49)五臓六腑と臓器の違い

図:漢方医学の臓器名およびその機能は漢方独自のものであり、西洋医学の解剖学の先入観をもって理解することはできない。

49)五臓六腑と臓器の違い
 
五臓六腑(ごぞうろっぷ)とは、中国伝統医学において、人間の内蔵全体を言い表すときに用いられる用語です。現在では「五臓六腑にしみわたる」とか「五臓六腑が煮え返るような思い」というような使われ方で知られていますが、漢方医学では、体の機能の状態を総合的に判断し、治療法を考えるときに基本となる基本概念です。
漢方医学で用いられる五臓六腑とは、現代医学の解剖学の知見とは全く異なる概念であることを理解しておくことが大切です。
漢方では、消化管機能の低下を「
」の機能の低下と考えて「脾虚」と言い、老化現象を「腎虚」ととらえ、怒りは「」を悪くするというような独自の考え方をします。このような考え方は、西洋医学の解剖学の知見を基準にすると、全くナンセンスな考えになります。脾臓や腎臓や肝臓が、それぞれ消化器機能や老化や精神症状と関連しているような考え方は、西洋医学では理解できないはずです。
西洋医学の医者が、漢方を非科学的と非難する原因の一つは、このような漢方医学の五臓六腑を西洋医学の解剖学的な臓器と同一の基準で考えることによって生じる誤解に起因しています。

漢方医学で言う「
」とは、中がつまった臓器(実質性臓器)で心・肺・肝・腎・脾の5つを五臓といいます。一方「」とは中が空っぽで食物や尿などが通っていく臓器(管腔性臓器)のことで、胃・小腸・大腸・胆・膀胱・三焦の6つを六腑と呼んでいます。六腑の働きでできた栄養物質(精)を貯蔵して、体のいろいろな働きの中心となるのが五臓の役割です(図)。
   
これらの臓腑の名前は西洋医学における臓器の名前と共通するものが多いのですが、その働きにはかなり違いがあります。漢方医学の五臓六腑ももともとは死体の解剖によって、それぞれの存在が知られ名づけられたたものです。その機能も当初は解剖の知識に基づいて考え出されたものと思われます。しかし、次第に目に見えない機能をも想定するようになり、生命活動での様々な現象を各臓腑に振り分けながら、機能を中心とした体系化が進められてきました。
結果として、
西洋医学で考えるような解剖学的な実証された臓器自体に限定するのでなく、感情や精神作用を含めて人間の営みの全てを説明できるほど五臓六腑に機能を託したのです。
   
西洋医学の解剖学用語を翻訳するときに、既にあった漢方医学の臓腑の名称が利用されたため、両医学に同様の名称が存在するようになりました。実はこれが、漢方医学の臓腑の考え方は科学的でないという誤解につながっているのです。
科学的には西洋医学の解剖学や組織学の知識のほうが正しいことは明らかです。しかし、
同じ名前を使っていても、漢方医学の臓腑は、西洋医学のそれとは同一のものを指しているのではないという前提で考えなければなりません。漢方医学の五臓六腑と西洋医学の解剖学の、どちらが正しいとか、間違っているとかいうのではなく、異なるものとして認識しなければならないということです。
   
漢方医学では、内臓や器官を五臓六腑に分けて考え、生命活動における様々な現象を各臓腑に振り分け、それぞれが相互に関連し影響を及ぼし合うという点を重視しながら、機能を中心とした体系化を行なってきました。
治療においても、臓腑の相互関係を重視するが基本となっています。例えば、気管支喘息の緩解期に、生命力の根源である腎を治療し、脾胃(消化管機能)を調整することにより体力を回復させることにより、治癒力を高めて病気の根本を治そうとします。
また、体力や抵抗力を高めるときでも、単に滋養強壮作用だけでなく、胃腸機能や血液循環を良くすることを重視する視点を持っています。
このように、
特定の臓器だけを治療するのではなく、他の臓器をも治療することによって、間接的あるいは相乗的に治療効果を発揮できるという考え方ができるのは、臓腑の機能の相互間のつながりを重視する理論体系を確立してきたからだと思います。
生体のバランスを考慮するためには「体全体」という立場で考えることが大切です。漢方医学の臓腑の考え方は、身体各部を個々独立したものとしてでなく、有機的な総合体として人体を捉えているという点において、その特徴と有用性があります。

西洋医学の解剖学や生理学の知識から比べると、その定義されている臓腑の機能は非科学的で納得し難い点が多く、単なる思弁の産物のようにも思われています。しかし、生体諸機能を賦活化し、あるいは調整するための方法を、臨床経験の積み重ねに基づいて確立するためには、きわめて有用な拠り所となる理論だと思います。
漢方医学が体全体の調和という点から治療法を体系化し、経験の積み重ねによって体の治癒力を高める治療法を確立し、現代西洋医学にない治療法を提供できるのは、五臓六腑と解剖学的臓器の概念の違いに起因しているように思います。
五臓六賦の概念は、西洋医学の視点からは、漢方医学が非科学的と言われる原因になっているのですが、西洋医学にない治療法を提供できる理由でもあります。


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