがあったのかもしれない・・・

「でも・・・俺はこれからどうしたらいいんだ。あ、これも自分で決めなきゃダメ?」

「いいえ 手助けなら私達に任せなさい 道を作るのは友達なんだから手伝ってあげる でもその道を進むかどうかは自分の意思だけで決めなさい さあ校庭に集合よ」

そういってNPCメンバーだけで集まればもう夕暮れ、しだいに冬を感じる風が吹けば、学ランとコートだけではちと寒い

「クルタン 例のこ ちゃんと着てるでしょうね」

「シュッシュッ・・・その前にヤミヒロさんへ説明が先でしょ」

それもそうね、手を叩くドンマロはリーダーに今後の予定を話した

「これからNPCメンバー全員で、無くしたヤミヒロのペンを探し出します!」

・・・・え?・・・・・ああなるほど・・・

「ペンを取り戻せば、純粋な自分の意見を主張できると、そういうことか」

「シュッシュッ そういうことです。 干渉してくる相手を除去すればいい そういうことです」

「除去って汚い言い方だなおい」

「実際に小汚いドロボー風情じゃないっすか! 容赦なしは当たり前ェッ!」

「んで、 どうやって見つけ出すんだよ」

ペンを無くしてからもうかなりの日数が経ってる。しかも一旦外に出たということは屋外を探し回るということだろうか・・・・見つかるとはまず考えずらい

「・・・もしかしてまた俺のペン GPS的なイタズラされてた?」

「シュッシュッ____そうであったなら楽勝だったのですが、、残念ながらそういうことでは・・」

「でも秘策はあるのよねクルタン! さあさっさっ呼びなさいよ」

「わかりました・・・では、、、、」

なにかを口にくわえたクルタンは次の瞬間、ピューーーーーーーーーーと高音すぎてあまり聞き取れない音を響かせた

そして、なにやらドタタタタタタと砂埃を上げながら猛スピードで近づいてくる影がある

ん?_____勘違いだろうか______俺はヤツを見たことがある気がする

ドタタタタタタタタタタタ

んん?____偶然だろうか___俺はヤツの特徴的すぎるシルエットに見覚えがある

ドドドッド度ドッド度々ドッド度ドッド

んんん?________お前かあああ____!!!!!!!!!!!


「ゴホッゴフッ・・・よくもまあ、盛大に砂埃撒き散らしやがって、ふざけんなよ!  てかなんでこいつがここにきてんだよ・・・・まさか・・・・」

「そのまさかです シュッシュッ・・・このこは私の可愛いペットです」

「・・・え?  この土佐犬捨てたのクルタンだったの?」

「土佐犬じゃありません 土佐犬のすかりたんです。ちゃんと名前で呼んでくださいね」

「う~ よしよしよし あ、ヤミヒロ! すかり~とか呼び捨てはダメよ きちんと
 す か り た ん ちゅっちゅっ~っていってあげないと許さないんだからね~きゃっきゃ~かあいいようかあいいよう あ~う~」

なんだこのドンマロキャラ変わりすぎだろ気持ち悪い吐き気がする、いやいやそんなことよりもこのライターマンに言わねばならないことが

「なんで危険種を捨てるような真似したんだ 犯罪だぞ」

「シュッシュッ すかりたんにはヤミヒロの家に侵入してヤミヒロ臭を覚えるという重大な任務があったのです  全てはそう...」



次の言葉で、亡霊のダイブスピナー編、最終ミッションが始まった




      「ヤミヒロ臭がこびりついたヤミヒロのペンを見つけ出すためにです」



        「く~~~~~ンッ!」



「可愛く鳴けるじゃねーか! こんちくしょ~!!!!!」

                              最終章1/1に続く

●筆者「くそっwwwやっぱり間に合わなかった 四月までには完結編うpしますのでよろしくです><」

                             

亡霊のダイブスピナー 【第四章 2/3】

2013-03-02 00:00:01 | NPC@13物語

   業者の力を借りなければゴミ一つまとも処分できない現代人

保存料合成着色料1000%SNSに堕落しもはや過去さえも踏ん切れない現代人

それではダメだと思ったんだ。。。キレイごとかもしれない、現実味の無い大それた話かもしれない、意味不明かもしれない。。。。でも。。。。。

できることはやっておこうと思ったんだ。。。。。




「・・・お前の話をまとめるとだ。 

このまま中途半端に脱退したとてNPCメンバーはあの手この手を使って俺をNPCに復帰させようとする可能性がある

というか俺から言わせれば確実だ 絶対になにかしてくる 

そこで条件つきのインフィニティバトル(ペン回し)で勝負し勝つことで有無も言わせず本当の意味での”NPC脱退”を手に入れる_____こういうことでいいんだよな」

こくん、と中学生とは思えない気品溢れた会釈もさることながら、いつの間にか右手にはティーカップ 左手には小さな白いお皿を持ちつつ弾力のありそうなピンクの唇でシナモンティーを啜る様は背景の綺麗な銀杏色と相乗して実にいい絵になっている。

「ペン回しで勝負ってところがさすがだわ・・・・辞めた俺には到底できない発想というのかな」

「フフフ あまり褒めると空から矢でも降ってきますわよ」

「それは困るから早急に帰ることにする  じゃあな」

踵を返し、手の甲だけで帰りのあいさつを済ます。たったそれだけのことなのだが、ついこの前までは夢にも思わないほど有り得ない光景

____最大の天敵に背中向けてじゃあなって・・・・過去の俺なら笑っちまうなきっと___

と、

「あ、最後に一つだけいいか?___なんであんな手の込んだやり方までして俺を呼び出して、しかも贔屓するんだよ 敗北した自覚があるというのならNPCを助けてやるのが筋ってもんだろ」

その問いに対し、少女は冷ます吐息を震わしながら言った

「フフフ 無条件降伏したわりには言うことは言うのですわね」

「それはこっちのセリフだ ラーメン底の件といい今日はご機嫌なのか?」

「・・・まぁいいでしょう  理由は明白 私は私に忠を尽くす ただそれだけのこと」

「・・・はぁ・・・本人はそれで明白かも分からないけど簡単じゃないな・・・意味わからない」

「敗北者の誇りを遂行している___っといっても同じですわね フフフ

では用も済んだことですしワタクシ達は帰りますわ  それでは三日後 お待ちしておりますわ」

そういうと両手に持っていた純白の食器は瞬時に消えて無くなり、代わりに影が二つになって鈴柱公園を去っていった


・・・・・・・・・・・・・やっぱりいたのかカラピン・・・。



   将来はクノイチかなんかにでもなるのかな・・・背中の緊張が未だに取れないのがそう思った原因だろう。






時は流れ、、、決戦の時。

パックンからは勝負の一時間前にだけミーティングをすると言われたので指定された体育準備室に赴いてみれば、知ってるような知らないような人物が二人、木製の椅子に鎮座している。

黒板にはパックン一味が出迎えていることをふまえ、この教室内は俺も含めて“五人”。

なんだよこいつら?とパックンに目線を送ればいつものようにフフフと笑った後で、

「今日限りの戦友とでもいいましょうか  個人競技ではあるものの仲間は仲間 仲良くしてくださいまし」

「・・・・・・はぁ? 3対3の団体インフィニティバトルなのは聞いてたがそれって俺とパックン、カラピンで挑むってことじゃねーのかよ」

「フフフフ ワタクシはそんなこと一度も口にしてませんわ 今、この教室で椅子に座っているこのお二人____それがヤミヒロさんの仲間、もとい団体戦のメンバーでしてよ」







「・・・・・」






「・・・・・」






「ぷ~くすくす」







____いや、別にいいんだよ 問題ない 全然問題ない 寛恕なヤミヒロは快諾快諾大いに快諾さ



                   ・・・・・ただしブルドラてめぇはダメだ









「あ・・・あ~~ッ!!!今、小生ことワタシこと天下のブルドラ君カッコ僕カッコ閉じに向かってなんか良からぬ視線でこっち見てきましぇんでしたた?」

「たた、じゃねーよ 見てねーよ」

「ちょちょちょちょちょちょ~! ねっ、ネタは上がってんだからねッ!!みみみ見てただろおおが!!!ウザそうな目でさぁ絶対見てたしたしタニシ旨しタニシ・・・・・え?証拠はってか???_____ふ~う やれやれガキですか」

「・・・・」

「うっっっっ・・・・わ~・・・・無言ですかあ・・・・無言系なオトコですかしぇん輩・・・・僕ら同級生ですけどねえ・・・・でもヒクッ__________!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そういいながら指を指されるも問答無用でスルー。 そしてまあ、文章にしていたらくだらな過ぎて即行deleteキーを押しっぱなしにするほどの茶番を15分近くこれまたしょーーーーーーもない男の前でシカトを決めていたところ、ようやくもう一方の女が口を開けた。

「黙り込んでいるだけで芸のない男 アナタも霊長類ならここに来た意味を考えてもっと合理的に動いてはどう」

腰まで伸びた後ろ髪を一つに束ね、整った顔立ちに長いまつ毛と切り込むような目線

バーミリオンストレートをスカートと共に靡かせれば正真正銘の女子である

「・・・えっとキミは誰だったっけ?」

そしてなにより気になったのは、綺麗なのにも関わらず見蕩れる隙がないほどの独特な雰囲気で威圧してくる様が、どことなくパックンに似ていることだった

「同級生、隣のクラスに在籍している。名前はレッド 不便だから今日一日は名前覚えておいてくれ___それ以降は忘れてくれて構わない」


「レッド・・・ああ、思い出した。 いつもブルドラの隣にいるよなお前」

「副生徒会長だ。ブルドラは会長なのだから組織的にそうせざるを得ないだけ__側近みたいにいうな気持ち悪い」

「酷いっしゅよレッドはん・・・・・ふぇ~んふぇ~ん___ぷんぷんぷ~~~~~ッ!!!!あ、すいませんマジすいません申し訳ありませんすいませんもう二度としませんすませんスワセン」

どうやらウチの学校は会長より副会長の方が強いらしい。いろんな意味でそう思った。

「・・・でだ。パックンに一番重要なこと聞きたいんだが、レッドもブルドラもペン回しできんのか?」

「愚問ですわね・・・ワタクシがマッチングミスをすると思って?」

たしかにそうだな・・・と納得してしまうのは、信頼しているからそれとも屈服しているからか____どうでもいい

・・・・実にどうでもいいそんなことは_____

とにかく今は勝負に勝つ  無性に燃え滾ったその感情で頭をフル稼働すると、ようやくメンバー編成やペンの選択、テクニックなど具体的な作戦会議に本腰を入れた








廊下側にはバドシ、クルタン、テル


                            窓側にはヤミヒロ、レッド、ブルドラ


               黒板の前にはパックン、カラピン




甲子園の開幕かの如く横2列に整列する両者と審判位置にパックン一味

ドンマロはあの怪我だ 傍観者になろうが来ると思ったがあの性格を考えてメンバーはこの試合のことを言ってないか

ヤミヒロは誰も見ようともしない。だって意味のないことだ。

俺はただ勝ってNPCとの縁を完全に断ち切る

そのことだけを強く思惟て、火照った身体は楽しそうに燻っていた

やっとだよ_______やっとケジメがつけられるんだよ・・・。

だからなにも言わない ・・・というよりあっちも一向に俺と同じで黙ったままだ

・・・はは、、、バカだねえ、、、・・・


言葉なしで語れる媒体か___残念ながらそんなもの今の俺にはないんだぜNPC


・・・・・・なんだこの有様、、、

気まずくなると予見した昨日までの俺がバカみたいじゃないか

そうだよ・・・やっぱNPCなんてどうでもいいんだよきっと

訴えかける感覚がないNPCメンバーからの声もない そんなんで俺に勝てると思ってるのか 
  

            ・・・ペン回しでよ・・・


三戦勝負、先に二勝した勝利とする  対戦カードは予め用意されたエントリシートに味方の誰が何番目に戦うか書き、審判(パックン一味)に渡すため勝負が始まる直前まで誰と誰が当たるのかはわからない


          インフィニティバトル第一戦  


            レッド VS テル


ルールは至ってシンプル お互いのペンを”ペン回しをしている状態”でぶつけ合い先に床に落としたしまった方が負け。つまり先に二回 敵のペンを床に落とした方が勝ち星というわけである。 勝ち星が多いチームが勝者だ。


  なお反則として故意にペンをペン以外にぶつける行為

   25センチ以上のロングペンを使う行為

 お互いのペンの直線距離が30センチメートル超えるオーバーディフェンス

   足を動かす行為、なおピヴォット行為も禁止

       空中技の使用

 0.2秒以上のペン静止、手首を使っただけのフェイク&パワークラッシュ

 明らかにペンとは言いがたい形状をした物体、素材の使用

      危険と判断できる改造  





______________________________などがあげられる。



テルとレッド



両者の利き手の上ではもうすでにペンが踊っている



テルは愛ペンのドクターグリップ零式






しかしレッドの使用ペンは・・・・・・・・・・・・・赤色のフィルムで不規則にうねりあげる・・・


  
           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見紛うことなきコンパスそのもの





その鈍く煌く鋼色の角は、紅に染まりしユニコーンか、、、、



「ふざけんじゃねぇえええぞワレ!!! 反則だろそんなもん!!!!」

久方振りに切れたバドシだが、”俺ら”はただの一人だって動じない。ヤミヒロにいたってはやっぱ迫力あるな~と人事な感想を抱くだけだ

「反則ではありませんわ 勝負を続けてくださいまし」

「ああ!? てめぇの作ったルールにも書いてあんだろ お前らもはよ見いや最後の2行・・・そしてくたばれ・・ッッッ!!!!!!」

「【明らかにペンとは言いがたい形状をした物体の使用】と【危険と判断できる改造】ですわね

フフフ レッドさん 弁解は?」

「コンパスは書けるペン 字を書こうが円を書こうが概念的に同じペン  改造をした覚えもない よって反則でないと主張」

「フフフ レッドさんの主張を認めます コンパスはペンであり違法ではない ___以上」

「糞ガッ!!!!」

それで殴り合いに発展しなかったのは、クルタンがバドシを説得したからである

そりゃそうだ、、、感情的に流されるよりその方が絶対にいい

たしかに、動き回る赤きコンパスはまさに凶器  針の部分に保護シートがついているもののゴム製なため生の人体に当たろうものなら容易く血で染まるだろう____だがデメリットもあるのだ


バドシはクルタンによって身動きを封じられたが冷静さを取り戻す気は毛頭ないと見える___レッドに対する視線が熱を帯びているのがいい証拠、しかしながらその視線をも封じようとする男が一人いる


彼は遮るようにバドシの前に立つと微塵も動じずペンを構える___そして...









「なあなあバドシ オラは大丈夫だから落ち着くンダ____











                   ____なあに、楽しんでくっからよ!」




「ッ・・・・・....___」


岩のように固まったバドシの拳は水分を含んだかのように崩れていた。



________________________________________!!!




最初に攻めたのはドクターグリップ零式

零式の意はテルにだけ許されたNPCオリジナルの呼称、錘を外しただけの無改造のドクグリをわざわざそう呼ぶのは彼にしかできない、さも改造したかのような奇天烈なアクション____短いリーチを生かした相手のペンを問答無用で叩き落とす動きはNPC屈指の破壊力を誇るからだ、、、、がしかし相手が悪い

鍵穴を抉じ開けるような強引なモーションも無残に円回転で交わされ、捻って、威嚇する

本当にゴム製なのだとテルの甲が悟ったところで第一攻撃は終わっていた

「ンダ~ ダメか~~~」

「・・・・・・・・・」

インフィニティバトルはただペンをガチャガチャと回して戦うものではない

そんなことをやってもすぐに自らペンを落としてしまうためインフィニティという八の字を描く様ゆっくり回す安定感抜群の技をベースに戦う。だからインフィニティバトルという。


クルクルと回るコンパスは、真っ赤なじゃばら傘でも回すような動きでを威嚇し続ける



一方、握りなれたグリップの感触を確かめながらヘビを飼いならすテル___どちらも隙を窺うようにも見えて仕方が無い


無邪気な少年の表情は実に楽しそうに、却って鉄仮面を外さない大人びた少女は沈黙を貫く



インフィニティ(8の字)の軌道をさらに深く理解するにはS字フックを二つイメージしてほしい

一方だけを逆さまにして二つ重なれれば数字の【8】になるだろう。逆さまにした方のS字フックをAとしもう一方をBにすればペン回し技『インフィニティ』の上下軌道は簡単に説明できる

A時にペンは下降しB時に上昇する たったそれだけ

もちろん手首を捻れば違う軌道にもなるのだが落下リスクも上がるため基本的にAで下降Bで上昇である

そしてここが一番重要、バトルの肝。軌道ベクトルがB→Aに変化するその時、、、それが最大の隙、、急所だ

テルはセカンドターンもいく

コンパスなど二本のペンを同時に回しているようなものだとテルは思惟た

いくら先端が二つある予測不可能な動き方だとしても突き詰めればレッドのいうようにやはりコンパスもペン インフィニティの軌道を描くただのペン。 B→Aの隙は必ずあるとみた

B________________________|A・・・!!!!

急接近はフェイク 零式の小回りの良さを駆使し衝突寸前で手を伸ばすのを止める、そして敵の指先ではなく手首が微かに空を向いた....

「ソコッ!!!」

カツンと丁度針の金属に当たる音、、、、、だが甘い コンパス軌道の不規則性で芯を捕らえきれず、故にレッドの手からコンパスは離脱せずにいた、、、、が、____テルは冷静だった

オーバデフェンス(敵とのペン距離30cm以上離れる行為)をしないよう適度な間合いを取りつつ防御に回れば.....


_____ガシャッ!_______________時は来た。


床に落ちたのは紅のコンパス  

「テルさんの勝利ですわ」

まずは先制と嘆息するテルとその仲間達

・・・・・・・・やっぱそうなるよな。。。

心の中でそう呟くヤミヒロは、レッドが使うコンパスの弱点がわかっていたからだ

それは圧倒的なまでのもろさ メンタルダメージでは他の追随を許さなくとも、針を抜きにすればただのガラクタ 

ペンを持つ位置が極端に細く短いというインフィニティバトルにはあってはならない致命的な欠陥がコンパスにあるのだ

だからさっきも、せっかくテルの強攻撃を弱にまで軽減させたのにしばらく時間が経つと耐えられず自らペンを落とした

・・・恐れに疎いテルにはまったくもって無意味だったか

これは第一戦、、早々にストレートで決着がつきそうだな・・・・・その予想はヤミヒロだけではない、誰しもしていること

                    ・・・・・そう、レッドただ一人を除いては。


テルVSレッド第一戦二本目、次にテルが勝てば第一戦はNPC側に軍配が挙がる

テルは開幕早々、初戦同様に開始直後から針なんぞ目もくれずに攻め立てた

針が届かないギリギリの射程圏内まで接近、ロックし そして叩き落とす、、、しかし、

その前にテルの皮膚は引き裂かれた

「・・・・ッ!?」

突如襲った猛烈な痛み

相手の間合い、針が届かないギリギリのラインで止まったはず____それなのに負った傷は紛れも無くコンパス針によるもの

カッターで切るような切り傷ではなく、一度刺されてから皮膚を抉るようにできた傷跡は痛みも完治の遅さもさぞキツいものだろう

不可解、謎でしかないのは、レッドからはまったくもって腕や手首を伸ばすモーションがなかったためである

そうまるで如意棒のようにオラの手の甲まで伸びて・・・・・・・あ、、、、、

百聞は一見にしかず、恐怖心を煽るその赤きコンパスを今一度よくと見れば答えは明白だった

「・・・・その遅さ、、、、自業自得」

テルへ向けた最初のあいさつは、いかにも蔑むようなソレだった。

「ンダ~ やっちまったな~」








コンパスの首は二つから一つに変わっていた。 もちろん片方を力ずくで折ったとか、そんなルールに抵触する行為ではない。

レッドはコンパスの“∧”の角度を変えたのだ。 一般的に円が書きやすいとされる30度ほどの角度から一気に限界ギリギリ175度まで曲げた、そしてコンパスを持つ位置を鉛筆に変えた

そして瞬時に三つ目の変化にも気づくヤミヒロ


・・・・針の保護キャップを外し、鉛筆部分(持つ部分)に被せることで安定性を確保・・・・



・・・・・・・・・・・なかなかやるじゃないか・・・・・彼女・・・・・・・・

テルからみても酷い光景に変わりない

目の前にはアイスピックにも似た直線的な凶器を振り回され、全長も倍近く伸びている

ただでさえさっき受けた傷後から血が滲んでヒリヒリと痛むというのになんたる逆境

それを畳み掛けるように今度はあちらから攻めて立ててきたものだから普通の人間なら降参しているところだ

「・・・・ッ!!」

セーブできる限界ギリギリの速さで振り回しながら攻めるレッド___冷血無比な彼女からしてみれば、人の手だろうがなんだろうが、たこ焼きを作る手際と一緒。

シュンッ!シュンッ!と躊躇いも無く虚空を刺し、そして抉り切る


・・・・・・・・・・・・


しかし楽しそうに
「うっひょ~  こっえ~!こっっっえ~~~~よ!!!」

天から貰った天真爛漫な性格に霧がかかることは永久にない

保護が解かれた鈍く光る針もなんのその、インフィニティで誘い、その逆軌道技であるインフィニティリバースでかわしながら様子を窺う

・・・・・そこなんだ・・・ッ!!!

下降軌道を利用して零式はその凶器を叩き付けた

当たり所は、針と支柱の境界線  かなりの負荷がかかるベストポイント

衝突面が大きいドクターグリップなら一撃で落下させることも・・・・・否、、、ダメ

変形前の双頭コンパスならそれもあったが、今は直線型、しかも持つ部分にはゴムがついていることもあり摩擦で滑らない___滑らないのなら落下することもない。

間髪入れずに攻め立てようとするも次の攻撃はレッドが先だった。

安定性を確保されてしまった以上、テルの独壇場とはいきはしないのである。

B→Aの隙を無慈悲に攻撃し続けるレッドに対し、やっと取れてきた直線コンパスとの間合いを保ちながらカウンターのチャンスを待つ

第一戦二本目が開始させて1分少々 未だにレッドのペン軌道が変わらないことを察するにどうやらインフィニティリバースは未修得とみてよさそうだ

後がないこの状況下、最後の秘策にしてはあまりに非力だし、そんな余裕もないからである。

長期戦になればペン回し歴の長い方、つまりはテルが勝つことは目に見えている

だから攻め続ける。 次に攻撃を許したら勝ち目がないから攻めるレッド

テルも余裕でかわしているようにみえるがそれは客観視でしかない

また刺されるかもしれないという恐怖心はほぼないが、刺されないように、ペンも当たらないようにと、いわば二重の防御を強いられているのだ

・・・・キツイな~・・・・・・もう行くしかないかもよお・・・・

思惟て防御を捨てれば、必然的に戦場は一変、、、激化した

バシッ!バシッ!と連続する衝突音 互いに攻めを譲らないノーガードの殴り合い

レッドには短期戦に持ち込める、しかし決定力不足が懸念される

テルには零式の力を最大限発揮できる、しかし怪我を覚悟せざるを得ない

両者が持つリスクとリターンの鍔迫り合い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・

拮抗した13回目の衝突音と共に事態は進展する

「・・・・・・ッ!!」

13回目と寸分狂わないタイミングで衝突___しかし14回目は鳴らなかった

テルの攻撃は空かされたのである

なぜなんだ・・・!?という心の中の疑問符は、手を負傷した状況と酷似している

手首も腕もペンの軌道もさっきと同じ動き方だったのになぜなンダ・・・・!!??

刹那、時間差で襲い掛かるスズメ蜂は零式を“刺した”

正確に言おう。背後を取られた零式の“グリップ”をコンパスは迷わず“刺した”

そのまま釣り針に掛かったか大魚を引き上げるように、放物線を画きながらテルの愛ペンは地面へと落下

「フフフ 二本目はレッドの勝利ですわ」

審判の勝敗宣言後、ヤミヒロは周囲を見渡した・・・・敵の中で気づいてるヤツはいなさそうだな

レッドもよく考えたものだ。コンパスの特性”角度変化”を巧妙に仕掛けた秘策。

激しい衝突でもネジがきつくしまった新品のコンパスなら角度は微動にしない

俺はミーティング時、レッドがコンパスを使うといいだした時、真っ先に否定した

だってそうだろ?。あんな衝突の際、角度がいちいち変化しそうなもんで戦えるはずがないと。

けれどもその予想は実際に新品コンパスを手にとれば間違いだったと気づかされた。案外しっかりしているのだ。さすが日本製品、ちょっとやそっとの衝撃じゃ変化しない。

でも、、、だ。その衝撃も10回20回、と連続して負荷が掛かればいくらなんでも角度はずれてくる。。。。。その”ちょっとずつずれていく角度”を利用したのである。

さっきの13回目、コンパスの角度は少しずつ、敵に気づかれないほど微かに、丁度ドクターグリップの太さ一つ分までずれた
必然、同じタイミングならペンは接触せず、外側に曲ったコンパスは背後に回りこむようにしてグリップを刺す

レッドはコンパスの構造を熟知し、短所を秘策へと変えた。いうなれば叩きあいになった時点で、テルは十中に嵌っていたのである

・・・・さて、問題は、、、テルがいつこのトリックに気づくか、、、だな

きつめに見積もっても開始15秒以内といったところか、、、それまでに気づかれなければ俺らの勝利。コンパスネジの疲労は保たれたまま、短期決着以外有り得ない。

「三本目、始めてください」

一秒目に飛び出したレッド。少々あからさまな気もするがこれでいい。

なんども話すようだがテルの得意なスタイルは接近戦での激しい攻防。目の前でそれが出来る状況に例え罠かもしれど手を出してしまう。スピナーになった当初から貫いてきたスタイルが身体に染み付いている。

だから一発目、両者のペンは迷い無く入った。火花でも散るかのような攻撃と攻撃、されど一回転分のインターバルですぐに次がやってくる。

弐発目、もうこれはさっきの再現だ。フェイントとか、そういう類の濁りが一切感じられない

参発目、再現ならもうテルは引くしかない。でもそれはない。完全に熱くなったその闘志は、一度のイレギュラーよりも自分らしい定石を目立たせる

死発目、レッドは指先は鮮明に悟った もう十分だ。もうこれで終わりにできると...そして




____フフフ______だから貴方は_______ワタクシの奴隷なの___




テルは四発目のギリギリで攻撃を止め、手を引いた。

レッドの額から汗が、ツーと垂れる。___最後の最後で気づくとは___往生際の悪い・・・!

違う。テルはコンパスの曲りなど今でも気づいていない、きっと一生気づかない。そして“レッド”も気づかないだろう_____己が四発目の際、勝利を確信して自分でも知らず知らずの内に口元が笑ってしまっていたことに。

小難しいことには疎いテルでもそういう直感視できるものは絶対に見逃さないのは野生の力が今でも残っているからか___このままではいけないと冷静さを取り戻す。

・・・・長期戦になるかもな

微量ながらそのため息には悔しさも含まれるが、ヤツは予想以上にせっかちで、

冷静になるのもすぐに止め、攻撃に転じたテルは瞬く間にコンパスとの距離を詰めていく。

レッドからしてみたら恐怖でしかない。____が、

___なら____刺されても文句は言えまい_____

レッドは手首を捻りフェイクトインフィニティの体勢に、、、針が下方向から真横を向く形へと悪変___普通に突っ込めば間違いなく五指に刺さる

これでは攻めきれない、そこでテルも技変更を試みる、十八番、高速ソニック系フリースタイルへ____インフィニティでは決して成しえない、ソニック連続コンボの“神速”を叩き込む

バババババッ!とまるで胴打ちの練習のように、ペンではなく速度そのモノをぶつけているのかように怯むことなく責める零式

絶対絶命か、レッドはそのコンボに歯止めをかけるべく隙を見定めるとノーマルを一回転。更に零式の真下が安全と見ればそこに入り込み、上がるようにしてハーモリニカルソニック

えげつない軌道に対してテルに幸運の天使が舞い降りた____零式の鍔にある小さなストラップ穴にレッドが乱舞するコンパス針の先端が入ったのだ

____ンダ~ラッキ~ィ~!______

並外れた動体視力の彼がそれを見逃すはずもなく勢いよく、まるでさっき自分がされた一本釣りを再現するこのように、、、因縁を晴らすべく引き抜く

しかし詰めが甘い、手首の捻り方が弱かったがためにインフィニティとその逆を小刻みに繰り替えされればもう、コンパスは開放されてしまった

まだだ、

もう一度針に穴を通そうとインフィニティの上昇角度を調節する___ように見せかけたのがテル、今日初めてのフェイント技____事態をさけるため無理やり軌道をずらしたそのコンパスはもう牛乳がたっぷり滲み込んだクッキーのよう___防御というにはあまりにも脆い、、脆すぎる___最後は超高速ノーマルで仕舞いにするもこれまで受けたダメージによるコンパスの角度変化が、それを阻止した



お互いに一歩も引かない。数々の策が入り乱れてもなお落下音が響かないのは、もう後が無いからか、それともただ両者が互角だからだけなのか___勝利の女神は迷い病

隙を見れば攻撃、そしてカウンターを繰り返すことはや10分

インフィニティバトルにしてはあまりに長い勝負時間にレッドは一時オーバーディフェンスギリギリまでコンパスを移動させ休憩をとる______しかしそうはさせないと零式は責めてきた

ヤミヒロは解せない

それはまぁ攻撃型だから責めるのは当たり前だろうが、闇雲すぎる

休憩を阻止された彼女が今受けている技は通常技の連打。さっきまで多彩なコンボ技を避けてきたレッドにとってもはや休憩しているのと同義だ

・・・・なにか、、、なにかある

自滅狙いか?・・・・そう思惟たヤミヒロは刹那、テルの考えるとんでもないトリプルCに心が躍った

・・・・テルめ・・・・・なかなかやるじゃねーか・・・・・・

軽く零式を避けていくレッドもある程度の疑念は抱いていた

ここまで技量を知りえていてこの攻撃、、、なにかある、、、、

「なぁなぁ~  ペン回しって楽しいよな」

唐突にそう発したテルは技変化、、ソニックにパス系を混ぜたここ一番の高速回転でクライマックスにかかる

・・・なにかある・・・・絶対になにかある・・・・・あんな安定さの欠片もない技使って、明確な勝機がないはずがない・・・・じゃあなんだ・・・・なにがあるのだ・・・・避ければいいだろ・・・・こんな・・・・・・・・!?

腕ごと引いたレッドのコンパスはヌルリと・・・・いやな感触に苛まれる


「_____オマエ___!!!」

「へへっ・・・もう遅いンダ~」

腕を止めてなんとか落下せずに済むも、もうグラグラ。。。持ち手に取り付けていたゴム製の保護キャップが長期戦のためズレて、ペンもろとも落ちそうになっているためだ

敗北・・・その二文字をまだ拒絶するレッド。。。コンパスを右手から左手に持ち替えようとする

「させないンダ!!!」

テルは最終奥義を繰り出す。。。インフィニティバトルではめったに使用されることのないクイック技トルネードで、その甘い凶器を吹き飛ばす。

避けきれないと悟ったか、はたまた最初からフェイクか、、レッドのコンパスは方向を変えテルへ向くと....人差し指を立てながら....

「オラと同じ!?」

そう、彼女もトルネードへチェンジ。まさかまさかのトルネード同士のスプレッドエンド!

・・・・まさかトルネードまでできる経験者だったとはなぁ・・・とヤミヒロはパックンに目線を送る


しかし返ってきた反応は・・・・・



____フフフ、レッドさんは、ペン回し歴1ヶ月ちょい まだまだスプレッド系を習得できるレベルではありませんわ_______

そういう憫笑するような顔つき

「燃えてきたンダ!!」

「___勝手に焦げてな」

レッドのトルネード見せ掛けだけのいうなればお飾り___零式が繰り出す強烈な竜巻を前に成すすべは無い____はずだが...


レッドはそのまま反則一歩手前の強引な回し方でテルの零式を自らのペンもろとも吹き飛ばした

いくらテルが放つトルネードだとしても、成功をすてた捨て身トルネードの力を前にすれば非力・・・・無残に床へ転がり落ちる零式・・・。


「・・・・・どういうつもりだ? ここまできて相打ちなんて・・・オラ少しシツボーってやつしちまったぞ」


「____相打ち?____バカな冗談」


「・・・・・ンダ??」


「落下したのはお前のペンだけ_____私の勝利だ」


そう指をさした方向は、窓側の壁。。。。。。。まるでダーツのように、綺麗に刺さったレッドのペン


「インフィニティバトルの敗北条件は二つ、反則を犯すか、ペンが手から“落下”するかだ
。無回転とはどこにも書いてない。

私のペンは落ちてない、ただ横にそれて“刺さった”だけだ」

・・・・まじかよお・・・・と助けを求めるテルだが、案の定クルタンはバドシを宥めるので手一杯なご様子

「・・・・オラ・・・・負けたのか・・・・」

床に落ちたペンを取るためしゃがみ込むと、泣きもせず悔しがりもせず、、ただ過ぎてしまった台風の爪あとを確かめるように無表情でそう呟いた

「_______」

「なぁ レッド」

「_____なんだ」

「このコンパス、新品だよな 回すために買ったンダ?」

「いいや___勝つために勝った」

「そうかぁ・・・・・ならこのペン、オラにくれよ」

「______引導でも得たつもりか____」

「インドーお??カレーか!?」

「___いい___もう用済みだ___くれてやる」

よっしゃーっと無邪気に笑ったテルはコンパスのもとへ走った。そして、

「おーい  やっと解放されたンダお前・・・大丈夫大丈夫心配いらねーぞ、オラは無改造シュギシャってやつだからな」

そういいながら刺さった針は引き抜かず、固定されたペンのネジだけ回せば、短いペンだけ取り出し自分の手に乗せた

「おお・・・おお!!  これでドラマーができるようになれば、俺もイチリューってやつなンダ~」

と、敗北に悲観することなくまた、ペン回しを没頭し始めた。

・・・・

・・






               第二戦


            ヤミヒロVSバドシ




「やあヤミヒロさん   てっきりブルドラが相手だとばかし思ってたっすよ」

「・・・・そういう作戦だよ  剣道やってんなら驚くこともないだろう」

そうっすねぇ~、と序盤の憤怒の息は何処へ行ったか、至って平常心を保つバドシ

「・・・意外と冷静だな、色々キレることは山のようにあると思うが・・・まぁいい、さあコールを審判」

「第二回戦 一本目・・・・・開始ですわ」


嘆声の類はない、その一言でペンはひずんだ。

銃弾のような速さにバドシの手の平はもはや空

まるで最初からそこにあったからのように、ただ足元に転がっている一本のペン___

____あれ・・・・・・俺ってば・・・・ペン・・・ちゃんと持ってたっすよね?___

自問しても答えはただ負けたのだという絶望感だけ...

・・・・

・・・

・・




つまるところ第ニ戦一本目は、格の違いを見せ付けたヤミヒロの勝利で終わっていたのだ


             
                                      つづく






ヤミヒロVSバドシ    そして。。。。。。


             NPC亡霊のダイブスピナー第四章3/3 2013.03.09.(土)公開

亡霊のダイブスピナー 【第四章 1/3】

2013-02-23 00:00:01 | NPC@13物語
ヤミヒロは本来、闇雲に突っ走れない人間である

RPGやアクションゲームの難易度設定が三段階なら迷わず一番難しいhardを選択するが、そこにvery hardがあれば話は違う

ひとまず二番目に簡単なnormalをセレクトしクリアできたらhard、、、余裕だったらvery hardといった具合に沈着してしまうのだ

負けたくないから? いや違う、気は弱いくせにある程度のリアル派というか

一文で表すなら”好奇心旺盛な臆病者”といったところだろう


                      そう、、、臆病者なら、、、、あんなことにはならなかった、、、、


徐々に自覚し始めた”臆病者”というスキルを切り捨てたのが全ての元凶

キャラじゃなかったと笑い飛ばせればそれでもいいかなって、、、、             甘すぎだろナメてんのか

上辺だけの主張性をぶら下げて、言葉だけの劣等感に逃げ出して、結果・・・この様・・

一瞬の気の迷い

ペン回しなんて幻想でしかなかったと、、、、そう自分で自分を叱り付けるのが、今のヤミヒロができる最大限の罪滅ぼしであった

「・・・」

栄養不足で震える両手でなんとか鍵穴を捻ると、無言で靴を脱ぎ捨て玄関を跨ぐ

いち早く自分の部屋のベットで横になりたかったが、このままでは階段さえもろくに上れないので冷蔵庫から適当に食料を調達してから部屋に戻る

ようやく長い一週間が終わった

幾分か心がスッキリしたように思えるのだから、きっともう悩まなくていい

正真正銘、これで終わり   素晴らしいとは口が裂けても言えないがベストは尽くした

今にして思えばきっとこうする方法しかありはしなかったんだ

どこにいくにせよ全てを実行するのは俺なのだから当たり前のこと

だったら早く打ち明けられただけ幸運な方だと、疲労しきった身体で椅子へと座ると勉強机に食料を並べた

彩りのない背景とささやかに響くコウロギの音色

テレビをつけることもコンポから音楽を流すこともラジオを聴くこともない静寂の晩餐

一人っ子のヤミヒロにとってみても、ここまで静かな食事はあまり記憶になかったが、孤独感が味わえるのならそれでよかった

これから先のことを考えればなかなかに利口である

予習復習はしっかりしないと学校での孤独感にやられてしまうのだから耐性は付けとくに越した事は無い


・・・・・・・・・・・・・・



                               あまり思考するな 元に戻るだけだ 現実に



ブランクを埋める心理行動みたいなもの

心臓がおかしくならないように身体に水を当ててから冷たいプールへと入るようなもの

なんてことはない 当然の行動 普通の行動 よくある行動

そう言い聞かせて作ったネバ率300%の納豆と食パンを平らげると、冷たい麦茶を胃袋へと飲み干し布団に潜った

明日したから3連休

結露した窓ガラスに映る、いささか血の気が戻りつつある表情の自分を眺めながらこう独り言を呟いた

「明日でも・・・髪・・・・切りに行くか・・・」

・・・・

・・・

・・




ヤミヒロの朝は遅かった

ここ一週間ばかしロクに眠れなかったからか、昨日まともに食べた夕飯が効いたか、ぐっすりおよそ20時間ほどの爆睡を経て清清しい昼の太陽を浴びる。外は快晴で、丁度アスファルトとも温まりだした11月にしては心地いい陽気である

これは予定通り散髪しに行かなければと、チャッチャとシャワーを済ませてから軽く飯を食べた後、外に出た

散髪屋までは徒歩で15分程度の通いなれた商店街の中にある

道中、イチョウの枯れ葉を掃除するご老人や、暖かいカンコーヒーを大事そうに両手で包み込む中年男性を見ているともうすぐ年が明けることを今年初めて実感させられた

師走までもうすぐそこというのにこの鈍感さ、いくら冬が嫌いだからといって周りの景色まで目を背けるのはあまりよろしくない

「・・・冬が嫌いは、、、関係ないか」

自分でもよくわからない独り言を呟くと、もう目的の場所に着いていた

散髪屋 [MacBass]

散髪屋にしては美容院っぽい名前ではあるが、ヤミヒロ行きつけのお店である

まあ行きつけといっても単に安くて親にここしか行くなと強要されてるだけだけど

その中学生の筋力からすれば少しばかし重い肩扉を押しのけると、20代後半のいつもの男性店員から声がかかった

「へい らっしゃいなー」

「どうも」

「おう久しぶりじゃねーかヤッヒロ! もう3ヶ月くらいこねーからテッキリ他の店に乗り換えられたかと思ったぜ・・・・ってでも、、その髪の量みて安心したけどな はっはっはっ」

「それはどーも めんどくさくてなかなか行けなかったんですよ さすがに三ヶ月も切らないと貞子みたいになってきたんで来ましたが」

「おいおいダメだぞ少年 多感な少年期こそ身だしなみはしっかりしないとな、大人になってから頑張るのは至難の技だぞ」

「またその話ですか いいんですよ髪型なんてその気になればいつでも変えれるでしょ」

「ダメだな~ それがダメなんだよ そんな心意気だといつまで経っても一人身のままだぞ?」

「余計なお世話ですよ!いいから早く切ってください!!!」

ヤミヒロがそう言うと店員はリズミカルに笑いながら準備を始める

髪を切るスペースが二箇所しかないこじんまりとした店内にいるのはこの二人だけである









男性店員の名前はTETUYA これまたなんで散髪屋でその名前なのかといいたいが左胸に張ってある名札にそっくりそのままアルファベット表記(直筆)で書かれてあるのだからそういう体裁でやりたいのだろう








8年前からほとんどこの店で髪を切っている常連さんのヤミヒロにしてみれば、少々狭い店内も、本棚にゴルゴがないことも、妙にフレンドリーすぎるとこも、実にどうでもいいことである

準備ができたのか、手馴れた手つきでヤミヒロにヘアーエプロンを重ねていくTETUYA

「よっし  じゃあ切るけど要望とかある?」

「いつもと同じ感じで」

「OKOK!」

「お願いします」

一変して仕事人の目になった店員は、伸びすぎたヤミヒロの前髪をピンで留めた後 またたくまにカットを始めた

縦横無尽に、しかし繊細に動く銀色のハサミ、そして舞い落ちる自分の髪の毛に儚さを覚える

「どうしたヤッヒロ いつもは即おねんねなのに・・・もしかしてお前も目覚めたか!?」

「なにいってるんですか 違いますよ。 睡眠はもう十分なんでボーっとしてただけですよ」

「ハッハッハッー そうかいそうかい  ならそこにある雑誌でも見て待ってればいい」

「生憎 男性誌もスポーツ誌もカタログにも興味が沸かないんですよ」

そんなもんかねぇ、とお客用のカタログをペラペラ捲り始めたTETUYA

「あんたが興味津々か」

「いや~すまんすまん ついな  うん、そのツッコミ今日のMVPだ!」

そういってカタログの一ページを開いて置くと仕事に戻る

「へー 綺麗な写真ですね 観光ブックとかに載ってても不思議じゃないですよ」

「だろ? カタログにも背景に拘ってるのって結構あるんだぜ 商品を引き立たせるための工夫だから自然といい写真になんだよ」

それはメタルブラック色をした端麗なボディのバイクと真っ赤なバラ畑が辺り一面に広がる壮大な写真であった

「ここは山形県にある有名な公園でな  一年前くらいにいったがやっぱいい場所だった」

「へぇ 行ったことあるんですか」

「もちろんバイクでな  ああ、また店閉めて旅に出ちまうか!」

「まさか昔、休業してたのってそのためだったんすか?」

この店の入口に臨時休業の張り紙が貼られたのは今から一年前くらい

そのあまりの唐突さに、とうとう潰れたかと思っていたが、1ヶ月ほどで何事も無かったかのように営業は再開されていた

「ああそうさ ここは俺しかいねーし 問題なかろう?」

「俺しかって・・・・え・・・・っとなるとテッさん店長!?」

「きまってらー!」

常連八年目 驚愕の事実が発覚した瞬間である

「3年前に昔いた店長の事情でこの店任されちまってな それからずっと店長よ」

「それはまたご苦労なこって・・・てかテッさん それならもうこの店好きにできるんじゃないですか?」

「ん?」

「バイクの話です  テッさん俺と知り合った当初からこの店はいつか辞めてバイク一筋で生きてく!って言ってたじゃないですか」

「ああその話か  それは、無しになった」

「無しって・・・・夢じゃなかったんですか?・・・」

鏡越しにただ何も言わずに苦笑していたのが見えたヤミヒロは、もう少しだけ詰め寄ってみたくなった

「ああ、なるほど 前の店長になにか制約みたいなの結んじゃったとか? それじゃなきゃ単にバイクに興味が薄れたからですかね」

「ハッハッハッ~ どっちも違うな 今日のバットMVPだ!!!」

「じゃあなんなんですか」

「それは秘密だ 中学生なら自分で考えて自分で行動するのがいいに決まってる 失“敗”は失“格”にはならないって日本じゃ特権なんだぜ?  でもヒントはやろうぞ少年  俺の指裁きどう思う?」

ヤミヒロの記憶には髪を切る人=テッさんしか思い浮かばない。テレビの特集なんかでちらほら見た気もするが、普通の人なら忘却されていくだけの映像である

だからその髪を切る指の動きはどのくらいすごいのかよくわからないのが正直な本音である

「どうって・・・速いんじゃないですか、けっこう」

「そうだ 音速だ音速! 体感の話な!!ハッハッハッ~」

その返答にもちろん嘆息しか出ないヤミヒロ

「じゃあな なんでこんな早く切ってるかわかるか?」

「気持ちいいからでしょ テッさんの顔見てたらわかります」

「おお よくわかってんじゃんかよ! お前今月のMVPにノミネートしとくからな」

激しくどうでもいいと細目を反射させるお客サイドだが案の定、なにも悟らない店員サイド

「でもな ヤッヒロみたいに俺の気持ちを理解してくれる人は少ないんだよ

もっと丁寧に切れ!とか耳が切れたらどうすんだ!とかいう糞クレームがくることくること

仕舞いには、早く終わらせたいだけだろ!とか決め付けられる始末で、、、あん時はマジこのハサミで刺してやろうかと思ったわ ハッハッハッ」

「サラッと怖いこというのやめてもらえませんかね・・・」

「まったく接客業の嫌なとこだよな  やりたいようにできないっていうのは多かれ少なかれどこも一緒かもしれないけどさ  俺にとっちゃ猛スピードでバイク走行するのも髪を早く切るのと同じなわけよ 
早く目的地まで着きたいわけじゃない 全ては気持ちいいから、爽快だから、熱くなれっからやってるわけ  自分本位かもしれないが散髪に至っては、その気持ちで納得いく髪型に仕上げられなかったときは一度もねーぜ?」

「そうですか・・・で、それと夢を諦めるのとなんの関係が?」

「諦めたわけじゃない 成るようになったって話さ  昔の俺は散髪屋よりバイクの方が楽しかったからそっちが夢だと勘違いしてた そんだけさ」

「なんですかそれ  言い訳にしかきこえ・・・・」

「そうとも取れる でもよヤッヒロ  夢っつーのは楽しくなきゃダメなんだぜ 自分の本当の理想ってんのを叶えてこそ、夢を掴んだって言えるんだ」

「自分の本当の理想・・・ですか・・・」

「そうさ 例えばヤッヒロがお金持ちになるのが夢だとしよう ありふれた夢だな

そんで将来 大金持ちになったとする  どうだ夢は叶ったか?」

「叶ったでしょ」

「違うな少年 答えは”実際に将来大金持ちになってみなきゃわからない”だ

宝くじかなんかでも良くあるだろ、スポーツマン、政治家、世界の歴史に残る英雄だってそうだ。 大金を持ち地位や名誉を手に入れたとたん自分自身を滅ぼしてしまう奴  ・・そうなって苦しみながら生涯を終えるのなら、そいつの夢は大金持ちとは違ったってことだ」

「・・・つまりなんですか 今、叶えたい夢と本当の夢の中身は必ずしも一致しないと?」


「そういうことだ____っておい・・・ヒントだけのつもりが全部話しちまったじゃねーかよ! おいヤッヒロ 今年度のバットMVP・・・・覚悟しとけよ!!!」

だからバットMVPって聞いたことないフレーズはなんなんだよ・・・とつっこんでる余裕はなかった

首筋を締め付けるカットエプロンで自分さえも見えない手を強く握れば、たしかに手汗を掻いているのが実感できる

心拍数も上昇し、下顎が微かに振動しているのも感じ取れる

なによりなんだ?・・・この胸の中をかき回される感覚は・・・・・・

そう、、、鏡に映るこの店員の発した言葉はヤミヒロの心を深く抉っていたのだ

ジワジワと、こじ開けるように左右へゆっくりゆっくり振り子のように揺らしながら・・・



・・・なんだ俺・・・・そんなに夢見がちなやつだったっけ・・・・



TETUYAが語った夢の話に、リアルをも凌駕するかの如く鮮明すぎるイメージで浮んだヤミヒロの理想郷というやつは、、、、、ヤミヒロが得るにはどうしようもなく時間が掛かりそうなほどvery hardのレアアイテムなのかもしれない


店を出て見知らぬ家のガラス窓を覗き込めば、昨日より視界の開けた自分がいた。もう前髪を分ける動作も必要ない。

「ありっしゃーした!」

「見送りとはまたご丁寧にどうも」

「俺ももはや店長だかんな 日々店のこと思って仕事してんだよ」

「楽しいですか?」

「愚問すぎるぞ少年  そんなキミには、この自作クーポン券β版を進呈しよう  つまりカット代半額券だ! お互いご贔屓にな ハッハッハッ」

「小さい白文字で記載された使用期限一ヶ月という注意事項とわざわざβ版と分かり辛く換言した非保障形式とは、なかなか腰が据わるようになったじゃないですか新店長」

そしてこの店長はたった今、お客様に向かって舌打ちをかました。小さくなかった。綺麗に響いた。

「テッさん 一つだけいいですか?」

「なんだ悩める少年」

「なんか唐突で意味わかんないところがあるかもしれないんでそこは割愛してほしいんだけど」

「いいから早く言えって」

「もし、もしもの話、例えば自分が決めた道が楽しくも辛くもなかったらテッさんはどうしますか?」

「俺はとりあえず進むな  そんでもって信じられなくなったら戻るし、どうしようもなくなっても進む  休むことはあっても止まりはしない」

「休むことは止まると同じでは?」

「ああ行動的にはな、俺の言ってる止まるってんのはここんこと___ココロのことだ。 ココロが止まってなきゃあ終わらねえ」

「戻ることも進むことも見出せず、ただなにも無いまま一生を終える可能性があってもですか?」

「なんだなんだ・・・・・・こっちか?(小指)」

「茶化さないでください」

「ハッハッ わりぃな___でもよ、ヤッヒロがいう”ただなにも無いまま一生を終える”なんてことはありはしないんだな~これが」

「なぜそう言い切れるんですか」

それは悩んでるからだぜ、と凛とした顔立ちで新店長は言った

「楽しくも辛くもなかったら人間、悩むようにできてる 不安になってくる それでこそ人だ

そんでもって悩むことっつーのは、プラスとマイナスの感情をゴチャゴチャに掻き混ぜてる状態___得られないから無になるんじゃない、元からある曖昧さを捨てるから無になる___俺なんかはそう思ってる  

もう意味わかるか?   自分の道で止まらなければな、曖昧なまま死ぬことはあっても、何も無いまま死ぬことはないってことだ 

ようはその曖昧の死と空っぽの死をどう解釈するか、それが極論的人生観ってやつかもな」

・・・ヤミヒロは少し黙考したあとさらに質問を重ねる

「・・・テッさんはその曖昧で死んでしまったらどう思います?」

カランコロンとドアに吊るされた鈴の音色が響いた。あとは自分で考えろということだろう

再び一人になったヤミヒロは、散髪で露になった額と首元に当たる夕風に身震いしつつ帰り道を歩いた

・・・・曖昧ねえ・・・・・・

家に帰ってもどうしようもなく暇なのは目に見えているので、歩幅をいつもより狭めてチマチマと歩く

さっそく新店長の言葉を自己に当てはめてみれば、あるのは曖昧さにもがく自分しかいなかった 

無とはいったいなんなのだろう  なにもやる気が起きないのだろうか

虚空に靄がかかる感じだろうか  ただただ真っ白だろうか

一度失敗しているヤミヒロにとって、不始末を帳消しする魅力より戻る道がわからなくなるかもしれないことが最大の恐怖であった

・・・あああ、吐きそう吐きそう吐きそう・・・

嘘だ。吐き気なんて微塵も無いのに、ただそう呪文のように呟けば身体のモヤモヤが消えるんじゃないかと試してみるだけ。無論、よくなるはずがない。






















自宅までの最後の曲がり角にそいつはいた。


























「・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ?(゜д゜)」




 
体長は自分と張り合えるくらい、こげ茶色の短い毛並みでシワシワの顔つき

近所の和菓子屋さんが作ってる芋大福を巨大化させたようなぽっちゃりというには厳しすぎるそのデブ体形

地域おこしができなった萌えキャラの如く残念すぎるバカでデカくてブサイクなバカ顔

しかし、明治時代に入ってから四国、土佐藩で闘犬用として作られた性格は大胆不敵、怖いもの知らず、闘争本能が強く攻撃的で女性が飼うのは難しいとされる、縄張り意識も強い危険犬種____言ってしまえば土佐犬まんまである



「・・・・・・・・だけどお前アホっぽくて全然怖くないよ?」



「・・・・ぐぐぅ~~ん」


・・・なんぞこいつ・・・

普通こういう状況は、まず可愛い声が聞こえて、周囲を探すと箱状の置物があって、見下ろすと小さな子猫がいた___という具合になると相場が決まってるんだ 



          ・・・・ダンボールぺちゃんこじゃねーか・・・・



しかもハチマキみたいに巻かれた首輪らしきものの名前欄に”どうぞ”と暗号らしき文章が書かれている

ヤミヒロは立ち止まり書き記された暗号の解読に挑むと30分ほど黙考して経ってようやく





「お前捨てられたのか!?」



「・・・・・バウン!」



生で土佐犬の鳴き声を聞いたのはこれが初めてだったが、事態は深刻だ。咆哮と同時にこちらへと飛び掛ってきたのだ

土佐犬の平均体重はおよそ100キロ  一般中学生が受け止められる重量を当に超している


「ちょっ! しぬー・・・!!!」

いやだいやだ、十代で死ぬのもこのバカな顔したバカな土佐犬にバカみたい圧死されてバカに死ぬのも絶対にやだ!!!バカいやだ!!!!!

その想いが通じたか、予想したよりも激しい衝撃とはならず、ヤミヒロは地面に軽く尻餅をつく程度に収まる


「加減はできるようだな・・・・ってうわっやめろ!!!ペロペロすんな!!!!」


一難去ってまた一難  ヤミヒロの頭をアイスクリームのように舐めまわす土佐犬なのであった



・・・



・・






あれから如何ほどの時間が経過しただろう


暇だ暇だと嘆いていたがまさかこういう形で暇つぶしできるとは、いや正確には犬の玩具にされただけだけど___まあいい


散々舐めまわしてご満悦なのか、例の土佐犬は満足そうに潰れたダンボールに座り込むと こちらを見つめるものの暢気に欠伸なんかかくほどヤミヒロへの興味は削がれていた


飼い主に捨てられた犬がヤミヒロを捨てる

飼い主もヤミヒロも同じ人間であることには変わりないわけで、因果応報という言葉の意味が少しわかった気がする彼なのであった


「じゃあな」とその一言だけを最後にダンボールから離れていく


犬派か猫派かの以前に、ヤミヒロは動物にはまったくといっていいほど興味がなかった


というかどう接していいかわからなかったからだ


小学校の遠足で動物園に行った時から苦手意識はあった


周りの皆がかわいいかわいいいいながらモルモットを手にとったり撫でたり愛でたりする中、俺は一人触れ合いコーナーの片隅でそのみんなが可愛いといってる奴から出たフンを枝で突いて遊んでた。ホント、そんくらい動物などどうでもいい存在なんだ


だが家の目の前にたどり着き只ならぬ気配に振り向けば、さも当然のようにヤツはいた


      ・・・・ついてきちゃったよ・・・


そう、見紛う事なきさっきの土佐犬である


媚びるような声も上げなければ瞳を潤ますことも尻尾も振りはしない、ただただ何も言わずについてきて、自分が立ち止まると犬も止まる

ヤミヒロは急にしゃがみ込むと前方の虚空を仰いだ




「、、、、無反応かよ・・・・これだから動物はわからないんだ」



「・・・・」



「お前は独りなのか」



「・・・・」



「友達はいるのか?」



「・・・・」




「なんだよなんか言えよ」



「グググゥ~ン」



「gggじゃない」



「・・・」



「俺は一人じゃない、家に帰れば家族が待ってる幸せものだ」



「・・・・」



「俺はお前とは違う」



「・・・・グルルルル・・・」



「grrrrじゃない。そんなの知らない。俺には飯だってちゃんとあるんだ」



「・・・・」



「じゃあな」



「・・・・」



「なんだ さよならもできないのか」



「・・・・」



「わかるか?俺と家族しかウチに住むことは出来ないんだ」



「・・・・」



「なにか言ったらどうだ」



「・・・・」













    「「「「「じゃあお前・・・・・



                              ・・・俺の家族になるか?」」」」」」











・・・・・・・・

・・・・・

・・・





割愛するには惜しすぎる重量100キロ(全自動自立駆動式)の密輸計画は、なんとか親に見つからず自分の部屋へと運び込み、事無きを得た

本当に奇跡だった 奇跡の無駄遣いもいいとこだった

ともあれ今は、筋肉痛確実の手足を使って、なんとかこの土佐犬を寝かしつけているところである


「・・・もう一度いう。。。クソ犬が寝ないことには、おちおち風呂にもいけないんだよわかるな?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワオン?」


「いいから寝ろよっつってんの!!!もう夜中の3時だぞ!!!!」


「・・・グゥ~ン」


いっとくが動物が好きになったわけじゃない、幼い頃から育て上げられた動物拒絶の根はそう簡単に引っこ抜けるほど柔じゃないのだ。



         ・・・なにがグゥ~ンだ、もうちょっと可愛く鳴けないのかよお前・・・・




動物嫌いな俺が言うのもあれだがこいつ__圧倒的に世渡りが下手なタイプだ

けれども当然のことだが、元飼い主の無責任さは看過できない。いかなる理由にせよ土佐犬などという国が指定した危険種を野に放つなど言語道断___そこら辺の苛立ちも含めてヤミヒロはある意味二重で苦しんでいるのかもしれない

暖房の人工風が窓ガラスを撫でると、結露で浮き出た小さな雫が滴り落ちる

・・・やっと・・・・寝た・・・・よ・・・・

ふぅ・・・と鼻だけで空気を吐くとようやく、その涎まみれ毛まみれの衣類をひん剥き風呂場へと向かった

・・・

「くぅ~~~  沁みるぜぁ~」


アゴを天井の白いタイルまでしゃくり、今日の疲れをはきだすように開口高


並々といれたお湯が全身を包み込み、表面はうねりをあげて排水溝へと流れ落ちる。ぽかぽかと広がる半透明の湯気がまたたくまに室温を上げればもう、このまま眠ってしまっても不思議ではない極楽空間ができあがっていた

ここ最近、ロクに食事もせず、風呂もシャワーだけの簡易なものになっていた反動もあり、今日の風呂はこれまた格段に気持ちいい

・・・やっぱ日本人は・・・風呂だよなぁ・・・・

汚れた皮脂を洗い流し、綺麗になった身体に滲みこむお湯の温かさはじんわりと心地よい感覚で精神さえも潤わしてくれる

えり○か事件からおよそ一ヶ月半経った今まで、本当に心が休まる時はなかった

そりゃその時は楽しかったかもしれない。でも楽しさはエネルギーを生み出すが、エネルギーだけじゃ熱はでない。ガソリンだけでは火はつかないのと一緒さ。楽しいければ疲れてしまうが人間というやつだ。精神力が芳しくないヤミヒロにとってみたらなおさらである。

・・・・・・・・・ホント・・・・・バカな俺・・・・・・・・・・・・・・・・

余裕の出来た心の隙間には、いつだって悩みや悔やみ、苦しみっといった感情が先行チケットを持って入り込む

・・・・

・・・

・・




                真相を話す



    パックンを怖がらせ、今後のNPC妨害を抑止するため行われた通称、真夜中戦

               その終盤で事件は起きた

          包み隠さず、最初にはっきりといっておく



   ヤミヒロは、ドンマロの利き手である右手に危害を加え、右手首亀裂骨折全治2ヶ月の重症を負わせた




      そう、あの二階からプールにダイブしたのが原因である



  あの時俺がしっかりと、自分の意思で跳んでいればドンマロの手首にヒビが入ることはなかった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






見るからに痛々しい包帯を巻きながら痕が残るかもしれない腫れがあるってさ・・・。







手首を回すと、悶絶するほどの痛みが体中を駆け巡るってさ・・・。







動かすと痛いってさ・・・。







何もしなくても、ズキズキ痛みがあるってさ・・・。







時々指を動かすと手首に響くように痛いってさ・・・。







痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさいってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさいってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ





こんなもんじゃない 全然足りない。 俺が反芻させた自責の単語はここ一週間で一万回は唱えた___だからどうした__そんなこと____、ドンマロの受けた苦しみはこんなもんじゃない

もっと残酷で、酷虐で、苛酷なものだったはずだ。口に出さずとも分かりきってる。だって彼女は・・・・






         だって彼女はスピナーだから。。。。


ペン回しをこよなく愛するペンスピナーだから。。。


       こんな無慈悲な事件あってはならない。。。。






       たかだかお遊びじゃないか、、、、二ヶ月で治るならいいじゃん、、、、




そんな周りの連中の励ましは、侮辱にさえ聞こえた。。。NPCメンバーなら決してそんなことは言わない

中学生なんだぞ 来年度は3年生なんだ

貴重なんだよこの中学二年という時期は、自分のやりたいことがあるのなら皆と全力で楽しむ時期なんだよ

来年は受験だ、高校生になったら会う機会も減るし、色恋沙汰もあるだろう。大学生にもなったら人間関係に忙しくなる 社会に出たらなおさらだ

今なんだよ・・・・本当に今が大事なんだよ・・・・。

もし自分の時間を食パンみたいに千切って渡せるなら、俺は今すぐにでもドンマロの自宅に押掛けて一斤まるまる渡す。

・・・でもいかんせん、そんなことはできるはずもないのだから悩んでいた

そして、、、時きたりと、、、、、、、、

ドンマロが右腕を曲げながら登校するようになって5日後、第二の事件が起きた

それが、俺の___ペン回し用のペンの紛失だ



いいキッカケだった。 



      

だから辞めた。




NPCを。


リーダーを。


・・






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亡霊のダイブスピナー 【第三章 3/3】(迎撃編)

2013-02-16 02:07:42 | NPC@13物語
「ちょっと疑問があるのですがいいですかヤミヒロ先輩」

「・・・・もう交渉は終わったはずだ」

「ええ ですから駄目元でいいます」

「・・・・・・・」

「先輩は私の問い”貴方にとってペン回しとはなんですか”に対し答える意思があるように見受けられました それも堂々と、明確な自信があるような雰囲気も感じられた・・・いったいどうお答えするつもりでしたの?」

「ああ、そんなことか ___ホント・・・そんなことだよ」

「はい?」

「そんなことわかるわけねぇーだろ ってのが回答だ」

「それは分かりづらい問いだったからですか?」

「ちがうよ、ただ単に無理って話だ。 だってそうだろ? ”NPC”にとってのペン回しなんてリーダーといえど一人じゃ決められない それがどんなに曖昧な答えだとしてもそもそも答える段階まで至っていない____そういうわけだ」

・・・

・・





キャンドルファイヤーのロウソク達はもうすぐで息を絶えようとしている

このままいけば火は木材へと燃え移り、軽いボヤ騒ぎになりかねない状況であるが担当の教職員達は謎の液体をぶちまけた

その謎の液体の正体とは水...ではなく揮発油だ

またたくまに燃え広がった炎の渦は、見るものの眼球から微量の水分を奪っていった

祭りもいよいよクライマックス

キャンドルファイヤーからキャンプファイヤーへと変貌したその塔をぐるりと囲む人々は、喝采と共に美しく踊り始めた


そして一方では、、、


       「作戦の概要を説明する・・・・!!!」


シュッシュッと、いつものように着火輪を回しながら意気込むのはNPCの火薬庫、クルタン

「ノリノリねぇ・・・・まぁ、気持ちはわからないこともないけど」

「ンダ~! オラも燃えてきたぞ~~!!!やべぇ~ぞおおお!!!!!」

「コラコラあまり大きな声を出しちゃダメっすよテル君  誰かに見つかったらどうするんですか」

「ああ そういえばクルタン  この教室・・・てか学校には警備員的なのはいないのか?」

「ええ いません  厳密にはいなく”させた”ですが、この際余計なことなので省きます」

・・・人を消す方法が余計なことだと言い切きるとは・・・相変わらず計り知れないなこの男・・・

「作戦は3グループに分かれ行動します 1階で待機する【チーム;メガネ】 二階で待機する【チーム;VAN】 三階で待機する【チーム;エピメテウス】 この三手で待機し、基本的にはその場は動かずパックン達を迎撃します」

「迎撃っすか・・・で、誰がどこにはいるんすか?」

「チームメガネはテル君とバドシ君にやってもらいます。 これが学校全体の地図になりますが第一正門入口から4部屋先の教育相談室(カウンセリングルーム)に隠れて作戦を実行してもらいます  丁度第二正門入口から中間地点ですね

チームメガネの仕事はいたってシンプル  私の合図と共にこの”おばけ花火を着火” 上窓から廊下へ分投げてください」

「・・・・・ンダ 了解しゴフォッ!?」

「なんで決め顔なのよテル そこはつっこむところでしょ  将来的母校が火事になるって」

「火災の件は大丈夫です オバケ花火の火は微量ですし、万が一のために一階フロアには耐熱塗料をこっそり塗ってあります」

・・・トンデモ思考を持ちながら論理的に穴を埋める、それがクルタンである・・・


「チームVANですが、ここは私一人でやります   二階にある放送室に待機し”音声”を使って妹共を怖がらせるのが主な仕事です」

「・・・おっかないわね・・・・ほどほどにしときなさいよ___さて、ということは残った私とヤミヒロが3階ね」

「シュッシュッ・・・チームエピメテウスにはヤミヒロ、ドンマロペアでいきましょう 

私の計画では妹どもは3階にたどり着く前までにギブアップする予定ですが念のため___

二人には私の教室に待機してもらいます」

「ん? クルタンの教室ってパックン達がペンを取りに行く目的地だよな クルタンのペンを盗むのが条件なんだから最悪俺ら見つかるんじゃ・・・」

「見つかってもいいのです なにも鬼ごっこをしているわけではありませんし、我々が隠れるのはパックン一味に恐怖心を植えつける為だけですから

そして仕事内容ですがコレです」

突如、ドスンとボストンバックを床に落としたクルタン その音からしてなにかしらのブツが入っているのは間違いなさそうだ

「なによこれ」

「チームエピメテウスはいわば保険です  できれば不動が理想・・・しかしながら交渉戦もそれなりのイレギュラーが発生したのを考慮すると必然のグループかもしれません・・・

バックの中身は教えませんし合図があるまで決して開かないでください

ただ一ついえるのは、この中身を使って”祝福を受ける”・・それだけです」

「んだよそれ 隠す理由はなんだ?」

「ヤミヒロ君  今さっき、交渉戦のことを思い出してください。”敵を騙すにはまず味方から”と__そう習ったはずです

そしてこれはその応用、”敵に悟られたくなければまず味方から”」

「たしかに並外れたパックンの考察力には、隠すことの方が有効そうね」

「シュッシュッ・・別にNPCメンバーを信頼していないわけではありません 

ただ自分の考えうる最高の期待値をそのまま言葉にしているのです」

「・・・・わかった  クルタンの策だしな、 せっかくここまできたんだ ちょっとの不安くらい大目に見ておくよ」

____

そして5人は、クルタンから支給されたイヤホン型トランシーバーを肩耳に押し込むとお互いの声を確かめつつ所定の位置へと足を伸ばした







一階のテル、バドシ






















二階のクルタン























三階のヤミヒロ、ドンマロ




















おのおのの心は電波に乗せて学校全体を包囲した。 外では舞踊、中では戦場。



二人の不気味なオーラをかもしだす童女達が向かう先は・・・・・・・・・
 

                                戦場である。


「大丈夫ですかパッ嬢・・・アタイは正直ダメかもしれません」

「フフッ そんな弱腰でどうしますの? 恐怖心なんてものは、脳と人格を切り離して考えて入ればなんのもんだふぇ!?・・・・フフッ・・・ありませんのよ」

「今のパッ嬢 腰がプルプルですけど・・・めっさ脆そうなんですけど・・・」

予定通り、第一正面玄関近くのトイレから侵入に成功したパックン一味であるが、忍び込んですぐにこのありさまである

目的地は最上階三階2-C教室であることを考えれば、かなり厳しい状況・・・だがしかし、この少女パックンはそんな簡単に引き下がるヤツではない。持って生まれた判断力と考察力を武器にして、なんとか弱点の補助に打って出た

「2-C教室に行くにはいくつかルートがあるわね」

「第一昇降口からの階段を使うAルートか、第二昇降口からの階段を使うBルートか、っしょ?」



「そうね あとは給食運搬用の小型エレベーターを使う手もあるのだけれど、危険だから考えないことにしましょう」

で、どっちのルートを使うかですわね・・・

当然のことだけど学校のどこかにNPCメンバーが潜んでいるは自明の理

だとすればこのルート選択がワクタシ達の命運を握ってる

先に第一階段から上り三階廊下を突っ切るか、ひとまず一階廊下を走り、あとは第二階段で上るだけにするか・・・・二つに一つ・・・・・フフッ・・・・

不敵な笑みとまではいかない恐怖心で幾分か濁った笑みで言った

「最初に一階廊下を歩き、第二昇降口からの階段を使いましょう」

「・・・・・・」

「あらぴぃちゃん、なにかご不満?」

「いや、そういうわけではないんですけど・・・どうしてかなって」

カラピンの疑問もそれもそのはず

仮にも学校に不法侵入した身、それなのにわざわざ外部の人間に見られる可能性の高い一階廊下を突っ切るなど不合理この上ないのである

「その不合理でいくのよぴぃちゃん  たぶんNPCはワタクシ達が合理的に来ると踏んで3階廊下に様々なトラップを仕掛けているはず___簡単に言えば【裏】をよむってことよ」

・・・もちろん、一階廊下にも待ち伏せしている人間はいるとは思いますが・・・それでも3階よりはマシでしょう・・・・

「なるほど・・一階よりも三階廊下の方が罠が沢山あると・・・さすがパッ嬢!」

そして彼女らは第一階段をスルーし、一階廊下を直進し始めた___ルートBである。

・・・

・・



「ねぇお嬢・・・いい加減肩掴むのやめて、普通に痛い」

「あらあら、ワタクシはぴぃちゃんのことを想って緊張をほぐしてあげているというのひゃいッふひぇッ!」

「たしかにこの、小刻みに揺れる機械的な肩叩きがなんとも斬新だけど・・・どちらかというとアタイが松葉杖的な役割で緊張をほぐさせてあげているような・・・」

「あら、ぴぃちゃん」

「なにさ」

「天才と秀才の違いふェッ!!ひゃんっ!ギャアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・

                  フフッ、、、なんだかわかって?」

「なにがフフッですかパッ嬢・・・この臆病者」

「・・・!!!」

「なんなんですか・・・アタイも怖いさよ?・・・そうしょ~・・・うーん・・・秀才はテストを行うと100点満点 天才はテストをしなくても100点満点 みたいな感じですかね」

「ちょっと具体性に欠けますわ」

「じゃあ答えは?」

「常に、いかなる時も物事を大局的にみれる人間は秀才・・・うちのお兄様がその部類に入ってよ」

「常にねえ・・・それでも十分に天才だとアタイなんかは思うけど...パッ嬢が思う天才像は違うのかい?」

「ええ 天才というのはね、物事を考察できなくたっていいの。だってそれは秀才の仕事だから___天才はそれよりもっと特異的な仕事を担ってる」

それは
「秀才では決して見れない考察限界の向こう側......まるで魔法を使ったかのような圧倒的”未来視”...まぁ、、、、、ワタクシの事ですわね」

なっ、と思わず言葉に詰まったカラピン。自分のことを堂々と天才と言い放った友人になんて接すればいいのだろうと....否、いつも通りに接すればいいだけであった

「ねぇねぇパッ嬢?足が急に止まったけど、その未来視とやらに何か映りこんででもいるのかい?」

「あと5歩先でなにか起きそうね フフッ その近くにある校長室かカンセリングルームらへんに敵が潜んでるんでしょう」

「じゃあ引き返しますか」

「いいえ このみゃみゃ進みましょう  さすがのワタクシもなにか起こるとわかっている今、この瞬間なら、動揺などいたしませんです」

ほんとですかあ~?、とジト目になるカラピン。そして、パックンの未来視スキルよりもパックンの精神を疑っている自分の思考回路にこそ自問自答しなきゃならないこの状況に、わけが分からなくなってとにかく歩くことにした。

超人はたしかにいる。よくテレビ番組とかで1万人に一人の逸材だ、とか100万人に一人の神の子だとかいうテロップをみるけどさ・・・なあになんてことはない

いや、すごいよ アタイのちっぽけな脳みそと無慈悲に比べられでもしてみ?、三日は寝込むね確実に____でもなんてことないんだよ。世界と比べたらさ。

今や地球の人口70億人だよ?とりあえず150年経てばその70億人も皆死ぬ。そしてその頃には違う70億人以上の人間で世界は満たされるだろう___10万だ100万だって話じゃないわけなのさ。1億人に一人10億人に一人の”人間”がいても全然おかしくはないの____そういう億レベルの”人間”をアタイは超人って呼ぶことにしてる

アタイの隣にいる彼女が超えた人間なのかはわからないから明確に定義することはできないんだけど.....。

だってパッ嬢はいったのさ、”向こう側の世界を見れるのは向こう側の住人だけだ”って

それが嘘かホントかはどうでもよくて、とにかくアタイの心が心地よく震えたことだけはよく覚えてる

そうして月日は流れて今は、なんかお嬢の従者みたいなのになってる。はたからみたら舎弟だね・・・ホントに・・・。

けどきついことなんて何一つもなかった___楽しいことだけが山のように降ってきた

パッ嬢の未来視現象もその一つ。

勘違いしないでほしいが未来が使えるのではない____現象するのだ。 

完全にコントロールはできないし、不発もバンバンある不出来なスキルではあるけれど、そこから生み出される数々の奇策に今でも新鮮さを感じている・・そう、とにかく楽しすぎるってわけさ

・・・さてさて、、、、何が起こるんだろうね・・・・

おのずと口端が歪むカラピンは二歩三歩、、、予言の地点へと歩を伸ばしていく

校長室を通りすぎて、カウンセリングルームの前へ・・・敵を目の前にして立ち止まるなどという小ざかしいマネはせずに、あえて気にせず歩幅は緩めない・・・もちろん内心はいつ来てもいいように心構えガッチガチ状態ではあるが・・・・

・・・
・・


おかしい・・・・

予言地点から遠ざかり、長い職員室前を通過してもなお、、、なんら反応はない

遠距離からなにかしらの道具で奇襲を狙っているのか・・・?

曖昧すぎるその愚考も、二、三階へと続く第二階段へとうとう足を掛けてしまった時には、杞憂に終わっていた

階段を上るには廊下を直角に曲らなければならず、ゆえに今、現時点で、階段の一段目にいるということは、もう、廊下からは死角で攻撃はないに等しいと言わざるを得なかったからである

「・・・・ドンマイさ」

「フフッ・・・今日の眼は結構自信があったのだけれど___ごめんなさいねピィちゃん」

「やめてくださいよ なんで謝るんです?」

「あんなに楽しそうにしてたら誰だって謝りますわ」

「うそっしょー・・・そんなにアタイ、顔にでてましたか?」 



                         「ああ、丸分かりだったよ」   




「この学校内に設置した計108台の超マイクロ赤外線全方位カメラによって呼吸で揺らず心拍音まで感じ取るほどくっきりと、そして明瞭に・・・・・



・・・・


・・・


・・






シュッシュッシュッ」









キャンドルファイヤーからキャンプファイヤーへと変貌した巨大な炎をバックに佇む1.5階段目

唯一無二に厳かなその人影は、背景の紅に誇張されるかのようにとてつもない異彩を放っている

「やあ妹共、奇遇だ  そういえば、母親から妹と一緒に食べてこいと飯代を貰ってしまってね  私はいらないのでこの紙切れを使って二人で焼きそばでも食べてきてください・・・シュッシュッ」

閉じたチョキで挟まれた紙切れは空気抵抗を限りなくゼロに抑える軌道で一味へ。そしてパックンの後ろ髪に突き刺さった

「・・・相変わらず茶番が好きですねお兄様、、、この紙でどうやってご飯を食べろと?」

背中でも掻くように引っこ抜いたその紙は、まぎれもなくこの学校の設計図。紙幣なんかでは断じてない

「そこは妹の頭脳に任せます 最近こういう言葉を耳にしました”他人の不幸で飯がうまい”ということわざテイストな俗用語です____その地図を使ってNPCメンバーを不幸に陥れればおいしいご飯が食べられます・・きっとね・・シュッシュッ・・・さあ...



              やってみなさい我が愚妹」












「・・・・あらあら、設計図を見る限り、この赤いマーカーで書かれたルートで三階まで行け____といいたいのでしょうが・・・・いちよう聞いときますがなぜです?」



「シュッシュッ・・・なぜとはなぜなのでしょうか・・・・」

「なぜ、ワタクシ達がこんな一方的制約を受けなくてはならないのか聞いていますのよ」

「交渉時に締結した事柄に準じた結果・・・といえばいいですか? シュッシュッ」

「ええ わかりました。 ではこのルート通り、第一階段から三階に上がりますわ」

・・・

「・・・・はぁ・・・あのあのパッ嬢・・・話が全然ついてけない・・・・・とりあえずなんで縛りプレイなんかやらなきゃいけんのですか」

「PV事件の時 NPCメンバーが現地についてからワタクシ達が四つの問題を提示したのは覚えていますわね」

「ええ・・まぁ・・・」

「その時の”現地についてから”と”四つの試練提示”を”突然”と”制約”に換言、解釈して”同じことをしただけだ”と主張してきたのですわ」

「・・・・・こじつけっしょぅ・・・・・」

「あらあらピィちゃん そう思うならどう反論する気ですの? こちらも拡大解釈を言い分する手立てがあるにはある、でもそうなると間違いなくこちらが不利」

「なぜっしょぅ・・・・」

「あっちから同等性を求められるからですわ 

”おまえらの言い分はわかった、じゃあどう解釈すれば同等なのか示してくれ”と言われてしまう  これはきついですわよ   ちょっとでも隙をみせようものなら交渉時の同等性の合意は嘘だったのかと言われてしまいますから、最悪ですわね・・・そんなことになったら。」

「お兄様 最後に一つ気になった点があったのでいいですか?」

火花は散らさない。ただそういう接し方こそが自然な家柄なのだと納得してしまうほどに完璧な、無感情極まりない冷めた目で見つめあう兄と妹。いまにも流麗なBGMが流れてきそうなほど絵になっている。

口を奏でる。

「なんだい妹」

「そこにじっと待ち伏せていたのですか?」

その問いに対し緩慢に首を縦へと動かしたクルタン

「ということは、ワタクシ達が一階廊下を歩き、この第二階段から三階に上がると予測していたわけですわね」

まるで亀のように再びの上下運動

「・・・解せませんわね。  いつからお兄様は賽で自分の行動を決めるような人間になってしまったのですか・・・ワタクシは悲しくなってしまいましたわ」

「シュッシュッ・・・別に賽ではない」

「なら言わさせていただきますわ

先に階段から上れば人目につくリスクが軽減できる

●一階とは違い 三階からでは敵は外で待機できない分危険度が低くなる

●三階の方が隠れられる部屋が少ない

●三階廊下の様子を見てから二階廊下へのルート変更も可能

●二階にあるワタクシ達の教室は第一階段からの方が近い

●第一階段方面には、音楽室、物理実験室、生物実験室、調理室、技能員室、などがありもしピッキング等で部屋に侵入できた場合、武器を所持できる可能性がある

ここまでの利点が第一階段利用にあるのにどうして第二階段から来ると予想できて・・???

これを賽を振らずしてなんだというのかしら・・・まさかとは思いますが裏の裏を読んだとでも言う気ですの?」

「シュッシュッ・・・それこそまさかですね 私が裏の裏を読む時は、決まって原稿用紙30枚分程度の理論が必要になってくる」

「じゃあ 披露してくださいよ  最後まで聞いて差し上げますわよ」

「なにを言ってますか・・・口の悪い妹には、一行程度の理由で十分」

「・・・・・・言いなさい」

「お前は”何かあった時 一階にいれば窓から、逃げられる” という深層心理・・・自分でも気がつかない数少ない防衛本能に屈しただけです」

刹那、両者の瞳の色は熱を持ち始めた。実に人間らしい、生命力溢れる眼力である。

「あらあ・・・・・・・・・ら・・・・・・


                                  ・・・・・・・・っッチ・・・・・・・・」

「様々なこと考えて、それを全て切り捨てて勝手に裏を読んだつもりらしいがお前の兄貴さんから言わせればそんなのただのいい訳ですね」

重ねて言った

「負けたのですよアナタは、自分自身の不甲斐なさに今日、、、初めてね」

「・・・・・・・・」

まずい・・・・このままではまずい・・・、、、そう強く警戒の念を抱くカラピンだが、こんなパックンの表情はいままで一度としてみたことがない。


      どうしたらいいんしょぅー・・・!!!

ただただジッと、もうすぐ生まれる赤ちゃんのことが心配で堪らない父親のような振る舞いしかできないカラピンである...が、しかし

「・・・・・・・・・フフッ・・・・・・・・フフフフフフッ


          あらあらお兄様 本当に茶番が好きですわねぇ・・・・・



                           同等を示すこの場で負け?なんのことだかサッパリですわ」



「シュッシュッ・・・・なら迅速に、私のペンを奪ってきてください」

「ええ 言われなくとも_______その身に覚悟を抱きなさい。」

そしてパックンは踵を返し再び一階廊下へ。・・・兄弟喧嘩に振り回された不憫なカラピンもひとまず異例の事態が起きずに済んだと肩の力を抜いた・・・ところが

「やめてくださいパッ嬢  もう振り向かないでさ」

「お兄様!!!」

「シュッシュッ・・・・」

「・・・・・・・負けませんから___絶対に負けませんから・・・ッ!!!」


たしかにパックンはそう謂うと今度こそ完全に兄弟喧嘩は幕を閉じた

まぁ、本人達から言わせれば喧嘩なんていう生ぬるいものじゃ決してなく、お互いの人生観と血縁者としての立ち位置を革める戦争なのであるが・・・。

カメラは移り変わりクルタンサイドへ

まだまだ成長に乏しいその背中を俯瞰しながら見送れば、並々ならぬ速さで二階、放送室へと走った

人を不安定にさせる認識できないレベルの超高周波

妹達の足音を録音し、自動調整で違和感なく一階廊下の足音の数を増やすシステム

会話を成り立たせなくさせる妨害音波

音声でサブリミナル効果をかける洗脳の一種

それらあらゆる極悪非道な策の数々を実行できるのがこの放送室。完全なる全稼動、フルバースト。

妨害という言葉が生易しく感じられるほどのクルタンの本気は音声だけの枠に捉われず、ついには一階廊下の床を少し斜めにするだとか、廊下の階段の高さを一段だけ微妙に高くするだとか、、、それはもう、本当に血がつながった実の妹なのか疑うほどのものであった

効き目のほどは、、、、

数多の妨害機器をチャックしつつ監視カメラ越しに視認すれば、そろそろ一階廊下の中間地点まで到達しそうである

・・・あまり怖がってる雰囲気は感じ取れませんね・・・シュッシュッ・・・・

まぁ無理もない、妨害の質が質である。そのほとんど全てがパックンに悟られないための潜在意識、深層心理を揺らせるためのもの、、、目に見える反応が出るまでそれなりの時間を要するのは仕方ない

・・・シュッシュッ・・・しかしながら目に見えないまでもかなり効いているはず、ここで大きいのをぶち込めば面白いように崩れていくはずです・・・・

現にパックンの歩幅が少しずつ狭くなっているような気がすると、そう思いながらクルタンは内線ダイヤルを一番に、、、一階組(ファーストグループ)へとコンタクトを試みた

「シュッシュッ、聞こえますか?」

「ンダ~ やっと出番なんだ~!!!」

「ちょっとテル 声がデカイっす!」

交渉の一件で電波に関して、たった数時間ではあるが念入りに強化を重ねたのだが、双方の反応を見る限り音声状況に問題はなさそうだ

ならちゃっちゃっとやるしかあるまい

人は進む時より戻る時の方が警戒を怠る・・・その人間心理に則り、引き返し際の一味へオバケ花火をお見舞いしてやるのだ

妹共とファーストグループの最接近まであと数歩、自分の心拍音と面白いほど一致した歩音で歩く妹、、、バドシがオバケ花火を両手でしっかり固定し、テルは片手でチャッカマンを、もう片方の手は聞き漏れがないようイヤホンをしっかりと押さえる、あとはこの私クルタンが、無線越しに合図するだけ・・・・。

両者の陣営が一枚の壁越しにすれ違うその瞬間、、、、

ザーー ーー  ーーーー  ーー

   ーーーーーーー

          ザザーーー   ーーーー 


ー ーーーーー   ーーーーー ーーー     ャシャピーー ーーー



ーーーーーピ   ピーー    ーーーー   ー  ーー ーー    ー
ーー  ーーーー

ーーー ビビビーーーーー   ーーー
ーーー                      ーーギャ シャ ブブブ  ピピピー

ー          ーーー         ーーーー
ーーー              ー
ー  
ーー                   ーー ーーーーービ



                   ピ  イ ピ    ぴ   
      ぴ     お” 

ゃsy  さ           お”””””ま””@   d            fじ

ゃ」fj
  



そのふざけた雑音はクルタンの無声イヤホンから聞こえてくる

慌てはしない、やはり来たかと、いたって冷静に監視モニターを見上げれば、、しかしポタリと、額から汗が落ちた。



                                 ・・・・おかしい・・・・・・です・・・・ね・・・・


 
短い時間ではあったがかなりの電波妨害対策を敷いたのだ、これでダメとなればもはや電気機器に関してはもうお手上げ、今見ているこの監視モニタでさえ全画面砂嵐にされているはずである・・・だがしかしテルとバドシの姿はしっかりと映っている

しかもだ、モニタに映る彼らの雰囲気から察するにこのノイズ・・・・私にしか聞こえていない・・?!!!

『チームエピメテウス聞こえますか?』

『ええ聞こえるわよ 予定よりちょっと早いコンタクトね なにかあった?』

『はい チームメガネとの無線が不能になりました 妹共の仕業でほぼ間違いないのですが・・・』

『あらかた言いたいことはわかったわ いちよう私達の無線も使ってみたけどダメね どうやら一階固有の妨害網みたい ・・・モニタが見えるのならなにかおかしなところは・・・・・・・ッ!』

『どうしましたか!?』

『なんだ!?・・・・ああ、俺はヤミヒロだけど ドンマロの奴血相変えて廊下に飛び出してったよ  いったいなにがどうなってるんだ?』

『・・・・チッ』

ドンマロくんはなにかを感じ取ったのは明白ですか・・・

それは緊急を要することで、モニタに映るバドシとテルに関係し・・だからこそ、その会話途中で気づき中断、ドンマロは走り出した・・・・

思考、思考、思考、

改めてモニタを凝視する彼の目は据わっている。もう見逃さない

Lighter Manは自分の履いている肩靴を脱ぎ捨てながら放送室のドアを開けると凄まじい全力で駆け抜けた



異様に長く、お餅が伸びてるんじゃないかと思うほどもどかしい三階廊下を突っ切りようやく第一階段で下へ・・・・計っていたら50m女子地区ベストも狙えたんじゃないかという素晴らしい走りのドンマロはこうとしか思わない


               ・・・・・・やばすぎよ・・・!!!!・・・・・・・・・


彼女はすべてを悟っていた パックン達が一階だけをジャミングするという異変に対しNPCでいち早く気づいたのだ  なぜなら...



私はおばけ花火の保管者がテルということを知っていたから。



パックン一味はなにがしたいのか?

この勝負を優位に進めたいのなら学校全体にジャミングを仕掛ければいいだけ。NPC全員の連携体制は破綻する。

それをしないということは”さらに優位に立てる状況”が整っていたから・・もちろんお情けという線は考えない

これは女の勘ってやつだけど、アイツら・・特にパックンはカードがあったら一回しか裏返さないタイプ 表か裏かの二極論者 決して裏の裏をよむなんて回りくどいことはしない

もし そういう状況化が有利な場面ではまったく違うベクトルの”表”か飛び道具の”裏”を引き合いに出してくる・・・そんな連中だ

全体ジャミングの欠点 それは”勝負が完全には決さない” これに尽きると思われる

いくら通信を遮断したところでNPCメンバーが消えるわけではない しっかり己の五感と道具を使い邪魔することができる

ならば部分ジャミングはその欠点を補う策のはず つまり...

部分ジャミングを行うことで”勝負が完全に決する”ということ

この瞬間にも”あること”が起こり”あること”で被害を被り”あること”でNPCは退場を余儀無くされ敗北するということ

直感的にその”なにかが起こる場所”というのはチームメガネのいる教育相談室(カウンセリングルーム)だろうとドンマロは思惟た


           ・・・・・問題は、その起こるなにかとはなに?つてことよね・・・・・


すると彼女はクルタンとの無線最中、、ドンマロは頭の中のイメージで放送室のモニタを作り出した

幾つもある大小様々な液晶が立て掛けてある一画面に彼らはいた

バドシとテルである

正直 彼らの顔はそこまで深くイメージできなかったわ だって酷く主張する物体がその手に握られてたから

それどころじゃないわよね・・・・




               私気づいちゃったわ・・・


                             その手のブツに....


                                    テルの手に握られているオバケ花火・・・・

















               ▲・・・実はロケット花火に掏り替わってるんでしょ?・・・▼








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亡霊のダイブスピナー 【第三章 2/3】(交渉編)

2013-02-09 00:00:01 | NPC@13物語
夜になるほど増していく。月明かりが増していく。

でもそんな些細な月光がこれほどまでに光輝を放つわけはなくて___。

水のみ場のブロックに身を委ねていたヤミヒロは、その光を出所をちらりと垣間見た

「そろそろ本格的に始まりだな」

グラウンドの中心には一つの塔がある。巨大な丸太が幾重にも重なり合っているのだ。

そしてその丸太にくっ付けるようにして数十本の火が灯り始めていた

もうすぐ最後のキャンドル______灯った

それを初めて見たのなら誰しもが心動かされるであろう新穀感謝祭名物「キャンドルファイヤー」の完成である

「もしもし聞こえますかヤミヒロ君 オーバー」

突如、耳に付けていた無線イヤホンからノイズが響きだす

「ああ 少しノイズが入ってはいるが問題ない きちんと聞き取れるぞ」

「オーバー?」

「ああ」

「オーバー??」

「お!う!ば!あ!」

・・・多数決の時の緊張感はどこにいったんだ・・・とヤミヒロは複雑なご様子。

「シュッシュ、では改めて作戦内容の方 おさらいしていきますオーバー」

「ああ」

「ん??」

「オウバァアー!!!」

そしてイヤホン越しのクルタンは淡々と説明を始めた

交渉の流れ 悟られないためのポーカーフェイス ちょっとした間合い パックンの弱点
 交渉材料

うん、間違いない___いける。  というかそう信じている 大丈夫大丈夫大丈夫...

自身の上服を手でシワクチャにしながら祈るように自分を静める

ネゴシエーターは俺ただ一人 誰かが助けにくることはないらしい

・・・一味の方は十中八九、パックンとカラピンの二人で楽しんでいるだろうから二対一....本当にいけるのかよ・・・

『シュッシュ・・・パックン一味をグラウンド後方、鉄棒付近にてロック 迅速に接近してください・・・オーバー』

「・・・ぁぁ」

『どうやらまだ緊張しているようですね・・・大丈夫ですよヤミヒロ君 貴方はただこの無線イヤホンから流れる私の言葉をそっくりそのまま繰り返せばいいだけ いわば変声器的な役割しかないのですから』

「わかってる  でも・・・」

『理解しているのなら『でも』なんて言わず信じることで頭を飽和させてください

そうすれば大概の事は信じれてしまうものですよ』

「フッ、なんだか洗脳みたいだな」

『シュッシュッ・・・理解しているのなら、と最初に言ったはずですが

・・・・私はもう、友と呼んでくれる人達を”使う”ようなマネはしたくない』

「お前がいつ俺らを使ったよ それこそ爆発させろよ」

『爆発ではなく飽和です シュッシュッ・・・ヤミヒロ君、今わざとボケましたね・・・!?・・貴重・・・じゅるりッ』

・・・おいおいキャラ変わってるし微妙にクソ気色悪いな・・・とまでは言わない

なぜ言わないかって? それは地を見れば証拠がある。

そう、自分の脚は動きを得ていたからだ  震えはない 心拍も安定している

まったく、クルタンも....


         
           たまらなくNPCメンバーだよ










水のみ場から直線距離にして約100メートル 鉄棒遊具よりちょっと奥にあるアスファルトに彼女らはいた








もう躊躇わない むしろ加速するかという勢いでパックン一味へと勇みよる

「あらあらヤミヒロ先輩 奇遇・・・というほどではありませんが、お久しぶりですわ」

おほほ、とまるで久しく会っていなかった旧友とでも話すかのような振る舞い

PV事件であれだけのことをやっておきながらその態度かよパックン...

一呼吸する さすがに緊張がリバウンドしてきそうだ

状況を確認 数は二人 パックンはすぐそこ カラピンはパックンの後ろ約10メートル 気さくに話しかけてきたパックンとは対照的にカラピンは一瞬目を合わせたのを皮切りに無言のまま一歩下がった

カラピンの目は睨みつけるようにも蔑むようにも見えない まるで試験管の中に入った眼球を見ているかのような無感情の目でこちらを知覚している

『ヤミヒロさん どうやらターゲットと接近したようですね  オールOKです
そちらの高感度マイクもきちんと制御しています その距離を保っていれば会話は完璧に聞き取れます オーバー』

もちろんヤミヒロはなにも言わない ひしひしとクルタンの命令を実行するだけだ

本当はもっとこう、”脳内で考えたことを音声化できるデバイス”的なものを作ってくれると内部会話が成立してやりやすかったのだが、さすがに現代科学を超越した技術力は使えないようなので自重した

無線イヤホンから三連続の機械音が流れだす

『ツーツーツー』

NPC@13の命運を握る、交渉開始の合図である



「いきなりだがパックン一味と話がしたい 時間をくれないか?」

努めて冷静に、お願いする立場ではあるが年上として最低限度の口調は保持する

「一味ということは、NPCさんとしてワタクシ達と交渉がしたいと、そういうことですわね」

「ああそうだ」

相変わらずの考察力 普段の俺ならこの時点で重圧に耐えられず逃げ出すかもしれない そのぐらいのただならぬオーラが彼女にはある

でも今は違う 厳密にはイヤホン越しに俺の口を動かすクルタンが交渉人だ 俺は”ほぼ”関係ない

さぁどうするパックン 乗るか___乗らないか______彼女は言った  







       「あなたにとってペン回しとは、なんですの?」






「・・・・・・・・(は?)」

その問いに対し嫌な悪寒が走ったクルタンだが、ノータイムで指示をおくる 

・・・シュッシュ・・・まさかもう私が指示を送っているのが・・・いや、いくら妹でもまだ探りの段階なはず・・・ここで考え込まなければ問題ない・・・・

「その質問に答えたら何でもいうことを聞いてくれるのか?」

「ほほほ、それは強欲ですわよ先輩  ワタクシが言っているのは交渉の交渉です」

「ペン回しとはなんぞか・・・・、、、、そんな抽象的な問い 交渉内容についてある程度知っておかないとそっちも不安だろう 判断基準はまず交渉についてのルールを決めてからだ」

間髪いれず隙せず話す

「当たり前のことだが交渉は平等にいこう 基本的に相手から貰った利益は自分の負債かつ相手への利益で天秤を整える
もちろん相互利益でも相互負債でも構わない 後者はNPCにとってあまり望みたくないが、平等になるのならそれは許諾する準備がある」

「いうまでもありませんわね」

「発言については環境的に聞き取りミスが大いに考えられるため俺が予め用意しておいたこのリニアPCMレコーダーを使う よって発言にも公平性は保たれるとしよう」

「ふふ、リニアPCMなら豪雨が降ろうとも大丈夫でしょうね いいですわよお望みならば」

じゃあ本題に入ろうか、と言い終わる前にパックンは五指を広げ静止するよう促す 

       「あなたにとってペン回しとはなんですの?」

再度の問いに無線イヤホンから舌打ちが響いた 深呼吸する吐息も聞こえる

・・・このくらいなら俺にもわかるさクルタン ルール説明を利用して最初の問いをはぐらかそうとしたんだよな

でもその作戦は失敗  どうやら予想をしていたよりもずっと苦戦しそうだ


・・・・


・・・


・・





もうかれこれ20秒間、クルタンからの指示が途絶えている

それどころかヤミヒロはこの空白であることを思い出してしまった

      
「あなたにとってペン回しとはなんですの?」というパックンからの意味不明な問い

だがしかし、意味はあったということをだ。それはつまり

 

・・・・PV事件の時にパックンが提示した問題に酷似している・・・・当時、クルタンはその問題に挑み、結果、見事に惨敗をくらっている。



間違いない クルタンにとってこの問いは、紛れもなく弱点だ

しばしの静寂、なにもできずとも無表情だけはなんとか保つヤミヒロを見かねてかニヤリと笑うパックンが口を開く

「まぁいいでしょう 私もわがままな子どもではありません この質問には交渉中に答えていただく、いわば先送りということで・・・」

妥協の言葉だった。いや妥協というよりはむしろ借りか・・・・・・・・・・・・・・・・フッ、作戦通りだよ。

____


パックンは今なにを考えてそんなことを言い出したのかは不明だが大方”クルタンの予想”は当たっていた

なぜ当たったのか。それはパックンには恐怖の他に、もう一つだけ。万人に一人いるかいないかの”利用できる癖”を知っていたからである  それは短所でもあり長所でもあるだが_____賭けには勝った。 



 この勝負(交渉) パックンの“利用できる癖”は、間違いなく短所に作用している



「じゃあ、さっそくだが話の内容を述べるとしよう

お前等 夏休みのことは、もちろん覚えてるよな? 勝手に実の兄であるクルタンからペンを盗み出したあげく、返してほしれば山奥まで来て遊ばせろと、脅迫まがいな行為をした通称PV事件だ」

「やや誇張している面がありますが、ええ、大方合っていますし覚えてもいますわよ」

「なら話が早い もうわかるよな お前等パックン一味は俺らNPC@13にするべきことがあるんだよ」

「と、いいますと?」

微動だにしないその微笑に怯むことなく、次の言葉を突き立てた

「NPCが受けた屈辱を、可能な限り“同等に”お前等も受ける義務がある」

「ふふっ」

・・・なるほどですわ、交渉の平等性ではなく大局的な同等を主張しますか・・・

・・・交渉だの公平だの、ワタクシのもっとも得意とする分野で真っ向から勝負を挑んでくるなんて、アポを取ってないにせよ愚直すぎると思ってましたが、それなりの筋道があったのですわね





・・・ふふ、愚かかと思ってましたが・・・

                            ・・・・・・・・もはや滑稽 




カラスがゴミ袋をひん剥くよりも、幼い子猫がお散歩をする方がよっぽど文学的で可愛げがあったというのに...........さて、言ってさしあげますか

「ふふ、ヤミヒロさん。 そんな義務どこにもありませんわ  なぜならワタクシ達はNPCにではなく”クルタンお兄様”に挑戦状を差し上げています  NPCは任意で行動したにすぎず よって先の言葉の撤回を要求しますわ」

「クルタンはNPCの一員だ 個人の問題だと決め付けるのは早計じゃないのか?」

「見解の相違はどこにでもあるもの そもそもこの交渉は貴方達NPCとワタクシ達とのものではありませんか  論点がズレてますわ」

「しかしだ。その挑戦状とやらも結局のところ、NPCをマインドコントロールするための手段だったんだろ? はなからクルタンなんて眼中にはなかったんじゃねーのか??」

ちげーのかよ!!!と少々感情的に喚いたのも演技。クルタンからの細かい指示である。

「ちょっとは楽しめると思ったら・・・・・・とんだ不毛ですわね   それではワタクシ達は退散しますので、もしこの交渉の終末に不満がおありでしたらご連絡を。  ちょうどいい、、、NPCメンバーとともにそのリニアPCMレコーダーで己の”お笑い具合”を存分に興じるといいですわ」

後ずさる足音をレコーダーではなくヤミヒロの懐にしまってある高感度マイクで拾う先は約300メートル先の校舎裏

クルタンの不敵な面構えは、依然として保たれたままだった 

・・・・シュッシュッ・・・なにもかも 予 想 通 り すぎますよ・・・・・我が妹。

以心伝心か、ヤミヒロもこの、はたから見たら絶対絶命な状況化でも、ある程度の手ごたえを感じていた。

遡るは一日前、昨日聞いたクルタンからの伝言を今一度思い返してみる




                    ~~一日前~~



「いいですかヤミヒロさん  パックンには恐怖のほかにもう一つだけ弱点らしきものがあるんです」

「らきしものってまた曖昧だな  交渉に使えるのか?」

「ええ  これを知っておかないともうそこで終わってしまいます いわば交渉の大前提に当たる部分・・・今からちゃちゃっと簡潔に話しますね」

分別顔・・・とは違うやや神妙な面持ちのクルタンはパックンについて語ってくれた

・・・

・・・

・・・

                防衛機能の欠如

これが中学一年生であるパックンに対し論理的に攻め立てられる隙だとクルタンは言った


人間は自分を守るため無意識のうちに防衛機能を働かせる

抑圧、
否認、
取り消し、
隔離、
投射、
同一化、
反動形成、
置き換え、
知性化、
退行、

他にもまだあり、様々な防衛機能を駆使し人間は、自己の安定感を得ている

しかしながらパックンにこれらの機能が働くことはごく稀だと実の兄は断言した

とくに、受け入れがたい現実を知らなかったことにしてしまう【否認】と不快なことをフォーマットしてしまう【取り消し】の機能は皆無 

このことから自分に対して納得いかない箇所は、絶対に許さない性格なのだと窺える

「なんでお前の妹さんは、こんなにも難儀な中学生になってしまったんだろうか・・・」

「言いますねヤミヒロ君___でもヤミヒロ君だって少しは理解できるんではないですか?」

「え!? 俺 小難しそうに見えるのか!!??リーダーぽくね??それ!!!」

・・・そこじゃないですよ・・・シュッシュ・・・っと突っ込むのはあまりに現実的ナイフだと思惟たのでやめておくとして

「必要なかったんですよ」

「・・・は?」

「だから、防衛機能がなくてもさほど問題にはならなかったんです。我が妹は。

防衛機能というものは結局のところ逃げの部類に入ります

別に悪いことだとは思いません 至極当然のことです

これは私の持論ですが、人は逃げることで自分を知り、進むことで得ていくのだと考えています どちらも大切なことなのです

・・・

・・・そう・・・・妹はこの世に生まれたときから既に、自分を知りすぎていた・・・

所謂、ギフテッドというやつなのです 外部に対する世間的な成功を収めるのではなく先天的に知識を得ている多重知識者・・・ただそれだけのことなんですよ  シュッシュッ」

「・・・たしかに否定できないな・・・・パックンとは一度くらいしかまともな面識はないが・・・・あいつが天才だって言われてもなんら不思議に思わない」

「そこもまたNPC最大の天敵である所以でしょうね・・・シュッシュッ」



・・・そう・・・・



・・・・・・だからこそ・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・この交渉は実るのだ・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・逃げることができないパックンではない・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・逃げる必要がないのだ・・・パックンは・・・・・・



・・・なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・とことん付き合ってもらおうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。



「待てよ パックン  まだ俺の交渉タイムはシューリョーしてないぜ?」

・・おっとと・・ついテンション上がりすぎてアドリブなんか効かせちゃったよ俺・・・たはは・・

ようはそんだけ昨日の話が、的中していたということだ

考えてみてほしい

普通 このような利潤関係に準拠した交渉など不可能なのである。交渉相手が責任能力のまだまだ薄い中学生だからだ

はぐらかしあったり、感情的になって喧嘩になったり、無視して強制帰宅したり、親にいいつけたり、根も葉もない噂話で脅したり、仲間を呼んだり、大泣きしたりでなんでもありだ

もしかしたらノーカン!ノーカン!とか言い出すかもしれない

しかし防衛機能が極端に弱いパックンは例外。それ自体、無理難題なのである。

だからさっきだって「NPCの受けた屈辱を、"同等に"お前等も受ける義務がある」という俺の問いに対し、きちんと論理的に反論してきたのだ

普通はありえない。 中学生程度なら「うるせーポカン!」で仕舞いである



・・・・・つけこめるぜ 何度でもいってやる  これはチャンスだ!

・・・

「なんですの まったく・・・まだなにかいいたいことでも?」

「お前の兄さんはな、わざわざ”貸し”まで作って、妹を試してるんだよ

ちゃんと”貸しを返す大人”になれるのかってな」


「、、、、、詳細を」



「クルタンには本来 ペンを取り返すためだからと、わざわざ挑戦状の指示通りに動く必要なんてなかったんだ  だって家族だろ? それに妹だ   同じ屋根の下 兄として力を使って粛正すればよかっただけの話だ  盗みはやってはいけないことだとね」



「・・・・」




「でもそれをしなかった クルタンは素直にお前の挑戦状の指示通り動き、真っ向から勝負に挑んだ ____これを”貸し”といわずなんというんだ?」




「・・・・・・・・・・・・」





刹那、尖った氷柱をぶっ刺さしてくるような強烈すぎる視線。









固化してもなお、咒力的に威容を誇る童女。





はっきりいって気持ち悪い。軽い嘔吐感で口の中が干からびていく。



・・・・黄色の果実が舌をくねらせる・・・・・



3分近く、ずっとこの状態で黙考。

それもそのはずだ 

パックンにとっては、挑戦状の強制力を主張したくば、NPCとの関連性を説かなければならず本末転倒

論議のズレを指摘しようものなら、防衛機能の発動に繋がり自己矛盾が生じる

そう・・・さっきまで断崖絶壁に立っていた人影は、ヤミヒロではなくパックンに代わっている

この状態が続けば、パックン自ら降参せざるを得ない

質疑に答えられない未熟な人間だとNPCに証明してしまうことにもなる

そうなったら最大級の抑止力だ

俺らは関係ない ただただ自己嫌悪の念に駆られ行動力は衰え、もしかしたらNPCにトラウマを抱くかもしれない

ちょっとかわいそうではあるけれど、それは仕方ないこと。 挫折というのはどんな人間にもついてまわる

・・・すまんな・・・・全てはNPCを守るためだ・・・・

勝利を確信し、今一度大きく息を吸う

そして慈しむようにそーっとタイムアップ(質疑終了)の言葉をかける


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずだった。


「ちょっと! なにパッ嬢の肩に触れようとしてんですか」

突如割り込むように発してきたのは、さっきまで無表情を貫き通していたカラピンである

「だって終わりだろ  誰が見たってもう答えられない雰囲気だ」

「じゃあ その話は保留っしょー!  とりあえずは次に移りましょう  いいですよねパッ嬢?」

「・・・ッナ!」

・・・・・ふざけるな・・・・というかお前も全然わかってないな・・・・

・・・・・・パックンがそんな逃げるようなマネ認めるわけがないだろ・・・・・・・

クルタンからの指示もない これはあちらから自爆すること見越しての無言だよな



                【 否、 】





「ええ ぴぃちゃんの言うとおり保留にしましょう」



・・・



・・・



・・・・は?



       なんだこれ・・・



              今パックンはなんていった・・・・・・・



                               なんていったんだよ・・・・・





頭の中で描いていたシナリオが崩れていく

まるで完璧にホールドアップをきめた体勢から、自分の脳天目掛けて雷を落とされたような




・・・・・・いやいやいやいやありえないだろ 

                               幻だ夢だハッタリだろ?・・・・・・・・・・・・




「・・・なぜ・・・・」

「ふふ、声が小さくて聞こえませんわ」

「な、なぜ保留にできるだよ・・・・・ざけんな・・・・防衛機能はどうした・・・・・」

指示なんて待ってられない。ヤミヒロの抑えられない本心は、瞬時に声帯を震わせた

「貴方達がこの話し合いで一番最初にした“質疑の後回し”を私たちも“平等に”行っただけですけど」

なんも問題ありませんわね? と長いプラチナヘヤーを靡かせるパックン

「・・・な・・・・に・・・・・」・・・・・あ・・・悪魔だ・・・・・・

そして追い討ちをかけるようにヤミヒロは気づく。

自分の身体の異常。一つの機能が破壊されていることに。

この環境化において、五感をはるかに凌駕する頼みの綱。必須の機能





                     ・・・・・そう・・・・・・





       ヤミヒロの無線イヤホンは、大音量のノイズで使い物にならなくなっていた





・・・・・魔王だろ・・・・もはや・・・・・・ハハッ・・・・・




____





一方 裏方、クルタンサイド。

「シュッシュッ・・・やはり妨害電波を飛ばしてきましたか」

もはやただの金属片と成り果てた受信機を見つめながら眉を歪ませるクルタン

「なによ もう私達 しゃべっていいの?」

「ええ いいですよ」

「ンダ  詳細詳細!」

「そうっすよ なにがあったんすか?」

皆からの質問責めに、幾度かため息を漏らしつつ交渉の内容を簡潔かつ正確に説明した

____

「_____と、こんな感じですシュッシュッ

おそらく交渉がスタートした時点で内通者がいると判断し、カラピンが電波妨害装置を手配させたのでしょう」

「ンダ? 二人ともその場をほとんど動いてなかったんじゃねーのか??」

「カラピンが第三者に装置の手配と操作を依頼したのでしょう  あっ そうでした 皆さんたぶん勘違いされているようですから言いますが、パックン一味は二人だけのグループではありませんよ 決して」

シュッとした目つきで断言するクルタン

「そうなんすか  何人くらいいるんす?」

「約四万五千人です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「4よん5ごー0まる0まる0まるです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

「45の千倍です」

そうじゃねーよ!なんでそんな、どっかの市町村レベルにメンバーいんだよ!!!・・・とヤミヒロがいたのなら突っ込んでいただろうが、あいにく彼は絶賛断崖絶壁中

「シュッシュ・・・・昔、とあるハッカー集団(推定2万人超)に宣戦布告したのち、見事掌握___それ以来 ハッカー集団はパックン一味のしもべとなり、パックンがその権力を誇示するたび入会者はまたたくまに増加の一途を辿ったそうで____今や5万は超えるといいだす輩もいるくらいです」

「5万人・・・・・東京ドームが満席になるわね・・・・」

「・・・まぁ、ネット上ということもあり、物理的な面で使える人間はごく少数らしいですが」


「・・・で、勝てるの? 問題はそこでしょ。 そんな大軍勢相手に、たった5人のNPCで勝負になるの?」


勝てますよ・・・と即座に反論しようとしたクルタンだが、ここは躊躇う

自分の策に自信がなくなったわけではない。つつがなく自分の考え方を話した方がいいと考えたからだ。・・・・たぶんNPCって・・・そんなグループだと思います・・・。

「正直な話、無線が使えないこの状況....かなり厳しい勝負を強いられているのはたしかです

もはや会話は聞き取ることができませんが、次のパックン一味の行動は猛反撃でしょう」

「反撃っすか? でもパックンにももう残されてる策はないように感じましたが  クルタンの”貸し”の意見に対してかなり言いよどんでたし」

「シュッシュッ・・・だからですよバドシ君」

頭の上に、はてなまーくを乗せるバードシー

「あれは電波妨害の時間稼ぎ、いうなればパックンの演技でしょう  本当は策はあったのでしょうが使いたくなかった いや、使えなかったんです   困りますからね・・・・私に反論の余地を与えては」

「なぁなぁ・・・・リーダー息してる?」

「シュッシュ・・・皆さん、私は交渉が成立すると信じています

最初の問いにせよ、妨害にせよ、まんまとしてやられたわけですが、____それでもです」

「根拠でもあるのよね?」

ドンマロからの的を得た問いに彼は言った

「それと似たような問いを昨日、リーダーにされたんですがね・・・・シュッシュッ その時と一字一句同じ言葉で答えましょう









                 
                    根拠はヤミヒロ君 そのものです   









                                                       」 


_______________  
       

カメラは再び表、ヤミヒロサイドへ,

「ふふふふ、どうしたんですヤミヒロ先輩________綿棒でも買ってきましょうか?」

嘲笑するパックンは、それでも眩くばかりの気品はなくならず今はそれが果てし無くうざったい

・・・くそ・・・こうなったら・・・

「答えてやるよ・・・ペン回しとはなにか  それで先送りの件はチャラだ・・・!」

「あらあら やめてくださいませ  あれだけ黙考されて答えが出せなかったのでしょう?  いまさらなにを言われようが説得力が・・・・・ねぇ?」

「そうっしょー先輩! 苦しいのは分かるっすがー、純粋に討論しなくては不毛でしょーに」

クソッ・・・! カラピンまで参戦してきてやり辛さ増す一方だ・・・・こっちは正真正銘”一人”になったというのに____でも、ここで食い下がって交渉が終わる

「苦しいのはどっちだよ パックン一味」

「あらあら」    

「お前等が言ってることこそ見苦しいって意味だ!  なにが考えすぎた答えは嘘っぽいだよ
そんなこといったらプロの将棋士は全員カルトだな」

「心外っしょー・・・」

「いいか、俺のペン回しとは、」

「はいストップですわ  ワタクシ達は”質疑を先送りにしろ”との発言をしましたが それはあくまで、ヤミヒロ先輩の発言に回答しただけですわ。 これが平等な会議なら次はワタクシ達が質問し、貴方が回答する番ではなくて?」

そして最悪なことにクルタンの予想は的中  パックンは最大の言い訳を隠し持っていた

「話がだいぶとんだので補足しますと、”クルタンが挑戦状を妥協した分の【恩】をワタクシは返さねばならない” そんな言い分でしたわよね」

毅然とした態度で首だけを縦にふるヤミヒロ

「お兄様がなぜ妥協したのか、___そもそも妥協という言い方がおかしいですわね  なにをするにしても利害関係が明白でなければ行動しませんから・・お兄様ならとくに」

「そんなの勝手な妄想だろ」

「そうでしょうか? PV事件以降 クルタンとあなた方は、よりいっそう仲良くなったと思われますが」

「うるせーよ あ、なにか?クルタンとNPCを結んだのは、私達がペンを盗んだからとでもいいたげだな・・・ いい加減怒るぞ!」

「まぁまぁ  ここは公正を軸した交渉の場。 感情ではなく理で話し合いましょうか

___まず、クルタンが妥協した経緯ですが、ワタクシは妥協ではなく相互協力だったと考えています。なぜならお兄様はPV事件の際”NPCを使った”と発言しています

このことからクルタンが選んだ選択は妥協ではなく、自分に対してなにかしらの利益があると見込んでの選択___と、考えられます  ワタクシにはワタクシなりの利益が、クルタンにはクルタンなりの利益があったのですね

___つぎにその利益についてです。

本来 相互に利益が見込めるかもしれないと成立した時点で、もしどちらかが損をしてもお咎めなしなのですが、クルタンの予想利益がわからない以上、事実的に得た利益を説明しましょう 

ワタクシはもちろんお兄様から貰った”挑戦状許諾”という利益です 

結果はどうであれ引き受けてくれた その恩は今もたしかにこの胸にありますわ

そして肝心なクルタンからの利益  すばり”勘違いの粛正”です

クルタンは己でNPCを使ったと打ち明けた、しかしそれは違っていて、実際はNPCを”頼った”・・・そうですわね?  この勘違いを正さぬままと、粛正するとでは人生、かなりの損をしますわ  よって立派な利益と考えますの」

「それは俺達がクルタンにやった利益だろ  あんま友達同士で利益だの相互関係だのいいたくないけど____少なくともお前等には関係ねえ」

「・・・しょ~・・・そっくりそのま」

「あらあらぴぃちゃん  ちょっと黙っててくれますの?

___さて先輩 忘れているようですから最初の方で言ったセリフをもう一度いいますわ

『ワタクシ達はNPCにではなく”クルタンお兄様”に挑戦状を差し上げています  NPCは任意で行動したにすぎず』 

・・・・どうですの、関係ないのは先輩の方でしょう?

関係ない人間がいくら利益を主張したところで利益を与えるのも得るのも関係のある人間だけですわよ?

例えばスーパーに行って従業員でもないのに品だしやら在庫整理でもしてて御覧なさいな 店側は利益を得ますが給料が入るのは従業員だけ___あたりまえのことですわ

お分かりですわね  NPCが挑戦に介入したからクルタンが利益を得たのではない、挑戦状を送った“パックンがいたからこそ”クルタンは利益を得られたのですわ」

「そんなの屁理屈だろ・・・そうだろ!」

「フフフ もっと分かり易く説明して差し上げましょう

        貴方が与えたその利益は、挑戦状なしで成り立ちましたか?

貴方が与えた利益の中にはワタクシが与えた利益が入っているのではないですか?

その利益を受け取ったのは誰ですか?

            クルタンお兄様ですよね?

                          貴方が利益を与えたということはワタクシが利益を与えたということと同義ではないのですか?




「___________________」


・・・・・・・・・・・・・クソッ!!!・・・・・・・・・・・・・・・


ヤミヒロは何も言うことができなかった。矛盾してる点があるかもしれない・・けど、今の彼はそれを正しく反論する力を持ち合わせていない。もし中途半端に言葉を吹っかけようものならそれこそいい餌食だ___・・・・くそ・・・無線さえ繋がれば・・・・

無情にも響き渡るノイズは梅雨入りの雨音が如く、一行に鳴り止む気配を見せない

「・・・・」

「そういうわけですので、クルタンからの【恩】はすでに相互利益として完了していると主張します。 NPCから受けるワタクシ達の義務はなんらありません。 次はヤミヒロさんの主張ですが」


もう言うこともないでしょう?と畳み掛ける後輩共

ヤミヒロフェイズ

先送りの件は、すでにクルタンの主張が打破された以上 なんの意味もなさない

では新しく何かを問わなければならない・・・・そう、”一人”でだ

・・・どうすんだよ・・・本当に終わるのか・・・負けちまうのかよ・・・・

次第に寥寥としはじめた彼の心中

・・・・慈悲でも請うか?・・・いやいや本末転倒だ。何のためにここまでしたのか見失ってもだめだ・・・・・・

・・・くそ・・・・くそ・・・・・くそがっ!・・・・・・

せっかくNPCが変わろうとしてたのに・・・・・・せっかくNPCが永遠のものになろうとしてたのに・・・・これから先・・・・怯えながら歩んで行かなきゃならねーのか・・・・

・・・・みんな頑張ってた・・・・・・・いい顔してた・・・・・・・・

自分の未来を進んでるって、たしかに実感できた・・・・・・・・・

それなのに・・・・それなのに・・・・・・

ああ・・・・・クルタン・・・・せっかくすげー交渉術だったのに・・・・・

俺一人じゃ、絶対に出来っこない・・・・考えようともしなかった策略だったのに・・・

・・・・やっぱヤベーなクルタンは・・・・・・・

こうやって失敗に終わっても・・・・・策略だけはこんなにも誇れるもん

ホント・・・むなしくなってくる・・・・一番堪えるかもわからんね

・・・・策略だけ・・・・そう・・・・・・俺は、ヤミヒロは、リーダーは、NPCのリーダーさんはよー・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・なにも出来なかった・・・・・・・・・・・・・・・・





ジワジワと萌芽するその感覚はやはり最初は微小なわけでして。

心のほんの隙間か伸びた芽なんてものは、自分の全てを空ろにしなきゃ分かるもんじゃなかろうに。

誰だよこいつ・・・そんなことより摘み取ってみようかしら。

無意識無自覚で掘り起こせば、____そこにはこう書いてある。






  
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●●●●●●●●●●●●●●クルタンこそが真の天才だ●●●●●●●●●●●●●●●●●
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ハッ!と我に返ったヤミヒロには周囲の足元を確認する

自分を含めて6本 反応もないを察するにどうやら意識が飛んでいたはほんの数秒たらずらしい

深層心理とでもいうのだろうか。なんでこんなことで目を曇らせたのだろう

もう後がない????だからどうしたって

俺の愚かな絶望感覚なんてこの際どうでもいい パックンという相手についてはもっとどうでもいい

この交渉の幹事は誰だ?  あの名将/天才クルタンだぞ

こんなところで終わるはずがない なにかまだ策があるに違いない

ヤミヒロはその刹那、クルタンが交渉に乗り込んでくるのでは?___と考えたが愚直だったとすぐ修正した

なぜなら

・・・・・・・・・クルタンの策は俺自身 ヤミヒロ自身だと言ってくれた・・・!!!  危うく忘れかけてたぜ・・・・・ふぅっ↑・・!


「あるぜパックン共 いいたいことってやつは」

「あらあら 往生際の悪いこと・・・・・いいでしょう 言ってくださいまし」




ドヤ顔で言葉のナイフを穿った






「この交渉・・・・明らかに平等じゃねーよな? 俺はボッチで交渉してんのに、そっちは二人だ これは”貸し”と考え__つまり・・・あれだ・・・貸された分は交渉に応じるということで天秤を図ろうな」






「・・・」





「・・・」







沈黙を破ったのはカラピンからだった

「・・・・プ・・・・・ブハハハハッ

な、なにいっちゃってるしょーこの方ブブブブタかよぉ!・・・・し、しかプファ も・・ドヤりながら、わ、わ、腹がいたくてててまともにしゃしゃしゃsyべれ・・・・ブハハハハッ」


「あらあらダメですよぴぃちゃっちゃっちゃっプハッ   もう、やめてくりゃさいませんか ふ・・プハハハハハ  冗談もほどほどにな、なさいませんと」

ハァーハァーと息を整える両者 俺の主張はよほど笑い焦げるほど馬鹿アホクソバカだったらしい





・・・・これでいいんだよな・・・クルタン・・・俺は信じてる・・・・・・



ヤミヒロを策にするって・・ようは馬鹿なことをしろってことだ




もちろん俺は馬鹿だとは思ってない きちんと筋が通ってると自負してる




でもどうせ・・・ダメなんだろうけどな・・・・・・・・・・・・・






             ・・・・いやあ、どう勝てるか楽しみだ・・・!!!!!







「静粛にしろよ 反論を要求する」

「は? はは反論??  ぷ派ははあハッハ母は母は母母あああああああああああああああああああああああああああああああああ

こほん  いいでしょう

先輩の主張は筋が通っていませんわ

事前に交渉の連絡を行いもせずにそのような言い分通じるはずないでしょう

交渉人の数なんて関係ありませんの  心得ましたか?」

「ああ わかった」

なるほどな・・・すっかり忘れてたよ  そういやアポ入れずに交渉してたんだっけ 


                              なんか奇襲っぽくてフェアじゃねーな・・・



斯くして相手ではなく自分に”貸し”を見つけてしまったヤミヒロなのであった



・・・・



・・・



・・







まぁそれでも問題ないか


「いちよう確かめとくが、パックンは自分の意見を【あ、間違えました】___とかいう人間じゃないよな?」

「なんですか藪から棒に」

「こんな簡単な質問だ いいから答えてくれよ

 言葉のあや とかいう言い訳を使うような人間か聞いているんだ」

「しませんわよ  この交渉は録音もしているのでしょう? なおさらですわ」

「・・・・そうか・・・・・じゃあ言わせてもらう」

スーハーと、今日何回目の深呼吸だろうか・・・・・・今吸った空気が一番おいしい気がする

つまりこう、、、清清しく宣言してやった










              「俺、ヤミヒロは途中退場する!!!!!」!!!!!!!!









なぜなら今さっきパックンは”人数は関係ない”と言ったから____言うまでもないだろう。己の発した大失言に気づかないパックンではない

それでもヤツが黙り込んでしまったのは、この交渉場が常識ではなく、論理を根底において進めてきたからである

交渉場はまさに歪 2対0の攻防戦 こうなってしまえばパックン一味のやることは一つしかない

ヤミヒロが退場するから我々も、と主張しようにも話す相手がいない いくら数は関係ないと述べたパックンでも、相手に対し一言も言わずに退散するような非礼は、例の防衛欠場によって自分で許すことはできない。相手がいないからという言い訳も先の発言(数は関係ないから)に矛盾して不可能。

ならばこのまま永遠に交渉を続ける保留にするか____それもパックンにはできない



      ・・・・八方塞がりだぜ・・・パックン一味さんよお!・・・・・・



単に物理的な話である。退場ができないのなら休憩も一時退出もできやしない____つまりはあれだ・・・永遠にこのグラウンドで立っていなければならない トイレだってもちろん無理だ


やはりクルタンは天才策士である。代弁者を使うことによる会話の疑心暗鬼とヤミヒロに最後まで教えなかった最終秘策が見事すぎるほど”入った”

敵をだますにはまず味方から___今回は別に騙されたわけではなかったが、たしかに思う。俺がもしもクルタンに”パックンの失言を引き出すように工夫しろ”なんて言われても難しかっただろう。てか絶対無理だ

それを無の演技(あえてかっこよく)で敵に勝ったと確信させて隙を突く

仲間への信頼、敵の考察力、場の流れ それら全てを統一的に支配したのかというほどのパーフェクト トラップであった

さて、部外者の末路は退場しかないと、ヤミヒロは自ら踵を返しパックン一味から徐々に離れつつある。

「待ってください先輩。そんなにワタクシ達と張り合いたいなどと考えていますの?」

「・・・」

「そもそも交渉に成功したらなにをやるおつもりでしたの?」

「・・・」

歩幅を縮めることなく完全無視。”あの言葉”を聞くまではヤミヒロは部外者であり続けると心に決めていた

「・・・後悔するとまではいいません 人生なにが起こるからわからない  ・・・でももっと利口な方法がありましてよ?」

「・・・」

「あのあのパッ嬢???少しだけ暗殺しとく?」


「アナタは少しだけお黙りですわ・・・っ!」



                                 「・・・・・・・(・・・チビったァ・・・)」



下半身に妙な湿り気を残したそんな中、ヤミヒロにとって・・いや、NPCにとっての待ちに待った好機は訪れた 

「・・・・お手数ですがヤミヒロ先輩・・・・・・”今、交渉した内容に準ずるものであればなんにでも応じる所存である”とNPCに伝言してはくださいませんか?」

「・・・今というのはでどっからどこまでだよ」

「録音音声の始まりから、この伝言を許諾してくれるまでですわ」

「・・・わかった ”伝えておくよ”」

案の定、離脱も保留もできないパックンに残された最後の選択”交渉内容を締結させることによる交渉の強制終幕”を完遂するしかないのであった

「・・・さて、交渉も終わりましたし、ヤミヒロ先輩。具体的に”NPCが受けた屈辱を、"同等に"お前等も受ける義務がある”とはどういったことをされれば?」


「すさまじい記憶力だな 俺らの主張を一字一句完璧に暗唱かよ・・・まあいい

パックン一味にはこれから一時間後....いや30分後だな 校舎に侵入しクルタンの机の中にあるペンをとってきてもらう 以上だ」

「・・・・30分後とはまた、いきなりすぎますわね・・・なぜです?」

「お前らの挑戦状だって日時を指定してきたじゃねーか それと同じだよ」

「わかりましたわ では30分後・・・華麗にお使えして差し上げましょう」

そういうとパックンは不適な笑み浮かべながら、カラピンはなんだか悔しそうに、背中を見せると影を薄く夜の静けさに溶けていった







・・・





・・














今宵の舞台は整った。





綺麗な月夜の晩だから、満月を期待してみたけれど生憎、否。





けれども三日月だって悪くない。なぜなら笑えてきたからさ。





月の外面を包囲するかのように光る半輪が、なんだか今の俺らみたいで。





だったらこう思うのが必然だろ?








             We need to make it a full moon.  




 


舞台は暗闇の教室へ 物語は驀進へ。  はたしてNPCはパックン一味からペンを死守することができるのか!?


                         ___亡霊のダイブスピナー第三章3/3(迎撃編) 2013.02.15.(土)公開  

 
                                

亡霊のダイブスピナー 【第三章 1/3】(多数決編)

2013-02-02 00:00:01 | NPC@13物語
生成り色のカーテンを広げれば、辺りまだ夜の静けさを残したままだった

普段は目覚まし時計なんて使わずに、太陽の光だけで自然と目を覚ますのが彼のスタイルなので、カーテンなんぞインテリア程度のただのお飾り

いっそのこと取り外してもいいくらいなのだが、"この時期"があるから面倒くさい

「さっみ・・・さっさと飯食べて学校いこう」

バシャッと開けたカーテンを閉めなおすと着替えるために服を脱ぐ

プライバシーのためじゃない 朝日が嫌いなわけでもない

結局のところヤミヒロがもつカーテンへの価値観は、窓ガラスからの冷気を遮断する"保温的なもの"だけであった

朝は手軽なパン食がテンプレ シリアル系も好きなのだが、せっかくの朝食で暖をとれないのは損だと試しにホットミルクをかけて食べたところ、なんか違う気がしたのでそれは春夏限定メニューに置いている

いただきます、とマーガリンをたっぷりと塗りたくったバターナイフで焼きたてのトーストにシュッシュッ、と心地いい音を響かせていく

それを口に放り投げ、最後はオレンジジュースを天へと仰げば、急いで学校へと走り出した

___

「おはようございます・・・っと」

律儀にそういって校門をくぐれば、三階建ての建造物がお出迎え

周りにはマンションやアパートに囲まれ、すぐ近くには小さな川が通っている、極々一般的ななんの変哲もない区立中学校である

床暖房を推奨したい廊下を爪先立ちで移動して、自分の下駄箱に靴をぶち込んだヤミヒロはふと、静かだな、、、と愚痴をこぼした

運動部の朝練は例によって当然ないし、一階の一本廊下は職員室からなにか近寄りがたいオーラが感じ取れる程度

二段飛ばしで階段を駆け上り、三階途中の窓から校庭を見下ろそうとも、強い風に落ち葉が舞い上がり小規模な木葉雨を降らすという、閑散さに拍車を掛ける風景しかなかった

先に言っておくが、登校日を間違えた、なんてベタなミスをしたわけでは断じてない

週休完全二日制のゆとりどっぷりの我らにとって、そんなことはよほどのことがなければ起こりえず、まあ、単に”ヤミヒロの登校時間が圧倒的に早い”というだけであった

時刻は丁度7時を廻ったところ

最上階まで上がり火照った五指でその遣り戸をスライドさせれば、ヤミヒロもとい俺の教室である

と、教室に入るその前に、、、

なにやらもう先にきた連中による話し声が廊下からでも余裕で漏れて聞こえてきたので少しばかし静止してみる

まだ朝早、身体の体温だって平熱以下。 なのでしっかりとこの教室の中にいるであろう“奴ら”のテンションを見定めておく、いわば準備体操的な行動が必要不可欠なのだ。


・・・吉宗先生にこっ酷く怒られてメンタルがボロ雑巾だしな俺・・・・


「なぁなぁ、オラなぁ、外国のペン回しPV観てて思ったんだよ」

「どうしたんすかテルさん 唐突に」

「いやな、ダイナミックだろ?」

「たしかにね 空中に投げ飛ばすエアスピ系の技が日本より、秀でてるのもあるでしょう」

「ん? そうなのか」

「ジャペン1stPV(日本代表動画)を機に日本ペン回し協会が設立され、世界により積極的なアプローチを仕掛ける以前は、エアスピ系、換言すると空中技(エアリアル)は邪道と軽蔑されてました.........シュッシュッ」

「そうそう、当時は技構成とか表現力が確立されてなかったからね 子どものお手玉程度にしか見えなかったのよ」

「ん~  つまり.....日本は追いかける立場にあると・・・そういうことか?」

「おお!? テルさんが人の話を纏め上げた!」

「しかも大体あってる、成長したわね テル」

「シュッシュ 雨は降るものじゃない 降らすものだ・・・シュッシュ」

三人分の手のひらが重なり合いまるでキャベツのように、、、そして感動を分かち合う三人

「ンダ・・・なんか盛り上がってるけどよ、オラは”ソコ”じゃないと思うんだ」

「・・・外国特有の派手さは別にあると?」

「ンダ。 ズバリ 胸筋にあると思うんだ ム ネ キ ン !」

自分の左胸を軽快に叩くテルに対し、もちろんハテナマークの一同

「わっっっかんねーかな、胸筋の良さがよ~」

「わかるわからない以前に、ペン回しとなんの関係があるのよ」

「だからよ~、動画に映るのは手とペンだけじゃねーだろ? 胸筋だって映ることはあるんだよ 特に対面アングルの多い海外動画だとな」

「それで?」

「これはオラの感覚でしかないかもだけどよ、ペン回し動画の背景に立体感のあるクッキョーな胸筋が映り込むことで”大胆さ”を生むことができるんだと、そう思うんだ」

続けて

「だからよ~、・・・そーだな・・・・、この中で一番胸がありそうなのは・・・・・・バドシ!オラに胸筋の鍛え方を教えてくれ!」

この時、廊下側で聞き耳を立てていたヤミヒロはブチッ、となにか切れる音が聞こえた


       ___たぶんドンマロだな___

「そうっすね~、でも胸の筋力の鍛え方って結構ナゾっすよ。ただ腕立てしててもダメっぽいし、専用の器具とか買うのもちょっと・・・・あ、そうっす!テルさんも剣道やりませんか? 楽しいですよ」

「ンダ~、剣道か・・・さすがにもうすぐ三年だし、胸筋鍛えるためだけに入部させてくれっかな・・・・顧問も怖そうだしよお・・・・」

「シュッシュ・・・なら私が胸筋の鍛え方を教えて進ぜよう」

なにを企んでいるのか分別顔のクルタンは、いきなりとんでもないことをしでかした


ズバリ、自らの両手でテルの胸部を鷲掴みにしたのだ


なんだ!?という表情でンダ!?とだけ発するテル

「”鳥はむ”という料理を知ってますか テルくん」

「知らん・・ウッ」

「ちょっとテル 次、変な声出したらぶつからね」

「そーゆーの リフジンっていうのオラ知ってるぞ」

「ジュルリ」

「鳥胸肉を使ったハムっぽい料理・・・・調理方法は普通のハムとまったくもって異なり、ハムなのに燻製しなかったりと面白いのですが・・・・これがまた、結構美味なのですよ」

「ウウッ・・・ウウウッッッ・・・・旨そうだな!」

「シュッシュ・・・なぜおいしいのか・・・それは鳥だからです!  毎日青空を羽ばたき、その大きな翼による上下運動で胸筋は引き締まり、いい味を出しているのです!」

「ウ、ウウウウウッ・・・・ヴヴヴッッッッ!!!」

「つまり・・・・・シュシュシュyスシュシュシュ!!!! こ、こ、このよう、、、に・・・ッ!!!!   て、て、テルくんのおっぱいを上下さささせれば・・・!!!」

「ブッッッフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッtゥtゥ!!!」

「ウリウリウリウリウリウリウリッッッッ!!!!!!!!!」

「チョッッッx!!!アバラガ・・・!!!コリコリッテ!!! アバラガ!!!! コリコリッテ!!!!!!」

「ブホホホホホッ!!!!!!!!!!!!!」

「オ゛ッオオオ゛゛゛ッオ___ス、スゲーヨ___オッラのッ・・・・オッ・・・ムっ・・・・・コレ、クォレワッワットァ・・・・マッマッまさしく・・・」


テルはアヘ顔でこうイった


  「胸筋カーニバルなンダ~~~~~~~!」


「なにやってんだよおまえら」

もう耐えられないとヤミヒロは扉を開けた

こんなホモホモしい状況を廊下から垣間見る男子中学生の気持ちが分かるだろうか

分かってたまらねえ







___











給食時のように、四つの机を互いにくっつけあい椅子を五つ、これさえそろえばどこでも部活動ができるのがペン回しのいいところでもある

もちろん正式に”ペン回し部”なんてものは学校側も生徒会側も許すはずもなく、愛好会の部類に入るのかもしれないが、皆で堂々とペンを回せる環境があるのなら、それ以外は彼らにとってどうでもいいに等しいかった

「んだ? どうしたクルタン トイレか?」

最初に異変に気づいたのは意外にもテルだった

ペンから目を離しクルタンの表情を見てみれば、やはりどこか重い感じする

「いいえ・・・そういうわけでは・・・」

「なんっすかクルタン 水臭いっすよ!」

「そうよ  言いたいことがあるならちゃんといいなさい」

NPC一同の視線がクルタンに集中する中、しかし、ええ・・・・とだけいい残しシャドウ系の技練習をし始めた彼

なにか言うのを放棄したわけではなく、どう言おうか頭の中で整理しているようにもみえる

なら、、、、背中を押してやればいい

リーダーは、クルタンに告げた

「えり○か模倣花火事件が関係している・・・・そうだな?」

「シュッシュッ・・・・よくお分かりで・・・・」

「分かるもなにも、莫迦さが売りのNPCでそんなシリアスな顔されたら、考えることは一つでしょ」

絶対に忘れはしないつい三日前の出来事。バルコニーからぶっぱなした花火が不運にもパックン一味のいる部屋に飛んでいった通称”おばけはなび”

パックンはクルタンの実の妹であり一つ屋根の下で暮らしている以上、ヤミヒロはまたクルタンが標的にされたのではないかと心配していたのだ

きっと何かされたんだろ?と目で問いかけるリーダー

それを察したかさらに眉間が引き締まるとようやくその重い唇が開いた

「いいえ パックン一味からのアプローチはなんら知覚していないです しかしながら、私たちは今 重大な岐路に立たされているのかもしれません」

続けて

「率直に言って・・・・NPCメンバー全員で多数決を取りたい」

多数決...ということはやはりなにかあったんじゃないのか?、とクルタンを除いた全員が理解に苦しむ最中


           ああ、なんということだろう


まったく...このクルタンという男は....

”彼女ら”をよく知っている俺達からしてみたら”予想をはるかに超える思案”をぶつけてきたのだ...

「シュッシュ・・・・・・議題はただ一つ・・・

”私たちの方から”パックン一味を排撃するか、しないか・・・・それだけです」

空気が変わる最中、立て付けの悪い窓が音を鳴らすのは、なにか恐ろしい事象の前触れだろうか

「詳しくお願い」

「動機ですか?それとも方法ですか?」

「方法、そのあと動機ね」

みんなもそうよね?と視線を送るドンマロ


ああ、聞くしかない


もしかしたらNPCにとって、本当の意味での戦いが始まるかもしれないと、ヤミヒロはそう予感しながら...。


「シュッシュ、わかりました  少々長くなりますが極力要点だけを纏めるよう努めるので、ご静聴お願いします」

そういう彼はまず、胸ポケットから一冊の薄手帳を取り出した

開かれたのは日付のページ 三色ボールペンで巧みに彩った暗号らしきものはひとまず置いといて、彼の人差し指に触れた部分にだけ集中する

「テスト終わりの一週間後 例年通りこの学校の創立記念日に”新穀感謝祭”が行われます」

「20時まで校庭を自由に行き来でき、出店や太鼓や踊り、最後はキャンドルファイヤーからのプチキャンプファイヤーで締めるこの”新穀感謝祭” ___ここで妹どもへ一矢報いたい___そう考えています」

「さらに詳しく説明しますとまず、我々が妹どもを”学校の中”に誘い込みます。そして”学校の中”に隠れている我々が一丸となって矢を放ちます  舞台は夜の教室___そういうわけです____シュッシュッ
・・・なお、お手洗いと称して簡単に学校内へ進入できるのは、去年の祭りで確認済みです」

「なぜ”新穀感謝祭”なのか     なぜ学校内なのか
それについては動機の方で説明します」

「ここで重大な問題点。妹どもが実際に誘いに乗ってくるのか 職員に見つかればもちろん即アウト、ハイリスクでしかない夜の学校内にわざわざ入り込んでくれるような愚直を犯してくれるのか」

「それについても大事なところは動機の方で説明しますが、”新穀感謝祭当日”に妹どもと話し合い、誘導する方法を取りたいと思います ここで必要になってくる交渉人ですが、ヤミヒロ君 キミにお願いする予定です」

「と、ここまでが方法についての簡単な説明になります  続けても?」

「・・・」

なんかもう、トンドモな方法すぎて言葉が詰まるよ・・・と心の中で呟くヤミヒロ

一方、どうして俺なのかと考えるよりはどうこの風変わりな策を整合させていくのかと考えてしまったのは、その策の方法が術中に嵌ったとも思えないほど異彩を放っていたからに違いない

クルタンの目下にはうっすらと隈ができている  同情とかでは決してなくNPCのために続きを聞こう 

「シュッシュ・・・・続いて動機ですが....私は思うのです   戦争をする理由に過激も保守もない もはや究極的に防御であると」

「これは大げさな例ですが核戦争。攻撃的戦争になりうる兵器同士での戦いは起こらない

原子プロテクトで核の傘が壊れない以上、最後まで戦争は防御だと その証明をしています」

あまりにも突飛すぎる冒頭に困惑するメンバー

しかしドンマロだけは詭弁ね、とだけ返した

「人類が初めて”奪う”という考え方を持った時から、戦争が始まっていたのかもしれません

奪う人間が悪いのなら、ただ奪われただけの人間はもっと悪い

人間の中にある略奪という卑劣な思考から逃げたか、向き合ったか 

その違いは酷く大差です」

「もっと詭弁ね」

「マロ君はこの詭弁こそ正論なのだと思いませんか?」

「ええ、正論だと思うわ  でもねクルタン 正論なんて子ども向けの絵本と一緒よ

ある人々、一定の時期、時代に興じられる道具でしかない

子どもは未来を託されるけど、子どものままではなにも救えやしないのよ」

「シュッシュ・・・いいですね、さすがマロ君です 話の的を得ている.......そうです だからこそ戦いたい___正しさではなく、”ここにある空間”をただただ守りたいと願った 奇跡でしたね  私の思惟がではありません


丁度そんなこと考えているとき近くから聞こえてきたんですよ  


まるで全身の毛先の一本一本が震える感覚を得るような...


                                    【微かな泣き声を】


あれは同じく三日前  例の事件直後早急に貴方達を自宅に帰らせ、パックン一味が突撃してくるかもしれないと一人で構えていた時でした」


「ンダ  だれの声だったんだ?」


「まちがいなく パックンとカラピンの声です」


「バカな  頭にアサルトライフルをつきつけられても嘲笑しそうな連中だぞ 信じられない」

「はい そうですね   でもたしかに聞こえたんです  私も初めてでしたよ 妹の泣き声なんて聞いたのわ」

「で、なんで泣いていたの?」

「シュッシュ・・・・我々のミスで妹の部屋に入ってしまったアレ___そう、”おばけ花火”に恐怖したと考えます」

「根拠はなんっすか?」

「花火がパックン部屋に入った際の喚き声です  それは先に帰ったマロ君以外は聞いたと思いますが___おかしくありませんでしたか?」

「ひゃっほう?」

「なんで部屋に花火入ってきて楽しくなんだよ バカかよ」

「ンダ~・・・・なんつってたんだっけか・・・オラ思い出せねーぞ」

「『    デター!!!    』ですよテル君  バカではありませんがおかしな話です

シュッシュッ・・・・普通 キャー!!! とか うわぁー!!! もしくは絶句、無言でしょう?」

「・・・なるほどね。あのおばけ花火が、人魂にでも見えない限りそんなリアクションはとらない   相当のホラー好きか、よほどオバケに耐性がないのか」

「もし前者なら 喚き声から泣き声へ移行しがたいっすね」

「よってさっきも言ったとおり、部屋に入ってきた”おばけ花火”に恐怖したと考えます」

ここで話を整理してみよう  

クルタンは自らが率先してパックンへ攻撃を仕掛けようとしている

舞台は夜の教室

パックン一味は怖いのが苦手

・・・・なるほどな、ようやく話が見えてきた

「おばけ花火を使ったパックン一味排撃計画  そんなところか」

「シュッシュッ  エクセレント!  さて、時刻もそろそろ 一般的な登校時間に近づいてきました  多数決を取りましょう」

「よっしゃ」

考えてみれば、NPC内で多数決方式を使った正当会議は初めてだと思う

最大の宿敵を挑発する危険な行為をするか・・・それともしないか

初めてだからという軽い考え方は誰一人自分からできる状況ではなかった

「シュッシュ・・・では、提案者である私から投票させていただきます

と言っても何か紙に書くわけではなく口答ですが...

賛成に一票です  

私は提案者でありますが、それゆえこの作戦にはかなりの自信があります

この策ならば、”パックン一味への考えうる最大抑止力となりえ、そして、恒久的に停戦できる”と

そして、多数決方式はとったもののNPCのコンセンサスを得られるよう策の最後まで責任を持つことを宣言しましょう」

出馬でもするのかという勢いで賛成に投じたクルタン

けれども是が非でも自分の策を講じたいというわけではなく、きちんとNPCを考えて発言している メンバーあってのNPC NPCあっての策が柱になっている

まったく、どっかの政治家どもも見習って欲しいものだと柄にもない考えが浮かんだヤミヒロなのであった

次はテル

「ンダ  オラは正しいとか間違ってるとか、守っているのか攻めてるのか

そんな難しいことよくわかんねーしよ やってみなきゃわかんねぇーと思うんだ

だからオラは賛成だ クルタンの作戦はスンゲーんだろ?  

ならオラはそれを信じてみるし、実際にやってみる

・・・・そんじゃダメか?」

テルもテルできちんと自分流の意見を出した

ダメなんてことあるもんか

真直ぐな瞳で仲間を信じきれる  その強さにヤミヒロは同級生でありながらどうしようもなく尊敬の念を抱いてしまった

残るNPCメンバーはあと三人  次に賛成票が投じられれば決定する状況である

「クールっすね  素晴らしい作戦を発案したクルタンさんもそれを信じたテルさんも

本当にクールっす。

その上で言いますが、自分は反対に一票を」

「シュッシュッ・・・コンセンサスの観点から理由を聞かせてもらいたい」

「理由はコレです」

そういいながらバドシは自分ペンを机へと転がした

改造され鍔がないキャップは転がり続け、前方にあったクルタンの愛ペンにぶつかり、そして止まった

「たしかに策の方法も動機も良かったっすよ 

けれど問題はそこじゃない 彼女らの人間性です

パックン達は弱点など皆無の人間だと思っていました

才色兼備 眉目秀麗 音吐朗々 天衣無縫

でもそれは違った パックン達には”恐怖”という漬け込める隙があった

キレたら怖いっすよ皆さん  普段穏便な人間はね  ストッパーがキツイわけではないんすよ

むしろその逆  ストッパー緩いから どこか見つからない場所に隠すんです

切れることに慣れてもいない  だったら嫌な想像をしてしまうんすよ 

作戦がちょっとでもミスしたら壊されるかもしれない  このペン達が粉々に砕け散るかもしれない、とね

しかしながらこのままでいることの方が危険かもしれないことはわかっているつもりです

でも自分は賛同できない

どちらも自分が愛するペンを失うことになるかもしれないのなら、自分は反対しか選べません」

なぜなら
「自ら決めて進んだ道が、もしもペンを破壊されるという道に直結するのだとしたら....理屈で正しいことしたと言い聞かせても、中学生の自分では立ち直れない これから先、どう進んでいいのかも分からなくなる   ゆえに反対です」


ほんとメンタル紙切れっすね...と、嘲笑するバドシの話は終わった




             ヤミヒロは思う。



バドシが弱い人間なわけがない むしろ目頭が熱くなった。

    こんなにもペン回しを愛してくれている人間が仲間としてNPCにいる

それはもちろん全員のことなのだけど、こうやって改めて実感させられると、リーダーとして、いやヤミヒロ自分自身として、俺の答えをしっかり導き出そうとさらに頭を回転させた

ラストは二人  ドンマロが賛成すれば決まり  反対すればリーダーに託される

どちらにせよ自分の意見を述べるつもりのヤミヒロではあったが、椅子に深く座り直し緊張が体中を駆け巡った

「私は反対側に廻らせてもらうわ ・・・ん? なによクルタン 意外そうな目をして」

「いえ、私が考えた策の方法はともかくとして、危機性を和らげようとせん方針はNPCメンバーの中で一番賛成してもらえるだろうと踏んでいたので」

「たしかにね・・・・でも勘違いしないで。 私はリスクを回避するために何でもするわけじゃない ただ降りかかる火の粉に一箇所たりとも服を汚されたくないだけよ」

「ンダ 同じじゃねーのか?」

「シュッシュッ・・・やはり”自分達から”攻撃をしかけるというのは気が引けると?」

「そんなところね」

「コンセンサスの観点から言わせてもらいますがいいですか?」

「もちろんいいわよ」

「私達は以前、妹どもにいいようにあしらわれたではありませんか 血が繋がっているからという根拠のない理由で言いますが 私にはこのままなにもされないとは到底思えない」

「だからって何かしてくると100%言い切れるのかしら
いいクルタン  過去の一件はもう終わったのよ  表面上は勝ち 内面上は負け と勝負はついたの 
この中にパックンを怨んでる人がいる? いないでしょ  
それはつまり、少なからずNPCメンバー全員がパックン一味から”利益”を得てしまった証なの
だったらあちらから仕掛けてくるのを待つのが一番平和的で堅実だと私は思うわ」

「シュッシュッ・・・・しかし私は」

「話し合いで解決するという大事な手段も忘れてるわね パックン相手にそんなの通用しないかもしれない

でもそれこそやってみなきゃわからない___一番決め付けてはいけない部分、一番尊重すべき行動___そうは思わないクルタン?」

「__________。」

「いいのよクルタン  私も頑固な老婆の如く反対の一点張りってわけじゃない

”おばけ花火を使ったパックン一味排撃計画”だっけ? ・・・別に暴力を奮ってってわけじゃないんでしょ?いいじゃないそのくらいの懲らしめ  私は現実的な手段は好きよ

だけどもまあ、考え方が合わないから反対としたけれど、私もまだまだ中学生。人生観なんてまだ皆無よ。冒険してみたくもある。

ただやっぱり危険性は高いからNPC全員の声を、しっかりと聞きたいわね」

そんなわけでよろしく・・・ねっ、といつのまにか背後に来ていたドンマロの手が肩に触れた

やれやれ、こんなリーダーぽい立場は何年ぶりだ?

いやいや俺リーダーぽいじゃななくて正真正銘リーダーだし、ていうかNPCが結成されてからまだ半年程度しか経ってないし

脳内でなにノリツッコミしてんだ的な目で俺を見つめる一同

「みんなNPCのこと、ちゃんと考えてくれてたんだな」

「当たり前っすよ」

「意見は見事に真っ二つだけど、そんなこと置いておく

ありのまま、なんら濁りのない俺自身の意見を言わせてもらう」

皆は軽く頷く。昇降口からはもう生徒の声がちらほら聞こえてきた

「みんなも知っての通りだが俺は、・・・シマウマみたいな人間だ!」

今、鼻で笑ったやつ誰だ。まあいいか続ける。

「災いからはすぐ逃げる 危険地帯には踏み込まない なるべく行動策はとらず流れるプールに浸りたい

だから普通は大反対 ありえないだろこんな肉食系な作戦 考える余地もなく身体が勝手に反対票を箱に入れてる
その辺NPCメンバーならわかってるだろ?」

解散!と席を立ったドンマロは、しかし座りなおすよう指示するヤミヒロ

「でも違うんだよ  そう、ドンマロの言葉で確信したんだ」

「なんのこと?」

「ついさっきお前『パックンに怨みを持つ人間は誰もいない』っていったよな?

アレは違うよ

別に怨みというほどじゃないが、少なくとも俺は怒ってる」

「めずらしーな ヤミヒロが怒るの」

「ああ、そうだな」

自分でも驚いてる

なんでシマウマの俺がキレかかっているのだろう

理由は明白、クルタンのペンが盗まれたあの事件___パックン一味に喧嘩を売られたからだ

一個人として喧嘩を売られたならどうでもいい ここだけの話、逃げ切れず殴られたのなら平然と殴られ続けるだろう  なんの感情も抱かない  ただ運が悪かったなぁ~程度にしか思わないし怨みもしない

けれでも今回はまるで違う 奴等は”NPCそのもの”へ宣戦布告してきたのだ

正式名はNPC@13 

俺の人生の中で唯一自分から引っ張っていこうと決めたグループ 自分の人生観が揺らいだペン回しで活動するグループ  誇りに思うグループ

なぜだかはわからない 

ただ好きなのかという自問を忘れるほどペンを回し、仲間と共有し、楽しみたい

当たり前のようにそれらの欲求を満たそうと行動し、けれども奇跡的な心情の変化

この変化が生んだNPCが”試された”のだからまったくふざけた話だよ

・・・

そう、気づいたんだよ俺は

「NPCを弄んだパックン一味だけは今でも許せない 叩ける策があるのなら俺は大賛成だ」

「ふふ・・・言うわねまったく、私の話聞いてた?」

「ああ聞いてたよ 要するにハイリータンハイリスクってことだろ  

わかってる NPCにとって逆効果になるかもしれないってことも 話し合いこそ正義だということも」

でもさ
「それと同じくらい”成果”も上げられる可能性がある  なあクルタン 話し合いをしてから排撃計画を実行するのではダメなのか?」

「その場合 交渉戦でかなりの不利を強いられることになります あとこれをいうと弁解がましいかもしれませんが交渉戦はいわば話し合いととっていいと思います  お互いが納得しなければ校舎内での戦いは始まりませんから」

「そうか・・・・じゃあさ」

そして言葉を刺した

「本当に私情で悪いんだけど俺、今回だけはパックン一味に対するこの”怒り”って感情を尊重してやろうと思うんだよ」

一呼吸置きながら、改めて一人ひとりに目線をあわせたヤミヒロは、軽く頭を下げながら言う














 _______________「NPCは戦うべきだ」














パックン一味に対する”怒り” 、それはNPCがここにある確固たる証拠であり、過去のヤミヒロからは絶対に生み出されることはなかったであろう感情

自分から動くのも悪くないと、NPCを作ろうと決めたあの時から思ってきたのだから、当然どころか必然の賛成票である

もちろんエゴイスチックな考えだと自覚している だからこうやって頭を下げながら決断したわけで・・・

しかし・・・なんか・・・・こう・・・・あれだ・・・・

笑い声が聞こえてきた

「ぶ、ブブホッ なにお願いしてるんですかヤミヒロ君」

「そ、そうよ フハハハハ そんなに懇願しなくても多数決でしょ? まったく、朝っぱらから笑わせないでよね」

「い、いやでも、NPCとして大事な最終票だったというか」

「なにいってんだヤミヒロはよー 最初だろうが最後だろが同じ一票には変わりないだろ あほなんだ~」

「・・・リーダーとしてだな」

「リーダーもクソもないっすよ  多数決で決めたことはNPCの方針 みんなで決めたことです」

「・・・」

とまぁ、こんな感じで見事に言いくるめ?られてしまったヤミヒロ

本人曰く、『いかなる時でもリーダーが最終責任を問うべきある』という流儀があるらしいが、・・・まぁ100万年早い願望であった










さて

             さて

                           さて 






                                              さて






舞台はテストが終わり一週間後の夜のグラウンド




校庭から見上げる時計の針が7を示しているのに、辺りは真っ暗なぎこちなさ




さてさて今宵は盛り上がろうぞ




単身で自分自身を鼓舞しながら開けっ放しの校門を突っ切り校庭へ




昇降口を横切り、水飲み場のブロックを盾にしゃがみ込めば、携帯用無線通話機であるイヤホンを耳へと装着する




さてさて今宵は盛り上がろうぞ






                    交渉人ヤミヒロ_______出撃である










              NPC@13VSパックン一味戦争___勃発へ。  亡霊のダイブスピナー第三章2/3(交渉編) 2013.2.9.(土)公開

えすえすそのにっ!

2013-01-26 09:17:38 | NPC@13物語
ヤミヒロ「・・・・(カキカキ」

ドンマロ「ちょっと・・・???ってまさかこれのこと?・・・」

ヤミヒロ「・・・・(カキカキ」

バドシ「またかよ」

ヤミヒロ「・・・・(バキ、、カチカチ、、、、カキカキカキ」

テル「なぁなぁ早く三章上げてくれよ オラまてねーぞ」

バドシ「ホントっすよ・・・こういうグダグダなことしてたらせっかく少ない読者さんが更に削られていくんじゃ・・・」

クルタン「シュッシュッ・・・・ヤミヒロくん___速く書けるペンをご所望か?」

ヤミヒロ「・・・・」

テル「おお? そんなペン持ってんのかクルマリン」

クルタン「やはり食いついてきましたねテル坊 いいですか?このリストバンドをはめたあとにこのペンでグリップを強く握った上で書いてみてください」

テル「・・・んん・・・・うおおおスッッッゲェ! オラが書こうとしてる字が自動で書かれていくぞ___!!」

クルタン「シュッシュッ ペンに内臓されたマイコンが予め入力しておいたテル坊の筆跡データと照合しペン先の小型ベアリングで予測行動をしてるのですよ」

テル「ヒ、ヒッセキデータがなんだって?」

クルタン「シュッシュッ 例えば横線一本を書いたとして筆跡データを使えばその人が“ち”を書こうとしているのか“あ”を書こうとしているのかがわかってしまうのですよ あとは自動で書いてくれます」

バドシ「ホントっすか・・・じゃあ試しに餡子って書いてみテル」

テル「わかった_______ん____んん?____なあなあ、ちんこって書いちゃったぞお・・・」

バドシ「ブボボボボボwwwwひーwwwひーwww」

ドンマロ「あんた等ほんとくだらない」

クルタン「バグですねえ・・・」

テル「なんだよバグかよ、あとバドシ笑いすぎなンダ」

バドシ「だってそういうテストなら普通難しい漢字で試すでしょうに」

テル「じゃあ バドシが書いてみるンダ!」

・・・

バドシ「うっはwwww僕もちんこになったwwww訟訴wwwwww」

クルタン「やはりバグですねえ・・・・やはりバグですねえッ・・・!」

ヤミヒロ「るッッッッせーよ!!!!!!!!」

ドンマロ「あんたもうるさい」

テル「ンダ~ だいさんしょうっ!だいさんしょうっ!」

ヤミヒロ「だからそれを今 書いてるんだろ!!?? ちょっとは静かにしてくれよ!」

クルタン「ゴホン・・・普段は目覚まし時計なんて使わずに、太陽の光だけで自然と目を覚ますのが彼のスタイルなので」

ヤミヒロ「おおーとストップストップ、相変わらずままらない男だなあクルタンはいったいどこから見ていたのかなネタバレなのかなしぬのかな」

バドシ「かwれwのwスwタwイwルwwwwww」

ドンマロ「やめなさいバドシ_________あれでも立候補よ」

ヤミヒロ「うるさいよっ!!!ほっとけよ!!!!!」

テル「ンダー いつまで待てばいんだあ・・・」

ヤミヒロ「だから2月2日っていったでしょ!? もうお前は永遠にソニックコンボでもやってればいいよ」

クルタン「シュッシュッ・・・テル坊・・・・__________朗報です(紙」




テル「んだ? なんだこの絵」

バドシ「顔歪んでね?」

ドンマロ「目が生理的無理・・・」

ヤミヒロ「?、なにさっきからこそこそ見てんクワァーーーーーーーーー!!!(ビリビリ」

クルタン「ああ、ああ、もったいないですね、せっかくの成長記録が シュッシュッ」

ヤミヒロ「なにが成長記録だよ!黒歴史だろこんなの!!! いや、まあ今書いて描いてるのもそうかもしんないけど」

ドンマロ「なら何の問題もないじゃない」

ヤミヒロ「あるからわざわざ書き直したんじゃねーか!  半年前に描いた絵をなあ!!」





クルタン「私です(厚紙」



ヤミヒロ「やめるです(グシャグシャ」






クルタン「ぽれ(タブレット」






ヤミヒロ「フンッ!(バリン」






クルタン「頑張りは認めますが__はい皆さん(ノーパソ」




ヤミヒロ「認めるなら優しく見守ろうな(逆パカ」






クルタン「んで、これが半年前と最近書いたのの比較になります(スーパーコンピュータ」





ヤミヒロ「国家規模の演算技術になんてもん晒してんだ!!!」

ドンマロ「なんで塗らなかったのよ せっかくデジタルで書いてるのに」

ヤミヒロ「いやあ、難しすぎて断念したよ 今勉強中」

バドシ「なんで俺の字荒ぶってるん?」

ヤミヒロ「かっこつけたかったんだよ___見事に失敗したけど」

テル「なあなあ オラ思うに 俺の目が変な風になったのはよー違うんだよ」

ドンマロ「は? なにが?どうみてもデメキンじゃない」

テル「いやいやメガネのクッセツってのよー、表現したかったんだよなヤミヒロ」

ヤミヒロ「あ、ああ、、、そうだな」







ヤミヒロ(・・・・なぜだろう・・・・・・・・今のが一番効いた・・・・・・)



・・・・

ヤミヒロ「っと、いうわけで自宅に帰らせて頂きます」

ドンマロ「いいじゃない修行と思ってここで書き続けなさいよ」

バドシ「そおっすよそおっすよ 人生、過酷はつきものっす」

テル「痛みはスパイスなんだ 色んな痛みを経験することでおいしいカレーが出来上がる」

クルタン「シュッシュッ、なお、誰も妨害を否定しねえ!!!などのありふれたツッコミはNGですのであしからず」

ヤミヒロ「・・・・・」

ヤミヒロ以外全員「ジー・・・・・・・」

ヤミヒロ「帰らせて頂きますッ!!!」



・・・・

・・・



こうして×月×日のNPC集会はリーダー帰宅により終了。

やや荒れた内容だったもののNPCではよくある話。

なので少し経てばいつもの如く、床の調べが鳴り始めるのであった。

                               NPC物語亡霊のダイブスピナー編第三章2012.02.02(土)公開













亡霊のダイブスピナー編 第二章2/2

2013-01-19 00:01:33 | NPC@13物語
100回くらい叩いた辺りか

少年少女達の歩幅は狭く、心の中がもやもやした状態というのはまさにこれ

言いたい放題言われて、殺意さえ覚えるドンマロ

言いたいことがわからない山猫に、しかし敵意を見出せないヤミヒロ

どっちがコンプレックスかといわれれば間違いなくヤミヒロの方である

「で、あそこまで言われてなんでヤミヒロは無表情なのよ あんたそれでも人間?」

「別に、・・・なんていうのかな」

「なんていうのよ」

「ただ、なにも分からないんだ   分からないから顔にも出ないんだよ・・・きっと」

「それ、・・・本気でいってる?」

「なんだよ、本気じゃ悪いのかよ 少なくとも分からないのは本当のことだ」

「・・・・・・・」

今日のところは深く言及しないと決めたドンマロだったが、いかんせん確かめたいものが生まれてしまった

分からないから顔にでない? 違うでしょ 分からないから人は焦るの 焦るから顔にでる。・・・じゃあ


       顔にでないヤミヒロはなんなの?  


その自問に対し、ドンマロは一つの推測をだした。それも一瞬で、思考時間なんていらないほどに早く、そしてはっきりと・・・。

あとは彼に言うか言わないか、

普通なら”そんなこと”を高速で推測した自分を責めてもおかしくわない。だけど...


_____私は私よ______


今言いたいことを言わなければ、私としてはダメになる___だから

「ヤミヒロ?いちよう聞くけど ホントにいちようよ? いちようなんだけど・・・


ヤミヒロはペン回し・・・どうおもっ」

「なに言おうとしてんだよ、好きだよ!! 大好きだ!!! そこはハッキリしてる 絶対に」

・・・・絶対に!!!・・・・

同じペン回しを愛する仲間からそんな悲しい質問、いちようでも、もしもでも、夢でさえも聞きたくはない

「そう・・・じゃあ、自分の謂いたい事をジジィに代弁してもらえてスッキリっわけではないのね?」

その問いに対し、当たり前だ!と断言する彼。しかしながら、当たり前のことをいちいち確認するな!とまでは怒りはしない

山猫からの問いを否定できなかったのは、それだけ罪なことだと深く受け止めているからである。そして罪への反省は、否定できなかった自分をさらに強く懲らしめるものにほかならない。

ともあれこれで誤解は解け、ドンマロの表情も少しは緩むだろうと予想したヤミヒロだったが、依然として空気は変わらず、むしろ怒鳴る勢いで彼女は言った


「ならアンタは逃げてるのよ  あんまり”逃げる”なんて曖昧で無神経な言葉使いたくないけどさ  少なくとも”自分の分からなさ”に酔ってボケーとしてるのは確かなんでしょ?」

「・・・たしかに・・・・そうかもしれない」

「わかってるなら即、行動!

あまり考え込みすぎるのも良くないけど・・・

でも!、自分の分からない感情とはなんなのか悩んで、苦虫顔になんなきゃダメでしょ

少なくともこの商店街ではシリアスに歩きなさい」


「・・・そんなこというならドンマロよ」


「なによ」


「梅干くれよな」

・・・・

・・・・

・・・・

・・・・これまたいい塩梅で寡黙モードに入ったドンマロである

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あれ?・・・俺すべった?・・・わかったよ、いやいや、わかってたよ、軽くウィンクしたのがキモかったんだよ?・・ん???・・・ちょ!なんだよちょっと無言で、、、、!!!」

慌てて追いかけるがしかし、まるで反発しあう磁石のように、さらにさらにと離れるドンマロ

「あのあのマロさんや、またたくまに俺とキミの距離感膨張してね?、もしかして無関係者の範囲ってやつなのかなコレ?、まぁ、いまさら感あるけどさ...いやいやいやいやここんぽん根本
思い返してみれば、なんで俺 同級生に説教されてたんだよ!?」

その言葉にスタッと立ち止まる彼女。そして振り返り、そこまで長くない髪なのに手で掻き分けながら言った

私はね・・・
「思考能力が乏しいバカは嫌いじゃないわ」 


でもね・・・
「考えようともしない連中は大嫌いなのよ!!!」

「____」

最後は自己本位で完結させやがった・・・と多少イラついたヤミヒロだったが、それも最初だけ話 

『相手に正論をぶつけた後、最後は自分勝手な意見で〆る』
 
それが、【言いたいことがあるとどうしても口に出してしまう】少女なりの”優しさ”なのは、ヤミヒロもといNPCメンバーなら皆が知っていることなのだ


____


商店街を抜けると、大きな国道が敷かれている

ヤミヒロはその道路を跨ぎ自宅へ、ドンマロは跨がずに左へ進めば我が家である

「それじゃあな」

ヤミヒロはもう青になっている歩行者ランプに目をやると、簡易な別れ言葉で走り出した

・・・でもな・・・・、家帰っても捗りそうにないんだよな・・・

そんなことを考えながら交差点を走り終わると後ろから、やっぱり足だけは速いわねヤミヒロは、と声が掠った

「えっと・・・・こっち側にようでも?」

「うん、バス停があるからね。私、買いたいものがあるからもうちょっと付き合ってよ」

「試験期間の意味について聞きたいんだけど?」

「なによ 私、知ってるのよ

ここんとこ毎日のようにはテルと二人でNPCお絵かきチャットにログインしてる人間のこと
あと、一昨日のまでのお絵かきならログが残ってたから拝見させてもらったけど、なかなかうまいじゃない あれジャンマ先生の似顔絵でしょ? 着色、ディテールに至るまでの書き込みっぷり・・・いったい何時間お絵かきしてたのよ」

「な ぜ ば れ た し 」

そうですそうですよ、

2日前、徹夜覚悟で挑んだ最高の力作ですよ、

・・・ごほん。

皆さんは勉強しようとすると部屋掃除がしたくなる衝動にかられたとこはないだろうか? 

それと同じように、俺とテルは大して勉強しようと思ってないなのに、お絵かきがしたくてたまらなくなったのだ。あ、同じじゃない。

結果、

書く、書く、書く、書く、15時間

祝賀会、撮影会を含めるとほぼ一日に及んだ名状しがたい儀式のようなものは、そのせいで昨日は一日中寝てしまったNO★DA

いや、”NO★DA”、じゃないだろうが、、、ううう、本当にヤバイんだよ、、、

まぁいい 試験一日目を犠牲にして今日の自由な一日を買う  それでいいじゃないか

超短絡な等価交換に一人納得するとドンマロの誘いに乗ることにした

「わかったよ じゃあ早くバス亭へ」

「お! さすがリーダ~   それと、あとはどうする?」

「ん? なにがだよ」

その約10分後  時と場合を考えないドンマロの行動に震えるリーダーなのであった


____


「ホントにやんのかよ」

「もう しつこいわね  私一人でやるんだから黙ってみてればいいの!」

ピンポーンと目の前のインターホンを押した彼女

そう、ドンマロは今、テスト期間中にも関わらず他の友達まで“遊びの沼”へ沈めようとしている

中学生という身分の低さからケータイなんぞ持っているわけもない 

っとなるといきなり誘うには、家の電話を使うか、このようにインターホンで直接訪問するしかないのである

・・・しかしまぁ・・・バス亭に近い家だから駄目もとで呼んでみようなんて・・・

ドンマロの悪いところは、リスクを考えない効率性にあるな…と、思う

「あのな・・・黙って救われるならボディーガードにでもなってやる。だから聞かせてくれ 

策はあるんだろうな?」

「当たり前じゃない 伊達にNPC副リーダー、名乗ってないわよ」

分別顔の少女は軽くあしらい、するとインターホンから声が聞こえ始めた

『あーもしもし?・・この外部カメラ曇ってて良く見えないんすよね   もしかしてドンマロさん?』

運がいいことに受話器に出たのは本人 とりあえず出だしは好調、と嘆息したヤミヒロであるが、すぐ隣は真剣な表情に切り替わり、そして一気に謂った

『いくわよ、内容はスカイハイソニック トリプルアクセルリバースでフェイクトノーマル件だけど全てヤミヒロの責任払いでスプレッド系でもいいわ どうかしら』

『・・・・・・』

「ええと・・・うんドンマロ 彼も困惑してるようだから言うけど まったく意味が分からないよ?」

「困惑なんてしてないわよ」

ただ考えてるだけでしょ、と断言する彼女

どうやら俺の知らぬ間にNPC内ではペン回しの技名を使った隠語たるシステムが生まれていたらしい

スカイハイソニックは、空へ、つまり外出しようという意味

トリプルアクセルリバースは、三時間半で(家へと)戻ってこれるという時間的な意味

フェイクトノーマルは、単に、まやかしという意味

スプレッド系は、〆技、つまり”人を締め付ける技”で刑法性の高い用語だと彼女は教えてくれた


この知識を使ってさきの文章を解読すると、

~私たちと三時間半ぐらい遊びましょう  親に外で遊んだのがばれたらヤミヒロが責任とって殺されるってことでどうかしら~

・・・

「なによそんな怖い顔して、・・・そんなことよりおーい、どうなのー!」

『あ 遅れてすいません ええと じゃあ・・・ノーマルということで!」

返事を聞き終えたドンマロは、額に青筋を浮かべるヤミヒロなんて無視し、そそくさと家影へ離れた

「激怒する前に聞いとくが、ノーマルの意味は?」

「良い か 悪い の返答にはノーマルかソニックの技名が使われてる

OKのOの軌道を描くノーマルは"良い、正しい"という意味

NOのNっぽい軌道を描くソニックは”悪い、ダメ”って意味


そして地面に転がる小石を蹴飛ばしながらドンマロは言った


「バードシーゲット~♪」


____



バードシーの三戦により3名となったNPCメンバーが向かうは都会の中心“新宿”

地元の商店街から15分ほどバスに揺られればつく程度の距離である

「ヴぇ・・・やっと着いたッス・・・マジ酔った・・・」





いつもなら自転車だからか、この通り。地に足つけたと同時に両手までつけかけるバドシ

「おいおい大丈夫かバドシ やっぱりチャリの方が良かったんじゃ・・・」

「なによ、私に言ってるの? 自転車なんて使えば遠出してたのがばれる可能性があるって最初に行ったじゃない 必然よ ひ つ ぜ ん !」

「うぇ・・・そうっすかね・・・・図書館くらいの近い距離でも、自転車使うっすよジブン・・・たまにだけど」

それでもダメというドンマロ。疑われたら最後、そんな言い訳では補えないほどの証拠が生み出される危険があると、・・・相変わらずぬかりないこの女









「ぶぼぼぼ」

「バドシくん!!??」

「いやぁなんとか持ちこたえたっす  いやはや・・・バスの中と同じくらい今のはやばかった・・・
もう済んだ話だからいいますけどね、
もしもヤミヒロさんがパーカーとか着てたら、フードにギブアップしてたかもっすね・・・たはは...」

「たははじゃねーよ!自嘲気味に恐ろしいこというな!!!オレが一番マジ危なかったってオチかよ!」

それはさて置き、NPCメンバーで新宿を歩くとなると文房具店へ行くのが必然である

画材やGペンなど専門的なものが揃っているお店や大型百貨店の文房具コーナーなどが行きつけで、あれがいいやっぱこれがいいかも、などと選別していればすぐに日が暮れてしまう町である

だからといってテスト前までくるほどの場所でもないのだが、まぁ ドンマロのにも用事があるみたいだしここはドーン!と構えるのが男ってもんだろう

「じゃあ私はここで、_すぐ用事済ませてくるから文房具売り場で合流しましょう」

「ん、なんだよそれ 俺達も付き合うぞ」

「・・・ワシも・・・っす」

「いいのいいの、それにバドシの方は一人称までおかしくなってきてるじゃないの  今日の移動範囲は最低限にすべきね。 3時間半という制約もあるのよ?」

「・・・・たしかに、」

ヤミヒロはうなずき、彼女が走っていくのを承諾することにした

都会の中心で○ロを吐こうとしているコイツとは外出3時間半という約束だったもんな・・・

バスでの往復を考えると実質3時間 


持ち前の妥協と甲斐性のなさで、昔から時間を大切に思わないリーダーなのだが。しかし、大いなる犠牲で得たこの時間は有意義にせずにはいられなかった

「ほら はやく行くぞバドシ」

「うぃいい・・・」


___


彼らが向かう先は大型百貨店、エレベーターランプが[七]で開いた扉の先

こども服、おもちゃ、水着、野球ファングッズ、理容室まで構える階の1フロア

文具・事務用品店「丸良」

その敷居をペンではなく、肩を回しながら跨ぐのはヤミヒロと、そしてバドシである

「あたた・・・、同い年とはいえ自分より重い相手に肩を貸すのはシンドイな・・・」

「いや~、助かったすよ なんかしんねーけど体調も回復したし! なんですか?
 ヤミヒロの肩には治癒能力でもあるんですか??」

このこの~、と、さっきまで貸していた肩を指で突いてくる中二バドシ

「やめろ・・・自覚ないようだから言っとくけど地味に痛いよそのスキンシップ・・・時間もあんまないし、さっさと行くぞ」

「そうっすね!!!」

完全回復か、小走りでペンコーナーに向かう彼には明確な理由があった

NPC2ndPVが製作される予定の冬休みまで残り2ヶ月を切った最近、バドシの愛ペンが壊れてしまったのだ

通常、ペンが壊れるといった場合。付属の部品を取り替えたり、インクの差し替えさえすればまた使えるようになるものなのだが、ペン回しにおいて、ペンが壊れるというのは、ペンが粉々・・・再生不能になることと等しい

ある意味、ペンには優しくない激しい落下を繰り返す遊び。つまり彼の場合、ペンが真っ二つに折れてしまったということである

さて、

どれにするっすかね~、と迷っているそこの彼

それを見て、久しぶりにリーダーっぽい振る舞いができると確信したヤミヒロは、ドンマロが帰ってくる前にと、早急にご高説し始めた 

「前 使ってたペンって単頭の改造ペンだっけか?」

「そうっすよ かなり回し易かったんですが、床に落ちるときによくキャップの部分が分離しちゃいましてね・・・いちいちくっ付けるのが面倒だから断腸の思いで接着剤を使ったんですが、今度は真っ二つに折れてしまいました・・・力が分散できなかったんすかね・・・」

「・・・そうか、うーん じゃあコレなんかどうだ」

手渡したのトンボ鉛筆が誇る子どもから大人まで数多くの支持を集めるロングヒットサインペン【PLAY COLOR 2 】
ペン回し改造においては、両サイドさらにもう一つずつキャップを追加したロングプレカラにするのが主流である

改造方法は至ってシンプル スピナー初心者に大人気のペンだ

「ロンプレっすか、でもコレ 自分には軽くて使いこなせないんすよね」

そうか・・・と再び選びなおすヤミヒロだったが、驚くべきことに今日のヤミヒロは冴えていた 

「うーん、やっぱりオレのオススメはプレカラかな」

「?・・・・・双頭ペン(ペンの重心がほぼ中心の左右対称のペン)もつかいこなせなきゃダメってことっすか?」

「うーん ちょっと違う  たしかにスピナーにとって、色々なペンを使いこなせたほうがいいのは確かだし中級者以上になってくると、技一つにしたって”見栄え”でペンの種類を変えることも拘るようになるしな、・・・でもオレが言っているのはそういうことじゃない」

「バドシの使ってた愛ペンにプレカラのキャップ部品を付け合せるんだよ

キャップが取れ易いんだったよな?   そのキャップの中にさらにプレカラキャップを入れてくっ付ければ隙間が埋まって外れにくくなるはず」

「ほほ・・・なるほど・・・おお・・・・じわじわ凄ぇ・・・・さすがリーダー!」

「おうよ!」

・・・決まった・・・俺・・・

今にも泣き出しそうなリーダーの前で、どのプレカラにしようか満面の笑みで選ぶバドシ

なかなか決まらないのも無理はない

なにせPLAY COLOR 2 の形状は一種類のみだが、色のレパートリーは36色もあるのだ

ここは都会の文房具店 もちろん全色余すことなく売られている

「なに色にするっすかね~、きょうむらさき、アッシュブラウン、ライムグリーン・・・

ここは渋めに紅色っつーのも乙ですなぁ~」

「これとかどうだバドシ、トマトレッドとかしゃれてね?」

「おふぅ・・・トマトですか・・・今日の昼飯 トマト尽くしだったんすよ・・・

・・・・・言ってる意味わかります?」


「うん、わかるよ。もしもオレがフードを着てたら、ミネストローネ鍋が生成されるとこだったんだろ?」


「ブォン・・ジョ~るノ・・・っすぅ・・・・」


「すまなかったよ・・・・てか、はやく選べ!!!!!」

「そう言われたって困りますよ・・・マジ 色多すぎ・・・・・・・この際 あえてテキトーに選ぶというのも・・・・・いや・・・でも・・・・・あっ・・・・・」

一種類のプレカラを手にとった瞬間、バドシの手は静止した

「ん?どうかしたか??」

手に乗せられているプレカラの色は”うすあおみどり”

彼はゆっくりとメガネの位置を整え、もう一度よく視認した上で言った


「この色・・・・・あの花火の輝きにそっくりっすね・・・」


「・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・やっぱりお前も気になるのか?」


「そりゃあ そうっすよ。警戒するのは当然・・・」


二日前に起きたあの事件

今日までオオゴトにならなかったのは不幸中の幸いで、事件というより未遂に入るのかもしれないが、あの夕暮れ時、たしかに花火は発射された

その花火は、おばけ花火というらしい___打ち上げ式にしては飛距離は短く、しかし浮遊時間が長い___まったく・・・あのバカは大変なもの飛ばしやがった

オオゴトになってはいないためNPCメンバーに被害はない

だがしかし、影響はあった

なにせその幽霊花火は、わが身が燃え尽きる寸前に方向転換し、あろうことかパックン一味に被害をもたらしてしまったのだのだから・・・

パックン一味・・・・三行であらましを書き綴るのなら...

パックンはクルタンの妹

クルタンのペンを盗んだことがある

NPCグループ最大の天敵

とまぁこんなところだろう・・・そしてなにより目的のためなら、いかなる所作も躊躇わない冷血な策士である。年下だからと舐めてかかられるほどの余裕はPV事件でとっくに捨ててきた

もういいたいことはわかるだろう


パックン一味の被害は、NPCメンバーへの影響なのだ


バドシはその影響が、新たなる危機を生み出すのではないかと心配しているのだろう

「そうだな・・・パックン一味のことだ・・・俺達がブッぱなしたのバレバレだろうし・・・・今度はオレの愛ペンが、・・・盗まれちまうかもな」

「・・・もしパくられたらどうするっすか?」

「もちろん取り返しに行く あ、オマエラのもだぞ。誰のペンが盗まれようともリーダー命令で奪還する」

・・・・また決まったか?・・・・

「はぁ・・・でも、大丈夫ですかねぇ」

「ん、なにがだよ 昔はともかく今のNPCメンバーは知能 体力 バカ要素が充実した、いわば無敵だろ? ペン一本くらい、取り返せないでどうする」

「いや・・僕がいいたいのはそういうことではなくてですね・・・・

今のNPCメンバーが一つのままで、ちゃんといられるのか・・・と思うんすよ」


「・・・ああ・・・そっちか・・・・」

クルタンのペンが盗まれた通称PV事件

たしかに事件の最中一番厄介だったのは、ペンを取り返すことではなく、心理的な面だ

クルタンが俺達にペンが盗まれたと報告した時にはもう攻撃が始まっていて、最後はメンバーが一人欠けるかもしれないとこまで侵食してきた

だけどリーダーは思う  怪我の功名だとも

PV事件でさらに深い絆が結ばれた事実がある。結果論かもしれないが、事件以降のクルタンの笑い声を思い出したら、なんだか堪らなく無敵に思えてきた___だから

「・・・そっちはもっと心配しなくていいだろ

油断しちゃいけないのはわかってる  

つってもやっぱりチューイチなんだよ 怯えたってデメリットでしかない

そんな下級生風情が俺達の輪が砕かけるかよ」

「そうっすか・・・じゃあ、言い方悪いけど・・・

               ・・・・・愛ペンを粉々にぶっ壊されてもっすか?」

ヤミヒロは即答した

「ああ "俺の"ペンが折れることはあっても、"俺達の"輪は永久に正円を画く」

バドシの顔など直視せず、ペンをくるくると回しながら謂った一言だったが、彼自身いつも半開きの直線瞼を曲線の弧に___凛然と謂った一言でもあった


___


話は一段落つき、買い物を済ませた両者。後は他の用事で別行動だったドンマロを待つだけ

ちなみになにを買ったかというとバドシは山吹色のプレカラとボールペン、ヤミヒロは筆ペン一本だ

「なかなかこないっすねぇ」

「そうだな。とりあえず俺、トイレ行ってくるわ」

あ、つれしょん!、と尿意が伝播したか、バドシもかわやへと歩を向けた

トイレの場所は文房具店を出てすぐ左、エレベーターを突っ切った先にある

30メートル程度しか離れていないこと考えれば、ドンマロがその間に待ち合わせ場所に来て、いないから帰る、的なことにはならないだろう...たぶん

けれども念には念を、少年ら二人は漏れない程度に小走りを駆け足にギアチェンジ__一直線で加速した

「ちょっとヤミヒロさん。ストップっすよ」

「なんだよ」

「7階のトイレ 女子のしか」

今この瞬間ヤミヒロが手にかけようとしたドアノブ、その左上の図を見てみるとちゃんと三角形に○が乗っかり、色は赤・・・・・どうみても女子トイレじゃないですか・・・・・あぶねぇ・・・・・

驚くよりも罪人になる恐怖が上だったか、とりあえずヤミヒロの尿意はギリギリのとこまでもっていかれた

「んで・・・男子トイレは何階だよ」

「5階と9階なんで、登った方がいいっすかね」

「そうか・・・」

_____________________我慢できるかな・・・・

あぁ・・・今日は下品な危機が多い・・・・・・・

そう思惟す彼に、突如、ある影が視界に映った

・・・あれ・・・ドンマロ?・・・

同じ道を歩いて、...いや...走ってくるオレンジコートの少女は、どうみてもドンマロ

彼女の顔色は訝しげに蒼白で、なんだかとても怖い

まるで般若のお面を被ったゴジラかのように、とてつもない雰囲気で急接近してくる


・・・なんだあの中二らしからぬオーラ・・・

無意識に半歩下がり、そして早くも、息のかかる位置まで接近した彼女は、こう言った



      「死にたくなかったら、ついてきなさい」




ボソッと小声で、だが少年ら二人の耳はたしかに聞き取った

そして、抗議もできず、ただただ引っ張られる両者の背中

「ちょっと待つっすよドンマロさん! こここのまま直進はママママジュ・・・マジ女子トイレっすよ!!!!!!」

「いいから黙ってついてきて  私はね、女子トイレの入口で倒れるより、女子トイレの便器に倒れる方が伝説だと思うのよ」

「しるかよ!って・・・・・・・おい・・・ほんとに?・・・・か、かか、かああああああああああああああああああ」


そして...謎の悲鳴とともに彼らは

女子トイレに...ダイブしてしまった.....

_____


「おい・・・ホントになにしてくれちゃってるの?」

「ここではまずいわね 一番奥の個室が比較的広いからひとまずそこに隠れましょう」

「・・・個室って用を足す個室のこと・・?」

「当たり前じゃない、それ以外になにがあるっていうの  ほら、この状態で人が入ってきたらまずいでしょ、早く入った入った」

「もっとまずいわ!!!」

「いいから入るのよ!!!!!!!!!!!!」

ビックリマーク四倍返しの怒号でバタンッ、と締められた女子トイレのドア 中学生だからかなんとか三人の肉体は一つの個室に納まっている

「よし・・・鍵もしっかり閉めたし・・ひとまずこれであんし・・・って・・・・

うわぁ・・・・地獄絵図ね・・・・」

「だれのせいだだれの・・・・」

「そうっすよマロさん、それに・・・」

ヤミヒロにしか聞こえない声で・・・なんかムラムラしてこないっすかwww・・・と囁くバドシは当然スルー。そんなことよりも今はドンマロを問いただす一点である

「んで、なんで痴女ってんの?」

「なによちじょって・・・またヤラシー単語? やめてよねそういうの」

「理由ならこれからちゃんと話す・・・・とは言っても一言で済む話なんだけどね...」

そして彼女は言った





「このデパートにいるのよ・・・・学校の先生が・・・しかも二人・・・」



「・・・・・・・」
「・・・・・・・」


え_______え___え__え_


唇を震わせながら見つめあうヤミヒロとバードシー

直感的にあの先生たちだと悪寒したが、それはたぶんバドシも同じことだろう

先生・・・二人・・・

今日は休日 職務があるとは思えない

ならばプライベート・・・親しい仲・・・・

「・・・ちょっとヒントいいかな もしかしてその二人 男と女?」

「そうよ」


「・・・・」
「・・・・」

頬を落とし、無言で肩を支えあう両者

人通りの多いこの町で、堂々と異性同士で歩ける間柄といったら都内の学校中を探しても一組しかいないだろう...

「やっぱり・・・ヨシムネ先生とジャンマちゃん先生なのか・・・」

「そうよ、わかるわね?ヨシムネ先生は私たちの担任、ジャンマ先生は私たちの学年主任

そして今は?」

「ががが外出死刑のてててテスト期間中っす・・・・担任なだけに一瞬でも姿を見られれば誰だかバレて・・・そのあとは・・・・・・・・・考えたくもないっすね」

「ほんとだよ・・・」

珍しいことにウチの中学校には、実の兄妹である先生達がいるのだ

それが社会のヨシムネ教員と理科のジャンマ教員

ジャンマ先生は男子生徒のほとんどにジャンマちゃん先生と愛称で呼ばる女教師で、最近は似顔絵まで書く生徒までいる愛されっぷり

一方ヨシムネ先生は、だらしない生徒がいると普通に蹴り飛ばすスタイルなのだが、ゆとりどっぷりの彼らからしてみたら”レアキャラ”以外のなにものでもないらしく、殴れば殴るほど好感度が上がる不思議な教師である

今、一番会ってはいけないのは無論ヨシムネ先生。 最近、隣のクラスのだらしない連中が新技:跳び膝蹴りをクリティカルにくらい、集団入院したという噂が・・・

「冗談じゃない!!ここは学校内じゃないからネタにもならねーし!!!ムダキックだムダキック!!!!」

「そおっすよ!そおっすよ!」

「・・・落ち着きなさいお前ら、心の叫びが声に出てるわよ。それにここ女子トイレね」

「はい・・・(だれのせいだだれの!)」

「じゃあ作戦会議ね とりあえずこの場所からの脱出なのだけれど・・・・あー、最初からめんどくさい状況化ねぇまったく・・・」

「はぁ・・・(おまえのせいだよおまえの!)」

・・・・・

こうして一致団結(仮)した三人は、新宿脱出計画を練り始めた

まずはドンマロがトイレ付近の安全確認

誰もいなくなったのを見計らい一斉にフロアへと出る

そこからは、七階で先生達を目撃したというドンマロの情報を参考にし、七階のエレベーターは使わず階段で移動、六階のエレベーターから乗り込む

押すボタンは[2]

一気に地上まで降下したいところだが二階で降り、比較的人通りの少ない階段付近で状況を整える

そして、彼女は謂う

入口付近こそ、一番人通りの多い「「「最大遭遇率」」」・・・だと

・・・・・

「なんとか二階までたどり着いたわね

何度もいうようだけどここからが肝心  そこんとこわかってる?」

「い、いやわかってるんだけどさ・・・」

「じゃあほら、代弁して」

「あー・・・緻密な計画はお前の趣味だとして”も”だよ?

勢いでさっさと脱出したほうが良くないか? ほら人通りが多いってことはそれだけ人間一人を特定しづらい 昔からいうじゃないか 人を隠すならh」

「代弁して!!!!」

「はい、移動は首を下げます」

「すれ違う人の顔は絶対に見ませんっす」

「三人の距離感はほどよく離れ」

「しかし首を曲げる方向は同じっす」

「どうでしょうか?」

「どうっすかでしょうか?」

「・・・・いくわよ___!!!」

その統率力 まさに鬼畜

適度な距離感をもって一階へと駆け下りた三人は、靴屋、婦人服フロア、化粧品売り場を突っ切り出入り口へ・・・・なんとか事なきを得た

だが、まだ新宿を抜けたわけではない

ドンマロはこんな危険地帯で悠長にバスなんぞ待つのはありえないといい出し、案の定 抗議もできぬまま一つ先のバス停・・・すなわち西新宿五丁目まで歩くことになった

時刻は夕暮れ時 丁度二日目前の今頃 オバケ花火が着火されたんだよなぁ、と意味なく追憶してしまったヤミヒロは、どうやら気掛かりなようである

・・・でもまぁ・・・なにもないことを祈るしかない・・・かもな・・・

ならこのもやもやはもうおしまいだと、強引に整理としたヤミヒロは、気晴らしに質問を投げつけた

「そういや聞きそびれてたけど、ドンマロはなんでこんな時期に外出してんだ」

「ん? ああ  そういやなんも言ってないまま連れ回したんだっけ ふふ、よくそんなんでついてきたわね」

「・・・いいから理由を教えろよ 無理にとはいわないけど」

「ウチちょっと変わっててさ

学問は身につく勉強だけせよ!って理由から、一夜漬けとかを禁忌としてるのよ」

「?、でも文房具店に居た時はたしかまだ昼ぐらいだったよな、なんの関係が?」

「関係大有り “禁忌”って言葉の重さからもわかるでしょ?

身についた勉強をしているかの試験をするの・・・まったく、めんどくさい・・・」

「・・ああ、なるほど だからテスト3日前である今日より先は勉強〝させず”

純粋に身についた勉強だけで試験を受けさせようってわけか」

「そそう、変わった勉学方針でしょ?そもそも身についた勉強の定義はなんなのか~と不思議に思う今日この頃だけど、そんなことより罪悪感」

「ざいあくかん?」

「テスト期間中の休日に地元で遊ぶのってなんだか居たたまれなくならない?」

「そういうもんかね・・・」

テスト期間中に全校生徒が遊んでいたら、相対的にみて俺、優等生になれるんじゃね?と言い出しそうなったが、どうせバカにされるので言わないことにした、しかし

「あ、ゴメーン そんな感情を抱かなほど勉強してる自称:ガリ勉リーダーには分からない話だったかー テヘペロ☆」

「お前まだ中学生なのに皮肉るのうまいな。将来はお嫁さん通り越してダイレクトに姑になるといいよ 悪態が板についたシュートメにな  バドシもそう思うだろ?」

まったく、心にもないことをペラペラと・・・、最近の女子中学生は口が悪すぎる 

最近の男子中学生が思うのだから説得力はかなりのものだろうと勝手に納得したヤミヒロだったが、そうこうしているともう帰りのバスがすぐそばまでやってきていた

「乗るわよ」

「ちょっとバドシ、ソレ私の真似? やめてよね あとそこまでドヤ顔で言わないから」

「・・・ちょっとはドヤ顔なの知ってたんだ」

「ん、なんか言った?」

「いえなにも」
____

夕方とはいえ休日のバスの中、先に新宿で乗っていたお客さんに、その心地いいブルーの座席は占領されているだろうと諦めていた三人だが、奇跡的にも三人分の席が空いていて座ることができた

あとは揺られ運ばれ約20分、指定のバス停で降りればご帰宅である

バトシとの時間制約も十分余裕を残し、先生どもと遭遇さえしなければ新宿のファーストフード店でお茶をしながら時間ギリギリまでペン回し談話といくところだったが・・・まぁしゃーなしだ

ヤミヒロは少しばかし嘆息をすると、前の席で他人と相席しているバドシに声をかけた

「もうゲロゲロしない?」

「・・・人をアマガエルみたいにいうのやめてくださいよ」

「平気ならいいんだけどさ、でも万が一ってあるだろ?」

「ないっすよ、だいちもう空きっ腹で噴射する物体Xがありません」

「そうか」

「あ、もしかしておちょくってます? ・・・やんのか?」

「・・・・」

もちろんヤミヒロの真剣だった

なぜなら彼は先生達に見つかるよりも帰りのバスで”やらかされる”方が危険視していたからだ

だからもうなにも心配することはない

スッと会話を中断したヤミヒロは肩の力をなくすと瞼を閉じた

今日はテスト勉強は捗らないのに充実した時間を過ごせたウルトラレアな一日だ 

そんな莫迦意外のなにものでもない一日を一言で美化した脳内は深い眠りへと誘っていった

こくん・・・・こくん・・・・・・・....................

「寝るのはやっ!」

わずか一分足らずで睡眠状態に入った隣に、軽く眼球がむき出しになるドンマロだったが、このあとすぐ、それ以上の驚愕で顎が外れかけることになるとは夢にも思わなかったであろう

・・・・


・・




___

突然の揺れ、それもコンクリートのアスファルトが擦れる振動なんていう生易しいものじゃない

上下左右、小刻みに揺れている・・・・と思ったら徐々にその震度が上がっていくではないか

起きなければ

声が聞こえないのに違和感を覚えたが、隣の人間に肩を揺すぶられているのは間違いない、・・・・ということは、そろそろ地元に到着というわけだ

ひとまず手を口元に大きな欠伸をしてから瞼を開けた

「・・・・」

「・・・・」

いつのまにか前に相席していたバドシは俺の隣に座っている

主要なバス停いくつか通過し、混雑が解消されたからだろうと考察するが問題はそこではない

・・・・なぜ無言・・・・

とりあえず外の風景を観ようとドンマロの前方の虚空へと首を伸ばそうとしたのだが彼女は酷く睨みつけてきた

まるで、どっかの曜日サスペンスでも再現してるかのように、これ以上動いたら大変なことになるぞと、たしかにあの目はそういっている

・・・わけわかんねぇ・・・

まぁ・・・でも・・・何かがあってからでは遅いので動くことは渋々止めにしたヤミヒロだったが、それでも目一杯瞳を右に動かせば少しは外を見ることができた

「・・・」

スクロールしていくビルだらけの風景、帰宅するサラリーマン、知りすぎた飲食店や雑貨屋さん

ああ、かなしいかな 

随分と寝たと思っていたが、全然まったくまだまだで、地元のバス亭まではあと5回ほどドアが開かなければならなかった

「起こすなよ!」

「シッ・・・!!!・・・・お願い・・・だから・・・・静かに・・・・して・・・今、すごく忙しい」

「その・・・通り・・・・っすよ・・・」

「意味わかねーから・・・意味、わかんねーから・・・・!!!」

「ちょっと・・・・ホントにやめて・・・・・これ以上大きな声だしたらどっかの神社で焚き上げるわよ」

「そうっすよ・・・・・・てか黙れ」

「なんでこんな・・・・はぁ・・・理由・・・訊かせろよ・・・」

声量を最低限聞こえる程度まで落とし、しかも単語を区切って話す両隣に対し、なすすべもなく口癖がうつってしまったヤミヒロである

「バドシがね・・・・ヤミヒロの隣・・・・空いたから・・・・座りにきたの・・・」

「・・・それで・・・座って・・・・・ヤミヒロさんの・・・・ブサイクな・・・・寝顔を・・・・・拝見したっす」

「今から・・・・約・・・5分・・・前ね・・・」

「遅かったっすが・・・・座ってから・・・・あることがフィードバック・・・・してしまったんです」

「本当に・・・・悪魔って・・・・連鎖的よね・・・・・」

「そういえば・・・って・・・・座る途中・・・・・とんでもない・・・・悪魔じみた・・・・マロさんの表現を借りるなら・・・・連鎖的な・・・・て、てぇ、チェーンデストら・・・」

「いいからはやく要点いえよ!」

「このバスの中、センコーいるっす」

!?????????????????ゴボボボボボボボボb..................

危なかった

両隣にドンマロ、バドシという位置関係が幸いし、迅速に二人の手、計四本でヤミヒロの”首”は指圧され、死にそうになったが声帯は震えずに済んだ

それとは別にリーダーの体内から漏れ出した沸騰音らしきものについては、本人さえも考察する気力はわかなかった

「お前ら・・・普通・・・・口元・・・・おさえね・・・・?・・・・・・ゴホッゴホ・・・・・考え方がマフィアだよ・・・・」

さて、どうするっすか?・・・とバドシ

今、思いついたわ・・・とドンマロ

テンプレ(スルー)ですねわかります

「考えてみれば・・・簡単な・・・話よ・・・・・・・先生は・・・私たちと同じ地元で下りるから・・・・私たちは・・・・予定より一つ先のバス停で・・・下りれば・・・いいの」

「先生達が・・・バスから下りる際に・・・発見・・・されるという・・・・危険性は?」


「顔を伏せていれば・・・・大丈夫でしょ・・・・」


「というか・・・センセーって・・・やっぱり兄妹先生・・・・なんだよな・・・」


「そうっす・・・間違いなく・・・・後ろの席・・・・最後尾の座席に並んで・・・・・座ってました」


「なにしてた?」


「吉宗先生は新聞らしきものを・・・・ジャンマちゃん先生は自分のお手手を眺めてニコニコしてたっす」


「そうか・・・・なぁドンマロ・・・・後ろに先生達がいるんなら・・・・俺らが先にバスから下りるっていう・・・選択枠は・・・?」


「いけなくはないとは思うけど・・・・ダメね・・・・・それだと完全に・・・背中を見られることになる・・・・案外特徴的なのよ・・・・一人ひとりの背中・・・・体格なんてものわね・・・・・100パーセントばれるとまではいわないけど・・・・・」

1%でも死にたくはないわよね?と、いつも以上に脅迫染みた説得に、そうかもな、と肯定するほかはないヤミヒロなのであった

___

『次は○○ 美容と健康 カルガモクリニックにお越しのお客様はこちらを下車 前方の通り50メートル先左の路地です』

バス内に流れる無感情のアナウンスに応答するブザー音は聞こえない

それもそのはず、終点から200メートルも離れていないバス亭など、一律金額制の都内バスにおいて、よほど足が使いたくないか、シルバーパスのご老人たちぐらいしか利用しない、あってないような停車場所なのである

NPCメンバーが住む地元のバス亭からはもう7駅ほど行き過ぎていて、もはや次は終点『中野駅』

・・・

俺達は甘かった

ドンマロの安全に安全を重ねるスタイルには前々から疑問の余地があったリーダーだが、今回ばかりは十二分に納得していた 背中を見られるのはたしかにきついのだ

歩き方だとか髪型、しかも服装まで見られてしまう危険性を考慮すれば、必要性のある作戦だと確信していた

しかし所詮は中学生の稚拙な策

先生達がいるのは学校という固定概念が下車位置のミスに繋がった

今日は休日 教師らが帰るのは地元の中学校なはずがない 

それでも一縷の希望を賭してどこかであっさりと下車することを祈った三人だったが、最悪な事態はやってきてしまった

当初の作戦”先生が下りてから次のバス停で下りる”いう策が破綻する”終点”はすぐそこ

               地獄への入口

もう三駅前くらいから、ある程度感づいていた我々だが、今この瞬間、終点一つ前のバス停を勢いよく通過した風景に【絶望】というタイトルがつけたい三人

「あきらめちゃだめよ・・・・ヤミヒロ・・・・・やってくれるわね」

なんの脈略もなく告げるその一言に、被せる様にして一冊の本を突きつけてきた

「それ、アンタ達と別行動したときに買ってた本 まさかすぐに役に立つなんてね」

はぁ?と呆れつつも本をペラペラと捲ってみる

ん・・・失語症と脳損傷・・・・シナプス可塑性・・・・脳機能イメージングの手法・・・

「なんだドンマロ、助けたい人でもいるのか?」

「違うわよ ちょっと心理学についてかじってみようと思ってね 分かりやすそうだったし」

・・・・・

・・・

・・



「とまぁ・・・そういうわけで・・・あんた 次の終点でバスが止まった瞬間 後ろ座席に飛び込みなさい」

「・・・ん?・・・・よく聞き取れなかった」

「ダイブしろっていってるんすよ・・・・ダイブスピナー・・・的な!」

「いやいやいやいや、あーもう! 今日はホント意味わかんねー!!!!ボボボボボボボb」


ふぅ・・・・だから・・・抑えるのは首じゃないだろ・・・!!!!


「私達はこのまま行くと見つかる可能性が高くなるわ」

「知るか・・・!!!」

「待っててもダメっすよ・・・後部座席の人って最後に下りる人多いですし・・・そうなったら三人ともかなり存在が浮き」

「関係ねえ・・・!!!」

「いいヤミヒロ・・・・落ち着いて・・・・アンタ勘違いしてるようだから言わせてもらうけど、この策は”三人”で助かる方法よ」

「嘘つくな・・・!!!」

俺を囮に使って二人で逃げ出す算段だろーが!

そうこうしているうちにも、もうバスは終点のロータリーを右折しはじめた

もう停車まで30秒はないだろう

「もうおしまいだ・・・・・・」

すると後ろから奇跡にも似た、希望の会話が響いた


「あ、おにーちゃん あくしぇしゃりいぃ落としちゃった。 読書中ごめんね、そっちの方に転がっていったんだけど見つからないかなあ?」


「まったく・・・ジャンマは成長しねーな で、どんなアクセサリーだ」


・・・・ぎょ、ぎょぎょ、僥倖!!!!!・・・・・

ヤミヒロの頭の中はその文字で埋め尽くされた

教師二人が共に床へと視線を落としている今なら・・・・・・いける!! 大げさに逃げ去ろうともヤミヒロの背中はおろか踵さへも見られやしない

瞬時、

ヤミヒロは、バドシの前方するりと横切り、運転席まで_____走ルッ・・・!!!


バスという密室ストレス 30センチ後ろのブルーシート座る担任教師 両隣には精神的な圧迫感

それらが全てが起因してか、彼は誰よりも早くピンチから生まれたチャンスを行動へと昇華させた

・・・俺の・・・・勝ちだ・・・!!!!


なにに勝ったか分からないがとりあえず自分の安全は確信した

・・・・・バドシとドンマロには悪いがひとまず俺が成功者になって、いい流れを作ってやるって!

ヤミヒロは前方に向かって足をしっかりと、深く、踏み込んだ

運転席付近までいけばこっちのもの

ドアが開く2、3秒、しゃがみこんでいればいい簡単なお仕事

・・・・だがしかし・・・・

丁度、前方の男性、推定100キロは超えているだろうピザを避けようとしたその時



                    その瞬間だった・・・



『失礼 急停車します』



「・・・・え?」

無情に響き渡る運転手の忠告

それとほぼ同時に乗客全員の全身が慣性に支配される

慣性事態は対したことはない もともと速度を落としている途中での停止だ ちょっと前に片足を出す程度の揺れ 微振動

たとえヤミヒロが今、慣性の掛かる方向へ脚を動かし、走ってる状況だとしてもそれは変わらない。 二、三歩足をステップさせればバランスは容易く取れる。静止もすぐだ。

すぐなのだ・・・

すぐなのに・・・


なのに・・・・


に・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・問題は目の前にあった

すぐそこには100キロはあろうピザなピザ  その体重を固定するために屈強な手腕で手すりをがっつりと掴んでいるはもはや必然と言っていい

なにがいいたいか

今まさにこの瞬間に、前方へと動いたピザは、手すりによる牽引力により俺にカムバックしてきてるのである

・・・・まじ・・・・で?・・・


ボーーーーーーーーん!!!


そんな擬音がまさに似合う

まるで振り子のオモチャのように、見事、見事、見事。ピザエネルギーはヤミヒロに負荷し、ヤミヒロを後方へと吹き飛ばす力に変換される

・・・・・ぎゃあああああああああ


・・・・バコ



・・バタ



・ふわさっ




















「お、おにー・・・・・私の膝・・・・・・なにか・・・」


「・・・・・ああ・・・・・なんかきたな」


「・・・・いてて・・・・!?・・・・・いや~、急ブレーキとか困ったものですね~  では失礼」


「ん?ちょっとまて・・・・おまえどっかでみたような・・・・と、いうより顔を見せてくれないか?」

「いえいえ  人様に見せるような顔はしてませんよ あはは」

「そうか」

「そうです」

「ううう、・・・ぐすん・・・いきなり飛び込んできたから驚いちゃったよぅ・・・・・キミはたしかヤミヒロ君に間違いよぅ・・・うう・・・こんばんわ」

「うん、違うよ」

「そうか」

「そうです」

「んなわけあるかボケ」


「ぎゃ嗚呼ああああああああああああああああああああああああ」


____



・・・・こうしてヤミヒロは犠牲に、、、、ドンマロとバドシは誰にも見つからず生還したのである









さてNPCメンバー三人の長い長い試験前の一日は終わりを告げた


・・・1.2.3「

まだテスト期間中の月曜日、、、一番のだるさは強烈で、しかし俺らには場所があって、、、。



・・・・・・・・・・・・・・・・・そこで俺らは、考える気すら起きないほどの


・・・・・・・・・・・・・・・とんでもねえアプローチに相対することになったんだ



???2013.01.26公開


亡霊ダイブ本格始動第三章2013.02.02公開