208)冬虫夏草とサナギタケ

図:冬虫夏草は、冬虫夏草菌(Codryceps sinensis)がコウモリガの幼虫に寄生したもので、中国青海省やチベットなどの高山で採取される。天然の冬虫夏草は乱獲により生産量が減少し価格が高騰している。冬虫夏草菌と同じ虫草菌(Cordyceps)属のサナギタケ(Codryceps militaris)は冬虫夏草と同じ効能を持ち、抗がん作用のあるコルジセピン(Cordycepin)は冬虫夏草よりも多い。カイコのサナギを使って栽培したサナギタケが冬虫夏草の代替品として注目されている。

208)冬虫夏草とサナギタケ

冬虫夏草の定義は中国と日本で異なる】
冬虫夏草(トウチュウカソウ)という言葉は、日本では昆虫に寄生するキノコの総称として使っています。これらのキノコは虫草菌(コルジセプス、Cordyceps)属と呼ばれ、全世界に分布し、400種以上が発見されています。
キノコ(胞子)が昆虫(主に麟翅目、鞘翅目の幼虫)に寄生して、その体内に菌糸の固まりである菌核を充満させ、時期が来ると昆虫の頭部や関節部から棒状の子実体(キノコの地上部)を伸ばします。冬は虫で夏になると草(子実体)になることから冬虫夏草と呼ばれています。しかし、日本で冬虫夏草と言われているキノコの中で薬理作用などが研究されているのはわずか数種類のみです。
一方、中国における「冬虫夏草」とは、一つの固有名詞のようなもので、コウモリガの幼虫に特定の菌(冬虫夏草菌:Cordyceps sinensis)が感染し、形成された子実体とその虫との複合体のことを指し、特定の地域(青海省やチベットなど海抜3000m以上の高山)で採取した物だけを限定して指す言葉です。この菌種は日本には生息していません。
コウモリガ(Hepialus armoricanus)はチベット高原やヒマラヤ地方の3000mから4000mの高山の草原の地中にトンネルを掘って暮らす大型の蛾です。コウモリガは夏に地面に産卵し、約一月で孵化して、土にもぐりこみます。このときに冬虫夏草属の真菌に感染すると、幼虫の体内で菌がゆっくり生長し、幼虫の中で徐々に増えた菌は、春になると幼虫の養分を利用して菌糸が成長を始め、夏に地面から生えます。地中部は幼虫の外観を保っており「冬虫夏草」の姿となります。中国では、冬虫夏草の子実体を菌核化した幼虫をつけたまま採取し、乾燥して漢方薬や薬膳に使用してきました。
冬虫夏草は、中国で古来から不老長寿や滋養強壮の秘薬として珍重されてきました。馬俊仁コーチが指導した馬軍団所属の陸上競技の選手が冬虫夏草エキスを摂取して好成績を残したとも言われており、体力や運動能力を高める効果が認められています。
近年、その貴重さゆえ乱獲によって激減し、絶滅の危機に瀕しています。収穫量は30年前の1割以下で、投機対象にもなって、価格は30年前の1000倍以上に高騰し、1kg当たり500万円以上もするようになっています。
このような状況で、中国産の天然冬虫夏草は、偽物や不良品が出回っているそうです。より高く売るために、金属粉を塗り付けたり、液を注入したりして重さを増やす悪徳商法が中国で横行しています。北京市内の販売店では、商品の大半に粘土状の物質が付着していたという新聞記事が載っていました。金属が混入された冬虫夏草を服用すれば健康被害をもたらす可能性がありますが、販売業者は皆、できるだけ重くしようとしているそうです。
中国では冬虫夏草と他の虫草類は厳密に区別されていますが、日本では昆虫に寄生する虫草類の総称として「冬虫夏草」という呼称が普及しているため、、中国産の冬虫夏草(Cordyceps sinensis)と違う菌種であっても、中国の伝統の冬虫夏草の薬効を引用しながら、同様な薬効があるような宣伝がなされているという問題もあります。例えば、「冬虫夏草エキス配合」や「冬虫夏草100%使用」という宣伝でも、中国産の天然の冬虫夏草(Cordyceps sinensis)と違う製品が多いので、注意が必要です。

【冬虫夏草の代替品として注目されているサナギタケ】
近年、中国をはじめ、日本、韓国において冬虫夏草以上に注目を集めている虫草菌があります。それはサナギタケ(Cordyceps militaris、コルジセプス・ミリタリス)です。サナギタケは中国では「蛹虫草」や「北冬虫夏草」や「北虫草」と呼ばれます。
サナギタケは、各種の蛾の蛹(さなぎ)または幼虫に寄生し、こん棒状や長楕円形のオレンジ色の子実体を1~10数本形成します。中国、日本、カナダ、イタリアなど全世界に分布しています。
天然のサナギタケは薬用人参と同様に滋養強壮剤として古くから知られています。サナギタケの効能については、中国の『新華本草網要(1988)』の中に「味甘、性平、肺・腎を益し、精を添え、髄を補い、血を止め、痰を化す」と記載されています。
冬虫夏草の栽培が極めて困難であるため、20年くらい前から中国の研究者たちは、その代替品としてサナギタケに注目しました。その最大の理由は、サナギタケの中には、抗腫瘍作用を示すコルジセピンをはじめ、血管拡張作用を有するとされるD-マンニトール、免疫賦活作用があるβグルカン、活性酸素を消去する抗酸化物質などの生理活性成分が豊富に含まれているためです。特に、抗がん作用のあるコルジセピンは、サナギタケの方が冬虫夏草よりはるかに多量に含むことが明らかになっています。
人工栽培法が開発され、栽培したサナギタケを素材にした健康食品は中国や韓国や日本で販売されています。
薬品としては、1997年に長春にある製薬会社が生産したサナギタケカプセルは、呼吸器系の新薬として中国政府より承認されています。
近年、中国では、サナギタケをがん治療の補助薬として利用する人が増えています。
中国では、高価な冬虫夏草の代用品としてサナギタケが使用されるようになってきました。中国ですでに承認・登録されている冬虫夏草を原料とする薬品・健康食品は、原料の高騰によって冬虫夏草の入手が難しくなってきたため、その中身がサナギタケで代用されるようになっているそうです。

【サナギタケの抗がん作用】
マウスにがん細胞を移植する動物実験で、サナギタケの投与によって、がん細胞の増殖の抑制と、延命効果を示す結果が報告されています。その薬理作用として、ナチュラルキラー細胞活性やIL-2産生能力を高め、マクロファージの貪食能を活性化させるなどの作用によって非特異的な免疫力を高める効果が示されています。さらに、抗酸化作用や抗炎症作用、血管新生阻害作用、直接がん細胞の増殖を抑える作用も報告されています。
抗酸化作用や抗炎症作用、鎮静作用においては冬虫夏草とほとんど同じ効果を有し、抗腫瘍活性については冬虫夏草よりも優れた結果が得られています。その理由の一つとして、抗がん成分のコルジセピン(Cordycepin)の含有量が多いことが挙げられます。
コルジセピン(3’-deoxyadenosine)は、1951年にK.G. Gunninghamがサナギタケから抽出に成功した物質で、多様な生理活性が報告されています。様々な培養がん細胞を使った実験で、がん細胞の増殖抑制作用が報告されています。
抗腫瘍効果の作用機序として、DNAやRNAの合成阻害作用や、アポトーシス誘導作用、転写因子のNF-κB活性の阻害、がん細胞の増殖シグナル伝達の阻害、などが報告されています。がん細胞の転移を抑える効果も報告されています。
コルジセピンはアデノシン誘導体であるため、アデノシンA3受容体刺激によるがん細胞増殖抑制作用の可能性も報告されています。大腸菌やクロストリジウムなどの腸内悪玉菌の増殖を抑える一方、乳酸菌には全く影響を与えないという特性があるとも報告されています。米国の国立がん研究所(NCI)などで、がんの治療薬として研究開発が行なわれています。

【昆虫に寄生することによって活性成分が生成される】
食材として一般的なシイイタケやエノキダケにおいて、その食用の部位は傘とか柄と呼ばれていますが、これが子実体で、胞子を作る器官です。菌糸体はキノコの根の部分のことで、胞子細胞から伸びた無数の菌糸が固まってできています。子実体も菌糸体もキノコの一部ですが、それぞれに含まれる成分は違います。
冬虫夏草菌はコウモリガの幼虫に感染した後、幼虫の栄養成分を吸い取って、まず体内で菌糸を伸ばし、そのうち幼虫は死んでしまいます。この菌糸の状態は無性世代とも言います。その後、一定の条件のもとで、菌糸が充満された幼虫からキノコのような子実体が伸び、成熟した子実体から次の世代の感染源となる胞子が放出されます。子嚢胞子が形成される子実体は有性世代とも言います。
健康食品で「冬虫夏草菌糸体」と記載されている場合は、一般的には合成培地を使用し、菌糸体(根の部分)のみを人工的に培養したものです。この場合、子実体(傘や柄の部分)や胞子が形成されないため、菌種の特定は困難です。多くの有効成分は子実体が成熟する過程で産出されるので、子実体が無い菌糸体だけの場合は、その効果は期待できません。
また、穀物などを虫の代替として培養したものは、昆虫の成分が無いまま子実体が形成されるので、冬虫夏草としての成分を有するかは疑問です。冬虫夏草菌やサナギタケ菌がコウモリガなどの幼虫に感染することによって、このキノコ特有の生理活性成分が生成されるからです。
昆虫(蛾の幼虫など)が冬虫夏草菌やサナギタケ菌のような虫草菌に侵入されると、昆虫の防衛機転が働き、昆虫の中で異物を撃退する成分が生成されます。菌は昆虫の栄養を吸い取って増殖し、数日後には菌糸が昆虫の中の組織全てを占領し、白い菌核が形成されます子実体はさらに成長し、オレンジ色のこん棒状のものになります。
昆虫と虫草菌との熾烈な戦いと、子実体が形成する過程で、多くの代謝物が生成されます。したがって、穀物などの培地を使って子実体(キノコ)のみ栽培する方法や、培養液を使いタンク内で菌糸体のみを増やす方法では、菌と昆虫との戦いが無いため、天然の冬虫夏草やサナギタケと同様な成分はできないのです

【カイコのサナギを培地にしたサナギタケの栽培】
中国産の天然の冬虫夏草(Cordyceps sinensis)は、生産量が減少し、1グラムが7000円以上と極めて高価で、市場には偽物や不良品が多く出回っているので、本物を入手すること自体が困難になっています。
国内で冬虫夏草の製品が多く販売されていますが、合成培地で菌糸体(根の部分)を培養したものや、穀物などを培地に子実体(キノコ)のみを製造したものでは、昆虫のサナギが菌と戦うことで有効成分が生まれるとされている天然冬虫夏草とは大きく違ってきます。
昆虫を使った冬虫夏草(Cordyceps sinensis)の栽培は成功していませんが、カイコのサナギを使ったサナギタケの栽培が日本で開発され、健康食品として販売されています。(製造元:日本シルクバイオ研究所)
天然のサナギタケが発生するしくみと同じく、生きたカイコのサナギに菌を感染させ、そのサナギを培地としてサナギタケを成長させる方法です。この栽培法では、無菌の生きたカイコのサナギに、無菌の状態でサナギタケ菌を感染させます。サナギはサナギタケ菌に侵入され、昆虫の防御機構が働き、サナギとサナギタケ菌との戦いの中で、独特な優れた有効成分が産出されます。菌はサナギの栄養を吸い取って徐々に増殖し、数日後にはサナギの中の組織をすべて占領。白い菌核が形成されます。やがて、オレンジ色のこん棒状の子実体が成長してきます。
この方法で栽培されたサナギタケには100g当たり4.95gのコルジセピンが含まれています。その他にも、抗腫瘍効果を持つ成分が多く含まれており、がんの治療や再発予防に効果が期待できます。
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