100回くらい叩いた辺りか
少年少女達の歩幅は狭く、心の中がもやもやした状態というのはまさにこれ
言いたい放題言われて、殺意さえ覚えるドンマロ
言いたいことがわからない山猫に、しかし敵意を見出せないヤミヒロ
どっちがコンプレックスかといわれれば間違いなくヤミヒロの方である
「で、あそこまで言われてなんでヤミヒロは無表情なのよ あんたそれでも人間?」
「別に、・・・なんていうのかな」
「なんていうのよ」
「ただ、なにも分からないんだ 分からないから顔にも出ないんだよ・・・きっと」
「それ、・・・本気でいってる?」
「なんだよ、本気じゃ悪いのかよ 少なくとも分からないのは本当のことだ」
「・・・・・・・」
今日のところは深く言及しないと決めたドンマロだったが、いかんせん確かめたいものが生まれてしまった
分からないから顔にでない? 違うでしょ 分からないから人は焦るの 焦るから顔にでる。・・・じゃあ
顔にでないヤミヒロはなんなの?
その自問に対し、ドンマロは一つの推測をだした。それも一瞬で、思考時間なんていらないほどに早く、そしてはっきりと・・・。
あとは彼に言うか言わないか、
普通なら”そんなこと”を高速で推測した自分を責めてもおかしくわない。だけど...
_____私は私よ______
今言いたいことを言わなければ、私としてはダメになる___だから
「ヤミヒロ?いちよう聞くけど ホントにいちようよ? いちようなんだけど・・・
ヤミヒロはペン回し・・・どうおもっ」
「なに言おうとしてんだよ、好きだよ!! 大好きだ!!! そこはハッキリしてる 絶対に」
・・・・絶対に!!!・・・・
同じペン回しを愛する仲間からそんな悲しい質問、いちようでも、もしもでも、夢でさえも聞きたくはない
「そう・・・じゃあ、自分の謂いたい事をジジィに代弁してもらえてスッキリっわけではないのね?」
その問いに対し、当たり前だ!と断言する彼。しかしながら、当たり前のことをいちいち確認するな!とまでは怒りはしない
山猫からの問いを否定できなかったのは、それだけ罪なことだと深く受け止めているからである。そして罪への反省は、否定できなかった自分をさらに強く懲らしめるものにほかならない。
ともあれこれで誤解は解け、ドンマロの表情も少しは緩むだろうと予想したヤミヒロだったが、依然として空気は変わらず、むしろ怒鳴る勢いで彼女は言った
「ならアンタは逃げてるのよ あんまり”逃げる”なんて曖昧で無神経な言葉使いたくないけどさ 少なくとも”自分の分からなさ”に酔ってボケーとしてるのは確かなんでしょ?」
「・・・たしかに・・・・そうかもしれない」
「わかってるなら即、行動!
あまり考え込みすぎるのも良くないけど・・・
でも!、自分の分からない感情とはなんなのか悩んで、苦虫顔になんなきゃダメでしょ
少なくともこの商店街ではシリアスに歩きなさい」
「・・・そんなこというならドンマロよ」
「なによ」
「梅干くれよな」
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・これまたいい塩梅で寡黙モードに入ったドンマロである
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?・・・俺すべった?・・・わかったよ、いやいや、わかってたよ、軽くウィンクしたのがキモかったんだよ?・・ん???・・・ちょ!なんだよちょっと無言で、、、、!!!」
慌てて追いかけるがしかし、まるで反発しあう磁石のように、さらにさらにと離れるドンマロ
「あのあのマロさんや、またたくまに俺とキミの距離感膨張してね?、もしかして無関係者の範囲ってやつなのかなコレ?、まぁ、いまさら感あるけどさ...いやいやいやいやここんぽん根本
思い返してみれば、なんで俺 同級生に説教されてたんだよ!?」
その言葉にスタッと立ち止まる彼女。そして振り返り、そこまで長くない髪なのに手で掻き分けながら言った
私はね・・・
「思考能力が乏しいバカは嫌いじゃないわ」
でもね・・・
「考えようともしない連中は大嫌いなのよ!!!」
「____」
最後は自己本位で完結させやがった・・・と多少イラついたヤミヒロだったが、それも最初だけ話
『相手に正論をぶつけた後、最後は自分勝手な意見で〆る』
それが、【言いたいことがあるとどうしても口に出してしまう】少女なりの”優しさ”なのは、ヤミヒロもといNPCメンバーなら皆が知っていることなのだ
____
商店街を抜けると、大きな国道が敷かれている
ヤミヒロはその道路を跨ぎ自宅へ、ドンマロは跨がずに左へ進めば我が家である
「それじゃあな」
ヤミヒロはもう青になっている歩行者ランプに目をやると、簡易な別れ言葉で走り出した
・・・でもな・・・・、家帰っても捗りそうにないんだよな・・・
そんなことを考えながら交差点を走り終わると後ろから、やっぱり足だけは速いわねヤミヒロは、と声が掠った
「えっと・・・・こっち側にようでも?」
「うん、バス停があるからね。私、買いたいものがあるからもうちょっと付き合ってよ」
「試験期間の意味について聞きたいんだけど?」
「なによ 私、知ってるのよ
ここんとこ毎日のようにはテルと二人でNPCお絵かきチャットにログインしてる人間のこと
あと、一昨日のまでのお絵かきならログが残ってたから拝見させてもらったけど、なかなかうまいじゃない あれジャンマ先生の似顔絵でしょ? 着色、ディテールに至るまでの書き込みっぷり・・・いったい何時間お絵かきしてたのよ」
「な ぜ ば れ た し 」
そうですそうですよ、
2日前、徹夜覚悟で挑んだ最高の力作ですよ、
・・・ごほん。
皆さんは勉強しようとすると部屋掃除がしたくなる衝動にかられたとこはないだろうか?
それと同じように、俺とテルは大して勉強しようと思ってないなのに、お絵かきがしたくてたまらなくなったのだ。あ、同じじゃない。
結果、
書く、書く、書く、書く、15時間
祝賀会、撮影会を含めるとほぼ一日に及んだ名状しがたい儀式のようなものは、そのせいで昨日は一日中寝てしまったNO★DA
いや、”NO★DA”、じゃないだろうが、、、ううう、本当にヤバイんだよ、、、
まぁいい 試験一日目を犠牲にして今日の自由な一日を買う それでいいじゃないか
超短絡な等価交換に一人納得するとドンマロの誘いに乗ることにした
「わかったよ じゃあ早くバス亭へ」
「お! さすがリーダ~ それと、あとはどうする?」
「ん? なにがだよ」
その約10分後 時と場合を考えないドンマロの行動に震えるリーダーなのであった
____
「ホントにやんのかよ」
「もう しつこいわね 私一人でやるんだから黙ってみてればいいの!」
ピンポーンと目の前のインターホンを押した彼女
そう、ドンマロは今、テスト期間中にも関わらず他の友達まで“遊びの沼”へ沈めようとしている
中学生という身分の低さからケータイなんぞ持っているわけもない
っとなるといきなり誘うには、家の電話を使うか、このようにインターホンで直接訪問するしかないのである
・・・しかしまぁ・・・バス亭に近い家だから駄目もとで呼んでみようなんて・・・
ドンマロの悪いところは、リスクを考えない効率性にあるな…と、思う
「あのな・・・黙って救われるならボディーガードにでもなってやる。だから聞かせてくれ
策はあるんだろうな?」
「当たり前じゃない 伊達にNPC副リーダー、名乗ってないわよ」
分別顔の少女は軽くあしらい、するとインターホンから声が聞こえ始めた
『あーもしもし?・・この外部カメラ曇ってて良く見えないんすよね もしかしてドンマロさん?』
運がいいことに受話器に出たのは本人 とりあえず出だしは好調、と嘆息したヤミヒロであるが、すぐ隣は真剣な表情に切り替わり、そして一気に謂った
『いくわよ、内容はスカイハイソニック トリプルアクセルリバースでフェイクトノーマル件だけど全てヤミヒロの責任払いでスプレッド系でもいいわ どうかしら』
『・・・・・・』
「ええと・・・うんドンマロ 彼も困惑してるようだから言うけど まったく意味が分からないよ?」
「困惑なんてしてないわよ」
ただ考えてるだけでしょ、と断言する彼女
どうやら俺の知らぬ間にNPC内ではペン回しの技名を使った隠語たるシステムが生まれていたらしい
スカイハイソニックは、空へ、つまり外出しようという意味
トリプルアクセルリバースは、三時間半で(家へと)戻ってこれるという時間的な意味
フェイクトノーマルは、単に、まやかしという意味
スプレッド系は、〆技、つまり”人を締め付ける技”で刑法性の高い用語だと彼女は教えてくれた
この知識を使ってさきの文章を解読すると、
~私たちと三時間半ぐらい遊びましょう 親に外で遊んだのがばれたらヤミヒロが責任とって殺されるってことでどうかしら~
・・・
「なによそんな怖い顔して、・・・そんなことよりおーい、どうなのー!」
『あ 遅れてすいません ええと じゃあ・・・ノーマルということで!」
返事を聞き終えたドンマロは、額に青筋を浮かべるヤミヒロなんて無視し、そそくさと家影へ離れた
「激怒する前に聞いとくが、ノーマルの意味は?」
「良い か 悪い の返答にはノーマルかソニックの技名が使われてる
OKのOの軌道を描くノーマルは"良い、正しい"という意味
NOのNっぽい軌道を描くソニックは”悪い、ダメ”って意味
そして地面に転がる小石を蹴飛ばしながらドンマロは言った
「バードシーゲット~♪」
____
バードシーの三戦により3名となったNPCメンバーが向かうは都会の中心“新宿”
地元の商店街から15分ほどバスに揺られればつく程度の距離である
「ヴぇ・・・やっと着いたッス・・・マジ酔った・・・」
いつもなら自転車だからか、この通り。地に足つけたと同時に両手までつけかけるバドシ
「おいおい大丈夫かバドシ やっぱりチャリの方が良かったんじゃ・・・」
「なによ、私に言ってるの? 自転車なんて使えば遠出してたのがばれる可能性があるって最初に行ったじゃない 必然よ ひ つ ぜ ん !」
「うぇ・・・そうっすかね・・・・図書館くらいの近い距離でも、自転車使うっすよジブン・・・たまにだけど」
それでもダメというドンマロ。疑われたら最後、そんな言い訳では補えないほどの証拠が生み出される危険があると、・・・相変わらずぬかりないこの女
「ぶぼぼぼ」
「バドシくん!!??」
「いやぁなんとか持ちこたえたっす いやはや・・・バスの中と同じくらい今のはやばかった・・・
もう済んだ話だからいいますけどね、
もしもヤミヒロさんがパーカーとか着てたら、フードにギブアップしてたかもっすね・・・たはは...」
「たははじゃねーよ!自嘲気味に恐ろしいこというな!!!オレが一番マジ危なかったってオチかよ!」
それはさて置き、NPCメンバーで新宿を歩くとなると文房具店へ行くのが必然である
画材やGペンなど専門的なものが揃っているお店や大型百貨店の文房具コーナーなどが行きつけで、あれがいいやっぱこれがいいかも、などと選別していればすぐに日が暮れてしまう町である
だからといってテスト前までくるほどの場所でもないのだが、まぁ ドンマロのにも用事があるみたいだしここはドーン!と構えるのが男ってもんだろう
「じゃあ私はここで、_すぐ用事済ませてくるから文房具売り場で合流しましょう」
「ん、なんだよそれ 俺達も付き合うぞ」
「・・・ワシも・・・っす」
「いいのいいの、それにバドシの方は一人称までおかしくなってきてるじゃないの 今日の移動範囲は最低限にすべきね。 3時間半という制約もあるのよ?」
「・・・・たしかに、」
ヤミヒロはうなずき、彼女が走っていくのを承諾することにした
都会の中心で○ロを吐こうとしているコイツとは外出3時間半という約束だったもんな・・・
バスでの往復を考えると実質3時間
持ち前の妥協と甲斐性のなさで、昔から時間を大切に思わないリーダーなのだが。しかし、大いなる犠牲で得たこの時間は有意義にせずにはいられなかった
「ほら はやく行くぞバドシ」
「うぃいい・・・」
___
彼らが向かう先は大型百貨店、エレベーターランプが[七]で開いた扉の先
こども服、おもちゃ、水着、野球ファングッズ、理容室まで構える階の1フロア
文具・事務用品店「丸良」
その敷居をペンではなく、肩を回しながら跨ぐのはヤミヒロと、そしてバドシである
「あたた・・・、同い年とはいえ自分より重い相手に肩を貸すのはシンドイな・・・」
「いや~、助かったすよ なんかしんねーけど体調も回復したし! なんですか?
ヤミヒロの肩には治癒能力でもあるんですか??」
このこの~、と、さっきまで貸していた肩を指で突いてくる中二バドシ
「やめろ・・・自覚ないようだから言っとくけど地味に痛いよそのスキンシップ・・・時間もあんまないし、さっさと行くぞ」
「そうっすね!!!」
完全回復か、小走りでペンコーナーに向かう彼には明確な理由があった
NPC2ndPVが製作される予定の冬休みまで残り2ヶ月を切った最近、バドシの愛ペンが壊れてしまったのだ
通常、ペンが壊れるといった場合。付属の部品を取り替えたり、インクの差し替えさえすればまた使えるようになるものなのだが、ペン回しにおいて、ペンが壊れるというのは、ペンが粉々・・・再生不能になることと等しい
ある意味、ペンには優しくない激しい落下を繰り返す遊び。つまり彼の場合、ペンが真っ二つに折れてしまったということである
さて、
どれにするっすかね~、と迷っているそこの彼
それを見て、久しぶりにリーダーっぽい振る舞いができると確信したヤミヒロは、ドンマロが帰ってくる前にと、早急にご高説し始めた
「前 使ってたペンって単頭の改造ペンだっけか?」
「そうっすよ かなり回し易かったんですが、床に落ちるときによくキャップの部分が分離しちゃいましてね・・・いちいちくっ付けるのが面倒だから断腸の思いで接着剤を使ったんですが、今度は真っ二つに折れてしまいました・・・力が分散できなかったんすかね・・・」
「・・・そうか、うーん じゃあコレなんかどうだ」
手渡したのトンボ鉛筆が誇る子どもから大人まで数多くの支持を集めるロングヒットサインペン【PLAY COLOR 2 】
ペン回し改造においては、両サイドさらにもう一つずつキャップを追加したロングプレカラにするのが主流である
改造方法は至ってシンプル スピナー初心者に大人気のペンだ
「ロンプレっすか、でもコレ 自分には軽くて使いこなせないんすよね」
そうか・・・と再び選びなおすヤミヒロだったが、驚くべきことに今日のヤミヒロは冴えていた
「うーん、やっぱりオレのオススメはプレカラかな」
「?・・・・・双頭ペン(ペンの重心がほぼ中心の左右対称のペン)もつかいこなせなきゃダメってことっすか?」
「うーん ちょっと違う たしかにスピナーにとって、色々なペンを使いこなせたほうがいいのは確かだし中級者以上になってくると、技一つにしたって”見栄え”でペンの種類を変えることも拘るようになるしな、・・・でもオレが言っているのはそういうことじゃない」
「バドシの使ってた愛ペンにプレカラのキャップ部品を付け合せるんだよ
キャップが取れ易いんだったよな? そのキャップの中にさらにプレカラキャップを入れてくっ付ければ隙間が埋まって外れにくくなるはず」
「ほほ・・・なるほど・・・おお・・・・じわじわ凄ぇ・・・・さすがリーダー!」
「おうよ!」
・・・決まった・・・俺・・・
今にも泣き出しそうなリーダーの前で、どのプレカラにしようか満面の笑みで選ぶバドシ
なかなか決まらないのも無理はない
なにせPLAY COLOR 2 の形状は一種類のみだが、色のレパートリーは36色もあるのだ
ここは都会の文房具店 もちろん全色余すことなく売られている
「なに色にするっすかね~、きょうむらさき、アッシュブラウン、ライムグリーン・・・
ここは渋めに紅色っつーのも乙ですなぁ~」
「これとかどうだバドシ、トマトレッドとかしゃれてね?」
「おふぅ・・・トマトですか・・・今日の昼飯 トマト尽くしだったんすよ・・・
・・・・・言ってる意味わかります?」
「うん、わかるよ。もしもオレがフードを着てたら、ミネストローネ鍋が生成されるとこだったんだろ?」
「ブォン・・ジョ~るノ・・・っすぅ・・・・」
「すまなかったよ・・・・てか、はやく選べ!!!!!」
「そう言われたって困りますよ・・・マジ 色多すぎ・・・・・・・この際 あえてテキトーに選ぶというのも・・・・・いや・・・でも・・・・・あっ・・・・・」
一種類のプレカラを手にとった瞬間、バドシの手は静止した
「ん?どうかしたか??」
手に乗せられているプレカラの色は”うすあおみどり”
彼はゆっくりとメガネの位置を整え、もう一度よく視認した上で言った
「この色・・・・・あの花火の輝きにそっくりっすね・・・」
「・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・やっぱりお前も気になるのか?」
「そりゃあ そうっすよ。警戒するのは当然・・・」
二日前に起きたあの事件
今日までオオゴトにならなかったのは不幸中の幸いで、事件というより未遂に入るのかもしれないが、あの夕暮れ時、たしかに花火は発射された
その花火は、おばけ花火というらしい___打ち上げ式にしては飛距離は短く、しかし浮遊時間が長い___まったく・・・あのバカは大変なもの飛ばしやがった
オオゴトになってはいないためNPCメンバーに被害はない
だがしかし、影響はあった
なにせその幽霊花火は、わが身が燃え尽きる寸前に方向転換し、あろうことかパックン一味に被害をもたらしてしまったのだのだから・・・
パックン一味・・・・三行であらましを書き綴るのなら...
パックンはクルタンの妹
クルタンのペンを盗んだことがある
NPCグループ最大の天敵
とまぁこんなところだろう・・・そしてなにより目的のためなら、いかなる所作も躊躇わない冷血な策士である。年下だからと舐めてかかられるほどの余裕はPV事件でとっくに捨ててきた
もういいたいことはわかるだろう
パックン一味の被害は、NPCメンバーへの影響なのだ
バドシはその影響が、新たなる危機を生み出すのではないかと心配しているのだろう
「そうだな・・・パックン一味のことだ・・・俺達がブッぱなしたのバレバレだろうし・・・・今度はオレの愛ペンが、・・・盗まれちまうかもな」
「・・・もしパくられたらどうするっすか?」
「もちろん取り返しに行く あ、オマエラのもだぞ。誰のペンが盗まれようともリーダー命令で奪還する」
・・・・また決まったか?・・・・
「はぁ・・・でも、大丈夫ですかねぇ」
「ん、なにがだよ 昔はともかく今のNPCメンバーは知能 体力 バカ要素が充実した、いわば無敵だろ? ペン一本くらい、取り返せないでどうする」
「いや・・僕がいいたいのはそういうことではなくてですね・・・・
今のNPCメンバーが一つのままで、ちゃんといられるのか・・・と思うんすよ」
「・・・ああ・・・そっちか・・・・」
クルタンのペンが盗まれた通称PV事件
たしかに事件の最中一番厄介だったのは、ペンを取り返すことではなく、心理的な面だ
クルタンが俺達にペンが盗まれたと報告した時にはもう攻撃が始まっていて、最後はメンバーが一人欠けるかもしれないとこまで侵食してきた
だけどリーダーは思う 怪我の功名だとも
PV事件でさらに深い絆が結ばれた事実がある。結果論かもしれないが、事件以降のクルタンの笑い声を思い出したら、なんだか堪らなく無敵に思えてきた___だから
「・・・そっちはもっと心配しなくていいだろ
油断しちゃいけないのはわかってる
つってもやっぱりチューイチなんだよ 怯えたってデメリットでしかない
そんな下級生風情が俺達の輪が砕かけるかよ」
「そうっすか・・・じゃあ、言い方悪いけど・・・
・・・・・愛ペンを粉々にぶっ壊されてもっすか?」
ヤミヒロは即答した
「ああ "俺の"ペンが折れることはあっても、"俺達の"輪は永久に正円を画く」
バドシの顔など直視せず、ペンをくるくると回しながら謂った一言だったが、彼自身いつも半開きの直線瞼を曲線の弧に___凛然と謂った一言でもあった
___
話は一段落つき、買い物を済ませた両者。後は他の用事で別行動だったドンマロを待つだけ
ちなみになにを買ったかというとバドシは山吹色のプレカラとボールペン、ヤミヒロは筆ペン一本だ
「なかなかこないっすねぇ」
「そうだな。とりあえず俺、トイレ行ってくるわ」
あ、つれしょん!、と尿意が伝播したか、バドシもかわやへと歩を向けた
トイレの場所は文房具店を出てすぐ左、エレベーターを突っ切った先にある
30メートル程度しか離れていないこと考えれば、ドンマロがその間に待ち合わせ場所に来て、いないから帰る、的なことにはならないだろう...たぶん
けれども念には念を、少年ら二人は漏れない程度に小走りを駆け足にギアチェンジ__一直線で加速した
「ちょっとヤミヒロさん。ストップっすよ」
「なんだよ」
「7階のトイレ 女子のしか」
今この瞬間ヤミヒロが手にかけようとしたドアノブ、その左上の図を見てみるとちゃんと三角形に○が乗っかり、色は赤・・・・・どうみても女子トイレじゃないですか・・・・・あぶねぇ・・・・・
驚くよりも罪人になる恐怖が上だったか、とりあえずヤミヒロの尿意はギリギリのとこまでもっていかれた
「んで・・・男子トイレは何階だよ」
「5階と9階なんで、登った方がいいっすかね」
「そうか・・・」
_____________________我慢できるかな・・・・
あぁ・・・今日は下品な危機が多い・・・・・・・
そう思惟す彼に、突如、ある影が視界に映った
・・・あれ・・・ドンマロ?・・・
同じ道を歩いて、...いや...走ってくるオレンジコートの少女は、どうみてもドンマロ
彼女の顔色は訝しげに蒼白で、なんだかとても怖い
まるで般若のお面を被ったゴジラかのように、とてつもない雰囲気で急接近してくる
・・・なんだあの中二らしからぬオーラ・・・
無意識に半歩下がり、そして早くも、息のかかる位置まで接近した彼女は、こう言った
「死にたくなかったら、ついてきなさい」
ボソッと小声で、だが少年ら二人の耳はたしかに聞き取った
そして、抗議もできず、ただただ引っ張られる両者の背中
「ちょっと待つっすよドンマロさん! こここのまま直進はママママジュ・・・マジ女子トイレっすよ!!!!!!」
「いいから黙ってついてきて 私はね、女子トイレの入口で倒れるより、女子トイレの便器に倒れる方が伝説だと思うのよ」
「しるかよ!って・・・・・・・おい・・・ほんとに?・・・・か、かか、かああああああああああああああああああ」
そして...謎の悲鳴とともに彼らは
女子トイレに...ダイブしてしまった.....
_____
「おい・・・ホントになにしてくれちゃってるの?」
「ここではまずいわね 一番奥の個室が比較的広いからひとまずそこに隠れましょう」
「・・・個室って用を足す個室のこと・・?」
「当たり前じゃない、それ以外になにがあるっていうの ほら、この状態で人が入ってきたらまずいでしょ、早く入った入った」
「もっとまずいわ!!!」
「いいから入るのよ!!!!!!!!!!!!」
ビックリマーク四倍返しの怒号でバタンッ、と締められた女子トイレのドア 中学生だからかなんとか三人の肉体は一つの個室に納まっている
「よし・・・鍵もしっかり閉めたし・・ひとまずこれであんし・・・って・・・・
うわぁ・・・・地獄絵図ね・・・・」
「だれのせいだだれの・・・・」
「そうっすよマロさん、それに・・・」
ヤミヒロにしか聞こえない声で・・・なんかムラムラしてこないっすかwww・・・と囁くバドシは当然スルー。そんなことよりも今はドンマロを問いただす一点である
「んで、なんで痴女ってんの?」
「なによちじょって・・・またヤラシー単語? やめてよねそういうの」
「理由ならこれからちゃんと話す・・・・とは言っても一言で済む話なんだけどね...」
そして彼女は言った
「このデパートにいるのよ・・・・学校の先生が・・・しかも二人・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
え_______え___え__え_
唇を震わせながら見つめあうヤミヒロとバードシー
直感的にあの先生たちだと悪寒したが、それはたぶんバドシも同じことだろう
先生・・・二人・・・
今日は休日 職務があるとは思えない
ならばプライベート・・・親しい仲・・・・
「・・・ちょっとヒントいいかな もしかしてその二人 男と女?」
「そうよ」
「・・・・」
「・・・・」
頬を落とし、無言で肩を支えあう両者
人通りの多いこの町で、堂々と異性同士で歩ける間柄といったら都内の学校中を探しても一組しかいないだろう...
「やっぱり・・・ヨシムネ先生とジャンマちゃん先生なのか・・・」
「そうよ、わかるわね?ヨシムネ先生は私たちの担任、ジャンマ先生は私たちの学年主任
そして今は?」
「ががが外出死刑のてててテスト期間中っす・・・・担任なだけに一瞬でも姿を見られれば誰だかバレて・・・そのあとは・・・・・・・・・考えたくもないっすね」
「ほんとだよ・・・」
珍しいことにウチの中学校には、実の兄妹である先生達がいるのだ
それが社会のヨシムネ教員と理科のジャンマ教員
ジャンマ先生は男子生徒のほとんどにジャンマちゃん先生と愛称で呼ばる女教師で、最近は似顔絵まで書く生徒までいる愛されっぷり
一方ヨシムネ先生は、だらしない生徒がいると普通に蹴り飛ばすスタイルなのだが、ゆとりどっぷりの彼らからしてみたら”レアキャラ”以外のなにものでもないらしく、殴れば殴るほど好感度が上がる不思議な教師である
今、一番会ってはいけないのは無論ヨシムネ先生。 最近、隣のクラスのだらしない連中が新技:跳び膝蹴りをクリティカルにくらい、集団入院したという噂が・・・
「冗談じゃない!!ここは学校内じゃないからネタにもならねーし!!!ムダキックだムダキック!!!!」
「そおっすよ!そおっすよ!」
「・・・落ち着きなさいお前ら、心の叫びが声に出てるわよ。それにここ女子トイレね」
「はい・・・(だれのせいだだれの!)」
「じゃあ作戦会議ね とりあえずこの場所からの脱出なのだけれど・・・・あー、最初からめんどくさい状況化ねぇまったく・・・」
「はぁ・・・(おまえのせいだよおまえの!)」
・・・・・
こうして一致団結(仮)した三人は、新宿脱出計画を練り始めた
まずはドンマロがトイレ付近の安全確認
誰もいなくなったのを見計らい一斉にフロアへと出る
そこからは、七階で先生達を目撃したというドンマロの情報を参考にし、七階のエレベーターは使わず階段で移動、六階のエレベーターから乗り込む
押すボタンは[2]
一気に地上まで降下したいところだが二階で降り、比較的人通りの少ない階段付近で状況を整える
そして、彼女は謂う
入口付近こそ、一番人通りの多い「「「最大遭遇率」」」・・・だと
・・・・・
「なんとか二階までたどり着いたわね
何度もいうようだけどここからが肝心 そこんとこわかってる?」
「い、いやわかってるんだけどさ・・・」
「じゃあほら、代弁して」
「あー・・・緻密な計画はお前の趣味だとして”も”だよ?
勢いでさっさと脱出したほうが良くないか? ほら人通りが多いってことはそれだけ人間一人を特定しづらい 昔からいうじゃないか 人を隠すならh」
「代弁して!!!!」
「はい、移動は首を下げます」
「すれ違う人の顔は絶対に見ませんっす」
「三人の距離感はほどよく離れ」
「しかし首を曲げる方向は同じっす」
「どうでしょうか?」
「どうっすかでしょうか?」
「・・・・いくわよ___!!!」
その統率力 まさに鬼畜
適度な距離感をもって一階へと駆け下りた三人は、靴屋、婦人服フロア、化粧品売り場を突っ切り出入り口へ・・・・なんとか事なきを得た
だが、まだ新宿を抜けたわけではない
ドンマロはこんな危険地帯で悠長にバスなんぞ待つのはありえないといい出し、案の定 抗議もできぬまま一つ先のバス停・・・すなわち西新宿五丁目まで歩くことになった
時刻は夕暮れ時 丁度二日目前の今頃 オバケ花火が着火されたんだよなぁ、と意味なく追憶してしまったヤミヒロは、どうやら気掛かりなようである
・・・でもまぁ・・・なにもないことを祈るしかない・・・かもな・・・
ならこのもやもやはもうおしまいだと、強引に整理としたヤミヒロは、気晴らしに質問を投げつけた
「そういや聞きそびれてたけど、ドンマロはなんでこんな時期に外出してんだ」
「ん? ああ そういやなんも言ってないまま連れ回したんだっけ ふふ、よくそんなんでついてきたわね」
「・・・いいから理由を教えろよ 無理にとはいわないけど」
「ウチちょっと変わっててさ
学問は身につく勉強だけせよ!って理由から、一夜漬けとかを禁忌としてるのよ」
「?、でも文房具店に居た時はたしかまだ昼ぐらいだったよな、なんの関係が?」
「関係大有り “禁忌”って言葉の重さからもわかるでしょ?
身についた勉強をしているかの試験をするの・・・まったく、めんどくさい・・・」
「・・ああ、なるほど だからテスト3日前である今日より先は勉強〝させず”
純粋に身についた勉強だけで試験を受けさせようってわけか」
「そそう、変わった勉学方針でしょ?そもそも身についた勉強の定義はなんなのか~と不思議に思う今日この頃だけど、そんなことより罪悪感」
「ざいあくかん?」
「テスト期間中の休日に地元で遊ぶのってなんだか居たたまれなくならない?」
「そういうもんかね・・・」
テスト期間中に全校生徒が遊んでいたら、相対的にみて俺、優等生になれるんじゃね?と言い出しそうなったが、どうせバカにされるので言わないことにした、しかし
「あ、ゴメーン そんな感情を抱かなほど勉強してる自称:ガリ勉リーダーには分からない話だったかー テヘペロ☆」
「お前まだ中学生なのに皮肉るのうまいな。将来はお嫁さん通り越してダイレクトに姑になるといいよ 悪態が板についたシュートメにな バドシもそう思うだろ?」
まったく、心にもないことをペラペラと・・・、最近の女子中学生は口が悪すぎる
最近の男子中学生が思うのだから説得力はかなりのものだろうと勝手に納得したヤミヒロだったが、そうこうしているともう帰りのバスがすぐそばまでやってきていた
「乗るわよ」
「ちょっとバドシ、ソレ私の真似? やめてよね あとそこまでドヤ顔で言わないから」
「・・・ちょっとはドヤ顔なの知ってたんだ」
「ん、なんか言った?」
「いえなにも」
____
夕方とはいえ休日のバスの中、先に新宿で乗っていたお客さんに、その心地いいブルーの座席は占領されているだろうと諦めていた三人だが、奇跡的にも三人分の席が空いていて座ることができた
あとは揺られ運ばれ約20分、指定のバス停で降りればご帰宅である
バトシとの時間制約も十分余裕を残し、先生どもと遭遇さえしなければ新宿のファーストフード店でお茶をしながら時間ギリギリまでペン回し談話といくところだったが・・・まぁしゃーなしだ
ヤミヒロは少しばかし嘆息をすると、前の席で他人と相席しているバドシに声をかけた
「もうゲロゲロしない?」
「・・・人をアマガエルみたいにいうのやめてくださいよ」
「平気ならいいんだけどさ、でも万が一ってあるだろ?」
「ないっすよ、だいちもう空きっ腹で噴射する物体Xがありません」
「そうか」
「あ、もしかしておちょくってます? ・・・やんのか?」
「・・・・」
もちろんヤミヒロの真剣だった
なぜなら彼は先生達に見つかるよりも帰りのバスで”やらかされる”方が危険視していたからだ
だからもうなにも心配することはない
スッと会話を中断したヤミヒロは肩の力をなくすと瞼を閉じた
今日はテスト勉強は捗らないのに充実した時間を過ごせたウルトラレアな一日だ
そんな莫迦意外のなにものでもない一日を一言で美化した脳内は深い眠りへと誘っていった
こくん・・・・こくん・・・・・・・....................
「寝るのはやっ!」
わずか一分足らずで睡眠状態に入った隣に、軽く眼球がむき出しになるドンマロだったが、このあとすぐ、それ以上の驚愕で顎が外れかけることになるとは夢にも思わなかったであろう
・・・・
・・
・
___
突然の揺れ、それもコンクリートのアスファルトが擦れる振動なんていう生易しいものじゃない
上下左右、小刻みに揺れている・・・・と思ったら徐々にその震度が上がっていくではないか
起きなければ
声が聞こえないのに違和感を覚えたが、隣の人間に肩を揺すぶられているのは間違いない、・・・・ということは、そろそろ地元に到着というわけだ
ひとまず手を口元に大きな欠伸をしてから瞼を開けた
「・・・・」
「・・・・」
いつのまにか前に相席していたバドシは俺の隣に座っている
主要なバス停いくつか通過し、混雑が解消されたからだろうと考察するが問題はそこではない
・・・・なぜ無言・・・・
とりあえず外の風景を観ようとドンマロの前方の虚空へと首を伸ばそうとしたのだが彼女は酷く睨みつけてきた
まるで、どっかの曜日サスペンスでも再現してるかのように、これ以上動いたら大変なことになるぞと、たしかにあの目はそういっている
・・・わけわかんねぇ・・・
まぁ・・・でも・・・何かがあってからでは遅いので動くことは渋々止めにしたヤミヒロだったが、それでも目一杯瞳を右に動かせば少しは外を見ることができた
「・・・」
スクロールしていくビルだらけの風景、帰宅するサラリーマン、知りすぎた飲食店や雑貨屋さん
ああ、かなしいかな
随分と寝たと思っていたが、全然まったくまだまだで、地元のバス亭まではあと5回ほどドアが開かなければならなかった
「起こすなよ!」
「シッ・・・!!!・・・・お願い・・・だから・・・・静かに・・・・して・・・今、すごく忙しい」
「その・・・通り・・・・っすよ・・・」
「意味わかねーから・・・意味、わかんねーから・・・・!!!」
「ちょっと・・・・ホントにやめて・・・・・これ以上大きな声だしたらどっかの神社で焚き上げるわよ」
「そうっすよ・・・・・・てか黙れ」
「なんでこんな・・・・はぁ・・・理由・・・訊かせろよ・・・」
声量を最低限聞こえる程度まで落とし、しかも単語を区切って話す両隣に対し、なすすべもなく口癖がうつってしまったヤミヒロである
「バドシがね・・・・ヤミヒロの隣・・・・空いたから・・・・座りにきたの・・・」
「・・・それで・・・座って・・・・・ヤミヒロさんの・・・・ブサイクな・・・・寝顔を・・・・・拝見したっす」
「今から・・・・約・・・5分・・・前ね・・・」
「遅かったっすが・・・・座ってから・・・・あることがフィードバック・・・・してしまったんです」
「本当に・・・・悪魔って・・・・連鎖的よね・・・・・」
「そういえば・・・って・・・・座る途中・・・・・とんでもない・・・・悪魔じみた・・・・マロさんの表現を借りるなら・・・・連鎖的な・・・・て、てぇ、チェーンデストら・・・」
「いいからはやく要点いえよ!」
「このバスの中、センコーいるっす」
!?????????????????ゴボボボボボボボボb..................
危なかった
両隣にドンマロ、バドシという位置関係が幸いし、迅速に二人の手、計四本でヤミヒロの”首”は指圧され、死にそうになったが声帯は震えずに済んだ
それとは別にリーダーの体内から漏れ出した沸騰音らしきものについては、本人さえも考察する気力はわかなかった
「お前ら・・・普通・・・・口元・・・・おさえね・・・・?・・・・・・ゴホッゴホ・・・・・考え方がマフィアだよ・・・・」
さて、どうするっすか?・・・とバドシ
今、思いついたわ・・・とドンマロ
テンプレ(スルー)ですねわかります
「考えてみれば・・・簡単な・・・話よ・・・・・・・先生は・・・私たちと同じ地元で下りるから・・・・私たちは・・・・予定より一つ先のバス停で・・・下りれば・・・いいの」
「先生達が・・・バスから下りる際に・・・発見・・・されるという・・・・危険性は?」
「顔を伏せていれば・・・・大丈夫でしょ・・・・」
「というか・・・センセーって・・・やっぱり兄妹先生・・・・なんだよな・・・」
「そうっす・・・間違いなく・・・・後ろの席・・・・最後尾の座席に並んで・・・・・座ってました」
「なにしてた?」
「吉宗先生は新聞らしきものを・・・・ジャンマちゃん先生は自分のお手手を眺めてニコニコしてたっす」
「そうか・・・・なぁドンマロ・・・・後ろに先生達がいるんなら・・・・俺らが先にバスから下りるっていう・・・選択枠は・・・?」
「いけなくはないとは思うけど・・・・ダメね・・・・・それだと完全に・・・背中を見られることになる・・・・案外特徴的なのよ・・・・一人ひとりの背中・・・・体格なんてものわね・・・・・100パーセントばれるとまではいわないけど・・・・・」
1%でも死にたくはないわよね?と、いつも以上に脅迫染みた説得に、そうかもな、と肯定するほかはないヤミヒロなのであった
___
『次は○○ 美容と健康 カルガモクリニックにお越しのお客様はこちらを下車 前方の通り50メートル先左の路地です』
バス内に流れる無感情のアナウンスに応答するブザー音は聞こえない
それもそのはず、終点から200メートルも離れていないバス亭など、一律金額制の都内バスにおいて、よほど足が使いたくないか、シルバーパスのご老人たちぐらいしか利用しない、あってないような停車場所なのである
NPCメンバーが住む地元のバス亭からはもう7駅ほど行き過ぎていて、もはや次は終点『中野駅』
・・・
俺達は甘かった
ドンマロの安全に安全を重ねるスタイルには前々から疑問の余地があったリーダーだが、今回ばかりは十二分に納得していた 背中を見られるのはたしかにきついのだ
歩き方だとか髪型、しかも服装まで見られてしまう危険性を考慮すれば、必要性のある作戦だと確信していた
しかし所詮は中学生の稚拙な策
先生達がいるのは学校という固定概念が下車位置のミスに繋がった
今日は休日 教師らが帰るのは地元の中学校なはずがない
それでも一縷の希望を賭してどこかであっさりと下車することを祈った三人だったが、最悪な事態はやってきてしまった
当初の作戦”先生が下りてから次のバス停で下りる”いう策が破綻する”終点”はすぐそこ
地獄への入口
もう三駅前くらいから、ある程度感づいていた我々だが、今この瞬間、終点一つ前のバス停を勢いよく通過した風景に【絶望】というタイトルがつけたい三人
「あきらめちゃだめよ・・・・ヤミヒロ・・・・・やってくれるわね」
なんの脈略もなく告げるその一言に、被せる様にして一冊の本を突きつけてきた
「それ、アンタ達と別行動したときに買ってた本 まさかすぐに役に立つなんてね」
はぁ?と呆れつつも本をペラペラと捲ってみる
ん・・・失語症と脳損傷・・・・シナプス可塑性・・・・脳機能イメージングの手法・・・
「なんだドンマロ、助けたい人でもいるのか?」
「違うわよ ちょっと心理学についてかじってみようと思ってね 分かりやすそうだったし」
・・・・・
・・・
・・
・
「とまぁ・・・そういうわけで・・・あんた 次の終点でバスが止まった瞬間 後ろ座席に飛び込みなさい」
「・・・ん?・・・・よく聞き取れなかった」
「ダイブしろっていってるんすよ・・・・ダイブスピナー・・・的な!」
「いやいやいやいや、あーもう! 今日はホント意味わかんねー!!!!ボボボボボボボb」
ふぅ・・・・だから・・・抑えるのは首じゃないだろ・・・!!!!
「私達はこのまま行くと見つかる可能性が高くなるわ」
「知るか・・・!!!」
「待っててもダメっすよ・・・後部座席の人って最後に下りる人多いですし・・・そうなったら三人ともかなり存在が浮き」
「関係ねえ・・・!!!」
「いいヤミヒロ・・・・落ち着いて・・・・アンタ勘違いしてるようだから言わせてもらうけど、この策は”三人”で助かる方法よ」
「嘘つくな・・・!!!」
俺を囮に使って二人で逃げ出す算段だろーが!
そうこうしているうちにも、もうバスは終点のロータリーを右折しはじめた
もう停車まで30秒はないだろう
「もうおしまいだ・・・・・・」
すると後ろから奇跡にも似た、希望の会話が響いた
「あ、おにーちゃん あくしぇしゃりいぃ落としちゃった。 読書中ごめんね、そっちの方に転がっていったんだけど見つからないかなあ?」
「まったく・・・ジャンマは成長しねーな で、どんなアクセサリーだ」
・・・・ぎょ、ぎょぎょ、僥倖!!!!!・・・・・
ヤミヒロの頭の中はその文字で埋め尽くされた
教師二人が共に床へと視線を落としている今なら・・・・・・いける!! 大げさに逃げ去ろうともヤミヒロの背中はおろか踵さへも見られやしない
瞬時、
ヤミヒロは、バドシの前方するりと横切り、運転席まで_____走ルッ・・・!!!
バスという密室ストレス 30センチ後ろのブルーシート座る担任教師 両隣には精神的な圧迫感
それらが全てが起因してか、彼は誰よりも早くピンチから生まれたチャンスを行動へと昇華させた
・・・俺の・・・・勝ちだ・・・!!!!
なにに勝ったか分からないがとりあえず自分の安全は確信した
・・・・・バドシとドンマロには悪いがひとまず俺が成功者になって、いい流れを作ってやるって!
ヤミヒロは前方に向かって足をしっかりと、深く、踏み込んだ
運転席付近までいけばこっちのもの
ドアが開く2、3秒、しゃがみこんでいればいい簡単なお仕事
・・・・だがしかし・・・・
丁度、前方の男性、推定100キロは超えているだろうピザを避けようとしたその時
その瞬間だった・・・
『失礼 急停車します』
「・・・・え?」
無情に響き渡る運転手の忠告
それとほぼ同時に乗客全員の全身が慣性に支配される
慣性事態は対したことはない もともと速度を落としている途中での停止だ ちょっと前に片足を出す程度の揺れ 微振動
たとえヤミヒロが今、慣性の掛かる方向へ脚を動かし、走ってる状況だとしてもそれは変わらない。 二、三歩足をステップさせればバランスは容易く取れる。静止もすぐだ。
すぐなのだ・・・
すぐなのに・・・
なのに・・・・
に・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・問題は目の前にあった
すぐそこには100キロはあろうピザなピザ その体重を固定するために屈強な手腕で手すりをがっつりと掴んでいるはもはや必然と言っていい
なにがいいたいか
今まさにこの瞬間に、前方へと動いたピザは、手すりによる牽引力により俺にカムバックしてきてるのである
・・・・まじ・・・・で?・・・
ボーーーーーーーーん!!!
そんな擬音がまさに似合う
まるで振り子のオモチャのように、見事、見事、見事。ピザエネルギーはヤミヒロに負荷し、ヤミヒロを後方へと吹き飛ばす力に変換される
・・・・・ぎゃあああああああああ
・・・・バコ
・・バタ
・ふわさっ
「お、おにー・・・・・私の膝・・・・・・なにか・・・」
「・・・・・ああ・・・・・なんかきたな」
「・・・・いてて・・・・!?・・・・・いや~、急ブレーキとか困ったものですね~ では失礼」
「ん?ちょっとまて・・・・おまえどっかでみたような・・・・と、いうより顔を見せてくれないか?」
「いえいえ 人様に見せるような顔はしてませんよ あはは」
「そうか」
「そうです」
「ううう、・・・ぐすん・・・いきなり飛び込んできたから驚いちゃったよぅ・・・・・キミはたしかヤミヒロ君に間違いよぅ・・・うう・・・こんばんわ」
「うん、違うよ」
「そうか」
「そうです」
「んなわけあるかボケ」
「ぎゃ嗚呼ああああああああああああああああああああああああ」
____
・・・・こうしてヤミヒロは犠牲に、、、、ドンマロとバドシは誰にも見つからず生還したのである
さてNPCメンバー三人の長い長い試験前の一日は終わりを告げた
・・・1.2.3「
まだテスト期間中の月曜日、、、一番のだるさは強烈で、しかし俺らには場所があって、、、。
・・・・・・・・・・・・・・・・・そこで俺らは、考える気すら起きないほどの
・・・・・・・・・・・・・・・とんでもねえアプローチに相対することになったんだ
???2013.01.26公開
亡霊ダイブ本格始動第三章2013.02.02公開