ウサギ、耳、伸びた、私、

このブログはたしかにイタい・・だがどうだろうか。痛みを訴えるのは大事なことだと私は思う。戦争より餓死の方が酷虐なのだから

亡霊のダイブスピナー 【第三章 1/3】(多数決編)

2013-02-02 00:00:01 | NPC@13物語
生成り色のカーテンを広げれば、辺りまだ夜の静けさを残したままだった

普段は目覚まし時計なんて使わずに、太陽の光だけで自然と目を覚ますのが彼のスタイルなので、カーテンなんぞインテリア程度のただのお飾り

いっそのこと取り外してもいいくらいなのだが、"この時期"があるから面倒くさい

「さっみ・・・さっさと飯食べて学校いこう」

バシャッと開けたカーテンを閉めなおすと着替えるために服を脱ぐ

プライバシーのためじゃない 朝日が嫌いなわけでもない

結局のところヤミヒロがもつカーテンへの価値観は、窓ガラスからの冷気を遮断する"保温的なもの"だけであった

朝は手軽なパン食がテンプレ シリアル系も好きなのだが、せっかくの朝食で暖をとれないのは損だと試しにホットミルクをかけて食べたところ、なんか違う気がしたのでそれは春夏限定メニューに置いている

いただきます、とマーガリンをたっぷりと塗りたくったバターナイフで焼きたてのトーストにシュッシュッ、と心地いい音を響かせていく

それを口に放り投げ、最後はオレンジジュースを天へと仰げば、急いで学校へと走り出した

___

「おはようございます・・・っと」

律儀にそういって校門をくぐれば、三階建ての建造物がお出迎え

周りにはマンションやアパートに囲まれ、すぐ近くには小さな川が通っている、極々一般的ななんの変哲もない区立中学校である

床暖房を推奨したい廊下を爪先立ちで移動して、自分の下駄箱に靴をぶち込んだヤミヒロはふと、静かだな、、、と愚痴をこぼした

運動部の朝練は例によって当然ないし、一階の一本廊下は職員室からなにか近寄りがたいオーラが感じ取れる程度

二段飛ばしで階段を駆け上り、三階途中の窓から校庭を見下ろそうとも、強い風に落ち葉が舞い上がり小規模な木葉雨を降らすという、閑散さに拍車を掛ける風景しかなかった

先に言っておくが、登校日を間違えた、なんてベタなミスをしたわけでは断じてない

週休完全二日制のゆとりどっぷりの我らにとって、そんなことはよほどのことがなければ起こりえず、まあ、単に”ヤミヒロの登校時間が圧倒的に早い”というだけであった

時刻は丁度7時を廻ったところ

最上階まで上がり火照った五指でその遣り戸をスライドさせれば、ヤミヒロもとい俺の教室である

と、教室に入るその前に、、、

なにやらもう先にきた連中による話し声が廊下からでも余裕で漏れて聞こえてきたので少しばかし静止してみる

まだ朝早、身体の体温だって平熱以下。 なのでしっかりとこの教室の中にいるであろう“奴ら”のテンションを見定めておく、いわば準備体操的な行動が必要不可欠なのだ。


・・・吉宗先生にこっ酷く怒られてメンタルがボロ雑巾だしな俺・・・・


「なぁなぁ、オラなぁ、外国のペン回しPV観てて思ったんだよ」

「どうしたんすかテルさん 唐突に」

「いやな、ダイナミックだろ?」

「たしかにね 空中に投げ飛ばすエアスピ系の技が日本より、秀でてるのもあるでしょう」

「ん? そうなのか」

「ジャペン1stPV(日本代表動画)を機に日本ペン回し協会が設立され、世界により積極的なアプローチを仕掛ける以前は、エアスピ系、換言すると空中技(エアリアル)は邪道と軽蔑されてました.........シュッシュッ」

「そうそう、当時は技構成とか表現力が確立されてなかったからね 子どものお手玉程度にしか見えなかったのよ」

「ん~  つまり.....日本は追いかける立場にあると・・・そういうことか?」

「おお!? テルさんが人の話を纏め上げた!」

「しかも大体あってる、成長したわね テル」

「シュッシュ 雨は降るものじゃない 降らすものだ・・・シュッシュ」

三人分の手のひらが重なり合いまるでキャベツのように、、、そして感動を分かち合う三人

「ンダ・・・なんか盛り上がってるけどよ、オラは”ソコ”じゃないと思うんだ」

「・・・外国特有の派手さは別にあると?」

「ンダ。 ズバリ 胸筋にあると思うんだ ム ネ キ ン !」

自分の左胸を軽快に叩くテルに対し、もちろんハテナマークの一同

「わっっっかんねーかな、胸筋の良さがよ~」

「わかるわからない以前に、ペン回しとなんの関係があるのよ」

「だからよ~、動画に映るのは手とペンだけじゃねーだろ? 胸筋だって映ることはあるんだよ 特に対面アングルの多い海外動画だとな」

「それで?」

「これはオラの感覚でしかないかもだけどよ、ペン回し動画の背景に立体感のあるクッキョーな胸筋が映り込むことで”大胆さ”を生むことができるんだと、そう思うんだ」

続けて

「だからよ~、・・・そーだな・・・・、この中で一番胸がありそうなのは・・・・・・バドシ!オラに胸筋の鍛え方を教えてくれ!」

この時、廊下側で聞き耳を立てていたヤミヒロはブチッ、となにか切れる音が聞こえた


       ___たぶんドンマロだな___

「そうっすね~、でも胸の筋力の鍛え方って結構ナゾっすよ。ただ腕立てしててもダメっぽいし、専用の器具とか買うのもちょっと・・・・あ、そうっす!テルさんも剣道やりませんか? 楽しいですよ」

「ンダ~、剣道か・・・さすがにもうすぐ三年だし、胸筋鍛えるためだけに入部させてくれっかな・・・・顧問も怖そうだしよお・・・・」

「シュッシュ・・・なら私が胸筋の鍛え方を教えて進ぜよう」

なにを企んでいるのか分別顔のクルタンは、いきなりとんでもないことをしでかした


ズバリ、自らの両手でテルの胸部を鷲掴みにしたのだ


なんだ!?という表情でンダ!?とだけ発するテル

「”鳥はむ”という料理を知ってますか テルくん」

「知らん・・ウッ」

「ちょっとテル 次、変な声出したらぶつからね」

「そーゆーの リフジンっていうのオラ知ってるぞ」

「ジュルリ」

「鳥胸肉を使ったハムっぽい料理・・・・調理方法は普通のハムとまったくもって異なり、ハムなのに燻製しなかったりと面白いのですが・・・・これがまた、結構美味なのですよ」

「ウウッ・・・ウウウッッッ・・・・旨そうだな!」

「シュッシュ・・・なぜおいしいのか・・・それは鳥だからです!  毎日青空を羽ばたき、その大きな翼による上下運動で胸筋は引き締まり、いい味を出しているのです!」

「ウ、ウウウウウッ・・・・ヴヴヴッッッッ!!!」

「つまり・・・・・シュシュシュyスシュシュシュ!!!! こ、こ、このよう、、、に・・・ッ!!!!   て、て、テルくんのおっぱいを上下さささせれば・・・!!!」

「ブッッッフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッtゥtゥ!!!」

「ウリウリウリウリウリウリウリッッッッ!!!!!!!!!」

「チョッッッx!!!アバラガ・・・!!!コリコリッテ!!! アバラガ!!!! コリコリッテ!!!!!!」

「ブホホホホホッ!!!!!!!!!!!!!」

「オ゛ッオオオ゛゛゛ッオ___ス、スゲーヨ___オッラのッ・・・・オッ・・・ムっ・・・・・コレ、クォレワッワットァ・・・・マッマッまさしく・・・」


テルはアヘ顔でこうイった


  「胸筋カーニバルなンダ~~~~~~~!」


「なにやってんだよおまえら」

もう耐えられないとヤミヒロは扉を開けた

こんなホモホモしい状況を廊下から垣間見る男子中学生の気持ちが分かるだろうか

分かってたまらねえ







___











給食時のように、四つの机を互いにくっつけあい椅子を五つ、これさえそろえばどこでも部活動ができるのがペン回しのいいところでもある

もちろん正式に”ペン回し部”なんてものは学校側も生徒会側も許すはずもなく、愛好会の部類に入るのかもしれないが、皆で堂々とペンを回せる環境があるのなら、それ以外は彼らにとってどうでもいいに等しいかった

「んだ? どうしたクルタン トイレか?」

最初に異変に気づいたのは意外にもテルだった

ペンから目を離しクルタンの表情を見てみれば、やはりどこか重い感じする

「いいえ・・・そういうわけでは・・・」

「なんっすかクルタン 水臭いっすよ!」

「そうよ  言いたいことがあるならちゃんといいなさい」

NPC一同の視線がクルタンに集中する中、しかし、ええ・・・・とだけいい残しシャドウ系の技練習をし始めた彼

なにか言うのを放棄したわけではなく、どう言おうか頭の中で整理しているようにもみえる

なら、、、、背中を押してやればいい

リーダーは、クルタンに告げた

「えり○か模倣花火事件が関係している・・・・そうだな?」

「シュッシュッ・・・・よくお分かりで・・・・」

「分かるもなにも、莫迦さが売りのNPCでそんなシリアスな顔されたら、考えることは一つでしょ」

絶対に忘れはしないつい三日前の出来事。バルコニーからぶっぱなした花火が不運にもパックン一味のいる部屋に飛んでいった通称”おばけはなび”

パックンはクルタンの実の妹であり一つ屋根の下で暮らしている以上、ヤミヒロはまたクルタンが標的にされたのではないかと心配していたのだ

きっと何かされたんだろ?と目で問いかけるリーダー

それを察したかさらに眉間が引き締まるとようやくその重い唇が開いた

「いいえ パックン一味からのアプローチはなんら知覚していないです しかしながら、私たちは今 重大な岐路に立たされているのかもしれません」

続けて

「率直に言って・・・・NPCメンバー全員で多数決を取りたい」

多数決...ということはやはりなにかあったんじゃないのか?、とクルタンを除いた全員が理解に苦しむ最中


           ああ、なんということだろう


まったく...このクルタンという男は....

”彼女ら”をよく知っている俺達からしてみたら”予想をはるかに超える思案”をぶつけてきたのだ...

「シュッシュ・・・・・・議題はただ一つ・・・

”私たちの方から”パックン一味を排撃するか、しないか・・・・それだけです」

空気が変わる最中、立て付けの悪い窓が音を鳴らすのは、なにか恐ろしい事象の前触れだろうか

「詳しくお願い」

「動機ですか?それとも方法ですか?」

「方法、そのあと動機ね」

みんなもそうよね?と視線を送るドンマロ


ああ、聞くしかない


もしかしたらNPCにとって、本当の意味での戦いが始まるかもしれないと、ヤミヒロはそう予感しながら...。


「シュッシュ、わかりました  少々長くなりますが極力要点だけを纏めるよう努めるので、ご静聴お願いします」

そういう彼はまず、胸ポケットから一冊の薄手帳を取り出した

開かれたのは日付のページ 三色ボールペンで巧みに彩った暗号らしきものはひとまず置いといて、彼の人差し指に触れた部分にだけ集中する

「テスト終わりの一週間後 例年通りこの学校の創立記念日に”新穀感謝祭”が行われます」

「20時まで校庭を自由に行き来でき、出店や太鼓や踊り、最後はキャンドルファイヤーからのプチキャンプファイヤーで締めるこの”新穀感謝祭” ___ここで妹どもへ一矢報いたい___そう考えています」

「さらに詳しく説明しますとまず、我々が妹どもを”学校の中”に誘い込みます。そして”学校の中”に隠れている我々が一丸となって矢を放ちます  舞台は夜の教室___そういうわけです____シュッシュッ
・・・なお、お手洗いと称して簡単に学校内へ進入できるのは、去年の祭りで確認済みです」

「なぜ”新穀感謝祭”なのか     なぜ学校内なのか
それについては動機の方で説明します」

「ここで重大な問題点。妹どもが実際に誘いに乗ってくるのか 職員に見つかればもちろん即アウト、ハイリスクでしかない夜の学校内にわざわざ入り込んでくれるような愚直を犯してくれるのか」

「それについても大事なところは動機の方で説明しますが、”新穀感謝祭当日”に妹どもと話し合い、誘導する方法を取りたいと思います ここで必要になってくる交渉人ですが、ヤミヒロ君 キミにお願いする予定です」

「と、ここまでが方法についての簡単な説明になります  続けても?」

「・・・」

なんかもう、トンドモな方法すぎて言葉が詰まるよ・・・と心の中で呟くヤミヒロ

一方、どうして俺なのかと考えるよりはどうこの風変わりな策を整合させていくのかと考えてしまったのは、その策の方法が術中に嵌ったとも思えないほど異彩を放っていたからに違いない

クルタンの目下にはうっすらと隈ができている  同情とかでは決してなくNPCのために続きを聞こう 

「シュッシュ・・・・続いて動機ですが....私は思うのです   戦争をする理由に過激も保守もない もはや究極的に防御であると」

「これは大げさな例ですが核戦争。攻撃的戦争になりうる兵器同士での戦いは起こらない

原子プロテクトで核の傘が壊れない以上、最後まで戦争は防御だと その証明をしています」

あまりにも突飛すぎる冒頭に困惑するメンバー

しかしドンマロだけは詭弁ね、とだけ返した

「人類が初めて”奪う”という考え方を持った時から、戦争が始まっていたのかもしれません

奪う人間が悪いのなら、ただ奪われただけの人間はもっと悪い

人間の中にある略奪という卑劣な思考から逃げたか、向き合ったか 

その違いは酷く大差です」

「もっと詭弁ね」

「マロ君はこの詭弁こそ正論なのだと思いませんか?」

「ええ、正論だと思うわ  でもねクルタン 正論なんて子ども向けの絵本と一緒よ

ある人々、一定の時期、時代に興じられる道具でしかない

子どもは未来を託されるけど、子どものままではなにも救えやしないのよ」

「シュッシュ・・・いいですね、さすがマロ君です 話の的を得ている.......そうです だからこそ戦いたい___正しさではなく、”ここにある空間”をただただ守りたいと願った 奇跡でしたね  私の思惟がではありません


丁度そんなこと考えているとき近くから聞こえてきたんですよ  


まるで全身の毛先の一本一本が震える感覚を得るような...


                                    【微かな泣き声を】


あれは同じく三日前  例の事件直後早急に貴方達を自宅に帰らせ、パックン一味が突撃してくるかもしれないと一人で構えていた時でした」


「ンダ  だれの声だったんだ?」


「まちがいなく パックンとカラピンの声です」


「バカな  頭にアサルトライフルをつきつけられても嘲笑しそうな連中だぞ 信じられない」

「はい そうですね   でもたしかに聞こえたんです  私も初めてでしたよ 妹の泣き声なんて聞いたのわ」

「で、なんで泣いていたの?」

「シュッシュ・・・・我々のミスで妹の部屋に入ってしまったアレ___そう、”おばけ花火”に恐怖したと考えます」

「根拠はなんっすか?」

「花火がパックン部屋に入った際の喚き声です  それは先に帰ったマロ君以外は聞いたと思いますが___おかしくありませんでしたか?」

「ひゃっほう?」

「なんで部屋に花火入ってきて楽しくなんだよ バカかよ」

「ンダ~・・・・なんつってたんだっけか・・・オラ思い出せねーぞ」

「『    デター!!!    』ですよテル君  バカではありませんがおかしな話です

シュッシュッ・・・・普通 キャー!!! とか うわぁー!!! もしくは絶句、無言でしょう?」

「・・・なるほどね。あのおばけ花火が、人魂にでも見えない限りそんなリアクションはとらない   相当のホラー好きか、よほどオバケに耐性がないのか」

「もし前者なら 喚き声から泣き声へ移行しがたいっすね」

「よってさっきも言ったとおり、部屋に入ってきた”おばけ花火”に恐怖したと考えます」

ここで話を整理してみよう  

クルタンは自らが率先してパックンへ攻撃を仕掛けようとしている

舞台は夜の教室

パックン一味は怖いのが苦手

・・・・なるほどな、ようやく話が見えてきた

「おばけ花火を使ったパックン一味排撃計画  そんなところか」

「シュッシュッ  エクセレント!  さて、時刻もそろそろ 一般的な登校時間に近づいてきました  多数決を取りましょう」

「よっしゃ」

考えてみれば、NPC内で多数決方式を使った正当会議は初めてだと思う

最大の宿敵を挑発する危険な行為をするか・・・それともしないか

初めてだからという軽い考え方は誰一人自分からできる状況ではなかった

「シュッシュ・・・では、提案者である私から投票させていただきます

と言っても何か紙に書くわけではなく口答ですが...

賛成に一票です  

私は提案者でありますが、それゆえこの作戦にはかなりの自信があります

この策ならば、”パックン一味への考えうる最大抑止力となりえ、そして、恒久的に停戦できる”と

そして、多数決方式はとったもののNPCのコンセンサスを得られるよう策の最後まで責任を持つことを宣言しましょう」

出馬でもするのかという勢いで賛成に投じたクルタン

けれども是が非でも自分の策を講じたいというわけではなく、きちんとNPCを考えて発言している メンバーあってのNPC NPCあっての策が柱になっている

まったく、どっかの政治家どもも見習って欲しいものだと柄にもない考えが浮かんだヤミヒロなのであった

次はテル

「ンダ  オラは正しいとか間違ってるとか、守っているのか攻めてるのか

そんな難しいことよくわかんねーしよ やってみなきゃわかんねぇーと思うんだ

だからオラは賛成だ クルタンの作戦はスンゲーんだろ?  

ならオラはそれを信じてみるし、実際にやってみる

・・・・そんじゃダメか?」

テルもテルできちんと自分流の意見を出した

ダメなんてことあるもんか

真直ぐな瞳で仲間を信じきれる  その強さにヤミヒロは同級生でありながらどうしようもなく尊敬の念を抱いてしまった

残るNPCメンバーはあと三人  次に賛成票が投じられれば決定する状況である

「クールっすね  素晴らしい作戦を発案したクルタンさんもそれを信じたテルさんも

本当にクールっす。

その上で言いますが、自分は反対に一票を」

「シュッシュッ・・・コンセンサスの観点から理由を聞かせてもらいたい」

「理由はコレです」

そういいながらバドシは自分ペンを机へと転がした

改造され鍔がないキャップは転がり続け、前方にあったクルタンの愛ペンにぶつかり、そして止まった

「たしかに策の方法も動機も良かったっすよ 

けれど問題はそこじゃない 彼女らの人間性です

パックン達は弱点など皆無の人間だと思っていました

才色兼備 眉目秀麗 音吐朗々 天衣無縫

でもそれは違った パックン達には”恐怖”という漬け込める隙があった

キレたら怖いっすよ皆さん  普段穏便な人間はね  ストッパーがキツイわけではないんすよ

むしろその逆  ストッパー緩いから どこか見つからない場所に隠すんです

切れることに慣れてもいない  だったら嫌な想像をしてしまうんすよ 

作戦がちょっとでもミスしたら壊されるかもしれない  このペン達が粉々に砕け散るかもしれない、とね

しかしながらこのままでいることの方が危険かもしれないことはわかっているつもりです

でも自分は賛同できない

どちらも自分が愛するペンを失うことになるかもしれないのなら、自分は反対しか選べません」

なぜなら
「自ら決めて進んだ道が、もしもペンを破壊されるという道に直結するのだとしたら....理屈で正しいことしたと言い聞かせても、中学生の自分では立ち直れない これから先、どう進んでいいのかも分からなくなる   ゆえに反対です」


ほんとメンタル紙切れっすね...と、嘲笑するバドシの話は終わった




             ヤミヒロは思う。



バドシが弱い人間なわけがない むしろ目頭が熱くなった。

    こんなにもペン回しを愛してくれている人間が仲間としてNPCにいる

それはもちろん全員のことなのだけど、こうやって改めて実感させられると、リーダーとして、いやヤミヒロ自分自身として、俺の答えをしっかり導き出そうとさらに頭を回転させた

ラストは二人  ドンマロが賛成すれば決まり  反対すればリーダーに託される

どちらにせよ自分の意見を述べるつもりのヤミヒロではあったが、椅子に深く座り直し緊張が体中を駆け巡った

「私は反対側に廻らせてもらうわ ・・・ん? なによクルタン 意外そうな目をして」

「いえ、私が考えた策の方法はともかくとして、危機性を和らげようとせん方針はNPCメンバーの中で一番賛成してもらえるだろうと踏んでいたので」

「たしかにね・・・・でも勘違いしないで。 私はリスクを回避するために何でもするわけじゃない ただ降りかかる火の粉に一箇所たりとも服を汚されたくないだけよ」

「ンダ 同じじゃねーのか?」

「シュッシュッ・・・やはり”自分達から”攻撃をしかけるというのは気が引けると?」

「そんなところね」

「コンセンサスの観点から言わせてもらいますがいいですか?」

「もちろんいいわよ」

「私達は以前、妹どもにいいようにあしらわれたではありませんか 血が繋がっているからという根拠のない理由で言いますが 私にはこのままなにもされないとは到底思えない」

「だからって何かしてくると100%言い切れるのかしら
いいクルタン  過去の一件はもう終わったのよ  表面上は勝ち 内面上は負け と勝負はついたの 
この中にパックンを怨んでる人がいる? いないでしょ  
それはつまり、少なからずNPCメンバー全員がパックン一味から”利益”を得てしまった証なの
だったらあちらから仕掛けてくるのを待つのが一番平和的で堅実だと私は思うわ」

「シュッシュッ・・・・しかし私は」

「話し合いで解決するという大事な手段も忘れてるわね パックン相手にそんなの通用しないかもしれない

でもそれこそやってみなきゃわからない___一番決め付けてはいけない部分、一番尊重すべき行動___そうは思わないクルタン?」

「__________。」

「いいのよクルタン  私も頑固な老婆の如く反対の一点張りってわけじゃない

”おばけ花火を使ったパックン一味排撃計画”だっけ? ・・・別に暴力を奮ってってわけじゃないんでしょ?いいじゃないそのくらいの懲らしめ  私は現実的な手段は好きよ

だけどもまあ、考え方が合わないから反対としたけれど、私もまだまだ中学生。人生観なんてまだ皆無よ。冒険してみたくもある。

ただやっぱり危険性は高いからNPC全員の声を、しっかりと聞きたいわね」

そんなわけでよろしく・・・ねっ、といつのまにか背後に来ていたドンマロの手が肩に触れた

やれやれ、こんなリーダーぽい立場は何年ぶりだ?

いやいや俺リーダーぽいじゃななくて正真正銘リーダーだし、ていうかNPCが結成されてからまだ半年程度しか経ってないし

脳内でなにノリツッコミしてんだ的な目で俺を見つめる一同

「みんなNPCのこと、ちゃんと考えてくれてたんだな」

「当たり前っすよ」

「意見は見事に真っ二つだけど、そんなこと置いておく

ありのまま、なんら濁りのない俺自身の意見を言わせてもらう」

皆は軽く頷く。昇降口からはもう生徒の声がちらほら聞こえてきた

「みんなも知っての通りだが俺は、・・・シマウマみたいな人間だ!」

今、鼻で笑ったやつ誰だ。まあいいか続ける。

「災いからはすぐ逃げる 危険地帯には踏み込まない なるべく行動策はとらず流れるプールに浸りたい

だから普通は大反対 ありえないだろこんな肉食系な作戦 考える余地もなく身体が勝手に反対票を箱に入れてる
その辺NPCメンバーならわかってるだろ?」

解散!と席を立ったドンマロは、しかし座りなおすよう指示するヤミヒロ

「でも違うんだよ  そう、ドンマロの言葉で確信したんだ」

「なんのこと?」

「ついさっきお前『パックンに怨みを持つ人間は誰もいない』っていったよな?

アレは違うよ

別に怨みというほどじゃないが、少なくとも俺は怒ってる」

「めずらしーな ヤミヒロが怒るの」

「ああ、そうだな」

自分でも驚いてる

なんでシマウマの俺がキレかかっているのだろう

理由は明白、クルタンのペンが盗まれたあの事件___パックン一味に喧嘩を売られたからだ

一個人として喧嘩を売られたならどうでもいい ここだけの話、逃げ切れず殴られたのなら平然と殴られ続けるだろう  なんの感情も抱かない  ただ運が悪かったなぁ~程度にしか思わないし怨みもしない

けれでも今回はまるで違う 奴等は”NPCそのもの”へ宣戦布告してきたのだ

正式名はNPC@13 

俺の人生の中で唯一自分から引っ張っていこうと決めたグループ 自分の人生観が揺らいだペン回しで活動するグループ  誇りに思うグループ

なぜだかはわからない 

ただ好きなのかという自問を忘れるほどペンを回し、仲間と共有し、楽しみたい

当たり前のようにそれらの欲求を満たそうと行動し、けれども奇跡的な心情の変化

この変化が生んだNPCが”試された”のだからまったくふざけた話だよ

・・・

そう、気づいたんだよ俺は

「NPCを弄んだパックン一味だけは今でも許せない 叩ける策があるのなら俺は大賛成だ」

「ふふ・・・言うわねまったく、私の話聞いてた?」

「ああ聞いてたよ 要するにハイリータンハイリスクってことだろ  

わかってる NPCにとって逆効果になるかもしれないってことも 話し合いこそ正義だということも」

でもさ
「それと同じくらい”成果”も上げられる可能性がある  なあクルタン 話し合いをしてから排撃計画を実行するのではダメなのか?」

「その場合 交渉戦でかなりの不利を強いられることになります あとこれをいうと弁解がましいかもしれませんが交渉戦はいわば話し合いととっていいと思います  お互いが納得しなければ校舎内での戦いは始まりませんから」

「そうか・・・・じゃあさ」

そして言葉を刺した

「本当に私情で悪いんだけど俺、今回だけはパックン一味に対するこの”怒り”って感情を尊重してやろうと思うんだよ」

一呼吸置きながら、改めて一人ひとりに目線をあわせたヤミヒロは、軽く頭を下げながら言う














 _______________「NPCは戦うべきだ」














パックン一味に対する”怒り” 、それはNPCがここにある確固たる証拠であり、過去のヤミヒロからは絶対に生み出されることはなかったであろう感情

自分から動くのも悪くないと、NPCを作ろうと決めたあの時から思ってきたのだから、当然どころか必然の賛成票である

もちろんエゴイスチックな考えだと自覚している だからこうやって頭を下げながら決断したわけで・・・

しかし・・・なんか・・・・こう・・・・あれだ・・・・

笑い声が聞こえてきた

「ぶ、ブブホッ なにお願いしてるんですかヤミヒロ君」

「そ、そうよ フハハハハ そんなに懇願しなくても多数決でしょ? まったく、朝っぱらから笑わせないでよね」

「い、いやでも、NPCとして大事な最終票だったというか」

「なにいってんだヤミヒロはよー 最初だろうが最後だろが同じ一票には変わりないだろ あほなんだ~」

「・・・リーダーとしてだな」

「リーダーもクソもないっすよ  多数決で決めたことはNPCの方針 みんなで決めたことです」

「・・・」

とまぁ、こんな感じで見事に言いくるめ?られてしまったヤミヒロ

本人曰く、『いかなる時でもリーダーが最終責任を問うべきある』という流儀があるらしいが、・・・まぁ100万年早い願望であった










さて

             さて

                           さて 






                                              さて






舞台はテストが終わり一週間後の夜のグラウンド




校庭から見上げる時計の針が7を示しているのに、辺りは真っ暗なぎこちなさ




さてさて今宵は盛り上がろうぞ




単身で自分自身を鼓舞しながら開けっ放しの校門を突っ切り校庭へ




昇降口を横切り、水飲み場のブロックを盾にしゃがみ込めば、携帯用無線通話機であるイヤホンを耳へと装着する




さてさて今宵は盛り上がろうぞ






                    交渉人ヤミヒロ_______出撃である










              NPC@13VSパックン一味戦争___勃発へ。  亡霊のダイブスピナー第三章2/3(交渉編) 2013.2.9.(土)公開

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3 コメント

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Unknown (バド氏@慎重派)
2013-02-02 04:45:01
集合絵良いぞ~コレ(ご満悦)


まさかの展開に目が離せません(^O^)
返信する
Unknown (マロ君@論理派)
2013-02-02 20:35:06
そこらへんのラノベより面白いわね
楽しませてくれるじゃない!
返信する
Unknown (ヤミヒロ@シマウマ派)
2013-02-03 16:40:30
バド氏さん

ありがとうございます 皆でペンを回す集合絵はどこかで絶対入れようと思っていたので描けてうれしいです 皆と回した記憶を頼りに楽しく描かせていただきました。

次回はパックン一味との対話バトルということでぜひよろしくです


マロ君さん

なんだよドンマロ お前の今、読んでる本ってそんなに面白いのか? ちょっと俺にもみせてっておい!!!・・・・・あ、ありがとな///

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