77)漢方治療はがん患者の延命に寄与できるか?

図:放射線や抗がん剤治療を受けた子宮頚がん患者において、漢方治療を併用したグループと併用しなかったグループに分けて生存率を比較すると、漢方治療を併用したグループの方が生存率が高いことを示す研究結果が報告されている。(上図は正確なデータではなく、ステージIVの患者の治療後の生存率の差を、論文の図を元にしてイメージ図として現している)

77)漢方治療はがん患者の延命に寄与できるか?

Can Kampo therapy prolong the life of cancer patients?』というタイトルの論文が発表されています。日本語に直訳すると『漢方治療はがん患者の生存期間を延ばすことができるか?』という意味です。
著者は徳島大学医学部の竹川佳宏教授のグループで、子宮頚がんの放射線治療に漢方治療を併用すると延命効果があるという結果を報告しています。その論文の内容を紹介します。


Can Kampo therapy prolong the life of cancer patients?(漢方治療はがん患者の生存期間を延ばすことができるか) J. Med. Invest. 55:99-105, 2008
【目的】
放射線治療や抗がん剤治療の副作用緩和や自覚症状の改善を目的として、1978年から漢方治療を行ってきた。
このような漢方治療を併用した患者において、漢方治療の併用に延命効果があるかどうかを、子宮頚がん症例についてretrospective(過去にさかのぼって「後向き」に調査する手法)に検討した。

【対象・方法】
徳島大学医学部附属病院で1978~1998年の間に、放射線治療に漢方を併用した子宮頚がん患者は174例であった。
ステージ分類では、IB期11人、IIA期11人、IIB期51人、IIIA期9人、IIIB期60人、IVA期17人、IVB期15人で、平均年齢は67歳(34~92歳)であった。
同時期に同じ病院で治療を受けた子宮頚がん患者で漢方治療を併用しなかった231例を対象とした。この対象のグループは、ステージ分類では、IB期12人、IIA期26人、IIB期64人、IIIA期9人、IIIB期61人、IVA期40人、IVB期19人で、平均年齢は67歳(35~87歳)であった。
漢方併用群と対象群は、年齢やステージで大きな差はなかった。
両グループの子宮頚がん患者は、低線量率小線源による腔内照射と、X線による外部照射を用いた標準的放射線治療法が施行された。
がんが進行した患者(ステージIIB,III,IV)の一部では放射線治療に抗がん剤治療が併用された。
また、術後の補助化学療法として、内服の抗がん剤治療(フルオロウラシル、テガフール)、術後免疫療法としてクレスチンの併用なども行った。
これらの標準的治療に加えて、漢方治療を受けたグループでは、株式会社ツムラのエキス顆粒製剤を、患者の証(体質や症状に基づいた漢方的診断)にしたがって処方した。
使用された漢方方剤は、
十全大補湯(42.5%)、八味地黄丸(17.2%)、人参養栄湯(12.6%)、柴苓湯(11.5%)、補中益気湯(6.3%)、小柴胡湯(5.3%)、大柴胡湯(1.7%)など、補剤や和剤が中心であった。
漢方薬は放射線治療と同時に開始し、治療終了後も数年間服用を継続した。20年以上継続した患者も数人いた。
放射線治療終了後、患者は再発の状況を検査するために定期的に受診した。
生存率はKaplan-Meyer法、有意差検定にはBreslow-Gehan-Wilcoxon testを用いて、統計的に比較検討した。

【結果】
患者全体で漢方併用群(173例)と非併用群(231例)を比較すると、
生存率は漢方併用群が明らかに高かった
ステージ別に5年、10年、15年後の生存率は以下の表の如く、漢方治療を併用したグループの方が生存率は高かった。






ステージ分類



治療後の経過



漢方併用群
(生存率)



対象群
(生存率)



ステージIB



5年



90.9 %



83.3 %



10年



71.6 %



75.0 %



15年



71.6 %



64.3 %



ステージII



5年



78.9 %



66.7 %



10年



61.8 %



42.8 %



15年



41.8 %



23.3 %



ステージIII



5年



62.3 %



41.0 %



10年



49.1 %



28.2 %



15年



41.2 %



12.9 %



ステージIV



5年



53.1 %



20.3 %



10年



36.5 %



11.9 %



15年



16.7 %



2.0 %



【考察・結論】
当初は、放射線療法や化学療法に伴う副作用軽減や、生活の質(QOL)を改善する目的で漢方を併用してきたが、
漢方治療を併用することによって著明な延命効果が得られることが明らかになった
また、放射線治療後に行った他の補助療法である内服の抗がん剤やクレスチンなどによる免疫療法では、延命効果は認めなかった。




この臨床研究では、株式会社ツムラのエキス製剤の
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)といった補剤(体力や抵抗力を高める漢方薬)が主に使われています。
一般的に、同じ処方であっても、
煎じ薬の方がエキス製剤の2~3倍くらいの効力があると言われています。それは、インスタントコーヒーを作るときのように液体を粉末にするために水分を蒸発させる時に、精油成分のような蒸発しやすい成分が消失するからです。精油成分の中には、抗がん作用が高い成分が多く含まれています。

また、
このような補剤は、病気や老化による体力や抵抗力や回復力の低下を高めることによって、寿命を延ばすことを目標に作られていますが、がん治療後の再発予防には、さらに工夫が必要です
つまり、
補剤で体力や免疫力を高めると同時に、血液循環や新陳代謝を良くする生薬、抗酸化作用や解毒力を強化する生薬、がん予防効果のある成分を含む生薬などを加えた煎じ薬は、もっと効果が期待できるはずです
出来合いのエキス製剤でこれだけの延命効果が得られているのであれば、がん再発予防を目的にオーダーメイドで作成した適切な煎じ薬を服用すれば、もっと延命効果が期待できると思います。

さらにこの研究では、治療後の補助療法としての内服の抗がん剤(フルオロウラシル、テガフール)や免疫増強剤(クレスチン)では延命効果は認められていません。
漢方治療の場合は、体力や免疫力を高めると同時に、血液循環や新陳代謝を良くして回復力や治癒力を高め、さらに、生薬に含まれる抗酸化物質や抗がん物質の作用も加わって、総合的に延命効果を発揮すると考えられます。
再発予防や延命には、抗がん剤や免疫増強剤といった単一の効果でなく、複数の効果を組み合わせないと延命に結びつかないということかもしれません。
がんの治療後は、抗がん剤を主体とした補助化学療法よりも、適切な漢方治療を長く継続する方が勝っている可能性もありそうです。(文責:福田一典)



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