ウサギ、耳、伸びた、私、

このブログはたしかにイタい・・だがどうだろうか。痛みを訴えるのは大事なことだと私は思う。戦争より餓死の方が酷虐なのだから

亡霊のダイブスピナー 【第四章 1/3】

2013-02-23 00:00:01 | NPC@13物語
ヤミヒロは本来、闇雲に突っ走れない人間である

RPGやアクションゲームの難易度設定が三段階なら迷わず一番難しいhardを選択するが、そこにvery hardがあれば話は違う

ひとまず二番目に簡単なnormalをセレクトしクリアできたらhard、、、余裕だったらvery hardといった具合に沈着してしまうのだ

負けたくないから? いや違う、気は弱いくせにある程度のリアル派というか

一文で表すなら”好奇心旺盛な臆病者”といったところだろう


                      そう、、、臆病者なら、、、、あんなことにはならなかった、、、、


徐々に自覚し始めた”臆病者”というスキルを切り捨てたのが全ての元凶

キャラじゃなかったと笑い飛ばせればそれでもいいかなって、、、、             甘すぎだろナメてんのか

上辺だけの主張性をぶら下げて、言葉だけの劣等感に逃げ出して、結果・・・この様・・

一瞬の気の迷い

ペン回しなんて幻想でしかなかったと、、、、そう自分で自分を叱り付けるのが、今のヤミヒロができる最大限の罪滅ぼしであった

「・・・」

栄養不足で震える両手でなんとか鍵穴を捻ると、無言で靴を脱ぎ捨て玄関を跨ぐ

いち早く自分の部屋のベットで横になりたかったが、このままでは階段さえもろくに上れないので冷蔵庫から適当に食料を調達してから部屋に戻る

ようやく長い一週間が終わった

幾分か心がスッキリしたように思えるのだから、きっともう悩まなくていい

正真正銘、これで終わり   素晴らしいとは口が裂けても言えないがベストは尽くした

今にして思えばきっとこうする方法しかありはしなかったんだ

どこにいくにせよ全てを実行するのは俺なのだから当たり前のこと

だったら早く打ち明けられただけ幸運な方だと、疲労しきった身体で椅子へと座ると勉強机に食料を並べた

彩りのない背景とささやかに響くコウロギの音色

テレビをつけることもコンポから音楽を流すこともラジオを聴くこともない静寂の晩餐

一人っ子のヤミヒロにとってみても、ここまで静かな食事はあまり記憶になかったが、孤独感が味わえるのならそれでよかった

これから先のことを考えればなかなかに利口である

予習復習はしっかりしないと学校での孤独感にやられてしまうのだから耐性は付けとくに越した事は無い


・・・・・・・・・・・・・・



                               あまり思考するな 元に戻るだけだ 現実に



ブランクを埋める心理行動みたいなもの

心臓がおかしくならないように身体に水を当ててから冷たいプールへと入るようなもの

なんてことはない 当然の行動 普通の行動 よくある行動

そう言い聞かせて作ったネバ率300%の納豆と食パンを平らげると、冷たい麦茶を胃袋へと飲み干し布団に潜った

明日したから3連休

結露した窓ガラスに映る、いささか血の気が戻りつつある表情の自分を眺めながらこう独り言を呟いた

「明日でも・・・髪・・・・切りに行くか・・・」

・・・・

・・・

・・




ヤミヒロの朝は遅かった

ここ一週間ばかしロクに眠れなかったからか、昨日まともに食べた夕飯が効いたか、ぐっすりおよそ20時間ほどの爆睡を経て清清しい昼の太陽を浴びる。外は快晴で、丁度アスファルトとも温まりだした11月にしては心地いい陽気である

これは予定通り散髪しに行かなければと、チャッチャとシャワーを済ませてから軽く飯を食べた後、外に出た

散髪屋までは徒歩で15分程度の通いなれた商店街の中にある

道中、イチョウの枯れ葉を掃除するご老人や、暖かいカンコーヒーを大事そうに両手で包み込む中年男性を見ているともうすぐ年が明けることを今年初めて実感させられた

師走までもうすぐそこというのにこの鈍感さ、いくら冬が嫌いだからといって周りの景色まで目を背けるのはあまりよろしくない

「・・・冬が嫌いは、、、関係ないか」

自分でもよくわからない独り言を呟くと、もう目的の場所に着いていた

散髪屋 [MacBass]

散髪屋にしては美容院っぽい名前ではあるが、ヤミヒロ行きつけのお店である

まあ行きつけといっても単に安くて親にここしか行くなと強要されてるだけだけど

その中学生の筋力からすれば少しばかし重い肩扉を押しのけると、20代後半のいつもの男性店員から声がかかった

「へい らっしゃいなー」

「どうも」

「おう久しぶりじゃねーかヤッヒロ! もう3ヶ月くらいこねーからテッキリ他の店に乗り換えられたかと思ったぜ・・・・ってでも、、その髪の量みて安心したけどな はっはっはっ」

「それはどーも めんどくさくてなかなか行けなかったんですよ さすがに三ヶ月も切らないと貞子みたいになってきたんで来ましたが」

「おいおいダメだぞ少年 多感な少年期こそ身だしなみはしっかりしないとな、大人になってから頑張るのは至難の技だぞ」

「またその話ですか いいんですよ髪型なんてその気になればいつでも変えれるでしょ」

「ダメだな~ それがダメなんだよ そんな心意気だといつまで経っても一人身のままだぞ?」

「余計なお世話ですよ!いいから早く切ってください!!!」

ヤミヒロがそう言うと店員はリズミカルに笑いながら準備を始める

髪を切るスペースが二箇所しかないこじんまりとした店内にいるのはこの二人だけである









男性店員の名前はTETUYA これまたなんで散髪屋でその名前なのかといいたいが左胸に張ってある名札にそっくりそのままアルファベット表記(直筆)で書かれてあるのだからそういう体裁でやりたいのだろう








8年前からほとんどこの店で髪を切っている常連さんのヤミヒロにしてみれば、少々狭い店内も、本棚にゴルゴがないことも、妙にフレンドリーすぎるとこも、実にどうでもいいことである

準備ができたのか、手馴れた手つきでヤミヒロにヘアーエプロンを重ねていくTETUYA

「よっし  じゃあ切るけど要望とかある?」

「いつもと同じ感じで」

「OKOK!」

「お願いします」

一変して仕事人の目になった店員は、伸びすぎたヤミヒロの前髪をピンで留めた後 またたくまにカットを始めた

縦横無尽に、しかし繊細に動く銀色のハサミ、そして舞い落ちる自分の髪の毛に儚さを覚える

「どうしたヤッヒロ いつもは即おねんねなのに・・・もしかしてお前も目覚めたか!?」

「なにいってるんですか 違いますよ。 睡眠はもう十分なんでボーっとしてただけですよ」

「ハッハッハッー そうかいそうかい  ならそこにある雑誌でも見て待ってればいい」

「生憎 男性誌もスポーツ誌もカタログにも興味が沸かないんですよ」

そんなもんかねぇ、とお客用のカタログをペラペラ捲り始めたTETUYA

「あんたが興味津々か」

「いや~すまんすまん ついな  うん、そのツッコミ今日のMVPだ!」

そういってカタログの一ページを開いて置くと仕事に戻る

「へー 綺麗な写真ですね 観光ブックとかに載ってても不思議じゃないですよ」

「だろ? カタログにも背景に拘ってるのって結構あるんだぜ 商品を引き立たせるための工夫だから自然といい写真になんだよ」

それはメタルブラック色をした端麗なボディのバイクと真っ赤なバラ畑が辺り一面に広がる壮大な写真であった

「ここは山形県にある有名な公園でな  一年前くらいにいったがやっぱいい場所だった」

「へぇ 行ったことあるんですか」

「もちろんバイクでな  ああ、また店閉めて旅に出ちまうか!」

「まさか昔、休業してたのってそのためだったんすか?」

この店の入口に臨時休業の張り紙が貼られたのは今から一年前くらい

そのあまりの唐突さに、とうとう潰れたかと思っていたが、1ヶ月ほどで何事も無かったかのように営業は再開されていた

「ああそうさ ここは俺しかいねーし 問題なかろう?」

「俺しかって・・・・え・・・・っとなるとテッさん店長!?」

「きまってらー!」

常連八年目 驚愕の事実が発覚した瞬間である

「3年前に昔いた店長の事情でこの店任されちまってな それからずっと店長よ」

「それはまたご苦労なこって・・・てかテッさん それならもうこの店好きにできるんじゃないですか?」

「ん?」

「バイクの話です  テッさん俺と知り合った当初からこの店はいつか辞めてバイク一筋で生きてく!って言ってたじゃないですか」

「ああその話か  それは、無しになった」

「無しって・・・・夢じゃなかったんですか?・・・」

鏡越しにただ何も言わずに苦笑していたのが見えたヤミヒロは、もう少しだけ詰め寄ってみたくなった

「ああ、なるほど 前の店長になにか制約みたいなの結んじゃったとか? それじゃなきゃ単にバイクに興味が薄れたからですかね」

「ハッハッハッ~ どっちも違うな 今日のバットMVPだ!!!」

「じゃあなんなんですか」

「それは秘密だ 中学生なら自分で考えて自分で行動するのがいいに決まってる 失“敗”は失“格”にはならないって日本じゃ特権なんだぜ?  でもヒントはやろうぞ少年  俺の指裁きどう思う?」

ヤミヒロの記憶には髪を切る人=テッさんしか思い浮かばない。テレビの特集なんかでちらほら見た気もするが、普通の人なら忘却されていくだけの映像である

だからその髪を切る指の動きはどのくらいすごいのかよくわからないのが正直な本音である

「どうって・・・速いんじゃないですか、けっこう」

「そうだ 音速だ音速! 体感の話な!!ハッハッハッ~」

その返答にもちろん嘆息しか出ないヤミヒロ

「じゃあな なんでこんな早く切ってるかわかるか?」

「気持ちいいからでしょ テッさんの顔見てたらわかります」

「おお よくわかってんじゃんかよ! お前今月のMVPにノミネートしとくからな」

激しくどうでもいいと細目を反射させるお客サイドだが案の定、なにも悟らない店員サイド

「でもな ヤッヒロみたいに俺の気持ちを理解してくれる人は少ないんだよ

もっと丁寧に切れ!とか耳が切れたらどうすんだ!とかいう糞クレームがくることくること

仕舞いには、早く終わらせたいだけだろ!とか決め付けられる始末で、、、あん時はマジこのハサミで刺してやろうかと思ったわ ハッハッハッ」

「サラッと怖いこというのやめてもらえませんかね・・・」

「まったく接客業の嫌なとこだよな  やりたいようにできないっていうのは多かれ少なかれどこも一緒かもしれないけどさ  俺にとっちゃ猛スピードでバイク走行するのも髪を早く切るのと同じなわけよ 
早く目的地まで着きたいわけじゃない 全ては気持ちいいから、爽快だから、熱くなれっからやってるわけ  自分本位かもしれないが散髪に至っては、その気持ちで納得いく髪型に仕上げられなかったときは一度もねーぜ?」

「そうですか・・・で、それと夢を諦めるのとなんの関係が?」

「諦めたわけじゃない 成るようになったって話さ  昔の俺は散髪屋よりバイクの方が楽しかったからそっちが夢だと勘違いしてた そんだけさ」

「なんですかそれ  言い訳にしかきこえ・・・・」

「そうとも取れる でもよヤッヒロ  夢っつーのは楽しくなきゃダメなんだぜ 自分の本当の理想ってんのを叶えてこそ、夢を掴んだって言えるんだ」

「自分の本当の理想・・・ですか・・・」

「そうさ 例えばヤッヒロがお金持ちになるのが夢だとしよう ありふれた夢だな

そんで将来 大金持ちになったとする  どうだ夢は叶ったか?」

「叶ったでしょ」

「違うな少年 答えは”実際に将来大金持ちになってみなきゃわからない”だ

宝くじかなんかでも良くあるだろ、スポーツマン、政治家、世界の歴史に残る英雄だってそうだ。 大金を持ち地位や名誉を手に入れたとたん自分自身を滅ぼしてしまう奴  ・・そうなって苦しみながら生涯を終えるのなら、そいつの夢は大金持ちとは違ったってことだ」

「・・・つまりなんですか 今、叶えたい夢と本当の夢の中身は必ずしも一致しないと?」


「そういうことだ____っておい・・・ヒントだけのつもりが全部話しちまったじゃねーかよ! おいヤッヒロ 今年度のバットMVP・・・・覚悟しとけよ!!!」

だからバットMVPって聞いたことないフレーズはなんなんだよ・・・とつっこんでる余裕はなかった

首筋を締め付けるカットエプロンで自分さえも見えない手を強く握れば、たしかに手汗を掻いているのが実感できる

心拍数も上昇し、下顎が微かに振動しているのも感じ取れる

なによりなんだ?・・・この胸の中をかき回される感覚は・・・・・・

そう、、、鏡に映るこの店員の発した言葉はヤミヒロの心を深く抉っていたのだ

ジワジワと、こじ開けるように左右へゆっくりゆっくり振り子のように揺らしながら・・・



・・・なんだ俺・・・・そんなに夢見がちなやつだったっけ・・・・



TETUYAが語った夢の話に、リアルをも凌駕するかの如く鮮明すぎるイメージで浮んだヤミヒロの理想郷というやつは、、、、、ヤミヒロが得るにはどうしようもなく時間が掛かりそうなほどvery hardのレアアイテムなのかもしれない


店を出て見知らぬ家のガラス窓を覗き込めば、昨日より視界の開けた自分がいた。もう前髪を分ける動作も必要ない。

「ありっしゃーした!」

「見送りとはまたご丁寧にどうも」

「俺ももはや店長だかんな 日々店のこと思って仕事してんだよ」

「楽しいですか?」

「愚問すぎるぞ少年  そんなキミには、この自作クーポン券β版を進呈しよう  つまりカット代半額券だ! お互いご贔屓にな ハッハッハッ」

「小さい白文字で記載された使用期限一ヶ月という注意事項とわざわざβ版と分かり辛く換言した非保障形式とは、なかなか腰が据わるようになったじゃないですか新店長」

そしてこの店長はたった今、お客様に向かって舌打ちをかました。小さくなかった。綺麗に響いた。

「テッさん 一つだけいいですか?」

「なんだ悩める少年」

「なんか唐突で意味わかんないところがあるかもしれないんでそこは割愛してほしいんだけど」

「いいから早く言えって」

「もし、もしもの話、例えば自分が決めた道が楽しくも辛くもなかったらテッさんはどうしますか?」

「俺はとりあえず進むな  そんでもって信じられなくなったら戻るし、どうしようもなくなっても進む  休むことはあっても止まりはしない」

「休むことは止まると同じでは?」

「ああ行動的にはな、俺の言ってる止まるってんのはここんこと___ココロのことだ。 ココロが止まってなきゃあ終わらねえ」

「戻ることも進むことも見出せず、ただなにも無いまま一生を終える可能性があってもですか?」

「なんだなんだ・・・・・・こっちか?(小指)」

「茶化さないでください」

「ハッハッ わりぃな___でもよ、ヤッヒロがいう”ただなにも無いまま一生を終える”なんてことはありはしないんだな~これが」

「なぜそう言い切れるんですか」

それは悩んでるからだぜ、と凛とした顔立ちで新店長は言った

「楽しくも辛くもなかったら人間、悩むようにできてる 不安になってくる それでこそ人だ

そんでもって悩むことっつーのは、プラスとマイナスの感情をゴチャゴチャに掻き混ぜてる状態___得られないから無になるんじゃない、元からある曖昧さを捨てるから無になる___俺なんかはそう思ってる  

もう意味わかるか?   自分の道で止まらなければな、曖昧なまま死ぬことはあっても、何も無いまま死ぬことはないってことだ 

ようはその曖昧の死と空っぽの死をどう解釈するか、それが極論的人生観ってやつかもな」

・・・ヤミヒロは少し黙考したあとさらに質問を重ねる

「・・・テッさんはその曖昧で死んでしまったらどう思います?」

カランコロンとドアに吊るされた鈴の音色が響いた。あとは自分で考えろということだろう

再び一人になったヤミヒロは、散髪で露になった額と首元に当たる夕風に身震いしつつ帰り道を歩いた

・・・・曖昧ねえ・・・・・・

家に帰ってもどうしようもなく暇なのは目に見えているので、歩幅をいつもより狭めてチマチマと歩く

さっそく新店長の言葉を自己に当てはめてみれば、あるのは曖昧さにもがく自分しかいなかった 

無とはいったいなんなのだろう  なにもやる気が起きないのだろうか

虚空に靄がかかる感じだろうか  ただただ真っ白だろうか

一度失敗しているヤミヒロにとって、不始末を帳消しする魅力より戻る道がわからなくなるかもしれないことが最大の恐怖であった

・・・あああ、吐きそう吐きそう吐きそう・・・

嘘だ。吐き気なんて微塵も無いのに、ただそう呪文のように呟けば身体のモヤモヤが消えるんじゃないかと試してみるだけ。無論、よくなるはずがない。






















自宅までの最後の曲がり角にそいつはいた。


























「・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ?(゜д゜)」




 
体長は自分と張り合えるくらい、こげ茶色の短い毛並みでシワシワの顔つき

近所の和菓子屋さんが作ってる芋大福を巨大化させたようなぽっちゃりというには厳しすぎるそのデブ体形

地域おこしができなった萌えキャラの如く残念すぎるバカでデカくてブサイクなバカ顔

しかし、明治時代に入ってから四国、土佐藩で闘犬用として作られた性格は大胆不敵、怖いもの知らず、闘争本能が強く攻撃的で女性が飼うのは難しいとされる、縄張り意識も強い危険犬種____言ってしまえば土佐犬まんまである



「・・・・・・・・だけどお前アホっぽくて全然怖くないよ?」



「・・・・ぐぐぅ~~ん」


・・・なんぞこいつ・・・

普通こういう状況は、まず可愛い声が聞こえて、周囲を探すと箱状の置物があって、見下ろすと小さな子猫がいた___という具合になると相場が決まってるんだ 



          ・・・・ダンボールぺちゃんこじゃねーか・・・・



しかもハチマキみたいに巻かれた首輪らしきものの名前欄に”どうぞ”と暗号らしき文章が書かれている

ヤミヒロは立ち止まり書き記された暗号の解読に挑むと30分ほど黙考して経ってようやく





「お前捨てられたのか!?」



「・・・・・バウン!」



生で土佐犬の鳴き声を聞いたのはこれが初めてだったが、事態は深刻だ。咆哮と同時にこちらへと飛び掛ってきたのだ

土佐犬の平均体重はおよそ100キロ  一般中学生が受け止められる重量を当に超している


「ちょっ! しぬー・・・!!!」

いやだいやだ、十代で死ぬのもこのバカな顔したバカな土佐犬にバカみたい圧死されてバカに死ぬのも絶対にやだ!!!バカいやだ!!!!!

その想いが通じたか、予想したよりも激しい衝撃とはならず、ヤミヒロは地面に軽く尻餅をつく程度に収まる


「加減はできるようだな・・・・ってうわっやめろ!!!ペロペロすんな!!!!」


一難去ってまた一難  ヤミヒロの頭をアイスクリームのように舐めまわす土佐犬なのであった



・・・



・・






あれから如何ほどの時間が経過しただろう


暇だ暇だと嘆いていたがまさかこういう形で暇つぶしできるとは、いや正確には犬の玩具にされただけだけど___まあいい


散々舐めまわしてご満悦なのか、例の土佐犬は満足そうに潰れたダンボールに座り込むと こちらを見つめるものの暢気に欠伸なんかかくほどヤミヒロへの興味は削がれていた


飼い主に捨てられた犬がヤミヒロを捨てる

飼い主もヤミヒロも同じ人間であることには変わりないわけで、因果応報という言葉の意味が少しわかった気がする彼なのであった


「じゃあな」とその一言だけを最後にダンボールから離れていく


犬派か猫派かの以前に、ヤミヒロは動物にはまったくといっていいほど興味がなかった


というかどう接していいかわからなかったからだ


小学校の遠足で動物園に行った時から苦手意識はあった


周りの皆がかわいいかわいいいいながらモルモットを手にとったり撫でたり愛でたりする中、俺は一人触れ合いコーナーの片隅でそのみんなが可愛いといってる奴から出たフンを枝で突いて遊んでた。ホント、そんくらい動物などどうでもいい存在なんだ


だが家の目の前にたどり着き只ならぬ気配に振り向けば、さも当然のようにヤツはいた


      ・・・・ついてきちゃったよ・・・


そう、見紛う事なきさっきの土佐犬である


媚びるような声も上げなければ瞳を潤ますことも尻尾も振りはしない、ただただ何も言わずについてきて、自分が立ち止まると犬も止まる

ヤミヒロは急にしゃがみ込むと前方の虚空を仰いだ




「、、、、無反応かよ・・・・これだから動物はわからないんだ」



「・・・・」



「お前は独りなのか」



「・・・・」



「友達はいるのか?」



「・・・・」




「なんだよなんか言えよ」



「グググゥ~ン」



「gggじゃない」



「・・・」



「俺は一人じゃない、家に帰れば家族が待ってる幸せものだ」



「・・・・」



「俺はお前とは違う」



「・・・・グルルルル・・・」



「grrrrじゃない。そんなの知らない。俺には飯だってちゃんとあるんだ」



「・・・・」



「じゃあな」



「・・・・」



「なんだ さよならもできないのか」



「・・・・」



「わかるか?俺と家族しかウチに住むことは出来ないんだ」



「・・・・」



「なにか言ったらどうだ」



「・・・・」













    「「「「「じゃあお前・・・・・



                              ・・・俺の家族になるか?」」」」」」











・・・・・・・・

・・・・・

・・・





割愛するには惜しすぎる重量100キロ(全自動自立駆動式)の密輸計画は、なんとか親に見つからず自分の部屋へと運び込み、事無きを得た

本当に奇跡だった 奇跡の無駄遣いもいいとこだった

ともあれ今は、筋肉痛確実の手足を使って、なんとかこの土佐犬を寝かしつけているところである


「・・・もう一度いう。。。クソ犬が寝ないことには、おちおち風呂にもいけないんだよわかるな?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワオン?」


「いいから寝ろよっつってんの!!!もう夜中の3時だぞ!!!!」


「・・・グゥ~ン」


いっとくが動物が好きになったわけじゃない、幼い頃から育て上げられた動物拒絶の根はそう簡単に引っこ抜けるほど柔じゃないのだ。



         ・・・なにがグゥ~ンだ、もうちょっと可愛く鳴けないのかよお前・・・・




動物嫌いな俺が言うのもあれだがこいつ__圧倒的に世渡りが下手なタイプだ

けれども当然のことだが、元飼い主の無責任さは看過できない。いかなる理由にせよ土佐犬などという国が指定した危険種を野に放つなど言語道断___そこら辺の苛立ちも含めてヤミヒロはある意味二重で苦しんでいるのかもしれない

暖房の人工風が窓ガラスを撫でると、結露で浮き出た小さな雫が滴り落ちる

・・・やっと・・・・寝た・・・・よ・・・・

ふぅ・・・と鼻だけで空気を吐くとようやく、その涎まみれ毛まみれの衣類をひん剥き風呂場へと向かった

・・・

「くぅ~~~  沁みるぜぁ~」


アゴを天井の白いタイルまでしゃくり、今日の疲れをはきだすように開口高


並々といれたお湯が全身を包み込み、表面はうねりをあげて排水溝へと流れ落ちる。ぽかぽかと広がる半透明の湯気がまたたくまに室温を上げればもう、このまま眠ってしまっても不思議ではない極楽空間ができあがっていた

ここ最近、ロクに食事もせず、風呂もシャワーだけの簡易なものになっていた反動もあり、今日の風呂はこれまた格段に気持ちいい

・・・やっぱ日本人は・・・風呂だよなぁ・・・・

汚れた皮脂を洗い流し、綺麗になった身体に滲みこむお湯の温かさはじんわりと心地よい感覚で精神さえも潤わしてくれる

えり○か事件からおよそ一ヶ月半経った今まで、本当に心が休まる時はなかった

そりゃその時は楽しかったかもしれない。でも楽しさはエネルギーを生み出すが、エネルギーだけじゃ熱はでない。ガソリンだけでは火はつかないのと一緒さ。楽しいければ疲れてしまうが人間というやつだ。精神力が芳しくないヤミヒロにとってみたらなおさらである。

・・・・・・・・・ホント・・・・・バカな俺・・・・・・・・・・・・・・・・

余裕の出来た心の隙間には、いつだって悩みや悔やみ、苦しみっといった感情が先行チケットを持って入り込む

・・・・

・・・

・・




                真相を話す



    パックンを怖がらせ、今後のNPC妨害を抑止するため行われた通称、真夜中戦

               その終盤で事件は起きた

          包み隠さず、最初にはっきりといっておく



   ヤミヒロは、ドンマロの利き手である右手に危害を加え、右手首亀裂骨折全治2ヶ月の重症を負わせた




      そう、あの二階からプールにダイブしたのが原因である



  あの時俺がしっかりと、自分の意思で跳んでいればドンマロの手首にヒビが入ることはなかった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






見るからに痛々しい包帯を巻きながら痕が残るかもしれない腫れがあるってさ・・・。







手首を回すと、悶絶するほどの痛みが体中を駆け巡るってさ・・・。







動かすと痛いってさ・・・。







何もしなくても、ズキズキ痛みがあるってさ・・・。







時々指を動かすと手首に響くように痛いってさ・・・。







痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさいってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさいってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ痛いってさ





こんなもんじゃない 全然足りない。 俺が反芻させた自責の単語はここ一週間で一万回は唱えた___だからどうした__そんなこと____、ドンマロの受けた苦しみはこんなもんじゃない

もっと残酷で、酷虐で、苛酷なものだったはずだ。口に出さずとも分かりきってる。だって彼女は・・・・






         だって彼女はスピナーだから。。。。


ペン回しをこよなく愛するペンスピナーだから。。。


       こんな無慈悲な事件あってはならない。。。。






       たかだかお遊びじゃないか、、、、二ヶ月で治るならいいじゃん、、、、




そんな周りの連中の励ましは、侮辱にさえ聞こえた。。。NPCメンバーなら決してそんなことは言わない

中学生なんだぞ 来年度は3年生なんだ

貴重なんだよこの中学二年という時期は、自分のやりたいことがあるのなら皆と全力で楽しむ時期なんだよ

来年は受験だ、高校生になったら会う機会も減るし、色恋沙汰もあるだろう。大学生にもなったら人間関係に忙しくなる 社会に出たらなおさらだ

今なんだよ・・・・本当に今が大事なんだよ・・・・。

もし自分の時間を食パンみたいに千切って渡せるなら、俺は今すぐにでもドンマロの自宅に押掛けて一斤まるまる渡す。

・・・でもいかんせん、そんなことはできるはずもないのだから悩んでいた

そして、、、時きたりと、、、、、、、、

ドンマロが右腕を曲げながら登校するようになって5日後、第二の事件が起きた

それが、俺の___ペン回し用のペンの紛失だ



いいキッカケだった。 



      

だから辞めた。




NPCを。


リーダーを。


・・






つづき←クリックできます。


亡霊のダイブスピナー 【第三章 3/3】(迎撃編)

2013-02-16 02:07:42 | NPC@13物語
「ちょっと疑問があるのですがいいですかヤミヒロ先輩」

「・・・・もう交渉は終わったはずだ」

「ええ ですから駄目元でいいます」

「・・・・・・・」

「先輩は私の問い”貴方にとってペン回しとはなんですか”に対し答える意思があるように見受けられました それも堂々と、明確な自信があるような雰囲気も感じられた・・・いったいどうお答えするつもりでしたの?」

「ああ、そんなことか ___ホント・・・そんなことだよ」

「はい?」

「そんなことわかるわけねぇーだろ ってのが回答だ」

「それは分かりづらい問いだったからですか?」

「ちがうよ、ただ単に無理って話だ。 だってそうだろ? ”NPC”にとってのペン回しなんてリーダーといえど一人じゃ決められない それがどんなに曖昧な答えだとしてもそもそも答える段階まで至っていない____そういうわけだ」

・・・

・・





キャンドルファイヤーのロウソク達はもうすぐで息を絶えようとしている

このままいけば火は木材へと燃え移り、軽いボヤ騒ぎになりかねない状況であるが担当の教職員達は謎の液体をぶちまけた

その謎の液体の正体とは水...ではなく揮発油だ

またたくまに燃え広がった炎の渦は、見るものの眼球から微量の水分を奪っていった

祭りもいよいよクライマックス

キャンドルファイヤーからキャンプファイヤーへと変貌したその塔をぐるりと囲む人々は、喝采と共に美しく踊り始めた


そして一方では、、、


       「作戦の概要を説明する・・・・!!!」


シュッシュッと、いつものように着火輪を回しながら意気込むのはNPCの火薬庫、クルタン

「ノリノリねぇ・・・・まぁ、気持ちはわからないこともないけど」

「ンダ~! オラも燃えてきたぞ~~!!!やべぇ~ぞおおお!!!!!」

「コラコラあまり大きな声を出しちゃダメっすよテル君  誰かに見つかったらどうするんですか」

「ああ そういえばクルタン  この教室・・・てか学校には警備員的なのはいないのか?」

「ええ いません  厳密にはいなく”させた”ですが、この際余計なことなので省きます」

・・・人を消す方法が余計なことだと言い切きるとは・・・相変わらず計り知れないなこの男・・・

「作戦は3グループに分かれ行動します 1階で待機する【チーム;メガネ】 二階で待機する【チーム;VAN】 三階で待機する【チーム;エピメテウス】 この三手で待機し、基本的にはその場は動かずパックン達を迎撃します」

「迎撃っすか・・・で、誰がどこにはいるんすか?」

「チームメガネはテル君とバドシ君にやってもらいます。 これが学校全体の地図になりますが第一正門入口から4部屋先の教育相談室(カウンセリングルーム)に隠れて作戦を実行してもらいます  丁度第二正門入口から中間地点ですね

チームメガネの仕事はいたってシンプル  私の合図と共にこの”おばけ花火を着火” 上窓から廊下へ分投げてください」

「・・・・・ンダ 了解しゴフォッ!?」

「なんで決め顔なのよテル そこはつっこむところでしょ  将来的母校が火事になるって」

「火災の件は大丈夫です オバケ花火の火は微量ですし、万が一のために一階フロアには耐熱塗料をこっそり塗ってあります」

・・・トンデモ思考を持ちながら論理的に穴を埋める、それがクルタンである・・・


「チームVANですが、ここは私一人でやります   二階にある放送室に待機し”音声”を使って妹共を怖がらせるのが主な仕事です」

「・・・おっかないわね・・・・ほどほどにしときなさいよ___さて、ということは残った私とヤミヒロが3階ね」

「シュッシュッ・・・チームエピメテウスにはヤミヒロ、ドンマロペアでいきましょう 

私の計画では妹どもは3階にたどり着く前までにギブアップする予定ですが念のため___

二人には私の教室に待機してもらいます」

「ん? クルタンの教室ってパックン達がペンを取りに行く目的地だよな クルタンのペンを盗むのが条件なんだから最悪俺ら見つかるんじゃ・・・」

「見つかってもいいのです なにも鬼ごっこをしているわけではありませんし、我々が隠れるのはパックン一味に恐怖心を植えつける為だけですから

そして仕事内容ですがコレです」

突如、ドスンとボストンバックを床に落としたクルタン その音からしてなにかしらのブツが入っているのは間違いなさそうだ

「なによこれ」

「チームエピメテウスはいわば保険です  できれば不動が理想・・・しかしながら交渉戦もそれなりのイレギュラーが発生したのを考慮すると必然のグループかもしれません・・・

バックの中身は教えませんし合図があるまで決して開かないでください

ただ一ついえるのは、この中身を使って”祝福を受ける”・・それだけです」

「んだよそれ 隠す理由はなんだ?」

「ヤミヒロ君  今さっき、交渉戦のことを思い出してください。”敵を騙すにはまず味方から”と__そう習ったはずです

そしてこれはその応用、”敵に悟られたくなければまず味方から”」

「たしかに並外れたパックンの考察力には、隠すことの方が有効そうね」

「シュッシュッ・・別にNPCメンバーを信頼していないわけではありません 

ただ自分の考えうる最高の期待値をそのまま言葉にしているのです」

「・・・・わかった  クルタンの策だしな、 せっかくここまできたんだ ちょっとの不安くらい大目に見ておくよ」

____

そして5人は、クルタンから支給されたイヤホン型トランシーバーを肩耳に押し込むとお互いの声を確かめつつ所定の位置へと足を伸ばした







一階のテル、バドシ






















二階のクルタン























三階のヤミヒロ、ドンマロ




















おのおのの心は電波に乗せて学校全体を包囲した。 外では舞踊、中では戦場。



二人の不気味なオーラをかもしだす童女達が向かう先は・・・・・・・・・
 

                                戦場である。


「大丈夫ですかパッ嬢・・・アタイは正直ダメかもしれません」

「フフッ そんな弱腰でどうしますの? 恐怖心なんてものは、脳と人格を切り離して考えて入ればなんのもんだふぇ!?・・・・フフッ・・・ありませんのよ」

「今のパッ嬢 腰がプルプルですけど・・・めっさ脆そうなんですけど・・・」

予定通り、第一正面玄関近くのトイレから侵入に成功したパックン一味であるが、忍び込んですぐにこのありさまである

目的地は最上階三階2-C教室であることを考えれば、かなり厳しい状況・・・だがしかし、この少女パックンはそんな簡単に引き下がるヤツではない。持って生まれた判断力と考察力を武器にして、なんとか弱点の補助に打って出た

「2-C教室に行くにはいくつかルートがあるわね」

「第一昇降口からの階段を使うAルートか、第二昇降口からの階段を使うBルートか、っしょ?」



「そうね あとは給食運搬用の小型エレベーターを使う手もあるのだけれど、危険だから考えないことにしましょう」

で、どっちのルートを使うかですわね・・・

当然のことだけど学校のどこかにNPCメンバーが潜んでいるは自明の理

だとすればこのルート選択がワクタシ達の命運を握ってる

先に第一階段から上り三階廊下を突っ切るか、ひとまず一階廊下を走り、あとは第二階段で上るだけにするか・・・・二つに一つ・・・・・フフッ・・・・

不敵な笑みとまではいかない恐怖心で幾分か濁った笑みで言った

「最初に一階廊下を歩き、第二昇降口からの階段を使いましょう」

「・・・・・・」

「あらぴぃちゃん、なにかご不満?」

「いや、そういうわけではないんですけど・・・どうしてかなって」

カラピンの疑問もそれもそのはず

仮にも学校に不法侵入した身、それなのにわざわざ外部の人間に見られる可能性の高い一階廊下を突っ切るなど不合理この上ないのである

「その不合理でいくのよぴぃちゃん  たぶんNPCはワタクシ達が合理的に来ると踏んで3階廊下に様々なトラップを仕掛けているはず___簡単に言えば【裏】をよむってことよ」

・・・もちろん、一階廊下にも待ち伏せしている人間はいるとは思いますが・・・それでも3階よりはマシでしょう・・・・

「なるほど・・一階よりも三階廊下の方が罠が沢山あると・・・さすがパッ嬢!」

そして彼女らは第一階段をスルーし、一階廊下を直進し始めた___ルートBである。

・・・

・・



「ねぇお嬢・・・いい加減肩掴むのやめて、普通に痛い」

「あらあら、ワタクシはぴぃちゃんのことを想って緊張をほぐしてあげているというのひゃいッふひぇッ!」

「たしかにこの、小刻みに揺れる機械的な肩叩きがなんとも斬新だけど・・・どちらかというとアタイが松葉杖的な役割で緊張をほぐさせてあげているような・・・」

「あら、ぴぃちゃん」

「なにさ」

「天才と秀才の違いふェッ!!ひゃんっ!ギャアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・

                  フフッ、、、なんだかわかって?」

「なにがフフッですかパッ嬢・・・この臆病者」

「・・・!!!」

「なんなんですか・・・アタイも怖いさよ?・・・そうしょ~・・・うーん・・・秀才はテストを行うと100点満点 天才はテストをしなくても100点満点 みたいな感じですかね」

「ちょっと具体性に欠けますわ」

「じゃあ答えは?」

「常に、いかなる時も物事を大局的にみれる人間は秀才・・・うちのお兄様がその部類に入ってよ」

「常にねえ・・・それでも十分に天才だとアタイなんかは思うけど...パッ嬢が思う天才像は違うのかい?」

「ええ 天才というのはね、物事を考察できなくたっていいの。だってそれは秀才の仕事だから___天才はそれよりもっと特異的な仕事を担ってる」

それは
「秀才では決して見れない考察限界の向こう側......まるで魔法を使ったかのような圧倒的”未来視”...まぁ、、、、、ワタクシの事ですわね」

なっ、と思わず言葉に詰まったカラピン。自分のことを堂々と天才と言い放った友人になんて接すればいいのだろうと....否、いつも通りに接すればいいだけであった

「ねぇねぇパッ嬢?足が急に止まったけど、その未来視とやらに何か映りこんででもいるのかい?」

「あと5歩先でなにか起きそうね フフッ その近くにある校長室かカンセリングルームらへんに敵が潜んでるんでしょう」

「じゃあ引き返しますか」

「いいえ このみゃみゃ進みましょう  さすがのワタクシもなにか起こるとわかっている今、この瞬間なら、動揺などいたしませんです」

ほんとですかあ~?、とジト目になるカラピン。そして、パックンの未来視スキルよりもパックンの精神を疑っている自分の思考回路にこそ自問自答しなきゃならないこの状況に、わけが分からなくなってとにかく歩くことにした。

超人はたしかにいる。よくテレビ番組とかで1万人に一人の逸材だ、とか100万人に一人の神の子だとかいうテロップをみるけどさ・・・なあになんてことはない

いや、すごいよ アタイのちっぽけな脳みそと無慈悲に比べられでもしてみ?、三日は寝込むね確実に____でもなんてことないんだよ。世界と比べたらさ。

今や地球の人口70億人だよ?とりあえず150年経てばその70億人も皆死ぬ。そしてその頃には違う70億人以上の人間で世界は満たされるだろう___10万だ100万だって話じゃないわけなのさ。1億人に一人10億人に一人の”人間”がいても全然おかしくはないの____そういう億レベルの”人間”をアタイは超人って呼ぶことにしてる

アタイの隣にいる彼女が超えた人間なのかはわからないから明確に定義することはできないんだけど.....。

だってパッ嬢はいったのさ、”向こう側の世界を見れるのは向こう側の住人だけだ”って

それが嘘かホントかはどうでもよくて、とにかくアタイの心が心地よく震えたことだけはよく覚えてる

そうして月日は流れて今は、なんかお嬢の従者みたいなのになってる。はたからみたら舎弟だね・・・ホントに・・・。

けどきついことなんて何一つもなかった___楽しいことだけが山のように降ってきた

パッ嬢の未来視現象もその一つ。

勘違いしないでほしいが未来が使えるのではない____現象するのだ。 

完全にコントロールはできないし、不発もバンバンある不出来なスキルではあるけれど、そこから生み出される数々の奇策に今でも新鮮さを感じている・・そう、とにかく楽しすぎるってわけさ

・・・さてさて、、、、何が起こるんだろうね・・・・

おのずと口端が歪むカラピンは二歩三歩、、、予言の地点へと歩を伸ばしていく

校長室を通りすぎて、カウンセリングルームの前へ・・・敵を目の前にして立ち止まるなどという小ざかしいマネはせずに、あえて気にせず歩幅は緩めない・・・もちろん内心はいつ来てもいいように心構えガッチガチ状態ではあるが・・・・

・・・
・・


おかしい・・・・

予言地点から遠ざかり、長い職員室前を通過してもなお、、、なんら反応はない

遠距離からなにかしらの道具で奇襲を狙っているのか・・・?

曖昧すぎるその愚考も、二、三階へと続く第二階段へとうとう足を掛けてしまった時には、杞憂に終わっていた

階段を上るには廊下を直角に曲らなければならず、ゆえに今、現時点で、階段の一段目にいるということは、もう、廊下からは死角で攻撃はないに等しいと言わざるを得なかったからである

「・・・・ドンマイさ」

「フフッ・・・今日の眼は結構自信があったのだけれど___ごめんなさいねピィちゃん」

「やめてくださいよ なんで謝るんです?」

「あんなに楽しそうにしてたら誰だって謝りますわ」

「うそっしょー・・・そんなにアタイ、顔にでてましたか?」 



                         「ああ、丸分かりだったよ」   




「この学校内に設置した計108台の超マイクロ赤外線全方位カメラによって呼吸で揺らず心拍音まで感じ取るほどくっきりと、そして明瞭に・・・・・



・・・・


・・・


・・






シュッシュッシュッ」









キャンドルファイヤーからキャンプファイヤーへと変貌した巨大な炎をバックに佇む1.5階段目

唯一無二に厳かなその人影は、背景の紅に誇張されるかのようにとてつもない異彩を放っている

「やあ妹共、奇遇だ  そういえば、母親から妹と一緒に食べてこいと飯代を貰ってしまってね  私はいらないのでこの紙切れを使って二人で焼きそばでも食べてきてください・・・シュッシュッ」

閉じたチョキで挟まれた紙切れは空気抵抗を限りなくゼロに抑える軌道で一味へ。そしてパックンの後ろ髪に突き刺さった

「・・・相変わらず茶番が好きですねお兄様、、、この紙でどうやってご飯を食べろと?」

背中でも掻くように引っこ抜いたその紙は、まぎれもなくこの学校の設計図。紙幣なんかでは断じてない

「そこは妹の頭脳に任せます 最近こういう言葉を耳にしました”他人の不幸で飯がうまい”ということわざテイストな俗用語です____その地図を使ってNPCメンバーを不幸に陥れればおいしいご飯が食べられます・・きっとね・・シュッシュッ・・・さあ...



              やってみなさい我が愚妹」












「・・・・あらあら、設計図を見る限り、この赤いマーカーで書かれたルートで三階まで行け____といいたいのでしょうが・・・・いちよう聞いときますがなぜです?」



「シュッシュッ・・・なぜとはなぜなのでしょうか・・・・」

「なぜ、ワタクシ達がこんな一方的制約を受けなくてはならないのか聞いていますのよ」

「交渉時に締結した事柄に準じた結果・・・といえばいいですか? シュッシュッ」

「ええ わかりました。 ではこのルート通り、第一階段から三階に上がりますわ」

・・・

「・・・・はぁ・・・あのあのパッ嬢・・・話が全然ついてけない・・・・・とりあえずなんで縛りプレイなんかやらなきゃいけんのですか」

「PV事件の時 NPCメンバーが現地についてからワタクシ達が四つの問題を提示したのは覚えていますわね」

「ええ・・まぁ・・・」

「その時の”現地についてから”と”四つの試練提示”を”突然”と”制約”に換言、解釈して”同じことをしただけだ”と主張してきたのですわ」

「・・・・・こじつけっしょぅ・・・・・」

「あらあらピィちゃん そう思うならどう反論する気ですの? こちらも拡大解釈を言い分する手立てがあるにはある、でもそうなると間違いなくこちらが不利」

「なぜっしょぅ・・・・」

「あっちから同等性を求められるからですわ 

”おまえらの言い分はわかった、じゃあどう解釈すれば同等なのか示してくれ”と言われてしまう  これはきついですわよ   ちょっとでも隙をみせようものなら交渉時の同等性の合意は嘘だったのかと言われてしまいますから、最悪ですわね・・・そんなことになったら。」

「お兄様 最後に一つ気になった点があったのでいいですか?」

火花は散らさない。ただそういう接し方こそが自然な家柄なのだと納得してしまうほどに完璧な、無感情極まりない冷めた目で見つめあう兄と妹。いまにも流麗なBGMが流れてきそうなほど絵になっている。

口を奏でる。

「なんだい妹」

「そこにじっと待ち伏せていたのですか?」

その問いに対し緩慢に首を縦へと動かしたクルタン

「ということは、ワタクシ達が一階廊下を歩き、この第二階段から三階に上がると予測していたわけですわね」

まるで亀のように再びの上下運動

「・・・解せませんわね。  いつからお兄様は賽で自分の行動を決めるような人間になってしまったのですか・・・ワタクシは悲しくなってしまいましたわ」

「シュッシュッ・・・別に賽ではない」

「なら言わさせていただきますわ

先に階段から上れば人目につくリスクが軽減できる

●一階とは違い 三階からでは敵は外で待機できない分危険度が低くなる

●三階の方が隠れられる部屋が少ない

●三階廊下の様子を見てから二階廊下へのルート変更も可能

●二階にあるワタクシ達の教室は第一階段からの方が近い

●第一階段方面には、音楽室、物理実験室、生物実験室、調理室、技能員室、などがありもしピッキング等で部屋に侵入できた場合、武器を所持できる可能性がある

ここまでの利点が第一階段利用にあるのにどうして第二階段から来ると予想できて・・???

これを賽を振らずしてなんだというのかしら・・・まさかとは思いますが裏の裏を読んだとでも言う気ですの?」

「シュッシュッ・・・それこそまさかですね 私が裏の裏を読む時は、決まって原稿用紙30枚分程度の理論が必要になってくる」

「じゃあ 披露してくださいよ  最後まで聞いて差し上げますわよ」

「なにを言ってますか・・・口の悪い妹には、一行程度の理由で十分」

「・・・・・・言いなさい」

「お前は”何かあった時 一階にいれば窓から、逃げられる” という深層心理・・・自分でも気がつかない数少ない防衛本能に屈しただけです」

刹那、両者の瞳の色は熱を持ち始めた。実に人間らしい、生命力溢れる眼力である。

「あらあ・・・・・・・・・ら・・・・・・


                                  ・・・・・・・・っッチ・・・・・・・・」

「様々なこと考えて、それを全て切り捨てて勝手に裏を読んだつもりらしいがお前の兄貴さんから言わせればそんなのただのいい訳ですね」

重ねて言った

「負けたのですよアナタは、自分自身の不甲斐なさに今日、、、初めてね」

「・・・・・・・・」

まずい・・・・このままではまずい・・・、、、そう強く警戒の念を抱くカラピンだが、こんなパックンの表情はいままで一度としてみたことがない。


      どうしたらいいんしょぅー・・・!!!

ただただジッと、もうすぐ生まれる赤ちゃんのことが心配で堪らない父親のような振る舞いしかできないカラピンである...が、しかし

「・・・・・・・・・フフッ・・・・・・・・フフフフフフッ


          あらあらお兄様 本当に茶番が好きですわねぇ・・・・・



                           同等を示すこの場で負け?なんのことだかサッパリですわ」



「シュッシュッ・・・・なら迅速に、私のペンを奪ってきてください」

「ええ 言われなくとも_______その身に覚悟を抱きなさい。」

そしてパックンは踵を返し再び一階廊下へ。・・・兄弟喧嘩に振り回された不憫なカラピンもひとまず異例の事態が起きずに済んだと肩の力を抜いた・・・ところが

「やめてくださいパッ嬢  もう振り向かないでさ」

「お兄様!!!」

「シュッシュッ・・・・」

「・・・・・・・負けませんから___絶対に負けませんから・・・ッ!!!」


たしかにパックンはそう謂うと今度こそ完全に兄弟喧嘩は幕を閉じた

まぁ、本人達から言わせれば喧嘩なんていう生ぬるいものじゃ決してなく、お互いの人生観と血縁者としての立ち位置を革める戦争なのであるが・・・。

カメラは移り変わりクルタンサイドへ

まだまだ成長に乏しいその背中を俯瞰しながら見送れば、並々ならぬ速さで二階、放送室へと走った

人を不安定にさせる認識できないレベルの超高周波

妹達の足音を録音し、自動調整で違和感なく一階廊下の足音の数を増やすシステム

会話を成り立たせなくさせる妨害音波

音声でサブリミナル効果をかける洗脳の一種

それらあらゆる極悪非道な策の数々を実行できるのがこの放送室。完全なる全稼動、フルバースト。

妨害という言葉が生易しく感じられるほどのクルタンの本気は音声だけの枠に捉われず、ついには一階廊下の床を少し斜めにするだとか、廊下の階段の高さを一段だけ微妙に高くするだとか、、、それはもう、本当に血がつながった実の妹なのか疑うほどのものであった

効き目のほどは、、、、

数多の妨害機器をチャックしつつ監視カメラ越しに視認すれば、そろそろ一階廊下の中間地点まで到達しそうである

・・・あまり怖がってる雰囲気は感じ取れませんね・・・シュッシュッ・・・・

まぁ無理もない、妨害の質が質である。そのほとんど全てがパックンに悟られないための潜在意識、深層心理を揺らせるためのもの、、、目に見える反応が出るまでそれなりの時間を要するのは仕方ない

・・・シュッシュッ・・・しかしながら目に見えないまでもかなり効いているはず、ここで大きいのをぶち込めば面白いように崩れていくはずです・・・・

現にパックンの歩幅が少しずつ狭くなっているような気がすると、そう思いながらクルタンは内線ダイヤルを一番に、、、一階組(ファーストグループ)へとコンタクトを試みた

「シュッシュッ、聞こえますか?」

「ンダ~ やっと出番なんだ~!!!」

「ちょっとテル 声がデカイっす!」

交渉の一件で電波に関して、たった数時間ではあるが念入りに強化を重ねたのだが、双方の反応を見る限り音声状況に問題はなさそうだ

ならちゃっちゃっとやるしかあるまい

人は進む時より戻る時の方が警戒を怠る・・・その人間心理に則り、引き返し際の一味へオバケ花火をお見舞いしてやるのだ

妹共とファーストグループの最接近まであと数歩、自分の心拍音と面白いほど一致した歩音で歩く妹、、、バドシがオバケ花火を両手でしっかり固定し、テルは片手でチャッカマンを、もう片方の手は聞き漏れがないようイヤホンをしっかりと押さえる、あとはこの私クルタンが、無線越しに合図するだけ・・・・。

両者の陣営が一枚の壁越しにすれ違うその瞬間、、、、

ザーー ーー  ーーーー  ーー

   ーーーーーーー

          ザザーーー   ーーーー 


ー ーーーーー   ーーーーー ーーー     ャシャピーー ーーー



ーーーーーピ   ピーー    ーーーー   ー  ーー ーー    ー
ーー  ーーーー

ーーー ビビビーーーーー   ーーー
ーーー                      ーーギャ シャ ブブブ  ピピピー

ー          ーーー         ーーーー
ーーー              ー
ー  
ーー                   ーー ーーーーービ



                   ピ  イ ピ    ぴ   
      ぴ     お” 

ゃsy  さ           お”””””ま””@   d            fじ

ゃ」fj
  



そのふざけた雑音はクルタンの無声イヤホンから聞こえてくる

慌てはしない、やはり来たかと、いたって冷静に監視モニターを見上げれば、、しかしポタリと、額から汗が落ちた。



                                 ・・・・おかしい・・・・・・です・・・・ね・・・・


 
短い時間ではあったがかなりの電波妨害対策を敷いたのだ、これでダメとなればもはや電気機器に関してはもうお手上げ、今見ているこの監視モニタでさえ全画面砂嵐にされているはずである・・・だがしかしテルとバドシの姿はしっかりと映っている

しかもだ、モニタに映る彼らの雰囲気から察するにこのノイズ・・・・私にしか聞こえていない・・?!!!

『チームエピメテウス聞こえますか?』

『ええ聞こえるわよ 予定よりちょっと早いコンタクトね なにかあった?』

『はい チームメガネとの無線が不能になりました 妹共の仕業でほぼ間違いないのですが・・・』

『あらかた言いたいことはわかったわ いちよう私達の無線も使ってみたけどダメね どうやら一階固有の妨害網みたい ・・・モニタが見えるのならなにかおかしなところは・・・・・・・ッ!』

『どうしましたか!?』

『なんだ!?・・・・ああ、俺はヤミヒロだけど ドンマロの奴血相変えて廊下に飛び出してったよ  いったいなにがどうなってるんだ?』

『・・・・チッ』

ドンマロくんはなにかを感じ取ったのは明白ですか・・・

それは緊急を要することで、モニタに映るバドシとテルに関係し・・だからこそ、その会話途中で気づき中断、ドンマロは走り出した・・・・

思考、思考、思考、

改めてモニタを凝視する彼の目は据わっている。もう見逃さない

Lighter Manは自分の履いている肩靴を脱ぎ捨てながら放送室のドアを開けると凄まじい全力で駆け抜けた



異様に長く、お餅が伸びてるんじゃないかと思うほどもどかしい三階廊下を突っ切りようやく第一階段で下へ・・・・計っていたら50m女子地区ベストも狙えたんじゃないかという素晴らしい走りのドンマロはこうとしか思わない


               ・・・・・・やばすぎよ・・・!!!!・・・・・・・・・


彼女はすべてを悟っていた パックン達が一階だけをジャミングするという異変に対しNPCでいち早く気づいたのだ  なぜなら...



私はおばけ花火の保管者がテルということを知っていたから。



パックン一味はなにがしたいのか?

この勝負を優位に進めたいのなら学校全体にジャミングを仕掛ければいいだけ。NPC全員の連携体制は破綻する。

それをしないということは”さらに優位に立てる状況”が整っていたから・・もちろんお情けという線は考えない

これは女の勘ってやつだけど、アイツら・・特にパックンはカードがあったら一回しか裏返さないタイプ 表か裏かの二極論者 決して裏の裏をよむなんて回りくどいことはしない

もし そういう状況化が有利な場面ではまったく違うベクトルの”表”か飛び道具の”裏”を引き合いに出してくる・・・そんな連中だ

全体ジャミングの欠点 それは”勝負が完全には決さない” これに尽きると思われる

いくら通信を遮断したところでNPCメンバーが消えるわけではない しっかり己の五感と道具を使い邪魔することができる

ならば部分ジャミングはその欠点を補う策のはず つまり...

部分ジャミングを行うことで”勝負が完全に決する”ということ

この瞬間にも”あること”が起こり”あること”で被害を被り”あること”でNPCは退場を余儀無くされ敗北するということ

直感的にその”なにかが起こる場所”というのはチームメガネのいる教育相談室(カウンセリングルーム)だろうとドンマロは思惟た


           ・・・・・問題は、その起こるなにかとはなに?つてことよね・・・・・


すると彼女はクルタンとの無線最中、、ドンマロは頭の中のイメージで放送室のモニタを作り出した

幾つもある大小様々な液晶が立て掛けてある一画面に彼らはいた

バドシとテルである

正直 彼らの顔はそこまで深くイメージできなかったわ だって酷く主張する物体がその手に握られてたから

それどころじゃないわよね・・・・




               私気づいちゃったわ・・・


                             その手のブツに....


                                    テルの手に握られているオバケ花火・・・・

















               ▲・・・実はロケット花火に掏り替わってるんでしょ?・・・▼








つづき←クリックできます。

亡霊のダイブスピナー 【第三章 2/3】(交渉編)

2013-02-09 00:00:01 | NPC@13物語
夜になるほど増していく。月明かりが増していく。

でもそんな些細な月光がこれほどまでに光輝を放つわけはなくて___。

水のみ場のブロックに身を委ねていたヤミヒロは、その光を出所をちらりと垣間見た

「そろそろ本格的に始まりだな」

グラウンドの中心には一つの塔がある。巨大な丸太が幾重にも重なり合っているのだ。

そしてその丸太にくっ付けるようにして数十本の火が灯り始めていた

もうすぐ最後のキャンドル______灯った

それを初めて見たのなら誰しもが心動かされるであろう新穀感謝祭名物「キャンドルファイヤー」の完成である

「もしもし聞こえますかヤミヒロ君 オーバー」

突如、耳に付けていた無線イヤホンからノイズが響きだす

「ああ 少しノイズが入ってはいるが問題ない きちんと聞き取れるぞ」

「オーバー?」

「ああ」

「オーバー??」

「お!う!ば!あ!」

・・・多数決の時の緊張感はどこにいったんだ・・・とヤミヒロは複雑なご様子。

「シュッシュ、では改めて作戦内容の方 おさらいしていきますオーバー」

「ああ」

「ん??」

「オウバァアー!!!」

そしてイヤホン越しのクルタンは淡々と説明を始めた

交渉の流れ 悟られないためのポーカーフェイス ちょっとした間合い パックンの弱点
 交渉材料

うん、間違いない___いける。  というかそう信じている 大丈夫大丈夫大丈夫...

自身の上服を手でシワクチャにしながら祈るように自分を静める

ネゴシエーターは俺ただ一人 誰かが助けにくることはないらしい

・・・一味の方は十中八九、パックンとカラピンの二人で楽しんでいるだろうから二対一....本当にいけるのかよ・・・

『シュッシュ・・・パックン一味をグラウンド後方、鉄棒付近にてロック 迅速に接近してください・・・オーバー』

「・・・ぁぁ」

『どうやらまだ緊張しているようですね・・・大丈夫ですよヤミヒロ君 貴方はただこの無線イヤホンから流れる私の言葉をそっくりそのまま繰り返せばいいだけ いわば変声器的な役割しかないのですから』

「わかってる  でも・・・」

『理解しているのなら『でも』なんて言わず信じることで頭を飽和させてください

そうすれば大概の事は信じれてしまうものですよ』

「フッ、なんだか洗脳みたいだな」

『シュッシュッ・・・理解しているのなら、と最初に言ったはずですが

・・・・私はもう、友と呼んでくれる人達を”使う”ようなマネはしたくない』

「お前がいつ俺らを使ったよ それこそ爆発させろよ」

『爆発ではなく飽和です シュッシュッ・・・ヤミヒロ君、今わざとボケましたね・・・!?・・貴重・・・じゅるりッ』

・・・おいおいキャラ変わってるし微妙にクソ気色悪いな・・・とまでは言わない

なぜ言わないかって? それは地を見れば証拠がある。

そう、自分の脚は動きを得ていたからだ  震えはない 心拍も安定している

まったく、クルタンも....


         
           たまらなくNPCメンバーだよ










水のみ場から直線距離にして約100メートル 鉄棒遊具よりちょっと奥にあるアスファルトに彼女らはいた








もう躊躇わない むしろ加速するかという勢いでパックン一味へと勇みよる

「あらあらヤミヒロ先輩 奇遇・・・というほどではありませんが、お久しぶりですわ」

おほほ、とまるで久しく会っていなかった旧友とでも話すかのような振る舞い

PV事件であれだけのことをやっておきながらその態度かよパックン...

一呼吸する さすがに緊張がリバウンドしてきそうだ

状況を確認 数は二人 パックンはすぐそこ カラピンはパックンの後ろ約10メートル 気さくに話しかけてきたパックンとは対照的にカラピンは一瞬目を合わせたのを皮切りに無言のまま一歩下がった

カラピンの目は睨みつけるようにも蔑むようにも見えない まるで試験管の中に入った眼球を見ているかのような無感情の目でこちらを知覚している

『ヤミヒロさん どうやらターゲットと接近したようですね  オールOKです
そちらの高感度マイクもきちんと制御しています その距離を保っていれば会話は完璧に聞き取れます オーバー』

もちろんヤミヒロはなにも言わない ひしひしとクルタンの命令を実行するだけだ

本当はもっとこう、”脳内で考えたことを音声化できるデバイス”的なものを作ってくれると内部会話が成立してやりやすかったのだが、さすがに現代科学を超越した技術力は使えないようなので自重した

無線イヤホンから三連続の機械音が流れだす

『ツーツーツー』

NPC@13の命運を握る、交渉開始の合図である



「いきなりだがパックン一味と話がしたい 時間をくれないか?」

努めて冷静に、お願いする立場ではあるが年上として最低限度の口調は保持する

「一味ということは、NPCさんとしてワタクシ達と交渉がしたいと、そういうことですわね」

「ああそうだ」

相変わらずの考察力 普段の俺ならこの時点で重圧に耐えられず逃げ出すかもしれない そのぐらいのただならぬオーラが彼女にはある

でも今は違う 厳密にはイヤホン越しに俺の口を動かすクルタンが交渉人だ 俺は”ほぼ”関係ない

さぁどうするパックン 乗るか___乗らないか______彼女は言った  







       「あなたにとってペン回しとは、なんですの?」






「・・・・・・・・(は?)」

その問いに対し嫌な悪寒が走ったクルタンだが、ノータイムで指示をおくる 

・・・シュッシュ・・・まさかもう私が指示を送っているのが・・・いや、いくら妹でもまだ探りの段階なはず・・・ここで考え込まなければ問題ない・・・・

「その質問に答えたら何でもいうことを聞いてくれるのか?」

「ほほほ、それは強欲ですわよ先輩  ワタクシが言っているのは交渉の交渉です」

「ペン回しとはなんぞか・・・・、、、、そんな抽象的な問い 交渉内容についてある程度知っておかないとそっちも不安だろう 判断基準はまず交渉についてのルールを決めてからだ」

間髪いれず隙せず話す

「当たり前のことだが交渉は平等にいこう 基本的に相手から貰った利益は自分の負債かつ相手への利益で天秤を整える
もちろん相互利益でも相互負債でも構わない 後者はNPCにとってあまり望みたくないが、平等になるのならそれは許諾する準備がある」

「いうまでもありませんわね」

「発言については環境的に聞き取りミスが大いに考えられるため俺が予め用意しておいたこのリニアPCMレコーダーを使う よって発言にも公平性は保たれるとしよう」

「ふふ、リニアPCMなら豪雨が降ろうとも大丈夫でしょうね いいですわよお望みならば」

じゃあ本題に入ろうか、と言い終わる前にパックンは五指を広げ静止するよう促す 

       「あなたにとってペン回しとはなんですの?」

再度の問いに無線イヤホンから舌打ちが響いた 深呼吸する吐息も聞こえる

・・・このくらいなら俺にもわかるさクルタン ルール説明を利用して最初の問いをはぐらかそうとしたんだよな

でもその作戦は失敗  どうやら予想をしていたよりもずっと苦戦しそうだ


・・・・


・・・


・・





もうかれこれ20秒間、クルタンからの指示が途絶えている

それどころかヤミヒロはこの空白であることを思い出してしまった

      
「あなたにとってペン回しとはなんですの?」というパックンからの意味不明な問い

だがしかし、意味はあったということをだ。それはつまり

 

・・・・PV事件の時にパックンが提示した問題に酷似している・・・・当時、クルタンはその問題に挑み、結果、見事に惨敗をくらっている。



間違いない クルタンにとってこの問いは、紛れもなく弱点だ

しばしの静寂、なにもできずとも無表情だけはなんとか保つヤミヒロを見かねてかニヤリと笑うパックンが口を開く

「まぁいいでしょう 私もわがままな子どもではありません この質問には交渉中に答えていただく、いわば先送りということで・・・」

妥協の言葉だった。いや妥協というよりはむしろ借りか・・・・・・・・・・・・・・・・フッ、作戦通りだよ。

____


パックンは今なにを考えてそんなことを言い出したのかは不明だが大方”クルタンの予想”は当たっていた

なぜ当たったのか。それはパックンには恐怖の他に、もう一つだけ。万人に一人いるかいないかの”利用できる癖”を知っていたからである  それは短所でもあり長所でもあるだが_____賭けには勝った。 



 この勝負(交渉) パックンの“利用できる癖”は、間違いなく短所に作用している



「じゃあ、さっそくだが話の内容を述べるとしよう

お前等 夏休みのことは、もちろん覚えてるよな? 勝手に実の兄であるクルタンからペンを盗み出したあげく、返してほしれば山奥まで来て遊ばせろと、脅迫まがいな行為をした通称PV事件だ」

「やや誇張している面がありますが、ええ、大方合っていますし覚えてもいますわよ」

「なら話が早い もうわかるよな お前等パックン一味は俺らNPC@13にするべきことがあるんだよ」

「と、いいますと?」

微動だにしないその微笑に怯むことなく、次の言葉を突き立てた

「NPCが受けた屈辱を、可能な限り“同等に”お前等も受ける義務がある」

「ふふっ」

・・・なるほどですわ、交渉の平等性ではなく大局的な同等を主張しますか・・・

・・・交渉だの公平だの、ワタクシのもっとも得意とする分野で真っ向から勝負を挑んでくるなんて、アポを取ってないにせよ愚直すぎると思ってましたが、それなりの筋道があったのですわね





・・・ふふ、愚かかと思ってましたが・・・

                            ・・・・・・・・もはや滑稽 




カラスがゴミ袋をひん剥くよりも、幼い子猫がお散歩をする方がよっぽど文学的で可愛げがあったというのに...........さて、言ってさしあげますか

「ふふ、ヤミヒロさん。 そんな義務どこにもありませんわ  なぜならワタクシ達はNPCにではなく”クルタンお兄様”に挑戦状を差し上げています  NPCは任意で行動したにすぎず よって先の言葉の撤回を要求しますわ」

「クルタンはNPCの一員だ 個人の問題だと決め付けるのは早計じゃないのか?」

「見解の相違はどこにでもあるもの そもそもこの交渉は貴方達NPCとワタクシ達とのものではありませんか  論点がズレてますわ」

「しかしだ。その挑戦状とやらも結局のところ、NPCをマインドコントロールするための手段だったんだろ? はなからクルタンなんて眼中にはなかったんじゃねーのか??」

ちげーのかよ!!!と少々感情的に喚いたのも演技。クルタンからの細かい指示である。

「ちょっとは楽しめると思ったら・・・・・・とんだ不毛ですわね   それではワタクシ達は退散しますので、もしこの交渉の終末に不満がおありでしたらご連絡を。  ちょうどいい、、、NPCメンバーとともにそのリニアPCMレコーダーで己の”お笑い具合”を存分に興じるといいですわ」

後ずさる足音をレコーダーではなくヤミヒロの懐にしまってある高感度マイクで拾う先は約300メートル先の校舎裏

クルタンの不敵な面構えは、依然として保たれたままだった 

・・・・シュッシュッ・・・なにもかも 予 想 通 り すぎますよ・・・・・我が妹。

以心伝心か、ヤミヒロもこの、はたから見たら絶対絶命な状況化でも、ある程度の手ごたえを感じていた。

遡るは一日前、昨日聞いたクルタンからの伝言を今一度思い返してみる




                    ~~一日前~~



「いいですかヤミヒロさん  パックンには恐怖のほかにもう一つだけ弱点らしきものがあるんです」

「らきしものってまた曖昧だな  交渉に使えるのか?」

「ええ  これを知っておかないともうそこで終わってしまいます いわば交渉の大前提に当たる部分・・・今からちゃちゃっと簡潔に話しますね」

分別顔・・・とは違うやや神妙な面持ちのクルタンはパックンについて語ってくれた

・・・

・・・

・・・

                防衛機能の欠如

これが中学一年生であるパックンに対し論理的に攻め立てられる隙だとクルタンは言った


人間は自分を守るため無意識のうちに防衛機能を働かせる

抑圧、
否認、
取り消し、
隔離、
投射、
同一化、
反動形成、
置き換え、
知性化、
退行、

他にもまだあり、様々な防衛機能を駆使し人間は、自己の安定感を得ている

しかしながらパックンにこれらの機能が働くことはごく稀だと実の兄は断言した

とくに、受け入れがたい現実を知らなかったことにしてしまう【否認】と不快なことをフォーマットしてしまう【取り消し】の機能は皆無 

このことから自分に対して納得いかない箇所は、絶対に許さない性格なのだと窺える

「なんでお前の妹さんは、こんなにも難儀な中学生になってしまったんだろうか・・・」

「言いますねヤミヒロ君___でもヤミヒロ君だって少しは理解できるんではないですか?」

「え!? 俺 小難しそうに見えるのか!!??リーダーぽくね??それ!!!」

・・・そこじゃないですよ・・・シュッシュ・・・っと突っ込むのはあまりに現実的ナイフだと思惟たのでやめておくとして

「必要なかったんですよ」

「・・・は?」

「だから、防衛機能がなくてもさほど問題にはならなかったんです。我が妹は。

防衛機能というものは結局のところ逃げの部類に入ります

別に悪いことだとは思いません 至極当然のことです

これは私の持論ですが、人は逃げることで自分を知り、進むことで得ていくのだと考えています どちらも大切なことなのです

・・・

・・・そう・・・・妹はこの世に生まれたときから既に、自分を知りすぎていた・・・

所謂、ギフテッドというやつなのです 外部に対する世間的な成功を収めるのではなく先天的に知識を得ている多重知識者・・・ただそれだけのことなんですよ  シュッシュッ」

「・・・たしかに否定できないな・・・・パックンとは一度くらいしかまともな面識はないが・・・・あいつが天才だって言われてもなんら不思議に思わない」

「そこもまたNPC最大の天敵である所以でしょうね・・・シュッシュッ」



・・・そう・・・・



・・・・・・だからこそ・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・この交渉は実るのだ・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・逃げることができないパックンではない・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・逃げる必要がないのだ・・・パックンは・・・・・・



・・・なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・とことん付き合ってもらおうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。



「待てよ パックン  まだ俺の交渉タイムはシューリョーしてないぜ?」

・・おっとと・・ついテンション上がりすぎてアドリブなんか効かせちゃったよ俺・・・たはは・・

ようはそんだけ昨日の話が、的中していたということだ

考えてみてほしい

普通 このような利潤関係に準拠した交渉など不可能なのである。交渉相手が責任能力のまだまだ薄い中学生だからだ

はぐらかしあったり、感情的になって喧嘩になったり、無視して強制帰宅したり、親にいいつけたり、根も葉もない噂話で脅したり、仲間を呼んだり、大泣きしたりでなんでもありだ

もしかしたらノーカン!ノーカン!とか言い出すかもしれない

しかし防衛機能が極端に弱いパックンは例外。それ自体、無理難題なのである。

だからさっきだって「NPCの受けた屈辱を、"同等に"お前等も受ける義務がある」という俺の問いに対し、きちんと論理的に反論してきたのだ

普通はありえない。 中学生程度なら「うるせーポカン!」で仕舞いである



・・・・・つけこめるぜ 何度でもいってやる  これはチャンスだ!

・・・

「なんですの まったく・・・まだなにかいいたいことでも?」

「お前の兄さんはな、わざわざ”貸し”まで作って、妹を試してるんだよ

ちゃんと”貸しを返す大人”になれるのかってな」


「、、、、、詳細を」



「クルタンには本来 ペンを取り返すためだからと、わざわざ挑戦状の指示通りに動く必要なんてなかったんだ  だって家族だろ? それに妹だ   同じ屋根の下 兄として力を使って粛正すればよかっただけの話だ  盗みはやってはいけないことだとね」



「・・・・」




「でもそれをしなかった クルタンは素直にお前の挑戦状の指示通り動き、真っ向から勝負に挑んだ ____これを”貸し”といわずなんというんだ?」




「・・・・・・・・・・・・」





刹那、尖った氷柱をぶっ刺さしてくるような強烈すぎる視線。









固化してもなお、咒力的に威容を誇る童女。





はっきりいって気持ち悪い。軽い嘔吐感で口の中が干からびていく。



・・・・黄色の果実が舌をくねらせる・・・・・



3分近く、ずっとこの状態で黙考。

それもそのはずだ 

パックンにとっては、挑戦状の強制力を主張したくば、NPCとの関連性を説かなければならず本末転倒

論議のズレを指摘しようものなら、防衛機能の発動に繋がり自己矛盾が生じる

そう・・・さっきまで断崖絶壁に立っていた人影は、ヤミヒロではなくパックンに代わっている

この状態が続けば、パックン自ら降参せざるを得ない

質疑に答えられない未熟な人間だとNPCに証明してしまうことにもなる

そうなったら最大級の抑止力だ

俺らは関係ない ただただ自己嫌悪の念に駆られ行動力は衰え、もしかしたらNPCにトラウマを抱くかもしれない

ちょっとかわいそうではあるけれど、それは仕方ないこと。 挫折というのはどんな人間にもついてまわる

・・・すまんな・・・・全てはNPCを守るためだ・・・・

勝利を確信し、今一度大きく息を吸う

そして慈しむようにそーっとタイムアップ(質疑終了)の言葉をかける


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずだった。


「ちょっと! なにパッ嬢の肩に触れようとしてんですか」

突如割り込むように発してきたのは、さっきまで無表情を貫き通していたカラピンである

「だって終わりだろ  誰が見たってもう答えられない雰囲気だ」

「じゃあ その話は保留っしょー!  とりあえずは次に移りましょう  いいですよねパッ嬢?」

「・・・ッナ!」

・・・・・ふざけるな・・・・というかお前も全然わかってないな・・・・

・・・・・・パックンがそんな逃げるようなマネ認めるわけがないだろ・・・・・・・

クルタンからの指示もない これはあちらから自爆すること見越しての無言だよな



                【 否、 】





「ええ ぴぃちゃんの言うとおり保留にしましょう」



・・・



・・・



・・・・は?



       なんだこれ・・・



              今パックンはなんていった・・・・・・・



                               なんていったんだよ・・・・・





頭の中で描いていたシナリオが崩れていく

まるで完璧にホールドアップをきめた体勢から、自分の脳天目掛けて雷を落とされたような




・・・・・・いやいやいやいやありえないだろ 

                               幻だ夢だハッタリだろ?・・・・・・・・・・・・




「・・・なぜ・・・・」

「ふふ、声が小さくて聞こえませんわ」

「な、なぜ保留にできるだよ・・・・・ざけんな・・・・防衛機能はどうした・・・・・」

指示なんて待ってられない。ヤミヒロの抑えられない本心は、瞬時に声帯を震わせた

「貴方達がこの話し合いで一番最初にした“質疑の後回し”を私たちも“平等に”行っただけですけど」

なんも問題ありませんわね? と長いプラチナヘヤーを靡かせるパックン

「・・・な・・・・に・・・・・」・・・・・あ・・・悪魔だ・・・・・・

そして追い討ちをかけるようにヤミヒロは気づく。

自分の身体の異常。一つの機能が破壊されていることに。

この環境化において、五感をはるかに凌駕する頼みの綱。必須の機能





                     ・・・・・そう・・・・・・





       ヤミヒロの無線イヤホンは、大音量のノイズで使い物にならなくなっていた





・・・・・魔王だろ・・・・もはや・・・・・・ハハッ・・・・・




____





一方 裏方、クルタンサイド。

「シュッシュッ・・・やはり妨害電波を飛ばしてきましたか」

もはやただの金属片と成り果てた受信機を見つめながら眉を歪ませるクルタン

「なによ もう私達 しゃべっていいの?」

「ええ いいですよ」

「ンダ  詳細詳細!」

「そうっすよ なにがあったんすか?」

皆からの質問責めに、幾度かため息を漏らしつつ交渉の内容を簡潔かつ正確に説明した

____

「_____と、こんな感じですシュッシュッ

おそらく交渉がスタートした時点で内通者がいると判断し、カラピンが電波妨害装置を手配させたのでしょう」

「ンダ? 二人ともその場をほとんど動いてなかったんじゃねーのか??」

「カラピンが第三者に装置の手配と操作を依頼したのでしょう  あっ そうでした 皆さんたぶん勘違いされているようですから言いますが、パックン一味は二人だけのグループではありませんよ 決して」

シュッとした目つきで断言するクルタン

「そうなんすか  何人くらいいるんす?」

「約四万五千人です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「4よん5ごー0まる0まる0まるです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

「45の千倍です」

そうじゃねーよ!なんでそんな、どっかの市町村レベルにメンバーいんだよ!!!・・・とヤミヒロがいたのなら突っ込んでいただろうが、あいにく彼は絶賛断崖絶壁中

「シュッシュ・・・・昔、とあるハッカー集団(推定2万人超)に宣戦布告したのち、見事掌握___それ以来 ハッカー集団はパックン一味のしもべとなり、パックンがその権力を誇示するたび入会者はまたたくまに増加の一途を辿ったそうで____今や5万は超えるといいだす輩もいるくらいです」

「5万人・・・・・東京ドームが満席になるわね・・・・」

「・・・まぁ、ネット上ということもあり、物理的な面で使える人間はごく少数らしいですが」


「・・・で、勝てるの? 問題はそこでしょ。 そんな大軍勢相手に、たった5人のNPCで勝負になるの?」


勝てますよ・・・と即座に反論しようとしたクルタンだが、ここは躊躇う

自分の策に自信がなくなったわけではない。つつがなく自分の考え方を話した方がいいと考えたからだ。・・・・たぶんNPCって・・・そんなグループだと思います・・・。

「正直な話、無線が使えないこの状況....かなり厳しい勝負を強いられているのはたしかです

もはや会話は聞き取ることができませんが、次のパックン一味の行動は猛反撃でしょう」

「反撃っすか? でもパックンにももう残されてる策はないように感じましたが  クルタンの”貸し”の意見に対してかなり言いよどんでたし」

「シュッシュッ・・・だからですよバドシ君」

頭の上に、はてなまーくを乗せるバードシー

「あれは電波妨害の時間稼ぎ、いうなればパックンの演技でしょう  本当は策はあったのでしょうが使いたくなかった いや、使えなかったんです   困りますからね・・・・私に反論の余地を与えては」

「なぁなぁ・・・・リーダー息してる?」

「シュッシュ・・・皆さん、私は交渉が成立すると信じています

最初の問いにせよ、妨害にせよ、まんまとしてやられたわけですが、____それでもです」

「根拠でもあるのよね?」

ドンマロからの的を得た問いに彼は言った

「それと似たような問いを昨日、リーダーにされたんですがね・・・・シュッシュッ その時と一字一句同じ言葉で答えましょう









                 
                    根拠はヤミヒロ君 そのものです   









                                                       」 


_______________  
       

カメラは再び表、ヤミヒロサイドへ,

「ふふふふ、どうしたんですヤミヒロ先輩________綿棒でも買ってきましょうか?」

嘲笑するパックンは、それでも眩くばかりの気品はなくならず今はそれが果てし無くうざったい

・・・くそ・・・こうなったら・・・

「答えてやるよ・・・ペン回しとはなにか  それで先送りの件はチャラだ・・・!」

「あらあら やめてくださいませ  あれだけ黙考されて答えが出せなかったのでしょう?  いまさらなにを言われようが説得力が・・・・・ねぇ?」

「そうっしょー先輩! 苦しいのは分かるっすがー、純粋に討論しなくては不毛でしょーに」

クソッ・・・! カラピンまで参戦してきてやり辛さ増す一方だ・・・・こっちは正真正銘”一人”になったというのに____でも、ここで食い下がって交渉が終わる

「苦しいのはどっちだよ パックン一味」

「あらあら」    

「お前等が言ってることこそ見苦しいって意味だ!  なにが考えすぎた答えは嘘っぽいだよ
そんなこといったらプロの将棋士は全員カルトだな」

「心外っしょー・・・」

「いいか、俺のペン回しとは、」

「はいストップですわ  ワタクシ達は”質疑を先送りにしろ”との発言をしましたが それはあくまで、ヤミヒロ先輩の発言に回答しただけですわ。 これが平等な会議なら次はワタクシ達が質問し、貴方が回答する番ではなくて?」

そして最悪なことにクルタンの予想は的中  パックンは最大の言い訳を隠し持っていた

「話がだいぶとんだので補足しますと、”クルタンが挑戦状を妥協した分の【恩】をワタクシは返さねばならない” そんな言い分でしたわよね」

毅然とした態度で首だけを縦にふるヤミヒロ

「お兄様がなぜ妥協したのか、___そもそも妥協という言い方がおかしいですわね  なにをするにしても利害関係が明白でなければ行動しませんから・・お兄様ならとくに」

「そんなの勝手な妄想だろ」

「そうでしょうか? PV事件以降 クルタンとあなた方は、よりいっそう仲良くなったと思われますが」

「うるせーよ あ、なにか?クルタンとNPCを結んだのは、私達がペンを盗んだからとでもいいたげだな・・・ いい加減怒るぞ!」

「まぁまぁ  ここは公正を軸した交渉の場。 感情ではなく理で話し合いましょうか

___まず、クルタンが妥協した経緯ですが、ワタクシは妥協ではなく相互協力だったと考えています。なぜならお兄様はPV事件の際”NPCを使った”と発言しています

このことからクルタンが選んだ選択は妥協ではなく、自分に対してなにかしらの利益があると見込んでの選択___と、考えられます  ワタクシにはワタクシなりの利益が、クルタンにはクルタンなりの利益があったのですね

___つぎにその利益についてです。

本来 相互に利益が見込めるかもしれないと成立した時点で、もしどちらかが損をしてもお咎めなしなのですが、クルタンの予想利益がわからない以上、事実的に得た利益を説明しましょう 

ワタクシはもちろんお兄様から貰った”挑戦状許諾”という利益です 

結果はどうであれ引き受けてくれた その恩は今もたしかにこの胸にありますわ

そして肝心なクルタンからの利益  すばり”勘違いの粛正”です

クルタンは己でNPCを使ったと打ち明けた、しかしそれは違っていて、実際はNPCを”頼った”・・・そうですわね?  この勘違いを正さぬままと、粛正するとでは人生、かなりの損をしますわ  よって立派な利益と考えますの」

「それは俺達がクルタンにやった利益だろ  あんま友達同士で利益だの相互関係だのいいたくないけど____少なくともお前等には関係ねえ」

「・・・しょ~・・・そっくりそのま」

「あらあらぴぃちゃん  ちょっと黙っててくれますの?

___さて先輩 忘れているようですから最初の方で言ったセリフをもう一度いいますわ

『ワタクシ達はNPCにではなく”クルタンお兄様”に挑戦状を差し上げています  NPCは任意で行動したにすぎず』 

・・・・どうですの、関係ないのは先輩の方でしょう?

関係ない人間がいくら利益を主張したところで利益を与えるのも得るのも関係のある人間だけですわよ?

例えばスーパーに行って従業員でもないのに品だしやら在庫整理でもしてて御覧なさいな 店側は利益を得ますが給料が入るのは従業員だけ___あたりまえのことですわ

お分かりですわね  NPCが挑戦に介入したからクルタンが利益を得たのではない、挑戦状を送った“パックンがいたからこそ”クルタンは利益を得られたのですわ」

「そんなの屁理屈だろ・・・そうだろ!」

「フフフ もっと分かり易く説明して差し上げましょう

        貴方が与えたその利益は、挑戦状なしで成り立ちましたか?

貴方が与えた利益の中にはワタクシが与えた利益が入っているのではないですか?

その利益を受け取ったのは誰ですか?

            クルタンお兄様ですよね?

                          貴方が利益を与えたということはワタクシが利益を与えたということと同義ではないのですか?




「___________________」


・・・・・・・・・・・・・クソッ!!!・・・・・・・・・・・・・・・


ヤミヒロは何も言うことができなかった。矛盾してる点があるかもしれない・・けど、今の彼はそれを正しく反論する力を持ち合わせていない。もし中途半端に言葉を吹っかけようものならそれこそいい餌食だ___・・・・くそ・・・無線さえ繋がれば・・・・

無情にも響き渡るノイズは梅雨入りの雨音が如く、一行に鳴り止む気配を見せない

「・・・・」

「そういうわけですので、クルタンからの【恩】はすでに相互利益として完了していると主張します。 NPCから受けるワタクシ達の義務はなんらありません。 次はヤミヒロさんの主張ですが」


もう言うこともないでしょう?と畳み掛ける後輩共

ヤミヒロフェイズ

先送りの件は、すでにクルタンの主張が打破された以上 なんの意味もなさない

では新しく何かを問わなければならない・・・・そう、”一人”でだ

・・・どうすんだよ・・・本当に終わるのか・・・負けちまうのかよ・・・・

次第に寥寥としはじめた彼の心中

・・・・慈悲でも請うか?・・・いやいや本末転倒だ。何のためにここまでしたのか見失ってもだめだ・・・・・・

・・・くそ・・・・くそ・・・・・くそがっ!・・・・・・

せっかくNPCが変わろうとしてたのに・・・・・・せっかくNPCが永遠のものになろうとしてたのに・・・・これから先・・・・怯えながら歩んで行かなきゃならねーのか・・・・

・・・・みんな頑張ってた・・・・・・・いい顔してた・・・・・・・・

自分の未来を進んでるって、たしかに実感できた・・・・・・・・・

それなのに・・・・それなのに・・・・・・

ああ・・・・・クルタン・・・・せっかくすげー交渉術だったのに・・・・・

俺一人じゃ、絶対に出来っこない・・・・考えようともしなかった策略だったのに・・・

・・・・やっぱヤベーなクルタンは・・・・・・・

こうやって失敗に終わっても・・・・・策略だけはこんなにも誇れるもん

ホント・・・むなしくなってくる・・・・一番堪えるかもわからんね

・・・・策略だけ・・・・そう・・・・・・俺は、ヤミヒロは、リーダーは、NPCのリーダーさんはよー・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・なにも出来なかった・・・・・・・・・・・・・・・・





ジワジワと萌芽するその感覚はやはり最初は微小なわけでして。

心のほんの隙間か伸びた芽なんてものは、自分の全てを空ろにしなきゃ分かるもんじゃなかろうに。

誰だよこいつ・・・そんなことより摘み取ってみようかしら。

無意識無自覚で掘り起こせば、____そこにはこう書いてある。






  
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●クルタンこそが真の天才だ●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●



ハッ!と我に返ったヤミヒロには周囲の足元を確認する

自分を含めて6本 反応もないを察するにどうやら意識が飛んでいたはほんの数秒たらずらしい

深層心理とでもいうのだろうか。なんでこんなことで目を曇らせたのだろう

もう後がない????だからどうしたって

俺の愚かな絶望感覚なんてこの際どうでもいい パックンという相手についてはもっとどうでもいい

この交渉の幹事は誰だ?  あの名将/天才クルタンだぞ

こんなところで終わるはずがない なにかまだ策があるに違いない

ヤミヒロはその刹那、クルタンが交渉に乗り込んでくるのでは?___と考えたが愚直だったとすぐ修正した

なぜなら

・・・・・・・・・クルタンの策は俺自身 ヤミヒロ自身だと言ってくれた・・・!!!  危うく忘れかけてたぜ・・・・・ふぅっ↑・・!


「あるぜパックン共 いいたいことってやつは」

「あらあら 往生際の悪いこと・・・・・いいでしょう 言ってくださいまし」




ドヤ顔で言葉のナイフを穿った






「この交渉・・・・明らかに平等じゃねーよな? 俺はボッチで交渉してんのに、そっちは二人だ これは”貸し”と考え__つまり・・・あれだ・・・貸された分は交渉に応じるということで天秤を図ろうな」






「・・・」





「・・・」







沈黙を破ったのはカラピンからだった

「・・・・プ・・・・・ブハハハハッ

な、なにいっちゃってるしょーこの方ブブブブタかよぉ!・・・・し、しかプファ も・・ドヤりながら、わ、わ、腹がいたくてててまともにしゃしゃしゃsyべれ・・・・ブハハハハッ」


「あらあらダメですよぴぃちゃっちゃっちゃっプハッ   もう、やめてくりゃさいませんか ふ・・プハハハハハ  冗談もほどほどにな、なさいませんと」

ハァーハァーと息を整える両者 俺の主張はよほど笑い焦げるほど馬鹿アホクソバカだったらしい





・・・・これでいいんだよな・・・クルタン・・・俺は信じてる・・・・・・



ヤミヒロを策にするって・・ようは馬鹿なことをしろってことだ




もちろん俺は馬鹿だとは思ってない きちんと筋が通ってると自負してる




でもどうせ・・・ダメなんだろうけどな・・・・・・・・・・・・・






             ・・・・いやあ、どう勝てるか楽しみだ・・・!!!!!







「静粛にしろよ 反論を要求する」

「は? はは反論??  ぷ派ははあハッハ母は母は母母あああああああああああああああああああああああああああああああああ

こほん  いいでしょう

先輩の主張は筋が通っていませんわ

事前に交渉の連絡を行いもせずにそのような言い分通じるはずないでしょう

交渉人の数なんて関係ありませんの  心得ましたか?」

「ああ わかった」

なるほどな・・・すっかり忘れてたよ  そういやアポ入れずに交渉してたんだっけ 


                              なんか奇襲っぽくてフェアじゃねーな・・・



斯くして相手ではなく自分に”貸し”を見つけてしまったヤミヒロなのであった



・・・・



・・・



・・







まぁそれでも問題ないか


「いちよう確かめとくが、パックンは自分の意見を【あ、間違えました】___とかいう人間じゃないよな?」

「なんですか藪から棒に」

「こんな簡単な質問だ いいから答えてくれよ

 言葉のあや とかいう言い訳を使うような人間か聞いているんだ」

「しませんわよ  この交渉は録音もしているのでしょう? なおさらですわ」

「・・・・そうか・・・・・じゃあ言わせてもらう」

スーハーと、今日何回目の深呼吸だろうか・・・・・・今吸った空気が一番おいしい気がする

つまりこう、、、清清しく宣言してやった










              「俺、ヤミヒロは途中退場する!!!!!」!!!!!!!!









なぜなら今さっきパックンは”人数は関係ない”と言ったから____言うまでもないだろう。己の発した大失言に気づかないパックンではない

それでもヤツが黙り込んでしまったのは、この交渉場が常識ではなく、論理を根底において進めてきたからである

交渉場はまさに歪 2対0の攻防戦 こうなってしまえばパックン一味のやることは一つしかない

ヤミヒロが退場するから我々も、と主張しようにも話す相手がいない いくら数は関係ないと述べたパックンでも、相手に対し一言も言わずに退散するような非礼は、例の防衛欠場によって自分で許すことはできない。相手がいないからという言い訳も先の発言(数は関係ないから)に矛盾して不可能。

ならばこのまま永遠に交渉を続ける保留にするか____それもパックンにはできない



      ・・・・八方塞がりだぜ・・・パックン一味さんよお!・・・・・・



単に物理的な話である。退場ができないのなら休憩も一時退出もできやしない____つまりはあれだ・・・永遠にこのグラウンドで立っていなければならない トイレだってもちろん無理だ


やはりクルタンは天才策士である。代弁者を使うことによる会話の疑心暗鬼とヤミヒロに最後まで教えなかった最終秘策が見事すぎるほど”入った”

敵をだますにはまず味方から___今回は別に騙されたわけではなかったが、たしかに思う。俺がもしもクルタンに”パックンの失言を引き出すように工夫しろ”なんて言われても難しかっただろう。てか絶対無理だ

それを無の演技(あえてかっこよく)で敵に勝ったと確信させて隙を突く

仲間への信頼、敵の考察力、場の流れ それら全てを統一的に支配したのかというほどのパーフェクト トラップであった

さて、部外者の末路は退場しかないと、ヤミヒロは自ら踵を返しパックン一味から徐々に離れつつある。

「待ってください先輩。そんなにワタクシ達と張り合いたいなどと考えていますの?」

「・・・」

「そもそも交渉に成功したらなにをやるおつもりでしたの?」

「・・・」

歩幅を縮めることなく完全無視。”あの言葉”を聞くまではヤミヒロは部外者であり続けると心に決めていた

「・・・後悔するとまではいいません 人生なにが起こるからわからない  ・・・でももっと利口な方法がありましてよ?」

「・・・」

「あのあのパッ嬢???少しだけ暗殺しとく?」


「アナタは少しだけお黙りですわ・・・っ!」



                                 「・・・・・・・(・・・チビったァ・・・)」



下半身に妙な湿り気を残したそんな中、ヤミヒロにとって・・いや、NPCにとっての待ちに待った好機は訪れた 

「・・・・お手数ですがヤミヒロ先輩・・・・・・”今、交渉した内容に準ずるものであればなんにでも応じる所存である”とNPCに伝言してはくださいませんか?」

「・・・今というのはでどっからどこまでだよ」

「録音音声の始まりから、この伝言を許諾してくれるまでですわ」

「・・・わかった ”伝えておくよ”」

案の定、離脱も保留もできないパックンに残された最後の選択”交渉内容を締結させることによる交渉の強制終幕”を完遂するしかないのであった

「・・・さて、交渉も終わりましたし、ヤミヒロ先輩。具体的に”NPCが受けた屈辱を、"同等に"お前等も受ける義務がある”とはどういったことをされれば?」


「すさまじい記憶力だな 俺らの主張を一字一句完璧に暗唱かよ・・・まあいい

パックン一味にはこれから一時間後....いや30分後だな 校舎に侵入しクルタンの机の中にあるペンをとってきてもらう 以上だ」

「・・・・30分後とはまた、いきなりすぎますわね・・・なぜです?」

「お前らの挑戦状だって日時を指定してきたじゃねーか それと同じだよ」

「わかりましたわ では30分後・・・華麗にお使えして差し上げましょう」

そういうとパックンは不適な笑み浮かべながら、カラピンはなんだか悔しそうに、背中を見せると影を薄く夜の静けさに溶けていった







・・・





・・














今宵の舞台は整った。





綺麗な月夜の晩だから、満月を期待してみたけれど生憎、否。





けれども三日月だって悪くない。なぜなら笑えてきたからさ。





月の外面を包囲するかのように光る半輪が、なんだか今の俺らみたいで。





だったらこう思うのが必然だろ?








             We need to make it a full moon.  




 


舞台は暗闇の教室へ 物語は驀進へ。  はたしてNPCはパックン一味からペンを死守することができるのか!?


                         ___亡霊のダイブスピナー第三章3/3(迎撃編) 2013.02.15.(土)公開  

 
                                

亡霊のダイブスピナー 【第三章 1/3】(多数決編)

2013-02-02 00:00:01 | NPC@13物語
生成り色のカーテンを広げれば、辺りまだ夜の静けさを残したままだった

普段は目覚まし時計なんて使わずに、太陽の光だけで自然と目を覚ますのが彼のスタイルなので、カーテンなんぞインテリア程度のただのお飾り

いっそのこと取り外してもいいくらいなのだが、"この時期"があるから面倒くさい

「さっみ・・・さっさと飯食べて学校いこう」

バシャッと開けたカーテンを閉めなおすと着替えるために服を脱ぐ

プライバシーのためじゃない 朝日が嫌いなわけでもない

結局のところヤミヒロがもつカーテンへの価値観は、窓ガラスからの冷気を遮断する"保温的なもの"だけであった

朝は手軽なパン食がテンプレ シリアル系も好きなのだが、せっかくの朝食で暖をとれないのは損だと試しにホットミルクをかけて食べたところ、なんか違う気がしたのでそれは春夏限定メニューに置いている

いただきます、とマーガリンをたっぷりと塗りたくったバターナイフで焼きたてのトーストにシュッシュッ、と心地いい音を響かせていく

それを口に放り投げ、最後はオレンジジュースを天へと仰げば、急いで学校へと走り出した

___

「おはようございます・・・っと」

律儀にそういって校門をくぐれば、三階建ての建造物がお出迎え

周りにはマンションやアパートに囲まれ、すぐ近くには小さな川が通っている、極々一般的ななんの変哲もない区立中学校である

床暖房を推奨したい廊下を爪先立ちで移動して、自分の下駄箱に靴をぶち込んだヤミヒロはふと、静かだな、、、と愚痴をこぼした

運動部の朝練は例によって当然ないし、一階の一本廊下は職員室からなにか近寄りがたいオーラが感じ取れる程度

二段飛ばしで階段を駆け上り、三階途中の窓から校庭を見下ろそうとも、強い風に落ち葉が舞い上がり小規模な木葉雨を降らすという、閑散さに拍車を掛ける風景しかなかった

先に言っておくが、登校日を間違えた、なんてベタなミスをしたわけでは断じてない

週休完全二日制のゆとりどっぷりの我らにとって、そんなことはよほどのことがなければ起こりえず、まあ、単に”ヤミヒロの登校時間が圧倒的に早い”というだけであった

時刻は丁度7時を廻ったところ

最上階まで上がり火照った五指でその遣り戸をスライドさせれば、ヤミヒロもとい俺の教室である

と、教室に入るその前に、、、

なにやらもう先にきた連中による話し声が廊下からでも余裕で漏れて聞こえてきたので少しばかし静止してみる

まだ朝早、身体の体温だって平熱以下。 なのでしっかりとこの教室の中にいるであろう“奴ら”のテンションを見定めておく、いわば準備体操的な行動が必要不可欠なのだ。


・・・吉宗先生にこっ酷く怒られてメンタルがボロ雑巾だしな俺・・・・


「なぁなぁ、オラなぁ、外国のペン回しPV観てて思ったんだよ」

「どうしたんすかテルさん 唐突に」

「いやな、ダイナミックだろ?」

「たしかにね 空中に投げ飛ばすエアスピ系の技が日本より、秀でてるのもあるでしょう」

「ん? そうなのか」

「ジャペン1stPV(日本代表動画)を機に日本ペン回し協会が設立され、世界により積極的なアプローチを仕掛ける以前は、エアスピ系、換言すると空中技(エアリアル)は邪道と軽蔑されてました.........シュッシュッ」

「そうそう、当時は技構成とか表現力が確立されてなかったからね 子どものお手玉程度にしか見えなかったのよ」

「ん~  つまり.....日本は追いかける立場にあると・・・そういうことか?」

「おお!? テルさんが人の話を纏め上げた!」

「しかも大体あってる、成長したわね テル」

「シュッシュ 雨は降るものじゃない 降らすものだ・・・シュッシュ」

三人分の手のひらが重なり合いまるでキャベツのように、、、そして感動を分かち合う三人

「ンダ・・・なんか盛り上がってるけどよ、オラは”ソコ”じゃないと思うんだ」

「・・・外国特有の派手さは別にあると?」

「ンダ。 ズバリ 胸筋にあると思うんだ ム ネ キ ン !」

自分の左胸を軽快に叩くテルに対し、もちろんハテナマークの一同

「わっっっかんねーかな、胸筋の良さがよ~」

「わかるわからない以前に、ペン回しとなんの関係があるのよ」

「だからよ~、動画に映るのは手とペンだけじゃねーだろ? 胸筋だって映ることはあるんだよ 特に対面アングルの多い海外動画だとな」

「それで?」

「これはオラの感覚でしかないかもだけどよ、ペン回し動画の背景に立体感のあるクッキョーな胸筋が映り込むことで”大胆さ”を生むことができるんだと、そう思うんだ」

続けて

「だからよ~、・・・そーだな・・・・、この中で一番胸がありそうなのは・・・・・・バドシ!オラに胸筋の鍛え方を教えてくれ!」

この時、廊下側で聞き耳を立てていたヤミヒロはブチッ、となにか切れる音が聞こえた


       ___たぶんドンマロだな___

「そうっすね~、でも胸の筋力の鍛え方って結構ナゾっすよ。ただ腕立てしててもダメっぽいし、専用の器具とか買うのもちょっと・・・・あ、そうっす!テルさんも剣道やりませんか? 楽しいですよ」

「ンダ~、剣道か・・・さすがにもうすぐ三年だし、胸筋鍛えるためだけに入部させてくれっかな・・・・顧問も怖そうだしよお・・・・」

「シュッシュ・・・なら私が胸筋の鍛え方を教えて進ぜよう」

なにを企んでいるのか分別顔のクルタンは、いきなりとんでもないことをしでかした


ズバリ、自らの両手でテルの胸部を鷲掴みにしたのだ


なんだ!?という表情でンダ!?とだけ発するテル

「”鳥はむ”という料理を知ってますか テルくん」

「知らん・・ウッ」

「ちょっとテル 次、変な声出したらぶつからね」

「そーゆーの リフジンっていうのオラ知ってるぞ」

「ジュルリ」

「鳥胸肉を使ったハムっぽい料理・・・・調理方法は普通のハムとまったくもって異なり、ハムなのに燻製しなかったりと面白いのですが・・・・これがまた、結構美味なのですよ」

「ウウッ・・・ウウウッッッ・・・・旨そうだな!」

「シュッシュ・・・なぜおいしいのか・・・それは鳥だからです!  毎日青空を羽ばたき、その大きな翼による上下運動で胸筋は引き締まり、いい味を出しているのです!」

「ウ、ウウウウウッ・・・・ヴヴヴッッッッ!!!」

「つまり・・・・・シュシュシュyスシュシュシュ!!!! こ、こ、このよう、、、に・・・ッ!!!!   て、て、テルくんのおっぱいを上下さささせれば・・・!!!」

「ブッッッフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッtゥtゥ!!!」

「ウリウリウリウリウリウリウリッッッッ!!!!!!!!!」

「チョッッッx!!!アバラガ・・・!!!コリコリッテ!!! アバラガ!!!! コリコリッテ!!!!!!」

「ブホホホホホッ!!!!!!!!!!!!!」

「オ゛ッオオオ゛゛゛ッオ___ス、スゲーヨ___オッラのッ・・・・オッ・・・ムっ・・・・・コレ、クォレワッワットァ・・・・マッマッまさしく・・・」


テルはアヘ顔でこうイった


  「胸筋カーニバルなンダ~~~~~~~!」


「なにやってんだよおまえら」

もう耐えられないとヤミヒロは扉を開けた

こんなホモホモしい状況を廊下から垣間見る男子中学生の気持ちが分かるだろうか

分かってたまらねえ







___











給食時のように、四つの机を互いにくっつけあい椅子を五つ、これさえそろえばどこでも部活動ができるのがペン回しのいいところでもある

もちろん正式に”ペン回し部”なんてものは学校側も生徒会側も許すはずもなく、愛好会の部類に入るのかもしれないが、皆で堂々とペンを回せる環境があるのなら、それ以外は彼らにとってどうでもいいに等しいかった

「んだ? どうしたクルタン トイレか?」

最初に異変に気づいたのは意外にもテルだった

ペンから目を離しクルタンの表情を見てみれば、やはりどこか重い感じする

「いいえ・・・そういうわけでは・・・」

「なんっすかクルタン 水臭いっすよ!」

「そうよ  言いたいことがあるならちゃんといいなさい」

NPC一同の視線がクルタンに集中する中、しかし、ええ・・・・とだけいい残しシャドウ系の技練習をし始めた彼

なにか言うのを放棄したわけではなく、どう言おうか頭の中で整理しているようにもみえる

なら、、、、背中を押してやればいい

リーダーは、クルタンに告げた

「えり○か模倣花火事件が関係している・・・・そうだな?」

「シュッシュッ・・・・よくお分かりで・・・・」

「分かるもなにも、莫迦さが売りのNPCでそんなシリアスな顔されたら、考えることは一つでしょ」

絶対に忘れはしないつい三日前の出来事。バルコニーからぶっぱなした花火が不運にもパックン一味のいる部屋に飛んでいった通称”おばけはなび”

パックンはクルタンの実の妹であり一つ屋根の下で暮らしている以上、ヤミヒロはまたクルタンが標的にされたのではないかと心配していたのだ

きっと何かされたんだろ?と目で問いかけるリーダー

それを察したかさらに眉間が引き締まるとようやくその重い唇が開いた

「いいえ パックン一味からのアプローチはなんら知覚していないです しかしながら、私たちは今 重大な岐路に立たされているのかもしれません」

続けて

「率直に言って・・・・NPCメンバー全員で多数決を取りたい」

多数決...ということはやはりなにかあったんじゃないのか?、とクルタンを除いた全員が理解に苦しむ最中


           ああ、なんということだろう


まったく...このクルタンという男は....

”彼女ら”をよく知っている俺達からしてみたら”予想をはるかに超える思案”をぶつけてきたのだ...

「シュッシュ・・・・・・議題はただ一つ・・・

”私たちの方から”パックン一味を排撃するか、しないか・・・・それだけです」

空気が変わる最中、立て付けの悪い窓が音を鳴らすのは、なにか恐ろしい事象の前触れだろうか

「詳しくお願い」

「動機ですか?それとも方法ですか?」

「方法、そのあと動機ね」

みんなもそうよね?と視線を送るドンマロ


ああ、聞くしかない


もしかしたらNPCにとって、本当の意味での戦いが始まるかもしれないと、ヤミヒロはそう予感しながら...。


「シュッシュ、わかりました  少々長くなりますが極力要点だけを纏めるよう努めるので、ご静聴お願いします」

そういう彼はまず、胸ポケットから一冊の薄手帳を取り出した

開かれたのは日付のページ 三色ボールペンで巧みに彩った暗号らしきものはひとまず置いといて、彼の人差し指に触れた部分にだけ集中する

「テスト終わりの一週間後 例年通りこの学校の創立記念日に”新穀感謝祭”が行われます」

「20時まで校庭を自由に行き来でき、出店や太鼓や踊り、最後はキャンドルファイヤーからのプチキャンプファイヤーで締めるこの”新穀感謝祭” ___ここで妹どもへ一矢報いたい___そう考えています」

「さらに詳しく説明しますとまず、我々が妹どもを”学校の中”に誘い込みます。そして”学校の中”に隠れている我々が一丸となって矢を放ちます  舞台は夜の教室___そういうわけです____シュッシュッ
・・・なお、お手洗いと称して簡単に学校内へ進入できるのは、去年の祭りで確認済みです」

「なぜ”新穀感謝祭”なのか     なぜ学校内なのか
それについては動機の方で説明します」

「ここで重大な問題点。妹どもが実際に誘いに乗ってくるのか 職員に見つかればもちろん即アウト、ハイリスクでしかない夜の学校内にわざわざ入り込んでくれるような愚直を犯してくれるのか」

「それについても大事なところは動機の方で説明しますが、”新穀感謝祭当日”に妹どもと話し合い、誘導する方法を取りたいと思います ここで必要になってくる交渉人ですが、ヤミヒロ君 キミにお願いする予定です」

「と、ここまでが方法についての簡単な説明になります  続けても?」

「・・・」

なんかもう、トンドモな方法すぎて言葉が詰まるよ・・・と心の中で呟くヤミヒロ

一方、どうして俺なのかと考えるよりはどうこの風変わりな策を整合させていくのかと考えてしまったのは、その策の方法が術中に嵌ったとも思えないほど異彩を放っていたからに違いない

クルタンの目下にはうっすらと隈ができている  同情とかでは決してなくNPCのために続きを聞こう 

「シュッシュ・・・・続いて動機ですが....私は思うのです   戦争をする理由に過激も保守もない もはや究極的に防御であると」

「これは大げさな例ですが核戦争。攻撃的戦争になりうる兵器同士での戦いは起こらない

原子プロテクトで核の傘が壊れない以上、最後まで戦争は防御だと その証明をしています」

あまりにも突飛すぎる冒頭に困惑するメンバー

しかしドンマロだけは詭弁ね、とだけ返した

「人類が初めて”奪う”という考え方を持った時から、戦争が始まっていたのかもしれません

奪う人間が悪いのなら、ただ奪われただけの人間はもっと悪い

人間の中にある略奪という卑劣な思考から逃げたか、向き合ったか 

その違いは酷く大差です」

「もっと詭弁ね」

「マロ君はこの詭弁こそ正論なのだと思いませんか?」

「ええ、正論だと思うわ  でもねクルタン 正論なんて子ども向けの絵本と一緒よ

ある人々、一定の時期、時代に興じられる道具でしかない

子どもは未来を託されるけど、子どものままではなにも救えやしないのよ」

「シュッシュ・・・いいですね、さすがマロ君です 話の的を得ている.......そうです だからこそ戦いたい___正しさではなく、”ここにある空間”をただただ守りたいと願った 奇跡でしたね  私の思惟がではありません


丁度そんなこと考えているとき近くから聞こえてきたんですよ  


まるで全身の毛先の一本一本が震える感覚を得るような...


                                    【微かな泣き声を】


あれは同じく三日前  例の事件直後早急に貴方達を自宅に帰らせ、パックン一味が突撃してくるかもしれないと一人で構えていた時でした」


「ンダ  だれの声だったんだ?」


「まちがいなく パックンとカラピンの声です」


「バカな  頭にアサルトライフルをつきつけられても嘲笑しそうな連中だぞ 信じられない」

「はい そうですね   でもたしかに聞こえたんです  私も初めてでしたよ 妹の泣き声なんて聞いたのわ」

「で、なんで泣いていたの?」

「シュッシュ・・・・我々のミスで妹の部屋に入ってしまったアレ___そう、”おばけ花火”に恐怖したと考えます」

「根拠はなんっすか?」

「花火がパックン部屋に入った際の喚き声です  それは先に帰ったマロ君以外は聞いたと思いますが___おかしくありませんでしたか?」

「ひゃっほう?」

「なんで部屋に花火入ってきて楽しくなんだよ バカかよ」

「ンダ~・・・・なんつってたんだっけか・・・オラ思い出せねーぞ」

「『    デター!!!    』ですよテル君  バカではありませんがおかしな話です

シュッシュッ・・・・普通 キャー!!! とか うわぁー!!! もしくは絶句、無言でしょう?」

「・・・なるほどね。あのおばけ花火が、人魂にでも見えない限りそんなリアクションはとらない   相当のホラー好きか、よほどオバケに耐性がないのか」

「もし前者なら 喚き声から泣き声へ移行しがたいっすね」

「よってさっきも言ったとおり、部屋に入ってきた”おばけ花火”に恐怖したと考えます」

ここで話を整理してみよう  

クルタンは自らが率先してパックンへ攻撃を仕掛けようとしている

舞台は夜の教室

パックン一味は怖いのが苦手

・・・・なるほどな、ようやく話が見えてきた

「おばけ花火を使ったパックン一味排撃計画  そんなところか」

「シュッシュッ  エクセレント!  さて、時刻もそろそろ 一般的な登校時間に近づいてきました  多数決を取りましょう」

「よっしゃ」

考えてみれば、NPC内で多数決方式を使った正当会議は初めてだと思う

最大の宿敵を挑発する危険な行為をするか・・・それともしないか

初めてだからという軽い考え方は誰一人自分からできる状況ではなかった

「シュッシュ・・・では、提案者である私から投票させていただきます

と言っても何か紙に書くわけではなく口答ですが...

賛成に一票です  

私は提案者でありますが、それゆえこの作戦にはかなりの自信があります

この策ならば、”パックン一味への考えうる最大抑止力となりえ、そして、恒久的に停戦できる”と

そして、多数決方式はとったもののNPCのコンセンサスを得られるよう策の最後まで責任を持つことを宣言しましょう」

出馬でもするのかという勢いで賛成に投じたクルタン

けれども是が非でも自分の策を講じたいというわけではなく、きちんとNPCを考えて発言している メンバーあってのNPC NPCあっての策が柱になっている

まったく、どっかの政治家どもも見習って欲しいものだと柄にもない考えが浮かんだヤミヒロなのであった

次はテル

「ンダ  オラは正しいとか間違ってるとか、守っているのか攻めてるのか

そんな難しいことよくわかんねーしよ やってみなきゃわかんねぇーと思うんだ

だからオラは賛成だ クルタンの作戦はスンゲーんだろ?  

ならオラはそれを信じてみるし、実際にやってみる

・・・・そんじゃダメか?」

テルもテルできちんと自分流の意見を出した

ダメなんてことあるもんか

真直ぐな瞳で仲間を信じきれる  その強さにヤミヒロは同級生でありながらどうしようもなく尊敬の念を抱いてしまった

残るNPCメンバーはあと三人  次に賛成票が投じられれば決定する状況である

「クールっすね  素晴らしい作戦を発案したクルタンさんもそれを信じたテルさんも

本当にクールっす。

その上で言いますが、自分は反対に一票を」

「シュッシュッ・・・コンセンサスの観点から理由を聞かせてもらいたい」

「理由はコレです」

そういいながらバドシは自分ペンを机へと転がした

改造され鍔がないキャップは転がり続け、前方にあったクルタンの愛ペンにぶつかり、そして止まった

「たしかに策の方法も動機も良かったっすよ 

けれど問題はそこじゃない 彼女らの人間性です

パックン達は弱点など皆無の人間だと思っていました

才色兼備 眉目秀麗 音吐朗々 天衣無縫

でもそれは違った パックン達には”恐怖”という漬け込める隙があった

キレたら怖いっすよ皆さん  普段穏便な人間はね  ストッパーがキツイわけではないんすよ

むしろその逆  ストッパー緩いから どこか見つからない場所に隠すんです

切れることに慣れてもいない  だったら嫌な想像をしてしまうんすよ 

作戦がちょっとでもミスしたら壊されるかもしれない  このペン達が粉々に砕け散るかもしれない、とね

しかしながらこのままでいることの方が危険かもしれないことはわかっているつもりです

でも自分は賛同できない

どちらも自分が愛するペンを失うことになるかもしれないのなら、自分は反対しか選べません」

なぜなら
「自ら決めて進んだ道が、もしもペンを破壊されるという道に直結するのだとしたら....理屈で正しいことしたと言い聞かせても、中学生の自分では立ち直れない これから先、どう進んでいいのかも分からなくなる   ゆえに反対です」


ほんとメンタル紙切れっすね...と、嘲笑するバドシの話は終わった




             ヤミヒロは思う。



バドシが弱い人間なわけがない むしろ目頭が熱くなった。

    こんなにもペン回しを愛してくれている人間が仲間としてNPCにいる

それはもちろん全員のことなのだけど、こうやって改めて実感させられると、リーダーとして、いやヤミヒロ自分自身として、俺の答えをしっかり導き出そうとさらに頭を回転させた

ラストは二人  ドンマロが賛成すれば決まり  反対すればリーダーに託される

どちらにせよ自分の意見を述べるつもりのヤミヒロではあったが、椅子に深く座り直し緊張が体中を駆け巡った

「私は反対側に廻らせてもらうわ ・・・ん? なによクルタン 意外そうな目をして」

「いえ、私が考えた策の方法はともかくとして、危機性を和らげようとせん方針はNPCメンバーの中で一番賛成してもらえるだろうと踏んでいたので」

「たしかにね・・・・でも勘違いしないで。 私はリスクを回避するために何でもするわけじゃない ただ降りかかる火の粉に一箇所たりとも服を汚されたくないだけよ」

「ンダ 同じじゃねーのか?」

「シュッシュッ・・・やはり”自分達から”攻撃をしかけるというのは気が引けると?」

「そんなところね」

「コンセンサスの観点から言わせてもらいますがいいですか?」

「もちろんいいわよ」

「私達は以前、妹どもにいいようにあしらわれたではありませんか 血が繋がっているからという根拠のない理由で言いますが 私にはこのままなにもされないとは到底思えない」

「だからって何かしてくると100%言い切れるのかしら
いいクルタン  過去の一件はもう終わったのよ  表面上は勝ち 内面上は負け と勝負はついたの 
この中にパックンを怨んでる人がいる? いないでしょ  
それはつまり、少なからずNPCメンバー全員がパックン一味から”利益”を得てしまった証なの
だったらあちらから仕掛けてくるのを待つのが一番平和的で堅実だと私は思うわ」

「シュッシュッ・・・・しかし私は」

「話し合いで解決するという大事な手段も忘れてるわね パックン相手にそんなの通用しないかもしれない

でもそれこそやってみなきゃわからない___一番決め付けてはいけない部分、一番尊重すべき行動___そうは思わないクルタン?」

「__________。」

「いいのよクルタン  私も頑固な老婆の如く反対の一点張りってわけじゃない

”おばけ花火を使ったパックン一味排撃計画”だっけ? ・・・別に暴力を奮ってってわけじゃないんでしょ?いいじゃないそのくらいの懲らしめ  私は現実的な手段は好きよ

だけどもまあ、考え方が合わないから反対としたけれど、私もまだまだ中学生。人生観なんてまだ皆無よ。冒険してみたくもある。

ただやっぱり危険性は高いからNPC全員の声を、しっかりと聞きたいわね」

そんなわけでよろしく・・・ねっ、といつのまにか背後に来ていたドンマロの手が肩に触れた

やれやれ、こんなリーダーぽい立場は何年ぶりだ?

いやいや俺リーダーぽいじゃななくて正真正銘リーダーだし、ていうかNPCが結成されてからまだ半年程度しか経ってないし

脳内でなにノリツッコミしてんだ的な目で俺を見つめる一同

「みんなNPCのこと、ちゃんと考えてくれてたんだな」

「当たり前っすよ」

「意見は見事に真っ二つだけど、そんなこと置いておく

ありのまま、なんら濁りのない俺自身の意見を言わせてもらう」

皆は軽く頷く。昇降口からはもう生徒の声がちらほら聞こえてきた

「みんなも知っての通りだが俺は、・・・シマウマみたいな人間だ!」

今、鼻で笑ったやつ誰だ。まあいいか続ける。

「災いからはすぐ逃げる 危険地帯には踏み込まない なるべく行動策はとらず流れるプールに浸りたい

だから普通は大反対 ありえないだろこんな肉食系な作戦 考える余地もなく身体が勝手に反対票を箱に入れてる
その辺NPCメンバーならわかってるだろ?」

解散!と席を立ったドンマロは、しかし座りなおすよう指示するヤミヒロ

「でも違うんだよ  そう、ドンマロの言葉で確信したんだ」

「なんのこと?」

「ついさっきお前『パックンに怨みを持つ人間は誰もいない』っていったよな?

アレは違うよ

別に怨みというほどじゃないが、少なくとも俺は怒ってる」

「めずらしーな ヤミヒロが怒るの」

「ああ、そうだな」

自分でも驚いてる

なんでシマウマの俺がキレかかっているのだろう

理由は明白、クルタンのペンが盗まれたあの事件___パックン一味に喧嘩を売られたからだ

一個人として喧嘩を売られたならどうでもいい ここだけの話、逃げ切れず殴られたのなら平然と殴られ続けるだろう  なんの感情も抱かない  ただ運が悪かったなぁ~程度にしか思わないし怨みもしない

けれでも今回はまるで違う 奴等は”NPCそのもの”へ宣戦布告してきたのだ

正式名はNPC@13 

俺の人生の中で唯一自分から引っ張っていこうと決めたグループ 自分の人生観が揺らいだペン回しで活動するグループ  誇りに思うグループ

なぜだかはわからない 

ただ好きなのかという自問を忘れるほどペンを回し、仲間と共有し、楽しみたい

当たり前のようにそれらの欲求を満たそうと行動し、けれども奇跡的な心情の変化

この変化が生んだNPCが”試された”のだからまったくふざけた話だよ

・・・

そう、気づいたんだよ俺は

「NPCを弄んだパックン一味だけは今でも許せない 叩ける策があるのなら俺は大賛成だ」

「ふふ・・・言うわねまったく、私の話聞いてた?」

「ああ聞いてたよ 要するにハイリータンハイリスクってことだろ  

わかってる NPCにとって逆効果になるかもしれないってことも 話し合いこそ正義だということも」

でもさ
「それと同じくらい”成果”も上げられる可能性がある  なあクルタン 話し合いをしてから排撃計画を実行するのではダメなのか?」

「その場合 交渉戦でかなりの不利を強いられることになります あとこれをいうと弁解がましいかもしれませんが交渉戦はいわば話し合いととっていいと思います  お互いが納得しなければ校舎内での戦いは始まりませんから」

「そうか・・・・じゃあさ」

そして言葉を刺した

「本当に私情で悪いんだけど俺、今回だけはパックン一味に対するこの”怒り”って感情を尊重してやろうと思うんだよ」

一呼吸置きながら、改めて一人ひとりに目線をあわせたヤミヒロは、軽く頭を下げながら言う














 _______________「NPCは戦うべきだ」














パックン一味に対する”怒り” 、それはNPCがここにある確固たる証拠であり、過去のヤミヒロからは絶対に生み出されることはなかったであろう感情

自分から動くのも悪くないと、NPCを作ろうと決めたあの時から思ってきたのだから、当然どころか必然の賛成票である

もちろんエゴイスチックな考えだと自覚している だからこうやって頭を下げながら決断したわけで・・・

しかし・・・なんか・・・・こう・・・・あれだ・・・・

笑い声が聞こえてきた

「ぶ、ブブホッ なにお願いしてるんですかヤミヒロ君」

「そ、そうよ フハハハハ そんなに懇願しなくても多数決でしょ? まったく、朝っぱらから笑わせないでよね」

「い、いやでも、NPCとして大事な最終票だったというか」

「なにいってんだヤミヒロはよー 最初だろうが最後だろが同じ一票には変わりないだろ あほなんだ~」

「・・・リーダーとしてだな」

「リーダーもクソもないっすよ  多数決で決めたことはNPCの方針 みんなで決めたことです」

「・・・」

とまぁ、こんな感じで見事に言いくるめ?られてしまったヤミヒロ

本人曰く、『いかなる時でもリーダーが最終責任を問うべきある』という流儀があるらしいが、・・・まぁ100万年早い願望であった










さて

             さて

                           さて 






                                              さて






舞台はテストが終わり一週間後の夜のグラウンド




校庭から見上げる時計の針が7を示しているのに、辺りは真っ暗なぎこちなさ




さてさて今宵は盛り上がろうぞ




単身で自分自身を鼓舞しながら開けっ放しの校門を突っ切り校庭へ




昇降口を横切り、水飲み場のブロックを盾にしゃがみ込めば、携帯用無線通話機であるイヤホンを耳へと装着する




さてさて今宵は盛り上がろうぞ






                    交渉人ヤミヒロ_______出撃である










              NPC@13VSパックン一味戦争___勃発へ。  亡霊のダイブスピナー第三章2/3(交渉編) 2013.2.9.(土)公開