126) クルクミンの抗がん作用

図:ウコンの根茎に含まれるクルクミンには様々な抗腫瘍作用が報告されており、抗がん剤の効果を高めるという研究報告もある。しかし、人間での有効性や安全性についてはまだ多くの議論がある。。


126) クルクミンの抗がん作用


【ウコンの薬効】
ウコンは熱帯アジア原産のショウガ科の多年草で、日本には平安時代中期に中国から渡来しました。
インド、東南アジア、中国、日本などで広く栽培されています。
一般にウコンという名称がつくものには、
ハルウコン (Curcuma aromatica)、アキウコン(Curcuma longa)、 ムラサキウコン (Curcuma zedoaria)などがあります。ハルウコンは春にピンクの花をつけ、アキウコンは秋に白い花をつけます。根茎を薬用や香辛料として利用します。
ハルウコンの根茎は中国では
姜黄(きょうおう)という生薬で、ムラサキウコンの根茎は莪朮(がじゅつ)をいう生薬です。
正式な和名のウコンは香辛料として用いられるアキウコン(Curcuma longa)をさします。
ウコンの成分は黄色色素
ターメリッククルクミンが主成分)、精油(セスキテルペン類など)、ミネラル、フラボノイドなどです。
ウコンはクルクミンが豊富で、ガジュツにはクルクミンは含まれておらず、ハルウコンには精油が多いといわれています。
ウコンの粉末(
ターメリック)には3%程度のクルクミンが含まれていますが、市販のカレー粉にはそれほど多く含まれていないようです。
ウコンは元来は古代インド医学(アーユルベーダ)から伝わった薬草で、胃腸病や炎症性疾患の治療に古くから用いられています。
粉末にしたものは香辛料の
ターメリックとしてカレー粉の主原料です。タクアンなどの着色料としても利用されています。
薬理作用としては、
肝臓の解毒機能亢進作用、利胆作用、芳香健胃作用があります。抗動脈硬化作用、アルコール性肝機能の改善作用なども報告されています。
お酒を飲んだらウコンとよく言われますが、普段からウコンを摂取することで肝機能を丈夫にできます。ウコンに含まれる
クルクミンは胆汁の分泌を促進する作用があり、肝臓における毒物の排泄を促進します。
日頃からカレーを多く食べている人ほど、アルツハイマー病のような認知症の発症率や程度が低いという疫学研究の結果も報告されています。抗炎症作用や抗酸化作用が、脳の神経障害を防ぐ効果があるためと考えられています。

【ウコンに含まれるクルクミンの抗がん作用】
黄色色素
クルクミン(curcumin)およびその類縁物質には、抗炎症作用・抗酸化作用などの薬理作用が報告されており、がん予防効果が報告されています。
ウコンは血液循環を良くし、抗酸化作用が強く、抗がん作用もあるので、抗がん剤治療後の回復促進と再発予防に効果が期待できます。
培養がん細胞を使った実験では、
クルクミンには、抗炎症、抗酸化、転写因子NF-κB の活性化阻害、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性阻害、がん細胞のアポトーシス誘導などの作用が報告されています。
動物発がん実験や移植腫瘍を用いた研究でも、発がん予防効果や腫瘍縮小効果などが報告されています。ウコンの抽出エキスはその抗酸化作用によって抗がん剤ドキソルビシンの心臓毒性を軽減することが報告されています。
がん治療において、治癒力の増強、発がん予防、悪性進展阻止、転移の予防などの効果が期待できます
ウコンやクルクミンのNF-κB阻害作用が、抗がん剤の効き目を高める可能性を示唆する研究が多く報告されています。次のような報告があります。


Phase II trial of curcumin in patients with advanced pancreatic cancer.(進行膵臓がん患者に対するクルクミンの第2相試験)
Clin Cancer Res. 14:4491-4499, 2008
米国のテキサス大学のMDアンダーソンがんセンターからの報告。
進行した膵臓がん患者に1日8gのクルクミンを投与して、がんの進行や、血中のサイトカインの量、血液中の単核球のNF-κBやCOX-2の活性などに対する効果を検討。
投与した25人のうち21人がその反応を評価できた。
血中のクルクミンはグルクロン酸や硫化物が結合した代謝産物として検出されたが、その濃度は低く、経口摂取での吸収率が悪いことが示唆された。
2例において臨床的効果が認められた。1例は18ヶ月以上に渡り、腫瘍が増大しない状態が継続している。もう1例は、短期間ではあったが、73%の腫瘍の縮小をみとめ、サイトカイン(IL-6, IL-8, IL-10, and IL-1 receptor antagonists)の血中濃度が4~35倍の上昇を認めた。
副作用は認めなかった。
血中の単核球のNF-κBやCOX-2などの炎症性シグナルは膵臓がん患者では正常よりも高いが、クルクミン投与によりこれらの炎症性シグナルに活性が低下していた。
血中のクルクミンのピークの濃度は22~41ng/mlで、患者間のばらつきが大きかった。
(結論)
クルクミンの経口摂取による消化管からの吸収は低いが、副作用はなく、一部の進行膵臓がん患者では、臨床的な抗腫瘍効果が認められた。
Curcumin potentiates antitumor activity of gemcitabine in an orthotopic model of pancreatic cancer through suppression of proliferation, angiogenesis, and inhibition of nuclear factor-kappaB-regulated gene products.(クルクミンはがん細胞の増殖や血管新生を抑え、転写因子のNF-κBの活性を阻害することによって、膵臓がんに対するジェムシタビンの抗腫瘍効果を増強する)
Cancer Res. 67:3853-3861, 2007
ジェムシタビンは膵臓がんの治療薬として有効であるが、治療効果は限界があり、がん細胞はいずれ抵抗性を獲得する。したがって、ジュムシタビンの抗腫瘍効果を増強したり、耐性獲得を阻害する治療薬が求められている。
ターメリックに含まれるクルクミンは、がん細胞の増殖や血管新生や耐性獲得に関与している
NF-κBの活性を阻害する効果が知られている。
この研究では、膵臓がんのジュムシタビンに対する感受性をクルクミンが高めることができるかどうかを検討した。
培養細胞を使った実験では、
クルクミンは多くの膵臓がん細胞の増殖を抑え、ジェムシタビンによって引き起こされるアポトーシスを増強し、がん細胞のNF-κBの活性を阻害した
ヌードマウスに膵臓がんを移植した腫瘍を使った実験では、ジ
ェムシタビン単独と比べて、ジュムシタビンとクルクミンを併用した治療群の方が腫瘍縮小効果が大きかった。
クルクミンは転写因子のNF-κB活性や、NF-κBによって誘導される遺伝子の発現を抑え、細胞増殖や血管新生を阻害することによって、ジュムシタビンの抗がん作用を増強させることが示唆された

膵臓がんの他にも、多くのがん細胞に対してクルクミンががん細胞のアポトーシスを誘導し、がん細胞の抗がん剤感受性を高めることが報告されています。
しかし一方、クルクミンやウコンが抗がん剤治療を妨げる可能性も報告されています。これは、抗がん剤ががん細胞にアポトーシスを誘導する過程で必要な活性酸素の発生やJNKシグナル伝達系の活性化をクルクミンが阻害するためと推測されています。
Dietary curcumin inhibits chemotherapy-induced apoptosis in models of human breast cancer.
(Cancer Res. 62: 3868-75, 2003)


クルクミンは小腸粘膜と肝細胞で急速に代謝(glucuronidation, sulfatation)され、人間で2~8gのクルクミンを摂取しても、血中濃度は検出できないレベルか、低レベル(0.51-1.77 micro M)という報告もあります。
最近の研究では、クルクミンやウコンの抗がん作用の報告が多く、がん細胞の抗がん剤感受性を高める効果が注目されています。人間のがんでの効果を示唆する報告も発表されるようになりました。しかし、まだヒトでの有効性については十分な根教がある訳では無いということを知っておく必要があります。

【ウコン使用時の注意】
人間における体内吸収率や安全性などについてはまだ不明な点も多いのが事実です。
安全性については、1日3g程度の量の摂取であれば、おそらく安全と思われるますが、過剰または長期摂取では消化管障害を起こす可能性が指摘されています。胃潰瘍または胃酸
過多では注意が必要です。
胆汁分泌を促進するので、胆道系に閉塞がある場合は禁忌です。胆のうを収縮させるので、胆石がある場合も注意が必要です。
また、稀にウコンが原因と思われる肝障害が起こることも報告されています。
C型慢性肝炎の患者は鉄過剰を起こしやすいことから鉄制限食療法が実施されますが、アキウコンの製品には鉄を多量に含有するものがあり、注意が必要であるという報告があります。
香辛料や調味料として使用する場合には、ほとんど問題ありません。
治療目的で1日3g以上を摂取する場合は、胃潰瘍や胆道閉鎖や胆石やC型肝炎がある場合は、ウコンの摂取は注意が必要です。
また、血小板凝集を抑制するため、抗凝血作用をもつハーブや医薬品との併用で出血傾向が高まる可能性があります。抗がん剤治療で血小板が減少するような場合は注意が必要です。
以上のように、ウコンの抗がん作用については不明な部分もありますが、漢方がん治療で1日数グラムのウコンはある程度の有用性が期待できると思います。


(文責:福田一典)

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