ウサギ、耳、伸びた、私、

このブログはたしかにイタい・・だがどうだろうか。痛みを訴えるのは大事なことだと私は思う。戦争より餓死の方が酷虐なのだから

亡霊のダイブスピナー 【第三章 2/3】(交渉編)

2013-02-09 00:00:01 | NPC@13物語
夜になるほど増していく。月明かりが増していく。

でもそんな些細な月光がこれほどまでに光輝を放つわけはなくて___。

水のみ場のブロックに身を委ねていたヤミヒロは、その光を出所をちらりと垣間見た

「そろそろ本格的に始まりだな」

グラウンドの中心には一つの塔がある。巨大な丸太が幾重にも重なり合っているのだ。

そしてその丸太にくっ付けるようにして数十本の火が灯り始めていた

もうすぐ最後のキャンドル______灯った

それを初めて見たのなら誰しもが心動かされるであろう新穀感謝祭名物「キャンドルファイヤー」の完成である

「もしもし聞こえますかヤミヒロ君 オーバー」

突如、耳に付けていた無線イヤホンからノイズが響きだす

「ああ 少しノイズが入ってはいるが問題ない きちんと聞き取れるぞ」

「オーバー?」

「ああ」

「オーバー??」

「お!う!ば!あ!」

・・・多数決の時の緊張感はどこにいったんだ・・・とヤミヒロは複雑なご様子。

「シュッシュ、では改めて作戦内容の方 おさらいしていきますオーバー」

「ああ」

「ん??」

「オウバァアー!!!」

そしてイヤホン越しのクルタンは淡々と説明を始めた

交渉の流れ 悟られないためのポーカーフェイス ちょっとした間合い パックンの弱点
 交渉材料

うん、間違いない___いける。  というかそう信じている 大丈夫大丈夫大丈夫...

自身の上服を手でシワクチャにしながら祈るように自分を静める

ネゴシエーターは俺ただ一人 誰かが助けにくることはないらしい

・・・一味の方は十中八九、パックンとカラピンの二人で楽しんでいるだろうから二対一....本当にいけるのかよ・・・

『シュッシュ・・・パックン一味をグラウンド後方、鉄棒付近にてロック 迅速に接近してください・・・オーバー』

「・・・ぁぁ」

『どうやらまだ緊張しているようですね・・・大丈夫ですよヤミヒロ君 貴方はただこの無線イヤホンから流れる私の言葉をそっくりそのまま繰り返せばいいだけ いわば変声器的な役割しかないのですから』

「わかってる  でも・・・」

『理解しているのなら『でも』なんて言わず信じることで頭を飽和させてください

そうすれば大概の事は信じれてしまうものですよ』

「フッ、なんだか洗脳みたいだな」

『シュッシュッ・・・理解しているのなら、と最初に言ったはずですが

・・・・私はもう、友と呼んでくれる人達を”使う”ようなマネはしたくない』

「お前がいつ俺らを使ったよ それこそ爆発させろよ」

『爆発ではなく飽和です シュッシュッ・・・ヤミヒロ君、今わざとボケましたね・・・!?・・貴重・・・じゅるりッ』

・・・おいおいキャラ変わってるし微妙にクソ気色悪いな・・・とまでは言わない

なぜ言わないかって? それは地を見れば証拠がある。

そう、自分の脚は動きを得ていたからだ  震えはない 心拍も安定している

まったく、クルタンも....


         
           たまらなくNPCメンバーだよ










水のみ場から直線距離にして約100メートル 鉄棒遊具よりちょっと奥にあるアスファルトに彼女らはいた








もう躊躇わない むしろ加速するかという勢いでパックン一味へと勇みよる

「あらあらヤミヒロ先輩 奇遇・・・というほどではありませんが、お久しぶりですわ」

おほほ、とまるで久しく会っていなかった旧友とでも話すかのような振る舞い

PV事件であれだけのことをやっておきながらその態度かよパックン...

一呼吸する さすがに緊張がリバウンドしてきそうだ

状況を確認 数は二人 パックンはすぐそこ カラピンはパックンの後ろ約10メートル 気さくに話しかけてきたパックンとは対照的にカラピンは一瞬目を合わせたのを皮切りに無言のまま一歩下がった

カラピンの目は睨みつけるようにも蔑むようにも見えない まるで試験管の中に入った眼球を見ているかのような無感情の目でこちらを知覚している

『ヤミヒロさん どうやらターゲットと接近したようですね  オールOKです
そちらの高感度マイクもきちんと制御しています その距離を保っていれば会話は完璧に聞き取れます オーバー』

もちろんヤミヒロはなにも言わない ひしひしとクルタンの命令を実行するだけだ

本当はもっとこう、”脳内で考えたことを音声化できるデバイス”的なものを作ってくれると内部会話が成立してやりやすかったのだが、さすがに現代科学を超越した技術力は使えないようなので自重した

無線イヤホンから三連続の機械音が流れだす

『ツーツーツー』

NPC@13の命運を握る、交渉開始の合図である



「いきなりだがパックン一味と話がしたい 時間をくれないか?」

努めて冷静に、お願いする立場ではあるが年上として最低限度の口調は保持する

「一味ということは、NPCさんとしてワタクシ達と交渉がしたいと、そういうことですわね」

「ああそうだ」

相変わらずの考察力 普段の俺ならこの時点で重圧に耐えられず逃げ出すかもしれない そのぐらいのただならぬオーラが彼女にはある

でも今は違う 厳密にはイヤホン越しに俺の口を動かすクルタンが交渉人だ 俺は”ほぼ”関係ない

さぁどうするパックン 乗るか___乗らないか______彼女は言った  







       「あなたにとってペン回しとは、なんですの?」






「・・・・・・・・(は?)」

その問いに対し嫌な悪寒が走ったクルタンだが、ノータイムで指示をおくる 

・・・シュッシュ・・・まさかもう私が指示を送っているのが・・・いや、いくら妹でもまだ探りの段階なはず・・・ここで考え込まなければ問題ない・・・・

「その質問に答えたら何でもいうことを聞いてくれるのか?」

「ほほほ、それは強欲ですわよ先輩  ワタクシが言っているのは交渉の交渉です」

「ペン回しとはなんぞか・・・・、、、、そんな抽象的な問い 交渉内容についてある程度知っておかないとそっちも不安だろう 判断基準はまず交渉についてのルールを決めてからだ」

間髪いれず隙せず話す

「当たり前のことだが交渉は平等にいこう 基本的に相手から貰った利益は自分の負債かつ相手への利益で天秤を整える
もちろん相互利益でも相互負債でも構わない 後者はNPCにとってあまり望みたくないが、平等になるのならそれは許諾する準備がある」

「いうまでもありませんわね」

「発言については環境的に聞き取りミスが大いに考えられるため俺が予め用意しておいたこのリニアPCMレコーダーを使う よって発言にも公平性は保たれるとしよう」

「ふふ、リニアPCMなら豪雨が降ろうとも大丈夫でしょうね いいですわよお望みならば」

じゃあ本題に入ろうか、と言い終わる前にパックンは五指を広げ静止するよう促す 

       「あなたにとってペン回しとはなんですの?」

再度の問いに無線イヤホンから舌打ちが響いた 深呼吸する吐息も聞こえる

・・・このくらいなら俺にもわかるさクルタン ルール説明を利用して最初の問いをはぐらかそうとしたんだよな

でもその作戦は失敗  どうやら予想をしていたよりもずっと苦戦しそうだ


・・・・


・・・


・・





もうかれこれ20秒間、クルタンからの指示が途絶えている

それどころかヤミヒロはこの空白であることを思い出してしまった

      
「あなたにとってペン回しとはなんですの?」というパックンからの意味不明な問い

だがしかし、意味はあったということをだ。それはつまり

 

・・・・PV事件の時にパックンが提示した問題に酷似している・・・・当時、クルタンはその問題に挑み、結果、見事に惨敗をくらっている。



間違いない クルタンにとってこの問いは、紛れもなく弱点だ

しばしの静寂、なにもできずとも無表情だけはなんとか保つヤミヒロを見かねてかニヤリと笑うパックンが口を開く

「まぁいいでしょう 私もわがままな子どもではありません この質問には交渉中に答えていただく、いわば先送りということで・・・」

妥協の言葉だった。いや妥協というよりはむしろ借りか・・・・・・・・・・・・・・・・フッ、作戦通りだよ。

____


パックンは今なにを考えてそんなことを言い出したのかは不明だが大方”クルタンの予想”は当たっていた

なぜ当たったのか。それはパックンには恐怖の他に、もう一つだけ。万人に一人いるかいないかの”利用できる癖”を知っていたからである  それは短所でもあり長所でもあるだが_____賭けには勝った。 



 この勝負(交渉) パックンの“利用できる癖”は、間違いなく短所に作用している



「じゃあ、さっそくだが話の内容を述べるとしよう

お前等 夏休みのことは、もちろん覚えてるよな? 勝手に実の兄であるクルタンからペンを盗み出したあげく、返してほしれば山奥まで来て遊ばせろと、脅迫まがいな行為をした通称PV事件だ」

「やや誇張している面がありますが、ええ、大方合っていますし覚えてもいますわよ」

「なら話が早い もうわかるよな お前等パックン一味は俺らNPC@13にするべきことがあるんだよ」

「と、いいますと?」

微動だにしないその微笑に怯むことなく、次の言葉を突き立てた

「NPCが受けた屈辱を、可能な限り“同等に”お前等も受ける義務がある」

「ふふっ」

・・・なるほどですわ、交渉の平等性ではなく大局的な同等を主張しますか・・・

・・・交渉だの公平だの、ワタクシのもっとも得意とする分野で真っ向から勝負を挑んでくるなんて、アポを取ってないにせよ愚直すぎると思ってましたが、それなりの筋道があったのですわね





・・・ふふ、愚かかと思ってましたが・・・

                            ・・・・・・・・もはや滑稽 




カラスがゴミ袋をひん剥くよりも、幼い子猫がお散歩をする方がよっぽど文学的で可愛げがあったというのに...........さて、言ってさしあげますか

「ふふ、ヤミヒロさん。 そんな義務どこにもありませんわ  なぜならワタクシ達はNPCにではなく”クルタンお兄様”に挑戦状を差し上げています  NPCは任意で行動したにすぎず よって先の言葉の撤回を要求しますわ」

「クルタンはNPCの一員だ 個人の問題だと決め付けるのは早計じゃないのか?」

「見解の相違はどこにでもあるもの そもそもこの交渉は貴方達NPCとワタクシ達とのものではありませんか  論点がズレてますわ」

「しかしだ。その挑戦状とやらも結局のところ、NPCをマインドコントロールするための手段だったんだろ? はなからクルタンなんて眼中にはなかったんじゃねーのか??」

ちげーのかよ!!!と少々感情的に喚いたのも演技。クルタンからの細かい指示である。

「ちょっとは楽しめると思ったら・・・・・・とんだ不毛ですわね   それではワタクシ達は退散しますので、もしこの交渉の終末に不満がおありでしたらご連絡を。  ちょうどいい、、、NPCメンバーとともにそのリニアPCMレコーダーで己の”お笑い具合”を存分に興じるといいですわ」

後ずさる足音をレコーダーではなくヤミヒロの懐にしまってある高感度マイクで拾う先は約300メートル先の校舎裏

クルタンの不敵な面構えは、依然として保たれたままだった 

・・・・シュッシュッ・・・なにもかも 予 想 通 り すぎますよ・・・・・我が妹。

以心伝心か、ヤミヒロもこの、はたから見たら絶対絶命な状況化でも、ある程度の手ごたえを感じていた。

遡るは一日前、昨日聞いたクルタンからの伝言を今一度思い返してみる




                    ~~一日前~~



「いいですかヤミヒロさん  パックンには恐怖のほかにもう一つだけ弱点らしきものがあるんです」

「らきしものってまた曖昧だな  交渉に使えるのか?」

「ええ  これを知っておかないともうそこで終わってしまいます いわば交渉の大前提に当たる部分・・・今からちゃちゃっと簡潔に話しますね」

分別顔・・・とは違うやや神妙な面持ちのクルタンはパックンについて語ってくれた

・・・

・・・

・・・

                防衛機能の欠如

これが中学一年生であるパックンに対し論理的に攻め立てられる隙だとクルタンは言った


人間は自分を守るため無意識のうちに防衛機能を働かせる

抑圧、
否認、
取り消し、
隔離、
投射、
同一化、
反動形成、
置き換え、
知性化、
退行、

他にもまだあり、様々な防衛機能を駆使し人間は、自己の安定感を得ている

しかしながらパックンにこれらの機能が働くことはごく稀だと実の兄は断言した

とくに、受け入れがたい現実を知らなかったことにしてしまう【否認】と不快なことをフォーマットしてしまう【取り消し】の機能は皆無 

このことから自分に対して納得いかない箇所は、絶対に許さない性格なのだと窺える

「なんでお前の妹さんは、こんなにも難儀な中学生になってしまったんだろうか・・・」

「言いますねヤミヒロ君___でもヤミヒロ君だって少しは理解できるんではないですか?」

「え!? 俺 小難しそうに見えるのか!!??リーダーぽくね??それ!!!」

・・・そこじゃないですよ・・・シュッシュ・・・っと突っ込むのはあまりに現実的ナイフだと思惟たのでやめておくとして

「必要なかったんですよ」

「・・・は?」

「だから、防衛機能がなくてもさほど問題にはならなかったんです。我が妹は。

防衛機能というものは結局のところ逃げの部類に入ります

別に悪いことだとは思いません 至極当然のことです

これは私の持論ですが、人は逃げることで自分を知り、進むことで得ていくのだと考えています どちらも大切なことなのです

・・・

・・・そう・・・・妹はこの世に生まれたときから既に、自分を知りすぎていた・・・

所謂、ギフテッドというやつなのです 外部に対する世間的な成功を収めるのではなく先天的に知識を得ている多重知識者・・・ただそれだけのことなんですよ  シュッシュッ」

「・・・たしかに否定できないな・・・・パックンとは一度くらいしかまともな面識はないが・・・・あいつが天才だって言われてもなんら不思議に思わない」

「そこもまたNPC最大の天敵である所以でしょうね・・・シュッシュッ」



・・・そう・・・・



・・・・・・だからこそ・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・この交渉は実るのだ・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・逃げることができないパックンではない・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・逃げる必要がないのだ・・・パックンは・・・・・・



・・・なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・とことん付き合ってもらおうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。



「待てよ パックン  まだ俺の交渉タイムはシューリョーしてないぜ?」

・・おっとと・・ついテンション上がりすぎてアドリブなんか効かせちゃったよ俺・・・たはは・・

ようはそんだけ昨日の話が、的中していたということだ

考えてみてほしい

普通 このような利潤関係に準拠した交渉など不可能なのである。交渉相手が責任能力のまだまだ薄い中学生だからだ

はぐらかしあったり、感情的になって喧嘩になったり、無視して強制帰宅したり、親にいいつけたり、根も葉もない噂話で脅したり、仲間を呼んだり、大泣きしたりでなんでもありだ

もしかしたらノーカン!ノーカン!とか言い出すかもしれない

しかし防衛機能が極端に弱いパックンは例外。それ自体、無理難題なのである。

だからさっきだって「NPCの受けた屈辱を、"同等に"お前等も受ける義務がある」という俺の問いに対し、きちんと論理的に反論してきたのだ

普通はありえない。 中学生程度なら「うるせーポカン!」で仕舞いである



・・・・・つけこめるぜ 何度でもいってやる  これはチャンスだ!

・・・

「なんですの まったく・・・まだなにかいいたいことでも?」

「お前の兄さんはな、わざわざ”貸し”まで作って、妹を試してるんだよ

ちゃんと”貸しを返す大人”になれるのかってな」


「、、、、、詳細を」



「クルタンには本来 ペンを取り返すためだからと、わざわざ挑戦状の指示通りに動く必要なんてなかったんだ  だって家族だろ? それに妹だ   同じ屋根の下 兄として力を使って粛正すればよかっただけの話だ  盗みはやってはいけないことだとね」



「・・・・」




「でもそれをしなかった クルタンは素直にお前の挑戦状の指示通り動き、真っ向から勝負に挑んだ ____これを”貸し”といわずなんというんだ?」




「・・・・・・・・・・・・」





刹那、尖った氷柱をぶっ刺さしてくるような強烈すぎる視線。









固化してもなお、咒力的に威容を誇る童女。





はっきりいって気持ち悪い。軽い嘔吐感で口の中が干からびていく。



・・・・黄色の果実が舌をくねらせる・・・・・



3分近く、ずっとこの状態で黙考。

それもそのはずだ 

パックンにとっては、挑戦状の強制力を主張したくば、NPCとの関連性を説かなければならず本末転倒

論議のズレを指摘しようものなら、防衛機能の発動に繋がり自己矛盾が生じる

そう・・・さっきまで断崖絶壁に立っていた人影は、ヤミヒロではなくパックンに代わっている

この状態が続けば、パックン自ら降参せざるを得ない

質疑に答えられない未熟な人間だとNPCに証明してしまうことにもなる

そうなったら最大級の抑止力だ

俺らは関係ない ただただ自己嫌悪の念に駆られ行動力は衰え、もしかしたらNPCにトラウマを抱くかもしれない

ちょっとかわいそうではあるけれど、それは仕方ないこと。 挫折というのはどんな人間にもついてまわる

・・・すまんな・・・・全てはNPCを守るためだ・・・・

勝利を確信し、今一度大きく息を吸う

そして慈しむようにそーっとタイムアップ(質疑終了)の言葉をかける


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずだった。


「ちょっと! なにパッ嬢の肩に触れようとしてんですか」

突如割り込むように発してきたのは、さっきまで無表情を貫き通していたカラピンである

「だって終わりだろ  誰が見たってもう答えられない雰囲気だ」

「じゃあ その話は保留っしょー!  とりあえずは次に移りましょう  いいですよねパッ嬢?」

「・・・ッナ!」

・・・・・ふざけるな・・・・というかお前も全然わかってないな・・・・

・・・・・・パックンがそんな逃げるようなマネ認めるわけがないだろ・・・・・・・

クルタンからの指示もない これはあちらから自爆すること見越しての無言だよな



                【 否、 】





「ええ ぴぃちゃんの言うとおり保留にしましょう」



・・・



・・・



・・・・は?



       なんだこれ・・・



              今パックンはなんていった・・・・・・・



                               なんていったんだよ・・・・・





頭の中で描いていたシナリオが崩れていく

まるで完璧にホールドアップをきめた体勢から、自分の脳天目掛けて雷を落とされたような




・・・・・・いやいやいやいやありえないだろ 

                               幻だ夢だハッタリだろ?・・・・・・・・・・・・




「・・・なぜ・・・・」

「ふふ、声が小さくて聞こえませんわ」

「な、なぜ保留にできるだよ・・・・・ざけんな・・・・防衛機能はどうした・・・・・」

指示なんて待ってられない。ヤミヒロの抑えられない本心は、瞬時に声帯を震わせた

「貴方達がこの話し合いで一番最初にした“質疑の後回し”を私たちも“平等に”行っただけですけど」

なんも問題ありませんわね? と長いプラチナヘヤーを靡かせるパックン

「・・・な・・・・に・・・・・」・・・・・あ・・・悪魔だ・・・・・・

そして追い討ちをかけるようにヤミヒロは気づく。

自分の身体の異常。一つの機能が破壊されていることに。

この環境化において、五感をはるかに凌駕する頼みの綱。必須の機能





                     ・・・・・そう・・・・・・





       ヤミヒロの無線イヤホンは、大音量のノイズで使い物にならなくなっていた





・・・・・魔王だろ・・・・もはや・・・・・・ハハッ・・・・・




____





一方 裏方、クルタンサイド。

「シュッシュッ・・・やはり妨害電波を飛ばしてきましたか」

もはやただの金属片と成り果てた受信機を見つめながら眉を歪ませるクルタン

「なによ もう私達 しゃべっていいの?」

「ええ いいですよ」

「ンダ  詳細詳細!」

「そうっすよ なにがあったんすか?」

皆からの質問責めに、幾度かため息を漏らしつつ交渉の内容を簡潔かつ正確に説明した

____

「_____と、こんな感じですシュッシュッ

おそらく交渉がスタートした時点で内通者がいると判断し、カラピンが電波妨害装置を手配させたのでしょう」

「ンダ? 二人ともその場をほとんど動いてなかったんじゃねーのか??」

「カラピンが第三者に装置の手配と操作を依頼したのでしょう  あっ そうでした 皆さんたぶん勘違いされているようですから言いますが、パックン一味は二人だけのグループではありませんよ 決して」

シュッとした目つきで断言するクルタン

「そうなんすか  何人くらいいるんす?」

「約四万五千人です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「4よん5ごー0まる0まる0まるです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

「45の千倍です」

そうじゃねーよ!なんでそんな、どっかの市町村レベルにメンバーいんだよ!!!・・・とヤミヒロがいたのなら突っ込んでいただろうが、あいにく彼は絶賛断崖絶壁中

「シュッシュ・・・・昔、とあるハッカー集団(推定2万人超)に宣戦布告したのち、見事掌握___それ以来 ハッカー集団はパックン一味のしもべとなり、パックンがその権力を誇示するたび入会者はまたたくまに増加の一途を辿ったそうで____今や5万は超えるといいだす輩もいるくらいです」

「5万人・・・・・東京ドームが満席になるわね・・・・」

「・・・まぁ、ネット上ということもあり、物理的な面で使える人間はごく少数らしいですが」


「・・・で、勝てるの? 問題はそこでしょ。 そんな大軍勢相手に、たった5人のNPCで勝負になるの?」


勝てますよ・・・と即座に反論しようとしたクルタンだが、ここは躊躇う

自分の策に自信がなくなったわけではない。つつがなく自分の考え方を話した方がいいと考えたからだ。・・・・たぶんNPCって・・・そんなグループだと思います・・・。

「正直な話、無線が使えないこの状況....かなり厳しい勝負を強いられているのはたしかです

もはや会話は聞き取ることができませんが、次のパックン一味の行動は猛反撃でしょう」

「反撃っすか? でもパックンにももう残されてる策はないように感じましたが  クルタンの”貸し”の意見に対してかなり言いよどんでたし」

「シュッシュッ・・・だからですよバドシ君」

頭の上に、はてなまーくを乗せるバードシー

「あれは電波妨害の時間稼ぎ、いうなればパックンの演技でしょう  本当は策はあったのでしょうが使いたくなかった いや、使えなかったんです   困りますからね・・・・私に反論の余地を与えては」

「なぁなぁ・・・・リーダー息してる?」

「シュッシュ・・・皆さん、私は交渉が成立すると信じています

最初の問いにせよ、妨害にせよ、まんまとしてやられたわけですが、____それでもです」

「根拠でもあるのよね?」

ドンマロからの的を得た問いに彼は言った

「それと似たような問いを昨日、リーダーにされたんですがね・・・・シュッシュッ その時と一字一句同じ言葉で答えましょう









                 
                    根拠はヤミヒロ君 そのものです   









                                                       」 


_______________  
       

カメラは再び表、ヤミヒロサイドへ,

「ふふふふ、どうしたんですヤミヒロ先輩________綿棒でも買ってきましょうか?」

嘲笑するパックンは、それでも眩くばかりの気品はなくならず今はそれが果てし無くうざったい

・・・くそ・・・こうなったら・・・

「答えてやるよ・・・ペン回しとはなにか  それで先送りの件はチャラだ・・・!」

「あらあら やめてくださいませ  あれだけ黙考されて答えが出せなかったのでしょう?  いまさらなにを言われようが説得力が・・・・・ねぇ?」

「そうっしょー先輩! 苦しいのは分かるっすがー、純粋に討論しなくては不毛でしょーに」

クソッ・・・! カラピンまで参戦してきてやり辛さ増す一方だ・・・・こっちは正真正銘”一人”になったというのに____でも、ここで食い下がって交渉が終わる

「苦しいのはどっちだよ パックン一味」

「あらあら」    

「お前等が言ってることこそ見苦しいって意味だ!  なにが考えすぎた答えは嘘っぽいだよ
そんなこといったらプロの将棋士は全員カルトだな」

「心外っしょー・・・」

「いいか、俺のペン回しとは、」

「はいストップですわ  ワタクシ達は”質疑を先送りにしろ”との発言をしましたが それはあくまで、ヤミヒロ先輩の発言に回答しただけですわ。 これが平等な会議なら次はワタクシ達が質問し、貴方が回答する番ではなくて?」

そして最悪なことにクルタンの予想は的中  パックンは最大の言い訳を隠し持っていた

「話がだいぶとんだので補足しますと、”クルタンが挑戦状を妥協した分の【恩】をワタクシは返さねばならない” そんな言い分でしたわよね」

毅然とした態度で首だけを縦にふるヤミヒロ

「お兄様がなぜ妥協したのか、___そもそも妥協という言い方がおかしいですわね  なにをするにしても利害関係が明白でなければ行動しませんから・・お兄様ならとくに」

「そんなの勝手な妄想だろ」

「そうでしょうか? PV事件以降 クルタンとあなた方は、よりいっそう仲良くなったと思われますが」

「うるせーよ あ、なにか?クルタンとNPCを結んだのは、私達がペンを盗んだからとでもいいたげだな・・・ いい加減怒るぞ!」

「まぁまぁ  ここは公正を軸した交渉の場。 感情ではなく理で話し合いましょうか

___まず、クルタンが妥協した経緯ですが、ワタクシは妥協ではなく相互協力だったと考えています。なぜならお兄様はPV事件の際”NPCを使った”と発言しています

このことからクルタンが選んだ選択は妥協ではなく、自分に対してなにかしらの利益があると見込んでの選択___と、考えられます  ワタクシにはワタクシなりの利益が、クルタンにはクルタンなりの利益があったのですね

___つぎにその利益についてです。

本来 相互に利益が見込めるかもしれないと成立した時点で、もしどちらかが損をしてもお咎めなしなのですが、クルタンの予想利益がわからない以上、事実的に得た利益を説明しましょう 

ワタクシはもちろんお兄様から貰った”挑戦状許諾”という利益です 

結果はどうであれ引き受けてくれた その恩は今もたしかにこの胸にありますわ

そして肝心なクルタンからの利益  すばり”勘違いの粛正”です

クルタンは己でNPCを使ったと打ち明けた、しかしそれは違っていて、実際はNPCを”頼った”・・・そうですわね?  この勘違いを正さぬままと、粛正するとでは人生、かなりの損をしますわ  よって立派な利益と考えますの」

「それは俺達がクルタンにやった利益だろ  あんま友達同士で利益だの相互関係だのいいたくないけど____少なくともお前等には関係ねえ」

「・・・しょ~・・・そっくりそのま」

「あらあらぴぃちゃん  ちょっと黙っててくれますの?

___さて先輩 忘れているようですから最初の方で言ったセリフをもう一度いいますわ

『ワタクシ達はNPCにではなく”クルタンお兄様”に挑戦状を差し上げています  NPCは任意で行動したにすぎず』 

・・・・どうですの、関係ないのは先輩の方でしょう?

関係ない人間がいくら利益を主張したところで利益を与えるのも得るのも関係のある人間だけですわよ?

例えばスーパーに行って従業員でもないのに品だしやら在庫整理でもしてて御覧なさいな 店側は利益を得ますが給料が入るのは従業員だけ___あたりまえのことですわ

お分かりですわね  NPCが挑戦に介入したからクルタンが利益を得たのではない、挑戦状を送った“パックンがいたからこそ”クルタンは利益を得られたのですわ」

「そんなの屁理屈だろ・・・そうだろ!」

「フフフ もっと分かり易く説明して差し上げましょう

        貴方が与えたその利益は、挑戦状なしで成り立ちましたか?

貴方が与えた利益の中にはワタクシが与えた利益が入っているのではないですか?

その利益を受け取ったのは誰ですか?

            クルタンお兄様ですよね?

                          貴方が利益を与えたということはワタクシが利益を与えたということと同義ではないのですか?




「___________________」


・・・・・・・・・・・・・クソッ!!!・・・・・・・・・・・・・・・


ヤミヒロは何も言うことができなかった。矛盾してる点があるかもしれない・・けど、今の彼はそれを正しく反論する力を持ち合わせていない。もし中途半端に言葉を吹っかけようものならそれこそいい餌食だ___・・・・くそ・・・無線さえ繋がれば・・・・

無情にも響き渡るノイズは梅雨入りの雨音が如く、一行に鳴り止む気配を見せない

「・・・・」

「そういうわけですので、クルタンからの【恩】はすでに相互利益として完了していると主張します。 NPCから受けるワタクシ達の義務はなんらありません。 次はヤミヒロさんの主張ですが」


もう言うこともないでしょう?と畳み掛ける後輩共

ヤミヒロフェイズ

先送りの件は、すでにクルタンの主張が打破された以上 なんの意味もなさない

では新しく何かを問わなければならない・・・・そう、”一人”でだ

・・・どうすんだよ・・・本当に終わるのか・・・負けちまうのかよ・・・・

次第に寥寥としはじめた彼の心中

・・・・慈悲でも請うか?・・・いやいや本末転倒だ。何のためにここまでしたのか見失ってもだめだ・・・・・・

・・・くそ・・・・くそ・・・・・くそがっ!・・・・・・

せっかくNPCが変わろうとしてたのに・・・・・・せっかくNPCが永遠のものになろうとしてたのに・・・・これから先・・・・怯えながら歩んで行かなきゃならねーのか・・・・

・・・・みんな頑張ってた・・・・・・・いい顔してた・・・・・・・・

自分の未来を進んでるって、たしかに実感できた・・・・・・・・・

それなのに・・・・それなのに・・・・・・

ああ・・・・・クルタン・・・・せっかくすげー交渉術だったのに・・・・・

俺一人じゃ、絶対に出来っこない・・・・考えようともしなかった策略だったのに・・・

・・・・やっぱヤベーなクルタンは・・・・・・・

こうやって失敗に終わっても・・・・・策略だけはこんなにも誇れるもん

ホント・・・むなしくなってくる・・・・一番堪えるかもわからんね

・・・・策略だけ・・・・そう・・・・・・俺は、ヤミヒロは、リーダーは、NPCのリーダーさんはよー・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・なにも出来なかった・・・・・・・・・・・・・・・・





ジワジワと萌芽するその感覚はやはり最初は微小なわけでして。

心のほんの隙間か伸びた芽なんてものは、自分の全てを空ろにしなきゃ分かるもんじゃなかろうに。

誰だよこいつ・・・そんなことより摘み取ってみようかしら。

無意識無自覚で掘り起こせば、____そこにはこう書いてある。






  
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●●●●●●●●●●●●●●クルタンこそが真の天才だ●●●●●●●●●●●●●●●●●
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ハッ!と我に返ったヤミヒロには周囲の足元を確認する

自分を含めて6本 反応もないを察するにどうやら意識が飛んでいたはほんの数秒たらずらしい

深層心理とでもいうのだろうか。なんでこんなことで目を曇らせたのだろう

もう後がない????だからどうしたって

俺の愚かな絶望感覚なんてこの際どうでもいい パックンという相手についてはもっとどうでもいい

この交渉の幹事は誰だ?  あの名将/天才クルタンだぞ

こんなところで終わるはずがない なにかまだ策があるに違いない

ヤミヒロはその刹那、クルタンが交渉に乗り込んでくるのでは?___と考えたが愚直だったとすぐ修正した

なぜなら

・・・・・・・・・クルタンの策は俺自身 ヤミヒロ自身だと言ってくれた・・・!!!  危うく忘れかけてたぜ・・・・・ふぅっ↑・・!


「あるぜパックン共 いいたいことってやつは」

「あらあら 往生際の悪いこと・・・・・いいでしょう 言ってくださいまし」




ドヤ顔で言葉のナイフを穿った






「この交渉・・・・明らかに平等じゃねーよな? 俺はボッチで交渉してんのに、そっちは二人だ これは”貸し”と考え__つまり・・・あれだ・・・貸された分は交渉に応じるということで天秤を図ろうな」






「・・・」





「・・・」







沈黙を破ったのはカラピンからだった

「・・・・プ・・・・・ブハハハハッ

な、なにいっちゃってるしょーこの方ブブブブタかよぉ!・・・・し、しかプファ も・・ドヤりながら、わ、わ、腹がいたくてててまともにしゃしゃしゃsyべれ・・・・ブハハハハッ」


「あらあらダメですよぴぃちゃっちゃっちゃっプハッ   もう、やめてくりゃさいませんか ふ・・プハハハハハ  冗談もほどほどにな、なさいませんと」

ハァーハァーと息を整える両者 俺の主張はよほど笑い焦げるほど馬鹿アホクソバカだったらしい





・・・・これでいいんだよな・・・クルタン・・・俺は信じてる・・・・・・



ヤミヒロを策にするって・・ようは馬鹿なことをしろってことだ




もちろん俺は馬鹿だとは思ってない きちんと筋が通ってると自負してる




でもどうせ・・・ダメなんだろうけどな・・・・・・・・・・・・・






             ・・・・いやあ、どう勝てるか楽しみだ・・・!!!!!







「静粛にしろよ 反論を要求する」

「は? はは反論??  ぷ派ははあハッハ母は母は母母あああああああああああああああああああああああああああああああああ

こほん  いいでしょう

先輩の主張は筋が通っていませんわ

事前に交渉の連絡を行いもせずにそのような言い分通じるはずないでしょう

交渉人の数なんて関係ありませんの  心得ましたか?」

「ああ わかった」

なるほどな・・・すっかり忘れてたよ  そういやアポ入れずに交渉してたんだっけ 


                              なんか奇襲っぽくてフェアじゃねーな・・・



斯くして相手ではなく自分に”貸し”を見つけてしまったヤミヒロなのであった



・・・・



・・・



・・







まぁそれでも問題ないか


「いちよう確かめとくが、パックンは自分の意見を【あ、間違えました】___とかいう人間じゃないよな?」

「なんですか藪から棒に」

「こんな簡単な質問だ いいから答えてくれよ

 言葉のあや とかいう言い訳を使うような人間か聞いているんだ」

「しませんわよ  この交渉は録音もしているのでしょう? なおさらですわ」

「・・・・そうか・・・・・じゃあ言わせてもらう」

スーハーと、今日何回目の深呼吸だろうか・・・・・・今吸った空気が一番おいしい気がする

つまりこう、、、清清しく宣言してやった










              「俺、ヤミヒロは途中退場する!!!!!」!!!!!!!!









なぜなら今さっきパックンは”人数は関係ない”と言ったから____言うまでもないだろう。己の発した大失言に気づかないパックンではない

それでもヤツが黙り込んでしまったのは、この交渉場が常識ではなく、論理を根底において進めてきたからである

交渉場はまさに歪 2対0の攻防戦 こうなってしまえばパックン一味のやることは一つしかない

ヤミヒロが退場するから我々も、と主張しようにも話す相手がいない いくら数は関係ないと述べたパックンでも、相手に対し一言も言わずに退散するような非礼は、例の防衛欠場によって自分で許すことはできない。相手がいないからという言い訳も先の発言(数は関係ないから)に矛盾して不可能。

ならばこのまま永遠に交渉を続ける保留にするか____それもパックンにはできない



      ・・・・八方塞がりだぜ・・・パックン一味さんよお!・・・・・・



単に物理的な話である。退場ができないのなら休憩も一時退出もできやしない____つまりはあれだ・・・永遠にこのグラウンドで立っていなければならない トイレだってもちろん無理だ


やはりクルタンは天才策士である。代弁者を使うことによる会話の疑心暗鬼とヤミヒロに最後まで教えなかった最終秘策が見事すぎるほど”入った”

敵をだますにはまず味方から___今回は別に騙されたわけではなかったが、たしかに思う。俺がもしもクルタンに”パックンの失言を引き出すように工夫しろ”なんて言われても難しかっただろう。てか絶対無理だ

それを無の演技(あえてかっこよく)で敵に勝ったと確信させて隙を突く

仲間への信頼、敵の考察力、場の流れ それら全てを統一的に支配したのかというほどのパーフェクト トラップであった

さて、部外者の末路は退場しかないと、ヤミヒロは自ら踵を返しパックン一味から徐々に離れつつある。

「待ってください先輩。そんなにワタクシ達と張り合いたいなどと考えていますの?」

「・・・」

「そもそも交渉に成功したらなにをやるおつもりでしたの?」

「・・・」

歩幅を縮めることなく完全無視。”あの言葉”を聞くまではヤミヒロは部外者であり続けると心に決めていた

「・・・後悔するとまではいいません 人生なにが起こるからわからない  ・・・でももっと利口な方法がありましてよ?」

「・・・」

「あのあのパッ嬢???少しだけ暗殺しとく?」


「アナタは少しだけお黙りですわ・・・っ!」



                                 「・・・・・・・(・・・チビったァ・・・)」



下半身に妙な湿り気を残したそんな中、ヤミヒロにとって・・いや、NPCにとっての待ちに待った好機は訪れた 

「・・・・お手数ですがヤミヒロ先輩・・・・・・”今、交渉した内容に準ずるものであればなんにでも応じる所存である”とNPCに伝言してはくださいませんか?」

「・・・今というのはでどっからどこまでだよ」

「録音音声の始まりから、この伝言を許諾してくれるまでですわ」

「・・・わかった ”伝えておくよ”」

案の定、離脱も保留もできないパックンに残された最後の選択”交渉内容を締結させることによる交渉の強制終幕”を完遂するしかないのであった

「・・・さて、交渉も終わりましたし、ヤミヒロ先輩。具体的に”NPCが受けた屈辱を、"同等に"お前等も受ける義務がある”とはどういったことをされれば?」


「すさまじい記憶力だな 俺らの主張を一字一句完璧に暗唱かよ・・・まあいい

パックン一味にはこれから一時間後....いや30分後だな 校舎に侵入しクルタンの机の中にあるペンをとってきてもらう 以上だ」

「・・・・30分後とはまた、いきなりすぎますわね・・・なぜです?」

「お前らの挑戦状だって日時を指定してきたじゃねーか それと同じだよ」

「わかりましたわ では30分後・・・華麗にお使えして差し上げましょう」

そういうとパックンは不適な笑み浮かべながら、カラピンはなんだか悔しそうに、背中を見せると影を薄く夜の静けさに溶けていった







・・・





・・














今宵の舞台は整った。





綺麗な月夜の晩だから、満月を期待してみたけれど生憎、否。





けれども三日月だって悪くない。なぜなら笑えてきたからさ。





月の外面を包囲するかのように光る半輪が、なんだか今の俺らみたいで。





だったらこう思うのが必然だろ?








             We need to make it a full moon.  




 


舞台は暗闇の教室へ 物語は驀進へ。  はたしてNPCはパックン一味からペンを死守することができるのか!?


                         ___亡霊のダイブスピナー第三章3/3(迎撃編) 2013.02.15.(土)公開  

 
                                

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (読者マロ)
2013-02-09 22:52:24
おもしれ~www

ポエムもかっこいいww
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Unknown (読者バド)
2013-02-11 05:55:14
言葉の攻防戦特有の難しさが文章で伝わってくる、はっきりわかんだね


目を離せない展開良いぞ~コレ
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Unknown (筆者ヒロ)
2013-02-11 08:28:54
ドクマロさん

ありがと~w

ポエム作るの楽しすぎワロタwww

クシャバドさん

稚拙な文章になろうとも交渉戦はなにがなんでも書いてやろうと思ってたのでそういってもらえると嬉しいかぎりです。

夜の学校(意味深)は個人的に凄く燃えます。

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