206)白花蛇舌草に含まれるウルソール酸とオレアノール酸の抗がん作用

図:田畑に生える雑草のフタバムグラは、白花蛇舌草という薬草名で炎症性疾患や各種のがんの漢方治療に用いられている。その活性成分としてトリテルペノイドのウルソール酸やオレアノール酸が指摘されている。

206)白花蛇舌草に含まれるウルソール酸とオレアノール酸の抗がん作用

白花蛇舌草(ビャッカジャゼツソウ:Oldenlandia diffusa)は本州から沖縄、朝鮮半島、中国、熱帯アジアに分布するアカネ科の1年草のフタバムグラの根を含む全草を乾燥したものです。フタバムグラは田畑のあぜなどに生える雑草で、二枚の葉が対になっています。高さ10~30cmで茎は細く円柱形で、下部から分岐し、直立または横に這います(上図)。
抗菌・抗炎症作用があり、漢方では清熱解毒薬として肺炎や虫垂炎や尿路感染症など炎症性疾患に使用されます。さらに最近では、多くのがんに対する抗腫瘍効果が注目され、多くの研究が報告されています。
白花蛇舌草の煎じ薬は、肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。脂肪肝やウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などの各種肝障害で傷ついた肝細胞を修復する効果もあります。
特に消化管の腫瘍(胃がんや大腸がんなど)に対して良い治療効果が報告されていますが、肺がんや肝臓がん、乳がん、卵巣がん、白血病など各種の腫瘍に広く使用され、有効性が認められています。飲み易く刺激性が少ないので、中国では白花蛇舌草の含まれたお茶や煎じ薬はがんの予防薬や治療薬として多く使われています。
成分としてヘントリアコンタン(Hentriacontane)、ウルソール酸(Ursolic acid)、オレアノール酸(Oleanolic acid)、stmigastrol,βシトステロール、クマリンなどが分離されています。
最近、白花蛇舌草の抗がん成分として
ウルソール酸オレアノール酸に関する研究や、白花蛇舌草によるがん細胞のアポトーシス誘導作用に関する研究が複数報告されていますでの、それらを紹介します。

 

Cytotoxicity and bioavailability studies on a decoction of Oldenlandia diffusa and its fractions separated by HPLC.(白花蛇舌草の煎じ薬と高速液体クロマトグラフィーによって分離された成分に関する細胞傷害性と生体利用性の研究)J Ethnopharmacol. 131(2):396-403. 2010
【要旨】(目的)白花蛇舌草の煎じ薬(熱水抽出液)に含まれる成分のうち、最も抗がん作用が強い薬効成分を同定するために、熱水抽出エキスを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、それぞれの分画の抗腫瘍活性を検討した。そして、それらの成分の生体利用性(バイオアベイラビリティ)と、抗がん成分によって誘導される細胞死のタイプについて検討した。
(材料と方法)白花蛇舌草の熱水抽出エキスを作成し、HPLCで11分画に分け、それぞれの分画の抗がん活性を、HL60白血病細胞を使って測定した。最も抗がん作用の強い2分画については、さらに大腸がん細胞(Caco-2)でも検討した。
(結果)分画9が最も抗がん活性が強く、培養がん細胞にアポトーシスを誘導した。生体利用性は、シート状に培養したCaco-2細胞を通過した成分の抗がん作用を検討することで行なった。つまり、シート状の培養細胞に煎じエキスを添加し3時間後に基底膜側に移行した成分がHL60の増殖を阻害したことから、白花蛇舌草の熱水抽出エキスに含まれる抗がん成分の腸管粘膜からの吸収が証明された。分画9はさらに分離され、8種類の主要成分が検出された。このうちの2つは、ウルソール酸(ursolic acid)とオレアノール酸(oleanolic acid)であった。
(結論)
白花蛇舌草に含まれるウルソール酸とオレアノール酸は、生体利用性が高く、がん細胞にアポトーシスを誘導する活性があることが示された

Ursolic acid induces doxorubicin-resistant HepG2 cell death via the release of apoptosis-inducing factor.(ウルソール酸はドキソルビシン耐性HepG2細胞にアポトーシス誘導因子の放出を介して細胞死を誘導する)Cancer Lett. 298(1):128-38. 2010
【要旨】ウルソール酸(Ursolic acid)は、がん治療に中国伝統医学で使用されている白花蛇舌草から分離されたトリテルペノイド成分で、抗がん剤のドキソルビシンに耐性(抵抗性)を持つヒト肝臓がん細胞HepG2にアポトーシスを誘導し、増殖を阻害することが報告されている。
ウルソール酸によって誘導されるアポトーシスにはBakが重要な役割を果たしている。さらに、ウルソール酸によって誘導されるHepG2細胞のアポトーシスはカスペース非依存性のアポトーシス誘導性因子(caspase-indipendent apoptosis-inducing factor :AIF)を介した機序で引き起こされていた。つまり、ウルソール酸を投与すると、細胞のミトコンドリアに存在するAIFが核に移行してアポトーシスを誘導する。
ドキソルビシン耐性のHepG2細胞をヌードマウスニ移植した動物実験で、ウルソール酸は体重減少や臓器のダメージなどの毒性を示すことなく、移植腫瘍の増殖を抑制した。
ウルソール酸は、AIFを介した機序で、がん細胞にアポトーシスを誘導して、がん細胞の増殖を抑制することが示された。

Oleanolic acid isolated from Oldenlandia diffusa exhibits a unique growth inhibitory effect against ras-transformed fibroblasts.(白花蛇舌草から分離されたオレアノール酸はrasで変質転換した線維芽細胞に対して特徴的な増殖阻害作用を示す)Life Sci. 85(3-4):113-21. 2009
【要旨】(目的)白花蛇舌草は中国伝統医学で、がんの治療に広く使用されている。近年、白花蛇舌草の抗腫瘍効果の薬理学的研究が数多く報告されている。この研究では、白花蛇舌草から分離された5つの主成分について、がん遺伝子rasで形質転換させた線維芽細胞に対する増殖抑制作用について検討した。
(方法と結果)正常線維芽細胞とrasで形質転換した線維芽細胞(R6)の2種類の細胞を一緒に培養する実験系で、白花蛇舌草の抗腫瘍効果を検討した。白花蛇舌草に含まれる成分のうち、オレアノール酸が、正常な線維芽細胞にダメージを与えない濃度で、形質転換したR6細胞の増殖を阻害した。しかし、オレアノール酸の構造的アイソマーのウルソール酸は増殖抑制効果を示さなかった。
正常の線維芽細胞にオレアノール酸を添加して培養したあとの培養液は、形質転換した線維芽細胞の増殖を抑制した。つまり、オレアノール酸は正常線維芽細胞に、形質転換した細胞の増殖を抑える物質を合成・分泌させる作用があることが示唆された。オレアノール酸の抗腫瘍効果が正常な線維芽細胞の存在下で高まることは、ヒト肝臓がん細胞でも確かめられた。
以上のことから、オレアノール酸は、抗がん剤と同じような増殖抑制作用と同時に、がんの化学予防効果も持つことが示された。白花蛇舌草およびオレアノール酸は、新規の抗がん剤として、臨床応用に期待が持てる薬である。

Evidence for Oldenlandia diffusa-evoked cancer cell apoptosis through superoxide burst and caspase activation.(白花蛇舌草によるがん細胞のアポトーシス誘導はスーパーオキシドの発生とカスペースの活性化を介する)Zhong Xi Yi Jie He Xue Bao.(中西医結合学報, J Chin Integr Med) 4(5):485-9.2006
【要旨】(背景と目的)白花蛇舌草は中国伝統医学でがんの治療に最も多く使用されている薬草の一つである。白花蛇舌草単独あるいは他の治療との併用によって、様々ながんの治療に効果があることが多くの研究で示されている。しかしながら、その抗腫瘍活性のメカニズムは十分に判っていない。この研究では、白花蛇舌草の粗抽出液によるアポトーシス誘導作用とその作用機序について検討した。
(方法)ヒト前骨髄球性白血病細胞(HL60)の培養液に白花蛇舌草のエタノール抽出エキスを添加して、2および4時間後の細胞内のスーパーオキシドの量と、3、6、8時間後のカスペース活性を測定した。24時間後に、細胞の生存率とアポトーシスを測定した。
(結果)白花蛇舌草の抽出エキスは用量依存的にがん細胞の増殖を抑制し、細胞死(アポトーシス)を誘導した。添加して数時間後には、がん細胞内でのスーパーオキシドの産生は著明に増大し、カスペース2および3のプロテアーゼ活性も、それぞれ3および6時間後に検出された。
(結論)白花蛇舌草の成分は、がん細胞にスーパーオキシドの産生増加とカスペースの活性化によって、細胞死(アポトーシス)を誘導する。

Apoptotic effect of Oldenlandia diffusa on the leukaemic cell line HL60 and human lymphocytes. (ヒト白血病細胞HL60と正常リンパ球に対する白花蛇舌草のアポトーシス誘導作用)J Ethnopharmacol. 114(3):290-9.2007
【要旨】白花蛇舌草はがんの治療に中国伝統医学で使用されており、多くの研究でその抗がん作用が明らかになっている。抗腫瘍作用の作用機序を検討する目的で、白血病細胞(HL60)と、正常リンパ球(刺激した場合と非刺激の場合)に対する白花蛇舌草の作用を検討した。抗腫瘍作用の活性成分についても検討した。
白花蛇舌草エキスはHL60細胞の増殖を阻止し、細胞周期とは関係なくアポトーシスを誘導した。その機序としてDNAのダメージが示唆された。非刺激の正常細胞に対してはアポトーシスを起こさなかった。しかし、刺激したリンパ球の細胞周期の進行を抑えたので、何らかの細胞傷害性が示唆された。
多くの基礎研究で、白花蛇舌草に含まれる複数の成分が抗腫瘍活性に関与していることが示されている。今回の結果で、
白花蛇舌草の細胞毒性は、増殖刺激したリンパ球より白血病細胞のHL60に対してより強い増殖抑制作用を示したので、がん細胞に対する特異性があることが示された

Anticancer activities of Oldenlandia diffusa.(白花蛇舌草の抗がん活性)J Herb Pharmacother. 4(1):21-33. 2004
【要旨】白花蛇舌草の熱水抽出エキスの抗腫瘍効果を8種類の培養がん細胞と、マウスの移植腫瘍を使った実験で検討した。培養細胞を使って実験では、培養液に白花蛇舌草のエキスを添加して48時間後の細胞増殖が50%に抑制される濃度(IC50)は、培養液1ccあたり生の白花蛇舌草7~25mgであった。正常膵臓細胞に対しては、50 mg/mLの高濃度の添加でも、10%程度のわずかな増殖抑制しか示さなかった。がん細胞に対しては、白花蛇舌草はアポトーシスを誘導した。
動物実験では、肺がん細胞(B16-F10)を移植したマウスの実験で、体重1kg当たり生の白花蛇舌草5gの熱水抽出エキスを、がん細胞を移植した3日後から12日後まで、経口投与し、14日目に肺の腫瘍を測定した。白花蛇舌草の水可溶性成分を投与されたマウスでは、肺の転移は70%の抑制を認めた。
(結論)白花蛇舌草は、検討した8種類全てにおいて増殖を抑制し、アポトーシスを誘導したが、正常細胞には細胞傷害作用は軽微であった。さらに、
肺がんの移植腫瘍の実験で、有害作用をほとんど引き起こすことなく、肺の腫瘍の増殖を著明に抑制した。白花蛇舌草は有効な抗腫瘍活性を持っている。

 


白花蛇舌草の抗腫瘍効果に関する研究は、中国、シンガポール、台湾、英国、米国、日本などの異なる多くの研究グループが報告していますので、白花蛇舌草の抗腫瘍作用は世界的に注目されているようです。抗腫瘍効果の作用機序は使用したがん細胞の種類の違いなどによって結果が異なりますが、様々な機序でがん細胞にアポトーシスを誘導する効果が認められています。その活性成分として、ウルソール酸とオレアノール酸の関与が示唆されています。
ウルソール酸とオレアノール酸は多くの植物に含まれる五環系トリテルペノイドで、その抗腫瘍効果に関する研究も多く報告され注目されています。白花蛇舌草のほかにも、生薬としては
夏枯草(シソ科ウツボグサの花穂)、大棗(クロウメモドキ科ナツメの果実)、女貞子(モクセイ科トウネズミモチの果実)、連翹(モクセイ科レンギョウの果実)、枇杷葉(バラ科ビワの葉)、柿蔕(柿のヘタ)などにも多く含まれます。したがって、このような生薬を多く加えると、抗がん作用を高めることができます。これらの生薬にはウルソール酸やオレアノール酸のようなトリテルペノイドの他にも抗がん作用を示す成分が多く含まれているので、その相乗効果によって抗腫瘍効果を示すものと思われます。
(オレアノール酸については125話でも解説しています)

◯ 白花蛇舌草を用いた漢方がん治療についてはこちらへ

 

 

 

 


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